戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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遅くなってしまいました……!
言い訳ですが、とある描写があるのでそこに苦労していたことと、あとゼルダの伝説クッソ楽し(殴

言いたい事は山々ですが、一旦これで自分の中では区切りというか割り切りがついているかなと思います。皆さんの目に果たしてどう映るか……


最終章 one billion Relief Plan
THE Hero of humanity salvation


 

 20XX年

 

 

 

 9月30日 22時02分

 

 

 

 北太平洋沖合 アリコーン交戦海域 

 

 

 

 ………この事態に直ちに対応せよというのが、どだい無理な話ではあった。

 

 暗黒を切り裂いて空に叩き上げられ、灯台の如き輝きと噴煙を残していったミサイルを認めた時、アリコーンにとっては全てが決していた。撃ち出された弾体は固体ロケットブースターによって既に音を置き去りにしている。

 

(……しまった!)

 

 慣性航法装置INSによる自動操縦により発射後速やかにその経路は決定され、アリコーンから急速に距離を取りつつあった──────クソっ!

 

 弾くようにレールガンを指向し、バースト射撃を繰り出した先──────無理だ!と悟った。それは、単に損書の度合いが酷いであるとか、メンタル上困難であるとかではなく、もっと現実的な問題で、彼女は目前から遠ざかる光源を歯軋りしながら見送るより他になかった。

 

 彼女──────アリコーンの対空対艦兵装は並々ならぬ火力投射能力を誇ってはいるが、それは、全面的に彼女の無敵を保証するものでは無かった。具体的には、投射量そのものより、それを司る火器管制システムに起因する。

 

 アリコーンが潜水艦である以上の宿命として、イージス艦に代表される大型なレーダーやそこから得られる情報を下にした高度な交戦能力を持ち得ず、したがって、僚艦や自艦意外の防御も担当可能な艦隊防空エリア・ディフェンス能力を、アリコーンは持ち得ない──────すなわち、彼女の火器管制システムは、自分へ向かって来ない目標を||脅威とは認識出来ない〈・・・・・・・・・・〉。

 

 それでもなお、アリコーンの主砲が紫電の雷鎚を打ち上げたのは、自身に持たされた砲撃の腕に些かばかりの信頼を置いていた事と、戦闘システムの不備は彼女が戦闘を諦める理由にはなり得ないからだった。

 

 かくして、定規で線引きされたような撓みを知らぬ光の筋が伸びた先──────4つの光点が連なる闇空の彼方──────を突き抜ける。刹那、1つの煌めきが爆ぜて、1つの煌めきが筆を落とすような煙を吐いて落ちていった。

 

 1基は直撃、もう1基は砲弾が掠めた衝撃で弾体が破壊され墜落………だが無事な2基とて、弾頭を切り離し、着水に向けたパラシュートを展開する頃には十分に減速している。それを狙えば撃墜はほとんど確実──────というのは、"たられば"の話だった。そんな時間を彼女の敵手が与えるはずが無い。

 

 アリコーンが弾頭を狙うまさにその瞬間──────示し合わせたようなタイミングで伸びた火線が彼女を掠めたのを皮切りに、彼女は、彼女が本懐と捉えた敵手との対決に引き戻されていった──────そしてその瞬間、水面下に潜む彼女の不肖の愛弟子は運命の断頭台に立たされる。

 

「逃げなさい……逃げろ!フオイ!!」

 

 届くはずもない。

 

 無情にも重力に導かれゆく弾頭が着水した瞬間すら見る余裕は彼女にない。彼女の知り得る全ては海中から拾える音だけで、そこから「ドン!」と1発聞こえれば──────ドンッ!………ああ、くそっ!!

 

 現代潜水艦(アリコーン)ですらこの手の対潜短魚雷から完全に逃れる事は困難極まる──────そもそも、アリコーンが撃沈されるに至ったのも、オーシア海軍の放った対潜ミサイル(ASROC)が遠因であった──────そんな魔の手から、アリコーンと比して水中性能が圧倒的に劣る伊201が逃れ得るわけが無かったのだ。

 

(また!……また私はこれか!!)

 

 刹那、アリコーンの脳裏で想起したのはスプリング海で沈んだ自分自身。そして、その腹の中にいた、300名の乗組員たち………かつて、ラーン艦隊と名前だけ与えられた予備役に放り込まれたアリコーンをして"1000万人救済計画"の実行を企んだ彼らを、"英雄"に出来ないまま数百mの海底に沈んだ。

 そして今もまた!自身などを師と仰った者が沈む様を見ることすら出来ずに………私は何も成し遂げられず、守れもしないのだ!──────砂嵐のような脈略と整合性の無い思考が、脳溝(のうこう)を過ぎ去ってゆく。

 

『………アリコーン!味方艦隊の支…が限界だ。早く退け……!』

 

 アリコーンの頭は恥知らずにも追い詰めた敵の逆撃で腕を失い、味方に支援され逃げ道を用意されている"弱すぎる自分"とその状況を作り出した自身の写し身への怨恨でいっぱいだった。彼女の魂は、彼女自身を律する倫理によって獄死しようとしている。

 マティアスからのノイズ混じの通信が届いても、砂嵐が消し去ってゆく。けれども彼女にとって都合がいいことに、みみっちい知覚と聴覚は最低限の働きを見せ、彼女にある情報だけを伝えていた。

 

 ──────"味方艦隊の支援が限界"なら"味方艦隊は相当に遠い"という事なのでは?

 

「……!」

 

 

 アリコーンの口角がグイと上がった…………この戦場で久方振りに垣間見たそれは、死中に活路を見出した兵士の顔ではなく、執念と妄執に囚われた亡者のそれであった。

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 22分04分

 

 

 戦略機動打撃艦隊 

 

 某島鎮守府 

 

 艦娘寮兼司令部施設 地下1階

 

 統括作戦指揮室

 

 

「アリコーン、何を考えている……⁉︎」

 撤退を叫ぶ彼を無視する、ただの一事をとっても彼が知るアリコーンの姿とはかけ離れていたが、今となってはそれ以上だった。電磁石のように戦場──────否、"ペガサス"と"ユニコーン"だ──────に固執し、あの二隻の深海棲艦を沈める(殺す)ことに執着しているかのようだ。

 

 だが…………それはもはや叶わぬ事であることを、ほかならぬ彼女か1番よくわかっている筈だった。艤装だけで見ても左舷船体が大破、武装の半数を喪失し、砲弾ミサイルともに残数心許なく、SACS隊も主戦域から引き剥がされたきりで間に合いそうに無い。加えて彼女の身体が被った負傷の度合いも無視しべかざる──────寧ろ、最も憂慮すべき事柄──────もので、胴体顔面何ヶ所にもミサイルの直撃を受け、何よりも左腕を根本から吹き飛ばされていることが大問題になる。

 というか、なぜ今の今ままで大砲を振るい海上を疾駆出来ているのかが分からない。艦娘というのは、身体を欠損するような負傷をしても"修復材"なる物で治すことができるというが、負傷したとしても出血性ショックであるとか被弾のショックで意識や命は持ってかれないのか?

 

「提督、戦艦の砲撃は後どれほど可能か…?」

「………射程もだが、何より弾数が数えるほどしか無い。本当にあと1、2分が限度になる。」

 

 LSDに映される艦娘艦隊の現況。数値化、図式化されたそれらの示すのは、背すでに大半の艦娘が射程限界に達している事と、砲撃が可能な艦娘すらもその弾薬庫に占める砲弾の数が2桁を割る艦娘が出始めている事だった。これでは、まともな援護が得られる時間などとうに過ぎている。もはや何もしていないに等しい──────何故、アリコーンは退かないのか?その彼女自身に「艦長」などと"前職"の肩書で呼ばれてはみても、既にアリコーンはとうに彼の物理的に手の届く範囲になく、その思考、意図までも読み取ることは今や不可能だ。

 

 と、そんな折──────

 

『両舷、後進微速───』

 

 アリコーンの言葉──────単純で明快なそれは、一聞すれば負傷したが故に詳細な報告を出来ない者が、最低限の言葉で行動を伝えただけかに思えた。実際、マティアスはそのように理解したし、この場にいる全員もその例に漏れなかった。

 

 たがそれは、この場にいる者だけで成り立つ、無形の一致だった。

 

『………前部トリムタンク注水!』「───何!?」

 

 LSDの示すアリコーンの数値が一気に変わった。傾斜が増してゆく………それも前方に!そして、それ以上の変貌を余儀なくされた指揮室内の空気──────狂ったか?こいつ!

 

「何をやっているアリコーン!艦が頭から沈降するぞ!」

 

『それで"砲"の俯角をかせぐ!」

「バカな……!」

 

 マティアス・トーレスは、かつての敵が覚えたであろう戦慄と驚愕を、この時始めて知った。

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

「レールキャノン展開!弾頭は通常に非ず(・・・・・・・・)ァッ!!!!」

『───⁉︎』

 

 まるで空気そのものが、電子の波に乗せられて来訪したかの様だった。戦場に立っているアリコーンの耳にすら、遠く離れた作戦指揮室の絶句を感じ取ったのだ。その理由は、何より彼女自身が最も理解している──────今自分がやろうとしている事、その突飛さたるや!………………それ(・・)は、本来許されるはずのない暴挙というか、横暴というか──────否、暴走と言うべき行動で、だが、そのプロセスは突発的に生じたとは思えないほどのスムーズさで終えようとしていた。

 

『アリコーン‼︎貴様一体何を!』

「ハハハ……!」

 

 ズンッ!……と艦首が沈み始め、アリコーンの後背にマウントされた巨大なレールキャノンがゆっくりと水平から下を向いてゆく。度重なる被弾がアリコーンのFCSにエラーをきたし、レールキャノンの仰俯角を不可能にさせていた──────展開そのものは可能だったが──────それをアリコーンは、かつてマティアス・トーレスがそうした様に船体そのものを傾けることで強引に解決しようとしていた。

 

「貴方が…貴方が解りませんか」

 

 そして………これは暴走ではあっても、アリコーンには明確な意志があった………正気の沙汰であった。

 

「解りませんか艦長………たった一つの犠牲で、他の全てが救われるのですよ‼︎」

『それは違うぞアリコーン、それは死に急いでいるだけだ……!』

「……!」

 

 この人が解らない筈がないのだ!──────一方的な思い込みであったかもしれないが、何より彼女にそう思わせるだけの事を、この男は講じた実績(・・)がある。一体、貴方が行おうとした事と、私がこれから行う事、どんな違いがあるのか?貴方は100万からの人間を天秤にかけられると言うのに!

 

 全身から訴える痛みに悶える事も忘れ、アリコーンは訴える。マティアスに訴え、声を荒げたのも初めての事であった。

 

「強大な艦!よく飛ぶ砲!威力ある弾!大勢の敵・!正確な狙い!後はそこに死があれば、完成する!……貴方が言った!!」

 それがお前の意思か……!?』

「貴方の成そうとした事です……!!」

『……!?』

 

 かつて彼らが志向した1000万人救済計画──────この環太平洋に住む10億の人間が"そう"だというのか!……言葉通りの意味そのままを、彼女は実現しようとしている?少なくとも通信機向かいのマティアスはそう思ったに違いないし──────アリコーンもまた、そう考えている筈だった(・・・・)

 

 ドンッ!

「くわっ!」

 

 通信を遮る様にして近距離へ着弾したミサイル。土砂降りより酷い海水を頭から被り、衝撃がアリコーンをはたいて、すでに無いに等しい復原能力へさらなるダメージをきたす──────しかしこの期に及んで、彼女が下す命令は一つしかない。

「生き残った全ての火器を、"ペガサス"に向けて発射!」

 

 VLSのハッチが間隔も置かずに一斉に開け放たれるや、ドカッ……!と、衝撃にも似た発射音が轟く。同時射撃の様な発射間隔の短さが、複数回聴こえるはずの砲煩兵器の射撃音を短くした──────それは同じくらい、彼女に残された心身の余裕の無さぶりを、体現しているのかもしれなかった──────二つの火点から生じるミサイルと迎撃の応酬。その爆発炎と弾丸の群れが衝突する"火線"は、確かにアリコーンに向かって火先線の様に迫って来ている。もはや、彼女の発揮し得る火力は"ペガサス"単艦にすら及ばなくなっていた。

 

 だが……姿勢角は現在ダウン2度。アリコーンの求める角度までいま少し………。

 

「難しい目標を照準し……ぶち抜く!それが!」

『お前がやっているのはただの命令違反だアリコーン……!」

「では、貴方とわたし、何が違う!?」

 

 爆炎とは別の、鈍い光がアリコーンの目に漂っていた。血走った溶鉱炉の如き紅に溶け込んだそれは、確かな輝きと、深淵より深い底知れなさを孕んでいる…………それを見知った訳もあるまいが、確かにマイク越しのマティアスは息を呑んだように思えた。

 

『……⁉︎」

「お前はこの艦の乗員300名を殺して100万人を救うという! 何が違う!?

「あなたは私を……アリコーンを贄にしてでも、100万の犠牲で1000万を救うのだと……!」

『───貴様ッ1人で』

 

 ドガッァッ!

 

「うッ⁉︎」

 

 珍しく聞くマティアスの激昂の声を遮る様にして、今度こそミサイルが直撃する。今度は何処だ……!と考える暇もなく、彼女の通信機は砂嵐の音しか吐き出さなくなっていた。

 そのとき、偶然か必然か、"ペガサス"のレールガン二基とアリコーンの生き残ったレールガン一基が殺到するミサイルへ向けほぼ同時に発砲し、夜空を引き裂く爪痕の如き3本線が夜空に現れていた。そして、それを目にし、苦笑せずにはいられないアリコーンがあった。

 

「空に3本線は……凶事なり、か!」

 

 そしてそれ(凶事)は──────

 

「──────貴様たちにもな……!」

 

 ダウン4度……いま5度!

 

 …………この時点で、彼女のスーパーキャパシタはレールキャノンの発射に必要な最低量の蓄電を終えていた。闇夜の戦海の向こう──────接せん程までに明瞭に見えた二つの影を、ガッと見開かれた紅い双眸が捉えている。紫電の髪色を透かしてなお紅く、紅く──────煌めいた光を溶かし、呑み込んで、なお飽き足らない破壊者の強欲が、その瞬間、解き放たれる………!!

 

 

 

 刹那、敵の背後──────具体的には、"ユニコーン"の──────で何かが煌めくのを、アリコーンは気づかなかった。

 

 

 ──────閃光……爆音!!!!

 

「──────!?!?」

 それは………アリコーンの目前(・・・・・・・・)で発生した……!"ユニコーン"の放ったポリ窒素爆薬を用いた広域炸裂榴弾の起爆──────!!全周囲から襲い来る、叩きつける様な、引き潰される様な………兎にも角にもただの「衝撃」という単語ではとても片付けられない、圧倒的な破壊が彼女を襲った! 

 

 ──────僅かに、僅かに。

 本当に、1、2秒程度の差だったに違いない。その微かな、だが確かな差がこの対決の趨勢を決していた。

 

 だが幸か不幸か。直撃だけは、免れていた。その答えは上空──────轟々とエンジン音を響かせるSACS隊のラファールM戦闘機の仕業だった。発射の直前、真後ろから迫った彼らの放ったミサイルが"ユニコーン"のレールキャノンの砲身に命中し、砲身を些かばかりに逸らしたのだった──────レールキャノンが放たれる直前に発生した光は、そのミサイルが命中する瞬間の輝きだったのだ。

 

 …………それが(・・・)なんだというのか(・・・・・・・・)

 艤装は半壊し左腕を失い、全身をさんざんに打ちのめされて、彼女に残された力はおよそ存在しない──────広域炸裂榴弾の爆圧、威力は、すでに傷つき切ったアリコーンにとって十分過ぎるほどに致命傷であった。硬芯徹甲弾を使うまでもなく、たとえ直撃を免れても近距離で爆発し確実にダメージを与える広域炸裂榴弾を選択した"ユニコーン"は、やはり切れ者だったに違いない。

 

 ボン、と艤装の破口から血の様に吹き出した赤い電光。リチウムイオン電池の発火が、暗がりに佇むアリコーンの死化粧となってゆく──────。

 

 アリコーンの身体がぐらりと倒れ伏す──────その瞬間、紅色に照らされた唇が僅かに吊った。

 

 

 

 光──────

 

 

 刹那──────世界が色を失う。

 

 

 光から産まれ落ちた熱球は数十万度にも及び、明と暗、白と黒に染まった戦海で、二つの黒が砂の様に形を失って、崩れてゆく──────それは、生命の感知できるより遥かに短い、1ミリ秒以下の出来事。

 

 そして一瞬の後──────圧倒的なまでに膨張した火球は、全てを破壊する衝撃波を吐き出し、全てを焼き尽くす熱波と共に、悪魔の息吹となって全周へ拡大していく。本源たるアリコーンまでも呑み込んで──────

 

 

「………!」

 

 髪が焦げ、全身を焼き、艤装を溶かす熱波と衝撃の中であっても、アリコーンの意識は完全には手放されていなかった。顔を伏せていたことで熱戦と閃光の直射をまぬがれていた網膜が、眼前に伸び上がる巨大なキノコ雲をとらえている。未だオレンジ色に燻るそれの根本には、爆発によって押し除けられた海水が壁の様にそそり立っていた──────すごい水の量だ、どれくらいあるだろう?──────呑気に思えたが、それくらいしか、もう彼女に出来ることは心身ともに存在しない。

 

 そして──────解答を叩きつける様にして、膨大な量の海水が彼女の肢体を襲い、深い海色(みいろ) の中へ打ち沈めていった。

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 

 

(…………)

 

 実体の掴めない浮遊感──────木の葉が波に揺られるように、或いは雲が流されるように。ふわり、ふわりとした奇妙な感触だけが、全身をゆっくりと撫でて、過ぎてゆく。

 

 とん、と背が何かについたと思ったら、全身が水中に浸かっていると今更ながらに気づいて、勢い付けて起き上がった。

 

「!?」

 ザバッ!飛沫が頬にあたり、左手で拭う。そこで彼女───アリコーンは大いに驚かされる事となる。

 

「手が……!?」

 

 思わず凝視して、さらに驚く。千切れ飛んだはずの左腕が有るだけでなく、さんざんぱら傷付けられた筈の体も服も元に戻っていて、焼けた髪も、絹の様なしなやかさと紫電の輝きを持って彼女の下に回帰していた。それだけでなく、背負っていた筈の艤装は無くなっていて、黒い暗闇の戦海だった筈の周囲は海の様に広く視界いっぱいに水面が敷き詰められてはいたが、沢の様に浅く、周囲も光源の分からない灯りに照らされている。

 

 これは、一体……?という疑問を答えるものは少なくともここにはおらず、彼女自身が答えを探し出さなければならないのかも知れなかったが────── その"答え"に近付く道標になってくれるかも知れない、ある者がアリコーンの前に現れる。

 

「わん!」

 

「?」

 

 それは、犬であった。

 

 子犬──────否、身体が小さいだけでおそらく成犬だ──────が、自身の存在を誇示するかの様にワフワフとアリコーンに吠えていた。彼女は知らないが、チワワという超小型犬に分類される犬で、クリーム系の淡い毛色をしている。青と白の糸で織られたミサンガの様な首飾りと、胸部分を覆うハーネスを付けられている──────飼い犬だろうか?だとして、何故こんなところに?

 

 見ず知らずの場所で、見ず知らずの犬が現れれば混乱もするものだったが、そのチワワは彼女の考えなど知らぬかの様に踵を返し、せっせと歩いてしまった。…………と思えば、少し歩いたあたりで立ち止まり、くるりと体を彼女に向ける──────何処かへ誘っているのか?

 

「灯を掲げて、導く者……。」

 

 どこかで聞いたことがあり、だが彼女は決して知らない筈の言葉が頭に浮かび、足下を濡らしながら小犬について行った。

 

 しばらく歩いていくうち、この場所の奇妙というか、奇怪な点に気づいてくる。

 巨大な、虹の橋とも言うべき構造物が水面の(たもと)からグッと空の上まで伸びていて、その先は見えない。その空はというとやはり光源の見えない光で覆われてはいたが、どうやら雲のようになっている。

 

 水平線に目を向けると、幾つもの柱が天空に向けて屹立していた。その柱というのがまことに巨大で、例えるなら、"前世界(ストレンジ・リアル)"にあった軌道エレベーターを彷彿とさせるほどであった──────さらに目線を落とすと、件の小犬………だが小犬と一括りにするには些か体格が恵まれていて、くびれの無い筒のような体をぽてぽてと揺らしながら水面を掻き分けて進んでいく。時折、顔にかかる水を嫌そうに避けるのは、水が好きでは無いからだろうか?

 

(だったら、なんで?)

 などと疑問は絶えないが、どうやらその歩みが絶えず続く事はないようだった。ぱちゃぱちゃと足を鳴らしていたチワワは不意に足を止めると、顔だけをアリコーンに向ける。前方を見るのを促されている様に彼女は感じた──────見てみると、船着場とも呼べない簡素な作りをした桟橋の様な構造物と、そこに係留された一艘の舟。アリコーンがそれを認めるとチワワは、これにてお役御免とばかりにタッと駆け出し、虹の橋へ向かって見えなくなっていった。

 その背中───尻?───を見送った彼女に、意外にも声が掛かる。

 

「あら、貴女が来たの?意外ね。」

「──────!?」

 

 船の上には、先客がいた。アリコーンは自分でも信じられないほどの驚愕と速度で振り返る。その背中は汗腺が決壊したかの様に冷や汗に溢れ、ベッタリと濡れている様に感じた…………何故なら、その声は──────

 

「貴女………なんで。」

 

 先客はこの場にあっては異様なほどに落ち着き払った様子で、手に持っていたカップに口を付ける。ここではそうするのが普通だと言わんばかりに。喫驚に支配されて動くことすら忘れている様なアリコーンに、先客は「まぁ、座りなさいな。」と、やはり落ち着いた声音で船の空席に着く事を勧める。光を浴び、ルビーにも似た艶めきを宿した赤髪もしなやかに、先客──────アリコーンの達の眼前で主砲弾薬庫を撃ち抜かれ轟沈戦死した筈の、米高速戦艦ニュージャージーは、にこりと微笑んだ。




というわけでした!(何が?
いやぁ、まさか彼女が再登場するなんて驚きですねぇ(棒)一体誰がこんな展開を予想できたでしょうか(棒)

それはさておき(?)、マティアス・トーレスの扱いに1番困る話でした………こんな事なら最初から登場させないか妖精さんにでもして仕舞えば良かったんじゃないかと常々思います。トーレス救済ヒャッハーを期待していた人はマジですいません、このトーレスはヒャッハーしないんです(判断が遅い)

さて、戦闘自体は……終わりました。あとは全体の終わりに向けて、しっかりとした着地をできるかどうか……見守ってくださると幸いです。それでは!
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