戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》 作:お猿プロダクション
遅筆ここに極まれり!しかも夏イベはヨークタウン逃しました!お馬ッ鹿チャーン。みんなはしっかり油と弾を蓄えような!!
20XX年
21時35分
北太平洋沖合
海上自衛隊 第二護衛隊 護衛艦[あさひ]
CIC
「乗員の退避は完了しました。司令もお早く……!」
再起不能な深手を負い、ついに力尽きその暗灰色の威容を海中に没しようとしていた護衛艦[あさひ]の艦内で、最後まで乗員退避の指揮を執っていた片隅艦長は、明かりを灯さなくなったLSDを前にして佇む自らの上官を呼んだ。
「……残っている者は、いないな?」
「はい、あとは我々だけです。」
各分隊の指揮官と護衛隊の幕僚数名が未だ残ってはいたが、その彼らも今は艦長と司令待ちであった。
「わたしは、ここから出てもいのだろうか……?」
「は……?」
「指揮の稚拙さから、わたしはわたしの艦と部隊を喪わせてしまっただろう。」
時世一佐の言葉の尾についてくる言葉は想像に難くない。
「"責任上艦もろとも逝く"等とは言わせませんよ。そうなれば、貴方をボコボコにしてでも自分は連れてゆきます。」
「その途上で殺されそうだ。殴られるのは嫌だから、大人しく退艦するよ」
電源喪失によってもはや暑苦しくなったCICをあとにし、時世一佐と片隅艦長は甲板上に出る。闇夜に包まれた海上で、二人は二つの灯りを目撃した。
一つは、ストロボの様に明滅する、今も繰り広げられる怪物同士の一大決戦。
今一つは……半身を海中に横たえている僚艦[まべち]の最期の姿だった。艦腹に大穴を穿かれ、浸水過大により復元不可能なまでに傾斜が拡大、[あさひ]よりも早く総員退艦の運びとなっている。
「───艦長!こちらへ……!」「───おい、誰か手を貸せ!司令は負傷されてるぞ!」
部下の肩を借り、ようやく時世一佐の身がカッターに収まった時、ギギギ……!!と[あさひ]の艦体が最期の悲鳴を上げる。時折聞こえるバン、バンという破裂音にも似た音響は、隔壁が水圧にたえられず破断される音だろうか。
「離れろっ……巻き込まれるぞ!」
自身の主人が懐から去るのを待っていたかのように、5000トンの船体が傾いていた。
ザァ……!
艦首が持ち上がり、艦尾からゆっくりと沈んでゆく。レールガンの弾丸は艦首側から艦尾にかけて貫通していて、隔壁も外壁もなんの関係もなく無遠慮に海水の流入を許し、その艦体をあえなく海中へと没していく。
蒸し暑い海上で体が震えるのは──────その正体を探る間もなく、彼女の周囲に人影がそそり立った。
暗闇の夜の中、海上に立つ人影………それだけ聞けば、妖怪か幽霊か、さもなければ深海棲艦を多くが連想したであろうが、今回ばかりは勝手が違った。
白を基調とした、目立つコート状の羽織が目立つ彼女は、特にすぐ分かる。
「───護衛隊の被害のほどは……?」
「……!」
抑揚の少ない、落ち着いた声。しかし、その声が発せられた方向を見て時世はギョッとする。
大和改二の背後から伸びているはずの重厚長大な51cm砲の砲身が、中程からへし折れてしまっているのだ。これには時世一佐ならずとも無言のうちに目を見張らざるを得ない。
最強戦艦の名声を
──────一方。
「どうかされましたか……?」
「……いや、なんでもありません。」
大和の声色に、今しがた時世一佐をはじめとする海自隊員たちが受けた動揺や衝撃の類が含まれていないことに、時世一佐は気付く。ここで我々だけがショックを受けている訳にはいかないと踏んだ時世一佐は、第二護衛隊の被害について伝えた。
「[あさひ][まべち]が撃沈、[いしかり][いなば]は被弾なるも航行に支障なし。乗組員の被害については、現在こちらも把握出来ていない。」
戦闘の影響で、彼我の通信は混濁状態になっていた。大和達が海自護衛隊の知らなかっただけでなく、護衛隊内でも詳細は掴めていない状況だった。その返答に、大和の顔が少しばかり曇ったかに見えた。
「避退していた艦娘たちは……?」
「[まべち]の詠浦艦長が先んじて動いていたらしく、艦娘達の欠員は確認されていない。」
「それは………」
「詠浦艦長は、艦娘と乗組員を区別することは無い………"貴女の考えているような事"は、起きていないさ」
すなわち、トリアージの様な乗員の選別を大和は考えたのだったが、それは杞憂も良いところであった。「艦娘一人は軍艦一隻にも匹敵する」とはよく言われるが、軍艦とその乗組員の区別を無くしているほど彼等は自虐的でないし、自身達の身命を軽んじてはいないのだ。
大和──────というより、艦娘側──────の問い掛けに答え切ったところで、問答の主体が転換する。
「ところで。そちらの───"ユニコーン"と"ペガサス"は………?」
「いま、アリコーンさんが。」
ドドォ……ン!ドロドロドロ………
大和が振り向いた矢先、遠雷もかくやというが如き音響と共に闇夜の向こうオレンジ色の輪郭が顕現し、水平線が描かれる。ミサイルか砲撃か……あるいはその両方の爆発と炎上の砲火──────さらに機関砲らしき灼熱した数珠繋ぎの弾丸が、鞭を振るうが如くに中空で乱舞していた。
「……!」
これには、時世一佐ならずとも言葉を失った。かつて戦った深海棲艦とのどの戦いでも、それが対深海棲艦戦の主役が艦娘に置き換わった今であっても、"単艦"であれほどの戦闘を繰り広げられるものなのか?
そして、それと渡り合っている"ペガサス"と"ユニコーン"という存在…………いやに自分の立ち位置が蚊帳の外にあるようで、失笑すら生まれてしまいそうだった。
〜〜〜〜〜
21時37分
アリコーン交戦海域
「撃て!」「……!」
号令の下VLSから矢継早に放たれたミサイルが、ギリシア神話の怪物・ヒュドラを思わせるような軌跡を残して互いに向けて殺到する。
ロケットモーターの残した噴射煙が絡み合い、千錯万綜しているが如き様相だったがしかし、その一つ一つに設えられた電子の目は、違わずに自己の突入するべきたった一つの目標を見落とすことは無い。
そして命中──────ドドドンッ!!
爆轟、爆炎!たが──────それらはミサイルが己の役目を果たした結果としてではなく、それらの断末魔として中空に現れた。
アリコーン、そして"ペガサス"ともに多数配置されているCIWSが、自己の防御範囲に侵入した電子の矢を誅した煌めきだったのだ。的を見据えた槍騎兵が獲物を突き出すが如く、ドンドンと敵弾を撃ち抜いてゆく。
「発砲───!」「……───!」
刹那──────紫電の閃光と陽光の如き赤色が対峙するかの様に同時に放たれる。それは双方にとって最大の牙であって振り得る最強の腕だった。
極超音速で放たれる弾丸は、赤熱化され大気を圧し雷鳴にも似た激音を轟かせる。
音も遅く空も邪魔よと驀進する砲弾は、しかし、突如として眼前に現れた電磁の壁に阻まれ木っ端微塵に散り果ててしまう──────闇夜に浮かんだ人魂の様なそれらは、あたかも意志を与えられた蜂の群体の様にしてアリコーンと"ペガサス"の周囲を覆っていた。
クアッドコプターを中央に抱えたその閉球体はアリコーンのバリアドローンで、殆ど同じものを"ペガサス"も展開させていたのだ──────見た目だけなら、シャインマスカットと巨峰の対峙のようでもあった──────凡そ突破は不可能に考えられる電磁の壁だったが、その球体同士の僅かな間隙を縫ってSLUAVがミサイルを伴って突入する。
だが健在なCIWSが、SAMが、そうした敵機とミサイルを絡め取り、パリパリと光血走る真白い閃光へ迸らせてゆく。
一撃必殺の主砲と必発にして必中のミサイルの応酬は、そもそもその水準の戦闘を行える艦娘が全く存在しないことから、一見拮抗するかに見える両者の火線。
だがその実、片や獰猛に犬歯を浮かべ口角を上げ、片や冷汗とも脂汗とも取れぬ海水とは異なる水分を浮かべている。前者はアリコーンであり、後者は"ペガサス"であった。
両者の間に隔絶した性能差はないが、何も戦闘というのは対決する本人(艦?)同士の能力にだけ集約されるものではない。
「………!!」
"ペガサス"が何事かを感じ取り、眼前のアリコーンより優先し注意を払った先は直上──────そこには、
ドンッ……!近接したミサイルが"ペガサス"の対空火器の前に斃れた刹那、その更に向こうで何かが光った。
それは一つではない──────瞬きほどの間に、光はポツポツとした光点の集まりとして、中空にあった。だが光に見えたそれは光輪のようであって、次の瞬間には流星雨の如き線状となって"ペガサス"に向かって降り注いで来る!
ミサイル……!
直上から射掛けられる超音速の火矢は、暗闇のキャンパスを切り裂くような火線を残し"ペガサス"に到達──────直後に巻き起こる爆轟と爆炎の煌めきが、直撃と破壊とを報せる。
──────大差ないはずの両者の対決は、しかし明確に"ペガサス"の不利へと傾いてゆく。瞬く間に拡大する被害は更に"ペガサス"の被弾を許し、雪だるま式に損害を増やしていた──────これは、両者の練度であるとか、戦闘に臨む気概であるとか、そんな不可視な理由によってなされたものでは無い。もっと分かりやすく、明確な理由………ドォーーン!と爆発音とは異なる金属音の様な高音を交えた音響が上空を通過する。
燃えるような赤い尾翼を携え、空の暗色に溶け込んむ黒いカラーリング──────SACS隊のラファールM!
〜〜〜〜〜
同 上空
SACS隊は、今やこの海域の空の支配者だった。
アリコーンが彼らを放った時点で、上空に残る敵航空戦力は高速戦闘機が僅かに数機あるのみで、それらは彼らSACS隊とSLUAVが寄って集って叩き落としてしまい、新手の敵機もSLUAVが対処していた。
自然、SACS隊は手持ち無沙汰となり、機体に抱えているミサイルを"ペガサス"に投げつける形となったのだった。いかな電磁バリアといえども、展開したあとにさらにその電磁の触指を伸ばすことは不可能で、そうして出来たバリアの間隙を掻い潜って、疾風の如く襲来するラファールMを食い止める能力も方策も、"ペガサス"には残されていなかった。
「………。」
そうして眼下に見る壮絶と言える対決の光景は、しかし無感動なまま彼らの中で受け入れられている──────こうなる事は、始めから分かっていたからだった。高度を取り、"ペガサス"の上空を占位するや一転。バリアドローンの間隙を目掛けて降下し、バリア展開前の敵機や、その奥にある"ペガサス"本体に向けてミサイルを放つ──────彼もまた、そうした景色の一部となろうとしている。
『アリコーンガシカケタ。コウゲキカイシ…!』
「───
天地の境目などとうの昔に呑み込んだ黒の世界は、しかしラファールMのIRSTとTVセンサーを組み合わせた複合システムOSFの前に屈し、パイロットの目は明瞭な視界を得て敵手たる"ペガサス"に向けられていた。
操縦桿に力を加えると、グルン!と天地が反転し、そのまま機首上げ、降下姿勢へ──────フワッと内臓が浮く感覚──────同時に眼前のタッチパネルを操作。ミサイルの弾頭が眠りから解放され、火器管制と連動させる。それからの操作は全て自動で行われ、パイロットは基本的に機体の操作に専念出来た。
予め火器管制装置が認識・識別し、表示されていた"ペガサス"の要所を捉えた目標指示トラックと重なる──────その瞬間から鳴る「ジーー……」という電子音──────P P P P P!!!!
「!」
アラート……!!
不快感を直接鼓膜から引っこ抜くような別の電子音が所狭しと鳴り響き、それは直ちに自身へ差し迫った
眼前のタッチパネルへ、叩き込まれた直感に近い速さで指を走らせた。
「フレアッ!」言うが早いかパネルに押し込んだ指先。直後にパパパパッ!とディスペンサーから夕焼けを思わせる火の光が解き放たれ、それらは機械の目にとって甘美な蜜よりも魅力的に映る。あっという間に敵のミサイルはラファールMへのコースから外れ、放出したフレアの織りなす煙のカーテンに突っ込んでゆく…………そして、それ以上の追撃はなかった。なんだ、と少し肩透かしを食らった気分になる──────もっとも、彼らSACS隊を狙うだけの余裕が"ペガサス"にはなくそれが当然ではあったし、彼は本当に偶然で敵SAMの探知に引っかかっただけだった──────アラートの緊張が解れた今、これから投じるミサイルの事が酷くどうでも良いように思えてしまう。………無論、そんな事はあってはならないのだが。
「ファイア…!」
主翼下のレールが煌めき、2本のミサイルが勢いよく飛び出した。ややもせずミサイルの矢状は光の点々になって、HUD上では目標指示トラックに突っ込んでゆく。
そして、パリッと一際明るく輝いたとき、HUD上でのミサイルの存在は消えた──────「
そして更なる打撃を与えるべくレーダースクリーンに落とした彼の目は、驚愕と共に見開かれていた。
………ここだけの話、やりたい事やりたい放題しすぎたせいで、当初予定の2倍以上の量になってるんですよ(無計画)