戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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新年一発目が2月も中旬を過ぎた頃になってしまった事許してください……1月はスランプに陥って全く筆が進みませんでした。


寿号作戦 Ⅷ

 20XX年

 

 

 

 9月30日 19時45分

 

 北太平洋沖合

 

 

 

「吊光弾を投下せよ!」

 

 闇夜に生じたその輝きは、さながら宇宙を望む天体望遠鏡が捉えた超新星の様であったかもしれない。

 大和の命令の下、瑞雲12型が翼下から放ったのは数十万カンデラに達する明るさを放つ照明弾の一種だった。パラシュートによりゆっくりと降下するために、その照明時間は通常の照明弾よりはるかに長い。

 

 砲戦開始より約20分、夕暮れの橙はその装いを完全に闇夜の中に落としている。

 太陽の役割を継いだ吊光弾により、水平線上に浮かび上がる影絵の如き敵艦の姿──────レーダーのみならず、大和の艦橋最上部に備えられている15m測距儀においてもその艦影はくっきりと捉えられている。

「撃てェ!!」

 

 ドンォンッッ‼︎‼︎──────赤熱化した砲弾が流星の如くに飛んでゆき、水平線の手前に着弾した。立ち上る水柱………吊光弾の輝きに照らされた水滴がその光を乱反射し、さながら炎の如き煌めきを見せた。その(たもと)で瞬いた閃光──────敵戦艦の反撃!

 

「敵砲弾……来るっ(カムッ)‼︎」

「………!」

 

 反撃の砲弾は放物線を描き此方へと向かってくる………そう思いきや、青白い星の様な光を纏った敵砲弾は、突如中空の一角で静止したかの様に大和の目には映った──────不意に湧き出る疑問───だがそんな悠長な時間は最早無いものと彼女は瞬時に思い至った。自分に向かって飛んでくる銃砲弾は、止まって見えるという──────大和は砲弾の直撃を予感する……!

 

 ドオドオドォッッ!!!!ガウゥーーンッ!

 

「うッ!?」

 

 海をひっくり返したかと思うほどに荒々しく立ち上る水柱の中で、光血走る毳々しい明滅が迸った。金属同士のけたたましい衝撃が轟音と眩いほどの火花を産んだのだ。

 衝撃……!!着弾の瞬間、肺を押し潰されるような呻き声を漏らした大和は、自身が吹き飛ばされてしまったのではと錯覚した。人間で例えれば、大の大人にタックルを仕掛けられたような猛烈な一撃──────砲戦に慣れている大和でもこれ程の威力の砲撃は数える程しかない。

 

「テキダンチョクゲキィ!」「損害を報告せよ!」「ソンガイケイビ!」「ソウコウガハジキマシタ!」

 

 どうやら砲弾は、斜め上方から大和のバイタルパートに突っ込み、幸いにも弾かれた様だった。だがその大和の装甲板にはまるで怪獣の一撃を貰ったかのような大きく抉られた傷が残されており、流石の大和も冷や汗をかく。

 

「シュウセイショゲンキマシタ!キョウサ!」「ソウテンヨシ!」

「ッ撃てェ!!」

 

 轟音と共に再び戦海を赤く照らす砲炎──────それはアイオワ、ニュージャージー、金剛、榛名でも同じ光景が広げられていた。周囲に湧き上がる炎の煌めきは凄まじく、その視界の端に生じたさらなる光源には、見張員妖精さんの忠告がなければ気づかなかったであろう。

 

「あれは……。」

 

 ちらりと光の方角を見やるその目に映ったのは、砲炎のオレンジを背景に突撃する味方水雷戦隊の姿だった。

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 同 19時55分

 

 

 

 超弩級戦艦同士の、太平洋の大海原そのものを揺るがすかの様な激しい砲撃戦は、水雷戦隊の前方から接近する敵艦の発見を早めた。照明弾の明かりもそれを助けたかもしれない。

 

「敵巡洋艦発砲ォ!」

 パリッ!と雷ばかりに瞬いた煌めきは、瞬きするほどの間に幾重にもなる光の筋と化し、それらは列を成して水雷戦隊の全面に押し迫った。

 

「回避行動……とーり舵一杯!」

 

 旗艦五十鈴の号令一下、水雷戦隊の縦隊は鮮やかな転舵を繰り出す。軽巡、駆逐艦の舵の効きは良い。ボートレースさながらのけたたましい水飛沫を上げ、傾いた身体の平衡を取って大きく回頭する──────その瞬間──────空気を切り裂く飛翔音‼︎爆発より鋭く雷鳴よりもおどろおどろしいそれを放ちながら、先程まで五十鈴たちの航行していた手前海面に林立する水柱を作り上げた。五十鈴の迅速な回避指示がなければ直撃する艦があっただろう。

 

 ────────このとき、五十鈴の率いる水雷戦隊の前には、難敵が立ち塞がっていた。3隻の重巡ネ級である。水平線上で再び生じたストロボのような明滅…………光は先程見た光景の焼き増しのように線状に伸び、高らかな弾道を描いて差し迫ってくる──────戦隊2番艦長波が指示を仰ぎ声を上げた。

 

「旗艦!針路は……⁉︎」「───このまま!」「……エェ!?」

 仰いだ指示の返答に、流石の長波といえど驚きを隠せない。砲弾が来ているのに回避行動を取らないのか!?──────最初に訪れた驚愕は、直後に合点へと変質する。飛来した砲弾は二股に分かれ水雷戦隊の両脇を挟み込むようにして着弾したのだ。こちらの回避行動を狙ったに違いない、下手に回避をすれば直撃する艦があったであろう。

 切り立った水柱が照明弾の灯りに照らされ、聳り立つ壁をも思わせる様相を見せた。その間隙を飛び出した水雷戦隊は反攻に転ずる──────

「砲戦!10時方向敵甲巡、各艦撃ち方始め!」

 

 ドン!ドドンッ…‼︎

 

 戦場に立つ者の熱意をそのまま込めたような赤熱化した12.7センチ砲弾が続々と撃ち出され、それらは水平線に向かって降り注いでゆく。そのうち幾つかの砲弾の弾道が違う──────五十鈴の主砲は改装によって12.7センチ高角砲に換装されている。その初速は駆逐艦に広く装備されている3年式12.7センチ砲よりも劣っており、山なりの弾道になるのだ。

 

 着弾……!──────林立する水柱に、巡洋艦やまして戦艦のそれのような力強さはない。練度が高く精度も良い駆逐艦の主砲弾は初弾にも関わらず命中の光を上げた。だが重巡洋艦に駆逐艦の豆鉄砲が命中しても大した打撃にはずもなく。ネ級は尚も変わらず砲撃を返してきた。

 

 この砲撃戦では明らかに五十鈴達が不利だった。砲弾の数では圧倒してはいたものの、その質量、威力ともに相手にならないほどの差を付けられている。

(精度が上がってる……!)

 35ノットの高速を発揮してもなお、ネ級の放った砲弾はまるで追いすがるかのように水雷戦隊の周囲に着弾し、回数を重ねるごとにその散布界が狭くなるのを肌身で感じた──────これでは、適切な雷撃位置に着く前にネ級にやられてしまう!

 

『───HEY!Fight Me!』

 ドオォ……ン……!

「……!?」

 

 溌剌とした声を持った電子音が鼓膜を打ったとき、五十鈴は後方から聞こえた砲声に気付いた。

 頭上を過ぎ去る飛翔音──────夜空の黒を背景にした流れ星にも似た光──────それは天啓のように敵艦の真上から降り注ぎ、轟々たる水柱を築き上げる。

 

 それらは12.7センチ砲とは比べ物にならないほどの威力を伺わせた。後方の砲声に振り返った先──────夜間ゆえその細かい姿を目にする事は出来なかったが、再び発砲炎が照らしたとき、その全容が明らかとなる。

 2隻の駆逐艦を従えた巡洋艦2隻──────五十鈴には見慣れないシルエットだ──────大まかな艤装のサイズは巡洋艦のそれであったが、全体的な印象としては寧ろ戦艦に近かった。

「あれは……!」

 

「USS Baltimore(ボルチモア)!参上!」

「同じくBoston(ボストン)!I kept you waiting(待たせたな)!」

 

 ニュージャージーの指示を受け、五十鈴達を追走していた米巡洋艦隊とそれに追従する米駆逐艦隊が到達したのだ。

 米重巡の奇襲にも等しい砲撃を受けることとなったネ級3隻は、体制を立て直すためか一度水雷戦隊から距離を取り始めていた。

 

 その間、追従してきた2隻の駆逐艦、アレン・M・サムナーとクーパーは五十鈴以下水雷戦隊に加えられ、ボルチモアとボストンが前面に躍り出る。その際、かなりお互いの距離が縮まったので、五十鈴は援護に駆けつけてくれた米巡をまじまじと見つめた。

 艤装に備えられた主砲は、その配置こそ彼女達にも面識のあるノーザンプトン級重巡洋艦に似てはいたが、形状は著しく異なり、やはり米戦艦主砲に似通ったものに見えた。対空砲の数もかなり多く見え、五十鈴はもとより、防空巡洋艦に改装された摩耶にも匹敵、あるいは上回りそうだ。

 先頭を航行する、ハクトウワシを思わせる鮮やかな銀髪をサイドテールに纏めた吊り目の、如何にも男勝りといったような印象を受ける艦娘がボルチモアで、その背後からピタリと航跡をあわせて追走するやや長いボブの髪型と片眼鏡をした、一見物腰柔らかそうな方がボストンだ。

 

「あの邪魔者(ファッキン野郎)は、Me達に任せろ!」

「必殺パンチ!Hit it(ぶちかませ)!!」

 

 ボルチモアはサムズアップをし、ボストンは拳を前に突き出してぶん殴るような仕草をしてみせた。あまり見た目に寄った性格では無いらしい。

 五十鈴達は敬礼を返す。「感謝する……!」

「礼は戦果(スコア)で!」「あとmeをチョイスしたのはNew Jersey(ニュージャージー)だから!ヨロシク!」

 

 遠ざかりゆく水雷戦隊の背中を見送り、ボルチモアはパキパキと指を鳴らしてみせる。鋭角のある双眸の見据える先は、彼女らに反航戦を挑もうとするネ級が2隻。

 

「さぁ……カモォーーーンッ(こいやァ)!Son of a ○itch(クソ野郎)!!」

「ボルチモア、ファッ○ン口悪い!」

Badgers of the same hole(お前もだろ)!」

 

 そうした言い合いの合間に見えたパツッ、と弾けるような閃光──────来たか!敵巡洋艦の砲撃であることは疑いようはない。それだけでなく、ここからやや距離を置くにもかかわらず戦艦群の織りなしている昼間のように明るい砲撃戦のネ級の砲熕を照らし出している。

「「Fire!!」」

 

 暗然たる戦海を黄金色に染める2隻の斉射……!砲弾同士は互いに取り換えるように上空で交錯し、ほぼ時を置かずして同時に弾着した。

 ドン!ドン!──────と水柱が吹き出すように現れる。ボルチモア、ボストンを囲むように立ち昇るそれらはしかし、多くが疎らで修正が必須であった。

 一方でボルチモアとボストンが放った砲撃は、命中弾こそなかったが敵艦を挟み込むようにして水柱が見て取れた。初弾からの挟叉である。

「ヘタクソめ!」

 

 数度の撃ち合いの末、当然の如く先制して命中弾を出したのは米重巡の方だった。優れたレーダー照準射撃は暗闇のベールが遮る夜間であっても有効だ。

 だが間もなくして、ネ級の砲弾もボルチモアを捉える………「おっ!?」ボルチモアの発した声は驚きよりもむしろ、意外さを孕んだ弾んだ声─────着弾を直感してもなお、ボルチモアは微かに笑って上空を睨んで回避する素振りも見せず、そのままに直撃弾を受ける。

 着弾炎と煙に包まれ、ボルチモアの姿は見えなくなるが──────

「ハァ……。」

 その光景を見て、ボストンは心配するでもなく、ただため息を突くだけだった。何故なら……

 

「HAHAHAHA!!そんなモンか……!?」

 

 黒煙をかい潜り嘲笑にも似た笑い声を上げながら、ほとんど無傷のボルチモアが姿を現した。水平線上に見える影が微かに揺らめく──────動揺が見て取れるようだ──────彼女の装甲板には微かに被弾跡がある。見間違い無く直撃していたが、砲弾は砕け散ってボルチモアに些か程のダメージも与えることが出来てなかった。

 

 彼女達の装甲防御は、並の重巡を数段上回る───舷側に最大152ミリ(6インチ)の厚さを誇る装甲を持つボルチモア級に、生半可な攻撃は通らない。「日本重巡の決定版」と称される利根型ですらその装甲厚は最大で150ミリに届かないことからも、その重厚な防御性能は分かるというものだ。

 

 加えてボルチモア級は、火力においても従来の米重巡を上回る。

「Fire!」

 ドォン!艦全体を照らすほどの砲炎から飛び出した光は、大きな放物線を描き、大落下角度を以てネ級に向かって飛翔してゆく。

 

 この砲弾の飛翔の仕方は、米戦艦にも広く配備されているSHS(スーパーヘビーシェル)のそれであった。彼女の前級にしてタイプシップのUSS Wichita(ウィチタ)、及びほぼ同様の武装を施されているNew Orleans(ニューオーリンズ)級重巡洋艦から搭載されている8インチ主砲からの系譜として、ボルチモア級にはSHSの運用能力があった。

 同格の重巡洋艦と比べても、その貫徹力は頭一つ抜けている。

 

 着弾───!水柱の中に見えた明滅は砲撃のさらなる命中を示している。ボストンが放った砲弾もまた、敵2番艦を捉え炎を立ち昇らせる。一方で敵が反撃に放った砲弾はボルチモア、ボストン両艦にとってダメージにはなり得ず、鈍い火花を散らして潰え、尚も衰えない砲撃を浴びせ掛けられていた。

 

 ネ級が本当に恐ろしいのは雷撃だ。数で勝る敵の雷撃を許せば一気にこちらが不利になりかねない。だが雷撃を行う際には必ず隙がある…………その瞬間を見逃さず、唯ひたすらに距離を保ち殴り続ければ、このまま封殺することもできよう──────猛禽にも似た、鋭い黄金色の眼光の奥で盛る闘争心を抑え、ボルチモアは判断した。

 些かガサツな面のある彼女だったが、そうした戦術的判断を行える程度の理性と冷静さは兼ね備えている。敵艦撃沈の栄誉は面白いだろうが、現状課せられた任務(タスク)は、あくまでも敵巡洋艦の足止め……そして彼女とその妹はそれを達成するのに十分以上の能力がある。

 

 何度目かも分からない水柱のシャワーを浴びながら、後方のボストンを顧みた。

「ボストン!Hard starboard(面舵一杯)!ファッキン共のハナを抑えるぞ。」

「Roger.」

 

 砲撃を繰り返しながら、縦陣を維持して回頭する──────その瞬間に近づく飛来音!!

 ドドドォン!

「……!」

 爆音を轟かせ突き立った水柱の位置は、先程までの針路のままであれば間違いなく直撃していたであろう場所。

「ギリギリセーフ、てやつ?」

「フン、HitしてもNo Problemさ……誤差(ゴサ)ってやつ。」

 冷静に言い放つボルチモアはしかし、自身の口角が上がっていることに気付いてはいなかった。

 

 

 〜〜〜〜〜  

 

 同 20時10分

 

 

 

「こんな砲撃戦は見たことないぜ……。」

「……。」

 

 戦海と化した闇夜の海、その暗中で繰り広げられる凄まじい砲撃戦は海域全体を昼間のような粧いに変え、それはこれから収束してゆくどころかさらなる拡大する可能性しか秘めていなかった。

 ギラギラと輝く砲戦の煌めきに漏らした長波の言葉に、言葉を重ねずとも内心皆同じことを思っていた。

 だが感慨にふける暇もまた、なかった。

 

「10時方向、敵軽巡および駆逐艦、数6……かもです!」

「レーダ照射探知──────砲熕炎見ゆ!針方位40度ォ!」

「チッ……!」

 高波が発した敵艦発見の報、その直後に江風からの報告は既にこちらが敵に認識されており。その目標となっていることを示している。

 ドドドンッ……!

 着弾の水柱が其処彼処に乱立し、その勢いは留まるところを知らぬかのように数を増してゆく。装填の早い小口径砲とあってか、密度もまた凄まじかった。嫌らしいことに、精度も悪くない──────彼我の針路が交差しているために敵は接近しながら砲撃しているからだった。

 

「──────射点まで急ぐ、構うな!最大戦速を維持し、牽制射!」

「ヒダリホウセン!カッセンジュンビィ──!」「テキシン150、テキソク30!キョリ──」「ショゲンニュウリョク、ギョウカクアワセ!」「各砲自由射撃!」

 

 防空巡洋艦として改装されていた五十鈴は対艦攻撃力が改装前より大きく劣り、更に6門の高角砲は対艦用途として使うには射撃統制装置の能力が足りない。先程ネ級と交戦した時もそうであったが、かつての砲火力が些か惜しく感じる五十鈴だった。

 

「撃ェ!」

 

 ダンダン!ダンッ!ドン!

 

 軽い発射音と共に輝きが砲弾を吐き出し、山なりの弾道を描いて飛んでゆく。隷下の駆逐艦も続々と砲撃を行う。赤熱化した砲弾の描く弾道は山なりであったり、低伸であったりと統一性はない。

 そして敵艦隊からの砲撃もまた、複数艦種から放たれているが故の複数の弾道をもって来襲する。

 

 ドドドッ……ドドッ……!! 

 サボテンの様な乱立する水柱を突き抜けるようにして進撃する水雷戦隊は、敵のまぐれ当りがないことを信じ、発揮可能な最大速力である35ノットの高速を叩き出しながら敵水雷戦隊の前方を突っ切る──────丁度その時。

 

 クワッ!……と一瞬の明滅が視界を照らし、遅れて砲撃音とは明らかに違う、遠雷のような轟きが耳朶を打つ。

「───何!?」

 海上に広がる花火のような輝きと黒煙をを蒔き散らすのは敵駆逐艦の1隻だった。こちらの砲撃が敵駆逐艦を仕留めたのだ──────「イェスッ!」振り返ると米駆逐艦サムナーとクーパーが互いにガッツポーズをし合っていた。

 フレッチャー級の改良型のサムナー、クーパーはその主砲の装填速度の速さと貫徹力の高い対艦弾によって日本駆逐艦よりもよほど主砲の火力がある。彼女たちは2隻揃って敵駆逐艦の1隻に狙いを絞り、あれよあれよという間に撃沈してしまったのだ。

 なかなかやる!と五十鈴は舌を巻く思いだった……というより、軽巡でありながら砲火力で普通に駆逐艦に負けている事に微かながら妬ましく思わないでもなかった。

「砲撃に気を取られず船速を維持して!」

「Yes Ma'am!」「Ma'am!」

 

 そんな自身の気を紛らわす為だったか、或いは砲戦に傾注させすぎないためか、何れにせよ出した命令に間違いはないはずだった。彼我の水雷戦隊は砲弾を交錯させながら互いの距離を詰め、だがその目標は互いに向いていなかったがために砲火を交えつつもその距離は開いてゆく──────

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 同 20時18分

 

 

 

 戦艦、巡洋艦、そして水雷戦隊同士による三者三様の砲撃戦を繰り広げる中で、唯一空母群とそれに追従する海自第二護衛隊だけは直接砲火の中に身を置いていなかった。

 ぱっ、ぱっ、と煌めく砲炎は途絶えることなく、視界の許す限りほぼあらゆる場所で煌めいている。

 赤城、瑞鶴、翔鶴、そして隼鷹を中心とした輪形陣──────そこから8時方向のやや離れた所にいる米空母ホーネット、エンタープライズ、護衛隊を中心とする輪形陣がある。未だ健在な敵空母からの夜間航空攻撃を警戒し、その目は常に上空に向けられ、僅か程の隙もないかのように思われた。

 

 そんな輪形陣を構成する1隻、防空駆逐艦秋月もまたそうした上空を見張る目の1つとなっていた。

 防空火力の高い彼女は、他艦からの援護を受けにくい輪形陣外側、最右翼に位置している。対空警戒としても重要なポジションだ。

 

「………。」

 ブォーー……ンと上空を何かが航過する。なんのことはない、米空母艦載機の夜間戦闘機はF6F-5Nだ。敵の襲来に備えて数機が上空の警戒に当たっている。闇夜の背景に溶け込むナイトヘルキャットの塗装は、夜に慣れた秋月の目でも視認は少し難しい。

 

 頼りになる存在──────だからといって気を抜かず、秋月は洋上に目を転じる。砲撃戦は明るく海域を照らし出しているが、その反対側は夜間らしく相変わらずの暗闇─────水平線の位置すら分からぬその中で、秋月は何かを見出した…………あれは───星?

 

 夜空を彩る星々にも似た何か………瞬いているようにも見えたそれは、唐突なまでに矢印にも似た何かへと変貌を遂げ、そいつは驚くべき凄まじいスピードを持ってこちらへと接近していた……!!

「なっ……⁉」

 声よりも速く矢状は秋月の直前を過ぎ去り、ドーン!という衝撃波を残して輪形陣の中央へ突っ込んでゆく。それも一つではない──────!!

「隼よ」「───あ!?」

 ドアァーーンッ!!

 

 爆発!!───隼鷹の危機を察した秋月の声は届かず、その前に起きた閃光が隼鷹を包んでいた。軽空母ながら消して小さくはない隼鷹の艦体は空よりも遥かに巨大な炎と煙に覆われ瞬く間に見えなくなってしまう。

「何が起きたの!?」「───隼鷹!?」「隼鷹、損害を報告して……隼鷹!」

 

『キカンブニチャクダン!』『ドウリョクブタイハ!』

 隼鷹の声は返って来ず、皮って報告を入れたのは彼女の艤装を司る妖精さんだった。

 ドゴォ……ン!!爆発は隼鷹だけでなく、艦隊後尾を務める1隻、駆逐艦雷が被弾していた。目に見えて速度の落ちた被弾した彼女はみるみるうちに落伍してゆく──────このままでは隊列が崩れるだけでなく、被害艦がさらなる被害を被る事になる……だが戦場はその状況を打開する時間を与えはしなかった。

 秋月の目に新たな光が見えたのだ。そして、僅かながらその元凶も──────

 

「全艦注意!3時方向約8キロ先に光あり!敵艦影は認めず!!」

「攻撃しているのは……敵、新型戦闘機───!!」




自分にとってはようやくここまで描けたか、といった感じですが、皆様的にはどうでしょうか。待たせすぎ?御尤もでございます……

今話では砲撃戦が主体ですが、普通の砲撃戦は第Ⅰ章で既にやってるので、その時とは変わって場面をたくさん転換させてみたのですが、ちょいと難しいですね
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