戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》 作:お猿プロダクション
………まぁ、本当はもう少し書くつもりだったんですが、丁度キリのいい所までかけたので今回はこれで勘弁してやってつかぁさい……
20XX年
9月30日 20時20分
北太平洋沖合
闇夜のベールを下ろされた世界に生じた閃光は2つ。それらは瞬く間に巨大な火柱と化し、その袂にいた艦娘隼鷹、雷をその腹の中に呑み込んだ。
それだけではない─────────爆発の嵐は一つ二つと時を追うごとに増え、火球は全天の星空の中にまで拡大してゆく。
「速すぎる!」「オウセンスルスベガアリマセン!」
最早高角砲がその威力を発揮するような距離ではなく、至近にまで迫った敵に向けて対空機銃が狂ったように打ち上げられる──────だがその何れもが明確な統制の下の射撃では無く、まぐれ当たりを期待し、ただ闇雲に、ひたすらに撃ちまくる。闇夜を埋め尽くすかの様な光の濁流が彼方に撃ち上がり、炸裂した砲弾が花火の如くに儚く潰えた。
ストロボにも似た閃光が時折照らす矢状は、ごく至近にまで迫っている──────その速度は常軌を逸して速く、高度は海面へ接さんばかりに低い。
駆逐艦 照月の長10センチ砲ちゃんがハリネズミもかくやと言うほどに砲火を張り巡らし、曳光弾を交えた機関銃と共に弾幕の壁を作り出す。
砲弾の破片が、機関銃の弾丸が、海面を沸騰したかのような白い飛沫に塗れさせる。砲火の明かりに照らされたそれらは、さながら金色の麦畑を思わせる装いを持ち、その麦畑の中をミサイルと敵機は、狼の如き俊敏さと群れを成し押し迫って来ていた。
グワァーーンッ……!!
ジェット機特有の金属音を交えた爆音が直上を過ぎ去ったその時、直前にまで迫った矢状──────その弾頭のシーカーと思しき“眼”と駆逐艦 照月の視線が交錯する──────感情とか情緒とか、そんなものは一端も込められていない害意の塊に、照月は戦慄し………その直後に訪れる運命を悟る。
「……!!」
閃光──────照月に飛来したミサイルは2発──────
装甲らしい装甲など些か程も施されていない駆逐艦の船体など、ミサイルの前にしては何の意味も持たない。前部主砲塔と艦橋直下それぞれに命中。瞬く間に爆発炎上、大破し、その戦闘力の過半を喪うこととなった。
〜〜〜〜〜
『照月大破!』『赤城被弾、損害不明……!』『隼鷹、戦列復帰の見込みなし、直ちに退避……!』
敵の襲来が既知となった時、それらはとうに日本艦隊の空母群の半数を叩きのめしていた。軽巡洋艦 アトランタを先頭とする米機動部隊は、偶然にも敵の来襲方向とは反対側にあった為にそと攻撃目標から外れていた。しかしそれは僅かばかりの猶予を与えただけに過ぎず、闇夜を背景にした獣の牙か鏃を思わせるそれらの奇形は、日本機動部隊の上空を悠々過ぎ去り米機動部隊に向けその矛先を向け始める──────
その敵の存在を最も先に察知したのは、しかし米艦の誇る優れた電子兵装の成せた技ではなかった。濛々と立ち昇る炎煙を背景に浮かび上がったシルエットを、艦娘や妖精さんの肉眼が捉えたのだ。
「これは……矢!?」
違う!……深海棲艦の新型機──────矢のような其奴から、線香花火のそれを思わせる光が中空に放り出されたとき、アトランタの脳はそれを直ちに脅威と認識し主砲の群れを指向した───そこに、はたして如何ばかりの意義があるだろうか───アトランタは片舷に14もの主砲の射界を有しており、5インチ砲の高い発射速度も相まって圧倒的な弾幕を、かなりの距離から張り巡らせることができた。対空用VT信管もまた、それを手助けする有効な装備のはずだったが、超低空を想定外の速度で飛来する敵機には些か程の効果もあるようには見えなかった。
……それで諦める程、彼女の「英雄的」とすら謳われた無敵の闘争心が衰えるはずもなく、砲弾を機関砲の如くに撃ち出してゆく。
「───!」
光──────線香花火の火種を思わせる、微かなオレンジ色の灯りが、ぽとん、と宙空に放られるのをアトランタは見た。至近弾の明滅が、そのシルエットを露わにする。
しまった!!──────アトランタは察する───敵のミサイルが放たれ、それは此方に対して指向されている───ドン!ドン!……空中で生じた砲弾の爆発が、ストロボのように筒状を照らす。秒を追うごとに迫るミサイルは、その進路上に形成される弾幕と水柱の中を、さながら直線道路を突っ走る車のように平然と突き進んでくる……!
「………!」
意志の宿らぬ刺客の放った意志の宿らぬ火矢は、弾幕の回廊を凱旋する。当然のように───抵抗など存在しないかのように突っ込んでくるそれを、アトランタの曇天にも似た濁りを持った灰色の双眸は釘でも刺し込まれたかのように動かず、凝視している。
「───っ!!」
迫る光………アトランタに向かって突っ込んでくるミサイルは、宙空で僅かほども動いているようには見えない。だがその煌めく排炎の灯りは、ゆっくりとしかし確実に拡大してゆく。
それが自身に残された猶予である事くらい彼女には分かっていたし、だからこそ焦りが脂汗となって全身から吹き出し、比例するように射程に入った機銃と機関砲が狂ったように射撃の唸りを上げる。
だが全ては無意味なのだ──────超低空を飛翔するミサイルをVT信管を備えた対空砲弾は捉えられず海面の乱反射で早爆するか見当違いの着弾の水柱を上げる。
妖精さんの操作する機銃も機関砲もミサイルほどの高速、小型の目標に対してあまりにも無力………!
「クソがッ……!
眼前に飛び込んできた火矢──────アトランタの艦首右舷が瞬く間に炎に見舞われ、直後に爆発した。装甲をぶち破りめくれ上がった上甲板にはポッカリと空いた穴が三つ──────そこは、本来なら主砲の5インチ連装砲塔があるべき場所で、爆発がバーベットごと砲塔を吹き飛ばしてしまったのだ。
文字通り一瞬でアトランタは戦闘・航行能力の半分以上を失い、木偶にも等しくなったその直上を敵機が独特な金属音混じりの大音響を轟かせながら過ぎ去ってゆく。
〜〜〜〜〜
同 20時20分
米機動部隊と襲来した敵機の対決の様相は日本機動部隊からでも確認できていた。その結果も──────
『アトランタヒダン、チュウハマタハタイハノソンガイ!』『テルヅキセンセンヲリダツノモヨウ』『ベイキドウブタイニクウボノソンカイナシ!』
「アトランタが……!」
日本艦にすれば羨望するほどの対空火力を持つ軽巡洋艦アトランタが、敵機の攻撃の前に為す術なく撃破されたことも彼女達に伝わっていた。装甲空母 瑞鶴改二甲はその事実に、今更ながらに驚愕を覚えざるを得なかった。
あれほどの防空火力を有するアトランタが成すすべもなく撃破された!───その事実は敵の攻撃機に対して我が方は全くの無力に等しい事を意味しており、そのことは事前のブリーフィング等から既に予測されていたとしても、こうして現実としてまざまざと見せ付けられるのでは、その心理的衝撃は天と地ほどの差がある。
………一方で、彼女らに何ら対抗手段が無いわけでもなかった。それは出撃前、アリコーンから預けられたある"モノ"──────だがその反撃能力を託された空母 赤城は
被弾し、撃破こそ免れたものの、喫水線付近まで奔った破孔が海水を呑み込み、艦の傾斜が拡大しつつあった。
「赤城さん……その状態では無茶です!」
「なんとしても打ち出します。発艦だけは全うする……!」
自身の損傷を鑑みないかのように、凛として前方だけを睨み、弓矢を構える赤城に瑞鶴は叫んだ。
しかし赤城は頑として固辞し、黒光りする矢をかけた弦をギリギリと引く。
──────重い!
始め、明石からこの矢を受け取った時「他の機とは違うので注意してください」などと言われた。九九艦爆や九七艦攻から天山や彗星、流星に機種転換した時にはその大きさと重さに驚いたものだったが、これはその比ではない……!!
本来なら自分たちが扱うことなど叶わない高性能な代物だ。その代償は…………お前か───!赤城の視界の先に広がる闇夜のキャンパスに描かれた光はの筋、間違いなく敵機のそれだった。米機動部隊の護衛艦を平らげた奴らは再び日本機動部隊にその牙を向けてきたのだ。
赤城にも応急修理女神は搭載されてはいた。撃沈の心配はないが、女神の発動を待っていられるほど状況は悠長にしてはいられないのだ。敵機が来る前に、なんとしても……!
だがその間に入り込む影があった。
「瑞鶴、何を……!」
光──────それは投射された敵ミサイルの輝き──────「瑞鶴!避けろ!」彼女の意図は解っている。彼女は発艦までの間、ミサイルの盾になるつもりなのだ。今度は赤城が叫んだが、瑞鶴は一瞥もしない……返ってきたのはただ一言。
「発艦に集中して!」
「……!」
迫りくるミサイルに向け、無駄とは解りながらも対空砲火を浴びせる。ロウソクに照らされる様にしてうっすらとその姿を夜の闇から浮かび上がらせる敵ミサイル──────
「テキミサイルニハツセッキン!」「ダンマクヲテンカイシロ!」「ダメデス……トッパサレマス!」
妖精さんたちの怒号………それにも関わらず光は弾幕の壁を潜り抜け、遂に高角砲の有効射程───果たしてミサイル相手に有効な距離など存在するのか甚だ疑問だが───を突き抜ける。25ミリ機銃が狂ったように銃声を叫び散らす。マグマのように赤熱化した銃身など、銃座にへばり付く妖精さん達は意も介さなかった。
───幸運の女神が本当に居るならば。
(こっちに来い……私に向かって突っ込んでこい!)
───今だけはどうか………私に微笑んでくれるな──────!
直後、飛び込んできた光………光は熱を帯びた衝撃波と火球と化し、瑞鶴は炎の塊に呑み込まれた。初弾の命中から間髪を置かずして2発目のミサイルも瑞鶴が被弾する。
ドン!という爆音が遅れて聞こえ、続いてバリバリと空気を轟かせながら敵機が勝ち誇った様に瑞鶴の上を飛び越え、赤城の頭上をも過ぎ去った。
あれしきで沈む瑞鶴ではないはずだ───だが被弾の苦痛は妖精さんを以てしても拭うことは出来ない。赤城に替わりその役を買って出た彼女の心情は如何ほどのものだろうか……?
瑞鶴の想いは消して無駄にはしない!経験したことのない、どんな機体であっても必ず打ち出してやる。絶対に空に上げてやるから──────傾斜する身体に鞭打ち、水平に保つ。
「腕が千切れてでも……!」
「ナニガナンデモウチタセ!カタパルトガイカレテモカマウナ!』
もはや赤城を直掩出来る艦は殆どいない。次に敵が反転し攻撃を仕掛けてきたら終わりだ──────だがそれより先に、発艦させれば良い話!
そして赤城は………いっぱいまで張った弓矢をついに放った。
「───SLUAV、発艦ッ!!」
打ち出されたどす黒い矢が暗闇の奥に消えた瞬間、それらは光となって顕現し敵機に吸い寄せられる様にして向かってゆき、反転を終え速度の落ちた敵機に矢継ぎ早にミサイルを投射する。
たちまち砕け散る敵機───
上空を跳梁跋扈していた敵機はほんの数分で拮抗状態となり、艦隊に攻撃をする余裕のある敵はいなくなっていた。
不意に「すごい」と言葉が漏れる。
赤城はブリーフィング直後のやり取りを反芻する──────
──────なるべくすぐ出来る様に仕上げましたから。
あのとき、目元のクマを隠せていなかった明石がいった言葉はこんなものだっただろうか。
──────正規空母の方限定ですが、アリコーンさんの艦載機を発艦できるように改造したんです。随分苦労しましたよ……。
苦笑いを浮かべながら明石はそう言っていた。隣に立つマティアス・トーレスは今時作戦の都合上、もし敵のアリコーン級との対決を余儀なくされた場合艦隊の全滅の可能性が大いにあった為に、作戦の撤回か、アリコーンの装備を一部でも転用できないか模索していたそうだ。
──────ラファールは大きすぎて無理だが、SLUAV程度の大きさならば辛うじて可能だろうと思い、彼女に相談したのだ。
SLUAVの有用性は皆知っている。赤城達の精鋭艦戦隊を以てしても赤子の手をひねるように簡単に卸されてしまった相手だ──────"ラファール"という戦闘機はこれより高性能らしいが、何方も強すぎて話にならなかった──────それを使えるとなれば、これ以上の装備はあるまい。
──────ただ数がコレだけしかないです。
明石がその時持っていたのは、20機ぶん程度の数しかない黒い矢。
それだけでも上々です、と赤城は言っていた。何しろ赤城はありの艦載機の凄まじさを一番近くで見ている空母と言っていい。20機だけでも1,000の友軍機に助けられるよりも心強かった。
──────アカギさん、SLUAVは有人機じゃありません。有用ですが、過信もいけませんよ。
いつの間にかマティアスの隣にいたアリコーンがそう言った。あまりお利口さんじゃあないので、と口元を手で隠しながら苦笑して続ける。
過信───慢心と同じく、自分の身に大いに覚えがある言葉だった。
──────胸に刻んでおきます。
──────基本的な手順は他の艦載機と変わりません。搭載するのは赤城さんが適任かと。
──────私が?
その時赤城は驚いたが、理由を聞いてみれば最もだった。瑞鶴、翔鶴はジェット戦闘機を積む関係上余裕がない。隼鷹は軽空母なので搭載は不可………と消去法で赤城しか残っていなかったのである。
赤城は歯を見せて少し笑うと、承りました、お預かりします───そう言ってSLUAVの矢を受け取ったのだ。
上空で花火のような明滅で無数に彩られ、星が墜ちてゆくようにキラキラと光る塵となってゆく航空機───それが果たして敵なのか味方なのか、判別を付けることは赤城には出来なかった。それよりも優先すべき、気を向けるべきことがあった。
「瑞鶴!大丈夫?なんて無茶を……!」
『………やっぱり、瑞鶴には幸運の女神が付いてるみたい、です。』
苦悶の声と少しばかりの含み笑いが通信の向こうから返ってきた。なんでも、飛行甲板に装甲帯が存在すのをいいことに、瑞鶴は有ろう事か飛行甲板を盾にしたようだ。大穴を穿かれた飛行甲板は最早使い物にならず、貫徹し内部で炸裂した弾頭は彼女の格納庫を総なめに破壊していったが──────瑞鶴自身は航行に支障のない程度の損害だった。
振り返った傍目からは、飛行甲板からもうもうと黒煙を上げ、火柱さえ垣間見える瑞鶴の姿はとてもそうには見えなかったが………。
〜〜〜〜〜〜
戦略機動打撃艦隊
某島鎮守府
艦娘寮兼司令部施設 地下1階
統括作戦指揮室
遠隔地から発せられた不可視の波に乗り、ここには数多の情報が濁流の如くに押し寄せる。配置に付くオペレーターの目にも、複数のスクリーンから発せられる各種戦術情報が直接投げ掛けられていた。
「哨戒機の状況を報告せよ。」「
『雑音……?』
前線部隊とのやり取りをこなすうち、ある言葉に引っ掛かったような声を上げたのは、この室内にはいなかった。
通信機の向こう側、距離にして1,000kmは下らない遠隔地───日本本土───にいる北 聖人情報分析官がその声を発したからだった。
『哨戒機!海中の様子は?』
「──────一部区域以外の捜索は完了しているとの報告ですが……。」
「なぜ捜索出来ていない海域がある……?」
今度のオペレーターの言葉に反応したのは提督だった。LSDを見る目を細めたまま、言葉を投げかける。
「弾着音の残響が酷く聴音不能───とのこと。」
「大和達が砲戦中の海域か……!」
最初に勘づいた提督から伝搬するように幕僚の面々やマティアスの顔の堀が深まってゆく。『そうか!』と抑揚をもって聞こえた通信機越しの北の声も事態を察しているのは明らかだった。
『“ユニコーン”は砲撃戦の
「大和!"ユニコーン"に逃げられる前に敵戦艦群との砲戦にケリを付けるんだ!」
『───了解しました。アイオワさん、付き合ってください!』
『OK!』
それが合図だった。LSD上に輝点という形で広がる彼我の対決の様相──────攻撃を受けた混乱から入り乱れ、此方の采配で再編成・再集結しつつある機動部隊、敵巡洋艦を足止めするボルチモア及びボストンの米重巡、雷撃を終えて離脱しつつある五十鈴以下の水雷戦隊。そして、単縦陣の敵艦隊と対峙し同行戦を繰り広げるのが大和の率いる戦艦群だった。そこにある梯形陣の陣形は先頭をゆく2隻───大和とアイオワだ───が増速する。先の言葉とこの行動………それだけで、提督には大和が何を意図しているのかは直ぐに分かった。それは、この直後に彼女から入ってくる通信が保証してくれるだろう。
『我これより、特殊砲撃を敢行するものなり……!!」
アトランタのあたりで落とし穴にハマり1ヶ月ほど書けてませんでした……
後半かなり突貫だったので誤字脱字等あったらご指摘お願いします!