戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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些か遅くなってしまい申し訳ない!


寿号作戦 Ⅳ

 20XX年

 

 

 

 9月30日

 

 

 18時50分

 

 

 北大平洋沖合

 

 

 吹かされたスロットルレバー。凄まじい迄に大気を吸い込んだエンジンが橘花改の流線形を押し出し、加速させる。同時に僅かに機首上げ───投弾。

 反跳する爆弾───その数10以上。

 橘花改は輪形陣に突入する遙か以前に投弾していた……空母、戦艦や巡洋艦を擁する艦隊中心まではかなり距離がある。

 意志を与えられたかのように反跳を繰り返す爆弾の向かう先─────それは、敵の防空を担当する巡洋艦、軽巡ツ級。そのツ級に向かうのは3発の黒体───側面から突っ込む500kg爆弾!

 

 数投下時の速度をほとんど保ったまま、鈍い光沢を放つ黒体はツ級のごく至近にまで迫ってきていた────回避は間に合わない─────ツ級の舷側装甲は500kgの徹甲爆弾の直撃に耐えうるほど頑強ではない。500kgというのは重巡洋艦の20.3cm砲弾など鼻で笑う重量で、弩級戦艦の30cm級砲弾ですら上回るのだ。結果は必然──────着弾………!

 

 数度の反跳を経て舷側装甲帯を捉えた爆弾は当然のように貫徹、二重三重の内部構造をも粉砕したそれは炸裂──────閉所で産まれた爆轟と閃光は空間を求め艦外部にまで達する。

 艦内から食い破るようにして生じた爆発がツ級の左舷より生じ、その艦上構造物に至るまでを包み込んだ。

 

 その光景は一つではない──────艦隊の左方向より突入した橘花改部隊は、深海棲艦艦隊の輪形陣を形成する外周部隊に殺到し、艦隊の中心に濃密な防空火力を提供する艦艇の、その半数を撃破したのである。

 

 炎上する軽巡洋艦と駆逐艦に防空火力を期待することは最早不可能。空母の損害と合わせ艦隊防空網の過半を喪失した───そこに、手負いとなった敵艦隊に止めを刺すべく赤城、隼鷹を発った攻撃隊第二波が襲来した。

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 19時00分

 

 

「戦爆連合数200以上……!?」

 30近くを数える大艦隊の先頭を切り進撃する大和は、その都合上艦隊の針路上にある敵に対して最も早く感知することができた。電探を見張る妖精さんから受けた、その結果として得られた報告に大和は目を見開いた。

 

 やはり最初の敵航空部隊は、敵全体の規模からすれば"オマケ"程度でしかなかったのだ。敵は我が方の機先を制し、僅かばかりの反撃を行えはしたものの、それは現在に至るまで限定的なものに留まっていて敵主力からイニシアチブを奪い取るにはまだ程遠かった。

 

 しかも───それらは複数の方向から同時多発的に襲来して来ている。それは即ち、未だ敵艦隊勢力の、それもその過半が健在であり、比較的近距離にまで迫っていることを如実に示していた。

 

「全艦、対空ぅー戦闘よぉーィッ!」『SAM発射はじめ……撃ェ!』「シュホウサンシキダンソウテン!」「コウカクホウ、トウセイシャニソナエ…!」「迎撃機発艦……!」

 

 護衛艦の放つ対空ミサイルが上空を幾何学模様で彩り、その白線の中を空母から発艦した戦闘機群が抜けてゆく。

 そして遠方で見える複数の火球───ESSM-HWの炸裂───幾ばくかの敵機の撃墜を示す煙が、さながら水中に垂らした絵具のようにのびてゆく。

 更に、数十機にもなる戦闘機隊が迎え討つ。艦隊から見える光芒は彼我の航空機の断末魔の輝きだ。

 

 だが、戦闘機隊の迎撃を持って織り成される航空機の戦いの輝きはゆっくりと此方へ迫ってきている。

 敵戦闘機の主力は性能の高いタコ焼き戦闘機で、練度、機体性能ともに大きな差がない。さらに機数は拮抗───否、若干不利な状況にあった。味方戦闘機隊の迎撃をくぐり抜け5、60機ほどの敵攻撃機と爆撃機が艦隊上空にまで到達する。

 

 そこに生じる火球──────それは焔の欠片を花火のように撒き散らし、巻き込まれた敵機を瞬く間に火達磨へと変えてゆく。戦艦の主砲による三式弾の一斉射だった。

「4、5……まぁ、こんなものですか……」

 漏斗雲のような黒煙に呑まれて堕ちてゆく敵機を見て、大和は呟いた。大口径砲の対空戦闘には期待すべきではないのだ。

 発射速度、砲塔旋回速度共に対空用としてはお粗末そのもので、一度その機会を逃せば次はないと思ってよい────尤も、本来対空に用いない大口径砲に対空砲弾が搭載されてること事態が、好ましくないなのだが────それでも金剛、榛名の主砲が再び天を仰ぎ咆哮を轟かせる。51cmの超大口径化した大和と比べて口径の小さく、かつ改良の施された36cm砲ということもあってか、装填速度が速い。

 未だに装填の終わらない大和は高仰角を取れる副砲が砲撃を開始する───高角砲にはまだ遠かった。

 主砲より発射速度があるとはいえ、所詮は対水上戦を前提とした火砲では、ささやか程度の対空火力しか無い。

 

「以後、主砲は射撃を禁じます。」

 

 その命令は、金剛と榛名にも伝えられる。間もなく敵が高角砲の射程に入るからだった。主砲の砲火煙と鼓膜を突き破る轟音は対空射撃の妨げにしかならない。 

 

「撃てっ……!」

 

 ドッ!!!夕焼けの空に伸びてゆく光の軌条──────その先で、木々の葉裏が空を隠すようにして、炸裂の黒煙が空を覆う。

 30隻近い艦艇の織り成す射撃は空域全体に伝搬してゆき、まるでこの艦隊の空にあって、爆煙と破片にまみれるこの空域に無事な空間など全く無いように思えた。

 だが……!(小癪にも)勇猛にして大胆な深海棲艦攻撃機はそうした網の目の如く張り巡らされた弾丸と破片の雨を潜り抜け、続々と攻撃位置を遷移し始める。その間撃墜できた敵機は僅少に尽きた。

 敵機は十分な攻撃戦力を保ったまま、此方への攻撃を仕掛けようとしている……‼︎

「良くないですね……。」

 ここ最近の作戦でアリコーンの異常な戦闘力を見せられた後では、自分達の全体的な対空火力の不足を感じさせる。彼女なら───こんな近くにまで寄られる前に、全てミサイルで叩き落としているだろう。否、そんな必要も無く、あの強力無比な艦載機によって我が艦隊の姿を拝む前に全て退けていたかもしれない。

 

 実に良くない──────眉間に指を当て、大和は嘆息する。現場が……では無く、そんな短絡的な思考に陥ってしまう事が、だ。

 そもそもの話、アリコーンという存在はイレギュラーだ。元々艦隊に組み込まれていなかった戦力を、どうして今更当てにしようとしているのか?……アリコーンのいない現状は、ただ数週間前の艦隊戦力に戻っただけに過ぎない。そして、私たちはその状態で何年もの間戦って来たのではないか……⁉︎

 

 ぱちん!頬を軽く叩き、目を見上げた先───直上から逆落としに襲来する敵機を睨む。グンッと鎌首をもたげる様に砲身を立てた10cm砲群が火を吹き、上空の黒煙の網の目を一層に濃く彩った。

 至近弾によって弾かれたように進路を変えた敵機が錐揉みに陥り分解する。大和改二の両舷に集中配備された長10cm砲群の火力は凄まじく、その発射速度も相まって、まるでアメリカ戦艦娘のような───それを上回っているようにも感じられる───濃密な対空射撃の雨を敵機に浴びせかけている。

 バリバリバリバリッ!と、有効射程に入ってきた敵機を一斉に対空機銃が撃ち始めた。豪雨が空に向かって立ち上る様に曳光弾の束が吹き掛けられる。その光の豪雨の間隙を敵の急降下爆撃機は恐れ知らずにも突っ込んでくる……!

 一瞬火花を散らし輝いた敵機が次の瞬間には翼をもぎ取られ墜落してゆき、さらにその背後に続いていた敵機も機銃弾の直撃を受け撃墜される。威力不足が叫ばれる25ミリ機銃といえど、通常戦闘機に搭載されている様な20ミリ機銃よりは大口径なのである。直撃してタダで済むわけがない。

 だがそれでも敵機は急降下を続け、ついに投下に最適な高度にまで迫られてしまう。

「あっ!」

 誰かが叫んだ。敵機からどす黒い小さな物体が放られたのを目撃したのであった。

「回避っ……面舵30!」

 笛の様な不気味な音を奏でながら落下してくる爆弾───赤城は自分が狙われていることを直感し直ちに回避運動をとっていた。だが正規空母の彼女には駆逐艦や軽巡洋艦の様な瞬発力がない。等身大サイズに収まっているとはいえそこにはやはり、隔絶した機動力の違いがある。

 

 ドン!ドンッ……ドーーン……!

 

 着弾───!爆轟は高々と水柱を立てて、生じた波浪は怒涛の如くに荒れ狂う。水柱の中に消えた赤城に一同の顔面は蒼白に染められてゆく──────だが、落ち切った水柱の中から姿を現した赤城は無傷だった。水飛沫に濡れた長髪を払いながら、戦闘を続けている。

 敵機の爆弾を紙一重で躱し、全て至近弾か空振りに抑えていたのだ。

 しかし全てがこう上手くいくとは限らない。敵の狙いは最初から空母に向いていた。その数が増せば増すほど、被弾の危機は跳ね上がる。

 

 

「ジョウクウヨリサラニテッキ‼︎」「シキンニテキライゲキキ!」    

 

 

 爆弾魚雷を抱えた敵機はいまだ数多く、対空射撃のそれだけでは対処に限界があった。

 赤城にも、低空に舞い降りた敵雷撃機が接近している。

 

 だから──────

 

「機関両舷増速ッ!」

 

 揺れる銀髪───

 

「浜風……何を⁉︎」

 

 迫る雷撃機───超低空!

 

 水柱を掻き分け、敵機に食いつかんばかりの気迫を伴い、駆逐艦浜風が全速力を持って空母赤城と敵雷撃機の間に割って入った─────彼我の距離は至近──────まさか⁉︎

 

「やめろっ……浜風‼︎」

 

 未だに飛沫の舞う海面より荒げた口調で赤城が呼び止めるが、浜風はあくまで護衛としての本分を果たそうとしていた。指向する長10cm砲──────第二改装後、艦隊型駆逐艦たる陽炎型駆逐艦のそれとは大きく趣の異なる「乙改」と称される防空駆逐艦型への変貌を遂げており、その防空火力は甘めに見ても侮れるものではない筈だった。

 

「行かせるか!」

 

 ドン!ドン!ドン!

 

 赤城の盾たらんとばかりに敵雷撃機の前に立ち塞がった浜風の主砲から、続々と砲弾が吐き出されてゆく。敵機の進路上に形成された鉄の壁───射撃開始から秒を増やす毎にその精度をを増してゆくそれに、ついに敵雷撃機の1機が絡め取られる。

 

 砲弾の破片により穿かれた破孔から、鮮血のように飛び出た火炎が敵雷撃機をその肚の中に閉じ込め、海面へと突っ込んだ。

 

 だがこんな如きで折れる敵ではない。浜風の対空射撃から逃れた敵雷撃機が魚雷を投下する。全て立ちはだかる浜風を無視し、赤城の進路上に投下されていた。

 

「クソッ!」

 

 雷撃を許した!鈍重な大型正規空母である赤城に回避できるものではない──────だから私がここに居るのだ!──────白銀の髪の奥に佇む空色の眼が燃える。

 

 もとよりこんな事態は覚悟の上だ。

 しかし彼女とて、ただ盾になってやるつもりは毛頭なかった。主砲の長身が、陽光を受けて不規則に輝く膿面を睨む──────

 

 そこから垣間見える、悪魔の(かいな)を思わせる幾つもの白線──────

 

 それを認めた瞬間──────射撃!

 

 魚雷を投下してしまった敵機にもはや用は無かった。浜風は主砲を俯角に取り、疾走してくる魚雷めがけて乱射したのだ。

 

 林立する水柱は、比例的に浜風の焦りでもあった。水中を進む魚雷に、都合よく当たるわけもない。

「浜風、避けなさい!1、2発くらいなら耐えられる……!」

 赤城は叫んだ。直撃しても沈没は免れる可能性はある。赤城の巨体を沈めるには魚雷数本では些か力不足なのだ。

「駄目です!」 

 だが浜風は、鋼のように固辞した。

 

「浜風っ……!」

 

 魚雷をこのまま見逃せば赤城の艦体はタダでは済まない。たとえ沈まなくとも、浸水の結果傾斜が高まり航空機の発着艦が出来なくなるかもしれない。空母の戦力外化は、何を持ってしてでも避けなければならない……!

 

「当たれ……!」

 瞬間──────

 ドオォンッ!!

 ひときわ巨大な水柱が立ち上った。陽光を受けて煌めく火花のような水滴の数々がけばけばしい。

 

 当たった……!

 しかし残る魚雷は爆発によって進路を逸らされたものを除き、2本がなお迫っている──────しかし浜風はその瞬間(・・・・)が来るまで射撃を緩めず、針路を変えなかった。

「避けろ!浜風ェッ!!」

 

 

「………!!!」

 水柱が浜風の艦体を持ち上げたかと思うと、次の瞬間、水柱はその艦体をぶち破り、天に向け高々と立ち昇った。




艦これイベント攻略などと重なり予想以上に長引いた上に内容は短く、本当に申し訳ありません……
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