戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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お待たせいたしました!
ノロノロやってる間に伊201の妹である伊203が艦これに実装されてしまいましたね。
描きます(遺言)

Anchorfead Raid
を聴きながらお読みください



連号作戦Ⅱ(前)

 20XX年

 9月26日 14時35分

 アリューシャン列島西部 デラロフ諸島沖合

 

「───‼︎」

 怒涛の如き勢いで炸裂する砲撃!まるで無数の砲門から同時に弾着されたかの様な大量の炸裂は、軽巡洋艦天龍をその光と炎の渦中に一瞬にして呑み込んだ。

「しまった…!」「テンリュウっ!!」「天龍さんッ!!」

 ドドドド……着弾の衝撃で打ち上がった海水が滝のように落ちてゆき、飛沫が霧のように視界を遮る。

 靄がかった視界の中に消えた天龍……金剛らの呼び掛けにも応じる気配はない。まさか────?

 

「ッくそァ!喰らった…!!」

 

「……!」

 張り上げた声が通信機越しに鼓膜を打ち、それは天龍の無事なることを示していた──────否、無事と言うには彼女の損害は大きく、そのショックもまた無視し得ないものではあった。

 天龍の損害は中破相当。最低限度は防御力のある巡洋艦なればこそ沈没は免れたものの、駆逐艦であれば危ないところであっただろう。

 そして何より、奇襲──────それを仕掛けたのは明らかに此方側であったのに、今は間違いなく此方が奇襲を受けた側となっている!

 攻撃は───何処から……!?

 ───アリコーンですら、それを図りかねていた。文字通り唐突の攻撃……それも一瞬!

自艦そのものはたいした索敵能力を有してはいないが、艦載機とのデータリンクによって相応の状況察知能力を持っている。事実、艦載機たるラファールMのレーダは100kmを優に超える探知距離を誇っており、SLUAVもまた低からぬ探知能力によってアリコーンの目として大いに機能する。

 その重厚な探知網に間隙などあろうはずがない───それは怠慢でも油断もなく、純然たる“事実”であり、全く変えようの無い事柄であった。

『恐らく、レールキャノンだ……!』

「えっ……⁉︎」

 マティアスの呻きにも似た言葉を、彼女は一文字も聞き逃さなかった。レールキャノン…!それは彼女───アリコーン───にのみ装備されている筈の、文字通り唯一無二の存在の筈……!

 

『更に1機、アンノウンターゲット飛来!また来るのか……⁉︎』

『アリコーン!堕とせッ!』

「はい……‼︎」

 

 飛来した機体───今度もやはり、アリコーンの艦載機たちになんら劣らぬポテンシャルを有している様だった。とは言え、アリコーンが取れる対処は先程と変わるところはない………SAMを放ち敵にぶつける事である。──────それ以外があるとすれば、それはアリコーンが直接手を下すことの出来ぬことであった。

 

「SLUAV発艦…!」

 ドシュ…!───勢いよく放たれた鏃の如き奇形の数は8機。加速のついた機体はぐんぐんと上昇し、僅かな間に敵機と同高度にまで達しようかという勢いだ。

 しかしそれを予期したものか、下方より突き上げてくるSLUAVに機種を向け、加速してくる。

 ミサイル……!SLUAVの腹から放たれた矢状が正確に射られた弓矢の様に敵機へ突貫する。編隊の先頭を務める機体が敵機をシーカーに捉え、ロックオン。2発の短射程ミサイルを連続してウェポンベイより撃ち放ったのだ。

 相対する正面からの発射、それも近距離の───もはや外しようは無いし、また躱しようは無いはずだった。

 ……だが次の瞬間、アリコーンが見たものは爆散する敵機ではなく、チャフとフレアを焚き高機動を以ってミサイルを回避する敵機と、その敵機の放ったミサイルで吹(・・・・・・・・・・・・・・)き飛ぶ(・・・)SLUAV(・・・・・)だった(・・・)

「───馬鹿な…⁉︎」

 驚愕‼︎…それを孕んだ絞り出した様な声の後にも先にも、アリコーンは出すべき言葉を失った。

 彼女の驚愕を他所に悠々と翼を翻す敵機。SLUAVの追撃をチャフ、フレアで欺き巧みな機動で翻弄する───その先には損傷激しい天龍!

「テンリュウさん!退避を…‼︎」

「チッ───くそ、分かった…!」

 一瞬の逡巡を臭わせるが、天龍はすぐに取って返し最大戦速で回避を行う。彼女は顔を合わせて数日と立っていないアリコーンに指示されることに若干癪ではあったものの、どうにも今回の戦闘に関してはアリコーンの指示に従っておいた方が良い、という事ぐらいは天龍は弁えていた。

 もし敵が先程の攻撃をしてくるのならば、その指向する相手は間違い無く天龍だ。再度の直撃あれば耐えられない。

「いけッ…!」

 アリコーンの焦燥混じりの声と共に打ち出されたミサイルは3発。VLSより眩い輝きを纏い吐き出されるや、白い弧を描き飛んでゆく───しかもただ3発を乱れ打ちにしたわけではない。ミサイルは数秒の間隔を空けて発射されており、1発目を躱しても2発目が、それを躱してもまた更に───といったように間隙なく攻撃するのである。接近するミサイルに対し、回避機動を取り始める敵機……!

 

 1発目──────チャフとフレアに撒かれ、チャフに乱反射したレーダー波によって近接信管が作動し爆発する。

 

 2発目──────急降下に転じた敵機の背後を食いつく様に追い迫るミサイル!だがすんでの所で急転回した敵機……追い縋るミサイル───だったが、そこには海面ッ!水柱を立てて矢状は果てる。

 

 3発目──────だったが、その前にSLUAVもまたウェポンベイよりミサイルを放った。しかしミサイルの赤外線シーカーは雲中に突っ込んだ敵機の姿を見失う。敵機は雲中に突っ込んだと同時にエンジン推力を大幅に絞り、赤外線の放出を極限にまで限定したのだ。そして、その結果としてシーカーが敵機を再び敵機を捉えることは終ぞなかった。

 雲中より離脱した敵機は悠々と天龍との距離を詰めてゆく。

 

 だが──────アリコーンの放った3発目のミサイルが遂に敵機を捉える。エンジン推力を絞った事によるエネルギーロスが致命的であった。速度を喪った航空機に、超音速で迫るミサイルを避けられる道理は無い!──────近接信管を作動させるまでもなく……直撃!

 爆砕される敵機──────よし!という安堵を覚えた瞬間!

 

 ドドドォォ………!!

 

「うわ……!」

 天龍よりやや離れた、数百メートルの位置で巨大な火球が鱗の様に重なり現れる。空気が震え光芒が周辺を包み込んだ。煙が晴れ、煤まみれの天龍が姿を表す。直撃は避け得た……しかし、此方の予想を超えて爆発の範囲は広く、その威力も大きかった。

『天龍大破、戦闘続行困難……!』

 

「ぐぅ───クソが……!」

 傾斜激しく、黒煙を吐き炎をも撒き散らしながら満身創痍の体勢で現れる天龍……仰角を上げた高角砲は拉げ、檣楼は中ほどから折れ曲がっている。

 

「今のは……!」

『砲弾が自爆したのか!』

 アリコーンの声に反応する様に、マティアスが叫んだ。同時に、これは対処できない、とも……。

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 14時40分

 日本国 戦略機動打撃艦隊 

 某島鎮守府 

 艦娘寮兼司令部施設 地下1階

 統括作戦指揮室

 

 

 モニターに囲まれた室内が喧騒と混乱に包まれて久しかった。

 作戦開始と同時に此方の奇襲という形で発起した今回の戦闘は、ここに至るまで常に艦娘達の優勢という形で推移しそれは最早規定のものかに思われた──────それは楽観や希望的観測から来る“油断”ではなく、アリコーンの予想外の活躍(蹂躙?)やそれに触発された艦娘たちの数的劣性をものともしない奮闘によって得られた形勢は、覆しようの無い迄になっており、そうした優勢に形作られた“確信”にも似たものであったのだ。

 そして宜しくないことには、その確信を打ち砕いた敵を彼は電子的にも物理的にも見出だしてはいなかった───だが敵とは!?それすら彼らは図りかねていた───恐らくは深海棲艦である事以外、何も分かってはいない。

 だがそうした指揮室の中を占める一角に、周囲とは違う反応───具体的に言えば何か解ったかの様な───をした男が居た。

 男は叫ぶ。

「提督、あれは恐らく超長射程砲(スーパーガン)の類いによるアウトレンジ攻撃だ!発射位置を特定しないことには対処のしようがないぞ……!」

「視程外からのアウトレンジ砲撃……!?」

 男───マティアス・トーレス───の提言は、その意味を理解する者にとっては悪魔の警告に聴こえたかも知れなかった。即ちそれは、反撃の機会無く一方的に殴られ続ける事を意味する。

「アリコーン!敵の戦闘機だ。弾着前に爆発したのは恐らく誘導機が墜とされたからだ……先程の戦闘機と同じものが戦域に侵入してきたら、最優先で撃墜せよ……!!」

『わ、分かりました…!』

 マティアスとアリコーンの間で一連のやりとりがあった一方、提督も今すべき判断を下していた。

「天龍、退避だ。戦線から離脱しろ…!」

『はあ゛ッ⁉︎』

 明らかにブチ切れた声。そしてこの後「俺を前線から下げるな!死ぬまで戦わせろッ‼︎」という悲壮と哀願の籠った叫声が飛んで来るまでがセットである。

「黙れ!貴様を喪える余裕は我々にはない…!」

 叱責!天龍のプライドと自責───それをどうにかするには、こうして正面からガツンと言ってやらねばどうすることも出来ない事を、彼女らを長く預かる若き指揮官は知っていた。

『仲間が戦ってんのに……くそッ!』

 声色は苦しく、重々しい。損害による痛感に耐えているだろう事を踏まえても尚、鉛のごとき響きを伴っていた。

「砲弾を探知し次第爆発予想範囲は転送出来るから、他の者達の心配をすることはないぞ。」

『……。』

 先程の叱責から転じて諭すような口調。“やっかいな性格”持ちである艦娘を制御するのも彼の仕事であった。天龍もそうした艦娘の一人だ。

「…分かったな。それに帰還率は100%なのだ。お前が帰ってこなかったら、俺は嘘つきになってしまう。」

 ───ズルいぜ、それ───通信機越しに聞こえた天龍の呟くような声色は、先刻とは打って変わって理解と懇意が存在するものだった。

『了解、撤退する……。』

 渋々、といった気も抜けないではないが、兎も角も天龍を示す輝点は戦線からの離脱を始めている。

『残りは私達で片付けるデス!』『…あぁ、頼んだぞ。』

「アリコーン、上空を注視しつつ、テンリュウの退避を援護せよ。」

『了解です艦長。』

 ……そうは言いつつも、その実この段階で見るべき脅威はさして存在しなかった。両島の洋上、地上戦力はそのいずれもアリコーンを始めとする艦娘達の、勇猛果敢、獅子奮迅とでも形容すべき大活躍により粗方掃滅されており、今やアリコーンのSLUAVがそのウェポンベイに“余った”ミサイルをポツポツと生き残っている深海棲艦を見つけては打ち出し、血祭りに上げている状態だ。恐らくは敵の重要拠点が幾つか生き延びているであろうが、それらも遠からず伊201によって白日の下に曝され、破壊の憂き目に逢うだろう。

 現段階において、それらしい驚異とは先程の奇襲と、それをもたらした新型の敵戦闘機ぐらいであろう。

「天龍の進路1-5-0、速力15ノット……まもなく戦域外へ離脱します。」

 嘆息……損傷艦を離脱させることによる一時的な戦力の低下よりも、艦娘を留まらせ、万が一にも沈没してしまった場合に起こり得る永続的な戦力の低下を何より危惧する提督には、今の報告が何よりも安堵できるものだったのだ。

 ホワードの発した「作戦中に気を抜くなうつけが」という雑言も、今の彼にとっては大した事ではなかった。………とはいえ、そうした安堵は次の一報により霞のように消え失せる──────

「───警告、方位1-5-0より敵艦影多数現る!」「敵は戦艦以下20隻以上……!」

『無傷の敵と戦う!?今から…!』

 天龍の退避を知らせる吉報の直後に告げられたそれは凶報──────しかし、それを受け止める者にとっての反応はそれそれであった。

「よし…!」

「……!?」

「……。」

 拳を握り嬉々とした態度を隠そうともしないホワードに対し、そのホワードの反応を見て唖然とする提督、顔色一つ変えずに報告に耳を傾け、ホワードらのやり取りを見るマティアス。

 各々の思惑をよそに、戦場は新たな局面へと転換する──────

 

 

 ~~~~~

 

 

 14時59分

 アリューシャン列島沖合 数百キロ

 米加連合艦隊 CTF-200(第200合同任務部隊)

 

 北半球である日本では未だ残暑がどうとか未だ言われる時期であっただろうが、比較的高緯度に属するこの地域にそんなものは存在しなかった。裂くような鋭い、冷たい風が、見張り所にあって周囲に監視の目を行き渡らせる見張り員や、切り立った波間を掻き分けて前進する艦娘達の肌を痛めつける──────くしゅんっ、と誰かがくしゃみをするが、それは波浪と強風の中に掻き消される。

 アメリカ海軍、カナダ海軍、さらにその隷下にある娘多数によって構成されるCTF-200(第200合同任務部隊)は、北アメリカ本土より出撃し太平洋上で合流したアメリカ海軍第3艦隊とカナダ海軍大平洋海上軍によって構成されていた。第3艦隊と共にアメリカ太平洋艦隊主力の一翼を担う第7艦隊は、同じ作戦目標にその舳先を向けつつも、別の方角、部隊───海上自衛隊2個護衛隊群及び隷下艦娘隊───とともに北上を続けていた。目指すは、ベーリング海、オホーツク海を抜けた先にある北極海。彼らの他にも、ロシア大平洋艦隊がウラジオストク港より全力出撃し日本海を抜け進行を続けている。

『ゼロアワーまであと、5…4………1…作戦開始いま!』『艦娘隊散会開始───』

 

 精緻を極める艦隊運動ののちに現れた陣形は……輪形陣。有人艦艇を艦隊中心に配置し、その周囲を対深海棲艦に威力を発揮する艦娘隊、際外縁に弾除け兼先遣艦としての役割を持つ無人艦艇を置いた陣形である。

「壮観ですな。」「まったくだ───これだけの数、規模。まさに砦が海を渡っている様なもの。」

 艦隊はこの決戦における勝利を確信していた──────たとえ深海棲艦相手であっても、適切な操艦と最適な戦闘手順を違えなければ、従来兵器でも十分に戦闘可能──────それが今の各国海軍の普遍的な考えであり、これまでの戦闘経験から得られた基本原則だった。艦娘と比して特に水上探知に秀でおり、単純な人の目(アイボールセンサー)の数でも勝る従来型の有人艦は部隊の目となることで、艦娘登場以来もその価値を堅持し続けていた。

 その上、この数………!有人艦だけで数十隻を数え、無人艦や艦娘を加えればその数はさらに増える。

 そして、艦隊が勝利を確信する要素は他にもあった───遡る数分前、今次作戦の前段階として行われている陽動作戦が功を奏し、その地域の深海棲艦の撃破は勿論のこと、少なくない数の深海棲艦がその海域へ足を運んでいるのが確定となったのを、その作戦に当たっている横瀬・ホワード准将から知らされたのだった。

 しかもその戦果は精鋭とはいえ少数の艦娘によって成されていると言うから驚きだ───艦娘だけが深海棲艦と有効に戦える戦力では無いと言う彼の論拠を挫く結果であるそうだが───艦隊にも、我々も負けていられぬ、と言う高い士気が漲っているのを感じるのに、さほど時間は掛からなかった。

 元より必勝を期して出撃しただけに、敵が此方の陽動に引っ掛かり相対的な戦力比が此方の有利に傾いたことが、彼らに心的な余裕を持たせる。

 

 山脈の様に荒れる波間──────人の目には大きく波立つ海や、好天とは言えぬ鼠色の空が視界いっぱいに映り、その情景は静寂とは程遠いものであったが、艦の有する電子の目には外の情景からは予想もつかないほどの静かさを示しており、CICを多くを占める巨大なスクリーン上に表される輝点はいずれも味方を示すものだった。

 

 静けさを保つ電子の海──────に、投げかけられる波紋────

 

「……?」

 輝点───Unknown(不明目標)を示す反応がスクーリーンの一角に表れ、そして消えた。誤探知……?NOだ。それは無いだろう。不明機ならば、味方機の可能性は───NOだ。何故なら探知後再びロストしたと言うことは、目標が此方の探知域から逃れようとしている証拠……!

 敵襲───⁉︎それを判断し、オペレーターが報告を叫ぶのに1秒を要さなかった。

『方位1-9-5にアンノウンターゲットあり!警戒せよ……!』『こちらキーパー、南西にアンノウンターゲット探知───レンジ20マイル、数4。高度30の低空…速い。』

 報告と同時、上空を警戒していたAEW(早期警戒機)のE-2D アドバンスドホークアイのレーダーもおそらく同一のものを探知したことを告げる。

 それはデータリンクにより直ちに艦隊全ての知るところとなり、艦娘隊にもその事実は知らされる。

 探知距離からして深海棲艦と見て間違いない。艦隊司令官は直ちに艦娘隊直掩の戦闘機隊に迎撃を支持し、命令を受けた友軍戦闘機は進路を変え、敵機を迎撃する。

 迎撃機……パンケーキにも似た、戦闘機としてはあまりに奇異な機影───XF5U───はその見てくれこそ“アレ”だが、優秀な戦闘機としてその地位を確立していた。

 通常の航空機とはかけ離れたその機体形状は、その実航空機にあるまじき頑強さと、あらゆる速度域での優秀な空力性能をもたらし、それを大馬力エンジン2基で振り回すものであるからこの機体の戦闘機としての優秀さは折紙付きというものであった。

 その上、安定した機体性能に加え強力な12.7ミリ重機関銃を当てやすい機首に集中配置しているため、扱いやすい機体としても完成されている。

迎撃機(インターセプター)、ポジションに付いた───』『───Hey!コチラSaratoga…私の艦載機の調子は如何?』『君と同じく、元気だよ。』『あら……ふふふ。』

 陽動の成功、戦力の充実、それらに裏付けられた自信──────そうした要素が、たわいのない会話が交わる空間を許容していたし、ある意味、そうある事を望む者も多かった───これが最後ではない確証など無いのだから───

 そして、その“確証”は現実のものとなろうとしていた………端緒は、悲鳴にも似たCICオペレーターの報告──────

『───方位(ヘディング)1-9-5にコンタクト……速い───⁉︎速度500ノットオーバー!接触まで間も無い……‼︎』

『インターセプターは…⁉︎』『既に攻撃体制…!』『こちら左ウィング!インターセプターが───!』

 

 

 ~~~~~

 

 

 15時05分

 CTF-200(第200合同任務部隊) 艦娘隊

 

 

「……⁉︎」

 左ウィングの見張り員と、その艦の近くに展開している艦娘Saratogaの目にした光景はほぼ同じものであったが、それらによって受けた衝撃は見張り員とSaratogaとては明らかに且つ遥かに後者が上回っていた。

 閃光────大きな自信をもって放ち、他者からの信頼を持ってその場にいた迎撃機(インターセプター)───XF5U───が突然吹き飛んだとき、Saratogaのあらゆるものが同じように吹き飛んだ。

 爆裂!……嵐の如くに現れた焔と煙のコントラストは空域、海域を問わず現出し、それが過ぎ去ったあとには死屍累々の地獄絵図が拡がるばかりであった。

「ヴ…ぅ……。」

 黒煙の隙間から伸ばされた細い腕は痛々しい赤黒い血と、煤に汚れていた。

 

 何が起きた───!?

 

 混乱は思考を奪い、激痛と焦燥は余裕を消し去る。視界が煙に遮られ、世を知らぬ小鹿のように首を振り回してようやく目にした光景を、彼女は一瞬受け入れかねた。

 

「そんな───………。」

 燃え上がる艦艇、黒煙に包まれる同胞、──────それは……まさに悪夢。

 バァ……ン!

「!」

 彼女は頭上から差し込んだ焔の煌めきに和が目を疑う。花火のように散りゆく機体───それは紛れもなく、数刻前に彼女が自信と共に蒼空へ放ったXF5Uであったのだ。

 Despair(絶望)───その言葉の意味を初めて実感した瞬間、彼女はこれが悪夢だと思ったし、そうであるべきだとも思った………しかしそれこそ、願い叶わぬ夢物語───通信機越しの衝撃に打ちひしがれた悲鳴にもにた言葉がSaratogaを現実へと引っ手繰る。

 

『至急至急!アンノウン4を探知!到達まで2分…!!』『既に到達している!』『攻撃は…!?どこからだ!反撃しろっ…!!』『SAMファイア…!』

 

 黒煙の合間を縫うように現れた、白竜のごとき噴煙を靡かせながら現れたSM-2やESSM、RIM-116といった多数のミサイル。或いは速射砲やファランクス、機関砲から吐き出される数珠繋ぎの砲弾の群れ──────CTF-200は当初の予定とは全く異なるタイミングで、全く異なる会敵の仕方をし、その滑り出しから完全な劣性に立たされる事となってしまった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 15時15分

 アリューシャン列島西部 デラロフ諸島沖合

 

「……向こうは随分苦戦している様ですね。」

「デスね……。」

 向こう───彼女達とは別方向からのアリューシャン列島への襲撃を図るCTF-200(第200合同任務部隊)───の苦境をアリコーン達は通信機越しに知った。

 戦闘開始から僅か5分……既に劣勢が決定的であるのは明白だった。CTF-200は彼らの有する航空戦力を遥かに圧倒する強力な深海棲艦と遭遇したらしく、隷下の艦娘、艦艇群に多数の損害を出しつつあり、それは今だ止まることは無いようだった。

 

『敵は数機なるも、艦艇、艦娘双方に被害に被害拡大……!』『そんな結末は許容出来ないぞ!意地でも撃ち落とせっ‼︎』『味方艦の約半数が被弾又は至近弾により損害!誰かあの空のヤツをなんとかしてくれ!』

 

 一方で、アリコーン達は僅か十数分前にこの戦域に姿を表した新手の敵艦隊───彼女達は知らなかったが、これこそがCTF-200と本来会敵すると思われていた艦隊だ───と激突し、アリコーンの強力なレールガン及びミサイル兵装にものを言わせ艦隊を分断、炙り出された敵を金剛と赤城の艦載機によって各個撃破するという、即興にしては非常に完成された連携をみせ、これを撃破している。

 ………とはいえ、その戦闘の以後も一筋縄で済んだ訳ではなかった。

 

『アリコーン、残弾管理はしっかりとしておけよ。』

「ム、無論です。」

 並み居る敵を前にハッスルし過ぎたのか、或いはやむを得ない事態であったのか、それを知る術は最早誰も持たないが、アリコーンの残ミサイル数が少し心許ない事になっていた。

『補給を頼ってはどうだ?』

『それは無理だトーレス大佐。艦娘アリコーンの兵装は特殊でな、補給用の弾を用意できていない。』

 マティアスの提案はその言葉を向けられたアリコーンによってではなく、この場に居ないホワードによって蹴られた。

『……らしい。すまないなアリコーン。』

「いえ、そんな、謝らないでください……。」

 アリコーンは知る……殺意にも似た感情を声に出さない様にするのが、これ程大変なことだったとは!

 と言うかあの男(邪魔くせぇホワードとか言う奴)は私とマティアス艦長のエレガント(?)な会話へと土足で踏み入ってきて、その上艦長にダメ出しするとは……一体なんの怨嗟あっての行動だろうか?

 インカム越しのやり取りに、声にならないコンタクトは成り立たない。金剛や赤城はアリコーンの眉間にみるみる皺がよって凄まじいまでの怒気を孕んだ形相に変わっていくのが分かったが、向こう(指揮室)側が知る由もない───そしてもう1人、それを知る術を持たない者がいた。

 

『敵重要目標を発見、攻撃を要請する───』

 伊201である。海中にあって、ただ敵情をのみ見ていれば良い彼女にアリコーンの心中にある憤怒を知る術も理由もあるはずがなかった。

『目標は北方棲姫群、座標を送る。』

「フ~~ッ……あぁ、私のSLUAVで処理しましょう。」

 大きく息をついて落ち着く様な素振りを見せるアリコーン。気を紛らわそうと試みたのかスイッと指揮棒を振り、数機のSLUAVを操作する。

「さ、片付けてきて下さいね。」

 ゴォォォン……!返事などしよう筈もなく、SLUAVは所定の進路を陣取ると、そのまま鼠色の背景に溶け込んで見えなくなってゆく。

 そのSLUAVを見送る一方で、アリコーンは自身の残弾も去る事ながら、赤城と金剛も同様に残弾管理に勤しんでいる頃ではないのかと思った。

 戦いは佳境に入り、最早敵の数は僅少。そうした環境が、元より余裕のある彼女の性格に拍車をかけて余裕を持たせていた。

『アリコーン?』

「…?なんでしょう?」

『気を抜いているな、今。』

「ヘェッ⤴︎⁉︎」

 マティアスの声に対し、図星だったのか、非常に可笑しな声を上げるアリコーン。そんな彼女の様子を「フッ』と軽く笑うに留め、マティアスは続ける。

『敵数が少なくなり、戦局がお前達に傾いているのは事実だ……よくやっている。だが訓練でも実戦でも、戦場に於いて楽観や油断は感心せんぞ。』

「は、はい……。」

 しょげるアリコーン。

 

『ミズーリが大破……大破しました!』『あれは鎧を纏った艦だぞ!信じられん…!!』『前衛艦隊通信途絶……!』『奴らがやられたなら戦える艦は半分以下だぞ⁉︎』

 

 続々と入るCTF-200の苦境。それを指してか、彼はさらに言葉を重ねる。

『お前達は善戦出来ていてもそうでない者もいる。そうでない者の為にも、お前達は最後まで誠心誠意、レガント且つ美しく敵の息の根を止めねばならんのだ。分かるな?』

「も、勿論ですわ…!」

 当然、とばかりに自信ある声を上げる彼女だったが、その実マティアスに図星をド突かれた事と、恐らくは彼にとって好ましい状態では無かった自分の醜態をよりによって最もそれを知られたくないマティアスに、さもそのシーンだけを切り抜かれたかの様に看破されてしまった事の2つがアリコーンの心中に僅かながらも動揺を与えていた。

『宜しい、ならば一つ喝を入れてやるか。』

 動揺を見抜いたからか、彼は言葉を止めるつもりは無い様だった。

「カツ……?」「カツ?」「カツ丼?」『喝?』『はァ……?』

『アリコーン、訓練を実践に変えるのは何だか分かるか?』

「は…?」

 突然教官の真似事であろうか?意図を図りかねるアリコーンをよそに、彼は更に続ける。

『分からんか……それはイメージ‼︎』

「……っ!」

 瞬間!脊髄から脳天に至るまでの一切を不可視の雷に打ち抜かれた様な衝撃をアリコーンは覚えた……これは……違う。これは彼の、そしてわたしにとってのルーティンなのだ。

 潜水艦という外界から隔絶された場所からその外界を臨む彼は演説にも似た部下に対する鼓舞を行う事で、自身を含めた乗組員と艦とを一体にし、緩急自在にして縦横無尽の活躍を見せるのである。

『貴様、何を勝手n』

『───想像せよ、サブマリナー諸君!1発で1,000万人が救済される!』

 横瀬の言葉を遮って張り上げられたマティアスの言葉は、アリコーンにとってはある種のドーピングの様に作用した。マティアスの声はヘッドセットから漏れる事なく外耳道を占め、彼女の鼓膜を舐めるように震わせている様に感じられた。はぁっ───と湿気の籠った熱い吐息を漏らした時には、彼女の頬は熱を帯び紅潮して、ただ水に濡れたのとは違う艶やかな色合いを呈していた。

「勿論……勿論ですとも……!」

 ドカァンッ!……打ち出された紫電の稲妻が未だ洋上にある敵戦艦の胴体を粉微塵に破壊し、そらに後方の敵艦をも撃ち抜く。過剰な破壊力を持つアリコーンのレールガンは文字通り敵艦を串刺しにし、砲撃数以上の深海棲艦を叩き沈める。

「私達も負けてられませんね……。」

 アリコーンに触発されたか、或いはマティアスの演説によってか、金剛や赤城も戦意を高めている様に感じられた。砲撃の精度が増し、赤城もまた艦載機をひっきりなしに繰り出しては攻撃を加えている。

 ドンッ!───金剛の放った斉射弾が、敵巡洋艦の上を掠め着弾する。夾叉ではないが、至近弾である。

『どうした!100万人死んだぞ!』

 マティアスの叱咤!否、言葉こそ叱咤と言うべきものであったが、口調は寧ろ激励に近いものだった。

『───1発当てれば1000万人が救われ!外せばその先で生き残った敵が100万人を殺すと知れっ!いかなる距離にいようと、どんな場所にいようと、自らの手で!狙いを定め‼︎そしてブチ抜けッ‼︎‼︎』

 ただひとつの撃ち漏らしも許さぬとでも言わんばかりの言動である。「アリコーンの艦長サンは合理主義(Continental Rationalism)みたいデス……」などと漏らす金剛にもマティアスは目(耳?))敏く嗅ぎつけインカム越しに声をかける。

『───コンゴウ!お前の良人たる提督の為にも撃ち漏らしなど厳禁というものだ。イメージだ!救済だ……!!』

「い、イェース……!」

 マティアスの勢いに付いていけないのか、或いは言われた事が恥ずかしかったのか、少しだけ頬を紅くする金剛。インカム越しのマティアスや肝心の提督には当然、そんな状況は分かりはしない。

 赤城も赤城で『ただ艦載機を飛ばしているだけではいかん……艦載機もお前の一部だ。だから機体1機1機に必殺信念を込めて送り出すのだ。母艦にもやるべき事はある……!』などと言われ、今更ながらに戦闘への向き合い方を再認識した形だ。

「ふふふ………ん?」

 親愛なるマティアス・トーレス艦長の素晴らしさ、偉大さをこの場に限らぬ多くの者達に知らしめられるのは彼女にとって何より良い事であり、故にこそ上機嫌になっでいる所に入ったデータリンクによる知らせ。

「獲物を見つけましたか……。」

 それは先刻アリコーンを発ったSLUAVが目標たる深海棲艦を見つけ、攻撃を開始した事を示すものだった。

 

 

 ~~~~~

 

 

 15時30分

 アリューシャン列島西部 デラロフ諸島沖合

 アマッティグナック島 北方海岸

 

 

「クルナッ!……クルナッテッ…‼︎」

 いくら叫んで拒絶したところで、それが話を聞いてくれる訳ではないし、ましてや狙いから外してくれるわけでは無かった。

 数の面で圧倒的劣勢がありなからも、アリコーンを初めとする修羅のごとき戦いぶりを発揮する艦娘隊に対して完全に、主導権を握られた深海棲艦。そこからの逃亡を図る3隻の北方棲姫の命運はSLUAV8機によって風前の灯と化していた。

 北方棲姫とて的ではない。寧ろ深海棲艦の中では非常に手強い部類である筈の“姫”クラスに分類されている。1隻でも居れば十分脅威であるし、3隻も集中して存在していればその脅威度たるや言うに及ばずである。

 ウェポンベイ開放……露になる鼠色のミサイル───対艦専用では無い、汎用ミサイルであるが集中攻撃を受けて無事で済まされるものでは無い。

 発射───前衛の4機2発ずつ、計8発の同時攻撃。更に後衛の4機もやや角度を付けた体勢から1発ずつのミサイルをウェポンベイから放つ。全弾合わせて12発の波状攻撃である。

「ウワ……!」

 前段の8発の発射から着弾まで、十数秒と無い時間であったがその間に体勢をとった北方棲姫は凄まじい弾幕を展開していた。鼠色の海空をオレンジ色に染め上げんばかりの光弾の濁流はしかし、竜の様に弾幕の波間をねじ入って来るミサイルの前には無力だった。

 ドン!ドンッ…‼︎響いた着弾音は2回───

「ヒィ……!」

 1発ならば撃破される事は無かったであろう……だがその着弾は一発では無かった───同時弾着───多数のミサイルが僅かな間隔も置かずに弾着した事によってそれぞれ1度ずつしか弾着音が聞こえなかったのだ。

 煙に撒かれ姿を現した北方棲姫は殆ど撃破に近い状態にあった。大破、或いは中破───何れにせよ無事では無い。

 しかし残る4発……生き残った北方棲姫に目掛けるミサイルは何ら障害を受ける事もなく突き刺さる───筈であった。

「……⁉︎」

 覆い被さる白い影───親役である港湾棲姫が北方棲姫を庇ったのである。流石に港湾棲姫ともなれば4発のミサイルでは重度な損害を被ることはなかった。

「ニゲロッ……!」

「……ッ!」

 港湾棲姫が北方棲姫の背を押し飛ばし、距離を離させる。だが次の瞬間、ゴッ…!と空気を圧する何かが轟いた時、港湾棲姫は爆炎の光芒の中に消えた。

 灼熱を吐いて鼠色の空を突く様に抜ける機体───SACS隊のラファールM!

 SLUAVだけでは荷が重いと判断したアリコーンが残弾に余裕のあるSACS隊を数機向かわせたのだ。

 大量のミサイルの直撃を受けた港湾棲姫は破壊され、海中に没する。さらについでとばかりに、損傷のあった北方棲姫にも追い討ちのミサイルを放り込み、完全に破壊してしまう。

「ヤメロォッ……クルナァ…!」

 仲間と親役の深海棲艦の死を前に完全に腰が抜けてしまう。足がもつれ、転倒し海面に頭が浸かる。

 顔を上げ、視界を広げたとき、意思を持たぬ破壊の銛は彼女のすぐ至近にまで迫っていた。

 

 

 ~~~~~

 

 

 15時35分

 アリューシャン列島西部 デラロフ諸島沖合

 

 アマッティグナック島の反対側に延びる黒煙の数がいくつか増えた時、アリコーンはSLUAVとSACS隊のデータリンクによって北方棲姫の殲滅を知った。

「処理しましたか…。」

『目標の破壊を確認。北方棲姫は10年後この海域における大きな脅威だった───もう居ないがな。』

 既に多くの敵が深海棲艦の名に相応しい場所───つまり、海底───にその身を委ね、今や海上にその身を置いているのは当初と比べれば僅かでしかない。

 だがそれでも、先程のマティアスからの叱責にあった通り油断する事はないし、集中を切らすこともなかった。

『注意しろ!また敵の高速機だ……!』

「また……!」

 赤城が手に弓をかけ、迎撃機として烈風11型を繰り出そうとするが、それはアリコーンが制した。

「アレは私が叩きます……アカギさんのは、直援か攻撃支援に残しててください。」

「まぁ……貴女が言うのなら任せます。」

「では……!」

 指揮者のごとき美しい立ち振舞いからのVLS開放、噴煙と共に打ち上げられるミサイル………その一連の流れはまるで完成されたダンスを見せられている様だった。

 曲線を帯びた、芸術的な幾何学模様を空の一片に残したミサイルは10秒もせぬ内に見えない距離にまでその距離を離し、そしてその距離からでも見える火球を作り出す。

 2…3…命中ではない。だが明らかに敵の進路は妨害され、隙が出来る。

 そこに突け込む2機のラファールM───タイミングをずらされ発射されたミサイルは1発目こそ躱されたが、2発目は近接信管が作動しダメージを与え、3発目で命中し撃墜する。

『敵機の撃墜を確認!良くやってくれたな……。』

「いーえ、それほどても。」

「テートクー、ワタシも頑張ってるデース。」

『ははは、勿論だ。良くやってくれてる……赤城も、艦載機の子達もだ。』

「そんな……ありがとうございます。」

 一見良さげなやり取りだが、金剛と赤城に向けられた賛辞のあとに、先刻撤退した天龍が「どーせ俺はなんもやってねェ御荷物だよ』などと不貞腐れて提督が説得に四苦八苦するのはご愛敬……という事であろうか?

『貴様らいい加減n』

『それにしてもだアリコーン。深海棲艦……アイツらには“欲”が足りない。そうは思わんか?』

 もう横瀬の横槍を躱すのに馴れたのか、なかなか面白いタイミングで言葉を遮っている。

「欲……?」

 そして、そんな事は心底どうでも良いアリコーンにとってはマティアスの言葉にだけ興味を惹かれた。

『そうだ……殺される者の気持ちになってみろ…!“何故自分が殺されるのか”?───奪いたかった、虐げたかった焼きたかった、刻みたかった!』

 決壊した大河の如く溢れるマティアスの言葉とそれに連なる感情の濁流はその勢いが増すことはあっても減ずることはなかった。

 マティアスの“演説”は、たとえインカム越しに聞こえるものであっても、まるで目の前でそれを聞かされているのではと錯覚するほどの迫力があった。

『罰だった…因果だった、復讐だった!何かあるべきだ!───奴らにはそれがない……俺にはある。無論、お前達もだ!』

「……!」

『分かるか?アリコーン。』

「はい……!」

 マティアスの問い掛けを明瞭な返事で返したアリコーンに、或いは言いたい事を粗方言い切ったからか、それともその両方なのか、定かではないが満足げに『フン』鼻をならしたマティアスはそれ以降に言葉を重ねることはなかった。

 

 

「着艦始めっ───」

 ちちょうどその頃、赤城の艦載機が帰投する。

 英雄の凱旋……と言うほどの物ではないが、手空きの妖精さん達が甲板上に踊り出し、彼等は英雄を迎え入れるつもりで大いに手を振り回して声を上げる。

 ───だが、英雄はそれに足る容姿を持っているとは限らなかった───被弾し、傷付いて穴だらけになった機体も多く、また善戦虚しくついに帰らぬ機体も少なからず存在した。

 だからこそ、帰って来た機体の妖精さん達を手厚く出迎える。帰って来た搭乗員は何より大切なのだった。

 

『こちら後方補給群。天龍の合流を確認………損壊大なるも命には別状無し。これより応急修復───』

 ………同じ頃、大破した天龍が味方部隊と合流し、なんとか安全圏にまで達した事を知らされ、今更ながらに胸を撫で下ろす。

 黒煙が鼠色の空に溶け込み、濃灰色の景色がサマになってきた頃、敵の姿は粗方見えなくなり、今や海上にあるのは艦娘と、かつて深海棲艦だった醜い残骸と濃藍の液体だけだった。

『良くやった!この海域の深海棲艦海上戦力に十分な打撃を与えた……後段作戦の推移も良いものとなるだろう!』

「思いっきり食い尽くしてやりました……お駄賃は、爆弾と魚雷という事で。」

 被弾した艦載機を眺め、静かに赤城は言う。勝利の余韻より、今の彼女にとっては帰ってこれなかった搭乗員を憂う事が先決だったのかもしれない。

『本当に良くやってくれた。作戦終了、全艦帰投せよ……!作戦海域より撤退せよ───全員帰還したら作戦成功を宣言しよう。』

 作戦開始前に言った「全員帰還しなければ作戦は失敗と見なす」という言葉をこの状況にあっても未だに反故にしない良人の、真っ直ぐさと言うか実直さを苦笑する。

「フフフ、勿体ぶってるねテートク。」

『ハハハ───』

 

 

 

 

 

 

 ────ォォォォ

 

「?」

 あとは無事に帰るばかり、という時に、アリコーンの長大なソナーが何かを捉える。

 潜水艦とは違う───鯨?

 

 ────ゴォォォォ……!

 

 だが、僅かの間に彼女は気付いた──────違う!何かが近づいている!!

 伊201ではない……これは、潜水艦の常軌を逸した凄まじいスピード……!

 

「警戒!方位0-9-0、海中より何かが高速で接近!」「エ!?」「何が───」

 

 ゴロゴロゴロゴロ……!

 

 スクリュー音───!?

 魚雷───!

 

「アカギさんッ後ろ!!」

 

「え────」

 

 

 

 ドアアァ……ンッッ!!!

 

 

 上向きの滝………とでも形容すべき巨大な水柱が赤城の姿を完全に覆い隠した時、聞き覚えのある無線が混線した。

 

『赤城!被雷!?』

 

 

『よし、これで取り巻きが減った!やれ、“ナゲキ”!』『ヒャッホウ!!』




15000文字超えはハーメルン、なろう合わせても1話辺りで最多の文字数となってしまいました(笑)

時間掛かった割のボリュームにはなっていたでしょうか?感想、評価お持ちしております!
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