戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》 作:お猿プロダクション
前話と一纏めにする予定でしたが、意外に長くなった&遅筆過ぎたので分割した次第です
20XX年
9月30日 20時50分
北太平洋沖合
上空600m
爆撃機譲りの視界の広いコクピットからは、太陽がその顔を覗かせてさえ入れば、きっと美しい海原が姿を横たえていただろう。………しかしこと今に関しては、闇夜のベールが視界のすべてを覆い、機体の外の状況を肉眼で伺い知る事はできなかった。
彼らが現在自機を見失わず、高度を維持できているのは、ひとえに眼前で数字を投げかけてくる計器に全幅の信頼を寄せているからだった。加えて大型機の余裕故に搭載された電探も、彼に的確な高度と進路を示してくれていた。
「ウミノナカガシズカニナッタナ。」
ソノブイ・バリアの捜索エリアから敵艦隊が一掃され、海上における砲撃音は遂に唸りを収めた。この水中雑音に乗じて逃げ仰ようと企んでいた目標───"ユニコーン"───はいよいよ逃げ場を失い、後は我々の垂らす釣糸に食い付く以外に選択肢はないはずだ。
「ニガスナヨ!」
「モチロンデス。」
先輩の
ソノブイからの通信を待ち、そのデータを解析、データリンクし戦術的に全体が共有する──────前任の東海では到底不可能だった一連の動作が、この連山改造型の哨戒機ならば可能だった。
暫くして──────
「ブンセキカンリョウ、データリンク!」
粗のある深緑のスクリーン──────妖精さんのサイズに合われせて作られるている為画質が悪い──────に、明瞭なコントラストを持った円が表示される。それこそが、ソノブイの掴んだ情報───この海域にユニコーンが隠れている場所だった。
そして、彼らの仕事はまだ続く。謎の多い深海棲艦、それも新型相手に今の技術では"おおよそ何処に潜んでいるか"程度しか判らない。それを決定付けるのは、今彼らの乗機が腹に抱えている巨大なナガモノの出番だった。
「キチョウ、シンロヲ2-2-5ヘ、イソゲ!」
「リョウカイ!」
「タカラサガシノハジマリダ!」
〜〜〜〜〜
同 20時54分
海上自衛隊 第二護衛隊 旗艦 DD-119[あさひ]
「データリンク確認。」「哨戒機4機、捜索範囲へ到達───」「MADによる捜索を開始!」
「………。」
間もなく、彼女たちがここに居る最大の理由が訪れようとしている──────開戦以来、お荷物にも似た存在感しかなかった海上自衛隊護衛艦が、かくも重要な任に付くことになろうとは………。それは作戦開始より以前、ブリーフィングを受けた段階から分かっていた事ではあったものの、いざその段階になってみなければ分からない感慨というものを、今更ながらに知るようだった。
「こいつは本物の宝探しですな。」
「釣り上げる物が、ミミックだと分かっていてもか?」
「そのミミック討伐が我々の本懐ならば、それは間違いなく"宝"と言えましょう。」
「はは……たしかに。」
艦長の片隅二佐と、お互いの緊張を笑うようなやり取りをする。実行するのは機械だが、それを操る人間が緊張に凝り固まっていては求むる戦果も出はしまい。
「各艦の状況はどうか?」
「全艦射撃準備を完了しています。」
「よろしい。」
さっさと出てこい化け物め……!時世一佐は眉間の堀を深くした。怪物潜水艦を沈め、今こそお前たちに引導を渡してやる。
MADの波形は小さな鋭角の連なりから、やがて大きな山を見つける。その山を品定めするように、4機の哨戒機が寄って集って飛び回る。
そして──────
ビーー………!
「……!」
来たっ!
確信めいたものを胸に感じ、目を見張る時世一佐。それはやはり、間違いはなかった。『ツリアゲタ!MADニハンノウアリ!』──────妖精さんのチミチミとしたあの声が、これほど頼りに感じる時が来るとは!
『いいぞ!』『哨戒機が潜水艦"ユニコーン"を発見した!』『ヤッホー!!』『Yes!』『トビマワッタカイガアッタゼ……!』
各々の感慨が決壊する。これほどの闘いに身をおいた後だ、仕方あるまい。だが遠隔地にいる提督もその感慨を拭え切れなくとも、まだそれが最後ではない事を告げる。
『まだ終わりじゃない、護衛隊はトドメを頼む!』
「隊司令……!」「分かっている───全艦対潜戦闘!」
号令一下、同一の命令が各艦の通信回路を駆け巡る。
「目標の座標を取得。」「座標入力───」「07式SUM、攻撃準備はじめ!」「SUM攻撃用意!」「VLS開放。」「射線方向クリア───」
射撃までに纏る全ての行程は終わり、あとは隊司令たる時世一佐の命令如何に全てが託される。
そこに迷いはない──────
「全艦発射せよ!」
「撃てっ!!」
片隅二佐の命令により、[あさひ]の前甲板VLSが眩い白濁に覆われる。噴煙を突き押し出た弾体──────時を同じくして僚艦もSUMの発射を完了したことをLSDの示す情報群は伝えていた。
「ミサイルアウェイ!」
「対潜ミサイル全弾の発射を完了。」
対潜ミサイル───07式垂直発射魚雷投射ロケット───その弾頭には、巨鯨を仕留める銛───試製短魚雷G-RX7───が搭載されていた。短魚雷単体では精々数kmの射程しか無いところを、ロケットブースターを用いる事による力業でそれより遥か彼方へ魚雷を投射することが出来る。
巨鯨の位置を知り、銛を放った今。彼女達に成し得る全ては、試作に過ぎない魚雷の信頼性と能力を信じ続けるだけだった。
闇夜の一角………瞬く間に音速の壁を突破した飛翔体の煌めきは意外な程速くに遠ざかり、やがて消える。燃焼が終わったのだ──────役目を終えたロケットブースターは切り離され、魚雷はパラシュートを開傘する。
着水しようと高度を下ろしていた瑞雲の近くを、4本の魚雷がゆっくりと降下していった。
「着水を確認。」
「攻撃効果を確認せよ……!」
ソナー、レーダー、各種センサーカメラ、そして肉眼。あらゆる探知手段が暗闇の大海原に向けられる。海面のひと揺らぎに至るまで些細な変化も逃すまいとするほどだ。
「隊司令、艦娘隊が状況確認のために照明弾を打ち上げたいと。」
「許可しなさい。こちらも見やすくなる。」
程なくして、夜はその粧いを夕刻ほどの明るさを取り戻した。海面を照らすオレンジの光は、流石に太陽ほどの明るさはなかったが………。
そして明るさを取り戻したがために、海上の異変にもまたいち早く気付けるというもので─────
『こちら艦橋見張り、海面に水柱!2、3……4!』「こちら艦長、ソナー!敵潜の圧壊音は拾ったか……!?」「
どうなっている……!?混乱と焦燥──────だがその2つは、すぐにも霧散することとなる──────希望であるとか、期待であるとか、そんなものを根こそぎ暗色の壁に押し潰させてしまうような、恐るべき事態によって。
「ば、
悲鳴にも似た声がソナー員から齎された直後。時世一佐はほんの数十秒前の発言を後悔した。"こちらも見やすくなる"だと?
一枚で畳ほどの大きさを誇るLSDは、嫌でもその情報を大きく、視覚的に分かりやすく表示する。その一角を占める外部状況を報せる為のカメラ映像も、また大きく映っていた。
照明弾に照らされた海面は宛ら地獄への回廊を開け放ってしまったようで、
天への挑戦を示すかのように長大な一角を携えた黒塊。
その上に跨る者は、陽を知らぬかのような蝋にも似た青白さを持ったその身体に、生命としてあるべき輝きとか力強さというものは皆無。下手な芸者が操り人形をカクカクと動かすように、一挙手一投足に力が無かった。
深海の冷たさをそのまま色にした蒼白の髪色、そこから覗く紅い眼の中の瞳孔は、奈落への穴のよう。
───外見からすれば、それは戦艦水鬼や戦艦棲姫のようなヒト形と異形の何らかの組み合わせを持った
「バカな」
時世一佐はそれらを忌避しようとして失敗した。捻り出した声は首を絞めた子犬のような弱々しい物でしかなく、却って自身の寒からしめられた心胆を晒してしまったように思えた。
ただ彼女にとって幸いだったかも知れないのは、驚嘆とそれに付随する感情を押し殺すのは、およそこの現場に居ては不可能だ──────という事を次の通信で確信した事だった。
『"ユニコーン"の浮上を視認!』
禍々しき憤怒の獣は、人間達の運命の如何を値踏みしているかの様に紅い目を流していた。
やっとユニコーン登場させれた〜〜!!長かった!!
イヤまぁまだ全然続くんですけどもね!!!
後申し訳ないですが、次話の投稿はなり感覚空くと思います。(またか?)色々仕掛けと詰めなきゃいけないところがあるので……