戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》 作:お猿プロダクション
海自、そしてあの戦闘機の活躍、ご笑覧ください!
20XX年
9月30日
18時05分
北大平洋沖合
第二護衛隊 旗艦 DD-119 [あさひ]
同 CIC
「的速200───いま増速した、210………220………。」「
「………。」
[あさひ]型のCICは前型の[あきづき]型のCICに並び、室内の光量が落とされておらず、それがいっそう此処に居並ぶ人間達の目元の影を強くしている様にも、見るものには感じられたかもしれない。
前面の大半を占める
人サイズの艦娘に護衛艦ほど豪勢な電子兵装は存在しない。───乗せる意味がないという理由でもあるが───よって、護衛艦のデータリンクには艦娘は入ることは出来ず、必然的にLSDに示される情報量も味方の数に対して著しく少なかった。それが、最初にここに足を踏入れた時の感動にも似た感情を味わった彼には、未だに奇異な感覚を覚える。
彼────[あさひ]砲雷長
鷹井3佐は元々、深海棲艦戦争が始まってすぐに、今は亡き姉妹艦、DD-120[しらぬい]のCICに配属されていたことがある。
その頃はまだ護衛艦の大勢で、LSD上では画面狭しとばかりに濁流のような情報が常に存在していたものだ。
全通甲板を有する巨大な護衛艦を中心に、汎用、ミサイル護衛艦計8隻で形成された機動艦隊、それが全国合わせて計4個艦隊も存在してたいた頃が懐かしい。
比較的艦齢の若い有力な艦艇で編成されていた海自機動艦隊───護衛隊群───は深海棲艦戦争以前では東アジア………否、世界でも有力な艦艇群の一つに数えられていた。
だが敵…………深海棲艦の出現によって海自護衛艦隊は壊滅。海自護衛隊群の打撃群化の象徴と吟われた全通甲板を有した巨大護衛艦のDDHは軒並み戦没し、汎用護衛艦を中心とする護衛艦隊もその悉くが海中へ没する事を強制され…………その中に、彼の乗っていた[しらぬい]も存在した。
「敵編隊をマーク、
『砲雷長、敵の動向はどうか?』
「以前、変わらず接近を続けています。艦長、本艦以下はすでにSAMの射程内です。撃ちますか?」
『司令の指示あるまで待て………艦娘の戦闘機が敵編隊を捉える寸前に、敵の鼻先を叩き出鼻を挫く。』
データリンクに頼らず、無線に依って呼吸を合わせるつもりか…………幸いにも艦艇、艦娘間のこの手の連携は他国より早い段階で艦娘戦力を整備した海自は経験があり、さして大きな問題にはならない。
「了解。」
────現在、護衛艦の搭載する
汎用護衛艦の積むSAMであるESSMと
実際、この多層防空は万が一の実戦に於いては相応の能力を発揮する筈だと期待されていたものだ──────だが実際に起きた「万が一」という実戦、深海棲艦戦争の勃発によりその役割と行き場を同時に失う結果となる。…………特に、A-SAMは
FFMのVLS搭載数は16セルに留まっており、消して多くはなかった。建造数の多さがこの弱点を補うはずだったが──────深海棲艦の前にその望みは露と消え去り、そればかりか、ミサイルの絶対数の少なさが祟り正確な照準を許さぬ深海棲艦航空機に対して効果的な防空火網の形成が出来ない事態となってしまっていた。
結果として、FFMには計画になかったESSM-HWの搭載改修が行われる事となり、その名残は尖塔のように聳え立つ複合マストの根本に増設されたドーム状のイルミネーターレーダーが示している。
「ESSMの時限信管をレーダーと連動させろ。すぐに撃てるようにしておくんだ。」
「了解。」
現在の護衛艦のESSMはESSW-HWという新型のものなっていた。
ESSM-HWのHWとは、
ミサイルの直撃や指向性破片榴弾は小型UAVのような存在である深海棲艦航空機には非現実的であり、できるだけ広範囲に破片を撒き散らす方法に変更されていた。
「目標群アルファに接近する飛行物体現出。方位0-4-0、的速………光学で観測─────友軍機!」
「1分後に敵編隊の進路上で交差します。」
おそらくは艦娘が直掩か迎撃のために上げていた戦闘機だろう。LSDに現れた三角形が友軍を示すライトシアンに染められる。
そこに、艦長の指示─────
『砲雷長……10秒後、距離18マイルで全艦SAM発射始め。攻撃は一波のみ。』
「了解………ESSM、敵座標入力。」
命令と同時、第二護衛隊全艦はネットワークデータリンクによりコンマ数秒以下の同期したタイミングで同一の命令を受け、やはり同一のタイミングでそれらの作業を終える。
「
「VLS開放───撃てッ!!」
LSDに映された前甲板VLSの一角………号令一下、封印から解かれたように生じた四つの炎柱─────それらは昇龍の如き勢いを得て白線を引き、瞬く間に雲間へと消えてゆく。それも、4隻同時に────!
各艦に搭載されたデータリンクシステムによって示された各々の状況を反映させ、無線に頼る調整を必要としない、常に一体となった戦術行動を行えるからこそ成し得た業である。
ESSMは音速の壁を軽々と超え、それでもなお
「[いしかり]以下3隻もESSM発射……慣性誘導に入った、
LSDに現れてESSMを示す矢状の輝点は10────[あさひ]のESSMが4基、他3隻が2基ずつ。これら護衛艦の持つイルミネーターレーダー本来の能力をもってすればその倍の数のミサイルの誘導も可能………だがしかし深海棲艦航空機相手にそれは余りにも難しく、レーダービームを集約させてやっと半分程度の誘導を確保するのが精々だった。
鷹井3佐の、深く被った帽子の奥で光る額の汗────必中は期している。だが、どこまで撃ち減らせるか………。
LSDに表された戦場の上で、護衛隊から射られた電子の鏃は吸い込まれるように敵編隊へと向かっている。それらはまるで、自らの意思を持ったかの様だ。
「あと8、7………
イルミネーターレーダーによって、ミサイルが標的に着弾する直前の数秒間のみ標的に向けて行われる
鷹井3佐の双眸は緊張の色を孕んだまま、LSDに釘付けられる……………そして、ミサイル管制士官の報告─────
「
「戦果を報告せよ。」
時限信管により炸裂したESSMは破片効果により敵機を傷付け、破壊する。
『見張りよりCIC、前方に黒煙────ミサイルの攻撃跡と思われる。数、4……5……。』
「光学にて確認。撃墜6機は確実────艦娘友軍機、敵編隊と交差、交戦状態に入りました。ミサイルの発射は─────」
「分かっている………敵の第2波に備えよ。」
敵味方の入り乱れる状態となってはミサイル攻撃などおよそ不可能。
所詮、援護のための攻撃に過ぎない。後の敵は、事前の予定通り味方戦闘機に任せる──────
~~~~~
18時07分
同 海上
つい先刻、ESSMを撃ち込まれた敵編隊はその隊形を崩し、迎撃のために接近していた艦娘空母戦闘機部隊の格好の餌食となった。ミサイルによる先制攻撃は、
戦闘機─────それは一見すると、さながら海を遊弋するシャチか鮫のような印象を受けるシルエットに、直線的なテーパー翼を備えた機体─────その名は橘花改………!
従来型のレシプロエンジン機とは異なるタービンロケット───ジェットエンジン────は簡易な構造ながらも高い推力とそれに起因する高速力を発揮し、それが単純且つ有効な攻撃方法である一撃離脱戦法を容易かつ確実なものたらしめる。
更に────この機体の長所は他にもあった。
機関砲の射撃ボタンを押した瞬間、敵機に吸い込まれるように撃ち込まれた光弾が、敵機の翼を弾き飛ばしたかの如くに破壊する。
凄い!…………パイロットの妖精さんは自信の操る戦闘機の機関砲の威力に驚く。
五式三十粍固定機銃──────概して30㎜機銃とか30㎜機関砲とか言われるこの機銃は、300g以上にもなる重量弾丸を毎秒750mもの速度で打ち出すことが出来、それは零戦などに広く搭載されている20㎜機銃弾の倍近い破壊力を齎す。
初速の速さは命中率に直結する。毎秒750mという初速は弾道良好と評判の99式2号20㎜機銃にも匹敵し、高い命中精度を発揮する。
撃てば当たり、当たれば墜ちる────そのなんと素晴らしい事か!?………必中を狙い、或いは弱点を狙い────浪費される弾と時間を恐れ、発射ボタンを押す躊躇が産まれ、それがまた時間を───そうした下らない連鎖はこの機銃の前では存在しなかった。
あたる!───そう直感した時に発射ボタンを押せば、次の瞬間には敵機は粉微塵に粉砕されているのだ。
今もまた、翼端に被弾した敵機が翼を“バタン”と折り畳まれるようにして砕け散り、錐揉みに陥り墜落して行く。
襲来した敵機の数は戦爆連合60機余り。30分前の敵偵察機との接触を皮切りに空母艦娘によって上空へ上げられた彼の僚機の数は24機と、些か物足りない感触を覚えないでもなかったが────とんでもない!
初撃で10機余りもの敵機をを撃墜したのも束の間、これまででは考えられない様なとんでもない角度での急上昇を繰り出す。そしてその間にも、速度が著しく減衰することは無い………!
新型の燃焼噴射推進器「ネ20改」は高い推力を発揮し橘花改を高空へと押し上げる────小柄な機体に相応しい軽快な機動で“くるり”と姿勢を戻し、そのまま再び獲物を見定めた猛禽の様な鋭い降下に入る。
そのまま凄まじい速度を維持したまま、回避に奔走する敵機の背後に追い縋る。レティクルの中で拡大する敵機──────速度を得た橘花に、敵機の背面を取ることなど容易い。機首先でつつく程の距離─────指先にこもる力に躊躇はない。
数秒にも満たぬ射撃!
バンバンバンッ!という破裂音にも似た発射音が機体を揺るがし、その直後に彼は目前の敵機に興味を失ったかの様に離脱する。たった10発程度にしか過ぎない発射量だったが彼には既に、それで十分だという確信があった──────現に視界の端で見るオレンジ色の閃光は、翼を打ち砕かれた敵機の断末魔の輝きだった。
(タッタ2モンデコノイリョクカ?)
やはりこの機銃の破壊力は素晴らしい………あの“幻”の戦闘機、震電改はこれを4門も積んでいるというのだから恐ろしい。
とはいえ完璧な戦闘機など存在し得ない。彼等の駆る橘花改も、また────
「チッ……」
再び上昇に転ずると同時に出た舌打ちは、この素晴らしい戦闘機に対する数少ない、かつ致命的な問題点に対してだった。
『コチラ4バンキ、ザンダンキレダ!』『2バンキ!……ザンダンニフアンガアル。アトイチゲキガゲンカイ。』『ダイ3ショウタイ、ゼンキザンダンナシ!』
無線より続々入ってくるのは、早くも機銃弾を打ち切った味方の報告………それこそが橘花改の大きな弱点─────弾数が余りにも乏しい、というものだった。橘花改の装弾数は1門あたり僅か50発、2門合わせてもたった100発に過ぎず、数斉射で弾切れを起こしてしまう。
初期型零戦の20㎜機銃でも120発が確保されていたことを思えば、如何に橘花改の弾数が少ないかが分かろうと言うものだ。
あと一撃が限界か………?
此方の被害は最小限だが、敵に与えた損害も十分とはいくまい。彼我の戦力比は倍以上あり、攻撃機会の少なさは数的劣勢にある彼等には難しい状況にある。
姿勢を回復し、降下に備えて眼下に広がる敵影を睨む。
「───?」
組織的な編隊行動をとっていた敵機が各々バラバラに動き始め、中には更に小さい粒々のような物を落としている。
『テキヘンタイガテッタイヲハジメタゾ。』
弾数が不安になり始めたタイミングで壊走を始めてくれるとは、なんと有難い!
『敵機の撤退を確認しました……全機、良くやってくれました!帰投してください。』
「リョウカイ.」
翔鶴の命令に従い、橘花改はベイパーを引きながら翼を翻してゆく。
その下方より猛烈な勢いをもって打ち上がってきた矢────それが炎を帯びて輝き始めたと思いきや、撒き散らされた火の粉が輪郭を帯びてそれは航空機の形となって顕現する。
航空機────それは明確な橘花改の姿となり、飛行機雲の連なりを残しながら大空を飛び去った。
その腹に、物騒な荷物を抱えながら──────
ちょっとA-SAMについてですが、資料がなかなか見つからず、たしかこんなんだっけ?という曖昧な根拠のもと8割妄想で補完しております。
もし(というかほぼ間違いなく)違ったりしたら、コメント等で教えていただけると幸いです。