戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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連号作戦 Ⅰ(前)

 20XX年

 

 9月26日 13時59分

 

 アリューシャン列島西部 デラロフ諸島沖合

 

 

「……霧を手で掴めそうだぜ。」

 濃霧──────単横陣を敷く僚艦の影すら曖昧なほどに視界を覆うそれらは、まるでその白濁の世界を持った別の生き物の体内を冒険しているかの様な錯覚に陥る。視界に映るのは海面の他にはそうした白濁しか無く、耳から得られる情報も自身らの発する声か、さも無ければ波の音しか無い……というのも、いっそうにその感覚を強くさせる。

 それ程までに彼女らの周囲を囲む濃霧は、視界不良に起因する誤操艦による衝突の危険を孕む一方で敵手たる深海棲艦からの被発見を未然に防ぐという意味で、寧ろ彼女らの味方をしている側である、と言っても過言ではなかった。

 

 先の一言は手を伸ばした天龍が、自身の掌まで霞んでしまう程の濃霧に対する感慨である。

「───3…2…1…いま!作戦開始……!第一次攻撃隊発艦始め……‼︎」

 

 バシューー……!バシューー………‼︎赤城が繰り出す幾本もの矢が濃霧の中に消えてゆき、数秒の後に僅かな灯りが現れる。同時に空気を震わせるエンジンの金属音とレシプロ機特有のプロペラが空気を裂く音──────艦載機の発艦は無事に終えた様である。この濃霧の中で1機の事故もなく発艦を終えたのは、赤城艦載機隊の練度の賜物であろう。

 そして同時に、アリコーンも掌を掲げ、叫んだ。

「攻撃隊前進……!」

 ───ゴオォォォーーン………‼︎

 霧中から耳をつんざく金属音を轟かせながら、(やじり)の如き姿を有した異形の物体が高速で横陣を敷く艦隊を追い抜いてゆく。……それこそ、アリコーンが上空待機、直掩機として発艦させた無人機艦載機───SLUAV(潜水艦発射型無人機)───である。活動行動半径300km、胴体ウェポンベイに4発の汎用ミサイルを有するそれらは、計12機からなる梯陣を形成し、先発した第一次攻撃隊の消えた濃霧を切り裂き、夢幻の如く瞬く間に消えゆく。

『電波管制解除!作戦開始!』

「了解、電波管制解除、取り舵20。最大戦速っ……!」

 ドッ……!期せずして30ノット以上の俊足に達した単横陣は、次の瞬間には鮮やかな一斉回頭の後に槍をも思わせる程に一直線の単縦陣へと移行し、攻撃隊が消えていった霧中へと進攻する。

 先頭から金剛、天龍、アリコーン、赤城……実はこの他に、対潜水艦哨戒の任務に就いている駆逐艦が2隻存在するのだが、今度の突入には参加しない手筈となっている。

『さあ、今回はバイキングと言う事になっている。手当たり次第に好きな品を取れ……マナーは気にするな!』

「YES!……Partyは大好きネー、食べ尽くしちゃうヨー!!」

 口角を上げる金剛……彼女は思う。通信機越しの提督には金剛の表情を推し量ることは無理な筈だが、彼はきっと自分がどんな顔をしているのかきっと手に取るように解っている筈だろう、と。

『ハハ…。』

 その証拠に彼の小さな笑い声が、インカムから鼓膜を震わせた。

「電探感知───目標地形を確認……距離30海里!主砲は零式通常弾装填……!」

 零式通常弾とは、日本海軍での戦艦用榴弾の名称である。有名な三式弾は焼夷弾を撒き散らすのに対し、零式通常弾は破片効果のみで目標を攻撃、破壊する。………本来地上攻撃に効果的なのは此方の零式であるのだが、艦娘達が深海棲艦に対して運用すると何故だか三式弾の方が被害効果が大きい───ヒト型故に破片より焼夷効果の方がダメージが大きいのだろうか───ただし今回は地上施設破壊が目的である。最初に敵地へ放り込むのは零式通常弾で行う、と出撃前から決まっていた。

 

 余談であるが零式通常弾は榴弾、三式弾は榴散弾の類である。

 

「さぁ!今回のMVPはワタシが頂くデース!」

 風を切る擬装……そこに、僅かな霧の切れ目から陽光が射し込み、(つや)やかな光沢を産む。期せずして薄まる濃霧──────必然として、水平線に目指すべき目標デラロフ諸島のウラック島とアマッティグナック島の頂が垣間見える。島の全景が見渡せるほどに近づいた頃には、彼女らを包む濃霧は殆ど晴れていた。

 ───同時に、立ち上る黒煙も彼女らは捉える。

 

 

「……フフン。」

 その光景を見て、アリコーンは鼻で笑う。

 

 それこそ、彼女が先ほど先行させたSLUAVの対地攻撃による第一発目の戦果であった。

 

 

 ~~~~~~

 

 

 9月26日 14時10分

 

 アリューシャン列島西部 デラロフ諸島

 

 

 上空

 

 

 ドンッ……‼︎

「………⁉︎」

 彼女達にとって、破壊はまさしく嵐のように唐突に現れ、そして徹底的にそれは成された。

 

 始まりは、濃霧の向こうから微かに聞こえ始めた金属音だった。

 明らかに人間たちの使う航空機のエンジン音に、深海棲艦は戦闘態勢を整えようとした瞬間、雲海より放たれた銛のごとき物体が超音速のスピードで飛来、空母ヲ級の帽子様の構造物を貫き、爆砕したのである。

 ──────そして、それが発端だった。目視不可能な濃霧の中より、探知不可能な低高度を超音速の速度を持ち突如として現れたミサイル群は、連鎖的な破壊を深海棲艦にもたらした。

 

「…………ッッ!!!!」

 未だ機関に火の灯らない戦艦レ級の側面より突入する4発のミサイル──────レ級の尻尾様の構造体に備えられた砲熕兵器が防空砲火の閃光を瞬かせるが、その何れもが疎らであり、蛇のごとく超低空を這い飛ぶミサイルには威嚇以上の効果はなかった───そして彼女らの相手は、威嚇に屈しない機械の尖兵………!!結果は必然。

 ポップアップ……その瞬間、レ級の持つあらゆる対空手段は自らの敵手を見失った。敵艦の上部構造物を破壊するために直上から突入する手段たるこの機動は同時に、直前での対空砲火回避の意味も兼ねていた。

「ッ……!」

 着弾っ───それに続く閃光、爆発!

 4発のミサイルの威力は、例え戦艦相手であっても十分な破壊をもたらした。主要構造物は粗方損壊し、その戦闘力の過半をあっと言う間に損失した。

 それだけではない。息絶えたように項垂れた尻尾様の構造体は遂には着底、レ級の行動力をも完全に奪い去ったのである。

 今度はその対岸───深海棲艦の造った防空砲台群に向かって、数十発ものミサイルが叩き込まれ、彼女らの防空陣地はその真価を発揮する機会を得られぬがまま永遠の沈黙を強いられた。

 更にその向こう側……かつては防空陣地により厳重に守られていた筈の飛行場姫と北方棲姫の陣地が暴露され、ミサイルを保持していた奇形の群れが殺到し残りのミサイルをウエポンベイから射出する。

 降り注ぐ矢雨のごときミサイル───対空砲火が霧中を彩り、深海棲艦特有の真白い肌を、爆発炎と曳光弾の織り成す輝きが死化粧に仕立て上げた。

 

 そして──────着弾…!!その時、上空に打ち上げられていた殆どすべての銃砲弾が鳴りを潜めた。ミサイルによる破壊を最も受けたのは盛んに対空砲火を打ち上げていた対空砲群で、ミサイルの着弾に続く対空砲の沈黙は、はそれらの機能が一瞬にして奪われたことを意味していた。

 更には、滑走路部分にも複数発の被弾があり、直ぐにも戦闘機を上げることは出来ぬ状況となってしまった。

 

 ───彼女らにとって厄災なことには、この時点においても未だに攻撃機を繰り出した敵艦を発見できておらず、一方的な攻撃を受け続けていることにある。

 鏃のような奇怪な敵は、ただ一撃の反撃も食らうことなく、深海棲艦の防空網を好き勝手破壊した上で、悠々と霧中へ消えてゆく───そしてその霧中より、新たに轟き始めた金属音に深海棲艦は戦慄を覚えた。

 同時に、水平線を隠す霧中に生じた一瞬の明滅には気づくことはなかった。

 

 ヒュウゥゥゥゥ………

 

「「「…!……!?」」」

 飛翔音───ソレは明らかに砲撃によりもたらされたものであり、ソレが聞こえていると言うことは、すべては手遅れなのであった。

 次第に大きくなる飛翔音………爆轟っ!!土煙と火炎を撒き上げた噴火のごとき着弾は半径数十mに渡る範囲に大量の破片を撒き散らし、暴露された対空砲台やソフトターゲットを片っ端から破壊する。

 僅かに生き残っていた対空砲群の息の根が絶えた時、逆ガル翼の翼を持つ濃緑色の機体が幾何学状の編隊を組み通り過ぎてゆく──────

 

 

 ~~~~~~

 

 

 14時21分

 

 アリューシャン列島西部 デラロフ諸島

 アマッティグナック島

 上空

 

『バクゲキチテンマデアトイップン…!』

 爆装形態の流星改改を中心とする第一次攻撃隊の進攻は、もはや止められぬ位置にまで来ていた。島の海岸線はとうに通過し、深海棲艦の断末魔の黒煙が連立する沿岸部も間もなく過ぎようとしている。

 赤城攻撃隊の侵入を支援する形で行われたアリコーンのSLUAVによる対地攻撃と金剛の対地艦砲射撃はその功を奏していた。弾着の数だけ見る間に崩壊してゆく敵陣地群───他の新型戦艦と比してサイズの小さい金剛型の36サンチ砲弾とはいえ、一斉射その投射量は並の爆撃機を遥かに超える。閃光と共に撒き散らされる破片と爆炎に、地上構造物は悉くが破壊されてゆく。

『コウゲキモクヒョウシニン!』

 黒煙の隙間から見えた目標───敵の飛行場姫はすでに満身創痍かに見えた。彼ら攻撃隊の進撃を阻む手段はもはや残されておらず、SLUAVの放ったミサイルの直撃は滑走路にまで及び、機体の発進は容易なものではない───筈だったが。

 

 ……!?

 

 破壊された滑走路より飛び出す様に現れた幾つもの黒点を彼らは見た。

『テッキノリリクヲカクニン…!』

 恐らく機体の燃料を少なくし、重量を軽くした上で無理矢理飛ばしているのだ。その上、爆装していない敵の攻撃機までもが、流星改隊迎撃のために闇雲に出撃してきている……!

 とはいえ、それらの出現した妨害を排する手段を彼らは持ち合わせていた──────急速に高度を下げる流星改とは異なる機体。

 全12機からなる護衛機である烈風11型の編隊が上昇中の敵機に向かって降下を始めたのだ。離陸してきた敵機の数は10機を超え、更に増え始めている。烈風11型が足止めしている間に、早く叩かなければ──────。

 例え攻撃機とはいえ、爆弾を抱えていなければある程度身軽だ。800kg爆弾を積載している流星改にとっては大きな驚異となる。

『バクゲキマデニジュウビョウ!』

 爆弾投下レバーを握る手に力が篭る。

 早く…早く……!

 だがその瞬間にもたらされる戦闘機隊からの凶報───

『ヨンキクグラレタ!チュウイシロッ!!』

「……!」

『───サンカイセヨ!』

 背筋を凍らせるような報告への驚愕と、編隊長の指示が全機の通信回路を巡ったのはほぼ同時………吹き飛ばすかの様に操縦かな桿を右に押し倒し、機体をロールさせる。反転する天地───打っ千切らんばかりの勢いで操縦桿を引き、一気に急降下に入る。彼の列機もそれに続く。

 前下方から突き上げる形で急上昇を繰り出す敵機に対して、前方旋回機銃をもたない流星改は編隊を維持したまま防御する、ということが出来ない。

 よって回避に走るのが普通であるが、彼が行ったのはただの回避でなかった───急降下しながら再びロールし、背面飛行から姿勢をもとに戻す。

 敵機との交差機動をとる───ヘッドオン…!

 流星改の主翼には2丁の20ミリ機銃が装備されている。流星改の機動力を合わせれば、爆弾を抱えていない状況下であったなら敵機との格闘戦を演じて見せようというものであったが、いまは爆弾倉に800kg爆弾を抱えている。このまま爆弾を棄てて逃げに転じるのは許されない。敵前逃亡であるし、味方の攻撃機が危険に晒される。

 但し───ただ味方の盾となってやるわけではなかった。

 敵機との交差前に、彼は爆弾倉を開き、爆弾を投棄してしまう。……それはそれでミッションキルにはなってしまうのだが、彼やその列機が爆弾を棄てても未だに爆弾を抱えた友軍機は数十機存在する。この際やむを得ないだろう。

「カッキ、オレニツイテコイ…!」

『『『リョウカイッ!』』』

 彼の列機も爆弾を投棄し、続いてくる。

 ダイブブレーキ……降下姿勢を安定させ、ゆっくりと敵機との軸線に合わせる。彼我の距離は未だ2000m……お互いの銃撃は届かぬ距離だ、焦らずとも良い───。

 だが数秒と経たずに彼我の距離は1500mを切る。照準器のレティクル内にある敵機の機影は、黒い粒の様なものから、秒を追うごとに有機的なシルエットを従えた輪郭になってゆく。

 深呼吸──────ただその一拍のみで敵機の輪郭は一番小さいレティクルの円形からはみ出すまでに迫っていた。

 距離は800mを切る。

「……!」

 その時、彼は敵機の機首下に明滅を見た。銃撃……!だがそれは予期されたものだったのだ。

 反撃の咆哮───主翼の20ミリ機銃がマズルフラッシュの閃光も鮮やかに銃弾を放つ。

 命中や、ましてや撃墜など端から期待してはいない。威嚇目的である。

 同時に───フラップ展開!!

 ドカン!と叩きつけんばかりの衝撃と共に、機体は急速に速度を失う。同時に、急激な減速とフラップ展開に伴う揚力の増加により、流星改は5t以上にもなる機体とは思えぬほど軽やかに、木の葉が風に煽られるようにフワッと機首を上げる。

 照準機から敵機が消える───同時にダイブブレーキを格納し、スロットルレバーを押し込む。エンジンが悲鳴を上げ、機体を上空へと引っ張ろうとするが、展開されたフラップの空気抵抗もそれに比例して増大し、機体の外皮構造がギシギシと喚く。

 

 バンッ!バンバンッッ!!!!

 

 機体の此処彼処(そこかしこ)に敵機の機銃弾が命中する。背筋が冷たくなり体が竦むのを理性で押さえる。

 傾き始めた景色の中に見える複数の敵戦闘機───黒い有機的なシルエットはもとより、淡く光る目を思わせる構造体、機首下の歯のような物体すらも、彼の網膜に明瞭に映し出される。

 その更に下部で明滅を繰り返す機銃の姿すら視認できる距離───彼は展開したフラップはそのままに、操縦桿を思い切り左に引き倒した。

 フラップによる揚力増大に起因する機首上げと左ロールを同時に行う形──────バレルロール…!

 敵機の射線は外れ、時速800km以上の相対速度ですれ違う。その凄まじい速度に敵機は追随することが出来ず、あっという間に彼とその列機は敵機の真横を通過する。すれ違う瞬間に強烈な空気の壁が強かに機体を打ち、ガクンと機体を揺らすが、それ以上の事はない。

「カッキ、ブジカ⁉︎」

『ブジデス!』『ヒダンナルモシショウナシ!』『モンダイナシ…!』

 よし…!

 なんとか損失気を出さずに済んだ、と思ったその時。

『…テッキガ!』

「チッ……!」

 やはり来たか───!バレルロールを終え、水平飛行に移ったキャノピーから、今は遥か後方にいるはずの敵機を顧みる。鼠色の空の下に穴を開けたような黒い色を湛えた敵機は、その視線の先で180度ロールし、その状態で'機首上げ(ピッチアップ)を繰り出した───スプリットSと言われる空戦機動───スピードはこちらが未だ混ざっているが、あの機動は高度と引き換えに自機の速度を増す。敵機は明らかにこちらの追撃を志向している……!

 空戦をするしかないか……⁉︎でなければ確実に撃墜される!

 操縦桿を引っ掴み、旋回に転じようとした瞬間───

『ウワ…!』

 ドドッ!ドドドドッ!

 後部席からの悲鳴。同時に響く銃声───敵機の加速が速い!既に彼我の射撃の有効範囲にまで敵機は追い縋っていた。後部席の機銃員が銃座にしがみつき、13.2ミリ機銃が火を吹く。

 だが回避機動を繰り返し、上に下に右へ左へと縦横無尽の機動を繰り出す機体に揺られ、効果的な弾幕を形成する事は不可能だ。牽制以上の効果を期待出来ない。次第に迫り来る敵機……。

『サンバンキヒダン!』

「クソッ!」

 火は吹いていないが、時間の問題だ。

 やはり、爆弾を棄てたとはいえ所詮攻撃機で、戦闘機を含む敵機相手に格闘戦を挑もうとは無謀だったか!

 迫り来る死の足音が、高鳴る機銃の射撃音となって近付いてくる───だがその足は目の前で爆砕された。

 

「!?」

 

 上空───まさに目前の流星改4機を仕留めんとしていた同じく4機の敵機の死角から、それらは現れた。嵐の如き勢いで襲来したロケット弾の群。三式一番二八号爆弾の突然の襲撃は敵機にとって最早避けられぬ距離にあった。

 寸前に花開く無数の光───破片を大量に撒き晒し、その中にあった敵機は文字通りバラバラに粉砕されてゆく。

「オォッ!」

 鼠色の曇天から舞い降りる紅。

 赤城の誇る最強のベテラン、紅い塗装を纏った2機の烈風11型が流星改に追い縋っていた敵機のうち2機を、瞬時のうちにスクラップに変える。

 姿勢を崩し、降下に逃げる敵機……だが速度に乗った正に吹き荒れる“烈風”のごとき機体からは逃れられない!

 すぐさま敵機の後ろに張り付き───20ミリ機銃をブッ放す!たちまち火達磨になる敵機。

『───スマナイ、オクレタ。』

「イヤ!タスカッタ…!」

 直掩機である紅い2機の烈風11型は警戒のために高度を取っていたため、対応が遅れてしまったのである。

「リョウキガヒダンシテイル、ワレワレハキトウスル。」

 煙を吐く3番機を守るように残りの流星改が周囲を囲み、母艦への帰投コースを取る。

 その途上、新たな黒煙が多数立ち上るのを彼らは見た。それこそは、残った流星改の水平爆撃による飛行場姫の断末魔の光景であった。

 

 

 ~~~~~~

 

 

 

 同 14時20分

 

 アリューシャン列島西部 デラロフ諸島沖合

 

 

「第一次攻撃隊より入電!…“攻撃効果アリ、飛行場姫ノ無力化ニ成功セリ”!」

 途中、被弾機はあったものの、アリコーンのSLUAVや護衛戦闘機隊の活躍により損失機を出さずに敵に打撃を与えた。滑走路だけでなく、この距離からも見える大規模な黒煙から察するに、燃料弾薬も破壊したのに違いない。

 この意義は大きいといえる。

「ん…攻撃隊より続報……“島ノ北部側ニ新タナ拠点確認”!」

「まだ居んのか…!」

ここにいるのはアリューシャン列島全域に集結している深海棲艦戦力の一部にしか過ぎないはずだが、それでもなおその数は凄まじい勢力を誇っている。彼我の戦力差には、圧倒的なまでの開きがある……!

「敵はどれだけいるんデース?4隻対50隻ってところデスカ?」

「その倍かもですね。」

金剛は冗談のつもりだったが、現実はそれよりも酷い。

『更に北のウラック島にも敵の拠点がある、どんどん高級料理を狙っていけ。マナーは気にする相手じゃないぞ。』

英国式作法(ブリカス・マナー)を教えてやるネ!」

 ゴゴン、と主砲の仰角を上げ砲撃の準備をする。その時、港湾部分から黒煙を吐くレ級が現れるや、一瞬で紫電の閃光に貫かれ胴体を上半と下半に分断かせられ死んだ。

「あ!抜け駆けズルいデス、アリコーンさん!」

「マナーは気にしない…でしょう?コンゴウさん。」

 閃光の出元───アリコーンを見据え、金剛は抗議する。

「む…!」

「それより、コンゴウさんは今し方見つかった敵の拠点を砲撃して下さい。」

「…?」

 私の主砲ではあそこを攻撃できません───アリコーンは説明する。

 彼女のレールガンは確かに大威力、大射程であるが、あまりに低伸性が高すぎるために近距離での曲射に余りにも向いていないのである。彼我の距離は10数km。金剛の主砲の方が遥かに打撃を与え易く、迅速であった。

「Yea!適材適所ってヤツね。それなら任せるデース!」

 腕を捲って見せ、自信満々とばかりに言う。

「別の島の飛行場はどうしますか…私はまだ攻撃隊が帰投してないので再攻撃に時間が…。」

「…。」

 赤城がやや申し訳なさげに言う。それを察した天龍も少しだけ顔を曇らせた。───実際のところは彼女に非はまったくない。誰かに非があるとすれば、それはこの場にいる者達ではなく、敵の大規模な拠点相手にたった4隻で攻略せよと命じた横瀬・ホワードとかいう気に食わない男に帰せられるべきだ。

「問題はありません。」

「「「…?」」」

 そうした揺らついた心情を察したが如く、アリコーンはそう言い放った。さも、既に解決策は為されているかのように……。

 その時、彼女の長大な艤装に動きがあった。甲板と思しき平坦な部分が水平になり、その奥にある流線型を持った構造体から見慣れぬ物体が姿を露にする。

第二次攻撃隊(・・・・・・)発進準備!」

「は⁉︎」

 次の瞬間──────物体は凄まじい轟音と共に、何かに打ち出される様な凄まじい加速を持ってアリコーンより飛び立つ。物体は艦載機だったのだ。それも1機ではない。2機、3機と矢継ぎ早に打ち出される艦載機は数分と経たず12機の菱形の編隊を作り出し、全く想像もつかない様なとんでもないスピードで北上してゆく。

「ウラック島の敵戦力は私の艦載機が叩きますので、皆様安心して戦闘継続をして下さいませ。」

「「「……。」」」 

 声が出ない程驚く、というのを彼女達はこの時実感した。発するべき言葉を、驚声すら見失い、ただ呆然とアリコーンを見つめる。

 

 彼女達の驚天を置き去りに、物体───アリコーンの艦載機であるラファールM───の攻撃編隊は、やがて曇天と霧の織り成す鼠色の空に見えなくなっていた。

 

 

『───横瀬准将、彼女達の件だが……今度こそ“結果”を出せるのかね?』

『お任せください國史海将。連号作戦は順調です。』




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