戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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仕事が多忙過ぎたり自分がコロナに罹ったりしてドンドンドンドン筆が遅くなる一方………大変お待たせしてしまいました……申し訳ありません!


寿号作戦 Ⅴ

 20XX年

 

 9月30日

 

 18時50分

 

 日本国 戦略機動打撃艦隊 

 

 某島鎮守府 

 

 艦娘寮兼司令部施設 地下1階

 

 統括作戦指揮室

 

 

 壁一面を覆うかのような数多のスクリーンの上で示される戦闘海域の情報は、まるでその現場に居合わせているかの如くに多岐に渡り、遠隔地にありながらもその詳細を掴むことができる。

 浜風の被雷も、その時からわずかの時を置かずして彼らの知るところとなっていた。

「駆逐艦浜風被雷!」

「損害は……!?」

「被雷二、損害不明!」 

 空母赤城を庇い、駆逐艦浜風が敵魚雷を受けたときを切欠に司令部は慌ただしくなる──────それとて、事前に予期されていたものではあったが──────

 

 やはり30隻にも満たない艦隊で総力戦を挑むのは無謀が過ぎたか……⁉︎増援の見込みは無いではないが、こうなっては間に合うかどうか───

 

 そう思いこそすれど、それを口にすることができないところに、提督の苦悩があった。他に手がなかったとはいえ、それを最終的に決断したのは彼であるし、何より彼自信、こうした損害が出る事態を覚悟していたからだ。

 

「更に攻撃、翔鶴に集中……飛行甲板に被弾───!」「瑞鶴はスコールに退避した模様───」「浜風大破……大破です!」

 

 報告を聞き、提督は額に皺を寄せずにはいられなかった。ある程度の損害は覚悟していたとはいえ、初戦で大破とは……!

「浜風を下がらせろ、これ以上────……っ!」

 そこまで言いかけ、提督は口を噤んだ。下がらせろとは言ってみるものの、一体あの海域のどこに下がれる後方があるというのだろうか……⁉自身の浅はかさを今更ながらに呪わずにはいられない。

「輪形陣の内側に入れろ、これ以上の被弾は危険だ………!」

「浜風、浸水による影響で速力低下!艦隊より落伍します!」

「まずい───!」

 

 浜風の対空火力は健在な状況で、敵にとっては未だ厄介な存在の筈だ。敵がその”厄介な存在"を早期に消すとしたら……!?敵にはそれを実行し、成功させるに足る戦力がある。

 そう彼が抱いた予感は、次の瞬間まるで示し合わせたかのように的中する──────

「浜風に敵攻撃機集中!」「浜風っ……!」

 スクリーン上で示される、味方の青と敵を示す赤の攻防──────報告を受けるまでもなく、それが浜風の窮地を残酷なまでに視覚的に浴びせかけて来ている。

「浜風、被弾っ───!」

 悲鳴にも似た報告。それが交錯した直後に生じた変化に、提督は出すべき言葉を失う──────

 

「浜風バイタル途絶!」

 

 ピーーーー───と単一の電子音が無慈悲に鳴り続けた。

 目まぐるしく変化を繰り返すスクリーンの唯一点を、焦点を失った眼で呆然と眺めていた。そこは、先程まで浜風の示す輝点の存在した位置──────その提督の方を引っ掴む大きな手。それは、マティアス・トーレス少佐のものだった。

「提督、気を確かに持て。可能な限り損失は避けられるべきなのは俺も理解している。だが、今次作戦の困難性から鑑みて、損失があり得ることは貴官も十分理解していたはずだ──────」 

 そんなマティアス少佐も、珍しく額の冷汗を隠さなかった。彼に与えられている権限はあくまでもアリコーン単艦の裁量であって、艦隊全部への指揮権は提督が握っている。

 マティアスの出自上仕方ないことであるし、何よりあの艦隊は提督の裁量の下にあるべきなので、そこは仕方がない。問題なのは、その提督が気落ちしてしまい、指揮能力を損失してしまうことにある。

 ………しかし、マティアスの憂心は杞憂だった。それも、彼の予想を超えて。

「少佐……大丈夫だ、自分も浜風も(・・・)。」

「何……?」 

 直後、明らかな抑揚とともに一定の間隔を保ち始めた電子音は、先程まで延々と刻み込むような一定した音程の電子音とは明らかに異なっていた。直後、提督とほんの少しだけ気を抜いたような「ふぅ…」という吐息を聞く。

 

「浜風、バイタル復旧!」

 

「これは……!」

 

 マティアスはこの光景を見るのは初めてではない。アリコーン最初の出撃の際、揚陸艦あきつ丸が敵弾に斃れた時の………!

 

「妖精さんか……!」

 応急修理要員とか、応急修理女神とか呼ばれる、通称ダメコン妖精さん。撃沈相当の損害を被った艦娘をその死の窮地から救い出すための最終手段であるそれが、発動されたのだ。

 しかしこれらの妖精さんは押しなべて貴重なものである筈だったが……?

 もしや、と思ったマティアスが視線を投じた先は提督。その提督は彼の視線に気づき、懐から本来の薄さを取り戻してしまった財布を取り出し、ひっくり返してみせた。

 提督は今次作戦の困難性、危険性を看破するや直ちに可能な限りのダメコン妖精さんの収集に走り、結果として作戦参加艦艇の大半にそれらを持たせることが出来ていた─────ただしそれでも完全には集め切れず、潜水艦娘などはダメコン妖精を持たされていないが─────浜風は提督の機転によって命を救われたのである。

 

「これで我々の来年度の予算はゼロというわけです。」

「来年度があればな……。」

「怖いことを言わんて下さい……。」  

 

 冗談なのかそうで無いのか、あるいはその両方かもしれないやり取りをしながらも提督は「まぁこれで彼女達が一命を取り留めるなら安い出費です」と後悔する様な素振りは一切見せなかった。

 

「しかし何時もヒヤヒヤさせられる……。」

「このような隠し種があるのなら、先程の様な空気はいらなかったのではないかね?俺はまんまと騙されるところだったが………。」

「いえ、あれは本気ですよ。こんな初戦で重要なカードを切られたくは無かった………実際、彼女はもう戦わせられない。戦力外の換算だ。」

 提督が艦娘達にダメコン妖精さんを乗せていたのは、あくまでも“保険”のつもりであった───それにしては随分と費用のかかる保険ではあったが───それを、敵の本丸を見るその遥か以前に使わされたのは、彼にとっても思わぬ誤算であったのだ。

 だが、背に腹は代えられない。提督は浜風に命令をくださなければならなかった。

「浜風……現在の状態で避退は可能か?」

 形式上の問だ。現場にいないとはいえ、現下の状況で戦線から離脱するのは困難を極めることくらい提督には分かっていた。

 だがそこは生真面目な浜風のこと、提督の言葉をまるまるそのまま捉えてしまう。

『難しいです……が、提督の命令とあらば……!』

「あぁ~~待て待て!今のはそういうんじゃない………離脱は難しいんだな?」

『え、えぇはい……。』

「海自護衛艦に収容を頼から、直ぐに護衛艦の近くに寄るんだ。」

『了解っ……!』

 通信を切り、改めて意識をインカムの向こうにいる浜風から、眼前のモニターに数字や輝点として情報化された浜風に向けられる。

 相変わらず見ていて気分の悪い赤い発色の文字列と共に彩られた輝点が、護衛艦を示す青い輝点にゆっくり向かってゆく。モニターからも見て取れるが、大破した影響からだろう、浜風の機関は全力を発揮できずにいるようだ。

「海自の第2護衛隊に繋いでくれ。」

『──────こちら第二護衛隊 旗艦[あさひ]。艦娘司令部、何か?』

「大破した駆逐艦娘1隻の収容をお願いしたい……其方のフリゲート艦にはその艦娘の収容機能があったと記憶している。」

 海自のフリゲート艦───FFM、つまり[もがみ]型護衛艦───は艦尾部分に水上無人機の搭載能力があり、無人機雷排除システム用水上無人機(USV)機雷捜索用無人機(UUV)を搭載していた。これらの装備は[もがみ]型護衛艦を通常の護衛艦としてだけでなく、対機雷戦にまで対応可能な艦艇にまで昇華させていたが…………当然、人間同士の戦争で使われることを想定したこれらの装備品は対深海棲艦戦争で僅か程の役に立つこともなかった。

 

 そこで[もがみ]型は対深海棲艦戦に対応するため、水上無人機の搭載スペース及びその関連機器を全て撤去し、艦娘の収容・輸送能力を持たせられている。

 汎用護衛艦と違い、喫水線付近にある程度余裕のある搭載スペースを確保できていた[もがみ]型だからこそ出来得た改装である。 

 

 さながら、洋上をゆく歩兵戦闘車(IFV)の様に艦娘達をその巨体に収め………否、今や対深海棲艦戦において艦娘の能力は護衛艦のそれを上回るのは明白だ。歩兵を保護し戦場に送り届け、自らもまた歩兵の矛と盾となり戦線に加わるIFVとは似ても似つかぬだろう。

 だが、航続力おいては未だに護衛艦の方に一分も二分も利がある。隊列を組むとはいえ、所詮は歩兵のような単一の独立した戦闘ユニットである艦娘にとって、収容機能を持ち複合的な要素の絡み合った戦闘ユニットの護衛艦はさながら"戦場のバス"とでも言えるかもしれない。

 

『───了解した。我が[いしかり]に艦娘の収容を急がせる。』

「隊司令、感謝する。」

 

 

 

 ~~~~~

 

 

 

 18時59分

 

 

 北大平洋沖合

 

 

 浜風の大破に伴い、艦隊の防空には僅かながら穴が空いた。

 それによって深海棲艦攻撃隊は主力艦に対して集中しており、浜風の護衛艦への接近は容易く、しかし──────問題は空だけではなかった。

(波が……!)

 FFMの航跡波が、大破した浜風の航行を阻害していたのだ。

 護衛艦を始めとして現代の軍艦の織り成す航跡波は想像ほど激しいものではないが、それでも3900tの海水を押しのける巨体が造る波だ。質量的には人間とさして変わりのない艦娘………それも、大破し機関に大きくダメージを負った状態では、真っ直ぐに航行することすらままならなかった。

 さらに戦闘中、敵攻撃下にあって高速での急激な機動を強制される。収容とは、言うが易く行うは難しだった。

『───[いしかり]より浜風へ、本艦の速度は26kt。的速的針に注意せよ。』

「浜風、了解っ!」

 

 増速した浜風の機関は悲鳴を上げ、煙突からは吐瀉物のように黒煙が噴き出された──────次第に両者の距離は近づいてゆく。

 ドン……!ドン……![いしかり]の主砲が天を仰ぎ、咆哮を上げている。[もがみ]型特有の尖塔にも似たステルスマストの一体化された複合センサやレーダー類までもが彼女の目視ですら見える距離………。

「………っ!」

 肩の近くにまで掛かる波が浜風の行く手を遮る。波一つで、彼女の身体は簡単に横転しそうになる程だ。大破による機関の損傷は彼女の思っている以上に凄まじい。

 空色の目に海水の塩がしみる──────ピリっとした痛みに瞼を震わせたその時。

 艦娘乗降用の後部ハッチに人影を見つけた。

 

「お嬢ちゃん!こっちだ………!」

「はい……!」

 

 しかし、連続する水柱がまるで蛇のように迫ってきたのを視界の端で見た瞬間、浜風の背筋が凍った。

「うわっ!」

 バババババッッ!!と機銃掃射が眼前を阻むようにして浴びせられる。ふとした瞬間に気付いたエンジン音は既に遠下がって──────敵機!?気付かなかった……!被弾の痛みと大破に至るまでの損害を受け精神的にも大きく疲弊したが故の散漫だったのかもしれない。

 妖精さんの報告もなかった。何故──────考える必要も無かったことを、直後に彼女は知る。

 魚雷の破孔から崩れるようにして見張員妖精さんのいた見張り台のあるマストがへし折れていたのだ。

「マエミテッ……!」

「!」

 まだ無事な航海艦橋から、頭に血を滲ませた妖精さんが顔を出し浜風に言う。今の浜風よりもずっと真直に眼でも訴えていた。直向きなだけに、自らの艤装を司る妖精さんの手傷から気を離せない彼女だったが、その妖精さんから眼と口でそう訴えられては浜風に前を向く以外の選択肢はない。

 

 たが再びエンジンが耳朶を打つ。今度は明瞭に、しかも複数──────首だけを傾けた先……光──────⁉︎

『───ロケット弾だっ!』

 鏃にも似た弾体が浜風の眼前を一瞬で過ぎ去り………ドウドウドウッ!水柱が昇竜の如き勢いで立ち上り、その内包した水量をなんの遠慮もなしに撒き散らした。

 

「……このっ!」

 生き残った浜風の対空機銃が反撃の咆哮を打ち上げ、敵機を攻撃する。パリパリっと火花がが敵機から散ると、その敵機は炎を吐き出し始め、ゆっくりと落ちていった。

 更に1機が突っ込んでくる。戦闘機にロケット弾を装備した敵は、彼女達が十全ならば高い脅威ではなかったが、大破した駆逐艦には十分過ぎる脅威だった。ロケット弾の一撃は駆逐艦クラスの主砲弾にも匹敵する………大破した駆逐艦にとってトドメとなるは必至。

 生き残った対空火器が敵機に向けられるが、その指向までの僅かな瞬間に、深海棲艦戦闘機はロケット弾の軸線に浜風を捉えていた。

(しまっ──────)

 ドヴヴヴーーーッ!!!!

 瞬間、閃光をも呑み込む光の濁流が敵機を襲い、撫で切られるようにして被弾跡を残し撃墜される。

 護衛艦[いしかり]の後部CIWS、ファランクスだった。[もがみ]型は元々SeaRAMをCIWSとして搭載していたものの、改修により手動操作に対応したファランクスBlock 1Bに換装されていたのだ。

(……!)

『───[いしかり]より浜風へ、進入進路および速度適性。現在周囲に敵機なし、今がチャンスだぞ、急げっ……!』

 

「うぉ……!」

 開放された後部ハッチの黒い口、そこからワイヤが曳かれている。波に阻まれながらも手を伸ばす──────あと少し、もう少し……!!

 ─────────だがあと一歩が、足りなかった。急かされるようにしてフワッと目測より遥かに手前の空を切った。

「しまッ……!」

 ワイヤーを掴み損ねた……!?被雷による傾斜は彼女の予想を超えて悪かったのだ。彼女の頭の中では掴んでいる筈だったワイヤーは眼前で未だ揺れている………姿勢を崩した浜風は頭から海面に突っ込むような姿勢だ。こんな状態で転倒すればもはや次の機会など望むべくもない──────

 

「エッうわッ!」

 だが突然ワイヤーが彼女の艤装に絡み付き、次の瞬間彼女の身体は吸い込まれるようにしてハッチへと引き寄せられてゆく。

 ハッチの中から手が伸びて、浜風の艤装を引っ掴んだ。

「よし捕まえたっ!」

 それは一人だけではない。救命胴衣兼防弾チョッキを着込んだ海自隊員が数人がかりで浜風を引きずり込む。

 

「駆逐艦浜風の収容完了!」「収容ワイヤ上げー!」「応急修理用の工具と担架は……?」「ここに……早く!」

 

 完全装備の艦娘6人を収容できる様に改修された元SUV、UUVの格納庫は自衛隊員数名が駆け付けていても意外と広く感じた。

「わ、私は大丈夫ですよ……。」

「大丈夫な訳ないだろう、自分をよく見てみろ───ここまで良く来てくれた。後は任せるんだ。」

「……。」

 倒れ伏した自分の身体を見ようとして、浜風は失敗する。身体が水になってしまった様に力を入れることができない………僅かに動いた眼球だけが、自身の惨状を微かながらに伝えてくれた。すぐ側にいる自衛隊員には、まるでその人が出血している様にベットリと血が付いていた………更に視線を下げれば、筆で塗ったくった思わせる血筋の跡──────此処([いしかり])に来るまでの時間を考えれば、出血量は相当のものだったろう。

(あれから一体、どれくらい……出血して───あれ?)

「……?」

 ふっと湧いた安心感と同時に、意識を突然ドブに放られてしまったかと思う程に考えが纏まらなくなってゆく。

 

「おい……大丈夫か?嬢ちゃん!」

「失神しただけです。バイタルと呼吸も安定しています……本当に強い娘だ。」

 かくん、と人形のように動かなくなった浜風に焦燥を募らせる海自隊員だったが、第四分隊の隊員が彼女の容態を診ていた──────外見では人間ならショック死していても可笑しくない重症だ。浜風を診た隊員自身、半分程度は自分を疑っている。

「だが外傷は酷い。修理用液(バケツ)と輸血パック持ってきてくれ!」

 

 ドン……ドン……

 

 衝撃音と同時に微かに揺れる艦内………主砲の砲撃だ。

 外では未だ戦いは続いており、更にそれは始まったばかりだ。これから彼女のように戦闘不能に陥った艦娘たちを収容する可能性は更に増える。

「彼女は早く処置室へ、艤装は簡易修理室に放り込んどけ!此処を片付けて、"次"に備えるんだ。」

「「「了解!」」」

 次──────さらなる損傷した艦娘を受け入れる準備を命じたが、ここに訪れることになる地獄はそんなもので澄まされる物ではない事を、彼らは未だ知らない─────────

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 同

 

 19時05分

 

 

 

「ハマカゼノシュウヨウカンリョウ。イノチニベツジョウハナイソウデス。」

「それは……良かったッ!」

 妖精さんからの報告を受け、言うが早いか集中配備された長10cm群の砲列が上空から飛来する敵機の進路上に弾幕の壁を造り出し、破片の雨が敵機を襲う。

「ミギゲンライゲキキーーッ!」

「おもぉーかあーじイッパーイ!」

 敵雷撃機を認めるや、大和はいち早く回頭する。その直後に魚雷投下──────既に大和は回避し、雷跡は大和の艦尾遥か後方を過ぎ去ってゆく。

「テッキチョクジョォーーキュウコウカァーーッ‼︎」

「舵もどーせー!」

 直上、急降下爆撃が大気を裂く高音を伴い降り掛かってくる。そこから放たれる黒塊──────そのタイミングを見計らい、大和は針路を戻す。銃弾のような勢いで大和の側方を掠めた爆弾──────ドォン!ドォーン!……大和の長身など比べるべくもない程の巨大な水柱が立ち昇り、海水が雨のように降り注ぐ。

 

 歴戦の戦友である浜風の無事を祝う余裕は彼女達には失われていた。戦爆連合200機の襲来は間断のない火力投射を続け、その分だけ少なくない損害を彼女達の艦隊に与えていた。嵐のように、上空を我が物顔で乱舞している。

 しかして、止まない雨が無いように、晴れない嵐も無かった。

「敵機が退いていきます……!」

「………。」

 

 上空を覆う敵機の群れはその数は疎らになることはあっても増えることはないようだった。小雨が過ぎ去るように視界に映る敵機の粒が目に見えて少なくなってゆく。

 敵機編隊に何か分かりやすい打撃を与えたわけではあるまい──────恐らくは、単純に敵機が爆弾魚雷を放り切っただけだ。

 

「各艦、損害を報告せよ。」

『第一艦隊、榛名及び五十鈴被弾小破。されど戦闘航行に異常なし。』『第二艦隊───天龍、夕立、雷に損害、雷は中破!』『第三艦隊……浜風大破に加え阿賀野、秋月に小破の損害。』『……第四艦隊……翔鶴中破なるも戦闘に支障なし。更に時津風が中破!』

『───こちら第二護衛隊。我が方損害至って軽微……諸艦の奮闘に感謝する。』

 

 良かった──────少なくとも落伍艦や沈没艦が出ていないことだけは救いだ。

 しかしこの直後、嵐は去ってもその直後の安寧が保障されている訳では無いことを、彼女達は改めて知る事となる。頭では分かっていても、そして自身にそうした経験があったとしても、その立場になった時、人は狼狽するものだ。

 

『───第二護衛隊より全艦へ……!11時方向、距離(レンジ)30マイルに未確認目標(アンノウンターゲット)、速力25から6ノットで接近中!』

『光学にて観測。目標は、敵……戦艦群───‼︎』




今年中に終わらせる自信が無くなってまいりました。
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