戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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色々間に合わなかったのでここだけでも……!


寿号作戦 Ⅺ

 

 

 20XX年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9月30日 20時35分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北太平洋沖合

 

 

 水雷戦隊隊が打ち漏らした雷巡チ級を旗艦とする敵駆逐艦ナ級数隻の存在を失念していたのは、痛恨のミスだった。敵戦艦に注意を持ってかれていたとはいえ、何と言う失態だ……!

 

「主砲は冷却を優先、高角砲群各個に自由射撃!」

 その瞬間、大和の舷側が途端に砲火で彩られる。片舷だけで10門以上を指向可能な高角砲群の投射量は、その発射速度も相まって多く、機関砲の掃射もかくやという程に撃ち込まれてゆく。

 改ニとなった大和には副砲が無い。よって舷側に複数装備された長10cm高角砲が近接距離での対小型艦火力となる………のだが、如何せん力不足が目立っていた。

 

 ナ級はその艦種こそ"駆逐艦"とされてはいるが、その実火力や耐久性は巡洋艦を突付くレベルで、同種の駆逐艦を打つけても大抵返り討ちに会うほど……更に確認されている最強種というべき後期型Ⅱクラスになると、重巡に匹敵する攻防力を備えるようになる有り様で、大和の10cm砲では装甲化されていない一部をスクラップにするのが精々だった──────それでも、断続的に撃ち込まれる砲弾はボディーブローの様にナ級から浮くべき力と攻めるべき機器を奪いつつあったが──────それでも生き残った火器は果敢に砲撃の閃光を瞬かせ、大和達に反撃の水柱を屹立させ──────てはいなかった。

 

 砲弾の一閃はあらぬ方向へ飛んでゆき、空中で炸裂していたのだ。それも一隻ではなく、全てが──────大和は気付く。

 

 こいつら………!

 

「やはり哨戒機を狙って……」

 

『テキノタイクウホウカガハゲシイ!』

 砲火に煌めく連山哨戒機の銀翼と、無線から聞こえた妖精さんの悲鳴にも似た報告が、その事をこれ以上ないほどに裏付けていた。

 

 ドドドン……!敵艦隊を包囲するかのようにさらなる着弾が、閃光を伴う水柱となって突き出る。アイオワ、ニュージャージーの5インチ砲弾、さらに金剛、榛名の副砲たる15cm砲と高角砲が矢継ぎ早に砲弾を吐き出し、明確な殺意の塊となって撃ち込まれているのだ。

 

 ややもせず、1隻のナ級が爆発した。恐らく金剛の副砲が直撃したのだろう。

 すると敵は尻尾を巻くように反転し、一目散に逃げてゆく──────否、雷撃能力を持つ艦がそうする時、決まってやっていることがある筈だった。

 

「全艦雷撃に警戒!」

 言いながら、大和が眉間に皺を寄せた。小艦艇によるジャイアントキリング(大物喰い)は歴史上枚挙に暇がない。特に夜間の砲雷同時戦によって大型艦艇が駆逐艦に叩きのめされるという状況は、これまでの戦役で彼女自身も経験してきた事だ。しかも、注釈めいた事を言うなら敵水雷戦隊の中核を担うナ級は魚雷が新型に換装されているのか威力が高く、また単艦あたりの射線数も多い。

 

 少なく見積もって、20……いや30本もの魚雷の一斉投射を考えた方がいい──────だが、彼女達はただ迫り来る魚雷を注視し避けるだけで良い訳ではなかった。対空火力を維持し、未だ哨戒機の脅威となり続ける敵艦をこの場で始末しなければならない……!

 

 魚雷への警戒も敵艦の排除も欠くべからぬ至上命題だったが、それは言うは容易く行うは難しかった──────通常の軍艦ならば、見張員、操舵手、操砲員、それらを纏め上げる指揮官……と多数の人間が連携し、その巨体を1つの存在の如くに能動的に機能させる。だが───妖精さんの助けがあるとはいえ───艦娘はほぼワンマンでこなさなければならない点が、やはり弱点だった。

 

 逃げ続ける敵艦に対して、追撃する戦艦の砲撃は中々命中しない。最も命中弾を出しているのは大和の高角砲だったが、決定打にはならないのは先程から同様。次点でアイオワ──────彼女の高角砲は従来のそれとは異なり、より速く、より遠く、より重い砲弾を撃ち出す事のできる、新型の長砲身な5インチ砲を搭載していた。当然威力も高い──────アイオワが砲撃し続けていたナ級が落伍し始める。トドメとばかり、アイオワは主砲を撃ち付けた!

 

 抵抗などなかったように、一瞬にして敵駆逐艦は砕け散り、煌々とした爆炎が周囲を赤裸々にする──────敵の背面がよく見えた。更に海面が照らされ、白い雷跡が扇状に伸びて来るのも、幾つか確認できた。

 

「見張員は雷跡を逐次報告せよ!」

 

 それらは、正に違わずに並み居る者達を深海へと誘う悪魔の腕だ。これまでに、幾つの命があの悪魔によって暗い海の底に引きずり込まれたものか………。

 

「ショウメンライセキ!カズ7!」

 

 来たか──────「取り舵5度っ!」「トォーリカァージ!」………海面を注視しながらも、大和は下手な回避の指示は与えなかった。駆逐艦や軽巡のように身軽ではない戦艦は躱す様に大きく動くより、艦首をたて、被雷面積を最小限にすることが最も効果的な魚雷の避け方だった。右へ左へと横っ腹を見せるような回避方法は、大柄な艦艇には危険なのだ。

 艦首をフイ、と僅かばかりに振り、その直後すぐ横を魚雷が航走してゆく。

 

「サラニゴホン、セッキン!ショウメン!」「舵もどーせーっ!」

 

 まさに紙一重!艦娘としては最大級の巨体でありながら10を超える魚雷の群れを躱すその様は、彼女の練度の高さを窺わせる───それも、不慣れな第二改装状態で……!

 しかし遂に、その練度をもってしても完全に躱す事は叶わなかった。過ぎ去った魚雷と僅かな間隔を置いて、ほぼ同じ角度で魚雷が突っ込んで来るのを見た大和は一言。

「衝撃に備えっ!」

 直後───ドーーンッ………‼︎大和の全身を覆尽くす巨大な水柱が聳り立った。幸いにして被雷を避けた隷下艦は旗艦の被雷に顔を引き攣らせたが、それも一瞬。水柱が落ちて顕になった大和の姿は、全身びしょ濡れ、毛量の多い彼女の栗色の髪も余すことなく濡れまくって海坊主もかくやという程だったが、大きな損傷は無い様だった──────その証拠とでもいうように、目配せする顔の口元には微笑を浮かべている。

 

「こちら大和、被雷するも浸水並びに損傷いたって軽微。」

 

 大和は被雷の直前に転舵、魚雷の入射角を抑える事によって被害の低減を成し得たのだ。直撃ではこうはいくまい。

 しかし、大和の無事を喜んでいられる状況では無い。魚雷の回避によって微かながらも舵を右往左往させていた彼女たちと逃げる深海棲艦の距離は先程とは比べられないほど開いている。

 最も足の速いニュージャージーだけでも先行させるべきか……!?だが戦力の分割───それも単艦!───は避けられるべきという戦場での通説がその考えに待ったをかける。ではどうする?このまま敵艦をのさばらせれば哨戒機の脅威となるは必至。哨戒機が"ユニコーン"を発見できなければ、これまでの全てが水泡に帰すのだ。

 

 ──────しかし逡巡もまた戦場で避けられなければならない事だった。それは隙となり、敵に行動の時間を与えてしまう。実際、敵との差はなお開き続けているばかりか、煙幕まで展開し始めた始末だ。レーダー測距ならばまだか辛うじて───というレベルで、その上之の字運動まで加えてきた始末であるから、命中は絶望的と言い切って差し支えなかった。

 

 撃墜覚悟で瑞雲を飛ばすか?と本気で考え始めた時、視界の端から光の束が吹っ飛んで来る。

 

 何───!?

 

 光──────それは赤熱化した砲弾の煌めきだった。突き刺す様にして着弾し、巨大な水柱を叩き上げる。水柱の大きさは、その威力をまざまざと物語っているようだ。

 

『Shit!ハズしたぞ!』『遊んでないで、Aimしっかりやって。』『遊んでねェ!』

 

 大和の耳朶を打つ、罵声にも似た抑揚と迫力のある声に、彼女は覚えがある………五十鈴が率いる水雷戦隊の前に立ちはだかった重巡ネ級、それらを蹴散らしたボルチモア級の2隻、ボルチモアとボストンだった。

 更に──────

 

『さっきはよくも邪魔立てしてくれたわね!』『今度は逃さないぜ!Fire!Fire!!』

 

 戦艦や巡洋艦と比べても優速を誇る水雷戦隊は、雷撃後いち早く敵水雷戦隊の追撃に入っていたのだ──────実は、これを指示していたのは提督だった。だから、先程まで大和らと提督達の間での更新が少なかった──────三方向から間断なく浴びせ掛けられる大中小様々な口径の弾丸が、深海棲艦を続々と血祭りにあげてゆく。

 

 戦艦主砲の砲撃がチ級の至近を捉える。態勢を崩した所で、紛れ当たりを信じて間髪入れず叩き込まれた砲弾によって胴体が真っ二つに打ち割られた。

 

 並走するボルチモア、ボストンから射掛けられる8インチ砲弾にとって、所詮は駆逐艦にすぎないナ級の外郭を貫徹することなど造作もなかった。炸裂した砲弾がナ級の穴という穴から炎と煙を噴き出させ、それは瞬く間に浸水によって海底への片道切符となる。

 

 速射力の高い駆逐艦隊の主砲が雨あられと降り注ぎ、深海棲艦の継戦能力を奪ってゆく。撃ち返した主砲塔も、それに倍する弾量を浴びて即座に沈黙を強いられ、遂には浮いている力すらも喪いつつあった。

 

 十字砲火よりなお凄まじい砲撃の中に身をおいて無事でいられる道理はなく………最後まで抵抗を続けていたナ級の砲身が海面から見えなくなったのは、それから10分も過ぎていない頃だった。

 

 

 




近日中に次話投稿します。
またまたまたお待たせして申し訳ない……
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