戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》 作:お猿プロダクション
間話 2
20XX年 9月29日 午後
日本国 戦略機動打撃艦隊
某島鎮守府
「……。」
次の大規模作戦に備えたブリーフィングを終えた伊201ことフオイは暇を持てあましていた。
出撃準備はあるにはあったが、潜水艦は準備にかかる時間が少ない。フオイは艤装を持ったままの出撃待機時間というのがどうにも億劫で好きでなかった。そんな彼女がすることは出撃ギリギリまで時間を潰す事なのだが、今次の作戦はどうやら皆の気合いの入り方が違うように思えた。無論、常日頃から手を抜いているわけではないだろうが、一回り二回りもピリついている気がした。
つまるところ、暇を潰す相手や場所がなかったのである。
(分かっちゃいるがな~~。)
そうした中で、同じような空気を纏った紫電の髪色を持つ長身の女性の姿を見かけた。
「……あ!」
「あら。」
フオイが“姐さん”と呼び慕うアリコーンだ。
「姐さん、どうしたんスか?」
「多分、貴女と同じよ。」
アリコーンは彼女の敬愛するマティアス・トーレスが次期作戦の準備と作戦計画に掛かって暇がないとのことだった。
マティアスと共に居るのが生き甲斐────と言っても凡そ過言ではないアリコーンにとってみれば、今は非常に時間を持て余している時だったのである。
そのアリコーンが普段持っていないモノを持っているのをフオイは気づいた。
「姐さん、それは……?」
「あぁ、この子?」
妖精さんの類いである事はフオイも理解している。だが、それは彼女の余り見慣れない妖精さんだった。如何に艦娘とはいえ、全ての妖精さんの姿形を網羅しているわけではない。
「提督さんが皆さんに配っていたのよ。私は大丈夫だから、と断ったのだけど、“お守りみたいな物だから持っておいてくれ”って、ね。」
正直、艦長以外の方からの頂き物って気が乗らないのだけど……とアリコーンは付け加えた。
「フオイは頂いてないのかしら?」
「アタシは貰わなかったっス。」
「そう……なら、この子貴女にあげるわ。」
「エッ!?」
驚いたのはフオイより妖精さんの方だった。わたわた、と手足を降り回しダメだと訴えるが、そんな可愛く喚いたところでアリコーンの気に何ら影響を及ぼせる訳がなかった。
「はい、どうぞ。」
「あ、あざます……。」
ヒョイと摘ままれ呆気なくフオイの手にして渡った妖精さんは、やはり暫くはわたわた、としていたものの、直ぐに諦めたようにフオイの掌でふて寝した。前髪が両脇に垂れ、白いハチマキが目立つ。
「ホントに貰っちゃって良いんスか?」
「淑女に二言はないわ。」
ヒラヒラと手を扇ぐアリコーン。
「そうだ……貴女も暇なのよね、フオイ?」
「エ?えぇぇうす、暇っス。」
「ならお茶でも如何かしら?作法は私が教えてあげるわ。」
どうせ暇なら、出撃まで気分転換がてら軽く腹にいれておこう、というアリコーンの配意だった。これには単純に彼女の暇潰しも兼ねている。
その後、フラフラっと紅茶の香りに誘われてきた金剛とそれに着いてきた榛名が加わったので、フオイは出撃まで退屈しない時間を過ごすことができた。
~~~~~
同 夕刻
某島鎮守府 陸上基地飛行場付近
このとき、この飛行場では次の大規模作戦に備えとして数多くの機体がその姿を露にし、飛行場狭しとばかりに機首を連ねていた。陸上攻撃機を始めとして、戦闘機、偵察機、更にこの飛行場には存在しないが、演習場近くの水上機基地にも多数の飛行艇が犇めいている。
そして、そのなかでも一際目立つ見慣れない銀色の巨体がその翼を休めているのは多くの目を引いた。
そんな飛行場を廻る景色を一望できる小高い丘に足を運んだ男も、その一人だった。
傾いた陽光が男の歩む先にポッカリと穴の空けたような底の見えない黒い影を作り出す。それがかえって、男には今後に起きるかもしれない不幸の予兆であるようにも思えてしまう。
そんな気を紛らわすべく男が頼もしい銀翼を一瞥し、目を離すと、丘の頂に人影か見えた。その先客は男にとって自らに用事のある人物であることは容易に想像が付く。
「───やはり、目立ちますな。」
「おう、来たか提督殿。」
先客に話しかけた男───提督───は、先客の隣に立った。
「また面倒なモノを引っ張ってきたな。多少なりとも前任機よりマシとは言え、アレは骨がおれるぞ。」
「整備長には腕がなる代物では?」
先客とはこの飛行場に駐留する機体の整備を受け持つ整備長だった。実は提督より少し年上なだけで年齢も近く、お互いに気の置けない仲にある。
「バカを言うな。誰が好き好んで大型4発機の整備なんか買って出るものか。」
「貴方ならやりきってくれると確信しています。」
「無遠慮だな………あと何機だ。」
「アレを含めて、4機。」
整備長の問いに、提督は指を4本立てて答えた。それに、整備長は訝しげに首を傾げる。
「4機?随分少ないな。あのクラスの機体の定数は9機だった筈だが……?」
基地航空隊の編成は、基本的に3機からなる小隊6個で計18機の1個飛行中隊を編成し、それを集めた4個中隊で72機からなる1個飛行隊を編成している。但し4発機の様な超大規模な機体である場合は整備や出撃時間の関係上、1個飛行中隊の規模は9機に半減される──────のだが、あの4発機はたった4機と言う。中隊定数の半分にも満たない機体を一体何に使うと言うのか?
「米国の新型機でもないな。どうする機だ?」
「アレも新型機でね……数がないんですよ。その4機で全部。仕様書はすぐ届きます。」
「やはり面倒ごとじゃねぇか……。」
ポリポリと頭を掻きながら悪態をつく整備長。
「腹になんか抱えてるしよ。なんだ?あれ。」
「有り体に言えば、秘密兵器……ですかね。」
「秘密兵器ねぇ……。」
そう言って巨人機を見やる整備長。彼の目には、機体の外見に別段変わったものは見受けられなかったが──────機体に懸架されているものには、彼は見覚えが無かった。彼は顎をしゃくる。
「
一見、魚雷のように見えるそれは明らかに航空魚雷としては巨大で、機体の爆弾倉に入りきらないほどだ。極めつけは、
スクリュー状のプロペラが機首方向に備え付けられており、その事からも魚雷の類いではないのは明らかだった。
「そんなところです。」
夕焼けに照らされた銀翼は黄金に似た輝きを伴っていたが、水平線にその顔を埋め始めた陽は赤みのある色味を帯び始め、銀翼は炎の様な輝きを呈する。
それが、濃緑色が表面の大半の面積を占める機体が大いこの飛行場で、一際目立つ。
そこに、陽光の照りを受けた新たな炎の輝きが大馬力レシプロエンジンの轟音を伴って飛行場へアプローチを開始した。
「2機目か?遅いな。」
「日没までには揃います。」
「そうか───しかし、何の因果かね。」
整備長は腰に手を当てそう呟いた。
「何がです?」
「アレだよ……昔作られ、でも結局間に合わなかった物が、一応は間に合ってここに居るってのは。しかもそれが、俺達の秘密兵器なんだろう?」
「そうですな────でも、“それ”は今は
嘗て戦いに挑み沈んだ艦や、その為に造られたにも関わらず、その真価を発揮する機会を永遠に奪われる事となった艦の魂を身に宿した艦娘という存在───提督の言う“それ”に彼女達は当てはまった。
彼女達の奮戦は、それこそ歴史に記されるべき英雄的活躍ぶりだ───まさに、“生前”の鬱憤を晴らさんばかりの───。
「そうだな……期待に添えれるよう、最善は尽くそう。」
「お願いします。」
握手を交わし、改めて転じた目線の先は丘から一望する飛行場の中で一際陽光に燃ゆる様な輝きを放つ銀翼の巨体────。
それこそは嘗ての大戦時に、強力な矛たれと造られ、だが度重なる不幸の果てに遂に日の目を見ることの無かった未完の巨人─────G8N。
その名は─────────連山。
次回から遂にDLC3に当たる第Ⅲ章となります!
今までは新章と同時に「予告」も更新しておりましたが、流石にお待たせし過ぎかと思いますので「予告」新章も同時更新とします!皆様是非閲覧下さい!