戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》 作:お猿プロダクション
SightHound
を聴きながらお楽しみ下さい
20XX年
15時40分
日本国 戦略機動打撃艦隊
某島鎮守府
艦娘寮兼司令部施設 地下1階
統括作戦指揮室
『深海棲艦からの砲撃!?』「揚陸艦[
にわかに騒がしくなる室内。
窮鼠猫を噛む……どころでは無い。作戦は完全に失敗したことが、強襲揚陸艦2隻の損失という形で今この瞬間、完全に決定された。
これでは当初の目標である核魚雷の回収はおろか、艦隊が無事撤収することすらままならぬ状況となってしまったのである。
更に憂慮すべきなのは……揚陸艦あきつ丸の損失である。艦娘“一人”の損失は軍艦一隻を失うよりも痛手となる、というのが彼を含めた多くの提督、ならびに運営の認識だった。
「あきつ丸、ダメコン発動確認……沈没は免れました!」
ダメコン───本来はダメージコントロールとして軍艦の浸水拡大や被害を最小限に留め、行動を継続させるために行う措置であるが、艦娘に用いるダメコンはやや勝手が違う。
艦娘が撃沈した“後に”ダメコン妖精さんと通称される妖精さん達が動き出し、
ふっ……と息を吐いた。だがまだ緊張を解くことは出来ない。敵は未だに健在であり、艦隊がこれから無事に帰投することが約束された訳ではないのだ。
その時───レーダーに新たな影が写る。
「目標の姫クラス深海棲艦より高速飛翔体が分離!」
「敵戦闘機の発進と確認!───いや、これは!?」
「どうした……!?」
オペレーターのこれまでに無い驚愕を孕んだ声に、提督が反射的に反応する。
「凄まじい上昇速度です!これまででは考えられません……!」
「……!?」
モニターに表示された“ソレ”の速度は、音速にも達しようかという勢いだった。今までの深海棲艦の機体に、こんな悍しい性能を持つものは確認されてこなかった。
モニターに表示された輝点は500ノットを超え、なお増速している。まるで超音速戦闘機を思わせる増速ぶりである。
しかし───
「敵機反転?離脱していきます……!機数4!」
「何……?」
高速機による襲撃を危惧した提督だったが、そうではない。ならば一体───?
『───提督!これ司令部付きですか⁉︎』
唐突に入った無線。それは北 聖人のものだった。
「どうした?」
〜〜〜〜〜〜
9月20日 15時42分
中部太平洋沖合
「こいつはどういうことだ⁉︎」
ある程度順調かに思われた作戦が、敵の砲撃で揚陸艦が沈みあきつ丸がやられ瞬く間に頓挫したかと思えば、今度は謎の高速機と来た。
正直な話、彼女達はここまで目紛しく戦況が変わり行く事に対して完全に対応できていなかったのである。
その時、さらなる混乱がある無線通信によってもたらされる。
『敵機が核弾頭を保持したまま離脱しようとしている!』
「何ですって⁉︎」
核兵器の確保こそこの作戦の要であるのに、それが目の前で悠々と逃げようとしているのだ!
『敵機を撃墜しろ!……急げ!』
「くそっ……!」
各艦が主砲、副砲、高角砲、何彼構わず上空へ向けられる砲煩兵器を撃ち出す。凄まじい砲火……しかし、その全てが高速を誇る敵機に対応できていない。敵機の後ろに虚しく黒煙の花畑を作り出すに終わる。
「ウソ……追いつけない!」
赤城、瑞鶴、翔鶴、隼鷹……何の艦上戦闘機も追撃を行うが、全く追いつけない。それどころか、圧倒的な速度差を持って引き離されている。
(後は……!)
パッと太陽の中で翼が煌めく。
敵機の前方から、赤城の取っておきとも言える赤い2機の烈風11型が逆落としに急降下を仕掛ける。反復攻撃を仕掛けている間に補給を済ませ、高高度を陣取り不測の事態に備えさせていたのだ。
機体制限速度に近い時速800km超のスピードを持って攻撃を仕掛ける───!
しかし
「ウオ…!」
烈風11型の襲撃を察知したのか、その高速からは考えられないほどの鋭い機動を繰り出し2機の烈風11型の射線から易々と外れる。一方で高速域での舵の効きが良いとは言えない烈風11型はその機動を捉えきれず、一撃も加えられないまま敵機の背後を見ることとなった。
「そんな───⁉︎」
奥の手すら躱され、最早打つ手はない。その上───
『新たな敵艦艇を確認!これも逃げていくぞ……!」
島の四方から現れた複数の敵駆逐艦。それらはこちらに攻撃を仕掛けるでもなく、海上に姿を見せるや一斉に煙幕を展開して逃走に転じたのだ。いや寧ろこれは───‼︎
『繋いで……聞こえます⁉︎北です!』
北の切迫した声。態々こちらに直接通信を繋いでくるとは余程の事であろう。そして彼の言った事は、紛れもなく“余程の事”であった。
『逃走中の敵は核兵器を積んでいる可能性大です!奴らは囮を使って、最大速力で離脱するつもりです!』
「“タマゴ”が海に放たれちまった!」「なんて事……!」「敵を撃破し切れてません!」「それより揚陸艦が……!」『逃すな!何としても撃墜するんだ!』
「艦長……!」
アリコーンもこのままで良いのか、と言わんばかりの勢いでマティアスに指示を求める。先程までは澄まし顔を決め込んでいたアリコーンにも、流石に額の汗が露わになっている。
『……アリコーン。』
「は、はい。」
『逃走中の敵機及び敵艦艇を最優先撃破目標と見做し、攻撃する。』
「!では───」
「主砲及びミサイルの使用を許可する。───この際、やむを得ん。」
その一連のやり取りで、アリコーンは“スンッ”とばかりに澄まし顔に戻った。何故なら、
大きく深呼吸する。
「───了解です、艦長。」
両手をサッと羽ばたく様に広げ、それに合わせて彼女の重厚な艤装が蠢く。
ガシン、と機械音と駆動音を立て“何か”が展開される。それは一見、先ほどの揚陸艦隊を貫き、あきつ丸を撃沈せしめた大砲に似ていた。
「アリコーンさん? ……っ⁉︎」
そのアリコーンの行動を訝しげに思ったのか、1人が声をかけるが───途中で詰まった。アリコーンは嗤っていたのだ。真っ黒い嗤いを顔面に貼り付けていた。不気味なまでに───
次に全艦の通信回路を走った声もまた、不気味に冷静なものだった。
『よし。』
ピリピリと空気が痺れる感覚。
───スーパーキャパシタへの蓄電完了。
───主砲用意よし。
───射撃用意よし。
鎖は千切られた。
ならば。
この私が───救済しよう。
「敵機が速すぎる、追撃できません!」「駆逐艦の追撃を残存艦が妨害してくる!」「被弾した!」「敵艦隊が逃げるぞ!」「誰か追えないのか⁉︎」「無理です!」
その喧騒を。
「奴らが核弾頭を持ったら終わりですよ!』『そんな事分かっている‼︎』『敵機離脱していきますっ……!』『敵駆逐艦群更に散開……このままでは捕捉不可能になります……‼︎』
その絶望を。
この私が───!
撃ち破ってみせよう───‼︎‼︎
『撃ち方始め。』
「主砲、撃ち方始め!」
ドッッガァァァアンッッ‼︎‼︎
その瞬間、蒼空の向こうで、紫の閃光に貫かれた敵機が一瞬にして吹き飛んだ。
「「「───?」」」
『『『───?』』』
???
???????
何が起きたのか、艦娘たち一同には理解できなかった。モニター越しに状況を見ていた面々も全く理解出来なかった。
『よくやった。』
そんな中で、こうなることを予め知っていたと言わんばかりの声音で一言、そう言った男がいた───マディアス・トーレスであった。彼はアリコーンが動いた時点で
「この程度、造作のないことですわ。」
髪をかき上げ、にべもなく言い放つ。
「さて───後は目障りな塵芥供を掃除しますか。」
『頼むぞ。』
「お任せください艦長。」
アリコーンは胸の前で両手を合わせる様な格好をとる。傍目から見れば何かを祈っている様にも見えた。
「ミス・アリコーン…?」
突然敵機を叩き落としたと思えば、次には何のアクションも取らないアリコーンに、フレッチャーが声をかけた瞬間…!
ドウッドウドウッッ……‼︎‼︎
「えっ…⁉︎」
「翼……。」
幻想的にすら見えるその光景を観て、誰かがそう口走る。
───その翼には、
〜〜〜〜〜〜
同 15時44分
『駆逐艦隊が追いついた!』
最高速度38ノットに達する暁型の雷をはじめとした数隻の駆逐艦が、逃走を図る敵駆逐艦隊の一部を有効射程に捕らえた。
「主砲発射よ!」
敵の先頭艦を狙い、12.7cm連装砲B型が砲撃の咆哮を上げる。この砲が本来得意とする水平射撃での攻撃───しかし思わぬことが起こった。
先頭艦に向かい一直線に放たれた砲弾が直撃する寸前、後続の艦が進路を変え砲撃を受けたのである。
「⁉︎」
「なんだ、今のは⁉︎」
ドウ!更に砲撃を重ねる…しかし幾ら敵の先頭艦を狙い澄まし、撃ち続けても必ず並走している僚艦がその砲撃を吸収し先頭艦への被害を許さないのだ。
しかし繰り返していれば、いずれ終わりを迎える。砲撃、砲撃!砲撃…!直撃弾を浴び続けた“盾艦”が爆沈した───「1隻やった!」しかし、それでもなお生き残った敵艦は先頭艦との射線に割り込み、追撃の砲撃を身代わりになって受ける。
「砲撃をくらってくる!」
「盾だ!狂ってる…‼︎」
艦娘達に焦りが募る───敵は今、彼女達が追撃している1群だけではないのだ。他に3つも同じ様な敵がこの海域から逃走を図っている。
必殺の魚雷はとうに撃ち尽くした彼女達に残された手立てはその持ち得る砲煩兵器で地道に敵艦を叩く事だけであり、それを完遂するにはあまりにも時間が足りなかった。
───傾聴せよ。
「クソッ!追い付けねぇ…!」
焦燥に駆られた口調で天龍が叫んだ。機関を全力でブン回しても33ノットしか出ない天龍は当然ながら追撃には加わることができず、焦りばかりが蓄積してゆく───ただし、同様に35ノット前後しか発揮出来ない艦は多く、それは致し方のないことではあった。
「このままでは、逃げられッ───⁉︎」
瞬間、光芒が視界を覆った。
上空から天誅を加えるが如くに、矢の様な物体が敵駆逐艦を貫き、ただ一撃の下に爆砕せしめたのである。
「何が───⁉︎」
しかし時間は驚愕を許さなかった。幾多の矢にも似た何かが、ゴウッ!と空気を裂く音を立て飛来し、続々と敵艦に命中する。更には、容易にその表皮を貫徹し内部から吹き飛ばす。
今の攻撃は一体…⁉︎速すぎて、あまりにも突然すぎて彼女達には見えていなかった。
───本艦はこの醜怪な戦争を、エレガント且つ最終的に終わらせる能力を持っている───
「あ…あれ見て…!」
「え───⁉︎」
追撃に加わっていたうちの1人である村雨が指差す先───青空を引き裂いてゆく様な幾重にも重なった白線が、逃げる敵の背後に上空から迫ってゆく。
「噴進弾…⁉︎」
誰かが叫ぶ。確かに、12サンチ28連装噴進砲や
細長い弾体、凄まじいスピード…目を凝らせば見えるのは、制御翼だろうか。通常の無誘導であるロケット弾とは全く違う形をしている様に見えた───それらの特徴は、ロケット弾というよりも別の兵器を彼女達に連想させた。
───ミサイル⁉︎
そう、ミサイルである!誘導弾…彼女達が未だ保有する事叶わない筈の先進兵器が突然目の前に現れたのである…!
───私の行うのは戦闘では無い。戦争の終結であり、裁きである───
ミサイルは逃走する深海棲艦の斜め上方より飛来───それに呼応する対空砲火!しかしミサイルは緩急自在の複雑な機動を繰り返し、ありとあらゆる妨害を躱して正確に敵艦に命中する。
命中の閃光───ドン!ドンドンッ…‼︎爆音が遅れて聞こえた。爆炎が周囲を包み込み、幾つものキノコ雲が形成される。恐らくその下では───…
『アリコーン…?』
驚愕が全体を支配する中、通信越しに呟いた男の声は誰にも届かない。
───それは徹底して合理的に行われる───
逃げる敵艦はあと2群に分かれている。しかしそうした敵艦の運命ですら、既に決定されていた。
上空…対空砲火の届かぬ完全な真上から、ミサイルは鉄槌の如くに深海棲艦を貫いた。直後に───炸裂。駆逐艦の薄い装甲にミサイルを受け切るほどの強固さは無く。また炸裂によって生じた爆圧と撒き散らされる破片を閉じ込めるだけの頑強さも持ち合わせていなかった。結果は必然───背部から引き裂くように噴き出た火炎!それは瞬く間に深海棲艦を包み込み、次の瞬間には誘爆の業火にその身を爆ぜさせたのである。
───この先、私が齎す破壊の数に、世界は驚愕するだろう───
生き残った1群、それは島の反対側から逃走を図っていた。もはや捉えることなど不可能な位置関係に思われたが───“それ”は違った。Low-Hi-Low飛行プログラムで撃ち出されたミサイルは軽々と島の上空を超えて行き、そのミサイルの赤外線シーカーは完全に敵艦を電子の目の中に捉え、次の瞬間には破壊すべき目標に向かって急降下を開始した。
対空砲火…!空の一部を彩る曳光弾。だがそんな薄っぺらい弾幕に数秒足らず浴びせかけるのみでは、ミサイルの迎撃は不可能!
被弾!閃光‼︎爆裂ッ‼︎‼︎
最後の敵艦が吹き飛び、ズン…!と爆発音が轟いた。
───そして、自ら武器を置くだろう───
「沈んだ…?」「なに…したの、アレ…。」「驚きましたね…」
「…‼︎」
揚陸艦の直掩にあって、最もアリコーンの近くにいたフレッチャーなどは、そのまま絶句していた。
驚愕の渦中に放り込まれた、この場にいる全ての存在が、心中の言葉を止められていなかった。そして、この事態を引き起こした張本人を一斉に顧みる。
───自らを滅ぼすはずだった武器を…。
先ほどから呪詛の様に何事かを呟いているアリコーン…「声から狂った臭いがする。」とは誰が言ったか。
ズゥゥゥン……!!!!
その時、島の向こう側にアリコーンが手始めとばかりに易々と叩き落とした航空機が墜落した。
瞬間―――空を焼き、海を割り、大地を焦がす人類の業火が顕現する。
瞬く間に巨大なキノコ雲が形成され、空を覆い隠す。
核爆発―――核魚雷に海水が流入した結果、中性子の減速材として働き臨海状態に達し、原始核分裂の連鎖反応が発生したのである。
通常、この程度では核分裂反応は発生しないよう安全管理がなされているが、深海棲艦の危険管理の杜撰さが垣間見えたとも言えるかもしれない。
「くっくっくっくっ……」
嗤うアリコーン。
蔑む眼。
獣の様に剥き出しにした白い歯。
影を落とした顔。
そこに狂気を感じぬ者などいなかったであろう。
『…アリコーン、よくやった。』
「……はっ!…あぁ〜…………いいえ、私にかかればこのざっとこんなモノです。」
マティアスの声に反応して、やっと正気を取り戻した様にアリコーンは受け応えた。サッと髪を掻き上げる動作がややぎこちない。
『いや、本当によくやってくれた…ターゲットの破壊を全て確認だ…!───いや、ちょっと待ってくれ…?』
提督通信には、アリコーンは眉を寄せた。
〜〜〜〜〜〜
14時46分
日本国 戦略機動打撃艦隊
某島鎮守府
艦娘寮兼司令部施設 地下1階
統括作戦指揮室
『…なんですか?』
何故か、やや怒気を孕んだアリコーンの声。
それには敢えて気を留めず、提督はモニターに表示された、結構都合の悪い情報を言う。
「敵潜水艦が1隻、戦域外に離脱したのを確認した、もう追えん。此方の索敵ミスだ…みんなすまない。」
前線では艦娘達が死に物狂いで戦っていると言うのに、それを後方で控えている自分の怠慢のせいでドブに捨ててしまったも同然と提督は思っていたのだ。
しかし、
『ことありませんよ。提督の指示があったから、一応は勝てたんです。』『そうよ!元気出すっぽい!』『提督の判断がなければ、損害も多かった筈です。』『恥ずかしながら、正直言って提督殿のが直ぐに妖精さんを発動しておられなかったら自分は今頃海の底でしょうなぁ。』『そーゆーこった提督!』
帰ってくる返答は暖かいものばかりで、作戦指揮室に控える者たちの提督を見遣る視線も、決して冷たいものではなかった。
ただ1人を除いて───
『汚しやがって。』
「アリコーン…?」
突然、聞いたことのない低いトーンでポツリと呟いた彼女は、次の瞬間には己の憤慨の成すがまままに罵詈雑言を吐き捨てた。
『奴らは土足で踏み込みやがった!真っ白な経歴で、完ッ璧に整えた私と艦長のッ』
「アリコーン!…もういい。」
『ハァ、ハッ…………、ハァー……艦長、でも───』
「連中の全てを我々が挫いてやろうではないか。お前の本領を見る余興としては面白かったぞ。」
『……はい……!』
どうやら落ち着きを取り戻したアリコーンに「あとは無事帰投せよ」とだけ言って、マティアスは通信を切る。
アリコーンの絶叫ぶりに他の面々は正直引いているが、マティアスはこれを知っている…否、正確には、
そして、誰にも聞こえない声で1人ごちに、ポツリと、こう言った。
「“1000万人救済計画”、か………。」
さて次回で一章は終了!アリコーンとトーレス艦長はどう動かそうか思案中です。