「ひひひっ、あーははははははっ!!!
何故逃げるのデス?
あなたたちもまた魔女への供物だというのに、怠惰デスねぇ?「そこまでだ」…おや?」
響の体を使って人々に襲い掛かるペテルギウスを前に、キラメイジャーに変身した士郎たちが現れた。
「これはこれはキラメイジャーの皆さん?
わざわざ自ら供物になるために訪れるとは、中々の勤勉デスねぇ?」
「誰がそんなことのために来るかよ。
その体は切歌の親友のもんだ、返してもらうぞ」
「もう遅いのデス。
この小娘の体の主導権は既にワタシが握っているのデスからね!!」
そう言うとペテルギウスはさらに大きく笑い声を上げる。
それと同時に見えざる手なのか、見えない攻撃が士郎たちに遅い掛かろうとしていたが。
「雷の呼吸 壱の型 霹靂一閃 六連!!」
いつの間にか気絶した善逸が、正確に見えざる手を一閃する。
「…あなた今、見えざる手を見ているのデスか?」
「見えてなんかない、お前の攻撃が聞こえるんだ。
汚い音が丸聞こえだ…ふがっ」
鼻提灯を膨らませながら答える善逸に、ペテルギウスはわなわなとしている。
「き、聞こえる、デスか…!?
…駄目デス、駄目なのデス!
おかしい!間違ってる!誤ってる!誤たっているゥ!!」
響の髪を掻き毟りながら、頭を押さえるペテルギウス。
「…ならば、ならばこれはどうデスゥ!!??「おっと、そうはさせねぇぜ。頼むぜ小次郎!!」…ハァ!?」
善逸では対応しきれない大量の見えざる手を出して襲い掛かろうとした瞬間、武が小次郎を出して雨を降らせる。
雨に打たれることで、不可視の見えざる手の輪郭がはっきりと皆にも見え、それを士郎たちが撃ち抜き、切り裂いていく。
「お、オノレェ…!
我が権能を…、魔女の寵愛をまたしても汚すのデスか…!」
「お前の相手は俺たちだ。
…行け切歌!お前の親友を、響を助けに行けぇ!!」
「ガッテン承知の助デス!!」
見えざる手を士郎たちが相手取り、切歌は猪突猛進の如く、ペテルギウスに憑依されてる響へと突っ込む。
「なっ!?
私に突っ込んでくるのデスか…!
…ですが、あなたにこの体は切れないデスよねぇ…?」
「いえ!その必要はないデス!
あたしの狙いは…!」
キラメイサイズを捨て、ペテルギウスに目掛けて高く飛び掛かる。
武器を捨て、無防備に自分目掛けての大ジャンプだ。
何がともあれ、攻撃のチャンスと見たペテルギウスは胸元から見えざる手で攻撃しようとするが出した途端、いろはに撃ち抜かれる。
「なっ!」
「切歌ちゃんの邪魔をしないで!」
「サンキューデースいろは!
…それじゃあ、行くデスよ!
その頭に、ごっつんこっ、デーーースッ!!!」
そして、そのまま空中でヘッドバットを繰り出す。
見えざる手も間に合わず、頭に直撃した。
切歌の、ヘルメット越しにでも、その衝撃が伝わった。
「…っ、ここは…?」
真っ暗闇の中、切歌は佇んでいた。
そう、これがマッハの言っていた、心と心を繋げる方法だ。
変身してるときに、大切にしてる人と頭を強くぶつけることで、ぶつけた側がぶつかった側の中に入り込むことができる。
先日、紅音が善逸の頭を頭突きしたときも、この現象が起こったのだ。
「入れたってことは、ここは響の心の中デスね。
響ー!どこにいるデスかー?」
闇の中を歩きながら、響を探していく。
すると、少し離れたところに何かが見えてきた。
よく見ると、膝を抱えて蹲ってる響に、見えざる手と思しき無数の手が覆い尽くそうとしていた。
「響っ!!」
急いで駆け寄り、無数の手を払いのけ、響を抱き寄せる。
「大丈夫デスか!しっかりするデス!」
「…?」
顔を上げた響の目は泣き腫らして充血し、だがその目には光は灯っていなかった。
全体的に生気を失ったやつれた顔をして、切歌も一瞬驚いてしまう。
「きり…、か…?」
乾いた唇を開き、まるで何年も喋ってなかったかのように、声もしわがれていた。
それでも、響は自分の名前を呼んだことに安心する。
「そうデス!あたしデスよ!もう大丈夫デスからね!
さっ、早くこんなところから出るデスよ!」
「……どうして?」
「え……?」
「なんで助けに来たの?私なんて、生きてても意味ないのに……」
「……どういうこと、デスか?」
「だって、私は切歌を傷つけたんだよ?
切歌を助けたかったのに、ペテルギウスに取り憑かれて、切歌を傷つけちゃった。
必死で押さえようとしたのに、ペテルギウスを押さえきれなかった…!
…切歌だって、本当はこんな私のことを罵倒するために来たんでしょ?」
自嘲気味に笑う響を見て、思わず言葉を失う。
確かにあの時、響はペテルギウスに体を乗っ取られていた。それは事実だ。
だけど、だからと言って響が悪いわけじゃない。
「違うデスよ……。
そんなの、ただの結果論デス……!
それに、響は一生懸命ペテルギウスを押さてこんでいたじゃないデスか!」
「でも、結局この有様だよ?
私がもっとちゃんとしてれば、こんなことにはならなかった。
切歌を傷つけずに済んだ。
…私は、怠惰なんだよ。
だから、もういいよ。
どうせ私なんか、切歌を傷つけるしか、能がないんだから」
疲れたとばかりに、切歌を突き放す響。
だが、今度は逆に響を抱きしめ返す。
「……っ!」
「なに、馬鹿なこと言ってるんデスか…?」
抱き締める力を強めながら、震える唇をゆっくりと開く。
「あたしが傷つくから?
そんなこと、あたしと喧嘩をしたときだってよくやってたじゃないデスか!
あたしが傷ついて、響も傷ついて、それで何だかんだ言いながら仲直りして、また喧嘩して。
それが、あたしらのいつもだったじゃないデスか! なのに、今更……!!」
「……っ!」
「それにあたしは知ってるデスよ。
響は、誰よりも優しい女の子だって。
あたしのことを、ずっと守ってくれてたこと。
…覚えてるデスか?あたしたちが初めて会ったときのことを」
「あ…」
響は、切歌との初めての出会いを思い出した。
幼い頃、不良にいじめられて泣いていた切歌を庇った。
それがきっかけで、切歌と響は仲良くなった。
それからは毎日のように一緒に遊んでいた。
「あたしがいじめられていたとき、響は自分より年上の男の子たちに殴りかかって、私を助けてくれたデスよね。
……嬉しかったデスよ。
響が、あたしのために怒ってくれたことが。
あのときから、あたしにとって響はヒーローみたいなものだったんデスから。
その響が、自分で自分の価値を下げようとするのは許さないデス! そんなのはあたしが認めないデス! あたしの大好きな響は、いつだって誰かを守るために戦ってる、強い子なんだって!
あたしは、そんな響に、何度も助けられてきたんデスから!」
「そ、そんなこと、ないよ…っ!」
そう言いながらも、響は切歌の体を優しく抱き締める。
「私は、切歌が思ってるような強い人間じゃない。
私はただっ、困ってる人がいたら助けて、助けられたって勝手に一人で酔ってるだけだよぉ…!
独りよがりの正義感に酔って、満足したいだけの偽善者だよぉ……!
いつか誰かに、私が偽善者だって突きつけられるのが怖くて、切歌に縋ってただけなんだよぉ!
私だって、切歌に何度も助けられてきたんだからぁ…!」
「響……っ!」
響の目からも涙が流れ、二人で強く抱きしめ合う。
「切歌、ごめんね。
あんな酷いことしたのに、切歌の仲間にも冷たく当たったのに、まだ友達でいてくれてありがとう……っ!」
「謝るのはこっちの方デスよ……!
ずっと一人で抱え込ませちゃって、ごめんなさいデス!」
「ううん、切歌は何も悪くないよ。
悪いのは、全部私だから……。
私のせいで、切歌に迷惑をかけちゃって……」
「あたしのことは気にしないでいいデスよ! それに、迷惑をかけられたのはお互い様デスよ!
もうこの際わがままもへっちゃらのバチコーイデス♪」
「…じゃあ、さ。
一つ、わがまま聞いてもらっても、良い?」
抱き締めるのをやめて、切歌の顔を見据える。
一人暗闇の中で、今にも心が押しつぶされそうになって、だけどそれを必死で我慢していた。
だけど、今は。
大切な人が、すぐそばに居てくれる。
それだけで、響の心は救われた気がする。
だから、これはきっと、わがままなんかじゃない。
祈るように、こんな運命に抗うように。
光すら届かぬそこからのSOSを、震える唇を開き、紡ぐ。
「助けて、切歌」
「……了解デス!」
力強く微笑み、そして再び強く抱き締めた。
頭突きをして、時間にして一秒も満たないであろう。
切歌の意識が戻った。
その瞬間、ペテルギウスが頭から血を流しながら距離を取った。
「い、痛いぃのデスゥ…!
しかし、痛みとは生きてることへの実感も湧くのデスゥ!
ここまで近付かれてどんな攻撃をしてくるかと思いきや、ただの頭突きとは怠惰デスねぇ…!
ならば、その怠惰な行いに報いるためにも、魔女の供物と!?」
すると、ペテルギウスの動きが止まり、苦しみ始めた。
「グォッ!な、何なのデスかこれは!?
なぜ、体が動かないの、デス!?」
「それはこの体の主導権を私に返してもらったからだよ」
ペテルギウスに取り憑かれて、狂気に満ちていた響の表情が、本来の響の、決意に満ちた表情へと変わる。
「確かに私はあんたを押さえきれなくて、切歌を傷つけた。
でも、それでも切歌はそばにいてくれると言ってくれた。
……だったら、今度は私が切歌を助ける番だ。
切歌を傷つけて、守れなかった分。
今度は私が、必ず切歌を守るんだ」
「ひ、ヒビキッ!貴女まさか、そんな!
や、やめっ、やめるのデス!
私がここで滅びることなどあってはならないのデス!」
「わからないの?
あんたは私たちに負けたんだ。
だから大人しくこの体から出ていって。
…切歌、お願い!」
ペテルギウスと交互に表情を入れ替わりながらも、自分の体を差し出すように両手を広げる響。
「…絶対、助け出してみせるデス!
…〜〜〜〜♪」
拾ったキラメイサイズを手に、絶唱を歌う。
死神の鎌は、命を懸けた歌を乗せて、邪悪なる魂を刈り取る刃へと変わる。
全ては友を助けるために、歌は紡がれる。
歌を歌いながら、響を見た。
手を広げる響の体が、ペテルギウスを羽交い締めにして待ち構えてる響の姿に見えた。
…あぁ、これでやっと、助けられる。
安心して、歌を最後まで歌い続けた。
その瞬間、キラメイサイズの鎌の刃は光り輝いた。
それは美しい宝石にも、傷ついた心を癒やす月の光にも見えた。
士郎たちはただただ、切歌の様子を見ている。
ゆっくりとキラメイサイズを構え、足を踏ん張る。
そして、肩からイガリマの装甲を展開し、凄まじい勢いでバーニアを噴かせる。
一気に距離を詰め─────
響の体を、通り過ぎた。
その瞬間、響の体から邪悪なものが悲鳴を上げて噴き出し、そのままどこかへ飛び去った。
恐らく、ペテルギウスなのだろう。
響の体は、まるで糸の切れた人形のように崩れ落ちようとしたが、士郎が支える。
「おい、大丈夫か?」
「…っ」
脈もあるし、息もしている。
気を失ってるようだ。
「響、大丈夫デスか?」
「気を失ってるだけだ。
それに、さっきのでペテルギウスも飛び去ったみたいだな。
善逸、音はするか?」
「いや、全くしない…zzz」
反動で痛む体を引き釣りながら確認する切歌。
そして響を抱き止めた士郎は耳のいい善逸にペテルギウスはいなくなったのかを確認してもらい、それを聞いた士郎は切歌に顔を向ける。
「これで大丈夫だな。
切歌、お前のおかげで響は助かったんだ。
…良かったな」
「えっへへへ…、良かった、デス…」
緊張感が切れたのか、そのまま倒れそうになる切歌をいろはが支える。
「やったね切歌ちゃん」
「…よし、これで一件落着ってな!
じゃあ、早いところ帰ろうぜ」
「そうだな」
武が引率するように、士郎たちは屋敷に帰る。
途中、切歌は士郎におんぶされてる響の顔を見た。
穏やかな夢を見てるような、安らかな寝顔をしていた。
その頬には涙の跡があったが、それでも幸せそうな笑顔を浮かべていた。
それが嬉しくて、切歌は微笑みながら、眠ってしまった。
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