戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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うふフフフ結局3話構成になった………お待たせしてすいません。
ボリュームは最低限確保できてるはず──────です。ウス。


黄泉の俗談

「あれが、貴女なの?」

「ええ……。」

「随分な大きさね……半分に割れててアレ?」

「潜水航空巡洋艦なものですので……。」

「巡洋艦?いやぁ……控えめに言っても戦艦でしょ。」

 

 始めて見る、それこそニミッツ級よりも巨大な艦体を前にして、流石のニュージャージーも言葉を選ばなかった。

 

 興味に溢れる目で黒い巨体を凝視するニュージャージーに比べ、アリコーンのそれは複雑そのものだった。それもそのはずで、彼女にとって目の前にある物は自分自身と言い切って過言ではなく、"ユニコーン"そして"ペガサス"と対峙した時以上に自らの写し身を目にした気分だった──────おまけに、その"ユニコーン"と"ペガサス"がすぐ隣に居座っている始末であるから、尚のこと気分が悪かった。

 

 目と気のやり場を無くし、憮然とした表情で顔を放る。そこには、相変わらず鬱蒼とした軍艦の柱が突き立っていて、そのけして広くはない合間を、幾艘かの舟が過ぎ去ってゆく──────その上では、相も変わらず黒い何かが蠢く。

 

 それはさながら、枯葉が風に運ばれるような力なのなさ。或いは、笹舟の様にすら思える。

 

「………。」

 

 その様を眺めていると、アリコーンは、何だかおかしな感覚に見舞われる様になってきた。具体的には、ゆっくりと流れてゆく周りの景色と、それを背景に自分たちを追い抜いて行く舟の速度が一致しない感じがした──────こんな摩訶不思議な場所で今更変な光景が一つ二つ増えたところで、何ら不都合はないし、興味もなかった。

 

 月が付いてくる様に変わらなくなった景色を眺めながら、アリコーンが再び口を開く。

 

「……ニュージャージーさんは、自身の元の姿を見たことがあるので?」

「あるわ──────元の姿というより、艤装の元になった艦だけれど。」

「……?」

 

 元が軍艦であったアリコーンにはその違いが分からず、首を傾げる──────潜水航空巡洋艦アリコーンから直接に艦娘と成ったアリコーンと違い、艦娘ニュージャージーは"戦艦ニュージャージーの艤装を装備した人間"なのだ──────が、流石に対面もせず他方に興味を惹かれている状態では、その機微をニュージャージーが知る事は無かった。

 

「ニュージャージー州のカムデンにいる頃にね………今はニューヨーク近くに回航されて、浮砲台になってるそうよ。」

「へぇ……。」 

 

 数々の戦いで戦果を収めた武勲艦"戦艦"ニュージャージーは、その退役後長く博物館としての余生を過ごしていた。しかし現在は、深海棲艦戦争の勃発に伴っい再就役、新型砲の搭載やレーダの一新等の活性化が行われ、防空砲台としてニューヨーク州にほど近いサンディー・フック湾にその巨体を居座らせている──────太平洋側に配備されたニュージャージーは、その威容を実際に目にしたことはなかった。戦艦ニュージャージーの目は、大西洋に向けて光らされているのだ。

 

「その言い方だと、やっぱり貴女は自分の元のフネを見たことないのね。まぁあんな反応してればすぐ分かるけど。」

 

 少し肩を揺らしながらそう言うニュージャージーは少し面白そうだった。アリコーンはそんなに分かり易い反応をしていただろうか?と少しバツが悪くなり、頭を掻いた。

 

「私は──────元々軍艦で、人間として生を受けせませんから、そう言う物理的に自分を見ると言うのは出来なかったんですよ。」

 

 アリコーンはそこまで言い切って、ハッと気づく。しまった、言い過ぎた!………内心頭を抱える。この世界での艦娘と、自分(アリコーン)の成り立ちは全く異なるものである事をすっかり忘れていた。案の定、その言葉は知的好奇心あふれるニュージャージーの興味を惹きに惹いて、全く、本当に全く意図せずに彼女の視線をアリコーンに向ける事に成った。

 

「えっ?なにそれ!どういうこと⁉︎」

「……。」

 

 今度は本当に顔に手を当てた。

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 控えめに言ってアリコーンにとって身の上話は億劫であったが、ニュージャージーが「分かり易い」反応をしてくれるので、少し話すのが面白くなったアリコーンは結局、弾薬庫戦艦(アーセナルシップ)構想に始まるシンファクシ級建造からスプリング海での戦没まで、自身が覚えている事とマティアス・トーレスから聞いた事を織り交ぜてほとんど話してしまった。

 

「じゃあ貴女はずっとラーン艦隊って所にいて、燻ってたワケねぇ。」

 

 最後に聞き手のニュージャージーがそう纏めた。事実は事実だったが、いかんせん言い方である。

 

「言い方。」

「でも、合ってるでしょう?」

「まぁ……。」

 

 概ね間違ってはいないが、流石に色々端折り過ぎであった。2年間にわたり海底に着底していた事であるとか、就役の理由が主要海上戦力の喪失の補填という二次的なものであったとか………。

 

「あんなに凄い装備を持っているのに、貴女は中々苦労していたのね。」

「運用側の意向に合致しない兵器は、隅で埃を被るんですよ。」

「分からなくは無いわ。そうやって色々なものが生まれては消えてくもの、戦艦だって消えた。」

「そう……ですね。」

 

 少し自虐気味に言ったアリコーンを、慰めるでは無いが同調する素振りを見せるニュージャージー。コロコロと転がるような軽い言葉の応酬ではあったが何処か心地良いものがある様にアリコーンは思った。こんな場所と状況でなければ、心から楽しめる会話を出来るのかもしれない──────ニュージャージーの博識と理解の速さは、何かを語る者にとってみれば、凡そ考えうる限り最高の話し相手であった──────そして同時に、心から楽しめ無い最大の要因たる2人を視界の端に入れ、溜め息を吐く。当然の様にその2人こと"ユニコーン"と"ペガサス"は会話の輪に入る素振りすらない。そればかりか、目が合いそうになると踏んだのアリコーンの目線が飛ぶ直前に揃ってそっぽを向く始末であった。

 

 …………最も、アリコーンとしてもそちらの方が有り難かったが。生命の奪い合いをした憎らしい相手と仲良しこよしでくっちゃべろうなど毛頭望んでいない。

 

「………できればもう少し、良い所で話したかったかしら……。」

「それは、私も同じよ。」

 

 互いに目を合わせて、アリコーンは再度溜め息を、ニュージャージーは「やれやれ」と言う様なジェスチャーをする。

 

「どうせ朽ちても、逝く所がおんなじなんだから、諦めれば良いのにねぇ。」

 

 ニュージャージーの言う「諦めれば」とは、遠回しに意地を張るなよという意味ではあったが、同時にアリコーンの後頭部にもサクッと刺さった。恐らくこの舟に乗ってる者で最も確執を持ってるのは彼女で、かつ、その自覚がある故にどうにも歯痒さが存在するのであった。

 

「あーあ、死んでからこんな面白い事知れるなんて損した気分。」

「面白い事?」

「貴女の話!中身も貴女自身も、最初見た時じゃあ想像付かないくらい面白いもの。」

 

 面白い、と言われ、アリコーンの眉が少し上がった。一体、どう「面白かった」のだろう?「話」の方は分かる。聞いたことの無い場所で起きた聞いたことの無い戦乱の話だ。興味を惹くに十分過ぎるであろう。………では、「貴女(アリコーン)自身」とは?

 ニュージャージーのことであるから、おそらくは嫌味な意を汲んだ言葉ではあるまい。興味をそそられ聞いてみた。

 

「話……はともかく。私自身とは?」

「戦場にいる時と今じゃ別人みたい。上品に振る舞って見えるし、声色も目付きも全然違う!」

 

 ………と、そこまでは良かったが。その後に続く言葉にはアリコーンとて苦笑いで返すしかなかった。曰く、「破壊そのものが人の皮を着てるみたいだった」だの「あの容赦のなさと言ったら深海棲艦に少し同情した」だの「1人だけ性能が突出し過ぎてて少しズルいと思った」だの………。

 とは言え、これにはアリコーンも少し思うところがあり──────特に後半になるに連れて──────あまり強く言い返そうとも思わず、ただただ歯切れの悪さ極まり、辛うじて押し出された言葉が──────

 

「あ〜……。」

 

 という、七分の同意を込めた音だった。

 

「よく見てますね……。」

「まぁね!」

 

 ニュージャージーは屈託のない、へらっとした軽い笑顔を作る。その笑顔に、はたと気付くことがあり、アリコーンが固まった。突然思案顔になったアリコーンに、ニュージャージーは「どうしたの?」と尋ねる。

 

「あ……いえ、一つ思い出したことが。話を変えて申し訳ないですけど、私より先に、誰かここに来ませんでした?」

「ううん、貴女が最初。」

「そう……ですか。」

「あの後………私以外に誰か沈んだの?───アイオワ(姉さん)は、無事よね?」

 

 ニュージャージーの言葉にアリコーンは首肯で応えた。それは明らかに二つの質問両方に対する「是」であったが、そうであるならばやはり此処に"彼女"がいないのはおかしかった。

 

「誰か聞いても良い?」

「伊201……私の弟子、ですかね……。」

 

 アリコーンが歯切れ悪く、更に自信無さげにそう言うのは、彼女の中で、伊201に対して思うところが多々あったからだ。自分は、彼女に師などと仰がれていながら、それらしい事をしてやっていただろうか?アリコーンの本来持っていた自信家な所は実力に裏打ちされていたものが強く、今となってはその"自信"は障子に体当たりをかます蝿ほどにも弱々しい。

 

「顔くらい分かるけど、やっぱり見てないわね。」

「そうで」

 

 言い切る前に、ガッ、と何かが右腕を掴んだ。

 

「え?」

 

 よもや腕のある"ユニコーン"の仕業か、と思い、蹴り飛ばしてやろうかと勢いよく振り向いた先──────そこには、誰もいなかった。けれども、腕にはじっとりとした感触が鈍痛の様に残っている。

 

 そんな馬鹿な、と実際に感触のある腕──────正確には、上腕あたり──────を見ると、なんと人の手の形に服が凹んでいる……まさに、見えざる手だった。これは……なんだ?一体いかなる現象なのか?その正体を文字通り掴もうと伸ばした左手。

 

 刹那、激痛が走る。

 

「グゥッ!?」

 

 神経を直接握り潰される様な、とても人の領域で堪える事など到底敵わない、津波の如き激痛が彼女の右腕を襲った。

 

「はぁっ、ハァ、かッ………」

 

 否、右腕だけでなかった。激痛はそこから雷撃を飛ばしてくる様に全身へと伝播して、彼女の身体を蝕んだ──────呼吸の仕方も忘れ、肺に焼き石を押し付けられる様な痛み圧迫感すら覚える。脂汗が吹き出し、瞳孔は色彩の押し戸を吹き飛ばす程にカッと開かれている。

 

 背を預けていた舟べりですら今の彼女を支えるには物足りず、ズルリと舟底に身体を倒れ込ませる。骨が軋んで、肉が千切れ、皮膚が焼けるようだ──────まるで、自分の身体が正常では無い"何らか"に無理やり変換させられている様だった。特に、左腕の痛みは殊更に耐え難く、無駄だと分かっていても押さえ付けずにはいられなかった。

 

 ブルブルと震え、声すら発せられなくなってきた頃、悶えるアリコーンを静観していたニュージャージーが、ポツリと「痛いの?」と聞いた。……見れば分かるだろ!と怒鳴りつけられれば良かったが、今のアリコーンにそんなことが出来る余力すら無い。締まりの無くなった唇からミミズのような涎を垂らしながら、プツプツと言葉を発した。

 

「……いた、い、ッ!」

「───そう。」

「「──────いたイ?」」

「……!?」

 

 ぐらりと揺らぐ影がアリコーンに降り注いだ。それは、舟尾で物置のように座っていた"ユニコーン"と"ペガサス"の2人。それらが突然立ち上がり、体を起こし、アリコーンに迫って来ていた。2人が寄って来る度に舟がくらくらと揺れる中で、一際カクン、と大きく揺れる。何事か、と振り返ると、何とニュージャージーまでもが勘案伺い知れぬ据わり切った眼をしてアリコーンに一歩を踏み出して来ていた!

 

「ひ……!」

 

 これにはさしものアリコーンも心胆を寒からしめられた──────完全に進退窮まり、言う事を聞かない手足を捩って芋虫のような無様さで何処ともなく後退る。

 その時、トン、と腰当たる感触が──────これは……桃!?──────始めこの舟に乗った時、妖精さんのような誰かが置いていったものだ。 

 

「……えぇい!」

 

 咄嗟に、右手で転がっていた桃をひん掴んで"ユニコーン"と"ペガサス"に向かって投げつけ──────とは言え手に力が籠もらなかった、放るような情けない投擲だが──────それが運良く顔面にクリーンヒット!たじろいだ所に、悲鳴を上げる全身を無理やり転がして滑り込む。受け身などまともに取れようはずもなく、転倒するような勢いで身体を打ちつけ「ぐっ」と呻いた。

 

 挙句勢いそのままにドン!と舟尾に強く背を打ち、激痛に追い打ちをかける結果となる──────同時に、ドチャッと水音を含んだ落下音──────特に気にも留めず、そのまま左腕を抑えようとした右手が──────空を掻いた。

 

「───!?」

 

 声の出し方すら忘れ、ただ呆けて左腕を見やる。士官服を模したネイビーグレーの服は赤黒い血に塗れていて、そして左腕から先は無かった──────正確には、あったが、あるべき場所にない。腕は、舟の床に落ちていたのだ。その光景を見た途端、全身に訴えていた激痛が氷海に閉じ込められたように失せ、喉が何十にも折り畳まれたように空気の行き来が出来なくなり、身体が震えた。

 

 息もできず、転がっている左腕を呆然と見つめるしか出来ないアリコーンの頭の中で、何かが弾けた。"ユニコーン"と"ペガサス"と繰り広げた対決の光景が、フラッシュバックのように渡来する。そこで起きた全て──────そこで確信する。この痛み、この腕は、その戦いで彼女自身が負った傷そのもの……!

 

 直後、刹那的なまでの速さで蘇った全身の痛みと失った左腕に宿った幻肢痛──────気がつくと、彼女の前には"ユニコーン"と"ペガサス"がずんぐりと立っていて──────しかも、彼女たちの乗る舟は、別の黒い塊を乗せた何艘もの舟に囲まれていた──────こいつら、いつの間に……!?

 

 舟の上にあった黒い肉塊のようなものは、明確にその姿形を深海棲艦のそれに整えつつあった。そいつらは口々にこう言う。

 

「「「痛イ痛イ痛いタい痛イ痛イ痛い」」」「「「苦シイ苦シイ苦しい苦シイ苦しい苦シイ」」」「「「熱イ熱イ熱い熱イ熱イ熱い熱い」」」

「「「欲シイ欲しい欲シイ欲シイ欲シイ欲シイ欲しい欲シイ欲シイ」」」「「「ヨコセヨコセよこせヨコセヨコセヨコセヨコセヨコセ」」」「「「死ね死ね死ね死ね死ね死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ね」」」

 

 無い腕を伸ばし、目を爛々と光らせ、歪な口をカクカクと動かし、餌に群がる鯉の団塊の如くにアリコーン達の周りを囲んでいた。 呪詛を放つ悪霊か怨霊か、圧倒的な悪意と害意が形を持って押し寄せてきている……!

 

「ナゼっ、オまえダケが───」

「ワレワレ、とおマエでナニがチガうッ……!」

 

 ズン、ズン!と踏み込みを荒らげ、舟を軋ませながら迫って来る"ユニコーン"と"ペガサス"の言葉の意味を、アリコーンは考えなかった──────そんな余裕は無い!言葉よりも状況が、状況よりも激痛が彼女の優先事項であった。

 

 千切れた左腕を庇いながら後退って……けれども直ぐ舟尾に行きあたり、少しの猶予も無い。

 

「……死は避けられないわ。」 「!」

 

 ゆらゆらと目立つ赤髪を揺らしながら、この舟で最も五体満足なニュージャージーが近づいてきていた。贋物2人なら一分の可能性もあったかもしれないが、ニュージャージーが立ちはだかっては凡そどうにかなる未来が見えなかった。

 

 

「貴女も死ぬし……… I am going to die(私だって死ぬ). 」

 

 首を振って、語りかけるように、或いは自身に言い聞かせるような口調で一歩一歩を踏みしめてくる……!緊張と戦慄に近い感情に頭がパンクしそうになった。そこまで追い詰められても、ギリギリと歯軋りをして、紅く燃える溶岩の如き眼をギラつかせる事くらいしか、今のアリコーンに出来ることはない。

 

 ──────ニュージャージーの放つ言葉の節々に先程までなかったある物(・・・・・・・・・・・)が戻っていることなど、彼女は全く気づかなかった。

 

We are all going to die(みんないつか死ぬ).」

 

 

 言うが早いか──────刹那程の間……アイアンクローを仕掛けるような勢いで伸びた両腕!贋物の背を超え、そのままアリコーンにまで掴みかかって来るかという速度!だが──────

 

 

 

 伸ばされた両腕は"ユニコーン"と"ペガサス"の後頭部をひん掴み、ガァン!思い切り床へと叩きつけられた。

 

「「ウッ───!?」」

「ニュージャージー……!?」

 

「But you are──────just not today(今日じゃない).」

 

 




いっつもこうだ纏めるつもりがドンドン要らない文量が増えて歪になり分割を余儀なくされる……皆さんは計画的に物事を進めましょう()何年経っても改善されない私はバカです。

とまァそれは置いといて、ニュージャージー、というより今話の前話、実は最後まである事を徹底して描写してませんでした。なんだか分かりますか?

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