戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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本当は7月中に投稿したかったんですが添削やら加筆やらでこんな結果になってしまいました……ごめんちゃい!

Mimic
を聴きながらお読みください。


同じ船に乗らぬ者

 20XX年 9月26日 16時10分

 アリューシャン列島

 デラロフ諸島 沖合

 

 かつて船艇だった骸を呑み込む巨大な黒煙がキノコ雲を呈する前に、何より大切だった唯一の家族を喪った絶叫が無線という形で電子の荒野を駆け巡った。

 

『ちっっくしょオオオオ!やりやがったな!……この野郎やりやがった!!』

 

 男の叫びは、慟哭だった。無線を介して聞こえる悲痛なそれにはおよそ考えうる限りの怨嗟と憤怒の感情が込められていて、その声の主もまたそうした感情に身を委ねようとしているのは明らかだった。

 だがその一方で、その感情の向けられる最大の対象である紫電の髪を湛えた女性───アリコーン───は地獄の炎にも似た紅い眼を高速武装船艇に釘付けにしつつ、その眼には一端の感情も宿らせてはいなかった。それはまるで───今しがた自分の奪ったモノに、何ら興味がないかのような振る舞いにも見える。

 それどころか─────

 

 ───一体(・・)何を言っている(・・・・・・・)

 

 当のアリコーンはといえば、自らの敵手が何故こうも怒っているのか、全く考えが及んでいなかった。

 大体からして、こうして互いに敵手として相対している以上は当然のことながら身の危険もあると考えるべきで、その過程で鬼籍に送られるということも、当然考えられるべきである筈だ。

 それをあのようにキレ散らかしてくるというのは、アリコーンからすれば逆上以外の何物でもなかった。

 ───彼女は、敬愛するマティアス・トーレスに向かって何処か湿気のある感情を募らせたり、或いは自身の兵装で無様に破壊される敵に対する憐憫や、その弱敵なる事への嘲りはあっても、そこに同情を挟んでやるような心を彼女は持ち合わせていなかった。

 

「片方やったネ!あと1隻デース!」

 アリコーンがそうした無感動の内に高速武装船艇の片割れを眺めているのとは裏腹に、金剛は難敵を下した興奮をの内にあった。

 

『絶対殺してやるぞッ絶対!』

『敵は感情的になっているが、流されるな。それに残り1機ではあるが油断は禁物だ。』

「Yes!解ってマース!」

 

 ───とはいえ、金剛も金剛で残敵に同情するつもりは毛頭なかった。

 いくら相対する者が深海棲艦ではなく、本来彼女等が護るべき“ヒト”であったとしても、此方に砲門を向け挙げ句倒しに掛かっているのだから、そんな生温い情緒を挟んでやる猶予など必要ないのである。

 

「ファイアーッ!」

 金剛の主砲斉射!更にそれだけではなく、副砲や高角砲ですらも水平射撃により攻撃を加える。敵は1隻(独り)になった事で、その攻撃の密度や精度こそ散々だったが、かえって1隻(孤独)になった事で狙いが定まりにくくなった。

 しかも、先程までよりも遥かに容赦を知らぬ反撃の砲火を浴びせ、独り善がりな滅茶苦茶な機動を取り、寧ろ2隻(兄妹)の時よりも相手にし難といえる。

 

『奪いやがって!たった一人の……!!』

 ともすれば爆発しそうな───あるいは既にしている───怨嗟と憤りを隠そうともせず、高速武装船艇は攻撃を仕掛ける。

 攻撃は当然というべきか、アリコーンに集中した。

「……!」

 撃ち返すアリコーン───妨害され当たらないミサイル、過貫通する砲弾。高速武装船艇の攻撃も、命中こそすれどダメージは少なく、或いは命中しても跳弾として水柱を上げるに過ぎなかった。

 そして───そうした小競り合いの中であっても、彼女らとは別のところで動いていた戦局は決しようとしていた。

『───コチラSACS!テキノコウクウセンリョクヲゲキハ!』

「!」

 それは、高速武装船艇との戦闘の折に接近を探知した深海棲艦の高速戦闘機との結果を知らせるものだった──────ここより数十キロ以上を隔てた鼠色の雲海向こうで繰り広げれていた空の決戦の模様は、深海棲艦高速戦闘機の殲滅という形で終わっていた。

 ───数、練度の双方で勝るアリコーンの艦載機によって形成された空中の包囲網から、深海棲艦高速戦闘機は脱するはおろか一矢報いる事すら叶わず、1機、また1機と数を減らしていったのである。

「さぁ、お仲間の深海棲艦ももういませんよ。じきに私の艦載機も戻ってくる───今すぐ降伏しろ!」

 語尾を強め、命令にも似た口調で降伏を促すアリコーンに対し、先程まで“シンイ”と呼ぶ相棒とも言える存在が居た男は怒鳴った。

深海棲艦(奴ら)が仲間だと!?笑わせるな……あんなものお前達と何も変わらない!貴様らのように、利用していただけだ……!!』

「何……?」

 利用した───?私たちのように?

『だから殺す!お前らも深海棲艦共も殺してやる!そうだ殺す……はッ!ハハハハハハ!殺してやる!!』

 イカれたかのか?……狂気か、或いはこれが(・・・)正気なのか────それを判断する術をアリコーンは持たなかったし、やはり興味もなかった。

「完全に頭に来てマス……。」

 

 ハァ!ハァ……!ハァ……ッ!!通信越しのノイズを孕んだ激しい息遣いの一つ一つに烈々たる逆上の念を込めた男は、その感情の濁流にまかせ、練綿と言葉を吐き出す。

 

『お前達が救世主だと……!?』

『俺達だって救世主に(そう)なろうとした!!』

『アリコーン、迷うな───俺たちは、もっと酷い海を潜ってきた。』

「迷いなど……最初からありません!」

 マティアスの言葉に触発され、その事実を証明するように、アリコーンの紫電の一閃が敵の船体を貫く。しかし貫ぬいただけで、相変わらず被害は過小だ。

「むゥ……!」

 眉を潜め唸るアリコーン─────そんな彼女に金剛が告げる。

「“カヘイ”は一撃に賭けるしかない───近いうちに必ず仕掛けて来るデス。」

「カヘイ……?」

「“数に劣る兵”という意味デス。」

「あぁ……。」

 寡兵(カヘイ)という単語そのものは知らない彼女だったが、それの意味するところならば彼女にも大いに思い当たる節があった。

 

 …………かつて、敵国であったオーシアはおろかエルジアにも反旗を翻し、世界の救済のために単身オーレッドへの核砲弾発射を企てた彼女とその艦長マティアス・トーレスは、確かにその寡兵(カヘイ)であったし、1000万人の救済の為に核砲弾を撃ち込む、というのは金剛の言った「一撃に賭ける」と似通うものがあるかもしれない。

 

 ───自分も、敵と同じような経験をしている?

 敵の気持ちになって行動を練るというのは、戦術戦略双方にとって基礎的なことだった。

 

(───殺されるものの気持ちになって考えてみろ───!)

 

 以前にも、似たような事をマティアスが言っていた事をアリコーンは反芻する。

 ───もし自分が敵の立場であれば。寡性となった戦局を挽回するためにも、早期に片方の敵を叩くことを模索するだろう。

 理想としては、敵が必殺の一撃に賭けてくる前に、此方から攻勢を仕掛け敵を撃破してしまうのが望ましい。

「カウンターパンチですよ。」

「エ?」

「独り言です……コンゴウさん!さっきのをもう一度やりましょう!」

「Yes!任せるデース!」

 適切な水中弾効果を得るには、敵の動きを単調にする必要があるのはアリコーンも知っている。

 今度はアリコーンが囮となり、金剛の主砲発射のタイミングを引き出すのだ。

 

「さァ!私が相手をしてやりましょう……!」

『そうでなくても殺してやるよ!!』

 

 互いに高速を発揮する手合い。等身大のアリコーンと比して大柄な高速武装船艇の対決、その様はまるで五条の大橋における弁慶と牛若丸の決闘を思わせる。

 その実態は、アリコーンと比べれば弁慶のごとき図体を持つ高速武装船艇の火力と防護力はアリコーンに及ぶべくもなく、その速力とミサイル欺瞞性を駆使し立ち回り、反対に船艇と比べて牛若丸の様に小さいアリコーンは、その純粋に高い火力にものを言わせ高速武装船艇を追い詰めていた。

 

「そこッ……!」

 数珠繋ぎに投げ掛けられた光弾の束!水平線を薙ぐ様にして撃ち出されるCIWSの30ミリ機関砲弾は、もとより全ての命中など期してはいない。

 しかし広範に渡って撃たれた弾丸は、必ずどれかが命中する様にして放たれている。高速武装船艇にこれらを避ける術はなく、被弾を繰り返した。その一方で速射砲の反撃を食らったアリコーンのCIWSの1基が、遂に力尽き破壊される。

「チィッ!」

 彼女のCIWSが破壊されたのはこれが最初ではない。すでに数基のCIWSを破壊されている。

 ──────焦りは、彼女にもあったのだ。敵がそうであるように、此方も少しずつではあったが攻撃の手を削られている。

 しかし、こうした戦いの中でもアリコーンは明らかに敵に対して優位にあった。敵船体の腹にはすでに多くの孔が穿かれており、そこから大量の海水を飲み込んでいた。

 自慢の機動力も封殺されつつあったのだ。

 

『解るぞナゲキ……お前が一緒に居ることが!』

 

 追い詰められ、極限状態になった敵は、幻聴か或いは幻覚でも見ているのかもしれない。そんなことまで(のたま)い始める────だからとて、油断や隙を見せるわけではない。“窮鼠猫を噛む”という諺がここにはあるという……アリコーンの焔の眼光は鋭く敵を睨め付ける。

 

『行くぞ!力を貸してくれ!』

 

 ドン!ドン!……敵は艇首を向け、速射砲を連射した。

「また芸のない……!」

 何度も観た光景!敵弾を躱し、或いは被弾しても良いように角度を付け───

 

 バカァンッッ!!

 

「ウッ!?」

 

 想像だにしていなかった激痛がアリコーンの右腕を襲った。

 迸る紅。

 微かな煙を上げるアリコーンの右側副船体には針で突いたような孔が───

『ガイカクカンツウサレタッ!』

「バカな……!」

 

 流れに、あるべきではなかった変化が訪れた。

 

 

 ~~~~~

 

 

 同 16時20分

 

 

「アリコーンさん!?」

 艦娘が被弾に揺らぐことは珍しくない。だがこれまで、鬼神のごとき強さを発揮していたアリコーンが“そう”なることに対しては、金剛と言えども驚きを隠せなかった。

 

『一人じゃ勝てん……だが、お前がいれば!』

 

 ドンドン!ドンドン!………速射砲の乱射を、アリコーンは簡単にいなす事ができなくなっていた。

 

『アリコーン、無事か!?』

装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)です……!だから傾けても意味がなかった!」

 マティアスも僅かながらも動揺を露にしている。

 ここに来て未だ奥の手を隠し持っていたのか!……アリコーンの額に汗が滲む。それは狡猾と同時に手腕家である敵に対する純粋な驚愕の為せる業だった。

 だが──────好機でもあった。

「コンゴウさん、奴が私を狙っている内に……!」

「Yes!解ってるデース!」

 敵がアリコーンを遮二無二追撃している隙を突き、金剛が致命打へと至る一撃を加えてやるのだ。

 ダンスのステップを思わせる軽快さを見せつけながら距離を保とうとするアリコーンに、高速武装船艇は大蛇のような航跡波(ウェーキ)を残しながら蛇行し追い縋ろうとする。

 ───そして、その間にも敵の攻撃はその精度と苛烈さを増していた。徹甲弾と榴弾を織り混ぜてランダムに攻撃していて、超音速の砲弾の見分けなど付こう筈もないアリコーンは敵弾を全て躱すしか無かった。

 しかし、五月雨式に撃ち込まれる砲弾を全て躱す事は不可能で、此処彼処に被弾した榴弾が武装を損壊し、徹甲弾が艤装を穿ちアリコーン自身をも傷つける。

 

 バカァン!

「……ぐうっ!」

 アリコーンの艤装にオレンジの閃光と同じ色の火花が散った。何度目かの被弾───それはアリコーンにとって避けたいものであった筈だ。

『CIWSガスベテヤラレタ!』

 アリコーンの艤装から昇る煙───それらは全て、かつては彼女の自慢の武装だったものだ。

 

『追い詰めたぞ怪物ッ───!』

 

 ───ゴポポポ……。

 

「……!」

 ───注水音───!

 

「コンゴウさんっ───!」

「任せてくだサーイ!」

 敵魚雷発時は動きが単調になる。直線運動は手練れの見越し射撃の前では絶好の的だった。

 ドガァン!

 36サンチ砲4基8門の咆哮───砲弾は赤熱化し、鉛色の景色を切り裂く紅い剣として敵の(もと)まで迫る───!

 

 

 

 ───だが敵は、冷静ではなくても愚かではなかった。

 

『二度も掛かるか!馬鹿め!!』

 

 ド敵船体が大きく進路を変えた。ドバァっと急激な制動は津波にも似た大波を前方に繰り出し、波間を貫いて金剛の砲弾は着弾した───敵は、此方の攻撃を読んでいた!!

 

『邪魔だッ!』

 

「!」

 敵は金剛に向け徹甲弾を乱射した。それだけなら問題はなかったが、敵の砲弾はAPFSDPという貫徹だけなら一級の能力を持つ砲弾だった。金剛の主砲防盾254ミリを容易にぶち抜き、内部構造を破壊。主砲はその能力を損失してしまった。

「Shit!これじゃあ……!」

 装甲化されていない副砲群も被弾し、万全の能力を発揮できない。

 

『終わりだ!怪物ッッ!!』

 

 ドス……ドス…ン!

 

 魚雷を撃たれた───それも、時間差を置いて!

 

 相手は酸素魚雷といい、航跡が見えない!

 どの進路なら避けられる!?一撃でも食らえば大損害は必至───はたして艦載機が到達するまでもつか?

 先日、天龍達がしたように跳んで躱す事は───だがその考えは、その瞬間に飛んできた砲弾に却下される。敵弾に無防備に身を晒し、更なる被弾の危険が……最悪蜂の巣にされる───

 

 

 ゴォォォ………!

 

 迫る魚雷───

 時間が………無い!

 纏まらぬ思考───

 

「ぐうっ!」

 

 一か八か、それともヤケクソか制動を掛けたアリコーン。その瞬間、彼女の身体は真下から意思を持つように現れた白濁に呑まれ、白濁は巨大な水柱としてそそり立った。

 

 直撃───!?

 

「アリコーンさんッ!」

『アリコーン……!』

 

 水柱が落ち切った時───そこにアリコーンの姿はなく、荒立った海面が泡立っているだけだった。

 

『アリコーン‼︎くそ………!』 『……!』

 提督が苦渋を滲ませた声を漏らす。マティアスも、言葉こそ発してはいなかったが、通信機越しにも絶句にも似た張り詰めた空気を感じ取る事はできた…………考えうる限り最悪の結末だった。

 

『仇は取ったぞ……ナゲキ……!』

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 

 16時39分

 日本国 戦略機動打撃艦隊 

 

 某島鎮守府 

 艦娘寮兼司令部施設 地下1階

 統括作戦指揮室

 

 

「アリコーンに応急修理要員(ダメコン妖精)は……⁉︎」

「───今作戦において、ダメコンは誰にも搭載していないだろう。」

「………!」

 提督の懇願にも似た言葉を切り捨てるように、軽く、なんら事態を重く受け止めていないような口調でホワードは言った。提督は絶句し、他の多くの者もホワードの態度に忌避感を覚えざるを得なかった。

「提督、作戦目標自体は達成している。金剛改ニに撤退を指示しろ。それと……トーレス少佐。彼女は、残念だったな。」

「………。」

 机に腕をつき、前のめった姿勢のまま、言葉をかけられた主───マティアス・トーレスは首だけをホワードに向けた。そこに一瞥の感情も含まれておらず、そして彼がホワードから目を離すその瞬間まで、それが含まれることは無かった。

「准将……!彼は───」

「君は命令を伝えろ。それ以外は不要だ。」

 提督はマティアスの心情を慮り、言葉を慎むように言おうとしたが、ホワードに遮られた。一方で彼はマティアスに歩み寄り、片腕を彼の肩に置いて話しかけた。

「アリコーンの活躍は見事だ。だが沈んだ艦娘は戻って来ない……君も」

「准将殿、それは──────」

 今度はホワードが言葉を遮られる番だった。肩に置かれたホワードの手を払いのけ、すっくと直立しホワードへ向き直る。

「なんだ?」

 ホワードの疑問の言葉に、彼の顔に一番似合う不敵な笑いを浮かべ出しながら彼は答えた。

「───時期尚早というものだ。」

「何を───」

 マティアスの真意を図りかね、言葉を重ねようとしたホワード───否、この場にいる全員───は、そのマティアスの言葉に応える様に通信回路を伝ってきた声を聴かされる。

 

 

 

 

『───その通りです。』

 

 

 

 

「「「──────⁉︎⁉︎」」」『………エ⁉︎』『バカな───⁉︎』

 

「見事だったぞアリコーン(・・・・・)……!危うく俺も騙されかけた。」

 驚愕の極致に葬られた室内の中で、マティアス・トーレスただ1人が、その声の主の言葉を真っ直ぐに受けることができていた。

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 16時42分

 アリューシャン列島

 デラロフ諸島 沖合

 

 

『魚雷は命中した筈……‼︎』

 男───ナゲキの驚きは尤もだったし、或いはそれはほとんど全員の共通認識だっであろう。魚雷の爆発は確かに発生し、それに間違いなくアリコーンは呑まれ、そして現に海上から姿を消しているでは無いか!

 いったい何処に───⁉︎

『おバカさんですね……私が一体どういう種類の艦なのか、知らぬわけでは無いでしょうに。』

 艦娘だろうが艦艇だろうが、一度海中に没して仕舞えば終わりだ。しかしこんな海原の何処に身を隠す場所があろうと言うのか?

 

『何を言ってやがる……今度こそぶっ殺してやるから出てこい!』

「───では。」

 

 鈍い光沢を纏い、重厚長大な暗色を持ったそれはなんと海中から現れた(・・・・・・・・)。アリコーンは水飛沫のドレスを舞い散らし、さながら舞踊手の様な一挙手一投足を保ち勇躍海上へと“登場”した──────それも、敵高速武装船艇の真後ろに‼︎

『バ』

 “バカな”と言う言葉を紡ぐ隙さえ彼女は与えなかった。瞬時にして彼女の船体から展開されたのは、必殺の兵装……レールガン!

「そこです!」

 ドンドンドンドンドンッ‼︎

 紫電の閃光が高速武装船艇の、文字通り艇尾から艇首までを一直線に打ち貫き通し、それは1発ではなく幾度にも渡って繰り返された。軽量過ぎた船体は砲弾の過貫通をその全長分以上に誘ったのだ。

『ウオオオオッッ‼︎』

 ズズ……ゥンッ!

 ナゲキは絶叫し、船体もまた構造の破壊音という形で絶叫する。弾薬庫かそれとも燃料に引火したのか、穴という穴から黒煙が上がり始めていた。更には炎の手が其処彼処から上がり始め、最期の瞬間は時間の問題となっていた。

 

『ハッ…ハハハ………やっぱりだ…俺たちはこんな死に方しか出来ない……。』

 乾いた嗤いの中で男は何かに憑かれた様な抑揚のない声で喋り始めた。

『だがな怪物……!お前達が作る世界より地獄の方がマシだ───俺達はそっちへ逝く……!』

『不明船に告ぐ、直ちに脱出せよ。』

 提督の通信、それは戦う術を失った相手への降伏勧告に等しかった。それは艦娘が戦った相手に対して始めて発せられるもので、しかも脱出出来たからといって、それをアリコーン達に用意に任せていいのか……と言う逡巡があったかもしれないが、それよりも大前提として“軍人”としてこれ以上の継戦はあり得なかった。

『ハッハッハァッ……!うぐぉォォオォォッ!』

 しかし、相手にその気が無いのは明らかだった……通信越しにも燃え盛る船内の火の手が、その主人のごく至近にまで迫っている事を解らせた。

『脱出するんだ!』

『先に逝ったアイツを追いかけ』

 ドガァァンッ!!!!

 ───提督の再度の呼びかけに、男は自身と船体の断末魔という形で答えた。艇首の残存していた酸素魚雷から漏れた高濃度酸素に火の手が周り引火。合計で1トンを超す炸薬の爆発に虫に喰われた様に孔の空いた船体が抗い切れる訳がなく、殆ど爆発威力そのままに船体を四方八方に引き裂き、一帯を紅蓮の炎と爆煙の内に包み込んだ。

 

『此方から敵の信号が消えた。状況からみて爆沈と思われる。』

 

『───ああ……問題は排除された。』

 

「……様ありませんね。」

 口でそうは言ってみても、彼女の身体は自然と敬礼をしていた。それはもしかしたら───その成り行きはどうあれ───敬意に値する技量を持った好敵手と相対した海軍軍人の本能だったのかもしれない。

「アリコーンさん。」

「おっと…これは───」

 当のアリコーンはといえば、金剛に言われてようやく気付いていた。言い訳紛いの事を言おうとした時、耳をつんざく轟音が雲海を隔てて現れた───アリコーンにとっては、助け船ならぬ助け戦闘機だったかもしれない。

 とはいえ、愚痴の一つも溢さずにはいられなかった。

「まったく、少し遅いですよ。」

『オモッタヨリセンジョウカラヒキハナサレテイマシタ…。』『モウシワケナイ。』

 SLUAVとSACS隊のラファールMがアリコーン達の上空を通過する。鼠色の空を幾何学模様の白線が彩り、勝者の凱旋を祝った───否、彼らもまた凱旋のひとつだった。

 

「───敵航空機の殲滅は成し遂げてますから、お咎め無しという事で良いですかね………進路を合わせますから、着艦なさい。」

『リョウカイ!』

 追い風に合わせ変進するアリコーン───偶然にも、曇天が晴れ、陽光が彼女を照らす。

「ワァ……!」

 それはさながら、陽光の照らし出したレッドカーペットだった。凱旋者は、悠々と光の絨毯を闊歩する。その姿には一種の美しさと見るものを圧倒する幻想さがあった。

 

『───分かった、受け取りを行う。すまないが少し席を外す。』

『コノチカラコソ,ワレワレヲシンノショウリヘミチビクモノトカクシンシテオリマス。』

『さぁ……そうだといいがな。』




アリコーンはいかにして助かったのか?一応次話で明かしますが、皆さんも考察してみてくださいませ(露骨な感想誘導)。

感想、高評価お待ちしております!
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