戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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2ヶ月以上またせた上に全然薄くなってしまった!!ゴメンナサーーイ!!


ペガサス

 20XX年 

 

 9月30日 21時25分

 

 北太平洋沖合

 

 

 ペガサス!──────その名を聞いた時、アリコーンの中で確かに符号があった。翼と角で分たれたその理由こそ見当もつかないが、眼前にある二大巨頭が自身の写し鏡の類であることは直ちに理解する。

 

 だが──────贋物だ。

 アリコーンとは二つで一つを構成するものではなく、"アリコーン"だからこそアリコーン(彼女)なのだ。

 

 目を細め、注視する。その贋物は、艤装を背負い込んだりする艦娘たちとは違い、いかにも深海棲艦らしく巨大な異形の存在を従えていて、その異形に大半の装備が備えられているようだ。

 蠢くそれらは巨大な一個の生命のようだが、明らかに既存のどの生物系にも属さない不気味極まる外観を持っていて、正しく「怪物」と形容するにふさわしい。

 

 ──────その一部が、カタリと動いた。生物的な滑らかな動きではなく、機械か、その部品が動作のために見せる、静動の間隔がない運動。

 

 瞬間──────

 

「あ」

 

 ザァ……!と頭頂から臀部にかけて氷水でもブッ掛けられたように、過度なまでの悪寒が迸る。

 

 それは、これまで感じた事のある何れとも異なる。これまで浴びせ掛けられてきた汎ゆる殺意、害意、敵意を()い交ぜにしても尚足りない程に圧倒的で、かつ異質な………怨憎(えんぞう)とも言えた。

 

 これは──────レールガンだ!

 アリコーンにとっては、一切合切の敵手を粉砕せしめる最強の槍。だがそれが当のアリコーンに向けられた時の緊張というものを、彼女は失念していた。

 

 マズい───!直感し、身を捩る様にして守りの姿勢を取ったアリコーン。同時にその艤装ではUAVラウンチベイが開口し、奇怪なヘキサコプターの無人機が飛び出る。

 アリコーンの有する最強の防御手段の一つ、バリアドローンだ。

 普遍的な兵器は凡そ防ぎ切るこの兵装はだが、展開してからその求められる役割を発揮するのに少なからぬタイムラグが存在する。この1秒2秒を争う状況で果たして役に立つものかとアリコーン自身も懐疑的で無いでは無かったが、それでも身一つ腕一つで守るよりは良い筈であった。

 

 

 そしてやはりと言うべきか、バリアドローンは間に合わなかった。それよりも速く、"ペガサス"の艤装が紅く煌めいたのだ。来る───っ!

 

 音を遥かに置き去りにして、暗色に堕ちた戦海を真紅の稲妻が引き裂いた──────閃光で漸くに起こされた寝坊助のように、ズガァン!と大気を震わす大音響。

 

「……!?」

 

 そこに、予期───或いは覚悟───した衝撃は訪れなかった。レールガンの砲弾は大気を圧し発破の様な衝撃波を残してアリコーンの頬を引っ叩いたものの、それは破壊力の空振りを示していて、そんな風圧は彼女にとってみれば無いも同然だった。

 

 ──────直後に、その背後から閃光と爆音が轟かなければ。

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

(──────!?)

 

 戦場で油断などありえない。ましてや自分が──────そう考えていた事もまた、戦場で禁忌とされる「油断」なのかも知れなかった。………いや、コレ(・・)は油断がどうとかいう次元なのか?

 実際油断などしていなかった自分が、敵の動静から欠片も目を離さなかった筈の私が──────

 

 それは稲光が空を駆ける時よりも短い、刹那以下もいいところの時間。米高速戦艦ニュージャージーの舷側、主砲塔の直下には、目を背けたくなるほどの穿孔が口を開けていて、そこには、軍艦として最も守られるべき砲弾の弾薬庫が存在している──────ニュージャージーの暖色の瞳から一切の輝きが失せ、墨色になっていた。

 

「───」

「ニ

 

 彼女の姉、アイオワの声がその最期に届く事はついぞなかった。次の瞬間には、詫び入る様な顔をしたニュージャージーは彼女の長髪よりも赤く輝いた閃光に包まれ、その艤装から解き放たれた爆轟の中に消えたのだった。

 噴火の如くに吹き上げられた煙の尾を引く破片が、火花が、剣山の如くに爆煙の摩天楼を築き上げ、戦艦ニュージャージーの末路をおどろおどろしく飾ってゆく。

 

「ニュージャージー!!戦艦ニュージャージーが!」「バカな……!」『轟沈ッ!?』

 

(やられた……!)

 アリコーンは己の浅慮を呪った。

 自分(アリコーン)にとって"ペガサス"がそうであるように、(ペガサス)にとっての最大の障壁、脅威は彼女自身(アリコーン)であって、連中にとってその他の雑多(・・)は勘定に入っていないものと……!

 パッ、パッ、と全周から光が投げかけられる。毳々(けばけば)しく光血走る火花とは異なった、ブルーライトそのものの様な機械的な光は、今更ながらに効力を発揮したバリアドローンの電磁バリアが織り成した光の球だった。この三次元の等距離に閉じた面がもっと速く展開していれば──────否、この事態を予期して、もっと早くに展開させていればこんな事にはならなかったのだ。

 

 ここに来て呪うべきは浅慮どころか、自身の無能──────

 

 その苦渋が、電磁バリアを隔てた向こうにいる敵にも味方にも、無限遠の距離があるように彼女に感じさせた。 

 

 ……だが現実として彼女はそこにいて、だからこそ、彼女は無限遠の彼方に流れることは許されなかった。次に彼女の耳朶打ったのは、海自護衛艦の窮状──────

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 

 同刻

 

 

 

 戦略機動打撃艦隊 

 

 某島鎮守府 

 

 艦娘寮兼司令部施設 地下1階

 

 統括作戦指揮室

 

 

『総員、退艦準備!』『排水あきらめろ、退避!』「護衛艦[あさひ]ならびに[まべち]沈没!」「───隊司令より護衛艦へ退艦命令が発令されました……!」  

 

「………!」

 戦場を指揮する立場にあるものとして、ここに集約される情報とその確度には絶対に近い信頼を持っていた提督ではあったが、先刻よりこの場を騒がせている情報を正面から、そしてなんの疑念も無く受け止められたかと言えば、それは間違いなく否であった。

 

 ──────いったい、何が起きたというのか?

 それはこの場に居る全ての者達に通ずる疑問であって、そこに提督も例外足り得なかった。それでも尚、その疑問を口に出さない程度には彼は指揮官としての矜持とあるべき姿を保ってはいた──────だがそれは衝撃のあまり絶句した結果でもあって、その中で、辛うじて出力された言葉は「……大破ストッパーはどうした?」だけだった。

 

 大破ストッパー───たとえ一撃で撃沈破されるような攻撃でもギリギリで艦娘の生命と艤装の能力を保護する機構。それは世界中あらゆる艦娘の艤装に必ず装備されていて、当然ながらニュージャージーもその中に確実に含まれている筈だったのだ。

 

「───不明です!」

「装置の故障は……?」

「大破ストッパーがそもそも起動しておりません。故障は確認されません……!」

 

 艦娘の生命と貴重な艤装の損失を防ぐはずのそれは肝心な時点で機能せず、ニュージャージーを損失する結果となった!そんなバカな事があってたまるものか……!これまでの戦闘はもとより、今回の戦闘においても、浜風をはじめ、何人かの艦娘が大破ストッパーの恩恵により命を繋いでいるのだ。何故ニュージャージーだけが起動し得なかったのか………!?

 

(……?)

 

 その中で、マティアス・トーレス大佐は何処か既視感を覚えた神妙な顔でニュージャージーの撃沈の姿を反芻していた。以前にも似たような光景に出くわした事がある気がしたのだ。

 

「提督、これは───」

『───アリコーン、意見具申!』

 

 期せずして、アリコーンの声がマティアスのそれを遮った。普段の彼女ならそんなことは絶対にしないのだが──────現場を直に目にしていなくとも、それだけで彼女の、際に追い詰められた騎士にも似た心境を伺いしれた。

 

「アリコーン、何か?」

『艦隊を下げてください!』

 

「何……!?」

 

 

 〜〜〜〜〜  

 

 

 21時27分

 

 北太平洋沖合

 

 

「What did you say……!?」

「どういうことです、それは……!」

 

 その場に居合わせる距離であっても通信機からしか拾えなかったのは、電磁バリアの影響故だ。その声の主は大和、そしてアイオワ。二大戦艦であるという外面的な特色より遥かに──────特にアイオワは──────その言葉以上の意味と重みを持っていた。

 

 たった今妹を亡くしたアイオワの双眸は、超新星の如きギラついた煌めきを伴って前方に向けられ、その先には二対の異形の怪物──────自身の中で昂ぶる開闢の輝きが残骸となる前に、この熱と憤悶(ふんもん)を仇敵に打つけなければならかったのだ。

 

「言葉が悪いが、貴女達では相手にもならない!」

Don’t underestimate me(舐めるな)……!』

 

 アリコーンらしからぬ、言葉を選ばない強い物言いに対してもアイオワは聞く耳を持とうとせず、電磁バリアに隔たれた向こう側に砲口を向けていた。アイオワの高速力は直ぐに自身の射線を確保することに成功し、仇敵は電磁バリアの陰──────或いは、光の壁──────から飛び出したブロンドに気付かなかった。

 

「やつを潰せッ!生かして帰すな!!」

 

 それが号令だった。本来の命令文たる「FIRE」も無しにアイオワの艤装は彼女のブロンドより明るい輝きの中にその姿を没し、直後には彼女の怒気と殺意が鋭角となって飛び出した。歯を食いしばり、爛々と眼を見開き、かつて無いほどの彫を作ったその顔は、砲炎の灯りで恐るべきほどの明暗を与えられていて、彼女の心頭をこれ以上ない程に表している。

 

 距離はさほどに離れていない。すぐに弾着の水柱がそそり立ち、アイオワは修正射を行う──────憤怒に囚われた中にあってもそれを行うだげの技量と冷静さもまた、彼女は持ち得てた。

 ドン!ドン!と両用砲までも用いて砲撃を繰り返すアイオワは、次弾で主砲の命中を確信していた。わずかな砲撃で命中弾を確信すほどの精度を出し得るのは、艤装の性能もさる事ながら彼女の練度の高さを窺わせる──────「Hurry up!」次弾装填を急くアイオワに給弾員妖精さんたちは確かに応えた。本来は滅多に成し得ない──────あるいは、ほぼ不可能な──────はずの、僅か30秒での装填を実現し、16インチ砲の長砲身は鎌首をもたげて仇敵を正面に見据えていた。

 

Fire(殺せ)!!」

 

 その指差した先。

 その声を荒げた先。

 その砲口が睨め付ける先──────

 その圧倒的な怪物に、この怒りを打つけるべく──────

 

 ズドドォンッ!!

 

 斉射!総計11トンにもなる砲弾の束は、1発1発が確実に"ペガサス"へダメージを与えうる威力を秘めていて、そしてそれらは大気という存在しないのも同然な障害しか受けることなく、真っ直ぐに突っ込んでゆく!!!

 

 

 

 ─────────筈であった。

 

 

 

「………!?」

「───」

 

 異変は、砲撃の直後。

 

 アイオワのレーダーが低速飛翔体の分離を捉えた僅か数秒後、カッ!……と紫の球状が宙空に突如として現れ、遮るものの無いはずの砲弾は突破不可能な超電磁力の壁に阻まれその弾体を炸裂させ、真黒い花火を創り出すに終わってしまった。

 

「これは……、───ハッ!?」

 

 目前で作り出された電磁の壁を前に、しばしの放心を強いられたアイオワは直後に、自信の喉元に刃が突き立てられるよりも恐ろしい立場にいる事を自覚する──────敵の砲口(レールガン)が、こちらを向いていた。

 ニュージャージー()を貫いてなお余りある破壊力で護衛艦2隻をも纏めて屠った脅威の一撃が、アイオワただ1人に対して指向されていたのだ。これまで培った危機察知能力が有らん限りの警告を発している。栓が壊れた様に冷や汗が吹き出し、この場から逃れなければならないと本能も理性も両方から脳味噌をサンドバッグにした。

 それでも、まるで蛇に睨まれた蛙の様に彼女は動いていなかった。きっと、慄然とし、恐怖で立ち竦んでいたのではなく、それ以前の問題だった。死の間際にぐっっと引き延ばされた彼女の感覚は、己の反応速度などとうに超えて、一刹那以下の時間を識っていた。

 ──────否が応でも動くに至らない。

 

Goddamn(クソッタレ)…!)

 

 辛うじて最初に脳信号を受け取った瞳孔が、ゆっくりと開いてゆく。その奥でキラリと輝いたのは、死を告げる紅い(いかづち)──────

 

 ガカァッッ!!バリバリバリッ………!!!

 

 瞬間、開き切った瞳孔に眩しすぎる明かりが眼前に現れ、アイオワを他より隔てる様にして拡大するやレールガンの緋色を打ち消すかの如くに弾き、爆音とも衝撃音ともつかない大音響が轟く。

 何が……!?混乱から立ち直り視界を取り戻したアイオワの眼前には、イオン街の明かりより尚毳々(けばけば)しい光を背景にした、巨大な流線形の艤装と紫電の長髪が特徴な艦娘が仁王立ちしていた。

 バリアドローンを擁して、彼女がアイオワを守ったのだ。

 

「……アリコーン。」

 

 その名を呼ぶ。返事は無い。

 代わりとばかりに耳朶を打つのは大和の声……一言「退きましょう」と。

 

「アリコーンさんの言う通りです……それに、完全に撤退するわけじゃありません。一時的に、護衛艦隊の直掩に回るというだけですから。」

 

「なにが」アリコーンの言う通りなのかを語らなかったのは、彼女なりの優しさだろう。おまけに、激昂し単身突入をかました挙句、アリコーンに助けられた始末なのだから、ここで渋ってはアイオワの立つ瀬がなかった。

 

「……OK、そうしましょう。ヤマト、フリゲート(護衛艦)への誘導をお願い。………それと、ミス・アリコーン?」

「……。」

Thanks(ありがとう)……助かったわ。Youの言う通り、Me達じゃ相手にならないみたい。でも、一つだけ頼みたい。」

「───」

 

 アリコーンは少しだけ首を傾けて、凛とした紅い目でアイオワを見た。同じ紅でも、"ペガサス"の打ち出した刺々しい紅色とは違って、湖面の如き落ち着きと、烈火の如き闘志を宿らせた不思議な眼だった。

 その眼に、託す様にして、アイオワは言った。

 

Payback time(仇をお願い).」

 

 戦場に立つ武人の1人として、そんなもの(私情)は甘えだとも捉えられかねない言葉だったがしかし、それはアリコーンに関して言えば事情が異なった。

 

 大体アリコーンがこの戦場に立っている理由からして、「私この方の下でなら働いてあげてもいいですよ」等と言い放った私情に私情を重ねまくった理由であるのだから、そんな"堅苦しい矜持"など持っているわけがなかったのだ。

 

Roger. Payback(ええ、任せて).」

 

 努めて明るい顔でサムズアップして見せる………矜持が無い訳ではない。美しく、エレガントに──────それが彼女の矜持だ。

 そして、眼前にいる自身の贋物は、姿も能力もエレガントとは程遠い。そういう意味でも、奴等は、アリコーン自身の手で葬りたい存在でもあった。

 

「私の目の前でニュージャージーさんを沈めたこと、死んでも後悔させてやりましょう……!」

 

 

 ──────21時30分。この闇夜の戦海に於いて最大となる激突の下地は、こうして整えられた。

 そして、この先に生起するその戦闘の様相は、誰にも予想する事は出来ない──────それは、当人にとっても──────アリコーンは戦場に立って初めて、額に汗を浮かべた。




2024年8月18日現在、恥ずかしい話、まだE-1で詰まってます(笑)
暫く触ってなかったし、対地装備の改修進めてなかったせいで……チクショー。

それはそれとして、初めて沈む艦娘を描きました。でもオリ艦娘カードだから問題ナイヨネー。ウチでは沈んじゃったけど他所様の出張先では元気にやってるのでそちらも読んでください!
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