戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》 作:お猿プロダクション
ネタバレですが…………
挿絵描いてると今月中に間に合わなさそうなので後日で許して下さいネ!!(てへぺろりんカルボナーラ)
20XX年
9月30日 21時19分
北太平洋沖合
『SACS隊全機発艦、SLUAV連続射出!』
ぐーーーんと坂道を下るような加速をする電磁式カタパルトは、弾くような加速の蒸気カタパルトよりも機体とパイロットに負荷がかからず、また発艦間隔も短いために続々とラファールMが暗闇に引っ掻き傷を残してゆく。カタパルトが2つ存在する事も合わさって、発艦サイクルは凄まじかった。
海上に躍り出たラファールMの機体が、アフターバーナーを起動して突風に吹かれたように加速する。
そして発艦直後の速度が出ていないSACS隊を援護するべく、アリコーンのセイル側面からSLUAVが弾丸の如くに出された。無人であるがゆえに許された初速の凄まじさたるや、人間や妖精さんなら一瞬で失神するほどだろう。
既に空にある機体の数は彼我の間で隔絶しており、SLUAVだけで制空権を獲得出来そうな勢いだ。SLUAVとアリコーンのVLSが皎然たる白黄に包まれ、次の瞬間放たれたミサイルの軌跡が投網の様に敵戦闘機を囲んで追い立ててゆき──────それを躱そうと撒き散らすフレアと
パラパラと放たれた光が所在なさげに宙を舞い、だがその舞こそが万物を引き付ける重力の様にミサイルの軌道を捻じ曲げて、深海棲艦の高速戦闘機からその電子の目を逸らした。
バン…バンバン……!と破裂音が空域を占め、その音と同じ数の明滅が空中で煌めいた。目的を達すること無く潰えたミサイルの断末魔の輝き──────そこに無念とか切歯扼腕の情に駆られる存在は無かったが、その光景をつまらなく思って、ならば自分が代打として叩き墜としてやると心中穏やかざる者はいた。
「───ASCSワン、
ドドドドッ……!!
30 M 791リボルバーカノンが成し得る立ち上がりの速さが毎分2500発という発射速度を瞬時に叩き出し、30mm機関砲弾の束を壁のような密度で射撃した。その弾幕は回避を終えてエネルギーを失った敵機の真下から投げ掛けられる。
必中必殺を期した射撃!流れ込むようにして撃ち込まれた砲弾は炸裂、外板を吹き飛ばし構造材を木っ端微塵にする──────筈だったものが、それは微かに火花を散らすだけに終わった。引っかき傷のような2本線が暗黒のキャンパスに刻まれると、敵機は一気に加速してその射線から逃れたのだ。しかもその際、器用に機体を捻って被弾面積を最小限にしていた。
やるな……!
──────敵は機体だけでなく練度においても我々に匹敵するか、同等以上のようだ!
なるほどこの世界で、最も手強い相手であるのに間違いない──────それを悟った瞬間、同時に内心で覚えていた勝機にも確信を持った。古今東西、戦場において変わらない事柄が一つある──────敵との機体性能、練度に大きな差が無い場合、その戦闘の趨勢は数に勝る方へと帰結する、という事!
機体を加速させるべくスロットルレバーを操作──────ラファールMは2基のエンジンを1本のスロットルレバーで操ることができる。それにより最短の操作と時間で機体を最高の状態にし、直ちに持てるポテンシャルの全てを発揮させる事が出来るのだ──────瞬間的に加速した機体の中で、全身が無形の巨人に踏み潰されたかのような圧迫感に襲われる。
「……!」
それは赤地に白い破壊者を頂いた黒き突風を風よりも軽く速く天空へ押し上げる重圧!ラファールMの腹に収められたM88-2ターボファンエンジンの悲鳴がアフターバーナーとなって噴出し、ほぼ垂直に近い角度ながらも高度計の数字を青天井に上げてゆく。
減速──────エアブレーキやフラップに頼らずとも、スロットルレバーを絞ってやるだけで運動エネルギーは位置エネルギーに変換され、ラファールMはゆっくりと勢いを失う。既にキャノピーから見える全景に狙うべき敵機の姿はない──────それでも彼は確実に敵機の位置を把握していた。
統合データリンクシステムにより自機のセンサー範囲外にある敵機であっても味方のセンサーが捉えていれば、自分もその敵の位置を認識できる………群体がまるでひとつの生き物の様にして振る舞うのだ。
……もっとも、それは敵にとっても同じ事だろう。今減速している彼の機体は敵機からすれば良い的──────そらきた!
目が覚めるほどのけたたましいアラートが自身の至近にまで迫った脅威を報せる。レーダー照射、あるいは敵ミサイル──────どちらでもよい。
「フレア…!」
瞬間、電子機器の明かりのみだった機内に陽光に似た明かりがいくつも差し込んだ。敵センサーを惑わす灯りと欺瞞紙がディスペンサーより放出され、同時に耳煩わしいアラートもその鳴りを潜める。シャアッ……!と視界の端から光矢が目にも止まらぬ速さで駆け抜けてゆく。
しかし彼が乗るラファールMがそうであるように、敵には初撃を外しても直ちに第二撃、第三撃を加える力がある筈──────それはミサイルであったり、機関砲であったりする。
データリンクによれば敵は加速して此方の後背に付こうとしている………こいつがミサイルを撃ってこないのは、機関砲の有効射程に俺を収めようとしているからだ──────ミサイルはあまり近距離で発射しても当たらないのだ──────その間隙を見逃す彼ではなかった。
付いて来い!意を決し、ドッカと蹴り飛ばすようにフットバーを踏み込み、スルリと滑るようにして主翼が空を薙ぐ。同時にピッチアップ!
ギリギリギリ……!と全身を締め付ける圧力と同時に、視界に入る光がどんどん少なくなる。ブラックアウトだ──────それでも彼は、敵機の居るはずの黒い一面に向けて首を捩じ上げる。
海上で未だ燻る火柱、敵味方のノズル光、そしてコクピットの計器類とタッチスクリーンの明かりが、萎むように薄れてゆく。横転した筈の天地も、最早判別つかない程に彼の脳から血が失われた頃、暗いベールの向こうで何かが弾けた。
『───メイチュウ!』
彼の僚機が放ったミサイルが敵機を打ったのだ。火が見える──────
最も、彼自身も二発くらいまでなら耐え忍べる自信はあったが。
「フッ……!」
一呼吸し全身に力を込める。これから襲い来るGに負けないように………思い切り操縦桿を引き──────フライ・バイ・ワイヤの採用された機体の操縦桿は数ミリとしか動かないが──────上昇!更にフットバーを蹴り機体が反転し──────全身へ掛かるGに耐えながら頭上へ目を見張る。
蛍のような微かな、それでいて弱々しい明かりがそこにはあった。追尾に失敗しオーバーシュートした敵機の背後──────そのまま降下!
……ハイスピードヨーヨー!自身の運動エネルギーを位置エネルギーに変換しスピードを調節する空戦機動。押し出された敵機の背面──────深海棲艦の高速戦闘機の姿──────クロースカップルドデルタ翼を持ったやや寸胴なそいつは、確かにこのラファールMとよく似ている影を浮かべた。
コクピットに当たる部分は目のような構造体になっている。何だアレは気色が悪いな!
自分たちに近い実力と能力を持つ、と聞かされていた彼は、自身に似た写し身の様なものを想像していた──────それでも気味が悪いが──────のだが、アレでは全く似ていないではないか。そんな気持ち悪さも手伝ったのか、レーダーが捉えたレティクルが一切の躊躇もなく敵機の進路上に被さり、反射にも似た速さで機関砲が火を噴いた。
小気味よい重低音が轟き、燃えるような紅い弾丸が1000m毎秒以上の超速で突き刺さる。ともすればドン!ドン!と破裂音が聞こえそうなほどにまで機体が近接した瞬間、敵機の背面が突如として拡大し彼の眼前に──────!
「ウォオ!」
寸前のところで回避に成功し、ドウァッ!という衝撃音にも似た轟音に機体が震えた。否───それはもしかしたら自身の発した震えだったのかもしれない。
「ナンダイマノハ!?」
通常では考えられない様な機動──────こいつらはコブラ機動もできるのか!?───ラファールMはたしかにフライ・バイ・ワイヤと優れた機体設計、それらを支えるエンジンにより高い機動力を有するが、コブラ機動に必要とされる常軌を逸した
もしかするとこいつらは、機動性においては我が方を凌駕しているのかもしれない!冷や汗が流れてゆくのを感じながら、自身の真後ろを征した敵機を睨んだ。
そしてその翼下から放たれるだろうミサイルの光源を想像し──────その直前で敵機が真後ろから投げかけられた火矢に爆砕される。
「オイ、オソイゾ。」『スンマセン。』
冷や汗を飲んで、悪態を吐いた。
彼の背後を守っていた僚機が、敵機を撃墜したのだった。機動力がやや上回っているからと言って、それが何だというのか?互いの数的優劣が大きくない状態ならばいざ知らず、此方は敵の倍以上いるのだ。多少曲芸飛行紛いの事をしたところで、些かばかりの延命手段にしかならない。
嵐のように空戦は始まり、そして終わった。その瞬間を以て深海棲艦はこの空域におけるあらゆる支配権を損失し、戦闘はついに大詰めを迎えようとしている──────
〜〜〜〜〜
同 21時22分
「発砲!」
ドカァン!……発射音と言うよりも大質量の衝突を思わせるような大音響が轟き、紫電の閃光が闇夜の海原を割いた。光線の如きそれはアリコーンのレールガンが放った光芒と砲弾の軌跡であって、その行き着いた先で発せられた着弾の閃光はまるで花火のように煌びやかに散る。
「チャクダン!」
「………。」
アリコーンは自身と艦載機のミサイル攻撃、そして主砲によって徐々に原型を留めなくなってゆく"ユニコーン"を無感動のうちに眺めていた。奴を守るべき空の傘はもはや無く。良いようにミサイルを撃ち込まれてはわずかに残った対空砲とCIWSが、見ているのも痛ましい程に必死の迎撃を行なっては爆発の炎の中に消えてゆく。そして砲撃──────レールガン──────に至っては、まるで赤子が障子を破いていくような遠慮と呆気のなさで船殻に次々と大穴を穿いていった。
戦闘──────彼女は現在自分の行っている事柄をその様に呼びたくはなかったし、考えたくはなかった。戦闘というものは本来、もっと生命の駆け引きがあって、如何に相手を上回るか、如何に我の目的を彼に強制するか……そのやり取りと思考の連鎖があるべきで、故にこそ美しさが育まれるものなのだ。
たがこれは──────無抵抗に近い死に体の敵を、標的艦でも解体する様に破壊していくこの状況は、とても彼女の理想とする「戦闘」とは程遠い。
退屈で、つまらなく、味気も色味も無い。
その具合と言ったら、初出撃の折、CIWS任せに対空戦闘していた時に匹敵する。余りの手応えの無さに嘲笑を通り越して苦笑いが浮かぶほどだ──────とっとと打首にしてしまおう。
「全火器、敵艦中央に照準。」
次いでSLUAVとSACS隊を指揮し、やはり敵艦中央──────しかし反対側だ──────に指向させる。大規模破口を穿って分厚い耐圧殻や複殻構造を無視して大浸水を呼び起こし一気に撃沈する!
「ヤマトさん。誤射の危険がありますから、艦隊を下げてもらえませんか。」
「……分かりました。」
渋々、といった了承具合だったが、彼女の気持も分からないではなかった。艱難辛苦の果漸くにして追い詰めた敵の"最後っ屁"で大被害を受け、大和自身も砲身を破壊されるまでに至った。
そんな状態になってから参戦したアリコーンは、彼女たちからすれば火事場泥棒か漁夫の利を得たかのように映るかもしれない──────実際、アリコーンはそう考えた──────しかし幸いと言うべきか、アリコーンの目前にある面々はそんな事を考える者たちではなかったらしい。
「些か不甲斐ないですが、頼みますアリコーンさん。」
「はい、わたくしが任されました。」
艦娘隊が後退し、射界が開ける。そこで見えた死にかけの敵艦とそれを囲む光──────ラファールMのSACS隊とSLUAV。対艦対地用のLACMこそ積んでいなかったが、これだけの数がいれば全く問題にならない。
すでに全機が攻撃位置を占位し、あとは命令を待つのみ──────洋上にしつらえた執行台はその弾頭という鈍い輝きを放つ刃を振り下ろすのを心待ちにしている。
「よーいっ……!」
────────────コボ
「──────!?」
ゴボッゴボボッ………!
注水音──────!?
ソナーが捉えたその音を耳にし、理解する迄に要した時間は1秒にも満たない。普段の彼女ならその時点で直ぐに何らかの指示を出していた筈だったが、自分が目の当たりにした事実に対する衝撃が彼女の頭を打って、判断を鈍らせた。
一体この海中に、何者が潜んでいるというのか……!?深海棲艦ごときの喧しい潜水艦をアリコーンのソナーが逃すはずもない。次いで入って来た連山哨戒機の『アラタナチュウスイオンヲタンチ!』もその確証を裏付けた。
その正体を勘案する間に、バスン……!という発射音とも破裂音ともつかない音響が木霊する。続いてロケットモーターの様な激しい噴進音──────これは!?
聞き覚えすらあるその音に驚愕するよりも速く、執行台の闖入者がその姿を表す。そいつは矢印か鏃をそのまま象った様な姿をしていて、だが何処か不明瞭で有機的な雰囲気を漂わせている。そこに見た明らかな既視感──────
こいつら………まさか!
アリコーンが感じた疑念は次の瞬間に確信へと変わる。放たれた光の槍──────敵機の腹から打ち出されたその圧倒的なテクノロジーの塊──────を認めた時がそれだった。蛇が絡み合うかの様な幾何学的な軌跡を残しながら上空で繰り広げられる圧倒的な乱戦にアリコーンならずとも呆気に取られる。
『テッキニツカレタ!ヒキハナセナイ!』『エンゴスル。コラエロ!』『コイツラハイッタイ……!?』『シャベルマエニウテ!』
突然の来襲に対応出来なかったSLUAVの編隊が突き崩され、数機が火だるまとなって潰えた。SACS隊のラファールMも至近にまで、そして数多く迫って来たミサイルに忙殺され反撃の機会を失い、それでも巧みな連携で2、3機の敵を追い込んでミサイルで仕留めている──────ラファールMの性能の高さと彼らの練度を持ってしても封じることの出来ないこの敵に、思い当たるものはただ一つしか存在しない。しかし"そいつ"は──────そいつを使役出来るのは──────今あそこで吹けば飛ぶような命しか存在しない、瀕死の体を波に揺らしているだけ………では一体!?
思考を遮るノイズそのものの様にガボガボッ、という排水音が聞こえる。
ややもせず、海面に膨らみが生じる。それは夜の闇と黒に覆われてもなお認識できるほどの存在感と、全容を掴めないほどの強大さを持っている。アリコーン以外の艦娘には、この感覚に覚えがある。
開けてはならないパンドラの箱が自らその蓋を吹き飛ばしたようだ。海中にすべての体温が持っていかれたと錯覚する程に全身が冷め渡る。
最初に海面を割って現れたのは、巨大なニ対の構造物──────まるで翼のよう──────翼?
まさか──────!
「そういうことでしたか……!」
すべてを察したその時、アリコーンが最も耳にしておきたい声が鼓膜を打った。
『アリコーン……!』
「……艦長!」
〜〜〜〜〜
同刻
戦略機動打撃艦隊
某島鎮守府
艦娘寮兼司令部施設 地下1階
統括作戦指揮室
「お前は気づいていると思うが……」
『はい、敵は───』
「トーレス大佐、これは一体……!?」
「提督、これは俺達の……いや俺のミスだ。先に謝罪させてもらう。」
おそらくはこの場において唯一事態を理解しているだろうマティアス……しかしその内容も聞かずに謝罪もクソもあるものか。提督はその内容を催促した。
「この敵───"ユニコーン"は、
「何……⁉︎」
提督の驚愕は、たった一言で終わったが、逆に言えばそれ以上出すべき言葉を見失った結果でもあった。マティアスの言葉を信用するならば、我々にここまで艱難辛苦を味あわせて来たこの"ユニコーン"は一体………何だと言うのだ⁉︎
無論、マティアス・トーレス大佐として彼が適当を抜かしたわけでは無いことは理解してはいたが──────
マティアスは掻い摘んで説明する。
だいたい、
天号作戦の折、逃げ出した敵潜水艦から航空機は発進しなかった。あの時の高速飛翔体──────今になって思えばあれは
連号作戦においても、気がかりがあった。敵の誘導砲弾の終末誘導に使われたのは無人機ではなく、ラファールMに相当する高速戦闘機だった。アリコーンならば無人機を使った筈だ。
そして今に至っても尚、その疑念に似た不可思議な感触はあった。確かに、浮上した"ユニコーン"一隻を相手に艦娘艦隊が被った損害は大きい。だがアリコーンならば、もっと多くの被害を与えられたはずだ。そして、アリコーンが戦線に加わってもなお、“ユニコーン"は
一度もだ!
レールガンと多数のミサイルという強力な打撃力を有するはずの「深海棲艦のアリコーン」は、常に逃げに徹し続けていた。まるでその肝心の
「最初から予期しておくべきだったのだ。」
マティアス・トーレスはこの世界に来てはじめて、苦渋にも似た感情に駆られ、顔を歪ませる。この敵には翼が無い!そして、その翼は──────
「では、大佐。この敵は一体……貴方のアリコーンと我々が追っていた"ユニコーン"、それ以外に、まだ……!?」
「……付けるべき名があるなら、こう言うのが適切だろう。」
アリコーンとは、翼と単角を持った馬の幻獣のこと。
ユニコーンとは、翼は無く単角のみを有した馬の幻獣。
では、翼を持った馬の幻獣は──────二対の巨大な翼を有したこの敵は──────!
「ペガサス……!」
やっとここまで描けた〜〜
そっっこら中に撒き散らしておいた伏線とタイトル回収がようやく終わりました!
この小説のタイトル、最初のひと月くらいは「(前略)有翼の一角獣《アリコーン》」だったんですよ。