戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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お待たせしました~
イベントやら映画やらで長くなってしまい申し訳ありません……orz

Mimic
を聴きながらお読みください。


連号作戦Ⅱ(後)

 20XX年 9月26日 15時45分

 アリューシャン列島

 デラロフ諸島 沖合

 

『赤城大破っ!』

「……!」

 水柱が落ち切り姿を現した赤城の姿に、金剛は言葉を失った。

 大傾斜し、捲れ上がった飛行甲板までもが海水に洗われる状況となった赤城にこれ以上の戦闘続行能力が無いのは誰の目にも明らかだった。

 

 アリコーンですら、目を見張った───だがそれは、赤城の損害如何も多分に含まれてはいたが、彼女の興味は寧ろ正規空母たる赤城をただの一撃で大破にまで至らしめた魚雷の威力とその隠匿性にある。

 

『酸素魚雷だ……!』

 提督の絞り出した声は決して大きいものではなく、インカムが拾い伝えた音声もまた小さなものだったが、それは聞く者の脳裏に嵐でも起こした様な衝撃をもたらした。

 一方で、そうでない者も居る。

『失礼、酸素魚雷とは……?』

 アリコーンもマティアスも、酸素魚雷という物を知らなかったのだ。時間がある訳ではないために、提督が噛み砕いて説明した。

 つまりは、「強く、長く、見えない魚雷だ」と。間違った説明ではなかったし、寧ろ酸素魚雷の特徴を短い文言で違わず伝えていた。

「見えないというのは、厄介ですね……。」

 アリコーンにとって、強く、長いというのは大した問題ではなかった。だが酸素魚雷最大にして最悪の特徴と言って良い目立たないというのはアリコーンにとっても些か厄介であった───先程の魚雷を回避できたのはソナーで探知出来たからである───方位が分かっても距離が分からないのでは、対処が難しい………尤も、アリコーン以外は酸素魚雷の存在にすら気づくことは出来ないのだから、アリコーンのアドバンテージはいまだに存在するのであるが。

 

『接近する船艇あり!注意しろ!』

「……あの日和見(オポチュニズム)たちネ!」

「またか……!」

 あの敵船───数日前、天号作戦の折に現れた、所属不明の高速武装船艇!

 白波を蹴立てて猛然と爆進してくる武装船艇にはその図体以上の迫力と圧力を見るものに覚えさせた。

『交戦し、赤城の退避を援護!撤退は中止!

 

「ぐッ───気を付けてください……相手の魚雷の威力は本物です……!」

『航跡を確認できなかったのなら、やはり間違いなく酸素魚雷だ!』

「相手にすると、厄介な手品(マジック)デス!」

「……フンッ!」

 金剛や提督の話も片隅に、アリコーンがVLSを開放しミサイルを放つ。互い違いに交錯しながら接近する2隻の船艇に対して向かう炎の鏃、その数は4発。

 船艇から発せられる赤外線を捉えたミサイルのシーカーは目標追尾アルゴリズムに基づき敵の動きを、さながら獲物を見い出した猛禽の如くに追い迫る。

 ───だが、ミサイルシーカーの赤外線のベールに染まった視界が突然乱れ、4発とも目標を失探(ロスト)して、海中に突っ込んだ。

「なに……!?」

『敵のECM能力が向上しているようだな。警戒しろアリコーン、お前とて一筋縄で行かぬだろう。』

「全く狡い手を……!」

『だが悪い手ではない。お前にとっては不幸にも……な。』

 冗談めかした口調とは裏腹に、マティアスの言葉は余りに的を得ていて、正確だった。

 アリコーンのミサイルに対応する高速武装船艇の動きもまた正確だったのだ。実は高速武装船艇には指向性赤外線撹乱装置(IRジャマー)が新設されており、これによってミサイルの獰猛な電子の眼は目標たる敵船艇を見失ったのである。

 

『所属不明船に告ぐ!直ちに戦闘を停止し、撤退せよ!』

 

「……!?」「何!?」『横瀬准将!?あんた何をやっているんだ……!』『……。』

 

 唐突に通信回路を走った一本の無線が、それに関わる全ての者に混乱をもたらす事となった。

 今の無線通信の周波数帯は──────国連軍の有する秘匿回線。他者が知り得ていて良い筈のない機密事項である。それをなぜあの敵に?

(そういえば、確か……。)

 アリコーンは己の脳に刻まれている筈の記憶を喚び起こした。遡ること数日前───彼女の初陣となった天号作戦。その作戦の途上にあの武装船艇が現れたときもその去り際、我が方の無線と同じ周波数帯を使って罵声を浴びせてきていた。

 そして今回も、また────敵はこちらの動きを察知している?

(まさか……。)

 アリコーンはある可能性を考えた───それは、本来ならあり得ない───否、有ってはならない───であろうもの。通常であれば、横瀬准将の呼び掛けに敵が応じるはずもない。しかし、この敵は………。

 だが一方で、心のどこかで“そうであって欲しい”とすら思ってしまう自分が居ることに、彼女は気付いた。

 

『繰り返す!戦闘を中止し、撤退せよ。』

 

 その理由も知らぬがままに、彼女の考えた“可能性”は現実のものとなる──────

 

 

『横瀬准将が無線で敵に呼び掛けている!国連軍の回線だぞ……!』

「良いんデスか?アリコーンさんはもう、始めちゃってマスよ!?」

 

『……しくじったと思われたくない。怪物はここで仕留める。』

 

「応えた……⁉︎」「……!」

 やはり!───と、アリコーンが確信を得る瞬間はあっても、事態はそれを考える時間を与えなかった。此方の混乱を他所に敵は速射砲で絶えずこちらを攻撃してくる。

 アリコーンが弾着で生じる林立した水柱を潜る間にも、無線での応酬は続いた。

『くそっバカ共が!』

『バカって言うな!殺すぞ……!』

『チッ……兄妹(きょうだい)仲良く地獄へ堕ちてしまえ!』

「兄妹……?」

 

 確信が補強されてゆく途上、アリコーンはマティアスの言葉を受けた。

『アリコーン、まずは敵に集中せよ。考える時間は、そのあとでいくらでもある。』

「はい……!」

 ドン!ドン!ドン!轟音と共に林立する水柱を脱兎の如くに掻い潜り、その動きはアリコーンの恵まれた体躯と巨大な擬装からは想像だに出来ぬものであった。彼女の持つ原子力機関の大出力にモノを言わせ、快速を誇る高速武装船艇にも追い付いてゆく。そして──────

「撃ッ!」

 一閃───!稲光にも似た紫電の輝きが打ち出されるや、瞬き程の間も置かずして高速戦闘艇の土手っ腹をブチ抜いた。

 命中!……文句無しの直撃である──────だった筈が、敵は悠々と爆速で機動を続け、その攻撃が止むことは無かった。

「はァ⁉︎」

 さながらゲームで理不尽な死に方でもしたかのような叫声。

『砲弾が過貫通しているな。』

 アリコーンの主砲、レールガンの高過ぎる威力は結果として威力過多だったようで、極超音速の砲弾は軽量と高速化を狙って造られた薄い構造材を過剰に貫通し、炸薬の威力はおろかその運動エネルギーによって発揮されるはずの破壊も殆どもたらされぬがまま、ほぼ原型を保った状態で向こう側へと飛び出てしまっていた──────水平線のすぐ手前で、虚しく水柱を上げる砲撃……。

「私の主砲が、まさかこんな無様な弱点を晒すなんて……。」

『元来、軟目標を相手取る設計ではないからな。やむを得んことだ。それにお前、HEAS(対艦榴弾)を切らしているな?』

「……はい。」

 先までの戦闘の激しさゆえに、アリコーンの弾薬の多くが尽き掛けていた。その中でも先程マティアスが言っていたHEAS(対艦榴弾)は比較的軟目標の艦艇も狙えたが、それは地上攻撃にも有効であった。そうした便利な弾薬は優先的に消費され、今アリコーンの主砲レールガンに残されている弾薬は戦艦すら過剰に貫く対硬目標用の硬芯徹甲弾(APCR)だけだった。

主砲(レールガン)だけが私の華ではありません。必ず御期待通りの戦果を……!」

『そうか。頼もしい限りだがな、蛮勇を犯さぬ事だアリコーン。いいな?』

「はい……!」

 

 

 

 

 速射砲弾は荒れ狂う嵐のように飛来し、金剛の周囲で豪雨の如くに弾着の水柱を立てては崩れ去り、その度に海水が彼女のブラウン色の髪を濡らした。

 時折直撃する砲弾もあったが、少々の速射砲の被弾では彼女の装甲は容易に破られはしない。他の超ド級戦艦に劣るとはいえ、彼女も戦艦である。

「ファイアッ!」

 反撃の咆哮────放たれた36サンチ砲弾はしかし、縦横無尽に機動する敵高速武装船艇に命中する事はなく、塔のように屹立した水柱を形成して果てる。

「ミサイルが駄目でも、空からなら……!」

 ドォン!と空気を引き裂く黒い影が戦場の空に舞った。SACS隊は未だ空中にあって、その威力を保持したままだったのだ。敵の妨害能力が強化されているとは言え、それにも限度があろうというもの。空中からの波状攻撃を仕掛ければ、必ず綻びが出て来る筈だ──────しかし、その目論見は次の瞬間に打ち砕かれる事となった。

『気を付けろ!敵の高速機が複数戦域に接近している……!』

「ちッ!!」

 またか……!敵の高速機───恐らく先程と同じ砲撃の標的機───の能力は、野放しにするにはあまりにも危険で、それに伴って襲来する砲撃もまた凶悪そのものでありやはり無視することは出来ないものだった。しかも───それが複数だと……⁉︎

 彼女が艦載機による航空支援を諦める選択肢を取るのに、時間は掛からなかった。

「無人機とSACS隊に処理させます……!」

 攻撃姿勢を取っていた降下から一転。航空機群は機首を翻し向かったその先で、鼠色の空に消えた。そこで始まる明滅の連なり───それは航空機による戦闘の結果として被弾し、断末魔の炎に包まれた彼我の機体の何れかの最後の輝きだった。

 目視ではとても解る距離ではないが、データリンクによって戦況はアリコーンも知るところであった。SLUAVに損害はあるものの、敵の高速機の侵入は阻んでおり、向こう暫くは空の驚異は排除されたといえよう。

『深海棲艦が気になるか?怪物……!!』

 ズバァッ!と水柱が打ち上がり、速射砲弾の直撃をアリコーンの分厚い耐圧殻がけたたましく弾いた。

「……雑魚の処理に私の機体の手間を煩わせる必要は無いだけですよ。」

『減らず口を……その顔面叩き割ってやる!』

 40ノットを超えるであろう快速を誇る高速武装船艇の動きは精緻を極め、その小柄も相まってアリコーンでも補足は容易ではなかったが、大出力を誇る彼女自慢の溶融金属冷却型原子力機関にモノを言わせた機動力で敵の翻弄を躱し、CIWSによる反撃の連なりは明らかに敵の翻弄を阻止していた。

 そうした、最早戦闘機のドッグファイトにも似た戦いに、金剛もまた加わる。高速戦艦である彼女の発揮する30ノットの速力は高速武装船艇相手には見劣りするものの、(旧式でも)戦艦である彼女の武装と装甲は敵の蹂躙を許さず、果敢な砲撃戦を演じていた。

「後ろを取ったデース!2vs2ネ、追い込んでやりマース!」

『一対二さ!お嬢ちゃんは数に入ってなァい!』

「お、お嬢ちゃんッ……!?」

 “お嬢ちゃん”、と連中の1人が放ったその言葉の中には明らかに嘲弄の色を含んでいたし、金剛はそれを直ぐに悟った。そしてその瞬間、彼女の瞳が怨嗟に濁る。

 かつての高速戦艦金剛は、前戦争時に参戦した戦艦の中でも最古参級だった。艦娘という人型に落ち着いた状態でもそれは彼女の認知するところであった。しかも、艦娘もまた女性である。こと数字を問うものに関して女性を愚弄するというのは、まさしく神をも恐れぬ蛮行であったのだ。

「ブッ潰してやる……!」

『金剛っ……!落ち着け!』

 冷静さを失った者から戦場から消えていくというのは昔から決まっていることで、先程の話は金剛の激発を誘う謂わば挑発であるのは明確だった。そうはさせじと、彼女の良人たる提督は声を荒げ、金剛を宥めるのだ。

「コンゴウさん、ただ怒るだけでは“芸がない”。ここは冷徹に、冷静に叩きましょう。女性は、静かな怒りが最も美しく恐ろしい。」

 アリコーンも───宥めているのか、挑発に誘っているのか甚だ疑問だったが───金剛に声をかける。

「……ハァ……柄にもなく、すこし熱くなりすぎたデス。」

『そうだ、落ち着いていてくれよ。』

「YES!分かってマース!」

贔屓(ひいき)になるが、お前だけは絶対に喪いたくない。必ず戻って来てくれ。』

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 

 15時56分

 日本国 戦略機動打撃艦隊 

 

 某島鎮守府 

 艦娘寮兼司令部施設 地下1階

 統括作戦指揮室

 

 

「こんな状況で口説き文句とは、提督もなかなか大胆というか、無思慮というか……。」「貴様いい加減にしろよ。」

「あや、はは……。」

 マティアスの感心とも呆れとも取れぬ微妙な声───横瀬の言葉は聞かなかった事にした───に、曖昧な声色で答える提督。

 

『ヘーイテイトクー、そう言ってくれるのは嬉しいけど、時間と場所を弁えなヨ!』

 嫁艦(良人)の金剛にまでこう言われるのでは提督も立つ瀬がなかった。ただその一方で、金剛の言葉の端々に喜色が紛れ込んでいるのを聞き逃す面々ではなかった。(横瀬以外)

 

『コンゴウさん、そんなヘロヘロな顔をされていては、私も集中出来ないのですが……。』

『そっ!ssssそんな顔して無いデース!』

 いったいどんなに蕩けた顔をしているのか甚だ疑問のあるところだが、そんな悠長を許すほど状況は余裕を持たせない。

『ムッ………連中、仕掛けて来ますよコンゴウさん。』

『わ、わかってるデース……!』

 スクリーン上で繰り広げられる攻防戦にも変化があった。縦陣を組み進撃するアリコーンと金剛に対し、敵の高速武装船艇は二手に別れ、これを挟撃せんという構えだ。

「二人とも、気を付けろよ。」

 敵高速武装船艇の快速のみならず、その展開の素早さ、手際の良さはこれまでの戦闘経験から既に折り込み済みだ。最早この上に言葉を重ねる必要はなかった。

『無論です。』『了解デース!』

 直後、入り乱れる彼我を示す光点。一見不規律に見える敵の挙動は、その実高度に完成された連携機動であり、さながら基本的な空戦戦術の一つ、ロッテ戦法のごとき様相を呈していた。

 敵の片方がわざと艦娘の攻撃を受け、攻撃を受けてないフリーとなったもう片方が艦娘を攻撃をしている。

『わざと追わせて、もう片方が後ろを狙うつもりデス!』『えぇ、その様ですね……!』

 当然ながら、金剛とアリコーンもその狙いに気付いていた。しかも金剛に至っては、戦艦故の装甲があるのを良いことにアリコーンの背後に張り付き背中を守り、更に他よりも速度が劣ることを利用し敵高速武装船艇の機動を妨害していた。

 即興にしては良くできたコンビネーションであることは、モニター越しにでも十分に理解できる。

 しかし、それは敵も同じことで、そうした2人の連携を分断せんとしている。

 

『また被弾……!チッ……このままじゃ埒があかない!』

 戦艦である金剛は勿論、アリコーンにとっても敵の砲撃は掠り傷程度の物でしかないが、それでも被弾が続けば艦体にボディブローの様にダメージを蓄積させる。

『───テイトク、私に考えがあるデス!無線の周波数を変える許可を……!』

「何を言っている!ダm 』

「構わん!存分にやってくれ。」

『Thank Youネ、テイトク!───アリコーンさん!』

『───はい、聞いています。こうですね………───。』

 空電音──────彼女達が周波数を変え、こちらの通信帯域から外れる。

「“考え”とやらが、巧く行くと良いですが……。」

「我々は残念ながら、ここから口伝でサポートするか、彼女達を信じるしかできない。」

「……。」

「そして今は後者だけ。───信じるしかありますまい。」

 

 無線の周波数を変えた今となっては、此方から情報を伝えることも、或いは向こうの通信に答えることも出来ない。正しく、マティアスの言った通り信じる───あるいは祈る───しか、この場にいる人間には出来なかった。

 

 その間も彼我の戦闘は目まぐるしく行われている。モニター越しではあったが、 激しく機動する彼女達の戦模様は、当然というべきか、留まることを知らないかの様だった。

 それは光点と数値化された情報としてだけ表示された、ここより数百キロ離れた海域で繰り広げられている対決の様相。

 

『───……』

 再び、空電音──────

 

『───回線を戻したです……そんな訳で、OKデス?』

『良いアイデアでした、それでいきましょう。』

「───密談は終わったか?」

「はい……妙案でした。」

 あまりに自信に溢れた返答に、当事者ならずともその自信の一端を貰ったような気分に陥る。

「宜しい。ならば見事敵を粉砕し、無事な帰還を果たせ。」

 マティアスの言葉は、その文面こそ大きな意味を持たなかったが、その中に隠れた真意を聴き取れないアリコーンではなかった。

『無論です……!』

 

 その後も二人の陣形は縦陣であることに変わりは無かったが、アリコーンが先行し、その背後からずっと金剛が付いて行く状態になっていた。

 

 これが秘策……?

 

 そう疑問に思わないでもなかったが、恐らくは戦場より遠く離れた此処からでは想像し得ない何かしらの裏があるのだろうと、ここに詰める多くの人は思った。

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 16時05分

 アリューシャン列島

 デラロフ諸島 沖合

 

 

 金剛がただアリコーンの背後を陣取り、呆けて付いていっている訳では無いのは明白だった。装甲のある金剛が自らを壁となり攻撃を吸収し、その間隙を縫いアリコーンが反撃を行う体勢になっている。更に言えば金剛自信もその砲火力を敵船艇に向け発揮し、機動を妨害している。

 敵の持ち味であろうその快速も、金剛に速度を合わさざるを得ず、強制的に此方の先方に引き摺り込んでいた。

 

『ウザったい……お嬢ちゃんを殺ろうシンイ!邪魔だあいつ!』

『良いのか?』

『何れ通る道でしょ……!』

『───よし、仕掛けろ!』

 

「……?」

 突然に起きた敵の散開………最初こそそれを訝しげに睨んだアリコーンだったが、直ぐに敵の狙いが金剛へ移ったことを悟る───一方でそれは、アリコーンが敵の攻撃を気にすることなく反撃に転ずる事が可能であるのを示していた。

「アリコーンサン……!」

「分かってます……!」

 金剛の陰から現れた巨大な黒塊。その先から現れた薄緑色の兵装───CIWSの30ミリ機関砲───が火を噴き、無数の弾丸が数珠繋ぎに吐き出される。

 弧を描きながら薙ぐように展開された弾幕の壁は決定打にこそ欠けたが、確実に敵船艇の片割れを捉えた。

 バリバリバリッ……!被弾の明滅。高速武装船艇は紙吹雪のように破片を撒き散らせる。

『ぐうッ!被弾した!』

『チッ───調子に乗るなよ怪物……!』

 傾く艇体に舞う飛沫が降りかかり、大雨に降られたように全体を濡らす。反撃の咆哮が金剛の至近に弾着し、同じように金剛の擬装や肌に飛沫が飛んだ。

 

『───貴様ら、民間軍事会社の人間だな。だから国連軍にパイプがあった!』

『ふん、俺達を叩けたら教えてやるよ!』

 

 ……実はこのとき、提督は北を介して防衛省側に高速武装船艇を駆っている者達について探りを入れるよう仰いでいた──────その結果として得られた情報のひとつが、先の提督の言葉だった。

 

『答えん気か?大人しく答えれば身の安全は保証してやる。』

『答える義理などない。それに……貴様達の施しなど受けるか……!』『死んじまえ糞共!』

 

(……?)

 一連の話を聞いてアリコーンはふと思う。彼らは何故にこの私を執拗に付け狙い、金剛の巻き添えまで厭わないとするのか?

「何故私を狙う……?」

 不意に口を突いた言葉は無線を通し高速武装船艇の“彼ら”に聞き及んでいた。

『知りたいか怪物……!』『テメェらのせいで家族が死んだのさ!』

「はァ?」

 心底興味なさそうに───実際興味がない───呆れたような声を出したアリコーンに再び砲弾が集中した。

「わッ!」

『この野郎ぶっ殺してやる!』

 アリコーンの態度……それも“我関せず”感を全面に押し出した、彼らに向けた感情の一片も籠っていない「はァ?」に、彼らの怒りを買ったらしいのは明らかだった。

『追い詰めろ!地獄に堕とせ!』『潰してやる!』

 激しさを増す攻撃!鼠色の海原を水柱が耕し、荒れた波間を戦車のように進むアリコーンと金剛。その後背から迫る敵船艇は、彼らの声を聞いていなくとも鬼気迫るものだった。

『貴様らのせいでお袋は殺された!親父も……!私だって……!!』

『お前らとお前らに被れた奴の造る世界は信用出来ない!怪物、お前は特に……!だからここで殺す!』

『何の話だ!』

 

「コンゴウさん、先程仰っていた“アレ”をやりましょう。」

 

 殺されただの、殺すだの……彼らのする話に対して僅ほどの興味も感傷も持たなかったアリコーンはただ一言、金剛にそう伝えた。

その顔は、至って平静そのもの。

 

「エ!?今!?」

 

 一方でアリコーン程他者に無関心になれない金剛は彼らの話に何か感じるものがあり、話くらいは……と思っていた矢先にこれである。

 どうせ、彼らの砲撃では此方に致命打を与えることは不可能なのだ───という心的余裕も、彼女の中にあったかもしれない。

 

「何か問題でも?」

「……!」

 

 アリコーンは不思議そうな顔で聞き返し、金剛は驚き混じりの顔でその表情を見返した。

 それを見て金剛は確信する。彼女(アリコーン)は他者に無関心なのではない───ただ徹底して“敵”に冷酷だったのだ。持つべき憐愍も、軽蔑すらも持っていない───本当に他者に無関心であれば、金剛自信もアリコーンとコミュニケーション出来ているか怪しいと感じていた───。

 戦場に立つ者が本来なら持つべきそれを、アリコーンは何ら意識することなく、持ち合わせていただけなのだった。

「イエ、何でもないデース……やりましょう!」

 

『何をベラベラ駄弁っている!』『地獄に送ってやるから今の内に喋ってな!』

 

 雨のような速射砲の着弾に揺れる海面の、沸騰したように白く泡立つ波間の中で遂にアリコーンのソナーが“互いの”必殺のタイミングを聞く。

 

 

 ───ゴポポポ……───注水音。

 

 砲撃の着弾と、それに泡立つ海中の雑音(ノイズ)の中に聞こえたそれは………アリコーンという怪物のもう一つの居場所で最も効果を発揮しながらも、彼女がその手にすることを許されなかった唯一つの兵器─────

 

 

 ───ガコ……ン……───開口音。

 

 

 これは、魚雷──────間違いない!これこそが彼女の狙った瞬間───敵は魚雷の発射体勢に入っている。敵の高速武装船艇の動きが均一に揃っているのが何よりの証左だ。微妙にタイミングをズラしているように見えて、その実巧妙に連携している。

 そして2隻の敵が同時にアリコーンと金剛に向けてその船首を向けたとき、その瞬間はやってくる。

 

 

 ドッ……スン!

 

 

 発射───!それはまさに、敵高速武装船艇が完全に無防備になった瞬間。

 

「コンゴウさんッ!」

 

 アリコーンの叫声───その先には主砲全門を指向した金剛!既に射撃の体勢はとれている。

 

「Fire!!」

 

 ドドォンッ!!

 ────轟音!一斉射撃の咆哮は凄まじい衝撃波と共に砲煙を吐き出し、それよりも圧倒的に速く打ち出された重量600kg以上の砲弾……だがそれらは空しくも高速武装船艇の数十メートル手前で着弾。ズドン……!という低い音を立てて巨大な水柱を立てる。

 

『ハハハ!どこ狙ってんのカワイコちゃん!?』『残念だったな、焦って照準がずれたな……!』

 

 金剛はの一撃に対する嘲弄はあっても、そこに驚きや衝撃を伴った言葉が出ることは無かった。

 だがそんな彼らに対し、アリコーンは高らかに云う。

 

「いいえ───完璧です(・・・・)!』

 

『は───ウッ!?』『ナゲキ!』

 ドドドドン!!!!───高速武装船艇の片割れに、剣山のごとく突き上げる水柱の群れが出現し、高速を発揮するため軽量化の限りを尽くされた船体は軽々と持ち上がった。

 ───先程金剛が放ったのは実は徹甲弾だったのだ。

 一式徹甲弾はその先々代から続く水中弾効果を持った徹甲弾の系譜で、アリコーンは金剛にわざと敵の手前海面に着弾させることで水中弾効果を誘発し、その砲弾の遅延信管なることを利用して即席の魚雷───もしくは機雷───として活用したのである。

 そしてアリコーンの狙い通り、徹甲弾は水中弾効果を発揮し、敵の直下、その至近にまで忍び寄り爆発した───理想を言えばここで船底に直撃し轟沈してくれれば万々歳だった───のである。

 

『なにがッ!?───!』

「これで仕留める……!」

 

 ドウドウドウッ!───VLS解放からのミサイルの鮮やかな連続発射。

流れるような裁きの良さで放たれたミサイルの群れ。

『躱して───ハッ!?』

 そしてここに来てもはや自分に逃げ場が残されていない事を“ナゲキ”と呼ばれる女は知った。

 落下を始め傾いた船───その甲板に備えられている赤外線妨害装置は最早役に立たず。そして煙幕弾も、射出されるや、あらぬ場所でその威力を発揮している。

 

『ナゲキ!脱出しろ───!』

『くそ───兄貴ダメだこのままじゃ!』

 

「終われッ!!」

 

 直撃───!吸い込まれる様に突入したミサイルの弾体は次の瞬間には炸裂し、その威力を解放していた。瞬く間に焔と破片が船内を蹂躙し、小さな船体では到底抗いきれぬほどの容赦のない破壊が吹き荒れ、薄紙を破いてしまうように船艇の構造体を引き裂いた。

 

『きゃあっ……ウワ……!』

 

 

 複数のミサイルの直撃に耐え兼ねた船体は瞬く間に紅蓮の炎にその身を呑まれ、崩壊しながら水柱と共に落ちてゆく。

 爆轟によって脆くなっていた船体は、海面に叩きつけられるや真っ二つに破壊され、次の瞬間には弾薬類───それが魚雷なのか、砲弾なのかは定かではない───に誘爆したのか、艇首側に巨大な火柱が昇りその場にある凡そあらゆるモノを業火の内に呑み込み、それらが海面の上で燃え続けることはあってもその火の手が衰えることは無かった。

 

 

『ナゲキィィ──────ッッ!!!!!!』

 

 

 絶叫が木霊するなか、炎を背景に佇むアリコーンは風に靡く紫電の髪を押さえながら「煩い。」と呟いた。




願わくば次回は今月中に統合したいもの……

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