戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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今年最後にして描き納めです。
皆様良いお年を!

DLC LRSSG Briefing Ⅰ
を聞きながらお読み下さい


第Ⅱ章 アリューシャン列島強襲 Aleutian Islands Raid
ブリーフィング Ⅱ


 アリューシャン列島強襲 Aleutian Island RAID

 

 

 20XX年

 9月26日 8時31分

 日本国 某所 タワーマンション高層階

 

 

『>マサト。』

 相棒が電子音声を発する。ん、と言って北は書類から目を離す。“頼み事”が終わったのだろうか。

「なに?」

『>過去ノ作戦情報トアナタノ仮説ヲモトニ、深海棲艦ト“ありこーん”ノ戦闘もでるヲ構築。高繊細こんばっとしゅみれーしょんヲ試ミタ。』

 PCがトーク画面から切り替わり、ボードゲームに似た盤面の様な画面になる。彼我の兵科記号───もとい艦種記号は、北の趣味によって将棋の駒を模していた。

 忙しなく動き続ける盤面の駒、駒、駒……斃れては現れ、また斃される。

 その果てしない繰り返しの先で、遂に両陣営の王将、玉将が互いをその攻撃範囲に捉える───が、その時になってピタリと盤面の全てが止まる。

『>デモ失敗。』

 失敗したのかよ⁉︎

「こぉまぁるよ!何で⁉︎」

『>官能的ニ答エルナラ』

 再び画面が切り替わり、「Sensual」と題された物の下に、1、2、3の数字が現れる。ご丁寧にその数字に沿って相棒が失敗した理由を連ねてゆく。

『>1、アナタノ仮説ガごみ』

 Your hypothesis is trash.

『>2、アナタガクレタ情報ガごみ。』

 The parameters you gave me are tfash.

「あぁ…。」

 理由は、まったくもって凄まじい言い草で表されたのだった。もはや悪口ですらある。

「───なにか、キミを怒らせた…?」

 確かに先日は少し強く当たってしまった事はあったが、初めてではない。何か余程、彼(彼女?)の気に触る様なことでもしただろうか───?だがその考えは、半ば杞憂であると言えた。ALXA《アリクサ》の解答はまだ終わっていなかったのである。

『>3、深海棲艦ハ特異点。』

 Abyssal fleet is a singularity.

「値が発散するのか……。」

 特異点(シンギュラリティ)…それは広義では“一般的なプロセスでは定まらない点”でいるとされる。アリクサのもつ計算リソースでは、すぐに答えを求めるのは難しい───もしくは不可能であろう。或いは、もっと此方が良い仮設や質問、情報を提供してやる他がない。

 そこで彼は新たな質問を試みた。

「じゃあ、こう言う可能性は?───4、“アリコーンはシンギュラリティ”。」

 Alicorn is a singularity.

 しかし試みは脆くも失敗する───

『>信頼区間外。1カ2カ3デアル可能性ガ99%以上。』

 中央部分だけ大きく盛り上がった山状の横線グラフを描き示し、アリクサは自らの主張の論拠を示す。

 それを見て北はただ、「ホントに…?」と訝しげに聞き返す。

『>高度ニ有意。』

 機械音声の返答は、多分に自信が含まれている様に北には聞こえた。

 

「あぁ〜…この情報を加味してみて」

 パチパチッとキーボードを小気味よく叩き、画面にグラフを表示させる。彼とっては“虎の子”と言って差し支えない情報だった。

「トーレス艦長とアリコーンの聴取で得られたデータだ。」

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 第Ⅱ章 アリューシャン列島強襲

 Aleutian Island Raid

 

 

 20XX年

 9月26日 9時50分

 日本国 戦略機動打撃艦隊 

 某島鎮守府 

 艦娘寮兼司令部施設 1階

 作戦会議室

 

「深海棲艦がアリューシャン列島近海に大規模な戦力を集結させている。」

「「「……⁉︎」」」

 開口一番、プロジェクターに表示された敵艦船の予想総隻数はこれまでに見たことないほどの量であり、且つ、その戦力は態々確認するまでもなく凄まじいものである事が見て取れた。

「他海域の戦闘集団からも複数の艦艇を引き抜いて集めている状態らしい。……深海棲艦どもの北極海進出を本格化するべく、海上戦力を増強していると見るべきだろう。」

 ───人類史以来、その繁栄を支え続けてきた洋上航路を深海棲艦は荒らし回り、今や地球上で安全に航行できる海域はないとすら言われている。その深海棲艦の次なる目標は北極海にある…と言うのは以前から予測されてきた事であった。大陸沿岸部などはまだ人類の勢力下にありはしたものの、海を隔てた国家同士の物理的連携は非常に過小なものとならざるを得ず、ここ数年では特に北アジアが危険視されていたのである。

 アリューシャン列島に集結した艦隊はベーリング海を掌握、そのままアラスカ-ロシア間の海域を物理的に寸断、北極海にある深海棲艦艦隊と合流し、アメリカ-ロシアの連携を断つ───それが考えられている敵の侵攻シナリオの一つであった。

「此処に先日貴様らが撃ち漏らした新型潜水艦と思われる深海棲艦が合流する可能性がある。」

『准将、それはどの程度の可能性ですか?…実は、敵の新型潜水艦についてもっと動向を精査する必要があるかもしれませ』

「君の仕事は艦娘と深海棲艦の分析だ。今後は許可を得た時にのみ発言する様に。」

 ホワードの話を遮る様に、北が通信を介して言い、これを言い終わる前に更にホワードが言葉を被せた。

『…。』

 それに対し、北は黙りを決め込んだかの様に一言も発しない。───数秒、沈黙の拮抗の後にホワードが口を開く。

「…返事が聞こえないが?」

『返事をする許可を頂いても宜しいでしょうか。』

 僅かであるが、明らかに挑発のし合いであった。流れる微妙な空気───傍にいる提督は神妙な面持ちのまま、気に入らない上官の発言を注聴する。

「…君の上官に面白い話が出来そうだ。」

 フン───と鼻で笑いながらそう吐き捨てたホワードは、次には仕切り直しと言わんばかりにプロジェクターへ向き直り、作戦概要の説明を始めた。

「では任務を伝える。艦隊はアリューシャン列島を奇襲。デラロフ諸島北部のウラック島及び南部のアマッティグナック島を攻撃し、それぞの島には姫または鬼クラスの深海棲艦が存在するので、これらを必ず撃破せよ。───この海域の海上戦力を掃滅させられれば、敵の侵攻を挫くと同時に潜水艦の合流も阻止できる。」

「───質問許可願う。」

 手を挙げそう言ったのは、マティアス・トーレスであった。

「……?何か?」

 訝しげな眼もそのままに、ホワードは彼の質問を許可する。

「我が艦隊のみで叩くには敵の規模が大きすぎる。これは共同作戦か…?」

「───それについては後ほど説明する…!黙って聞いていろ。」

「承知した。」

 苛立ちを隠しもせずにホワードは吐き捨て、それを歯牙にも掛けない様な素振りでマティアスは空返事をした。それが癪だったのか、それからホワードがマティアスに対して一瞥もくれてやることはなかった。

「アリューシャン列島周辺は深海棲艦の支配海域だ。敵に察知されるのを遅らせるため少数艦で出撃し、霧の濃い中を密集隊形で侵入してもらう事となる。」

 獰猛な目つきもそのままに、押し黙ったホワードに替わり───半ば押しやる様な強引さがあったが───提督が前に立ち、説明を続けた。

「少数艦か。編成はどうする?」

「こちらで既に決めてある…赤城、金剛、天龍、そしてアリコーン。この4隻での出撃だ。」

「ほほォッ!…任せとけ!」

 天龍が腕をまくり、気合を入れて見せる。───ちなみに天龍は前回の作戦以後に大改装によって防空巡洋艦としての運用がされていた。以前よりも遥かに存在感を示す様になった、胸元の大きな2つのたわわなモノに嫌でも目がゆく。

「…頭数の少なさを補うため、補給を手厚くする。見ろ───」

 提督がプロジェクターを操作し、地図が表示される。そこに幾重にも引かれた幾何学的な線───それが一体何を意味するのか、この場にいる彼女達の大半が瞬時に理解する。

「複数の補給ラインを設定した。これより後方に戻れば友軍の補給や兵装の換装を行えるので有効に活用せよ。…また敵が攻撃に気付いてから迎撃体制を整えるには時間がかかる。その間に高驚異度の目標を優先して撃破するといいだろう、それで後が楽になる。」

 そう言ってプロジェクターの画面を変えると、アリューシャン列島は彼女らの攻撃目標、デラロフ諸島の衛生画像と思われるものに切り替わった。

 ───地球低軌道(LEO)衛星による撮影であろうか、表示された画像はまるで航空写真の様に鮮明であった。そこに幾つかの丸印やレ点、バツ印が施されていた。

 それらの印は明らかに敵の重要攻撃点を指しており、つまり先ほど提督が言っていた「高驚異度の目標」の存在する場所なのであろう。そう察した艦娘達に、しかし、と提督は付け加える。

「この衛星画像は数日前のものだ。現在は配置が変わっていても───いや、変わっていると考える方が自然だろう。出撃艦はこれを参考程度に留めておき、現場では臨機応変に深海棲艦を撃破してくれる様、頼みたい。」

「フーン!お茶の子さいさいデス!テートクためなら、ワタシは何だってやってやりマース!」

「はは…頼りにしているぞ。」

 頼もしい金剛《良人》の声。それに提督は軽く笑って応えた。

「───出撃艦の帰還率も上がるだろう。」

「帰還率……ね。」

 ホワードの言葉に、疑念に満ちた声もそのままに、誰かが(・・・)そう呟いた───そして、当のホワードにそれが誰なのかを確かめる手段は持たされてはいなかった。

 剣呑な空気を隠さぬホワードはそのまま話を連ねる。

「奇襲と補給、それが本作戦の要だ。いや、ひとつだけ言っていないことがあったな…?」

ジロリとマティアスを見るホワード。しかし彼はそんな目も意に介さぬように、ただ目線で説明を促した。

 

「…本作戦は 日米露加の4カ国連合による共同作戦だ。大規模戦力を掻き集めている今のうちに、ベーリング海、オホーツク海の敵勢力を攻撃、破壊する。その一環として、貴様たちの任務は攻略本隊の到達前に、戦力集中箇所のデラロフ諸島への奇襲を行い敵の迎撃手段を限定することにもある。」

プロジェクターを操作する。作戦参加艦娘の4人以外に、日米露加の様々な艦艇、艦娘が本作戦に参加することが示されている。

要するに───潜水艦合流阻止と陽動を兼ねた囮というわけだ、我々は……その事を彼女達が察するのに、数秒と掛からなかった。

「あとは素直に命令に従う者が数()いればいい───イレギュラーは必要ないんだ……納得できた様だな………。」

 壇上から見下ろす形で艦娘達の顔を一瞥だけするや、そう言った。『───准将。』ホワードの話が途切れたタイミングを見計らったか、北が通信機越しに声をかける───が

「説明は以上…!」

 北とは折より明らかに不協和音を生じさせていたホワードは彼の用件を打ち切らんとばかりに話を終えた。ただし北のもたらす情報をある程度重要視すべきと考えていた提督は「北、続けてくれ。」とホワードを無視し北に意見を促した。

「……。」

 ホワードは彼を睨め付けるが、提督は意にも留めない。

「実は先日、マティアス・トーレス新米少佐の情報について機密解除をうけたのでこの場で共有しておきます、』

「俺か…?」

 唐突に自分の話になったマティアスの方が動く。

「艦長の御話ですよ…!」

 なぜか傍のアリコーンが嬉しそうに呟いた。

『艦娘アリコーンと同時期に現れたこの男。彼が一体何者か、分かりますか?』

「ヒントが少なすぎるクイズは良問とは言えねーぜ。」

 北のクイズ厨は既に皆の知れるところとなっている。天龍も北のそれに付き合い、言葉を返した。

「ハハ、確かに。─── 正解は“潜水艦アリコーン”の艦長。』

 

「「「……⁉︎」」」

 

 一斉に艦娘達の目線が件の2人であるアリコーンとマティアス・トーレスに向けられた。

「…。」

 そんな突然の注目にも全く臆する事なく、超然とした態度と風格とを崩さずただ、自身と傍にいる紫電の少女と自身に向けられた無数の眼球を、寧ろ眺め返すかの様にマティアスはその場に居た。

『彼から聴取した話によれば、彼は以前潜水艦アリコーンの艦長を務めていました───存在しないはずの潜水艦の、です。』

 北の遠隔操作によりプロジェクターにある画像が表示される。

 濃厚なネイビーブルーに包まれた重厚長大な主船体と両翼に張り出したアウトリガー船体から構成されるトリマラン構造を有した、得意な形状の何らか───一同がその存在を何なのかを理解するのに数秒の時間を有した。

「おやあれは…。」

「あら…。」

 一方でアリコーンとマティアスはそれが何なのかを瞬時のうちに理解した。前者は自身を模した図であることを理解して。後者は───

「稚拙な自分の画をみせられるのは少し堪えるな…。」

 苦笑混じりに呟くマティアス───そう、これこそ、マティアスが此処に来た折に放り込まれた尋問部屋で描かされたアリコーンの概略図である。アリコーンの特徴はほぼ全て捉えていたが、10数分程度の突貫で描いたものである為に良く見れば粗雑な部分が目立つ。

「あれ…!艦長が描いてくださったんですか…⁉︎」

「一応な…。」

 少女の様にはしゃぐアリコーン。それを「淑女が人前ではしゃぐものでは無いぞ。」とマティアスは彼女の頭を押さえた。

『これはマティアス・トーレスによって描かれた潜水艦アリコーン、凡その図面です。実際、彼女にこの図面を見てもらったところ、ほぼ間違いないとの事でした。』

「それとこれと、何の関係が…?」

『───つまり彼は戦没前のアリコーンを知っている(・・・・・・・・・・・・・・・)。さらに、アリコーンがただの艦娘では無いことは、最早皆さん周知でしょう。……そして彼とアリコーンの何やら仲睦まじそうな様子(笑)。───彼がアリコーンと共に“この世界”に迷い込んできてしまった存在だとしても、少しは首を縦に触れます。』

 ははは…と、場が若干の笑いに包まれる。明らかに、ホワードとのやり取りによって剣呑なままだった空気を解すための、北の施した方策だった。

「ふふふ……さて、最後だお前たち。」

 パン!と手を叩き、再び緊張感が舞い戻る……数分前と比べれば、それは微々たる元に過ぎなかったが───。

「4人で推敲するには厳しい作戦だと言えるだろう。……だが俺はもう1つ、条件を加えたい。」

「なんだ、また何か無茶振りか〜?」

 背もたれに掛かりながら、ため息混じりにてんりゅうがいう。……提督の無茶振り───正確には彼女らの部隊が特殊なる故に任せられる任務の大概が無茶振りじみた物になってしまっている───はいつもの事ではあった。

 

「出撃艦の帰還率は100%だ…!それ以外の数値だった場合は失敗とみなす‼︎」

 

 ───厳然と言い放つ提督に艦娘達も無言の敬礼で返し、応えとした。

 

 




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