戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》 作:お猿プロダクション
突貫で書いたので誤字脱字等多いかもしれません………
日本国
戦略機動打撃艦隊
某島鎮守府
艦娘寮兼司令部施設 地下1階
統括作戦指揮室
大和らが敵戦艦群との砲戦を開始する20分ほど前、マティアス・トーレスは潜水艦交信用の通信機の前に陣取っていた。
アリコーンとの定時連絡のためである───潜水艦は水中に潜ることが常であるため、定期的な連絡をしなければ味方でも無事が確認できない───隠密性が命である潜水艦が自座標を知らせるような真似をするのは全く得策ではないが、居るべき場所に居るべき艦が居ない、というのも作戦上重大な問題である。
しかし多少のリスクはアリコーンの能力を持ってすればさしたる問題では無いのだった。
アリコーンはSLBMを搭載した戦略原潜としての建造経緯も持つため、その通信能力の隠匿性は他の潜水艦娘とは一線を画していた。
潜水艦にとっては必須とも言える長波通信受信用曳航アンテナや水中通話機はもちろん、指向性短波通信能力も備え、深海棲艦如きに容易に探知を許さない多機能高機能ぶりである。
「───状況はどうか?」
「発信中です。そろそろ、
ヘッドセットを片耳にあてると、空電音──────暫くしてプツ、という電子音が続く。
「いま接続した……データ送信開始。」
アリコーンには、この時点での戦闘経過──────敵艦隊の発見、空母艦載機の応酬、それによる浜風他の艦艇に生じた損害、そして敵戦艦群との遭遇──────が送られている。
アリコーンは、最終的に艦隊と合流して今次作戦の最終目標たる“ユニコーン”の撃沈に当たらねばならない為、味方艦隊の受けた損害や状況は事細かに知っておかねばならなかった。いざ艦隊合流と来たときに、頼りにしていた味方が破られていました、離脱していました、では話にならないからだ。
そしてこのデータ送信自体、アリコーンへの通信としてではなく各基地や艦隊への状況報告といった体の内容で発信されている。当然暗号化されてはいるが、深海棲艦がこれを傍受し、万が一暗号の解読に成功してその内容を知り得たとしても、深海棲艦は大した情報は得られないうえ、アリコーンの存在は伏せられたままとなるのだ。
「…………。」
ツーーー───………と、高い空電音が鼓膜を震わせ続ける。そこに“カチカチ”というスイッチを押すだけの軽音──────アリコーンからの返信の合図だった。探知され辛いとはいえ、潜水艦から発信する電波は最小限でありものだ。だからマティアスは、航空機が返電をするときに行う通信機のスイッチを押すだけの簡素な返信を行わせるようにしていた。
「アリコーンからも反応ありました。
「ご苦労だった…………偽装偵察の方はどうか?」
──────実はこのとき、偽装偵察のための航空機の方にトラブルが発生していた。具体的には、給油器系に関わるマシントラブルだ。
コールサイン“ソード4”が給油中に乱気流に遭い、受油口を破損し航続距離の延長が不可能になったのだ。それは即ち、“ソード4”にバディポッドを用いて給油していた“ソード2”の給油能力の損失も意味する。
「“ソード3”はまもなく目標上空に到達──────“ソード”1、2、4は既に帰投コースに入っています。」
──────結果として、任務を遂行可能な“ソード3”に必要な給油を行い、給油機隊は予定通りに帰投、それに追従して“ソード4”も早々に帰還の途に就く事になってしまっていた。
近くのディスプレイに目を落とすと、そこには“ソード”隊を示す輝点が表され各機の速度、高度及び針路などが数値化されている。
そのうちのただひとつ、“ソード3”のみが予定のルートを示す線上を移動していた。その輝点はじきに目標の島へと到達する──────
〜〜〜〜〜
同刻
北太平洋沖合
上空
ラファールMの広い視界を提供するコクピットは、有視界戦闘における交戦性の向上や、今次作戦のような偵察任務に於いても
だが、大きく傾斜がかけられたシートと共に、さながら空中に放り出されたような感覚を覚え、たとえ慣れ親しんだ機体だとしても何処か一抹の不安を感じざるを得ない。
それはもしかしたら、本来ならいるはずの僚機が給油系の事故で欠けてしまったことに起因するのかもしれない。
「──────。」
コールサイン“ソード3”ことルイス・バルビエーリ中尉が機上の人となってはや数時間が経過しようとしていた。
アリコーンが作戦に参加することを敵に悟らせないための偽装偵察──────とはいえ、その任に欠片ほどの偵察意義が無いかといえば、そうではなかった。
今回の偵察目標に選ばれた火山島の敵泊地は最近になって発見されたもので、その規模、状況共に大まかなものしか掴めていない…………未確認の敵基地を偵察する、これ以上に意義のある偵察行動というのもなかなかあるまい。それだけに、この偽装偵察による陽動もより効果を発揮しようというものだ。それにこのラファールMの優れた情報収集能力であれば、本職の偵察機と同等程度───否、技術力の差を鑑みればそれ以上───の偵察情報をもたらしてくれるであろう。
MFDに目を落としてみると、機体が間も無く目標の島へと到達することを示していた──────ちなみに、時期の位置を示すディスプレイ以外のレーダーディスプレイは暗く沈黙を守っている。ラファールMの先進的なレーダーであれば余程の事がなければ深海棲艦に逆探知される事もないだろうが、万が一に備えて電波管制を行なっているためだった。さらに言えば、“ユニコーン”の関わりがこちらの想定より大きかった場合、いかにラファールMと言えども逆探知される可能性があるため、どのみち電波管制は必須であった。
ほぼ予定時刻──────操縦桿を押し倒し、ラファールMの機体を黄金色の空から、延々と続く黒いカーペットの様に広がる海に向け機体を降下させる。ピッチスケールの傾きに合わせ視界を占める黒の割合は大きくなり、HMDに表示される高度は見る見るうちにその数値を減らしてゆく。
雲海──────陽の光を受け、聳え立つ黄金の壁の如き風体を得たその巨体に向けて、ラファールMの猛禽にも似た流線形が、些か程の抵抗もなく突っ込む。
高度が高すぎては目標を識別できない。
ビリビリと機体を震わせる振動は雲中の気流の力強さを厳然と示し、こんな雲が出来上がる空域では、空中給油中の事故のひとつやふたつも起きるものであろう……と印象付けられた。
そんな雲の切れ間に見えた海──────陽に照らされた海面の反射がキラキラと瞬き、砂金の如き微かな輝きを見せていた──────そこに向けて、フットバーと操縦桿を駆使しゆっくりと針路を取る。
「アトスコシ……。」
独りごちに出た言葉───そこに含まれていたのは微かな緊張──────ルイス・バルビエーリ中尉はSACS部隊のエースパイロットの1人として───戦闘機乗りとして───ラファールMを駆っていたが、偵察任務というのは初めてだ。
雲間を抜け、眼下に広がる海原に見えたのは島嶼……犬歯を思わせる切り立ったシルエットは、火山島というより
「コレハ………!?」
そしてさらに島へと近づいた時…………ルイス・バルビエーリ中尉の目に映ったのは驚愕すべき光景だった。
〜〜〜〜〜
19時05分
日本国
戦略機動打撃艦隊
某島鎮守府
艦娘寮兼司令部施設 地下1階
統括作戦指揮室
陽動たる偽装偵察を任された“ソード3”によって報じられた情報は、寿号作戦本作戦によって生じた多くの衝撃を、一瞬で吹飛ばしてしまうほどに衝撃的で、かつ、絶望的なものだった。
「なんだこれは………!?」
マティアスの絞り出したかのような声。偵察の意義は──────大いにあったと言わざるを得ない。この未確認の深海棲艦の拠点は、我々の想像を遥かに超えた重要な存在だったのだ。
そしてそれは、ただ規模の大きさ故にもたらされた驚愕ではなかった。
ラファールMの赤外線センサーが捉えた敵情───リアルタイムで送られているそれは、明らかに泊地の様相を呈していた。たが真に問題なのはそこに停泊している深海棲艦そのもの──────マティアスの背に冷や汗が走る。
「あの敵艦を識別可能か?」
「既存のあらゆる深海棲艦との艦級、艦型が一致しません……!」
データベースを確認するオペレーターの声に、マティアスの背の冷や汗はおよそ倍になった──────あの“三本線”と対峙した時ですらこうはならなかった──────その脳裏に嫌な考えが浮かび、こびり付く。
そして疑念は確信へと変わる──────それも、最もそれも、最も起きて欲しく無い方法で。
「“ソード3”がレーダー照射を受けています!」
「馬鹿な………‼︎」
〜〜〜〜〜
同刻
北太平洋沖合 深海棲艦泊地
上空
「チャフ、フレアー!」
ボボボ………と胴体下から吐き出された火球が煙の尾を曳いて中空を彩る。突き上げた槍の如き光の矢───ミサイル───がフレアに突っ込み、自爆した。
訪れるべきでない異変は、上空に達して僅か数分とたたぬ内に始まった。突如としてレーダー警報装置が吹き荒れ、それは眼下より迫る幾筋の白線に依って現実のものとなったのだ。
対空ミサイルを装備する深海棲艦などありえないはずだ!──────何故ならそれらは、現用軍艦しか持たない装備であり、艦娘はもとよりそれに類する存在である深海棲艦もまた、例外ではないからだ。唯一の例外は──────
「………!?」
そこまでの考えに至ったとき、バルビエーリ中尉の頭に不可視の火花が散ったかのように思えた。それは、ここより遥か距離を隔てた鎮守府は司令部施設に居座るマティアス・トーレスも同じだったに違いない。
再び警報──────機体を思い切りバンクさせ、操縦桿に力を込める。同時に放たれるチャフとフレアを金箔の吹雪のように撒き散らしながらラファールMはハイG機動を繰り出しミサイルを回避する──────帰りの燃料も考えると余りに大胆な回避機動は出来ない。それでも敵ミサイルを躱すためにはこうした燃料を大きく消費する飛行をしなければならないことに、彼の苦しさがあった。
更には──────ハイGによるブラックアウト──────自身の上に何人もの屈強な男がのしかかってるかのような重圧、脳から奪われる血液、吹き荒れる警報装置、視界の端から迫ってくるミサイルの軌条──────それらは全て、目下にある最も危険な存在を如何とすべきかすら思考できない。
ドォ……ン!
後方で爆発したミサイル、更に前方でも、チャフによって目標を見失ったミサイルが横切り近接信管により自爆した。
「………!」
その外れたミサイルの最後の光景を見て、バルビエーリ中尉はあることを思いついた。ここは固定目標だ………そうか、逃げない───俺と違って、あの泊地は逃げない!それは極限環境で捻り出されたポッと出の考えに過ぎないが──────彼は通信機のスイッチを押した。
〜〜〜〜〜
19時08分
北太平洋沖合
主戦闘海域より後方数十km
直ちに浮上せよ──────潜航中にも関わらず、長波通信によって司令部から受け取った命令は、海中にあって外部の状況から遮断されたアリコーンにとって不可解なものだった。
だが命令は命令。それもマティアスからのものとなれば、今のアリコーンにはそれを拒否する選択肢も理由もない。
「メーンターンクブロー!」「カジソノママー。」「アリコーンフジョウ!」
海水を押し退けて現れたシルエットはやがて明瞭な輪郭を持って海上に現れ、潜水艦娘としては破格の巨大さを残るとは思えぬほどの滑らかさを持って浮上した。
指向性短波通信アンテナを展開し、アリコーンは司令部との通信を開始する。
「司令部、こちらはアリコーン………浮上しました。」
『時間が押しているから手短に話すぞ、アリコーン。緊急事態だ。』
「……?」
マティアス程の男が何の躊躇いもなく放つ「緊急事態」の言葉に、アリコーンは驚愕よりもむしろ奇異なものを覚えた。
彼がそう断言するほどの事態とは、一体如何ほどの事だろうか?………と。
そして先に言った通り手短に話されたその内容は、正しく緊急事態というほかなく、アリコーンをしても驚嘆に値するものだった。
「艦長、それは………まさか。」
「深海棲艦は、
深海棲艦が配備したばかりの新型艦を短時間で量産したり、或いは撃沈した新型艦が別の海域で再三確認されたり、といった事象は確認されてはいた。
だがまさか、それをこんなところで……!?アリコーン級ほどにもなれば、その建造、維持共に深海棲艦といえども想像を絶する負荷が有るはずだ。それにも関わらず、偽装偵察によって確認されたアリコーン級の数は10隻近いという。
可及的速やかに、かつ確実にこれらは排除されなければならない。目下作戦目標たる“ユニコーン”のみより明らかに脅威だ───マティアス少佐はこれを解決する方策をただ1つだけ用意していた。
『アリコーン、直ちに命ずる。核砲弾を持って敵泊地を殲滅せよ!』
「え……!?」
『“ソード3”の位置座標を使用し核砲弾による精密砲撃を実施するのだ。直ちに──────』
「ま、待ってください、それでは、ルイス・バルビエーリ中尉は……⁉」
『これは
「………!?」
誘導砲弾による精密攻撃──────それは“
それでも、あの時はSLUAVやアドドローンに仕込んだ誘導装置を使っていた。それをラファールMで、有人機で!
ふつふつと湧き上がる怒気にも似た感情──────十死零生などとうの昔に通った道だ。だが、戦いに身を投じて死に逝くのではなく、自らを味方に殺させる様な戦い方はしてこなかったはずだ!そんな………醜い戦いは!
その激昂の先は、こんな
「ルイス!?貴方どういうつもり……!」
『オレノキョウダイガイッテイマシタ。オレタチハユウレイナンダ、イマサラシヲオソレン!……ト。』
「何を」
『アリコーンサン、カンチョウ……コノタタカイヲ、オネガイシマス!』
別れの言葉のつもりか、この男は……!?「今度は帰って来るから、遺書はいらない」と言った出撃前のあの言葉は何だったのか?
「そんなことを言っているんじゃない……!」
『ジカンガアリマセン!ネンリョウモモタナイカモ───カナラズウマクイクヨウチョウセイシマスカラ、アトヲタノミマス!…オーバー!』
「っ───!」
通信が切れるのと同時………アリコーンへとリアルタイムで送られていた戦術情報端末上の“ソード3”の機体座標の更新が止まる。位置は、敵拠点の直上──────
『アリコーン、ルイス・バルビエーリ中尉の努力に報い、世界を救済せよ───美を、完成させろ!それが出来るのは今この世界で、お前だけだ………!』
「……っ。」
事ここまできて、もはや逡巡はない。あるのは、噛み締めた唇から漏れ出す悔しさだけ─────私は、この世界でこれほどの力を得ながら、自分の乗組員も守れなかったのか?
それすら守れないのなら‥‥…それを預かるマティアス・トーレスの身心すらも、もしかしたら私の手元から消え去ってしまうのかもしれない?
自身の力の意味するところを、さながら深海から伸びてきた腕が攫っていく様な感覚を覚え──────カッと見開いた地獄の色の瞳は、どす黒い迷いに満ち満ちていて、それを振り払う様に声を荒げてアリコーンは叫んだ。
「艦砲射撃準備ィ!目標、深海棲艦大規模陸上拠点ッ……‼︎」
ゴォーー……ン──────起重機の如き低音を携えて、アリコーンの重厚長大な艤装から多角形が迫り上がる。それは丁度ど真ん中で分割され、そのまま大蛇が鎌首もたげる様な威容を持ちながら上空へと向けられる。さながら、槍騎士が自らの得物を掲げる様に──────それはアリコーンがアリコーンたる所以。彼女の最大にして最強の矛──────128口径、70m以上という圧倒的な砲身長を誇る SRC-03a 600mmレールキャノン。
「誘導座標は……“ソード3”の物を使用せよ!」
アリコーンの髪色と同じ、紫電の輝きがレールキャノンに迸る。それらはゆっくりと輝きの度合いをあげ、夕闇に染まりゆく海上にあって、さながら天を突く階段の姿にも見えたかもしれない。
「ジュウデンカンリョウ!」「ギョウカクアワセー。」「シンロヨーシ、シャセンホウコウヨーシ!」「モクヒョウザヒョウニュウリョク、シャゲキヨーイヨシ!」
全ての準備が整った事を知り、アリコーンは片手を振り上げ──────最後の命令を下す。
「撃ちィー方始めッ‼︎」
ズッッドン─────ッ!‼︎
一閃──────‼︎‼︎新星にも似た輝きは海原を紫電の輝きに染め上げ、洋上から流星が打ち出された。流星は、電光石火の如き素早さを持って、想像を絶するほどの短時間のうちに水平線の向こうへと滑る様に消えてゆく。
「…………。」
地獄の業火を体現する光を見送ったアリコーンへ、暗号化された通信を使ってマティアスが新たに命令を発する。
『───アリコーン、この攻撃で敵に位置を知られた可能性がある。よって、“ユニコーン”の発見を待たず艦隊へ合流せよ。』
「…………わかりました。」
通信を終えた後。アリコーンは自らの掌をその先になにか埋まっているのかと思われるほどに凝視し、宙をかいてみせる。
レールキャノンの発射を終えて格納された艤装に手を添え、彼女は思う。死地に逝く覚悟も、乗組員を死地に逝かせる覚悟も出来ていた。だが、乗組員に直接手を下すような──────掴みようのない何を掴もうとして、くしゃ、と前髪を握り乱す。
戦場に立つ者に降りかかる理不尽──────と言ってしまえば簡単だろう。だが、その理不尽を蹴り飛ばし薙ぎ倒し、己の道を切り拓ける力を手に入れたと─────────
「酷く醜い勘違いをしたものね……。」
聞く者のいない自らを冷たくせせら笑う呪詛のようなそれは、海原のさざ波の中で消えてゆく。
「ベント開け、バラストタンク全注水。潜航後、両方舷前進最大戦速……!」
目尻に溜まった暑いものを海に溶かしてしまうように、彼女は号令した。
というわけで久々の(マジで久々だな)アリコーン登場回でした!クリスマスプレゼントですね!(は?)
書こうと思って無理だったんでここで言っちゃうんですが。今回の作戦で途中から妙に提督からの通信が少なく、前話の最後の方で漸くちょろっと出て来るような状態になったのは、トーレスと核砲弾の使用の如何で少し詰めてたからです…どうにもねじ込めなかった。
大晦日にさらにもう一つ爆弾を………多分無理かな(笑)だから多分これが今年最後です。
では、皆さん良いお年を!