戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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今回は特殊砲撃回!自分なりの特種砲撃に対する解釈と描写ですが、違和感なく読んでいただけたらこの上なく幸いです。

それにしても月1更新が守れると気分が良いですね〜。


寿号作戦 Ⅹ

 

 20XX年

 

 

 

 

 9月30日 20時26分

 

 

 

 

 北太平洋沖合 

 

 

 特殊砲撃──────!並み居る敵の一切合切を打ち砕く事の出来る、その圧倒的な火力!戦場に於いてその趨勢を決定付ける事すらあるそれは、戦艦艦娘にとっては羨望と畏怖に近い響きを伴って理解されている。

 嘗て"ビッグセブン"として世界の海に名を轟かせた16インチ砲搭載戦艦にのみ確認されていた特殊砲撃は、今となってはある程度の規模を持つ戦艦は大なり小なり特殊砲撃の仕様が確認されている。大和は第二改装を経て特殊砲撃の仕様が発見された。

 

「………。」

 この期に及んで額を伝った冷たい汗の感触に、大和は苦笑せざるを得なかった。

 全く……何を緊張しているのか、自分は!?

確かに大和改二になってからの特殊砲撃は初めての経験であるし、改二となったアイオワと特殊砲撃が可能なのかも試したことがない───事前の調査によれば通常のアイオワ改とは可能らしいが───様々な不安要素が自身の額を冷ましたのは、もしかしたら無理からぬものだったのかも知れない。 

 

 ぶっつけ本番……上等じゃないか!

 

意を決し、大和は後方を鑑みる。目があったアイオワは微笑んで頷き、そのさらに後ろ、ニュージャージーにも目線を送る。大和は、自分達が特殊砲撃の準備をする間の指揮を彼女に任せることにした。

 

「ニュージャージーさん、暫し頼みます!」

 

Roger that(了解)!」

 

 砲撃を一度切り上げた大和とアイオワは互いが手を伸ばせば触れ合える程の距離に遷移する。この距離でなければ、特殊砲撃の際に必要な妖精さんの状態を維持できないのだ。

 ………威力だけでなくこの密集した状態を維持しなければならないのが、特殊砲撃の慣行において陣形が指定されている所以である。

 

「妖精さん同調開始。」「主砲全系統の操作系を妖精さんマニュアルへ移行───」「イコウカクニン!」「ヨウダンキテイシ!」「シャセンホウコウクリア!」「目標敵戦艦3隻!射撃時間は1分、衝撃に備え!」

 

 

 特殊砲撃を敢行するまでの僅かな間、当然ながら大和とアイオワは砲戦に参加できない。よってその間、3番艦ニュージャージーが指揮を取る。先程までの活躍からニュージャージーの旗艦としての腕前に疑いはない──────既に旗艦権限を離れた大和とアイオワにかわり指示を飛ばしている。

 

「Meが敵の1番艦を、コンゴウとハルナは2、3番艦をそれぞれで攻撃!」  

 

 ニュージャージーが戦艦水鬼を、金剛、榛名が戦艦棲姫をそれぞれ狙う。明らかに一対一で相手取るには荷が重すぎる相手だが、数分とかからぬ辛抱だ。

 ──────それに、敵に大和とアイオワを撃たせてはならない。敵の注意をこちらに引き付ける為にも、敵の砲撃に先んじて砲弾を撃ち込んでやる……!睨め付ける先──────既に観測機の投下してくれた吊光弾が落ち切った世界には、浮かび上がった敵の影は既に無く、暗闇のベールが掛かっていた。

 ………だがその状況下であっても、ニュージャージーの優れた電子の目は敵艦艇の姿を明瞭に捉えており、彼女に先程までと差して変わらぬ砲戦環境を提供している。

 そして彼女に勝らずとも、金剛、榛名は従来より発展した電探装備と闇夜に目を光らせる熟練見張員妖精さんにより優れた夜戦能力を発揮する。

 ニュージャージーは勝利の確信を持って、檄を飛ばす様に命じた。

 

「Fire!」

 轟音──────ニュージャージーの紅い髪が発砲の煌めきの中で靡く。発砲の風圧で乱れた髪を耳にかけたその時、晴れかけた砲煙の、その間隙に見えた闇夜の向こうで、パリッと落雷のような輝きが瞬くのを彼女の目は逃さなかった。発砲したか!

 ───衝撃に備えろ!と、そう発するすべきだった口腔は、肺が一瞬で空気を呑んだ事によって言葉を発する手段を失った。頭を振った先、何とか口にした単語は「───ハルナ!」

 

 敵砲弾の光はニュージャージーや大和、アイオワにではなく、あろうことかそれより遥かに後方──────最後尾の戦艦榛名に向かって伸びていた。

 ニュージャージーの額に冷や汗が噴出する。榛名は被弾を重ねており中破の状態にある。このうえ明らかな格上の戦艦の砲撃など喰らおうものなら………!

 

 光の筋が海面に飲まれて消え、代わって現れたのはけばけばしいオレンジ色に彩られた水柱───それは紛れもなく、榛名に、着弾した砲弾の爆発炎だった。

 

『ハルナタイハ!』

 

 報告を受けるまでもなく、そんなもの見れば解る。

 榛名に命中した戦艦棲姫(・・・・)の砲弾は4発。艦側面、前檣楼基部に着弾した2発が装甲板を打ち抜き夜戦艦橋で炸裂、詰めていた副長以下司令部要員妖精さんが軒並み戦死。更に2発がほぼ直角に三番、四番主砲塔のバイタルパートを貫徹し水上機格納庫が全滅、揚弾筒も爆砕され後部砲搭は全て沈黙した。

 榛名の現状を鑑みれば、妖精さんからもたらされた我が砲弾の直撃に一喜している暇など無いに等しい───榛名が撃沈に至っていないのは、ただ大破ストッパーが正常に作動したからに過ぎない。例えるなら榛名はHP(体力)が残り1の状態で、小突く程度の被弾ですら危険だ。あと一発………文字通り一発でも直撃すれば、榛名の艤装は保たないだろう──────と、ニュージャージーがそこまでの考えに至ったのは、刹那程の僅かな間。

 

 そして、気付いた。

 

 戦艦水鬼の砲弾が未到達なことに……!戦艦水鬼の主砲は戦艦棲姫よりも重量が大きい───それこそ、アメリカ艦のSHS(スーパーベビージェル)の様な───故に、着弾迄に若干のタイムラグがある事を失念していたのだ。

 つまり──────

 

 

「あ

 

 

 ──────がァンッ!!!!と巨大な着弾音が聞こえた気がした。風船が破れたように、刹那のうちに闇夜を一閃が突き刺しそして膨れ上がった。

 直撃!それも弾薬庫への──────榛名の装甲では戦艦水鬼の砲弾を前にして抗するべくもない──────言い訳のしようがないほどの、絵に描いたような爆沈。

 

 

「……!!」

 立ち昇る爆煙をニュージャージーは額に寄せられた皺もそのままに絶句して凝視していた。

 ──────被弾していた艦が優先的に狙われ、喪われた!だが榛名の被弾はもとより、格上の敵と相対する事など覚悟の上であるし、それを理由に退避するなど論外だ。要するに、客観的に見て、彼女(ニュージャージー)に落ち度は無いに等しかった………のだが、それは彼女の生来もつ自信家な所と───一時的なものとはいえ───旗艦を任された責任感を前にしては、吹けば飛ぶような事実でしかない。

 

 

「Fire!Fire!!」

 

 砲炎の中で、強く影を落とす顔が歪む。ぎらぎらと照る灯りに照らされた赤髪は、その心情を表すように、烈火の如き色を呈していた。

 ドゴン!と後方から聞こえた砲声は続いて金剛も発砲した事を伝える。それからやや遠く、ドォ……ン!と、さらに聞こえた砲声──────は?

「what!?」

 そんな筈はない。

 驚きもそのままに振り返った先………未だ黒煙立ち込めるその場所から突き出たのは、ダズル迷彩の連装砲塔───‼︎

 

「提督のおかげで、榛名は大丈夫です!」  

 

 

 ぐい、と巫女服様の袖を捲り、流れるような美しいラインの二の腕、肩周りを見せつけるようにして、榛名は意気揚々と叫んでいた。

 ぽかん、と絵に描いたように口と目を丸くするニュージャージーに、金剛が言う。

 

「テートクが私達にコノ子を渡してくれたんデース!」

 法被を纏いハチマキをし、山吹色のインパクトを携えた妖精さん───応急修理女神───を掌に乗せている。日本艦隊は補強増設部位にダメコン妖精さんを搭載していたが、ニュージャージー他のアメリカ艦隊は空挺部隊として進出した関係上、補強増設部位に空挺用機材を積んでいたので、この手のダメコン妖精さんの搭載艦がなかったのだ──────今にして思えば、榛名が撃沈されたと思った時、妹想いである筈の金剛がさしてリアクションをしていなかった気もする──────ニュージャージーは自身の不覚と愚鈍さに額を小突いた。

 そんな彼女を、慰めるではないが、吉報と言っていいものはもう一つあって、それはこの長引いた砲戦に緞帳(どんちょう)を下ろすものでもあった。

 

「大和、特殊砲撃準備よし!」

準備完了!(I’m all set!)

 

 それは大和とアイオワ、二大戦艦の威力をまざまざと見せつける宣誓。

 大海原の戦場の女神、その帰還──────。

 特殊砲撃の準備を整えた2隻の砲身はファランクスを組んだ重装歩兵の如くに構えられていて、 殺意と破壊意志の塊(砲弾)が、今か今かとばかりにそのお鉢が回るのを待っていた。

 ややもせず。

 その時が、来る。

 

 

「第一戦隊突撃!主砲、全力斉射ッ!!」

「バトルシップは伊達じゃないわ!全門撃てッ!!(All weapons fire!!)

 

 

 

 両者の放った砲撃指示、そして──────

 

 

 

 ドドォッ!!!!!!!!

 

 

 白濁が闇夜を侵食する……!あまりの砲撃の苛烈さ故に、砲煙が砲撃閃光を覆い隠す前に新たな輝きが砲弾とともに吐き出され、それは戦艦の───否、軍艦の───砲撃としてあるまじき発射速度を持って撃ち出されてゆく。

 

 

 ドゴンドゴンドゴンドゴンドゴン──────!!!!!!!!

 ズドドドドドドドド───────!!!!!!!!

 

 

 空よ狭しと全てを圧迫せんとする轟音と、海よ狭しと無遠慮に拡散してゆく砲炎が織り成す白濁とした光の(たもと)から、見る者に機関砲もかくやと思わせる光の束が水平線に向かって降り注ぐ──────否、この光景を目にすれば、寧ろ我先にと敵艦隊に向かってゆく光の様は「殺到」という単語こそ相応しい様に思えるだろう。

 

 ──────そして「殺到」する光はその一つ一つが殺意と破壊意志の塊であって、その毎秒投射量(・・・・・)は10トン以上にも及ぶ。

 1つの水柱が打ち上がり、それが崩れる前に2、3と新たな水柱が突き立てられる。やがてナイアガラを思わせる大瀑布が上向きに現れて、怒り狂った様に海面は真っ白に泡立っていた。

 

 瀑布がスクリーンのように敵艦を覆い隠していたが、その奥で大小様々な明滅が繰り返している。それは紛れもなく着弾炎の灯りで、その規模と数から敵は破滅的な打撃を被っているだろう。

 

「撃ち方、止めっ……!」

 ──────ドゴンドゴンドゴンドゴンッッ………!!!!

 ──────ズドドドドドドドッッ………!!!!

 

 

 約1分に渡る砲撃の嵐が止み、海と空は、元の暗さと落ち着きを急速に取り戻していく。

 

「っは〜〜ッ、はぁッ、はぁ───」

「フウッ、ふぅ、ふーっ───」

 

 砲撃を終えた大和とアイオワは、どっぷりと汗を滲ませ、肩で息をして疲弊しきっていた。顎にできた雫を拭ってみても、また直ぐにこめかみを伝って水晶のようなそれを飽きること無く作り出している。

 特殊砲撃が作戦展開中一度しか使用出来ない所以だ──────短時間における大弾量の投射に起因する砲弾の不足。それだけでなく、艦娘本人と艤装への大き過ぎる負荷………不意に照りつける陽光にも似たものを感じた大和が目だけを横にやると、鉄を打つ時のように赤熱化した砲身が被った波を蒸気に変えて白い煙を上げていた。表面では取り残された塩分が高熱に曝され燻っている。

 

 対空射撃で砲身が真っ赤になった機銃を思い出した。こんなものを何度もやっていては砲身が溶けてしまう………そして、間断なき砲撃の圧倒的なまでな反動が体力を奪っていた。

「はぁ……。……!」

「フゥ……hehe.」

 

 大和とアイオワは目を合わせ、お互いの姿を見て苦笑する。まるでボロ雑巾だ…………だが戦いに身を置く美しきボロ雑巾は口元の弧を正し、凛と声を張る。

 

「──────戦果を確認せよ……!」

「──────テキセンカンニセキゲキチン!イッセキタイハ!」

 

 水平線を覆い尽くさんばかりだった瀑布の姿は既に落ちきり、そこに残されたのは海面照らす炎を根本に持った敵戦艦の姿……。

「あれだけ撃ち込んだんですから、沈んでいてくださいよ……。」

I agree(同感).」

 

 先程よりもずっと苦虫を食い潰したというべき凝った笑顔が二人の顔に張り付いている。それでも、生き残った戦艦水鬼にとどめを刺すべく主砲を構えて、隷下艦艇に告げる。

 

「撃ち方用意、目標戦艦水鬼───………!?」

 

 

 敵艦に突如立ち昇った水柱!ゴン、ゴン、という重低音が遅れて聞こえた。まだ砲撃は命じていないはず──────そこまで考え、これは砲撃ではないことを大和は悟る。

 

『魚雷二発!有効、命中!!』

 

 インカムから鼓膜を打ったその声は、軽巡洋艦 五十鈴のもの。あの水柱は彼女達水雷戦隊が放った魚雷の命中だったのだ。

 元々の被弾で傾斜復元能力は死んていたのだろう、戦艦水鬼は瞬く間にその傾きを増してゆき、ややもせず僚艦の後を追う事となった。

 

「まったく、いいところを持ってかれましたね……。」

 仕留め残ったのは自分たちの責、ということもあり、大和はあまり強くない悪態を溜息に乗せた。

 そしてちょうどその頃、溜息であるとか、砲煙にくすぶった重たい空気を押し退けるようにして、低音が接近している。それは低空から連山哨戒機がゆっくりと侵入して来たのだと悟った。距離があり、まだ肉眼では見えないが………。

 

「………ン〜〜?」

「どうしました、二ュージャージーさん?」

 

 唸るような低音を響かせる連山哨戒機を思い浮かべながら、ふとニュージャージーが悩み声を上げているのが聞こえた。彼女が顰め顔を浮かべてるだろうというのは、想像に難くない。

 

「何か?!忘れてるような、見落としてるような………。」

「……?」 

 

 要領を得ない、あまりにざっくりとした物言いに大和が訝しんでいる一方で、アイオワは寧ろ真剣な面持ちになった。彼女(ニュージャージー)がこう言う時、大抵"良くない事(Accident)"が起きることをアイオワは知っている。 

 アイオワは、まだ水上機を回収していないことを思い出し大和に周辺の警戒を進言した。

「……分かりました、まだ燃料に余裕がある機は周辺警戒。燃料の持たない機は、無理せず回収します。艦隊も警戒を厳に、散開した各隊は直ちに集結!」

 

 この時、大和は水雷戦隊と巡洋艦隊を再集結させ、傷ついた空母機動部隊と護衛艦隊の護衛に戻るつもりだった。まだあの上空では我々では些かばかりも手出しの出来ないSLUAVと深海棲艦の新型機が空戦を繰り広げていて、危険な状態だからだ。

 

「───おも」

「「…………!?」」

 

 それは、大和が面舵を命じようとした瞬間──────アイオワとニュージャージーの顔が期せずして引き攣った。

 

 日本戦艦より優れた電子の目が、未だ肉眼で見る事叶わぬ闇夜の向こうに見出したのは影。

 

正面に敵影(Enemy in sight! Twelve o'clock‼)‼」

「ショウメンニカンエイ!」

「───!?」

 

 アイオワの喫驚を孕んだ報告の直後、大和の見張員妖精さんも進路上に居座る不審な影を見出し、それは直ちに大和の知るところとなる。

 

 

 驚異は、未だすぐ側に─────────




これで最終話までの複線は大方貼り終わったかな……?

さて、如何でしたでしょうか特殊砲撃。
どうでもいい話、最初は「妖精さんの不思議パワーで砲弾が謎に強くなる」という感じでした。まぁ弊作がよく分からん部分は全部妖精さんに丸投げスタイルだからなんですが(笑)

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