戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》 作:お猿プロダクション
この辺から話の進み方が複雑(執筆者視点)になってしまって、時間が掛かってしまいました……
20XX年
9月30日
17時53分
北大平洋沖合
「殲滅………!?」
インカムを通して伝えられた衝撃は瞬く間に伝搬し、そしてその衝撃を受け止めるにはかなりの時を有するだろう事は、ここに居る誰であろうとも分かった。
先刻、主力艦隊の戦域参入に先立ち、ソノブイ・バリアを形成しに出撃した基地航空隊4個中隊44機が極めて優勢な敵機の襲撃を受け、損傷し先に戦域を離脱した4機を残して殲滅された事を、彼女達は知ったのである。
もはや戦力として加算されない事は勿論、部隊再編すら不可能であろう。
続いて入ってきたマティアス・トーレスの話によれば、敵は例の高速戦闘機───誤解を恐れず言えば、“深海棲艦のアリコーン”の艦載機───の襲撃の公算大、という。
視程外の遥か遠くから目標を捜査できる強力な電探と、やはり視程外の長大な射程をもつ攻撃手段───たしか、ミサイルと言ったか───に対抗出来る航空機は、今の彼女達には無かった。
「とうの“ユニコーン”と対面する前から、
赤城が弓矢を握り締め、呟いた。
“深海棲艦のアリコーン”は、今回の作戦では“ユニコーン”と呼称される。そのユニコーンの艦載機の出現は作戦前の段階から十分に指摘され、そして、その為の対策も講じられてきた筈だった。それが………まさか前段作戦の時点で既に綻び始めているとは!
基地航空隊の作戦遂行が完了した事後の出来事であったのが───誰もがそんな言葉を使いたくはなかったが───不幸中の幸い、としか言えなかった。
『全艦、間も無く作戦海域に到達する。
作戦海域と海自護衛艦との合流点は同一箇所に設定されており、主力艦隊は護衛艦との合流を持って突入する事になっている。その護衛艦を護衛するのも、彼女達の任務の一つとなっていた。
「10時方向、艦影視認!数4!」
壁紙のように一面に染まった夕焼けの背景を、くり貫いた影絵にも似た黒々とした輪郭が水平線の上に存在した。それは彼女達の魂がかつて依り代としていた、鋼鉄の城が有する楼閣とは似つかぬ無機的な形状をしている。
それこそは、佐世保を起ち、遠路はるばる我等の切り札である
「第二護衛隊旗艦、[あさひ]より入電……『我等全心身を以て任務の完遂を目指さん。その間脆弱なる我が隊の護衛を勇名武運なる貴艦らに期待せんとす。』です。」
「……返電。『貴艦らの参入を歓迎す。我、本作戦の完遂に貴艦らの助力を必要するものなり。この上は共に戦列に当たり共に敵軍撃破の信念を持ち作戦に当たるものなり。』……以上!」
艦隊総旗艦大和が命じた返電の内容に、嘘偽りはなかった。護衛艦を欠いたら此方は決定打を持たず、艦娘を欠いても此方の戦力は整わない。両者が協同して始めて、作戦成功の芽が咲くのだ。
────そしてそれが芽吹いたところで、作戦の成功が確約される訳でも無いことは、この場にいる全員が理解している。
「さー宝探しの始まりデース……!」
「はぁ……わくわくして来ましたねぇ……。」
そんな状況からか、4個艦隊は総勢24隻もの大艦隊の前衛水上打撃群は先頭、戦艦3隻のうち大和と金剛が互いに冗談を投げ合う。
今次作戦の重要度からしてみても、そうした軽口を言わなければやっていられない物だろう。しかし、生真面目な榛名はそれに口を挟まずにはいられなかった。
「お姉様……!ふざけている場合じゃあ───」
「カッカしないネ榛名。ワタシ達が失敗したらどうなるか………それはちゃんと分かってマース。」
「もう……。」
榛名は金剛を諌めようとしたが、無論ながら金剛とてそれを理解してはいる。金剛にそう言われては、榛名もそれ以上言葉を重ねる事はなかった。大和と金剛も、それ以上は冗談を言わず、含み笑いを交わすに留める。
少しだけ弾んだ談笑は、作戦前に彼女達が行う謂わば
『これより寿号作戦、後段作戦を開始する。作戦を完遂し、全艦無事に帰投せよ!』
指令部の号令一下、最終作戦の火蓋が遂に切られる。
寿号作戦、その本作戦における参加艦艇は以下の通りであった。
第一艦隊
金剛 榛名 五十鈴 高波 江風 長波
第二艦隊
大和 赤城 天龍 夕立 雷 夕雲
第三艦隊
隼鷹 阿賀野 磯風 浜風 村雨 秋月
第四艦隊
瑞鶴 翔鶴 天津風 時津風 雪風 照月
海上自衛隊 第二護衛隊
[あさひ] [いしかり] [まべち] [いなば]
さらに、これ以外にも基地航空隊の陸上機や、各国から出撃した艦隊が太平洋方面に出撃し深海棲艦との戦闘に備えている。その勢力たるや、総数にして艦艇200隻以上、航空機1000機以上が参加する超大規模な動員であり、まさに人類、艦娘対深海棲艦の様相を呈している。
今この瞬間、海にある全ての者達が同じ胸中にいた。ここぞ────まさに決戦……‼︎
「これより艦隊は、必勝を期し決戦海面に突入する!全艦、この大和に続けっ……!」
艦娘隊がその軽快に似合う加速を見せ、瞬時の内に艦隊輪形陣に護衛艦を引き入れ、艦速を上げた。
ヒイィィィィン………!
それに呼応するように、ジェットエンジンを思わせる様な哮りたつ高音が大気を裂き、数千トンにもなる護衛艦の艦体を瞬時に26ktまで引き上げる。まるで蹴り上げる様な急激な加速は、小型かつ瞬間的に大出力を発揮できるガスタービンエンジンの成せる技だった。
そして、その加速に平然と付いていける艦娘の不思議さを際立てる事にもなる。
護衛艦4隻を中心に置いた輪形陣へと艦隊は装いを変え、海域への突入を開始する。
ただの輪形陣ではない。水上戦闘に備え金剛、榛名を中心とする第一艦隊に第二艦隊から抽出した大和を編入、前衛打撃群として展開させている。
そして大和自身も、これまでの彼女ではなかった。艤装から伸びる長大な砲身は9門から6門に減少していたが、その存在感は一層に重厚長大さを増しており傷一つ無い黒光りする砲身が海原を睨む。
51cm連装砲─────それがこの圧倒的な鋼鉄の臭いを放つ長身の正体だった。
これまで彼女の妹、武蔵の第二改装でしか装備されてこなかった超巨大火砲を3基装備し、門数こそ減少していたが、1発あたりの弾丸重量は2t近くにも及び敵艦艇に対して圧倒的な破壊力を有することを期待されている。
妹の武蔵に遅れをとること数年─────大和に適合する第二改装は、寿号作戦発動のたった数日前にその適合に必要な全工程を終えたばかりで、試運転すらされていない、謂わば出たとこ勝負、ぶっつけ本番の状態だった。
それを知った提督が運営に直談判し、そこにどこから嗅ぎ付けたのか大和も揃って頭を下げ、ギリギリ今次の作戦に間に合わせたという。
「………。」
先程までの冗談を交わしていた様子とは打って変わって、彼女の表情は硬く己の握り締めた拳を眺めていた。まるで、自身そのものに疑念を持っているような……………果たしてこの力を、私は存分に発揮できるのだろうか?────それは、戦艦大和という
「大和さん。」
「はい……?」
大和の胸中を察したのか、榛名が右舷側まで寄せて、小声────とはいえ波の音が大きいのでそれなりの声量ではあるが────で直接大和に話しかけてきた。
「そんなに下を向いていては、敵と戦えませんよ?」
「………!」
榛名の言葉は、下手な励ましより余程大和の心に届いた。榛名は言外に告げたのだ───貴女自身も貴女の持つ力も信じるが、
上を向けと………敵を見ろと言った───首を上げた先の陽光が彼女の目元に射し込んだ時、彼女の目に影は無かった。
「そうですね……しっかり上を向きましょうか!」
「大和さんも、これで大丈夫そうですね!」
「もう少し冗談をやってあげた方が、よかったデスか?」
「揶揄わないでくださいよ……もう大丈夫です。」
~~~~~
同刻
海上自衛隊 第二護衛隊 旗艦 DD-119[あさひ]
「酷いものだ………弱者を守るべく力を与えられた筈の護衛艦が“護衛”をされるようになってしまうとは。」
第二護衛隊司令
彼女は深海棲艦戦争以前から海上自衛隊の幹部自衛官として勤めていて、その分、艦娘に追いやられる我が身とその所属する組織が隅に追いやられることに不快感を覚えていた。
「時代が、我々を拒んだのでしょう。」
「馬鹿馬鹿しい………!
艦橋の右舷側に設えられた赤青ツートンカラーの艦長席に身を預ける中年の男……護衛艦[あさひ]艦長
確かに、深海棲艦の台頭で我々が変革を求められているのは事実。彼女とて当然それを理解しているし、例えそうでなくてもその状況を受け入れるべき立場に身を置いていることも理解している。
だがそうした現実的な問題以前に、理性を持たされた人間として、簡単には受け入れ難いものでもあった。
望奈洲1佐は顎をしゃくりながら言う。
「情けないの。自分の娘か、それ以下の年頃のコ達に大の大人が肩身を護られなければならないのがね………。」
「………理解はできますが。」
大人として護らなければならぬ年頃の者達に逆に護られるというのは、それがどんな状況であれ、心理的に嫌なものだ。それが軍籍に身を置くものであれば尚更───。
まったく、嫌な時代に自衛官になってしまったものだ─────と、最近目元に増えてきた皺を撫でながら、心中で嘆息する。
『───CICより艦橋、水上レーダーに機数不明の
「対空ぅーー戦闘用ぉー意っ……!」
思慮に浸る間などあるわけがなく、状況は刻一刻と変わる。しかし、あの斜陽の照らす黄金色の何処かに、敵手たる深海棲艦が居ることは確かで、その敵手に対して自分の果たすべき仕事が何であるかも彼女は知っている。
その折──────
「隊司令……鎮守府より通信が。」
「分かった、繋いで。」
『はじめまして隊司令………艦娘隊の提督です。貴方がたと共に戦場に居れない事だけが残念だ。』
インカムのスイッチを押して最初に入ってきた声は、思った以上に若かった。この青年が、彼女達の提督……?
コミニュケーションの必要性から艦娘を率いる者には比較的若年の者が当てられると聞いてはいたが、この無線越しにいる彼もまた、彼女の年齢からすれば息子同然の年頃であり、一層暗澹たる気持ちを呼ぼうというものだった。
「第二護衛隊司令、時世 望奈洲1佐だ………今回の作戦に於いて他艦隊に先んじて戦場へ馳せ参じられたこと誇りに思う。」
『司令、今次作戦の推移は我が艦娘隊だけでなく、あなた方の艦隊にも大きな役割があります。あなた方が持ってきてくれた短魚雷………その為の護衛、不本意ではあるかもしれませんがどうかご理解を。』
青年に諭されるほど彼女は幼稚ではないし、言われるまでもなく解ってはいることだが…………最近、艦娘に対して良くない感情を持っていた一派が作戦に乗じて“危険”な艦娘を排除しようとする動きがあった、というのを聞いたことがある。
それの、釘を刺したつもりか?
舐められたか────だが海自自衛官の覚悟は本来そんなものでは無い事を、この青年に教えてやる必要を彼女は感じた。
「理解している………しかし、我が方は1隻でも生き残れば敵に魚雷を叩き込める。計算上1発でも効果がある筈。彼女達には─────」
艦娘1人の戦術価値は軍艦1隻に匹敵する────そうした海軍常識は当然ながら海上自衛隊護衛艦隊でも通ずる。望奈洲1佐はそれを理解し、いざとなれば護衛艦より艦娘を優先するよう提督に言おうとしたのだが、その言葉は提督自身によって遮られてしまった。
『1佐───自分はそのような計算は好みません。彼女達も…………。』
予想外の言葉だった。
理想論────でしかない、と一蹴する事は簡単だった。しかし、それを許さぬ確固たる意思と確信にも似た何かを、望奈洲1佐はインカムの向こうにいる青年に感じた。
「………。」
『自分は彼女達に“護衛艦を全て守り抜き、全員生きて帰れ”と
「────提督。お言葉、痛み入る。」
~~~~~
数時間前
北太平洋沖合
アリコーンが耳に掛かった紫電の髪を煩わし気に払うと、さながら風に煽られる絹糸のようにさらさらと舞った。
夕焼けに照らされる海を、たった一人で航行する───
『ネンリョウキョウキュウヨシ!』『カタパルトジュンビカンリョウ!』『デンリョクキョウキュウカイシ。』「“ソード”タイ,カタパルトヘススメ!」『アンゼンソウチカイジョーッ!』『オツカレサマ。』『SLUAVシャシュツジュンビ!』
妖精さん達の声が響き、アリコーンの艦内で慌ただしく働いている。
──────彼らは、文字通りの密命を帯びていた。アリコーンは主力艦隊より離れ、ほぼ彼女専用となっている高性能艦載機を用いての長距離偵察の任務だ。
これには偵察による敵情確認という目的以上に、アリコーンの位置を敵に誤認させ深海棲艦のアリコーン………“仮称・ユニコーン”を炙り出す、という今作戦最大にして最優先の目標を達するための最も重要な役割を持たされたからだった。
『ハッカンヨォーーイッ!!』
キィィイィィィィィーーー───!!!!
ターボファンエンジンのファンが高速回転し、いよいよその胎動を始める。その腹の内には、我々では到底想像も及ばぬほどの力が込められつつある。
最大にして75kNもの推力を誇るラファールMのエンジンは外部からの接続を受けずとも機体側からの操作によってその全てが始動されるように設計されている。
その分、必要な人員も少なく済み、整備員も機体のチェックに万全を期せるというものだ。
このラファールMを預かるパイロット───ルイス・バルビエーリ中尉が整備員の合図に合わせ、機体の各部位を稼働させその安全を確認する。
操縦管を左右に倒し───実際には、倒してはいない。少し力を入れてやるだけでフライ・バイ・ワイヤ式の機体制御機能は十分な稼働指令を各々の制御翼に与える───エルロンとエレベーターの稼働を確認。
整備員の合図を確認すると、次いでフットバーを交互に踏み均すようにし、ラダーの確認を行った。
『ゼンソウビノアンゼンカイジョカクニン!』
彼らが万一敵に捕捉され、いざ其処から逃げ出すときの最後の頼みの綱であるミサイルの安全ピンが引き抜かれ、何時なんどきでもその威力を発揮せしめる状態に覚醒する。
──────これと同じことが、彼の他に3つ行われている。
偵察隊のコードネームは“ソード”。偵察隊は4機で構成されており、その内2機が偵察担当、残りの2機は空中給油担当となっている。
「ソード3,ハッカンジュンビカンリョウ。」
コールサイン“ソード3”を預かるルイス・バルビエーリ中尉は愛機のシートにゆっくり身を預けた。
出撃までには待時間がある──────MFDから転じた先、まだ高い陽はオレンジ色を呈し始めたばかりであり、彼に低緯度帯特有の遅い夕暮れを実感させる。
射し込む陽光は眩いが、グラフコックピットであるラファールMのモニター群はそれでもなおって明瞭な情報を映し出し、彼の目に届けている。
「ルイス・バルビエーリ中尉?」
「?」
声は大きく聞こえ、透き通っていた。
眼前を紫電の髪が横切り、紐
言うまでもなく、それはアリコーンだった。
「貴方、
「ハイ…ジブンハ,コンドハカエッテキマス。ダカラヨムモノハオリマセン。」
「……!」
感銘……という言葉の意味を、アリコーンは始めて実感する。
─────家族は皆戦争で死にました。読むものはおりません─────とは、彼がかつて最後の出撃に際し放った言葉であった。マティアス・トーレス艦長に拾われた命を還さんと腹に据えた彼に生の執着などは無かったのだろう。
だが、それが今やどうか?
生きて帰ると断言し、故に、遺書など書かぬと言い切っている。
これほど美しい生の執着も無いだろう、とアリコーンには思えた。生の望みが皆無と言えたこの人たちが、今やこの様に自身の生を確信しているとは……!
ルイス中尉は冗談混じりに、それに自分みたいなのが遺書を書いたところで、寒いポエムが出来るだけです、と手振りをしながら付け加えた。
それに、アリコーンの目頭が暑くなるのを感じる。私は、何と良い人達に恵まれているのだろう?
─────彼も、救われていたのか。
鼻頭を押さえながら、彼女は“命令”を下す。
「いいわ~~……必ず帰って来なさい!発艦を許可する!!」
『リョウカイ,ソードリーダーハッカンスル……!』
リニアモーターに電流が迸り、覚醒した電磁カタパルトが軌条の15トンにもなる戦闘機を数秒の内にして発艦速度にまで押し上げる。
ドン……!射撃音にもにた響きと共にラファールMの黒体は未だ蒼空の占める晴天の高みへと打ち出された。
実は大和改二は46サンチ50口径砲の案もありましたがある事情によって没になりました。
あと細かい話ですが、彼女の高角砲は五式十二糎七高角砲(長12サンチ砲)となっています。特に意味はありません()