戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》 作:お猿プロダクション
覚醒せし者
『分からんか。艦ではなく人を撃つ、それが砲術だ。』
『その鎮魂に何人の生贄が必要だと思う?』
『傾聴せよ。』
『本艦はこの醜怪なる戦争を、エレガントかつ最終的に終わらせる能力を持っている。』
『我々がこれから行うのは戦闘ではない。均衡の回復であり、裁きである。』
『そして自ら武器を置くだろう。』
『奴は土足で上がりやがった‼︎真っ白なシーツで完っ璧に整えた俺のベッドの上に‼︎』
『分からんか。それはイメージ‼︎』
『想像せよサブマリナー諸君!1発で1000万人が救済される!』
『救え!』
『―――…あいつには「欲」が足りない。』
『命を求めるなら命を捨てよ!』
『自らの手で!5000キロ離れた!100万人を!殺す‼︎』
『強大な艦!よく飛ぶ砲!威力ある弾!大勢の人間!正確な狙い!あとはそこに死があれば!完成する‼︎』
『難しい目標を照準しぶち抜く!だからエレガントなんだ!これが美だ!』
『分からんか―――!分からんだろうお前には!』
『ハハ、ハァハハハハ、ハーァッハハハハハ‼ファハハハハ︎‼︎分からんか!分からんか100万人だぞ!』
『美しい!』
『鎮魂だ。』
―――――――――
「―――‼︎」
「意識」が覚醒する。
自分には無いもの、といつからか思っていたそれは、自分に備わっていた。
いつからだろう。いつだっただろう。「私」にこんなものが備わったのは?
「聞こえますか?」
女性の声が響いた。誰に言っているのだろう?
「目、開けられますか?」
あ、もしかして「私」か。言われた通り「目」を開く。
開き方は分からなかったが何故か自然に瞼は上がった。
黒い長髪と眼鏡が特徴的な女性が視界に入る。
「えっと…?」
訳もわからず、何をして良いのかもわからず、キョトンとしていると、眼鏡の女性は
「あ、もう大丈夫ですよ。立って…此方に。」
と言って、こちらの混乱を知ってか知らずか、眼鏡の女性は私の手を引いて部屋から出る。部屋から出て行った先は、また部屋だった。さっきの部屋は何やらよく分からない物がごたごたしていたが、机と椅子、申し訳程度にある装飾以外に、ここは殆ど何もなく、殺風景といえる場所だった。
その後、2人掛けと思しき大きめの椅子に座らされた。眼鏡の女性は「ここで暫く待っててくださいね」と言って会釈し、移された薄暗い部屋から出て行った。
見渡すと、白一様の部屋…そう、“部屋“だ、ここは。
何故こんなところに…?
私はここに何でいるのだろう?
私…私は誰?
「私、は…。」
徐に、スルッと肩に掛かった長い髪を掬う。
紫電の色をした、サラサラとした髪だった。その髪を持つ手は色白い。
部屋を見渡すと、不自然な壁がある…よく見ればそれは壁ではなく、向かい壁を写している鏡だった。彼女はそこの前に立つ。
鏡に写る女性は美しかった。顔立ちは良く整っていて、身体の均整も取れている。病衣の様なぶかぶかな服装をしているが、それでもなお強調する胸と腰の大きな膨らみが、自身が女性であることを確信づけていた。
紫電の髪は長くしなやかで、肩まで伸びている…よく見たらただの長髪では無い。頭頂の近くで2つの結び目がある。(ツーサイドアップという)
鏡の女性の目は、どこか恐ろしく感じる…剛の深い紅色。燃えたぎる炎か、はたまた紅い放電か…地獄の釜を開け放った様を思わせた。
…その色に、私は見覚えがあった。
「うッ―――⁉︎」
ギリッと、脳髄に痛みが走った。尖った物で引っ掻いた様な鋭い痛み。
がくっ。…膝から力が抜け、不意にその場に跪いた。
「はーいすいません待たせちゃって…・って、大丈夫ですか⁉︎」
戻ってきた眼鏡の女性は私の状況に驚いている様子だ。出ていく時には持っていなかった板(バインダー)を抱えている。
「いや…はい、大丈夫です。」
なんとか立ち上がる、が突然倒れたせいかうまく足に力が入らない。眼鏡の女性が肩を貸してくれた。
「ふう…さ、そこに座っていただけますか。」
「ええ、はい。」
促され、先程まで座っていた椅子に掛ける。眼鏡の女性もその隣に座った。
「えーっとまずですね、いくつか確認したいことがあるんですけれど、体の方本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫ですけど…確認って?」
「まず…貴女、自分が何だか分かりますか?」
「え?」
自分が何だか…私が?
「いや…分かりません…。」
「どういう存在かも?」
「それって、どういう…。」
話が見えてこない。私は何かまずい物なのか。
「うーん…まず、コレを見てください。」
眼鏡の女性は手にしていたバインダーを見せてくる。
「んんーー?」
そこには見たことある様な無いような文字で色々書かれていた。
「これは貴女の情報です。貴女がどういう存在なのか、どこから来たのか―――記されています。」
「潜水艦?ユークトバニア…エルジア…アリコーン…トーレス、艦長…!」
瞬間‼︎―――ガツンと頭を殴られる様な衝撃を感じた。無形の金槌は、私の脳髄からあらゆるものを引っ張り出してくる。
「…成る程、成る程。」
「アリコーンさん?」
眼鏡の女性は私の顔を覗き込んで、心配そうに声をかける。
でもその心配は杞憂だ。
私は私。すべて思い出した。
「そうですね…大丈夫ですよ。えぇ。
私は原子力潜水航空巡洋艦―――アリコーンですから。」
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未確認艦娘の建造についての中間報告書(第一次)
20XX年 9月14日
作成者 防衛装備庁 艦娘戦力評価分析部 ◼️ ◼️◼️
本日1743に建造された新型と思われる艦娘は、20XX年現在において世界各国の保有していた艦船のいずれにも該当しない事が確認されている。また、艦娘の建造と同時に排出された艤装に装備されている兵装の一部は、現在の技術を以ってしても実現困難又は不可能な物が存在し、出自は今もって不明である。
(中略)
以上のデータから、運営及び艦娘部は該当艦娘の有用性を主張し、戦列化を望むものである。
備考
進水日(データ上の数値であり過去に観測された物ではない):2015年1月1日
就役日(同上):2019年8月11日
艦種:潜水空母(推定)
艦名:アリコーン
戦没時艦長:マティアス・トーレス大佐