戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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ふう!やった完成だぜ!第Ⅰ章はこれにて完結です!


デブリーフィング

 20XX年

 9月20日 20時10分

 日本国 戦略機動打撃艦隊 

 某島鎮守府 

 艦娘寮兼司令部施設 1階

 作戦会議室

 

 入渠中の一部の艦娘を除き、小破相当程度の損害を受けただけの艦娘は全員ここに集まっている。何人か米海軍人も居たが、これは揚陸艦の元乗員達であった。普段は居るはずのない珍客に幾らかの艦娘や人員が時折物珍しそうに見物していた。

 その時、指揮官の入室───敬礼!たとえ相手がウザったい存在であっても、形式上であれ敬意を示さねばならぬものである。

 横瀬・ホワードが壇上に立つと、米海軍大佐の階級章をつけた男が立ち上がった。

「ミスター・横瀬、提督(Admiral)並びに艦娘諸氏には、我が艦と僚艦San Francisco(サン・フランシスコ)の乗員救助をして頂いたこと感謝したい。」

 彼の名はロベン・アイレイ。彼は日本への留学経験があり、かなり日本語が流暢であった。制帽を取り、頭を下げる。

「ロベン大佐、なんの事はありません。我々は当然の事をしたまでです…そんな頭を下げるような事は───」

 提督がそう言い、ロベン大佐に顔を上げるよう促すが、彼はその姿勢を崩さなかった。

「いや、揚陸艦の全滅の責任は自分にある…ここは頭を下げさせて頂く。」

「……。」

 そうも固持されては提督もこれ以上言葉を重ねることもできず、引き下がるしかなかった。事実として、彼の判断の下単縦陣を選び進撃した揚陸艦は一瞬にして脆くも全滅、2隻合計で戦死・行方不明者100人以上という人的損害を出していたのである。

「───そうではないですよ、ロベン大佐。」

 そう言って彼の肩に手を置いたのは、今次作戦の指揮官であった横瀬・ホワード准将であった。

「今次作戦の如何については、貴方だけではなく我々と、現場部隊でいる彼女(これ)らに帰せられるべきものです。責任を感じるのは結構ですが、気負いすぎるのもよくない。」

「「「…。」」」

 相手が米海軍軍人であるからか、作戦中とはあからさまに違う態度と、自分たちをまるで物を指すように「これ」呼ばわりした事に、皆一様に顔に影を落とす。当然、彼女と共にあって直接指揮を執る提督とて例外ではなかった。

 一方で、そんな内々の事情を知る由もないロベン大佐は、横瀬の言葉を───良くも悪くも───素直に受け取る事にした。

「准将にそう言われるのならば、そうしましょう。」

 ロベンが顔を上げ、改めて横瀬に向き直る。

「うむ。……それで、君たちが回収したモノについては米国(ステイツ)はなんと…?」

 回収したモノ───核魚雷の処遇をめぐって、日米で数時間に渡り協議が続けられていた。というのも、本来なら核魚雷を積載してハワイはオアフ島を経由しアメリカ本土まで持ち帰るはずだった強襲揚陸艦が2隻とも撃沈され、さらには大西洋や中部、南太平洋、北極海などに戦力を割かれている為に余裕の艦艇も無く、民間船を徴用できるほど海域の安全性も確保されていない故に、米本土に核魚雷を輸送する手段が消滅してしまったのである。

 日本本土を経由するとしても、日本とアメリカを結ぶベーリング海には、深海棲艦の索源地を兼ねた大規模基地たるアリューシャン列島が横たわっており、物騒な荷物を抱えたままの航行というのは、やはり現実的に困難なものだった。

「本国は───Mk.52(マーク・フィフティ・トゥ)魚雷について“完全な情報共有が為されれば良い”と。」

「本土には送らないと?」

「YES」

 横瀬は意外そうに眉を上げる。彼としては、無事な核魚雷をそのままアメリカ本土に送りたかったのかもしれない。

「無事な核魚雷はこの鎮守府で安全確認の後、日本本土に送られるでしょう。」

 正式な書簡は明日までに届く筈です、と言ってロベン大佐は敬礼し、後ろで控えていた数人の米海軍人と共に退室した。

 その背中を見送り、「ふう」とばかりに一息つくと、横瀬は細目で提督を睨めつけた。

 おおよその理由は察しつつも「何でしょう?」と首をかしげて見せる。

「惚けるな。貴様の出した命令のせいで、目標の確保に失敗する所だったのだぞ。」

「え、それって…。」

 大和が不安そうに呟いた。そしてその不安は的中してしまう。

「貴様らの艦砲射撃によって、敵に残っていた4発の魚雷のうち半分を破壊された……だからあの時止めろと言ったのだ。」

 そう、島に残されていた核魚雷Mk.52は全部で4発だったが、そのうち2発は見るも無惨に破壊されていたのだ。…幸いにして、放射能漏れは無かったが。

 

 余談だが、残りの2本は揚陸艦が撃沈されつつも運良く生き残っていたLCACに積載させ、それを艦娘や高速給糧艦が曳航して帰還していた。

 

「お言葉ですが、准将。あの時点で艦砲射撃以外では効果的に砲台小鬼を撃破する方法はありませんでした。」

「作戦目標を破壊する程ならば、やらぬ方が得策に決まっているだろうが。」

「……!」

 その言葉を聞き、提督は隔意ある眼で横瀬を睨んだ。この男は作戦を遂行することしか頭にない!

 艦娘の損害など度外視で、撃沈艦がでても構わぬ様なそぶりであった。

 

「全く、余計なことをしやがって。はぁ…作戦は完了、次の指示を伝達するまで待機せよ。」

 そこまで言って横瀬は踵を返し退室しようとした。

「⁉︎」

 はァ!?

 提督などは驚いた顔のまま若干硬直気味だ。言うだけ言ってそのまま終了とは、流石に痺れを切らしていた艦娘の何人かが身を乗り出した。

「待って下さい。あの日和見野郎どもは何でありますか⁉︎」

「そうです。何故アリコーンさんを狙う?」

 日和見野郎───作戦の途上、突如として襲来し理由は不明ながらアリコーンに攻撃を仕掛けたものの、CIWSによる逆撃を受け撤退していった、あの2隻の所属不明船艇である。

「連中、軍用無線回線を使ったぞ。」「まさか友軍だと…?」

「あり得ん、IFF(敵味方識別装置)への返答はなかった。」

 IFFは現代の軍隊では当然に有している機能で、絶対でこそないものの、“我の相対している目標は友軍か敵軍か”を判断するのに非常に重要な役割を持つ。

 IFFに応答すれば味方、そうでなければ十中八九“味方ではない”───というのが軍隊において概ね通ずる常識である。

「それとも───何か個人的に恨みでも買ったか?」

 横瀬は、相変わらず戦場に居たときのような澄まし顔で腕を組ながら静かに座っている紫電の髪の艦娘───アリコーンを横目で見て言った。

「貴様らをよく思わん連中の話ならよくある。」

 その言葉に反応したのはアリコーンや彼女を従える立場にあるマディアスでも、他の艦娘でもなく、提督であった。

「数年前ならあったかも知れませんが、流石に今となっては───」

 その時、彼らの話を割って通信が入った。

『話の途中ですいません。1つ、問題です。』

 北に話の腰を持ってかれそうになったのが気に入らなかったのか、横瀬はぶっきらぼうに「もういい、回線を切れ」と言い放つ。

『えっ!?ちょっと待って切らないで!』

 流石にそれは酷すぎるんじゃないかと言わんばかりに、通信越しでも食い気味に焦っているのがわかった。

 暫くして何とか横瀬の横暴(?)を回避した北は、努めて落ち着き払ったように振る舞いながら、話を続けた。

『はぁ…“問題”と言うのは、何故“彼ら”は我々があの海域で作戦を行っていることを知っていたのでしょう?知っていないとあの手は取れない…。』

 北のいう“彼ら”とは、作戦の途上、突如として襲来しアリコーンを攻撃したは良いものの、彼女のCIWSによる掃射を受けて被弾損傷し足早に撤退していったあの高速戦闘艇隊である。

「…あの連中ですか。」

 最も当事者であったアリコーンは、すぐさまその事を見抜き呟いた。隣に立つマティアスも「だろうな」と一言。

 実は、そもそもあの作戦は“外部に情報が漏れてはいけない”作戦だったのだ。米軍との共同の上、何より核兵器に関わる作戦だった為当然なのだが、“彼ら”があの時あの場所に来たということは、少なくともこの作戦の実行日時と場所(・・・・・・・・・・・・・)を知っていた(・・・・・・)、という事である。

「…スパイ。」

 天龍が左眼の眼帯をいじりながら言った。

「「「……⁉︎」」」

 … 俄かに室内がどよめく。

 もし本当にスパイなどがいるとしたなら、人類共通の敵とも言える深海棲艦と生存競争の如き激しい闘争を繰り返し文字通り絶対に負けられぬ状況の最中で、一体何をしているのか…⁉︎

 人類の生き残りを賭けた戦争、という重い十字架をその小さな双肩に背負わされ、またつい数時間前までその戦闘の最中にあった艦娘達にとって、その可能性は無視し得ない衝撃をもたらしたのだった。

「ふん、猜疑心が強いのは良い事だ。」

 横瀬は鼻嗤い混じりに、無愛想に言う。提督はそれを睨め付けつつも、周囲の艦娘を宥めていた。

『……少なくとも、彼らが何らかの筋から情報を得て、こちらの動きを読んでいると仮定する必要があります。』

「好きにしろ。」

 そう吐き捨てると、横瀬はサッサと退室してしまう。場の空気は正直言って最悪である。

「わ、わりぃ……。」

 バツが悪そうに天龍が頭を掻く。彼女は確かに、そもそもこの空気を作り出してしまった原因といえなくも無いが、提督はそれを認めなかった。

「いい、それは天龍が言うことでは無い。あくまで可能性の話だ、決まったわけでは無い。」

「でもよ…───」

「北さん!アリコーンについて、言うことがあるのでは…?」

『あ!あぁ、そうでした。』

 天龍が言葉を重ねるのを遮る様に提督は北に話題を促し、その目論見は果たして成功した。先刻の海戦で驚異的な戦力を振るい、窮地を瞬く間に破壊した彼女の話とあっては、誰もが興味を惹かれたし、聴かざるを得なかった。

『運営から彼女の性能(ポテンシャル)について開示許可が出たので、ここで全員に共有しておきます。…提督、プロジェクターの起動を…。』

「アイ分かった。」

 提督は慣れた手つきでプロジェクターを取り出し電源を起動、スクリーンに映像が投影される。

『───アリコーンは潜水艦でありながら、実は空母並みの航空機運用能力があります。推定される搭載機数は30機前後。』

 

「さんっ…⁉︎」

 空母組の艦娘が眼をカッ開いて喫驚する───声が出ないほど驚いている、と言った方が良いかもしれない。

 

『更に主砲は何と電磁投射砲(レールガン)!これを2基搭載し強力な火力投射能力を有します。射程も推定400km以上…!』

「よんっ…⁉︎」

 今度は戦艦組の艦娘───特に大和が───驚く番であった。彼女らの射程は多くが30km強程度で、最も射程の長い大和ですら42kmである。400kmという射程は文字通り“桁が違う”のである。

 

『───彼女一隻の戦力投射能力は、空母機動部隊に匹敵します。』

「化物の中のバケモノだ…。」

 彼女達からはそれ以上の言葉は出なかった。空母機動部隊───つまり空母2隻以上を有する12隻からなる大艦隊の戦力と同等かそれ以上の戦力を持つというのか、彼女(アリコーン)は!?

 畏敬と驚愕の入り混じった無数の眼差しを一身に受けつつも、アリコーンは相変わらずの澄まし顔でそれらを見つめ返す。───その眼の中には一片の感情も含まれておらず、ただ漫然と「なんですか」と言わんばかりの訝しさだけが込められていた。

 

『…続けます。当然潜水艦なので秘密裏に潜航して敵地に近づき、航空機とレールガンによるアウトレンジ攻撃が可能です。』

『そして彼女の機関は───溶融金属冷却型原子炉を2基搭載、つまり…原子力。潜水艦アリコーンとは超大型原子力潜水艦なのです。彼女は潜水艦でありつつ、空母として、火力艦としての能力をも持つ“原子力潜水航空巡洋艦”と言う事です。』

「「「……‼︎」」」

 遂に、艦娘達はあらゆる意味で発するべき言葉を失った。絶句───ただそれしか許されない、驚愕の至に彼女らは達したのである。

 

「…。」

「はい。」

 マディアスに促され、アリコーンは壇上に立つ。奇しくも、始めてここで自己紹介をした時と全く同じ様な構図だった。

 

「さて。改めまして…(わたくし)、原子力潜水航空巡洋艦アリコーンでございます。皆様どうぞ、よしなに…。」

 パチ、パチ、パチ。

 “最初”の時と同様に、美しくエレガントな所作で礼をする。───しかし今度の自己紹介で不適に笑うアリコーンへ迎えられたのは歓迎の声ではなく、ただ1人…マティアス・トーレスの拍手だけであった。

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 

 20XX年

 9月20日 23時18分

 日本国 某所 タワーマンション高層階

 

 机の上に乱雑に散らばった無数の資料とパソコンの画面に無遠慮に表示された大量のデータと、相変わらずこの男は睨めっこして頭を悩ませていた。

「…アリクサ。」

 彼は最後の助け船とばかりに、自身の頼りになるパートナーの名を呼ぶ。そうして彼は決まって「問題だ。」と言って、助けを乞うのである。

「深海棲艦…人類共通の敵。連中の目的は何だ?」

 深海より突如として現れるや、船を沈め、軍艦を翻弄し、人間の海上交通路を脅かし、街を焼く。目的は分からないまでも、連中の行動には一貫して“人間への害意”が明らかに付き纏っていた。そう言った理由から“深海棲艦は海洋汚染によって間接的に人間の手により産み出された”とか“海洋汚染が鎮まれば深海棲艦の行動も鎮まる”という声も聞く。

 それが───核砲弾という人類最大の威光にして愚行を奪い取り、何をしようとしているのか?

 これまでの定説とは離れた“何か”を考えねばならなかった。

『>目的地ノ候補ハ21』

「え?」

 アッしまった。作戦の終盤になって、戦域外へ離脱した深海棲艦の事について先程まで考えてレポートを纏めていたので、アリクサはその事と勘違いしているのだ。

 ご丁寧に環太平洋地域の地図まで用意している。

『>ソコヘノ航路ハ、主要ナモノダケデ2405』

「そうじゃ無いんだよな。」

『>主要ノ定義ヲ聞キタイ?』

 カツ、カツ、カツ、と机を指で叩く。アリクサがやってる事は大して間違ってない。自分の言葉が足りて無いのである。

 ───全く持ってもどかしい。

「アリクサ、その、あー…感覚的に。」

『>感覚的トハ?』

 Sensory?と画面に表示する。

「記録にある深海棲艦の行動から、今後の連中の行動を予測してみて。重み付けは任せるけど、今回の作戦を参考に…。」

『>ン、実行。』

 

 暫くして。

 

 [人類の海洋進出の妨害]

「ダメだ。」

 明らかにこれでは無い。というか、これまでの仮説と何ら変わる物でもない。

『>だめトハ?』

「アリクサっ!」

 全く出ない結論に苛立ち、声を荒げる。直ぐに、これではいけない、と思い直すものの、努めて冷静になったところで結論が出る訳でもなかった。

 アリクサと問答を続ける他、彼に手立ては無かった。

「…いや、続けよう。じゃあもう少し‥官能的に。」

 

 数分後。

 

 [人類の一定数削減、それに伴う深海棲艦の勢力確保]

「うんうん。」

 

 更に数分。

 [人類の地上への監禁]

 いい線に行ってきている。これも、今まであまり相手にされない議題ではあった。いい傾向である。

「いいぞ。」

 

 更に更に数分。

 

 [人類との交配による陸上への進出]

 

「…!」

 そっちに行ったか。だが、そうだ、この線だ!深海棲艦の活動が海に限られると誰が断言できようか?事実として、深海棲艦に相似する艦娘という存在は陸上で何ら支障なく生活出来るし、ヒトと愛を育みその結果としてその子供を妊娠し、出産に至ったケースも潜在する。

「少し、論理的に…!」

 

 答えが近い。

 間違いなく…。

 

 今度は10分以上かかった。

 そうして、彼の相棒が出した答えは───

「これ……‼︎‼︎」

 

 そうして表示された画面の文字に彼は釘付けになる。

 否定しがたい何かが、北 聖人の中で渦巻く。こんな答えはあってはならない───筈だ。しかし、それを否定できる判断材料を、論理的な理由を、我々は何一つとして持っていない……!

 

 アリクサが出した結論。それはたった5文字で括られていた。

 

 

 それは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 [人類の絶滅]




次回はⅡ章…ではなく1話だけ間章を挟みます。
お楽しみに!
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