戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》 作:お猿プロダクション
Anchorfead Raid
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20XX年
9月26日 14時20分
アリューシャン列島西部 デラロフ諸島沖合
『敵沿岸砲、及び姫、鬼クラスが動き出した、注意しろ。』
SLUAVが空を舞い、立て続けにミサイルを打ち込でいるが、沿岸砲を勤める砲台小鬼ややたら頑丈な姫、鬼クラスには数が十分とは言えなかった。生き残った火力を総動員して、霧中より現れた敵───艦娘隊───へ向かって、しきりに砲撃を仕掛けてくる。
鏃のようなSLUAVは縦横無尽に敵地上空を乱舞し、相当なプレッシャーを掛け続けているが、その数はアリコーンにとっても十分な数を空中に存在させているとは言えなかった。
なにより、SLUAVは小型であることに起因する継戦能力の低さが問題だった。
『戦果が少ないぞ…!目を瞑ってたって砲撃が当たる状況のはずだ。』
「チッ……。」
横瀬の叱責が飛び、それに不快感を隠さない舌打ちでアリコーンは返した。
『高脅威目標や密集している敵を攻撃していけ。効率よく敵戦力を叩くんだ……砲爆弾も存分にばら撒け…!』
「イエス…!」
金剛が文字通り砲弾を乱射する。主砲、副砲の区別なく、密集した敵へとにかく砲撃を叩き着けて行く。
敵の魚雷艇と駆逐艦の群体に向かってミサイルが撃ち込まれ、爆炎の中で血祭りに上げる。SLUAVによる攻撃は確実に戦果を上げていた……だが、いかに高性能といえども、汎用ミサイル4発の携行だけでは如何ともし難い───しかしそれを打開する“力技”をアリコーンは有していた。
「SLUAV第4波、第5波、連続射出!」
戦場で最も単純で効果的な戦法とは、数の優勢である。数こそが正義、数こそが正攻法。アリコーンはSLUAV単機あたりの継戦能力の低さをSLUAVの絶対数を増やすことで強引に解決したのである。
続々とUAVラウンチベイより放たれる無人機の群───鏃の様なシルエットを有するSLUAVは艦隊の上空で梯陣を形成し、深海棲艦群に向かって殺到、そしてそれらより放たれたミサイルは雪崩れ込む様に着弾の閃光を瞬かせる。
「……フ。」
抵抗する術を持たず、無駄に無様に足掻いて死んでゆく深海棲艦を眺め、アリコーンは嗤った。そしてその彼女もただ突っ立っているわけではない。まだ浮かんでいる敵艦───主に装甲の厚い戦艦が多かった───を見つけるや、自慢の200ミリ
それだけではない。ミサイルを撃ち尽くし手持ち沙汰になった一部のSLUAVを観測機とし、視程外にいる的に対する金剛の弾着観測やアリコーン自身の放つミサイルを中間誘導するなど、その攻勢に間隙はなく、その密度も濃かった。
『海将、報告します。現在敵戦力の3割を撃破、行動不能。』
『───殆ど例の“怪物”がやっいている様だが?彼女に頼らないと言う君の作戦だが…… イレギュラーな艦娘は不要・・・そう言えなくては説得力は無い。』
『……承知しました。』
島全体が黒煙に包まれるほどの攻撃───その破壊の多くがアリコーンとその艦載機たるSLUAVによって為されている物だった。それでも金剛の主砲は敵艦を打ち砕き、赤城の艦載機は敵陣に打撃を与え続けている。天龍も万が一に備えて周囲の警戒を怠ることはない。
「お前ら油断するなよ。帰還率は100%って申し付けだからな!」
「YES!必ず全員生きて帰りマース!」
帰還率100%は提督の“命令”だ…必ず履行しなければならなかった。
『その通りだ。全員、生きて帰らぬことは許さんぞ。』
提督もそれを肯定し、改めて命令する。
そうこうしているうちに、艦隊は島の端あたりまで来ていた。
『各艦、方位2-6-5に回頭せよ…!』
単縦陣は金剛を先頭として一斉回頭、一転して西進を始める。進路を維持したままウラック島を叩くのではなく、再びアマッティグナック島を攻撃する構えだ。
「あっちにも敵の基地があるが、いいのか?」
ウラック島を振り返り、天龍が不安げに言うが、それをアリコーンが是正する。
「えぇ、問題はありません。」
〜〜〜〜〜〜
14時24分
アリューシャン列島西部 デラロフ諸島沖合
ウラック島 北方沖合
鼠色の空に遮られ陽光を照り返さない濃灰色にも似た色を湛える海面を、それらは疾風の如くに駆けてゆく。デルタ翼とカナードを組み合わせたクロースカップルドデルタ翼の特徴的な双発機───ラファールM───はまさに今、本日2度目となる“奇襲”を行おうとしていた。
戦端が開かれ既に30分近くが過ぎようとしている。再びの奇襲など本来望むべくもないが───彼らは違った。
ラファールMのエアインテークを形成する独特の形状と、
そして巡航時でさえ合計100
アリコーンを発った12機のラファールMはそのまま北上しウラック島に向かうことをせず、なんと一度反転し南下、大回りの軌道でウラック島の北東まで進出し、敵の背後からの奇襲を画策したのである……ラファールM、その快速とステルス性をもってすればこその戦術だった。
『サイシュウヘンシンポイントツウカ──2-2-5ヘシンロヘンコウ。』
『『『
霧中より現れる黒色の機影───それらは4機1グループの編隊を組み、粛々と深海戦艦群へと迫っていた……その内8機の翼下には、機体全長の4割にも達そうかという程の大きさを誇る、重厚長大な“怪物”が懸吊されていた。
ウラック島には未だ手付かずの敵戦力が多数存在している。それらに確実にこのLACMを打つけるには可能な限り探知を遅らせねばならない。先述した機体のステルス性の他にも、ラファールMの編隊は海面高度10mにも満たぬ低空を亜音速で飛行することにより、そもそもレーダー網からも逃げおおせていた。彼らをの存在を知り、そして迎撃を整えるまでの事を出来るのは、今この現場に存在しない、と言っても良かった。
「……。」
決して好天とは言えぬ状況───僅かでも操縦をミスすればそのまま海面に激突し木っ端微塵に砕け散ってしまう。時折立ち登る波に洗われるキャノピーも、見る人によってはその度に全身の緊張を強いる……更にはこの超低空に占位してから今現在に至るまで機内を圧する低高度警報も、緊張を煽ったかも知れない。
それでもこのラファールMに心身を預け、操縦桿を無感動のまま握っていられるのは、ただの己の技量の確かさを自覚し、且つ、己の預かる機体の性能をにも全幅の信頼を寄せているからにほかならなかった。
「カッキ、レーダーキドウセヨ。」
HOTAS概念に基づき設計された操縦桿は、手を離す事なくレーダーの起動や兵装の選択が可能だ。指先に叩き込まれた感覚のみでレーダーを起動させる───ここまでレーダーを起動させなかったのは、レーダー波の逆探知を恐れたためだ───起動。同時に正面のタッチパネルが装いを変え、彼我の位置関係や距離、高度などを数値化し表示する。HUD上にも水平線を埋め尽くさんばかりの目標を示すトラックが表示される。
「…!」
その中から、10程度の目標がピックアップされた。ミサイルを撃ち尽くし、手持ち無沙汰になったSLUAVをアリコーンが敵地上空に向かわせ、そこから得られた目標データをアリコーン経由のデータリンクによって示し出されたのである。
「
計16発のLACMの標的はデータリンクの機体に搭載されたシステムによって自動的に、瞬間的に割り振られる。この瞬間、LACMは自らの目標を学習し覚え、発射後たとえ目標が移動を開始したとしても自動的にその位置を更新し突っ込んでゆくのだ。
「
操縦桿に集中したボタン操作で攻撃兵装を決定……その瞬間、HUD上に2つの菱形が表れた。菱型はピックアップされたトラックへにじり寄る様に接近し、遂にはふたつが重なり合った時、赤色を示した。
ジーーー………という電子音。それこそが彼らの持つ物騒な荷物が己の標的を見つけ出し、ロックオンした事を示すものであった。
あとは発射のタイミングを待つのみだ──────
『カクキ、ミサイルハッシャ…!』
「
発射ボタンを押したその瞬間。ごんっ…と小さな音がするや機体が僅かに浮き上がるのを覚えた。1発1トンを超えるLACMはそれを解き放つだけで機体が身軽になる感覚を与える。
海面高度10mよりさらに低い高度を飛んで行くALCM。己の目標を見出し、その目標に向かって殺到するアレらを阻む術はこの先には存在しない。それが意味するものとは、つまり──────
〜〜〜〜〜〜
14時26分
アリューシャン列島西部 デラロフ諸島
ウラック島 北東海岸
慌ただしく蠢く黒塊───深海棲艦の群れは突如として現れた艦娘隊に向かって本格的に行動を始めていた。
───その全容を見出だす者がいるとしたなら、息を呑む光景であるに違いなかった。蜂の巣を叩き落としたかの如くに、ウラック島から湧き出る深海棲艦の群れまた群れ───それもただの集団ではない。たった4隻の艦娘のために、姫、鬼クラスの深海棲艦までもが戦列に加わり、まさに物量の壁となり西進を開始していた。
まさに鉄壁……!とも思える陣容であるが、彼等彼女等の敵手は、それらの知らない場所から、それらの予想だにもしない方法で破壊の魔の手を忍び寄らせていた──────。
「……?」
背筋が一瞬冷たく感じた───常日頃から冷たい深海の中にあって、その様なものを感じることは彼女等にとって稀有だ。だが、だからこそ、その冷たいもの───悪寒───に敏感に反応した。
その目線の先………
「……!?」
奇怪───!多角形のシルエットを持ったそいつは、明らかに深海棲艦の知るどの航空機とも掛け離れていた。
欠片ほどの意思も感じさせぬ無機の物体に、恐怖すら覚え掛けたその時、彼女等は自信のすべきアクションが“そう”ではない事を瞬時に悟る。
攻撃されている───!
そう察した時から次の取るべきアクションをするのに要した時間は僅かに数秒──────発砲!鼠色の空を金色に染める対空砲火……数十の深海棲艦から打ち出される光の群れはさながら空に昇り行く閃光の大瀑布のような光景を連想させた。
だがしかし、彼女等の敵手である“奇怪なそいつ”───LACM───はそんな
データリンクにより送られてくる位置情報と自らのシーカーの赴くままに突入する。その間も、敵が有効打を与えられない超低空をひたすらに飛び続けるのである。
「───!!」
豪雨の如く浴びせ掛けられる弾幕に、微塵ほども臆する素振りすら見せぬLACMを見た時、もはや迎撃不可能と察した深海棲艦は回避に傾倒する。
しかしLACMのシーカーは縦横無尽に揺れ動き回避機動を繰り返す敵を正確に捉え、そして見逃すことは無い。翼を翻し突入してくるLACMの無機な形状が眼前に迫った時、それが彼女達の最後の光景となった。
〜〜〜〜〜〜
14時30分
アリューシャン列島西部 デラロフ諸島
ウラック島 北東海岸 沖合
「───
HUDの菱型に近づく丸い光点が重なった時、それは自機の発したミサイルの命中を意味していた。表示される[HIT]の文字───だがそれは数秒のうちに[DESTROYED]に切り替わる。自機や僚機のセンサーが敵状を把握し、目標を破壊したと認識した為だ。
「
島の海岸線沿いに幾つも昇る黒煙は亜音速で接近するラファールの中にあって、その光景はよく見えた。
目標としていた鬼、姫クラスの深海棲艦は初撃のLACMによって全滅し、混乱の最中にある敵中。そこに止めを刺すべく8機の攻撃隊は一度高度を上げる───同時にレーダーが大量の敵の影を捉え、HUD上にグリップとして表示される。
「
バウ!と翼端のミサイルランチャーから汎用ミサイルが飛び出し、1、2秒の後には超音速のスピードを伴い敵へ突進してゆく。それも1発ではない。攻撃担当機の8機からそれぞれ2発、計16発もの汎用ミサイルが打ち出され、更に翼下ハードポイントに残されている汎用ミサイルまでもが火を噴き、己の目標を見出し雨霰の如くに降り注ぐ。
今回の攻撃に際して、ラファールは翼下ハードポイントに装備する兵装をLACMと増槽の他に、合計3発の汎用ミサイルを追加搭載できる専用のウェポンラックを装備しており、攻撃隊は怒濤のごとき勢いでミサイルを浴びせかけてゆく。
直上からの攻撃を防ぐ手だては深海棲艦になく、降り注ぐミサイルは次々に駆逐艦や巡洋艦などの装甲の薄い敵艦や空母のような高驚異な目標を狙い叩き潰して行く。
『テッキノリリクヲカクニン、チュウイセヨ…!』
「…!」
攻撃隊が敵艦隊を血祭りに上げている間に、深海棲艦は僅かに生き残った空母や陸上基地から少なくない戦闘機を繰り出してくる。
『SACS5、ゲイゲキスル!』
上空───翼端からウェーキを牽いて旋回するラファールM。その翼下には10発以上もの対空ミサイルが鼠色に光沢を放っていた。
「───
対空ミサイルを満載した護衛を勤めるラファールMは既に、迎撃に上がった敵戦闘機の動きに対応していた。
距離を隔てること数キロ以上、ラファールMのレーダーは敵機の影を明瞭なまでに捉え、既にその動き、速度、高度までをも数値化しHUDに表示される───敵機の行動をこちらがほぼ完全なまでに逐一把握できている一方で、敵機は我が方に探知されたことも、ましてやその首元に鋭い刃を突き立てられている事すらも気付いていなかった。
HCAAのシーカーは汎用ミサイルのそれより高性能であり、より長く、より早く目標を照準し攻撃することができた。
「
音を置き去りにしレールから解き放たれたミサイルは2発。瞬間的に加速し、シーカーの捉えた目標を逃すことなく瞬く間に距離を詰めてゆく。
敵機はその直前にまで迫ったミサイルに最後まで気付くことなく、命中を示す光球の中で潰えた。
「
迎撃に上がった筈の敵機は10機以上はいた筈のものが、1分にも満たぬ間に全滅する。攻撃隊の制空機はラファールMが4機であったが、倍以上の差を容易に覆すほどに彼我の性能には圧倒的な開きがある。
『
「SACSリーダー,ゲイゲキスル…SACS2,ツヅケ!」
新たな獲物を見いだした制空機隊───だが、たかが4機相手にラファールMが4機も向かう必要はなかった。隊長機が僚機を引き連れ2機のみで迎え撃つ。
性能は圧倒的に此方に利がある。さらに2基合計で150kNにもなる推力を叩き出すエンジンは、敵よりも遥かに素早く機隊を高空に押し上げ、完全な高度有利を手にする。
背面飛行……同時にピッチアップ───急降下で加速するコクピットの中で、エンジンの出力を絞る。
反転する鼠色の景色の中で、無様にのたうつ敵機をレーダーが捉えトラックとして示した。同時にミサイルの赤外線シーカーは敵機の影を明瞭に捉え、ロックオンする。鼓膜を打つ電子音に続くHUD上で赤く染まった敵機を示すトラックが、それを何より明確に示していた。
『
固体燃料ロケットに点火……!一瞬の間も置かずしてラファールMの翼端から凄まじき勢いで飛び出した矢状のミサイルは瞬きする程の合間には視界から消え、数秒もせぬ内に生じた眼前の僅かな閃光に続くHUD上で表示された[DESTROYED]の文字列となって、その命中を知らせた。銀紙でも散らしたかのように敵機の破片がひらひらと舞い墜ちて行く。
そんな光景を制空機隊のパイロット達は特な感情もないまま睥睨していた。
『SACS
「
バッ!と翼を翻し横転したまま機首上げをすることで鋭い旋回を繰り出す。少し顔を横に向ければ眼下の悲惨な情景が容易に目についた。
既に戦局は我が方に傾きつつある─────
〜〜〜〜〜〜
9月26日 14時33分
アリューシャン列島西部 デラロフ諸島沖合
『ウラックトウテキセンリョクニダイダゲキヲアタエルモノナラン…!!』
「うん、いい戦果ですね。」
データリンクによる情報共有を得るまでもなく、ウラック島から立ち登る黒煙の数々はその下でまさに地獄の如き惨状を容易に想像できようと言うものだ。
アリコーンが繰り出したSACS隊は12機。うち8機がLACMを積み敵重装甲目標を攻撃し、その成果は彼女の期待した通りだった。当初の目的であった姫、鬼、クラスの深海棲艦の撃破は勿論、汎用ミサイルによる攻撃でも多くの戦果を挙げている様だった。
『よし、その方面の敵は粗方片付いた様だ。島の南面だけでなく、ほかの方面の敵も叩んだ。』
「イエス!」
溌剌として返答する金剛。それに合わせて36サンチ砲をブッ放し、敵艦を情的に屠る。
『金剛、張り切ってくれるのは良いが、無理はするな?全ての皿を平らげる必要はないからな…それに弾薬が心許なくなったなら補給も活用法するんだぞ。』
「YES!ノープロブレムデス!」
「その通り、問題はありません。」
アリコーン、金剛の織り成す砲弾幕は極めて濃密で、かつ効果的だった。曲射の出来る金剛が主砲、副砲火力で深海棲艦を砲撃し、低伸性の非常に高いレールガンを持つアリコーンは直接敵戦艦などの重装甲目標を狙い撃ちにし、その都度敵は胴体に巨大な風穴を打ち開けられる事を余儀なくされ、次の時には絶命するのである。
「
余裕綽々、と言わんばかりにアリコーンは語った。
その時、通信が割って入る。
『こちら伊201。敵重要目標への攻撃を要請する───目標、敵船渠施設 船渠棲姫。座標を送る。』
『全艦、潜伏斥候からの情報をデータリンクした。攻撃可能なら撃破せよ。』
「船渠棲姫…?」
あまり見ない艦種だ。金剛ですら正直、どんな容姿だったかすら曖昧であった。データリンクによりおおよそ何処にいるかは分かるが、敵との交戦の最中にそんな物を探す余裕が「あ。」
目があった。
目前のアマッティグナック島の東端、小さい半島の様に迫り出した陸の上で、縮こまって動かない深海棲艦の影を複数認めたのである。
「…ファイア!」
無抵抗とならざるを得ない敵を叩くのは正直乗り気にはなれなかったが、深海棲艦は深海棲艦、敵は敵。容赦をする必要も憐憫をかける情も持ち合わせていなかったし、持ち合わせる必要もなかった。
着弾───!
ドドド……!遠雷の如き弾着音が数秒遅れて轟き、爆炎と土煙の中で敵の船渠施設は崩壊してゆく。
『目標の破壊を確認。船渠棲姫の死で深海棲艦の洋上戦力はキレ味を失うだろう。』
伊201は今次作戦にあたり、数の少ない突入艦隊の負担を少しでも減らすべく敵情に探りをいれ、その弱点や戦術、戦略上重要な攻撃点を探しだし、それを知らせる任務を帯びていた───日本海軍系艦娘でも随一の水中能力を持った彼女だからこそ、白羽の矢が立った任務と言える。
そんな彼女にアリコーンは弟子を諭す様な口ぶりで笑いかけた。
「フフフ……
実は彼女、伊201は日本随一の性能を誇る潜水艦娘としての自覚と自信から男勝りな性格があり、それに起因した何処か気取った喋り口も彼女の特徴だった。
『───ネ、
───一方で、単純に潜水艦としての性能に隔絶した開きがあるアリコーンに対しては、「姐さん」などと呼び慕っている。そしてアリコーン自身も、その事を大して咎めるわけでもなく、むしろ好意的に受け取っている。
そんな弟子分の伊201を良くも悪くも気にかけてやっている彼女は、自身に吹きかけられた任務を遂行できている伊201を少しだけ注意する。
「成果は及第点ね。でも今のは私の話を聞くまでもなく
隠匿性こそが最大の武器である潜水艦が自らの位置を暴露しかねない長時間の通信は自殺行為と言って良かった。如何に水中での静粛性に優れているといえど、一度見つかってしまえば簡単に逃れる事は出来ないのである───彼女自身そうだった様に───。
『ウ、ウス…。』
「通信っ。」
『───』
伊201は一言も発さなくなった。
「しかし数が多いですね…。」
艦載機の着艦を終えた赤城が、そう言いながらも新たな攻撃隊を出すべく弓矢を構える。
『だが確認出来る敵戦力の5割を撃破している。その調子で続けてくれ!』
「YES!任せてクダサーイ!」
「───動く敵がいます。彼方をやってしまいましょう!」
ドシュ!……弾かれる様に飛び出した炎の矢が次第に輪郭を帯び、流星改の機影となって顕れる。先程と同じく爆装した流星改だ───だがただの爆装機ではない。一部の機体が徹甲爆弾を搭載し、生き残っている敵艦艇にすらその爆撃の牙を剥こうとしている。
「では私もそう致しましょう。」
赤城に続きアリコーンも更なる艦載機を繰り出し、ジェット機特有の圧倒的な加速性を以て赤城の攻撃隊をあっという間に追い越してしまう。
『───こちら伊201、敵重要目標の攻撃を要請する。座標を送る。』
「次は何処デース?」
「…あそこですね。」
伊201の示した次なる目標……をアリコーンは指差した。その先には───岩塊。
岩を狙えと言うのか───?と、そんな事を思うほど彼女等は単純な思考回路を持ち合わせてはいない。
恐らく、地下施設の類いだ。標的を岩塊や土壌に隠蔽している。
「あれはちょっとやりきれないですね…。」
戦艦の徹甲弾や、その戦艦の装甲帯をぶち抜くべく造られた対艦用の徹甲爆弾ですら、貫徹は不可能だろう。
「いや…?」
だがアリコーンは未だ早いと思っていた。何故ならその直上───鼠色の雲間から現れた先鋭的な黒塊が凄まじき速度を有して現れたからである。
「「「……!?」」」
それを目撃したアリコーン以外の艦娘達は驚きに目を剥いた………いつの間にあんな場所へ!?
一方で、当のアリコーンかその事実を簡単に受け止められたかというとそうではなかった。彼女は彼女の知る範疇の中で驚愕した。それは彼女の艦載機ラファールMが既に敵直上を陣取っていることではなく、その機が直角にも近い急角度を以て一直線に降下していたことにある。
加速のすさまじいジェット機の降下は大変な危険を伴う───特に低空───ため、たとえ無誘導爆弾による攻撃を企図していたとしても降下することによる命中精度向上の策は弄さない。
更に…更にである。ラファールMの咆哮と機尾から伸びる青白い光は、明らかにアフターバーナーの使用による大胆な加速を意味していた。一瞬でも機首の引き起こしを間違えれば機体は空中分解するか、はたまた地面に激突するか───である。
それなのに……彼は何をやっているのか!?
単純な疑問がアリコーンの目すらもそのラファールMに釘付けにした。
重力による自由落下よりも遥かに加速する機体を駆り、音をも超える。
胴体が振動し、主翼が軋み悲鳴を上げる。
「……あ!」
アリコーンが声を上げた瞬間。ラファールMから黒塊が放たれる───それはLACM…!
かの如き体勢から重量のあるミサイルを放つなどまともでは無い。それも音速突破しながらに……!ただでさえ巨大たるを誇るLACMをそんな風に放り込めば──────
ドォンッ………‼︎‼︎
「……‼︎」
着弾から数刻遅れて立ち上った土煙の混じった火柱は、LACMの弾体が地中を貫通しその内部を破壊せしめた事を意味している。
『───オォッスゲェ…!……あ、いや………目標の破壊を確認。潜水艦基地の破壊によってこの海域における我が行動の脅威も減る。』
明らかに一瞬だけ別人のように声を高くし、一瞬の停止の後に普段の彼女の喋り口に戻った。
「……相変わらずね。」
まだ顔を合わせて数日の仲でしかなかったが、同じ潜水艦種であるからか、はたまたアリコーンの人(艦娘?)心掌握が長けるからなのかは分からないが、伊201はよくアリコーンに懐いているしアリコーンは伊201を把握していた。
彼女たちの間に、師弟にも似た関係が僅かな期間の内に作られていたのである。
「デモ、
『その通りだ。無事全員帰ったら、また世話でもしてやってくれ、アリコーン。』
「そうですね───ま、考えておきましょう。」
『…作戦中の私語は厳禁だ。場合によっては処罰する。』
「……。」
喧しい奴だ……それを言葉にするまでもなく、沈黙を以って横瀬の通信に返す。 余り発信こそしないが、今次の作戦も彼女の敬愛するマティアス・トーレス艦長は臨席している。醜態を見せる訳にはいけないのに、いちいち癪に触る横瀬がうざったかった。
そんな鬱陶しい存在を忘れるべく、彼女は戦闘に意識を戻す。
「お手柄よ、ルイス・バルビエーリ中尉。」
『ウス…!』
先程の自殺的勢いで運動エネルギーの暴力で貫通力を持たせ、地中の潜水艦基地に
『……ん?全員注意しろ。南東より高速機接近、数1。』
「1機だけ…?」
「気をつけろ、何かある。」
───キイイィィィィィィ………‼︎
接近するエンジン音───エンジン音⁉︎
深海棲艦にそんな物あっただろうか…?しかもこの音は……‼︎
(ジェット機…⁉︎)
バッ!と鑑みた先───雲間の中に1機だけ、明らかに他と異なるフォルムを持つ機体を見つける。深海棲艦特有の勇気的なシルエットを持ちつつ、よりラファールMの様に空力的に洗練された機影───それもただ見た目が洗練されているわけでは無い。これまで見てきた深海棲艦戦闘機よりも遥かに高い機動力を有しているのは、その敵機の常軌を逸した機動を見れば一目で明らかだった。
赤城の戦闘機、精鋭の烈風11型ですらも相手にならないほどであろう。では何故敵はアレほどの高性能機を単機で送り出してきたのか───?
「……っ⁉︎」
その瞬間─── アリコーンは目を剥いた。
「あれは……‼︎」
彼女は─── 否、彼女達は───あの機体を知っている。アレは、前回の作戦の折に核弾頭を持って逃走を図った機体と同じ………‼︎
『敵機から離れろ!
「艦長⁉︎」「デモ───」「敵に尻向けろってのか⁉︎」「回避…⁉︎」
『良い!散れっ!』
最初のマティアスの叫ぶ様な指示にアリコーンは驚きを隠さなかったが、それよりも前に身体がマティアスの命令に反応し、跳ねる様に全速で移動を開始していた。
一歩遅れた提督の命令に他の艦娘も反応して各々別の方向へ全速で散開する。
「うおッ……こっちにくるぞ!」
敵機は鋭い旋回を放ったあと、天龍に向かって凄まじい速度で迫ってきた。
ドンドンドンッッ…!!
連装の12.7cm高角砲が弾幕を形成し、敵機の行方を阻まんとするが、そのあまりの高速性に全く追随出来ず敵機の後ろに虚しく炸裂の花を咲かせる。
「テンリュウさんっ…!」
アリコーンのVLSが煌めく先、陽光にも似た輝きが鼠色の上空へ打ち出され、黄金色に照らし出す。輝きはミサイルの影を伴い、意思を持った矢の如く敵機との距離を急速に縮めてゆく───最早回避は叶わぬ距離!
アリコーンが撃墜を確信した瞬間───それは起こった。
「……何だと⁉︎」
驚愕!それに続く動揺───それはアリコーンが感じた事ない類の心情だった。
命中……それが既成のものとなる寸前に、敵機は光球と糸屑のような金属片を無数に撒き散らし、更にそれまでの深海棲艦戦闘機からは考えられない様な急加速とそれに伴う高機動を以ってアリコーンのミサイルを回避したのだ!光球に突っ込み爆発するミサイル……。
(フレア!チャフ⁉︎)
前者は赤外線誘導、後者はレーダー誘導のミサイルから逃れるための方策で、アリコーンの放ったミサイルは突然現れた高赤外線放出目標を敵機と誤認し、そのまま突っ込んで爆ぜたのである。それ自身は驚きではなかった。問題なのは──────それらは
何故、彼らがそれを───⁉︎
だが驚愕を解決する手段は遂に訪れる事はなかった。
『───高速飛翔体接近!航空機じゃないぞこれは⁉︎』
「飛翔体⁉︎」「こいつはどう言う事だ…⁉︎」「何……!」
『天龍っ、来るぞッ───』
「くそッ───」
網膜に差し込む眩い閃光───黒い海を照らす爆炎──耳を鼓膜を
ドドドドドドドドッ………!!!!!
「───ッ⁉︎」
軽巡天龍の姿は突如として生じた大量の水中と爆発の輝きの中に消えた。
投稿遅れてしまいごめんなさい…
感想、好評価よろしくお願いいたします