戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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やっっっと投稿できましたァ──────!!!
前回投稿から約半年開いてるってマ?グダり過ぎ&サボり過ぎだろ………愛犬が亡くなったショックとか言い訳にならなくてワロエナイ。

マジで笑えない。


今回だいぶん長くなりました!半年間割には少ないですが、ボリューム満点になる様努めて書いたので、どうぞご笑覧ください。


ユニコーン

 もし、命名するとしたら、深海潜水航空砲艦水姫とかになるのだろうか。

 実に長ったらしい……戦艦レ級の異名、超弩級重雷装航空巡洋戦艦にも似たフレーズだったが、その実態はより恐ろしい。

 

 その片鱗は、すでに─────────

 

 

「ユニコーンの浮上を視認‼︎」

 

 これまで遭遇したどの深海棲艦よりも大きく、雄々きく、巨きい。水飛沫のベールを下ろした怪物の姿には、まるで大気そのものが圧された様な感覚を覚えた。

 破壊の獣の頭上に居座るヒト型の影──────目の良い者には、それがこちらを睥睨しているように見えただろう。

 

「浮上だと!?撃沈じゃないのか!」

 

 それを浴びせるべき相手を見出すことは無かったが、天龍の口から漏れた罵倒にも似たその響きは凡そこの場に存在する全ての者たちに共有されるものであった。

「攻撃は失敗したのか!?」

 

 失敗──────たった2文字で表されるそれを、彼女達が受け入れるのは到底容易ではなかった。この一撃の為にここまでの艱難辛苦を耐えて、戦い続けていたというのに……!

 そしてさらに凶報は続くもので──────

 

「クソッタレ、艦載機を発艦させてきた!」 

 

 闇夜の空に伸びゆく引っ掻き傷のような白線──────それこそは、敵潜水艦"ユニコーン"が放った反撃の刃……!

 本来なら、バン!というカタパルトの射出音が聞こえてきそうなものだったが、”ユニコーン”のカタパルトは静かだった。艦載機───深海棲艦の高速戦闘機───は、ジェットエンジンの轟もそのままに彼女たちの想像も及ばない程の高速を以て暗闇に消えてゆく。

 

「チッ……対空戦闘!」

 

 天龍の唇が重い舌打ちに震えた。

 まず機銃が放たれ、やや遅れて仰角を付けた高角砲が矢継ぎ早に打ち出される。それは天龍だけで見られる光景ではなく、もはや艦隊を構成する全ての艦娘の艤装で行われていた。

 そのどれもが、高射装置の諸元を待つまでもなく、とにかくまぐれ当たりを信じて銃砲弾を吐き出し続ける。そこに理性的な考えは無い──────理性的に対処してどう(・・・・・・・・・・)にかなる相手ではない(・・・・・・・・・・)から……!

 まるで空に向かって吹雪いているような様が海上で完成する頃、最初に対空戦闘を開始した天龍が何かを見つける。

 光……!?ポイと空中に放ったようなその輝きは、明らかに砲弾の爆発でも曳光弾のそれでもなかった。

 その光の先にあったのは、空母部隊の盾たらんとして艦隊の前面に展開していた第二艦隊と、翔鶴、瑞鶴両空母とその護衛たる駆逐艦4隻を擁する第四艦隊──────「避けろっ……!」──────危機を察した天龍の反射にも似た速度で告げられる指示はしかし、不可能でまた無謀であった。

 

 ──────秒を追う毎にその数は増えてゆき、10……いや20程にその数が達した頃、光は環を形作るようになり、かと思えばそれは明瞭な火矢の輪郭を伴って、彼女達に降り注いだ!

 

 着弾………!光──────!

 

 ドン!ドンッドドドド………!!!

 

 破壊の嵐が吹き荒んだ。爆圧が炎を散らし、破片が所狭しと散り乱れる。

 

 ───高角砲が炎の中で吹き飛ぶ。

 

 ───集中配置された機銃群がその操作妖精さんごと甲板から抉られた。

 

 ───煙突が木っ端微塵に破壊され、衝撃と破片を喰らったマストが電探ごと倒壊してゆく。

 

 生じた破壊の嵐は留まるところを知らぬまま拡大し、艦娘とその艤装を灼熱の檻の中に閉じ込めた。先のミサイル攻撃よって既に出血を強いられていた艦隊はさらなる被害を抱え込み、その戦闘力の損失は時間の問題かに思われた。

 

『カンキョウニチョクゲキ!』『被弾!被弾!ミサイルの雨だ!!』『防空艦天龍、駆逐艦照月沈没!!」『夕立、天津風被弾損傷、戦闘続行不能……!』『応急修理要員は⁉︎』『……確認中!』

 

「バカな……!」

 

 敵の全貌を隠し続ける夜空を見上げたまま、大和は出すべき言葉を失った。海面から立ち上がる炎と煙の柱に釘付けにされた紫の瞳は、そこにあるべき光を失って久しい。 

 

「……旗艦!どうするデース?」

 

 金剛が指示を仰いだ。

 そして、混乱に近い大和の脳が辛うじて弾き出した指示は「追撃」か「迎撃」であった。前者は作戦遂行のため、後者は作戦遂行に"必要な戦力を保持"するため。

 ────彼女の脳内シナプスが走った。数百、数千にも渡るだろう思考のパスが繰り返され、それはほんの数秒にも満たない時間に過ぎなかったが、漸くにしてその答えを得る──────

 

 ドゴォ……ン……!

 

「!」

 

 巻き上がる爆炎。味方艦の誰かの誘爆だろうか。しかし錯綜し混乱した現状ではそれを知る手段などとうに失われてしまっていた………だがその爆発が、大和の決心に勢いを付けていた。

 打算など無い、経験と知識に基づく勘に近いものを根拠に、大和は命令を下した。それは明らかに空よりも海の目標に対する為のものであった。つまり──────

 

「──────艦隊増速!」

「「「……!」」」

 

 命令は、その言葉こそ単調そのものではあったが、そこに込められた意味と覚悟は凄まじいものが存在した。それは何よりも………あの上空の敵機!闇夜を背に姿も見えぬ遠くにある疾風の如きあの連中は、瞬く間に空母部隊の防空艦を蹴散らした──────本当に僅かな時間だ。

 だがそれを!それよりも!そんなものは放置せよ(・・・・・・・・・・)と!大和は言っているのだ。

 

『───司令部より大和、聴こえるか?』

 

 時を同じくしてここより遠く離れた鎮守府司令部でも同じ事を考えたものが居るようであり、それは明瞭な提督の声として大和の耳朶を打っていた。

 

「"ユニコーン"を撃沈、でよろしいですね?」

『───そうだ。頼むぞ。』

「はい!……大和、押して参ります!目標、敵潜水艦!っ!」

 

 艦隊は大和を先頭とした単縦陣に、速度は28ノットへ増速。燃え盛る空母部隊の輪形を横切り、その前面に躍り出る形だ。

 炎を背景にこちらに手を上げる人影が見える──────いや、手では無い。もっと細くて鋭利だ──────応急修理要員の発動によって撃沈を免れた天龍が、長刀を降っている。

 彼女に見えるだろうか、と思いつつも、大和は傘型の通信マストを大きく掲げて応えた。それに気づいたアイオワ、ニュージャージー、金剛と榛名。そして五十鈴率いる水雷戦隊と米巡洋艦、駆逐艦隊もそちらを一瞥し、手を降ってみせる。

 強敵を前に他事をやっているようにも見えるが、ほんのかすかな動作だ。彼女たちの警戒に支障が出るほどではなく、それは次の瞬間には実証される。

 

「テッキチョクジョウ!」「ヒカリダ!」

 

 音よりも速い敵機よりもなお早く、空に目を光らせていた対空見張員妖精さんが敵機に気付いた。星空を背景に急降下してくる敵機はその黒体を見つけられるとは、驚くべき視力だ。

 

「陣形そのまま、各個に対空戦闘!撃てッ!」

「Fire!」

 

 ドン!ドン!ドン!ドン!

 ドコココココッ……!

 

 高角砲が火を吹き、機関砲と機関銃が槍衾のような弾幕を形成する。狂ったように打ち上がる赤熱化した弾丸が空を埋める星々を追いやり、我が物顔で夜空をオレンジの輝点で埋め尽くした。それでも、まぐれ当たりを期待される弾丸は敵機に掠りもせず、また砲弾も見当違いの場所で起爆し、せいぜい敵機の不気味なシルエットを一瞬程度浮かせるのみ。

 

 彼我の距離は……攻撃までどれほどか?──────電探が役立たずなのはこんなにも、もどかしい物だったか⁉︎

 闇夜に慣れたはずの大和の目でも、捉えきることが出来ない──────だから、突然上空に生じた4つの軌跡と爆轟に目が眩んだ。

 

「……!?」

 

 ──────それは此処よりも後方、戦闘海域の水涯に展開している海自護衛隊の伸ばした援護の手だった。

 直撃はしていない。が、突如として飛来したミサイルに警戒したものか、敵機の存在を示す轟音は闇夜の向こうで小さくなっていた──────背景の星とは異なる、ホタルのような煌きが見える……あれが敵機?  

 その絡めきを追い立てる様にして、護衛艦のVLSから矢継ぎ早にESSM-HWが放たれる。速射砲までも砲弾を吐き出し甲板上に空薬莢の山を作り上げていた。

 

『───こちら『あさひ』。敵戦闘機は我が艦隊が引き受ける、艦娘隊にあっては作戦目標"ユニコーン"の撃沈を最優先されたい。』

「しかし、貴艦隊には──────」

『───艦隊司令部より作戦展開中の全艦艇へ達する。"ユニコーン"を撃沈せよ!』

「提督⁉︎」

 

 驚くべき命令を発した提督へ、大和は驚きの声もそのままに、オウム返しに返した。護衛艦は戦力価値が低い、その上──────

 

「提督、護衛艦は下げてください!あそこには、大破した艦が───」

『大和!私達を舐めないで……!」

「浜風……!]

 

 言葉を遮って、割って入ったのは、既に先の戦闘で大破した駆逐艦浜風であった。[いしかり]に収容されてから怪我の処置を受けていた彼女は、一丁前に檄を飛ばせる程度には回復していた。

 

『提督の言う通り、作戦目標の撃破を最優先してください、私達は大丈夫。この(フネ)と……それを駆る人達を信じていますから。』

「……!」

『それに、艤装や身体に直接爆弾を放り込まれるわけじゃない。最悪、泳いででも帰って来ます!』

 

 きっとそれは、浜風だけではない。全員が一致している覚悟なんだろう。『決戦なのに、私たちが足手纏いみたいじゃないですか。』と付け加えて来たのも、その証左のように感じられた。

 

『それに、浮上している今なら攻撃できる。全艦大和に続け!』

「……。」

 

 なるほど、確かにそうだ。──────寧ろ今叩かねば、それこそ撃沈の機会を永久に失うことにもなりかねない──────そうまで言われたなら、これ以上言葉を重ねる必要は大和に無かった。意を決し、それを声に乗せて号令を叫んだ。

 

「……了解。大和、これより敵潜水艦撃沈を期し突入します‼︎艦隊、我に続け!」

「Roger!」「了解!」「オフコースッデース!!」

 

 敵は─────あの恐るべき高速戦闘機は、護衛隊のミサイルに誘発され轟音を伴って闇夜の遠くへ薄れてゆく。だがいつ何時舞い戻ってくることやら……のんびり航行してはいられない。艦隊速度は28ノットのまま、縦深隊形を維持しつつ艦隊針路をとる。

 

 空母機動部隊が視界の端に消えてゆく。燃え盛る艤装や破片を海に投棄している妖精さん──────損傷した艦娘に肩を貸したり、その慌ただしさは未だ収まるところを知らない様だ。

 その機動部隊の直前を突っ切り、"ユニコーン"の前面に躍り出た艦隊──────その時点で、ほとんど自動的に大和の指揮下に入った米艦隊も併せて日米連合艦隊とでも言うべき艦隊──────は、既にその剣呑な砲口をもたげていた。

 

「各個に射撃!撃ぇッ!!」

 

 ドン!ドロドロドロ………!!と、口径も射撃速度も初速も異なる砲口から無数の砲弾が吐き出される。何もかも異なるこの砲列だったが、射撃タイミングのみ近似していたことから、その轟は歪だった………さながら、大きな山崩れでもあったかのよう。そして大小様々の危険な威力を孕んだ物体が猛烈な勢いで迫っているという点においても、それと似ていたかもしれない。

 

 ドン!ドンドンドンドン!ドンッドンッッ……!!

 

「ダンチャクカクニン!」「シ、シカシ……」

 

 これほど用途の異なる多様な種類の砲弾の同時弾着はなかなか見ない。ただ主砲口径を並べるだけでも、51cm、40.6cm(16インチ)、36cm、20.3cm(8インチ)、12.7cm(5インチ)……と5種にも及ぶ。これに副砲や、弾種まで加え始めると埒が明かなくなる。

 そのあまりの光景に、大和と共に激戦をくぐり抜けた熟練妖精さんといえども息を呑んだ。だが彼らが喉を鳴らしたのには、また別の理由がある──────。

 

「ダンチャクカンソクガデキマセン!」

「修正諸元は後回しで良い!とにかく撃ち込め!」

 

 命中精度の確保は砲戦においては至上命題だったが、この際贅沢は言わず、一撃でも当てられれば良いと開き直った。いかに強大とはいえ、浮上した潜水艦如きが戦艦5隻を含む艦隊相手に戦えるはずがないのだ。

 海面がそこだけ盛り上がった様に、無数の水柱が尽きることなく立ちあがる。

 時折、水柱の隙間から光が見えるのは、明らかに命中の輝爆発閃光だ。

 それでもなお──────

 

「テキセンスイカン、センコウカイシ!」

「嘘!?」

 

 被弾しているんだぞ!?──────それも銃弾や速射砲のような豆鉄砲ではない──────自殺行為に近い!

 だが"ユニコーン"はなんらの躊躇も見せることなく、その巨体からは信じられないほどのスピードで海中に没してゆく──────それが沈没である事を一瞬期待したが、やはりというべきか、どうもそうでは無いらしかった。

 

『センコウシタテキセンスイカンヲカクニンシタ!』

 

 連山哨戒機の報告……それは敵潜の生存という良くない報告の他に、一つだけ良い事柄を含んでいる。

 

『コチラハセンスイカンノカンシヲツヅケル!フジョウチョクゼンナライチヲトクテイデキソウダ。』

「十分です!全艦"ユニコーン"が浮上したらすぐ叩けるよう準備を。」

「了解です!」「Roger」

 

 ……と、そこまで話が進んだところで大和は思った。此方はどうやって敵潜水艦の位置を知ればよいのか?海自艦艇と違い、艦娘は共同交戦能力(CEC)を行えるような能力はない。

「敵潜水艦は、どう補足するのでしょう?」と言った榛名の言葉は、大和のみならず全員に共通する疑問だった。

 

「ん?」

 

 ゴォーー……ン……上空を過ぎ去る重低音は、連山哨戒機のもの。夜に慣れた目は連山哨戒機の姿をしっかり捉えていた。

 四発の大型陸攻を改修した哨戒機はその図体からすると意外なほど身軽に思え、今も翼を大きく翻し──────ん?

 

「旋回している……?」

 

 魚を狙う海鳥のように、ゆっくりと滞空し始めたのだ──────なるほど、あの中心に敵潜がいるのだな──────それらしい海面に向け照準する。

 ……と思いきや、連山哨戒機の上部から突然光が放たれ、海面を撃ちつけ始めた。

 

『センスイカンヲホソク!センコウイチヲオクル!!』

 

 連山哨戒機の原型となった連山陸攻は、単機で20mm機銃6門、13mm機銃4挺という重武装を誇っていた。哨戒機への改修にあたり、大半の防御機銃は降ろされたが、胴体上部の20mm連装旋回機銃は最後の防御兵装として残されていたのだ。その旋回機銃を横向きにし、翼を傾かせることで、データリンクに頼る事なく"ユニコーン"の潜航位置を正確に伝えたのだ。

 

「目標、哨戒機の示す海面!」

 

 全周を注視していた各艦の砲門が一方向を指向し始め、ビタ──────と風がやんだように止まる。

 機関銃の吐き出した織り成す曳光弾の束も止まった。糸を伸ばし切った様な……張り詰めた僅かな間の沈黙──────

 

『テキセンスイカンフジョウ!』

 

 哨戒機の報告は的確であった──────鯨が波をかち割るようにして白波を上げたその間から、確かに"ユニコーン"の禍々しい艤装が姿を見せたのだ──────そして、刹那。

 

「撃ェッ!!」「Fire!!」

 

 発砲………!!!!

 ズドドドンッッ!!………陽光が顔を覗かせたように瞬間的に闇が引き払われ、次には夜と同じ色を纏った焔が、灼熱を帯びた弾丸が姿を現した。それらは射撃と同時に放たれたはずの音を既に尻目にしていて、その狙われた目標に向かい殺到する。

 

 ズバドドドズドォグワドァドォーーッ………!!!!!!!

 

 統一感のない乱雑そのものの雪崩れた音響が闇を取り戻した空間で唸り、その先で白濁とした水柱が持ち上がった。そしてストロボの様な瞬きが僅かに見えたあと、その深海の色を基調とした巨体は微かに地色とは異なる黒に微かに塗れていた。

 

「船体の損傷を視認!」

「Me達も続くデース!」

 

 いける!………艦隊の誰もが確信と希望を見出し、その望む光をより強くするが如くに砲撃の閃光が一層に煌めく。たが──────光が強くなる時、影もまたその濃さを増すという事は、往々にしてある。それはこの場に於いても、例外とはなり得なかった。

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 同 21時02分

 

 海上自衛隊 第二護衛隊 旗艦 DD-119[あさひ]

 同 CIC

 

 

 艦娘艦隊が"ユニコーン"の撃沈に光明を見出したころ、海自護衛隊は従来の深海棲艦機を圧倒的に上回る性能の敵機に対して絶望的な戦闘を試みていた──────具体的には、SAMにより敵の注意を引き付けつつ、ECMやデコイによりミサイル攻撃を躱し、全速で艦娘艦隊から距離を取る。

 

 ………それは、実行に移すには余りに難度と確度が釣り合わないものだったが、しかし、それを実行しなければならないところに彼らの苦しさがあった。 

 

『───こちら見張り、7時方向に光!』「───コンタクト!敵弾4、真っ直ぐ突っ込んでくる!」「デコイ撃てッ!」「22番砲迎撃開始!」

 

 22番砲とは海自における代表的なCIWS(近接防空システム)、『ファランクス』の俗称だった。通常、火砲は艦首から艦尾にかけて割り振られる番号が大きくなるが、ファランクスは20mm機関砲を搭載している事から最初の文字に2が付くのだ。だから、艦首側のファランクスは「21番砲」などと呼ばれる。

 

 そのファランクスが吐き出す20mm弾の群れが帯となって深海棲艦の放ったミサイルの前に立ちはだかった。

 それは一つではない──────FFM[いしかり] [まべち] [いなば]の各艦のファランクスも迎撃を開始し、敵弾の前に圧倒的な密度で弾幕の壁を形成する。

 

 闇に新たな星団を創り出しているようだ。闇夜の黒より赤熱化した弾丸の光が多くなった頃、そこに1、2個の光球が生まれた。

 

「敵弾2発撃墜!更に2発突っ込んで来る……!」

 

 LSDが示した4つの輝点が2つの「LOST」と輝点に変わった時、更に1つの輝点が護衛隊への突入コースからずれ、暫しの迷走の後「LOST」となり潰える。[あさひ]が搭載する電波探知妨害装置の電子の千手に遮られ、その目標を見失って海面に突っ込んだのだ。

 

 

 更に最後の1発も──────

 

「……目標敵ミサイル、直撃コースから逸れます!」

 

 護衛艦各艦の有するMk.36 SRBOCの、Mk.137発射機から放たれたジャム弾(ジャミング弾)とチャフを交えた電子の雲が護衛艦の姿を覆い隠し、その進路を誤らせたのだった。

 

「チッ……。」

 舌打ち──────それは片隅艦長の指示と鷹井三佐の手腕に向けられたものではない───むしろ彼らの指揮は的確だった───時世一佐はミサイルの手から逃れた現実を前にしても、その顔の彫りを緩めなかっただけだった。こうした苦し紛れの逃避行もそう長く保たないのは明らかだったからだ。その証拠とでも言うように、敵のミサイルが更に投げかけられた事をレーダーが示していた。

 

「敵ミサイル4発探知、7時より本艦に向かう……いや9時より更に4発!」

「分散したか!」

 

 敵機はどうやら、数機ずつの編隊に分かれているらしく間断無い波状攻撃を仕掛けていた。これで何度目だ……!?

 

「SAM発射始め、面舵20!」「おもぉかーじ!」

 

 VLSから現れた新星が弾かれたように上空へ舞うと、意思を持たされたかの如くに護衛隊の後方に飛んでゆき、そこに秘められた威力を光と破片の嵐となって開放する。

 

命中(インターセプト)!敵弾2発撃墜、更に2発──────」

「本艦だけ舵戻せ!第四戦速、デコイ撃て!」

「……は!?」「デコイ射出───……!?」

「復唱はどうしたっ!?」

「は……はっ、舵もどーせー!第四戦速」

 

 単縦陣のまま面舵に舵を切った艦隊はしかし、先頭艦の[あさひ]だけが直進に舵を戻した上に速度を落としたため、僚艦たる[いしかり][まべち][いなば]は[あさひ]を追い越した上に、左方向から突っ込んで来るミサイルから僚艦を守る盾のような格好になった。

 

『───[いしかり]より[あさひ]へ、旗艦の意図は何也や!?』『───[いしかり]、速度維持せよ衝突する!』 

 

 あまりの行動に面食らった片隅艦長が隊司令たる時世一佐の顔を思わず睨んだ。そこに一切の遠慮などはなかった。

 

「隊司令、これでは……!」

「僚艦には負傷した艦娘が、合計20名近く乗っている。万が一彼女たち諸共に艦を失えば、取り返しのつかんことになる。」

「!」

「すまないが敵の攻撃がこちらの対処能力を飽和した場合、この[あさひ]には真っ先に盾になってもらう。」

「……!」  

 

「後方の残ミサイル2発を僚艦CIWSが撃墜!9時方向のミサイル、本艦に向かう……!!」

 

「主砲対空戦闘!目標左舷敵ミサイル、撃ちー方はじめ!」

 それ以上言葉を投げかける機会をなくし、片隅艦長が迎撃を命じた。艦首と艦尾のファランクスは既に弾幕の雨を降らせている。そこに主砲のMk.45 5インチ砲も加わり、さらには[あさひ]自身の電子戦妨害手段も総動員し、近接するミサイルを迎え撃つ!

 

 暗闇で明滅する速射砲の破裂。ファランクスの弾幕がカーペットの様に海を彩ったが、それでも一目散に突っ込んでくる矢状は進路を変えない!

 漸くにして1発のミサイルが弾幕に呑まれて他とは異なる彩りの爆発閃光に果て、電子戦の猛威によって盲目となった1発が水柱を上げる。 

 

 なお縋る2発──────

 

 その弾体を示すLSD上の輝点に羅列された数値の一つが、突然跳ね上がった。電測士が目を剥き、絶叫に近い声で報告する。 

 

「敵弾ホップアップ!」『こちら見張り、敵弾上昇!突っ込んでくるっ……!』

「見張り員及び左舷側乗組員は退避っ!」

 

 仰角を超えた主砲はその迎撃手段を封じられ、CIWSだけが最後の抵抗を続けていた。悪あがきに見えたそれは、しかし報われた──────

 カッ!……と朝日にも似た明かりが[あさひ]を包む。それは明らかに敵弾の迎撃に成功しなければ発し得ない光量だった。

 

 ─────────それが、[あさひ]の主砲塔でも起きなければ、迎撃は成功したと言っても良かったのかもしれない。

 

 ドォーーン!!!

 衝撃っ!CICにあっても、その衝撃の凄まじさたるや肌身に染みた。直撃した付近の隊員は無事なのか!?

 

「敵弾、主砲塔に直撃!」「ダメージコントロール!」

 前甲板に火災発生───!」『こちら第3分隊、これより消火開始!』「負傷者の確認急げっ……!」

 

 直撃した敵ミサイルは幸いにも1発。5000tを誇る[あさひ]を屠るには未だ足りないだろう……と、傍らで腰を落としている時世隊司令が目に入る。着弾の衝撃で転倒したのだろう。

 

「隊司令、ご無事ですか。」

「あ、ああ……。」

「先程のようなことは、思いついたら直ぐに言って頂けませんか。」

 

 肩を貸しながら、少し強い口調でそういった。片隅艦長とて、先程の時世隊司令の考えに全く賛同しなかったわけではない。ただ、あまりに急すぎるのだ。それを咎めたのだが──────

 

「……すまない、さっき思いついたんだ。」

「………。」

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 同 

 第2護衛隊 3番艦[まべち]

 

 

 

 FFM──────[もがみ]型護衛艦──────のブリッジは視野が広く造られている。幅広の格子にはめられた防弾ガラスは特にその恩恵を受けられた。だから、艦橋からでも被弾し前甲板から炎を上げる旗艦の姿はありありと確認出来ていた。

 

「まさか[あさひ]は、我々の盾になっているのか?」

 

 護衛艦[まべち]艦長 詠浦(よみうら) 我知(かじ)二等海佐は浮き出た疑問そのままに言葉を出した。詠浦艦長他の[まべち]クルーも、各々に言葉を失っている。従来より遥かに少ない人数で運行される事も相まって、その沈黙の間は遥かに重苦しく感じる。

 

『こちら[あさひ]、本艦武装に主砲に損害受けるも航行に支障なし。以上───』  

 

 突然あんな自己犠牲的な行動をされた後では、そんな報告など到底信じられる気になれなかった。実はもっと凄まじい被害に襲われてるのではないか?

 被弾の報告を聞いた時に覚えた血の気の引く感覚は未だに指先の冷たさとして残っているが、それが元に戻る気配は一向に無い。それは自身の預かる艦の被弾を恐れてか、それとも[あさひ]とその幕僚への不信なのか──────

 

『第2護衛隊司令より達する。各艦は本艦に構わず自艦の防御を最優先せよ。繰り返す──────』

 

 それでも彼は自身のそのものと自身の預かる艦の安全の為に出来得る指示をしなくてはならない。

 詠浦艦長は未だ慣れないモニターだらけの機器を操作しCIC に積める腹心の砲雷長を呼び出した。

 

「こちら艦橋だ。CIC、聞こえるか。」

『こちらCIC。艦長、どうされましたか?』

「敵は二手に分かれている。前方上空と艦隊上空を重点的に捜査してくれ。多分、またすぐ仕掛けてくる。」

『はっ、了解。』

 

 ほぼ同じ様な命令をブリッジの外にいる見張員にも行った。[もがみ]型はステルスマストの根元、丁度艦橋の辺りに凹みがあり、そこに見張り員が積めるのである。ただ構造上、前方と後方が見辛いのが欠点で、詠浦艦長自身も双眼鏡を構えて前方を注視した。

 ──────もっとも、このような事をしなくとも[もがみ]型はCICに360°を見渡せる全周スクリーンが存在する。艦各所のカメラやセンサーを駆使してCICから外の様子を監視することもできるのだが……何かと慎重な彼はそれでも人の目を頼った。

 

「………。」

 

 ──────とはいえ、いくら目を凝らして見ようとも、双眼鏡のレンズ越しに網膜に浴びせられる景色といえば、闇夜とそこに散りばめられた気持ちばかりの星々、そして前甲板の燃え盛る[あさひ]とその炎に照らされた[いしかり]くらいで、旗艦が炎上しているという重大事項を除けば見慣れた景色ではあった。

 しかし彼は、彼自身の中で確信めいた考えがあった以上はその監視の目を緩めない。

 確信………後方からのの攻撃は何度も退けている上、側方は火力が集中しやすい──────[あさひ]は被弾したが、1隻で4発に対応して被弾したのは1発だった──────したらば、そろそろ攻撃方法を変えてくるだろう。それが、まだ試していない前方、艦の死角となりやすい直上だった

 

『センサに感、前方及び直上に敵機を確認!』

 

 それを最初に見つけたのはレーダーだった……更には熱赤外線センサー。ただ、やはりというべきか人間の目よりも機械に頼るほうが確実なようだ──────

 

「直上の敵機はSAM、前方の敵機には主砲で対処せよ。撃ちー方はじめ!」

 

 艦橋の外が俄に輝きを増す。瞬く間に光はブリッジから見えなくなり、後には残影の様な煙が残されていた。同じ様な光景が、前方をゆく[いしかり]でも見られる。そして、ほぼ同時に、ドン!ドン!と低い音が振動と共に鳴り響く。

 艦首の5インチ砲が炎を上げ、線香花火のようにパリパリと遥か前方で砲弾が炸裂する。

 

 敵は速く、それに対応するあらゆるオプションを総動員してもなおそれを完封することは叶わない───『敵機がチャフ(欺瞞紙)を放出!──────失探(ロスト)!』

 ──────それみたことか!ここからでは見えないが、きっと今頃はイルミネーターレーダーの指顧を失ったESSMが迷走し幾何学的な模様を描いているに違いない。

 

 そしてそんな模様の隙間を縫うようにして、敵のミサイルが放たれるだろう事もまた容易に想像させた。

 

『熱源探知、高速飛翔体分離!』『ジャム発射始め!』『こちら見張り!上空に光……!!』

「総員衝撃に備えっ!!」

 

 瞬間──────ドッ、ドーーンッ!!

 

「ウオ……!」

 

 艦全体が叩き潰されたのではないかと思うような衝撃が伝播し、艦橋に詰めるクルーはそのあまりの凄まじさに転倒した。艦長席で縮こまっていた詠浦ニ佐もそこから放り出されるかと思ったほどだ。

 

「……損害報告ーッ!」

『───主砲に被弾、全損!火災によりVLS使用不能!』『煙突損壊、SSM発射筒全壊。衛星通信アンテナに障害……!』『機関部、ギアボックスに支障発生!』

 

 直ちにダメージコントロールを指示し──────とはいえ乗組員の少ない[もがみ]型護衛艦のダメコンなどたかが知れているが─────次の手を考えようとして、諦観しかけた。……主砲、VLSは[まべち]の戦闘力の過半を占めている。それを損失した上にギアボックスの破損──────それは快速とステルス性を持って自身の生存を保証する[もがみ]型護衛艦にとって致命傷と言って良く、戦闘航行に関して[まべち]は存在しないのと殆ど同義になってしまったからだ。

 

 それだけではない。CICから上がった報告によれば旗艦[あさひ]がさらに被弾しVLSが全壊、僚艦[いなば]もまた被弾したようだ──────本艦を含め艦娘を収容した艦尾付近への被害が少ないらしいのが不幸中の幸いというべきか──────だがその艦尾側からの報告。

 

「艦娘達が……?」 

 

 応急処置を終えた何人かの艦娘が、艦隊の直掩を訴えているらしい。大破したとはいえ戦闘力が皆無になったわけではない、だからせめて護衛艦の直掩だけでも………という訳だった。

 妙案に思えた。そしてこの[まべち]が沈んでしまったとしても、艦内に居るよりは海で浮いていた方が生存率は幾ばくか上がるだろう。

 それでも、詠浦ニ佐はその案を「駄目だ。」と一蹴した。前述の話は、従来の深海棲艦を相手するのなら当てはまる話かもしれなかったが、この敵は違う………それこそ、艦娘が現代兵器を担いで相手しなければ到底抗えない様な存在であって、大破状態にある艦娘をひとたび外に出してしまえば、猫に襲われたひな鳥の様に一瞬で叩き潰されるに違いないのだ。

 そして間の悪いことに──────

 

『[いしかり]が6時より接近する敵機を補足、距離(レンジ)5マイル!』 

 

 ダメージを受けていない[いしかり]のレーダーが、捉えた脅威目標をデータリンクにより共有し、僚艦に知らせたのだ。……だがやはり近い!

 敵機に有効な対応オプションを講じる余力は護衛艦には最早なく、そして僅かに残された対抗手段にとって敵機は余りに速すぎた。

 第2護衛隊各艦の唯一被害の少ない艦尾側から接近ということは、この敵は我々の対抗手段を完全に奪ったうえで、確実に沈めるつもりらしかった。

 

(クソッタレの海産物共め!何故そんなに用心深いんだ。適当に正面から乱打してくれれば、艦尾側から乗員や艦娘を退艦させられたかもしれんのに。)

 

 複雑にして精緻を極めるギアボックスの破損により碌な操艦が出来なくなった[いしかり]には、艦尾のCIWSに全てを託しひたすらに射撃を見守ることだけが唯一無二の取り得る手段だった──────だが唯一無二というのは、この状況がこのまま(・・・・・・・・・)続けば(・・・)の話だった。戦場では常にどちらへ転ぶかもわからない不確定要素が付き纏う。

 

 "それ"を最初に探知したのは、[あさひ]のソナーだった。データリンクにより前方から急速に近付く不明の水中物体をソナーが捉えたのだ。鯨……?否、そんな訳はなかった。既知のスクリュー音とも水中生物の類とも全く似つかない音紋を持つその音は、だが静かで、かつ何処かおどろおどろしい響きを以て近付いていた。

 

『何者かが本艦の直下を高速で逆進していきます……!』

「何……!?」

 

 直後──────

 バシュバシュッ!と水中から何かが飛び出た様な音。艦橋にいながらその音が聞こえたのだから、イルカのジャンプなど比では無いだろう。それこそ、演習で見たことがある、潜水艦からハープーンが放たれた様な………。直後に、ドロドロドロ……という遠雷のような轟き。

 

『こちら見張り!す、水中から飛行体が出現!』『何か撃った……!?』

「見張り!状況を正確に報告しろ、何かってなんだ⁉︎」

『艦橋!こちらCIC、後方に複数の熱源──────遠ざかっています。いや、何か炸裂した!』『見張り、こちらでも確認した!あれはなんだ……!?』

 

 錯綜する情報、報告。

 なにが起きたのかを知らせる報告は上がっても、そこに統一性や具体性はなく、何がどうなったのかがまるで解らなかった。

 分かっているのは、"何かが現れた"。

 そして"何かが吹き飛んだ"。

 

 誰が?

 誰によって?

 どうやって?

 

 彼らが知らなければならないおよそ全てがそこに存在しない。

 

 無理もない──────闇夜のベールは意図せずそれらの存在を隠し通し、海という壁は意図してその存在の全てを覆っていたのだ。矢状の尖兵と、恍惚とした破壊の象徴者を──────

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 

 同

 

 9月30日 21時15分

 

 北太平洋沖合

 

 

 

「砲撃が命中!船体に損傷を視認!」

「私たちも続くデースッ!」

 

 "ユニコーン"は被弾を重ね、その都度に潜航して姿を眩ませたが、上空で見張る哨戒機の活躍によってその多くを見破り、短時間の間に幾度も有効打を浴びせていた。

 それでも常軌を逸した巨体はなお逃走を続け、追撃を始めた当初と比べればその距離は開きつつあった。

 

「浮かんでるSubmarineを沈めるのは、Easyだと思ってたのだけど……!」

「演習のアリコーンさんはその限りではありませんでした。つまり"ユニコーン"もそういうことです!」

 

 アイオワの悪態に大和が答える。それに連号作戦で金剛と共闘した時からしても、潜水艦の癖に多少の被弾を厭わない戦闘をしていた。「でも奴のリミットも後少しですよ」とニュージャージーが重ねる。そう……いくら頑強とはいえ、超弩級戦艦5隻を含む艦隊の砲撃から逃れ続けるのにも限度がある。おまけに速度の速い駆逐艦は半包囲網を形成しに掛かっており、敵は後方だけでなく両翼からの砲撃にも晒されている。

 ──────なのに!

 

『敵機が発艦したァ⁉︎』

 

 半包囲に参加している長波が驚いた声で言った。熟練見張員妖精さんも同じことを叫んだ。よく目を凝らすと、昇龍の如き勢いて点に向かって走ってゆく光を見つけた。

 

「こんな状況で発艦なんて、相当な練度に度胸です!」「It ain't guts! They're just damn crazy!(度胸じゃない、狂気だ!)

 

 大和の言葉もアイオワの反応も、当たらずとも遠からず。彼奴等は手練れで、かつ狂っている……!深海棲艦とは概してそうした気質はあるが、遮二無二に突っ込んでくるそれがより戦力的な脅威度を増す。

 しかも相手はあの"高速戦闘機"の可能性が高い……!アリコーンのラファールMと同等の能力を持つと推察されるそいつは、短時間で艦娘艦隊を半壊に追いやった深海棲艦の新型戦闘機───深海棲艦のSLUAV───よりも高い性能があると言う。たった数機でも、1個艦隊と対峙するよりも恐ろしい存在。

 

「迎撃を……───!?」

 

 大和が対空戦闘用意を指示しようとした瞬間、カッ!と光芒があたりを包んだ。

 

 スドドドドドッ……!

 

 機関砲もかくやとばかりに光の束が連なって飛んでゆき、突き出る鋭利な水柱が無数に連なって、壁のようにそそり立った。海から飛び出た白い壁はさながら"ユニコーン"の艦体を断ち切る白刃のようで、実際、"ユニコーン"の艦中央部あたりに水柱の織りなしたそれとは異なる、迸る白があった。

 しかしあれほどの威力、機関砲でば到底なし得ない砲撃というべき威力!一体何が?

 

「YES!命中確認!」

「やりましたお姉様!」

 

 腕まくりをする様に手を構えている金剛と榛名──────これは僚艦夜戦突撃!

 本来なら旗艦しか発動権限を有さないはずの特殊砲撃。だが金剛は大和らとの合流前は第一艦隊の旗艦を預かっていたことから発動権限を有すると判断し、同じく2番艦だった榛名と特殊砲撃を強行したのだ。

 

「金剛さん!今回は見逃しますが……特殊砲撃はちゃんと事前に通告してくださいね。」  

「Sorryネ!」

 

 特殊砲撃の無断使用など本来なら大問題。状況が状況なだけに大和が一応咎めると、返答は溌剌。反省していない事は無いだろうが………。

 

 ともかくも、艦中央部の被弾によって:ユニコーン"は遂に艦載機運用能力すら奪われた筈だ。発艦を許してしまった事は手痛いが、それ以上脅威が増すことは無い、ということが確定しただけでも御の字だった。

 

 改めて対空戦闘用意を下し、対空砲がパラパラと空中に向かって光の弾を投げ飛ばし始める。

 対空戦闘に優れるアイオワ、ニュージャージーを始めとする米艦艇の弾幕には、憧れに近いものを抱いた事がある者も何人かいたが、今ではそれすらも頼りなく思えて、対空砲が織り成す豪雨のように思えた光の群れも、ほんのそよ風が吹けば逸れてしまいそうな小雨に思えてくる。そんな小雨を、そよ風どころか疾風のごとく勢いで駆け抜けてくる異形があるのだから、たまったものではない。

 

 繰り出される弾幕が弾幕の意味をなしていない!

 そこに抵抗があることなど微塵も感じさせない高機動を繰り出し直上を占位したかと思えば、何かが敵機から分離した。

 

「コウソクヒショウタイセッキン!」「ミサイル……!?」

 

 それを認識し、そして目視する暇もなく、矢状の光が大和目掛けて突っ込んだ!

 

「速……ッ!?」

 

 ドン!ドンッ!!

 

 爆弾よりも、砲弾の直撃に似ているミサイルの直撃は分厚い装甲区画を破ることこそなかったが、非装甲帯にある高角砲や機銃群を操作員妖精さん諸共に薙ぎ払っていった。

 そして当然というべきか、それは大和の艤装上だけの光景で留まるわけがなかった。後続する金剛と榛名、対空戦等においては頭一つ抜けるアイオワやニュージャージーも余すこと無く被弾、それは巡洋艦や駆逐艦にまで被害が広がってゆく。

 

 被弾はとどまらず、回避不可能な攻撃が頭上から矢雨の如くに、降り注いでくる。戦艦にとっては多少は耐えられる被害だったが、巡洋艦や駆逐艦クラスになってくると話が異なる──────海上で見える輝きが、砲撃の閃光から爆発の炎に置き換わろうとしている。

 悲鳴、慟哭、爆発音に衝撃音。この期に及んで置き換わるはずのない、ひっくり返されるべきでない盤面が根底から覆された!

 

「ここまで追い込んでおいて……!」

 

 二撃目を喰らい、被弾に顔を歪ませていた大和の堀が更に深みを増した。まさかこのままみすみす取り逃す事になるのか!?

 ここまで積み上げたすべてを無に帰さなければならないのか!?

 たった数機の高速戦闘機相手に、他のすべてが崩される理不尽!

 それはどんな戦場でも必ず起こり得るどんな理不尽よりも認め難い。

 認め難い、認められない!

 

 絶対に叩き沈めてやる、必ずこの水底(みなぞこ)に打ち込むという強い意思──────あるいは意地───に突き動かされ、大和は眼前を睨んだ。その視界からは"ユニコーン"以外の一切合切が消えていた。

 

「逃がすか。」

 

 大和の装甲は十分な頑強さを見せつけており、未だに重要装甲区画への被害は無い。

 ならば、どうすべきか──────?この理不尽な状況を覆すは唯一つの方法、それはノーガードの砲撃戦(ひたすら殴る)!──────もはやどれだけ被弾しようが関係ない、一発でも一秒でも多く砲弾を浴びせるだけなのだ。そこにしか勝機はないと確信して、大和は砲撃を命じた。

 

「主砲───っ!?」

 

 光───

 ───衝撃!!

 ───爆音!!!

 

 目前に閃光弾を撃ち込まれた様な輝きと艤装全体に轟いた圧迫感すらある大激動!そして鼓膜を引き裂かんばかりの音響はほぼ同時だった。その中で「ゴキン」と歴戦の彼女ですら聞いたことのない音が聞こえた気がした。

 

「シュ、シュホウノホウシンガ!」

「嘘───」

 

 戦艦大和……その第二改装形態の象徴にして最大の特徴とも言える主砲、51cm連装砲の砲身。重厚長大な黒光りする鋼鉄の大筒が、中ほどから折れ曲がって、或いはへし折れていた。一撃で高角砲群を薙ぎ払い、駆逐艦クラスなら二、三発で行動不能にしてしまう威力のミサイルは、大和の象徴すら叩き折ったのだ。

 

 ここまでやられてもなお、闇雲に攻撃を命じられるほど、幸か不幸か大和は愚かでは無かったし、正気を失ってはいなかった。この大和の主砲の砲身がへし折られるのだから、より保身が細身な"その他大勢"など話にならない。

 大和が自分の下にまだ戦力を保持した艦娘がいることも忘れて失意に暮れた時──────

 

「スイチュウニナニカイマス!」

 

 大和の艦首ソナーが何かをとらえた。バラストタンク排水音……?何か撃った⁉︎

 

 バシャン!と水中から飛び出たそいつはどこかで見たことのある鏃の様な形をしていて、短時間のうちに加速、ミサイルを放って敵の高速戦闘機の行動を妨害し始めた。

 それを最も見慣れていた者の1人───金剛が信じられないとばかりに呟いた。

 

「SLUAV……⁉︎まさか!」

「フジョウシテキマス……!」

 

 ずうっ、と海面がドーム状に一瞬持ち上がって殻が割れる様にして崩れた。そこから現れたのは、闇夜に勝るとも劣らない暗色をした重厚長大な塊──────トリマラン構造を模した艤装は左右にも戦艦艦娘にも匹敵し得る巨大な艤装を構えていて、その存在感たるや圧倒的という他なく、こんな存在が直下の水中にいたとは信じられなかった。

 

 そして艤装と振れ落ちる飛沫の合間から見えた紫電の髪色──────そして確信する。

 頼り切ってはならないと自制し、だけども心のどこかで居てくれたならばと思わずにはいられなかった、我々のイレギュラー……!

 

「アリコーンさん……!」

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「さて──────贋物の掃除と参りましょうか。」

 

 "アリコーン(有翼の一角獣)"の炎獄の底の様な双眸が、"ユニコーン《一角獣》"を撃ち殺す様な気迫を持って睨め付けていた。




というわけで、ついに!ユニコーンとアリコーンが対峙します!しました!
はぁ〜〜長かったァ〜ここまでマジで(自分のせい)

ちなみに!フリゲートに分類されるもがみ型護衛艦が何発も被弾しても沈まなかったの、あれにはちゃんと理由……というか小ネタがあります。ご都合主義だって?やかましい。分かったらコメントしてみてください!(乞米)
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