「よっ、助っ人参上ってな!」
「…っ、あんたは!」
二人の間に武が割って入ってきた。
「…って大丈夫か切歌!?
凄いぼろぼろじゃねぇか!」
「えっへへ~、これはちょっと色々とあってデスね…」
「…まぁ何となく察しはつくし、目の前にいる響が関係してるかもだけど。
だがこいつは、穏やかじゃねぇな」
武はそう言うと、時雨金時を構える。
「あんたは切歌の仲間の!
…あまり言いたくないけど、切歌を連れて早くっ何をしてるのデスかあなたは!?
一人だけでなく二人もいるのデス、これこそ魔女の寵愛に報いなければならないのデス!」
「っ、こいつもしかして響に取り憑いてるとかなのか!」
「…っ、武気を付けるデス!
そいつ、見えない攻撃を仕掛けてくるデスよ!」
「見えない攻撃…!
これのことか!」
切歌の忠告に耳を傾けながらも、武は難なく時雨金時で切り裂いていく。
それも全て。
「なっ、バカな!?
何故デス!?
あなた今、私の見えざる手を!?」
「あぁやっぱり、あれが見えない攻撃だったんだな。
なら見てみろよ、今あんたのその攻撃がどうなってんのか」
「はぁ!?
…っ、これは!」
ペテルギウスが周りを見渡すと、雨に打たれて輪郭がはっきりとしている長く伸びた数本の透明な腕があった。
しかも頭上には雨の炎を纏った小次郎が八の字を描くように空を飛んでいる。
「へっ、あんたを弱らせるのに小次郎に雨を降らせたつもりがこんなことになってたとはな。
おかげでくっきりと見えてるぜあんたのそれ!」
「お、おのれぇ…!
私が魔女から授かった寵愛の証を、このような形で辱しめられるとは、何たる侮辱っ、何たる恥辱っ!
こんなことは、あってはならないのデス!!」
今まさに響の髪を引きちぎらんばかりに乱暴に引っ張りながら怒り狂うペテルギウス。
「武っ、相手はあいつデスけど、あいつは響の体を使ってるデス!
できるだけ傷つけないで欲しいデス!」
「あぁ任せろよ。
さて、どうするんだ?
お前の見えない攻撃はこの雨で見えてるし、この雨はお前の動きを弱らせている。
今なら峰打ちでそいつの体から離れるのがおすすめだぜ?」
「どこまでも本当にどこまでも!」
武の挑発にわなわなと体を震わせるペテルギウスだが、その間にも士郎たちが駆け付ける。
「切歌っ、大丈夫か!」
「…確かに、これは少し今の状態では分が悪いデスね」
「何だ、ようやくそいつを解放してくれるのか?」
「いえ、その逆デスよ。
ここは一度退くとするのデス、デスが次こそは勤勉に努め私は魔女の寵愛に報いるの、デス!!」
瞬間、ペテルギウスの前が見えない攻撃で爆発し、煙で覆われる。
「なっ、逃がすかよ!」
武たちは追いかけるが、もうすでにそこにはいなかった。
「…駄目だ、音がめちゃくちゃ離れてる。
これじゃ今すぐには追えないよ」
「くそっ、悪い切歌!
あいつを逃がしちまった」
「だ、大丈夫デスよ…。
次は、かな、らず…」
「切歌っ!!」
「切歌ちゃんっ!!」
相当ダメージが大きかったのか、切歌は気を失ってしまった。
「ぐふっ!」
どこかの路地裏にて、ようやくペテルギウスから解放された響は地面に倒れこんだ。
「はあはあ…っ、うっ!」
ペテルギウスに取り憑かれた際抵抗したりペテルギウスに妨害されたりして全身に痛みが走る。
だが、何よりも響を苦しめてるものは。
(切歌を…っ、傷つけてしまった!)
そう、いくら取り憑かれていたとはいえ、ペテルギウスを止められなかったが故に切歌を傷つけたことだった。
一緒に逃げようと説得した響に、転生者もまた一人の人間だと切歌が差し伸べた手を、ペテルギウスに潰されてしまった。
それだけじゃない、ペテルギウスに抵抗しながらも抵抗しきれず切歌を傷つけてしまった。
それが今響を苛んでいた。
だが。
「あなた、怠惰デスね?」
「がっ!?」
突然、男の声が聞こえたと思ったら髪を乱暴に引っ張られ、そのまま地面に叩きつけられた。
「試練を前に妨害したとは、それがあなたの勤勉さだと言うのデスかーっ!!」
「ぐっ、がは!?」
胸ぐらを掴まれた挙げ句、猛烈な拳のラッシュが響を殴り付ける。
「ぐふっ、うぅっ…!」
「あぁ怠惰だぁ!
怠惰怠惰怠惰怠惰ぁっ!!
魔女よっ、サテラよっ、どうか寵愛に背いた我らの怠惰をお許しください…!
愛に、愛に報いなければぁ…」
散々響を殴り倒してから、男は響に目も暮れず、まるで罪深いことをした自身を懺悔するかのように泣き崩れた。
地面に倒れた響の目線でもわかるように、男以外にも黒フードを被った集団が男に敬礼するように座っている。
いきなりのことではっきりとわからなかったが、響はその男が誰なのかがわかった。
痩せこけた顔立ちで、緑のおかっぱ頭に、この言動。
「ペテル、ギウス!」
「あなたは何故、あのような愚かなことをしたのデス?
私は試練に、魔女への愛に報いなければならなかったのに何故…?」
「切歌は、私の親友だ!
あいつらから引き離して別の世界に連れていこうとしただけだ!」
「ほう…おやおや」
痩せこけた男、ペテルギウスはニタニタと笑いながら響に近より、響の髪を乱暴に引っ張り上げ顔を上げさせる。
「うぐっ!」
「あなた、私の目を見るのデス。
そして、心して答えるのデス!
何故親友だからとそんなことをする必要があるのかを!」
「あ、あの子は悪いやつなんかじゃない!
だから、あんなやつらから引き離したかっただけなんだ!」
「そうは言うデスが、彼女もまた転生者デスよ?
そもそも、彼女が普通の人間であるならば、何故特典を持つのデス?
何故闘えるほどの力を持つのデス?」
「…っ!」
ペテルギウスのまるで自身の心を覗き見るかのような言動に、響は動揺を覚える。
「それに彼女も言っていたはずデスよ?
転生者もまた人間だと」
「な、何であんたがそれを!」
「あなたは私の指先デスよ?
表に出なかっただけで、会話は聞こえるのデス。
…まぁ、これについては特典として得た能力デスがね。
デスので気付いたのデス、あなたのその在り方を。
その上でお聞きするのデス」
「…うっ!」
見開かれた響の目を、ペテルギウスは舐めた。
あまりにも気持ち悪い感覚に呻く響だが、それでもお構い無しにペテルギウスは語りかける。
「あなた、何故差別をするのデス?」
「…は?」
「いえいえいえいえ、実際の所あなたのそれには疑問があったのデスよ。
何故、何のために、何の意味があって転生者と人間をそこまで差別するのか、あまつさえ転生者であっても親友だからと。
彼女もまた転生者でキラメイジャーなのに、彼らと同類のはずなのに」
「あなたも聞いてるはずデスよ、あなたの手で叩きのめした転生者たちの悲鳴も、痛みも。
デスが、あなたは転生者を倒すと決めたのではないのデスか?
本気で転生者を倒そうとするのなら、叩きのめすだけでなく、その命も奪わなくては、いけない!」
自分の顔の前でピースをしながら、ペテルギウスは語りかける。
「そもそも、親友が転生者ならば、尚更躊躇う必要など、ないではないデスか。
あなたのその手は、殺めてはないとはいえ、きれいではないはずデス」
「…っ、それは」
「何よりも、あなたは先ほどその手で親友の手を潰したのデス。
あなたが本当に親友を思うのなら、私の憑依も通用しないというのに」
「…っ!」
響はあまりのことに動揺を覚えてしまう。
違う、あれはペテルギウスに取り憑かれてあんなことになってしまったんだ。
そう思いたいのに、畳み掛けるようにペテルギウスは語りかける。
「本来であれば、あなたが私を完璧に抑えることができていればこんなことにならかった。
すなわちあなたは何もせずに怠惰であった。
それゆえに少女の体は傷付けたのデス!
あなたがっ、彼女を傷付けたのデスゥっ!!
何というっ何ということをっ!!」
「あ、あぁ…!
違う、違うっ、私はっ、私はぁっ!!
全部、全部お前がっ」
「えぇそうデス!
私の指でっ、私の腕でっ、あなたがあなたがあなたがあなたが…」
一息つけ、止めの一撃とばかりにペテルギウスは響の耳元に語りかけた。
「彼女を傷付けたのデスっ、もう後戻りはできないのデス」
「あ」
頭の中で、何か切れた音を響は聞いた。
それを察したペテルギウスは響の髪を掴んでいた手を放した。
「あぁあっ、ああああああああああああっっっっ!!!!!!!」
狭い路地裏に、響の慟哭が響き渡る。
自分の後悔を、よりにもよってペテルギウスに突き付けられた。
確かにペテルギウスに取り憑かれたせいで切歌を傷付けてしまった。
それでも何度も抑え込もうとした。
なのに、切歌を傷付けてしまった。
守りたかったのに、守れなかった。
「嗚呼、滑稽なり滑稽なりデスねぇあーはははははははははっっっっ!!
えぇそうデスっ、あなたはもう後戻りはできない。
転生者を倒そうとして、その転生者の一人たる親友をっ、その手で傷付けたのデスから!
何たる矛盾っ、何たる怠惰っ!!」
そんな響を、ペテルギウスは嘲笑いながら胸ぐらを掴んだ。
「嗚呼、実に哀れデスね。
惨めで偽善で矮小で罪深いあなたを、私は心より哀れむのデス!
それほどまでに、転生者を憎んでおきながらぁあああああああああっっっっ!!!!!!!」
響の頭を掴み、そのまま勢いよく壁に叩き付ける。
「親友などと現を抜かし、風化することを望むとは!」
響の体は、力なく倒れる。
そしてペテルギウスは再び、響の髪を乱暴に掴み持ち上げた。
そして。
「…あなた、たーいだデスねー」
「がっあぁ…」
身も心も何もかもズタズタにされたようなものだった。
そんな響の心情を表すように、雨が降り始めた。
「…おや?
雨が降ってきたみたいデスね?
それに対してあなたはこんなにもボロボロデス、これはいけないのデス。
このままでは、せっかくの指先が使い物にならなくなるのデス。
…さて、彼女に治癒魔法と雨乞いの傘の提供を頼みたいデス」
心が折れた響を余所に、ペテルギウスは黒いローブたちに指示を送り、治療をさせて傘を指して上に掛けるように置いた。
「…さて、さてさてさて。
もうその様子だと壊れてるかもしれないデスが、今後とも、私の指先として勤勉に働いてもらうデスよ」
そう言って嘲笑いながら、ペテルギウスは黒いローブたちを連れてその場から立ち去った。
ペテルギウスはいなくなっても、掛けてもらった傘で雨を凌いでも、響の心はすでに暗闇一色だった。
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