戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》 作:お猿プロダクション
自分は貯めていたネジを溶かして瑞雲改二を手に入れました。皆さんは如何でしたか?
20XX年
9月30日 19時20分
北太平洋沖合
「まさか空挺部隊として増援が来るなんてね……。」
パラシュートを切り離し、集結し隊列を組み始めたアメリカ艦隊を眺め大和は呟いた。
「HAHAHA!驚いたヤマト!?」
従来よりも一層にその重厚さを増した艤装とは対象的に、相変わらず物理的に開放的な服装をしているアイオワは快活に笑う。その傍には見慣れない艦影が………否、艦影の持ち主の艤装そのものには見覚えがある。長身が目立つ3連装の砲身───Mk.7 16インチ50口径砲───3基を聳り立たせたそれは、明らかにアイオワ級戦艦の艤装だった。
しかし、大和はその艤装を持つ女性の方には、見覚えがない。
背丈はアイオワよりやや小さい程度で、十分な長身を持っている。海風になびくバラ色の頭髪は斜陽を浴びてルビーにも似た宝石のような輝きを放っていた。服には、艦番号と思しき「62」の数字が刺繍されている。
「Nice to meet you.
握手を求められる距離でも状況でもなかったが、ニュージャージーを名乗る赤髪の女性は気さくそうに大和へそう言った。だがその声色は、気さくな雰囲気はあっても、同時にどこか近寄り難い"何か"を持ち合わせてもいた。
その"何か"の正体が、実力者が得てして有する貫禄のそれであることを、同じく実力者であった大和は直感する。
戦艦ニュージャージー………それはアイオワ級戦艦2番艦にして、「
名だたる高い実力とそれに裏打された確固たる自信を溢れさせる表情や仕草──────だがその一方で、同じく実力と自信を兼ね備える姉のアイオワと違い、常に何処か一歩退いた立ち位置に居るように大和には感じられた。
それは若干天然で茶目っ気のあるアイオワと並んでいるからそう見えるだけなのか、それともニュージャージーの生まれ持った性分から来るものなのかまでは大和にはまだ分からなかった。
「───名は存じています。ここまで遥々来援された事、感謝します。」
「それは……MeではなくIowaに。」
敬礼と共に返した言葉に、ニュージャージーは増援艦隊の旗艦を指差して答えた。その
「そうでしたね……感謝しますアイオワさん。現在の状況の方は、そちらでも共有出来てますか…………?」
「オフコーーーースッ!!あのエネミーをブッ潰せば
敵戦艦群のいる方向を指差し、アイオワは高らかに叫ぶ──────相変わらず、自信に溢れた星を眼に携えて。敵戦艦群と差し違える覚悟を最初こそ持ってはいたが、これ程頼りになる味方がやってきたのならば話は違う。総数において倍近い開きがあり、戦艦の数においても3対5という圧倒的な劣勢、しかもそのうち戦艦水鬼及び戦艦棲姫とまともに殴りあえる戦艦は大和1隻のみという状況だったのだ。それが予想外の米艦隊参戦により、戦艦の数において同等、艦隊総数でもほぼ同等にまで状況は好転した。
「敵旗艦以下3隻は、私とアイオワさん、ニュージャージーさんが叩きます。金剛さんと榛名さんは、ル級2隻をお任せしたい。」
「任せるデース!」「お姉さまとだったら、榛名!どんな敵にも負けません………!」
その後、大和は改めて指示を出す。旗艦である彼女自身を先頭においた、縦深隊形を採ることを選択する──────劣勢だった当初は同航戦に持ち込ませ、時間を稼ごうとしていた彼女だったが、戦力差が埋まった今、その必要は最早ない。
反航戦によって一気に距離を詰め、早期の内に決着を図る……!
──────実は大和ら艦娘隊には、そうしなければならない理由も存在していた。
それは、本来の作戦目標たる"ユニコーン"の捜索である。ソノブイバリアーの中に敵潜水艦が侵入していても、その位置を正確に割り出すには哨戒機部隊による綿密な捜索が欠かせない………だが、洋上に敵艦隊が健在なのでは非力な哨戒機部隊にとって巨大な脅威になるのは必定だ。加えて、大和ら水上打撃群の後方には赤城麾下の機動部隊も控えている。当然、敵戦艦群と撃ち合えるような艦隊ではない。
作戦を果たすためにも、敵艦隊の足止め若しくは早期撃破は必須だった。
「ヤマトサーン。」
「うん?」
後部甲板……大和の航空艤装を司る艦尾部分からひょっこりと顔を覗かせたのは、航空整備士の妖精さんだった。
傍らには既に整備を済ませ、あとは発進の命令を待つばかりとなった瑞雲12型が佇んでいる。
──────そのとき大和の脳裏に浮かんだのは、つい10日前に実施された天号作戦の折──────眼前に立ちはだかった敵タ級戦艦群をして、観測機を上げずに電探と測距儀による砲戦で応じた折の事だった。
あの時は、空母艦載機及び陸上基地航空機の脅威が取り払い切れていなかったことを理由に大和は観測機を上げなかったが──────今回は大和は観測機を上げるつもりだった。敵空母艦載機の脅威が排除されていないにも関わらず──────
敵戦艦群の早期撃破が最優先である以上、砲撃の命中精度を担保する観測機の存在は不可欠だ。非情なようだが多少のリスクを被ってもらうしかない──────「弾着観測、お願いします。」静かに大和は命じた。
「リョウカイ!」
カタパルトに運ばれてゆく瑞雲12型……以前大和が搭載していた零観とは比べ物にならないほど機体性能は向上している。だが所詮は水上機、本職の戦闘機には敵うべくもない。敵空母艦載機に襲い掛かられたら、ひとたまりもなないだろう。
ともすれば「死ね」といっているにも等しい自身の言葉に厭忌の念を抱かないではなかったが──────否……そんな考えはやめよう、と大和は自分を戒める。前回も今回も、自分が命じる前から、妖精さん達は機体を用意していた。
妖精さん達とて、初めから無事で帰れようとは微塵たりとも思ってはいなかった。今次作戦に限らず、大和を含めた艦娘達と同じくらい妖精さん達もその覚悟を持って挑んでいるのだ。そんな事を慮っている方が、何より妖精さん達に礼を失していたのではないか?
「ズイウン、ハッシンジュンビヨーーシッ!」
「カタパルト旋回、弾着観測機発進!」
ドンッ……!瑞雲12型が火薬式カタパルトによって弾丸のように打ち出される。4t近い瑞雲12型の図体だが、大和改二の強化された航空艤装は難なく海上へと押し出した。
その瑞雲12型を見送った大和は通信機を弄る。
「──────大和より各艦へ、弾着観測機の発進を求める。」
『Received!』『マァム。』
アイオワ、ニュージャージーの艦尾艤装が起動し、カタパルトが獣のそれにも似た唸りを上げて側方に伸ばされてゆく。
ドォ……ン……!
射出──────2人の艤装から風に吹かれた羽毛のような軽やかさをもって水上機が飛んでゆく──────それは、OS2U、SO3C シーミュウの長い胴体や、SOC シーガルの複葉とは全く異なり、洗練されたシルエットを持った
それが新鋭水上観測機、SCシーホーク……!単座でありながら自動操縦装置の搭載によって観測機としての要求を満たした本機は、その単座であることに起因する機体性能の高さが特徴であった。
日本海軍でよく用いられる瑞雲や紫雲といった主要な水上機を軽く引き離す時速500km以上の最高速度や、大馬力を誇るエンジンによって繰り出される運動性は、寧ろ二式水戦や水上戦闘機 強風などと比べられるべき能力に達している。
そうした水上機の発艦は金剛と榛名の航空艤装でも起きているべきだったが、金剛はある理由から榛名の水上機発艦を止めさせて、大和へ通信を図っていた。
『──────第一艦隊金剛より大和へ意見具申。』
「金剛、なにか?」
『榛名の観測機はワタシと共同にするのはどうデスカ?』
「………。」
金剛の意図は、大和にもすぐに分かった。
榛名の搭載する水上機は瑞雲のような高性能な機体ではなく、零観や零式偵察機など旧型で能力の劣る機体ばかりである。なぜかと言うに、答えは簡単で榛名改ニの航空艤装は、同型艦ながら更なる近代化改修を施し強化された航空艤装を装備する金剛改ニ丙よりも劣っているからに他ならない。
その程度では、
そしてそれ以外にも、金剛は考えがあった。
「ふむ、ル級をですか……」
「イエース!」
金剛は榛名との統制射撃を行い、敵4、5番艦を務めるル級のうち片方の艦を集中攻撃しようと企んでいたのだ。そしてそれならば、観測機は金剛の放つ機体だけでも役割を果たせる。
一瞬の間──────大和は迷った。
戦艦水鬼を含む敵戦艦群に、攻撃を受けない放置された艦を出したくなかったのである。
しかし、大和が迷ったのは本当に一瞬。そこまで考えた時、大和は金剛と榛名の練度を信じるほうが良い、と察した。
ル級は脅威だったが、本当に放置したくないのは旗艦である戦艦水鬼、そして敵2番艦3番艦を構成する戦艦棲姫の3隻。これらは
それならば、金剛と榛名の練度と連携に託してル級を早々に葬ってもらった方が、得策ではないか?
「許可します。ル級は頼みましたよ金剛さん、榛名さん。」
『任せるデース!』『やってみせます……!』
通信を終え、ややすると金剛の瑞雲が暮れかけた空へ飛び立った。
そして戦艦群への対応を固めるさらなる一手として、大和は第一艦隊の駆逐艦娘達を率いる軽巡 五十鈴を呼び出した。
「五十鈴さんは雷撃戦に備えて艦隊前面に展開、雷撃のタイミングは任せます。」
『了解、任せておいて!』
──────対空、対潜に重視を置いた改装後は、あまりその気がなかったが、その実五十鈴には新型魚雷発射管の装備により酸素魚雷の運用能力を得ていた。それは5500トン級本来の任務である水雷戦隊旗艦としての能力も果せる事を意味する。
五十鈴の指揮の下、高波、江風、長波が増速し艦隊全面に躍り出た──────かつては33ノットの高速を誇ったアイオワは、改装によって火力と防御力の代償として現在は低速の部類に入る──────少しつまらなさそうに水雷戦隊の背中を見送った。後続するニュージャージーは、そんな姉の背中を見て苦笑する。
とはいえ、ただ見送って苦笑いしていただけではない。敵の水雷戦隊への対応策も同時に考えていた。
「
「「Roger!」」
──────指示を受けた駆逐艦2隻が増速し、先行した五十鈴麾下の水雷戦隊の後を追う。実はフレッチャー級駆逐艦系列の雷撃能力は高く、一度の射線数で見た場合大抵の日本海軍駆逐艦より多い。フレッチャー級発展型であるアレン・M・サムナー級に名を連ねるこの2隻も同様である。
次発装填装置こそ無いものの、魚雷10本の同時投射能力を上回るのは島風の15本くらいであろう。
「……
『ヤー。』『イェアー。』
ニュージャージーが読んだ2つの名前……その名を持つ2人の艦娘は、どこか気の抜けた返事をする。ボルチモア級重巡洋艦───それが彼女達を示す種別で、艦級だった。同級は、米重巡の中でも特に能力が高いと評価されている。
「Youは
『ヤー。』『サー。』
「……ちょっと!?どっち今「サー」って言った奴!?」
「サー」は男性称である。女性に向かって言うのは大変失礼だ。ボルチモアとボストンは「HAHAHAHA!」と高笑いを残して増速してゆく。
ニュージャージーは今すぐに最大戦速にまで機関を回し、何方か、或いは両方の脳天を殴りたかったが──────ボルチモア級の速度はアイオワ級とほぼ同等なので、ニュージャージーが今すぐ本気で追いかけたらボルチモア級姉妹は逃げ切れない可能性があるのだ──────今は「
本来米艦隊の旗艦であるアイオワよりも、米艦隊2番艦のニュージャージーのほうが細く、的確な指示を出す様を見た大和は、ポツリと「なんというか、ニュージャージーさんのほうが旗艦らしいですね……」と呟いてしまうが──────
「What!?」
それがアイオワの耳朶に触れる。ムキーー!と歯を食いしばるアイオワとて、当然ながら棒立ちしているわけではない──────が、それ以上にニュージャージーの方がより旗艦然としていて、アイオワ自身それを認めている節が───それどころか“優秀な
「he he he……MeにはココがBest Positionなのです。」
──────実はこれは、“実力のある者は一歩下がった場所に居るくらいがカッコいい”という彼女のポリシーに基づいた行動だ。ニュージャージーという艦娘は、旗艦を務められる指揮能力と状況判断能力、そして単純ながらも重要な、艦単体の高い実力を有しながら、それを進んで辞退し2番手に徹しようとするタイプなのだった。
指揮能力の十全なる事を見せつけたニュージャージーの才華が、次に発揮されたのは状況判断能力の高さだった──────彼我の距離が縮まり、最大射程には既に入っている頃………「ホウコウエンミユ!」見張り員妖精さんの報告と同時、弾着観測機からも「敵艦発砲」の報せが届く。最大射程からの砲撃で此方の機先を制するつもりか?………だが、初弾での命中を望むことなど論外甚だしい。大和は回避をせず直進することを隷下艦艇に命じた。
ドォーーン……‼︎まるでそこだけ海をひっくり返したような大規模た着弾の水柱、その巨大さから察するに、砲撃艦は20インチ砲搭載艦戦艦水鬼に違いなかった。着弾そのものはまばらで、精度も当然ながらお粗末そのものだったが、それでも敵の火力の強大さを窺わせるには十分な物がそれにはあった。
『──────司令部より各艦、敵戦艦から高速飛翔体が分離。第一艦隊へ接近中───方位3-5-0、数4……5。的速120──────いま増速した。的速150。』
「提督、これは───」
『敵の観測機と見て間違いないな。」
砲撃の精度を高めるために敵が観測機を上げてくるのは予想出来ていた。味方機動部隊は敵機動部隊への対応を強いられている。また夜が近いために下手に戦闘機を出すことは難しい。
しかし観測機を放置するのは愚策──────
「瑞雲を上げて敵機を邀撃します。カタパルト用意……!」
『ヤマトさん、インターセプターは要らないかと。』
「え……?」
ニュージャージーの進言の真意は、直後、大和の電探にも探知される。
「ジョウクウニコウクウキ!」
「⁉︎」
紺色を纏った寸胴が艦隊の上空を過ぎ去ってゆき、それらはややもせず瑞雲12型他の観測機達をも追い抜かし、敵観測機の前に立ちはだかった──────寸胴の正体は空母エンタープライズが放ったF6F-5N ヘルキャット。
ナイトヘルキャットとも言われるこの機体は夜間戦闘機の類で、空が闇夜の中に閉ざされていも行動可能だ。
戦闘機としての能力も高く、烈風や紫電改ニなどにも引けを取らない。観測機如きが相手取れる戦闘機ではなく、12.7mm重機関銃6丁からなるシャワーのような弾幕を浴びせられ、敵観測機を瞬く間に火達磨にしてしまう。
「相変わらずタスクが早いわね、“BIG E”」
『そちらも“BIG J”に恥じないタスクをこなしなさいよ。』
BIG Eことエンタープライズの心地よいハスキーボイスが鼓膜を揺らす。
米機動部隊が赤城他の機動部隊に合流したことで、機体に余裕があったのだ。
『コチラカンソクキ、コレヨリダンチャクカンソクヲカイシスル!』
舞台はこちら有利に整いつつある。
あとは演題を演じ切り、勝利を規定のもののするだけだ───そして、そのための命令を大和は下した。
「全艦、砲戦用意!目標、反航する正面敵戦艦群!」
大和の46cm砲を上回る、圧倒的な威圧感を醸し出す51cm砲が剣呑な存在感もそのままに、その重厚な鎌首をもたげ水平線を睨む。
アイオワの増備された長砲身16インチ砲、その計12門もの主砲が列をなして居並び、その様は重装歩兵のファランクスを思わせたかもしれない。
「斉射!ッ撃てェーーっ!!」
轟音──────!!!扇状に放たれた衝撃波が戦海を歪め、揺るがし、その圧倒的でおどろおどろしさすら感じさせる砲声は、行く手を阻むあらゆる障害を粉砕することを予感させる。
流星の様に撃ち出された砲弾は、まるで夕闇に落ちゆく空に一石を投じるかのような輝きを持って遥か上空を過ぎ去り、水平線の彼方へと消えていった。
というわけで瑞雲がチラッと出てくる回でした!あとニュージャージーその他()
ちょっと12月は気合い入れてやれればいいなぁ(希望的観測)と思ってるのであと1、2回更新したい!(願望)