戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》 作:お猿プロダクション
20XX年
9月30日 19時07分
北太平洋沖合
敵戦艦群の発見の報より僅かほどの時をおいて、その後方から空母ヲ級以下4隻からなる機動部隊2コ群までもが接近中である事を知らされていた。
だが、夕暮れまで間もない──────敵とて夜間になれば、艦載機の攻撃は止控えざるを得ない。夜間までに"ユニコーン"を発見、撃破して、夜間のうちに海域から離脱する──────スピード勝負ではあったが、そうするより他にない。至近にして確実な最大の脅威は、その敵艦隊の先頭を務める戦艦群だった。
『───第二艦隊より戦艦大和を抽出し第一艦隊に臨時編入、第一艦隊は敵戦艦群を迎撃せよ……!』
命令は即座に伝えられ、そしてそれは艦隊が一つの生き物として振る舞うかのように迅速に遂行された。
輪形陣を解いた第一艦隊は直ちに30ノットにまで増速、先頭に大和を配置する形で単縦陣へと移行する。
戦艦3隻では些か心許ない気もありはしたが、空母群から攻撃隊を出すことは叶わなかった。先刻までの敵攻撃隊との迎撃戦闘により消耗した直掩機の収容、交代に加え、橘花改を始めとする此方の攻撃隊の帰還が重なった為だ。もしかしたら深海棲艦はこのタイミングを図って戦艦群を押し出してきたのかもしれない。
先頭の大和改二は、高速戦艦に対応したタイプの改装である。金剛、榛名にも劣らぬ最大速度を誇っていた。
「───このまま単縦陣で敵正面に展開し、同航戦に誘います。反航戦では撃破し切れないかもしれないので。」
この時点で敵戦艦群の詳報はすでに判明していた。それを踏まえての大和の指示─────彼女は改二となった自分を加えても、この敵艦隊の撃破は手古摺ることは間違い無いと瞬時に理解していた。
敵戦艦群の陣容は、普段なら目を覆いたくなるほどに強力なものだった。戦艦水姫を旗艦とし、後続に戦艦棲姫が2隻という怒涛の顔ぶれである。更にそれだけに飽き足らずElite又はflagship相当の戦艦ル級が2隻、重巡ネ級───改装度は不明だが───が3隻。挙げ句、強力な雷撃能力を備える雷巡チ級や駆逐ナ級が後続に計6隻もゾロゾロ付いてきている始末─────夜戦に縺れ込んででも絶対に此方の艦隊を殲滅する腹積もりのようだ。
「ヤマトサンッ!」
「どうしたの?」
「サンジホウコウニテキヘンタイ、ソウスウヒャクイジョウ!」
「なんですって……!」
敵機の数にも驚いたが、何より敵機の来襲そのものの方が驚きが大きかった───あと一時間もすれば日没だ。この期に及んで攻撃隊だと………!?夜間の攻撃は航空機にとってリスクのはず。だがそこまで考え、大和は別の可能性に辿り着く。
まさか敵は、夜間雷撃チームを編成しているのではないか?そしてこのタイミングで戦艦群を差し向けたのも全て、此方の目的が"ユニコーン"の撃破にあることを理解し、我々を邀撃するために!
だとすれば──────罠にかかったのは、寧ろ我々の方だったのかもしれない。艦隊を囮にし、それを迎え撃ってくるであろう深海棲艦を退け、アリコーンと共に同行する"ユニコーン"を叩く──────それを意図した我々の行動は、その実“ユニコーン"を囮にした深海棲艦による艦娘艦隊の撃滅作戦の動きそのものに他ならなかったのだ………!
執拗な航空攻撃に続く接近中の敵戦艦群の補助艦艇も、明らかに我が方の夜戦撃破を企図した編成だったのも、その証左にしか感じられなかった。
「提督、敵は──────」
『ああその通りだ、罠に掛かっていたのは我々の方だった……!』
ほぼ時を同じくして、提督も敵の意図を察していた──────インカム越しからでも分かる滲むような提督の苦渋は、何よりこの作戦を立案し推進した中心人物の一人であるからこそだった。
「テートク、大丈夫ネー!私達はゼッタイ負けないし、必ず帰って来るカラ……!」
「提督は、提督の仕事に注力してください!榛名達は大丈夫です!」
「───そういう訳ですから、提督。こちらは私達に任せて下さい!」
『分かった………そうする事にしよう!』
彼女たちの言葉が、単なる励ましの域を出てない事くらい提督も分かっているだろう。そうであっても、屈託のないそれは提督の肩にあった姿形の無い重荷を少しは降ろしたのかも知れなかった。それを感じる程度にはインカム越しの提督の声には明るさが戻っていた。
『それとな……たった今、良いニュースが入ったぞ。勿論、君らにとって、だ。』
改めて発せられた提督の言葉には、重荷を下ろしたようなすっきりとした軽さがある。
「というと……?」
『戦場に立っているのは、君達だけじゃないぞ……!』
『───第2護衛隊より全艦、4時方向に新たな機影を確認──────IFF照合……友軍機!』
「え……!?」
護衛艦の
即ち、艦娘やそれに搭載される艦載機、それらと大してサイズの変わらない基地航空隊の航空機などはIFFに応答出来ないはずなのだ──────以前、アリコーンがその理由で赤城に直掩艦載機の有無を確認した事がある──────まさかこの期に及んで自衛隊機が出張って来るのか……?否、まさかそんなはずはない。では一体何が?
チラリと視線を向けた先──────そこで認める機影……大きい!
それは、巨大な多発機だった。見慣れた双発機──────銀河や一式陸攻──────の比ではない。もっと巨おおきい、それこそ二式大艇と比較されるべき巨体に見えた。だがその巨体は飛行艇特有の台形をしておらず、航空機として理想型の一つとも言える葉巻型の胴体をしており、4発の大型機という事以外に二式大艇との共通点はないように見えた。彼女達には、少なくとも今まで前線で見た記憶のない巨人機───否───記憶の端で、提督目が語っていた"ある機体“が符合する。
"運営が漸く開発に成功した4発陸上攻撃"それに思い当たる機体は唯一つ───試製連山……!
『キチコウクウタイ!サンジョーーォーー!』
通信機越しに聞こえた威勢のいい妖精さんの声と、胴体下に懸架された異様な存在感を放つMADがそれを確信へと昇華させる。
それだけではない。試製連山は数多の護衛戦闘機と攻撃機を引き連れていた。それは、基地航空隊の残余の戦力を全て投入してきていることを意味する。
美しい流線型のシルエットが艦隊上空を航過したとき、赤城の目がその先頭の機体に留まった。
「江草……!」
その赤城の声が聞こえた訳があるまい。だが編隊の先頭をゆく両翼に増槽を引っ提げたそれは、まるで赤城の声に応えた様にゆっくりとバンクしながら護衛の零戦隊とほぼ変わらぬ速度で遠ざかってゆく。
「江草って、確か、蒼龍さんのところの……?」
「ええ、彼女共々世話になっていました。」
航空母艦蒼龍の艦爆隊で名を馳せたベテラン艦爆乗りが、最近になって双発陸上爆撃機銀河に乗り換えたという話は以前から有名だった。
銀河(江草隊)───
「心強いですね。」
「まったくです!」
銀河を先頭にした爆撃機は敵の機動部隊に向かってゆく。そのシルエットが見えなくなったころ、チカチカとした明滅が夕暮れの空を彩った。
彼我の航空機の断末魔の輝きは敵機動部隊からの攻撃を牽制することを意味し、更に別の戦闘機隊が敵の雷撃機編隊に襲かかり、空からの脅威を可能な限り排除してくれた。
「さぁ、ここからはお互い水要らずの殴り合いですよー……!」
パキパキッと指を鳴らし、気合を入れて見せる。は
戦艦水鬼、戦艦棲姫計3隻。その後続も加えれば、戦艦だけでもその数は5隻!対して艦娘側は僅か3隻───しかも2隻は水鬼、姫クラスと正面から撃ち合うには些か不安の残る金剛型である。状況は明らかな不利──────勝つも八卦、負けるも八卦、しかしやらぬは損々!…………額を流れる冷や汗を拭い、改めて意を決し大和は命令を下した。
「増速、全艦砲戦よー」
『待て………大和!』
速度を上げ始めていた大和は、その声に卿減速をかけがくーん!とばかりにつんのめる。他の艦娘も大体同様。これが軍艦なら玉突き事故待ったなしであったろう。
「な、なんですか………!?」
『“増援”が来る!』
「は……⁉」
海自護衛艦の参戦、艦隊及び基地航空隊の全力出撃──────この海戦にいるべき役者は全て揃ったものと思っていた大和は面食らう。間に合うか微妙なタイミングだったんだ───提督はそう付け加えた。
………なんでも、この戦いの舞台はこの海域だけのものでは無かった様だった。
彼女達のいる北部太平洋沖合とは別に、そこから東西南北全ての海域で新たな戦線が構築され、戦闘が開始されていたのだ。
北方──────日本本土近海では、日付変更を待ち主要となる各鎮守府より艦隊が抜錨。太平洋側沖合で集結した各艦隊は"聯合艦隊"を編成し一斉に南下を開始、各所に点在する深海棲艦の拠点やその守備艦隊を尽く血祭りに上げ、その進撃は日没以降も続く見込みだ。"ユニコーン"と共に南下していた深海棲艦艦隊は後方に現れた聯合艦隊に忙殺され、これ以上この海域への戦力投入は不可能と見積もられている。
南方──────オーストラリア大陸を含むオセアニア地域の防備を任された連合軍各部隊はABDA艦隊を新たに新設し、同じく大陸に展開を終えていた優勢な陸上機群と連携、深海棲艦に占領されていた南太平洋各諸島へ一斉に攻勢を開始した。既に5ヶ所の島々が制圧され、更に迎え撃つ深海棲艦艦隊にも逆撃を加える事に成功し、戦果は拡大し続けていた。
西方──────今次作戦に際し、ヨーロッパ極東艦隊、同インド洋艦隊は現地海軍及び艦娘隊と共同し連合軍東洋艦隊を新編、作戦勃発と同期して大勢を保ちフィリピン海へと雪崩込んだ。さらに深海棲艦の拠点とされているグアム島に対して、米軍の新鋭超重爆撃機による空襲を加え、この海域に存在する深海棲艦へ圧力を掛け続けている。
そして東方──────深海棲艦戦争の海戦によって、米軍の一大拠点としての面影しか残さなくなったハワイ諸島、そこを母港とする太平洋艦隊に対して下された命令は現地司令官によって拡大解釈された。
可能な限り今時作戦の遂行を支援せよ──────米西海岸は主戦場となる海域から離れすぎており、有効な支援策が取れない事は事前に分かっていた。そこで今時作戦においては、ハワイはオアフ島にその所在を置く米海軍太平洋艦隊パールハーバー海軍基地に第3艦隊及び艦娘艦隊───米海軍では艦娘は海軍の隷下部隊として存在する───を集結させ、その部隊に支援策等一連の行動を任せることとなった………のだが、
稼働可能な全戦力を持って日本艦隊を支援せよ………!
命令一下、最低限の防備部隊を残し、軍艦や艦娘の別無くほぼすべての艦がパールハーバー海軍基地より抜錨した。そこには遡ること4日前、連号作戦のうちに行われた海戦にて壊滅した、CFT-200の生き残りも多分に含まれていた。
仇討ちとばかりに燃える艦隊は、立ちはだかる深海棲艦群を続々と薙ぎ倒し、行く手を塞ぐ拠点という拠点に襲かかり、破壊の限りを尽くしていた───そしてこれらに留まらず、ハワイ・オアフ島司令部は「現場海域での戦闘部隊に対する、更なる直接的で確実な支援」を語っていた。
──────これら同時多発的、複数方面からの深海棲艦への攻勢は、太平洋という地球最大の海洋が有する、圧倒的な距離という壁を前にしても、間接的な掩護、助力として機能していた。深海棲艦側も今時作戦の重要性を鑑み、多量の戦力を投入しているだろうことは、作戦考案の以前より十分に指摘されていたことだった。その戦力集中を逆手に取り、相対的に戦力比率の薄くなった各戦線への攻撃を行い戦線を崩壊させる──────はたしてその目論見は成功し、深海棲艦にはもう、この海域に投入できる余剰戦力が存在しなかったのだ。
敵はジリ貧……それに加え、提督は"増援が来る"と────!?
勝てる……!
刺し違えてても止めて見せよう……そう大和に覚悟させるだけ存在した戦力差が埋まり、しかも敵側にはその望みが無い──────大和の口角を上げるには十分すぎる材料だった。
『───注意!5時方向、
「味方機だ……!」
護衛艦のレーダーが低空より接近する機体を探知し、そこから1分程度の間を置かずして水平線の彼方から陽炎を背負い現れた機影──────大型エンジン2基をぶら下げた高翼の機体構造──────輸送機………!?
「あれが増援……!?」
まさか──────通常の航空機が増援として来るのは、正直歓迎し難い。しかも輸送機とは、一体何を考えているのか?──────提督は"増援"と言い切っている以上、補給部隊の類でもあるまい──────
(それにしても……)
輸送機の高度が些かばかり低すぎるように感じた。高度は100mは切っているのではないか?
しかも減速し、フラップを下ろし始めている……?着水でもする気か!?
クジラのような胴体を伴った双発の巨人機は、2機が連なるようにして海域へ侵入を果たしている。幸いにして基地航空隊の活躍もあり一時的にではあるが周辺空域の安全は確保されているし、敵艦隊の対空砲火もここまでは届かない。
だからといって輸送機2機が何をしようというのか……?
「あれはC-2か?まさか。米軍だろう……!?」
「こっちに来るぞ!」
『───こんにちはレディ、こちら救世主便。シートベルトを締め、テーブルをお戻しになり、行動に備えてください。』
後部ランプドアが開口するのが見える──────エアボーン……?
C-2の機体後部から花開く白い花───開傘!やはりパラシュートを使った何らかのエアボーンのようだ───たどして、やはり何を──────?
ガコォン!……パラシュートの繋がれたワイヤーは、機内のパレットに繋がっている筈だった。そして案の定、投下されたパレット。一瞬、パレット全体が空中に放り出されるも、その低高度ゆえに瞬く間に海面に突っ込み烈々たる水飛沫を上げる。陽光に照らされた水滴の数々がダイヤモンドダストのように中空を彩った。
それは一つではない──────矢継ぎ早に投下されたパレットの数はC-2輸送機1機につき6枚。合計12枚のパレットが同じだけ飛沫を散らし、サーフィンのように波を超えていた。
「……!?」
パレットは自らの掻き上げた波に、まるでサーフボード
でもやっているかのように乗り、減速を繰り返す。
否──────サーフボードの「ように」ではない。大和の双眸がそのパレットの上に人影らしきものを見出し、それはサーフィンにも似た容量で波を乗りこなしている!
衝撃に耐え兼ねてか───あるいは規定の作業か───やがてパレットは真っ二つに割れてしまう。そしてその向こうから現れた物は人影そのもの──────否、軍艦を思わせる巨大な武骨さを背負ったヒトの女性型の曲線のそれは、深海棲艦以外では艦娘の持っているものだった。
バサァッ!とマントを捨て去るヒーローのようにパラシュートを脱ぎ去りった、夕陽に翻るブロンドが眩しいその艦娘に、大和達は見覚えしかなかった。
「まさか……アイオワさん!?」
大正義ユナイテッド・ステイツ・フリート見参!そう言わんばかりの身振り手振りで登場を果たした彼女は確かにアイオワの出で立ちをしていた──────だが、その艤装は大きく変わっている。
最も目を引く変遷は、彼女の主砲、16inch三連装砲 Mk.7が3基9門から4基12門に増大していることだった。
「ノン、ノン、ノンッ!今のMeは
ハワイオアフ島司令部が語った「更なる直接的で確実な支援」とは、大胆にも、艤装を背負った状態の艦娘を勇躍空中機動させ、輸送機によって戦場に落下傘降下させることだったのだ。それも12隻という決して少なくない数で……!
そしてその陣容もまた、通常の艦隊として見ても十分に強力と言えるものだった。
戦艦 アイオワ ニュージャージー
空母 ホーネット エンタープライズ
重巡 ボルチモア ボストン
軽巡 アトランタ
駆逐艦 フレッチャー ジョンストン アレン・M・サムナー クーパー ギアリング ジャーヴィス
白鳥の羽依を纏ったワタリガラスがあしらわれた紋章を背負った彼女達の名は──────
今回登場したアメリカ艦隊のうち、原作にない艦娘については、後日ラフですが設定画などを公開予定です!(まだ書いてない)(予定は未定)
大和改ニを51サンチ砲6門で出した理由が、このモンタナことアイオワMk.2の16inch砲12門どの対比にしたかったからですね。
あと、最近ドンパチが少なくて申し訳ないですな……