戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》 作:お猿プロダクション
イベントも始まったとはいえ、私はスタートダッシュは全くしない身なのでございまして、11月中にもなるべく投稿したいところです(宣言)。
その様は、赤狼が獲物に飛びかかるほどに俊敏で、象が大地を踏みしめるほどに強烈であった。
……ドォン!
──────凡そ一個人による行動とは思えないほどに、舟全体が軋んで悲鳴を上げた。舟の縁に届きそうな迄に白波の水面が頭を見せ、またガクン!と舟が持ち上がる。
艦娘と言えど、艤装もなしにこれほどの膂力を発揮し得るのか!
「ニュージャージー……!?」
アリコーンの無事な右手は庇うべき身体ではなく、縁にしがみ付いていた。痛みに身体を抑えるよりも姿勢を保つことを優先する程に揺れは激しく、今やこの舟は波間に揺れるクラゲよりも儚い。そしてその目は、事態の元凶たる、長い赤髪を靡かせた戦艦艦娘を凝視している。いったい、彼女に何が?………それに、先程の言語は、今やアリコーンの聞き馴染んだ日本語とは異なっていたように思えた。
2人の頭を船底へめり込ません程に強かに打ち付けた両掌は、なお青筋を浮かべ、今度はそのまま握り潰さんかという程に力んでいる。ニュージャージーは腕はそのままに、彼女に組み付された2人へと落としていた視線をアリコーンに向けた。
「Hey!Ms.Alicorn!」
「……!」
聞き間違いでは無かった。やはり、英語だ!つい先程まで日本語しか口にしていなかった筈。何故突然……?と、考えてみても血と理性の足りない脳は解答を出してはくれなかった──────というよりそれ以前に、アリコーンは全身が軋んで裂けそうなほどに痛んで、舟の揺れ自体も治ってはおらず、どう足掻いても冷静に考えられる状況にはなかった。
そのせいで露骨に困った顔でもしていたらだろうか、ニュージャージーは、「たはー」と表情
「……って、あってるかしら?Pronunciation?」
「ま、まぁ……。」
辛うじて返事は出たものの、それで何が分かるわけでもない。少なくとも、一本釣りされた
一方で──────倒れ伏し、苦痛に顔を歪め、溺れるように汗に塗れたアリコーンを見るや、ニュージャージーは何か確信めいた頷きをする。
「アリコーン、YOUは舟を降りた方がいい。」
「………!?」
〜〜〜〜〜
数刻前──────否、実際にこの場所に時間の概念があるかさえ怪しかったが、敢えてそういう事ととする──────ニュージャージーが初めてこの場所でアリコーンと合した時、特に大きな感傷は無かった。強いて上げるならば「
アリコーンと"ユニコーン"との戦闘まではニュージャージーも目にしているし、その後の顛末も本人の口から聞いた──────あれだけの戦力を有するアリコーンが不覚を取ったのか?……と、そう思わないではなかったが、けれども、ニュージャージーは"ユニコーン"と"ペガサス”の「姿」を見て納得していた。
その後に聞いた話は面白かったし、興味深かった。艦娘分野では世界に先行していた日本が「特効」に係る教育を後手に回していたのは意外だったし、アリコーンの身の上話………
今のこの場所以上の謎と興味の止まらない話で、最早無いも同然の心臓がバクバクと興奮しているようだった。
けれども、ニュージャージーにとって飽きの来ない愉快な語らいは長く続く事はなかった。それは、アリコーンがある潜水艦娘の名を口にした時だった。イ201──────アリコーンが「弟子」と言ったその艦娘の名。ヤンチャな潜水艦娘がいると言う話と、その艦娘の顔は覚えていたし、名前と顔も合致していた。
その名を口にした直後、アリコーンは
だから聞いた。「痛いの?」と──────当然答えはイエス。
それに反応した"ユニコーン"と"ペガサス"を皮切りに、深海棲艦供がアリコーンにハイエナの様な飢え切った視線を向け、ワラワラと屍肉に群がる蝿の如くに動き始めたのだから、これはもう目が据わり切った自覚があったし、何よりもうひとつ得た確信の為に、ニュージャージーはすっかり軽くなってしまった腰を上げる。
確信──────それは、アリコーンが初めこの舟に乗った時に、全く場違いな桃を妖精さん(の様なもの)に提供された時に、少し勘づいていることではあった。ニュージャージーは日本の神話に、神が死者の国から逃げる際に桃を死者の軍勢へ投げ付け難を逃れる一幕があるのを思い出していた。
即ち──────彼女は、アリコーンは──────未だ、死んではいない。
だから、言うのだ。「──────舟を降りた方がいい」と。
〜〜〜〜〜
血も理性も足りない脳味噌ではあったが、投げかけられた言葉に疑問符を付ける程度の余力は、どうやら残されていた。
「それは、どう言う………」
降りれるなら降りたいところだ。しかし──────
(こんなところで降りるなんて言うのは……!)
考え、周囲を見渡す。アリコーン達の乗る舟は他の舟に完全に囲まれ切っていて、それに乗る深海棲艦の群れまた群れ──────おまけにそいつらは、さながら飢餓者の如くにアリコーンを狙っている様であった。この中に降りると言うのは、腹を空かせたフカの群れに単身飛び降りるのと何ら変わりがない。
「ふざ、けルナっ!」
一方で──────ニュージャージーの言葉に燃えるような反応を示したのは、当のアリコーンではなく、彼女に踏みつけにされている"ユニコーン"からだった。
「なせオまえダケガ……!」
そう、呻くように呟き、ニュージャージーに押さえつけられながらも、ぐぐぐっと持ち上がった"ユニコーン"の顔は──────殆ど、「無かった」。
黒く炭化した皮膚らしき表層は、辛うじて顔面らしき形状を見て取ることは出来たが、それ以上は全く、何もなかった。髪も眼球も耳も鼻も、風化した岩のように押し並べて破壊されていた…………一目見ただけなら、アリコーンに似た容姿と受け取る事も出来た、かつての整った顔立ちは最早見る影もない。
「……!」
「みタカ!しッタカ!オまえ、ノシタこと!つみ、ヲ!!」
そして、同じくニュージャージーによる拘束を受けている"ペガサス"も、無い腕をグリグリと動かして身を捩り、アリコーンを睨んだ──────いや………凄まじい破壊を受け、岩肌にも似て崩れ切った輪郭に眼球の収まるべき場所はなく、実際に睨むべき眼も無かった──────だが、間違いなくアリコーンはそう感じた。
「───じごく、ニ、いクベキハ……オまえダッ……!」
鬼気、血気迫るその姿にアリコーンは気圧された。小刻みに揺れる紫電の髪は、動揺する彼女の心中を表しているかの様だ。見えない壁に押される様に、アリコーンの身体は後ろに傾く──────背後には、不気味に揺れる水面と、餌に寄り付くピラニアの如き深海棲艦の群れ。背景で不気味に林立する軍艦の影は、アリコーンを暗く睥睨している。気付けば、天を突く尖塔の様な柱も姿を消し、周囲の景観までもが様変わりしていた。
──────けれども、そんな中でかけらも動じない女性が1人。
「
冷たく言い放ち、もう存在しない舟の床と顔面とを更にギギギッ!と音を鳴らし更にめり込ませようとする………流石にやり過ぎである。
「………もう見てわかると思うけど、Meもこいつも、周りの深海棲艦も、多分もう死んでる。」
「……。」
この期に及んでそれに異を唱えようと思う程、アリコーンも理性を失ってはいなかった。眼前に居る3人の変わり果てた姿も、周囲の景色も、それを見た時──────否、もっと前から──────自分がこの場所に初めて立った時から、どことなく感じている事ではあった。
ただ一つ…………
「私は………何故、生きていると?こんな為体で……。」
「
言われ、無い左腕を押さえる右手が捻るほどに力んだ。当のニュージャージーだけでなく"ユニコーン"も"ペガサス"も、周りの深海棲艦も。今のアリコーンの目には、ただ一つの例外もなく全員が全員、絶命に至る身体の欠損を抱えている──────。
胴体が半分無い者。
頭部が脱落した者。
腹に大穴の穿った物。
下顎だけがブラリと寄る瀬無く漂っている者もある。
その全てが、自らの傷に痛み、苦しみ喘いでいるアリコーンを、怨嗟の目で睨み、或いは唸りを上げ、妬みと
「……だから、私はここにいるべきでは無い………と。」
「Yes.──────その手形の持ち主が、youを待ってるわ。」
アリコーンの右腕に深々とつけられた手形──────決して大きくは無い、だが力強く握り締められてるであろうそれが、思えばアリコーンを"正気"に戻した切掛であった…………とはいえ、と背後を見遣る──────視界を埋める悍ましい魑魅魍魎──────やはり此処から降りるとしたら間違いなく舟から飛び降りるしか無い訳で、この周囲の状況を見渡してしまうと、アリコーンならずとも尻込みする。………けれども、この後ろに待つ誰かが居るのならば──────彼女は、その人と彼女自身のために、この一歩と一飛びを踏み出さなければならない!
「あ、ソーリー少しだけ伝言頼まれてくれないかしら。ok?」
「え?え、えぇ……。」
今しがた思い立ったような突飛さで、ニュージャージーが言った。まさに意を決しようとしたその瞬間だっただけに、紐に引っ掛けられた様なつんのめりを晒す。
あわや転落というところで何とか踏み止まるが、その返事はずいぶん力抜けた、腑抜けたものになってしまう。けれども、その時見たニュージャージーの顔は真剣だった──────というより、侘しげに過去を語らう老人のような、覇気の無く脱力した顔になっていた──────二人の顔面を押し付けた状態でよくそんな顔が出来る物である。
「姉さんに……Iowaに、直接言いたかったけど、間に合わなかったから。」
あの時──────致命的な破壊を受けた主砲塔弾薬庫が最期にして最悪の輝きを解き放つ直前。全てを察したニュージャージーは、姉のアイオワにただ一言だけ言い残したことがあった。降りかかった火の粉を払えず………先に逝く不幸を詫びねばならなかった。
「
それは、引け目という訳ではないし、ニュージャージーがそれを感じる必要もなかったが──────それでも、彼女は
「あ、あとBIG E ───
(…………お、思ったより伝言多いな!?)
急に表情を変えてベラベラ喋り始めるのだから、先程迄の感傷を返して欲しいとすら思ったが、これもニュージャージーの"素"なのだろうと納得するより他にない。暫くして言いたい事を言い終えたか、或いは刻限的な何かがあるのか、ニュージャージーは「じゃ!」と手を叩く。それは彼女にとって切り替えの合図だった──────アリコーンもそれを察した。話は終わったのだ。
コクリと頷き、踵を返す。けれども、その背を睨む二つ二対の眼はそれを許さない。
「「まテッ!」」
「
これが最後と抵抗を示そうとした"ユニコーン"と"ペガサス"だったが、揃ってニュージャージーに「ムギュ」と潰される。彼女はアリコーンを一瞥し、ニッ!と微笑むや、「Go! Alicorn!」と叫んだ。その張りのある、スイッチを入れ込むような声はアリコーンにとって撃鉄にも似ていた。無事な片手で形だけの敬礼をすると、アリコーンはもう振り返らなかった。
軋む全身に鞭打って、無事な右手で舟の縁を掴み、腰を捻って足を乗り出す。ビキッ!と痛む骨肉を脂汗で誤魔化し、身体を傾ける──────僅かな浮遊感──────身体が舟から落ち始める時、ほんの一瞬だけニュージャージーが見えた。その手前で、敬礼をする妖精さんらしき影も──────
「
時間からして、聞こえるはずもない。けれども、アリコーンには確かにそう言ったように感じた。水面に身体が打ち付けられる寸前、一刹那にも満たない間、アリコーンも確かにこう言った気がした。
ありがとう……さよなら。
〜〜〜〜〜
海だ。
船の生と死が混ざった海だ。
ずっと広がってゆく、深い、けれども澄んでいて、果て無く見渡せる。
黒鉄の塊が見える。それが眠る鯨のように幾つも海の中で棒立ちになって──────いや浮いている。その中で、彼女は何処からか挿し込む光に向かって……上、上に向かっていた。浮上している。
沈んでくる巨きな黒い影とすれ違い、或いは底から迫り上がってくる影が彼女を抜かしてゆく。長細い船、鯨の様な船、平たい船──────彼女たちは、何処から来て、何処へ向かうのだろうか?
その中でも一際巨きな扁平状の巨体が、睥睨するようにアリコーンの近くをゆっくりと通った。知らない筈のその姿は、どうしてかひどく既視感のある見た目をしている。
──────それが何かも知らないうちに、海の水が引くのを感じた。あれだけ深かった筈の海はいつの間にかその底を彼女の背に預けていて、静かだった海中はザバザバ、ザァザァとその音の装いを喧しく変えていって──────
「………。」
目を開けた時、そこには知らない天井が広がっていた。
不思議世界編、完ッ!想定より1.5倍となっております。ハイ。
ここからムダ語り〜
Twitterでも言った(と思う)んですけど、この不思議世界に建ってて何度か描写してる「塔」なんですが、見た目のイメージ的にはエスコン7で「ハーリングの鏡」の話が出た時に描写された軌道エレベーターの絵画。「上の世界」(海の中だし、下の世界かな?)ならあぁいう世界もあるのかなと。
言語が変わった後に塔を崩してますけど、あれはバベルの塔の暗喩ですね。塔を神様に崩されて、言語がバラバラになっちゃう。「ガーゴイル隊全機、バベル!バベル!バベル!」では無いですけれど(笑)。
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