戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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実はこっちが先に完成してしまって、前話を血眼で描き詰めていたのでした。


エピローグ 深海棲艦

 敗北の余波は、強く、色濃く残っていた。

 

 深海棲艦にとって寿号作戦とそれに伴って行われた大規模──────と言うより、同時多発的──────な反攻作戦は、彼女達に3桁からなる重大な損失を齎し、その再起に年単位の時間を要するだろう事は、敵味方何処を取っても容易に想像できた。特に、新たに戦列に加わった艦娘「アリコーン」の存在が、深海棲艦に重大な脅威となった。

 

 始めての出撃からこちら、その征く先々で対峙する深海棲艦艦隊の尽くを打倒し、挙句、その対「アリコーン」の切り札的存在として早急に戦列化された2隻の潜水航空巡洋艦深海棲艦──────人類側の言うところの、"ユニコーン"そして"ペガサス"──────も撃沈された。その建造拠点もまた、「アリコーン」の放った戦術核砲弾により灰燼と帰した──────ようは深海棲艦は現在、質、量共に太平洋における海上優勢を失落させる危機にある。

 

 これらの「敗北」は、明確に、深刻に──────だが冷静に受け止められていた。それも、敵味方両方によって──────具体的には、深海棲艦は確かにその勢力を失いつつはあったが、それは太平洋の一部海域に限った話であり、全世界規模で言えばその勢力は未だ強大であるに変わりが無いこと。加えて、太平洋各戦域で行われた反攻作戦は確かに深海棲艦戦力を漸減させはしたものの、その拠点としていた島嶼や海域の多くは攻撃こそされどその攻略、占領、維持までは行われておらず、実質手付かずの空白地帯となっている事が、人類側をして今作戦を「完全勝利」と言わしめない理由が存在した。

 

 特に後者は人類側に立って見れば深刻で、少なくない損害を被ってなお彼我の勢力図を大きく書き換え得なかったことは、戦略目標たる"ユニコーン"、"ペガサス"の撃沈を以てしても苦々しく受け止められていたのだ。そして追い打ちのように──────大規模作戦の当然の帰結であったし予測された事態でもあったが──────人類側の主力たる艦娘戦力は、弾薬不足と燃料不足に悩まされる事となる。

 

 ──────そこに、深海棲艦の付け入る隙が産まれた。

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 マリアナ諸島 南東沖合

 

 

 暗灰に侵食された海原と空は、南洋特有のスコールも相まって正しく暗所の存在たる彼女たちの立場を、より一層際立たせているようでもあった。それは、彼女達のこれから行う事を考えれば、寧ろ僥倖と言ってよい。

 

「機動空襲」──────彼女達の目的と、その存在を示す最も簡便な言葉が、それであった。

 

 燃料、弾薬の不足からくる艦娘主要戦力の積極的行動が欠かざるを得ない今、人類側が最も優先すべき事項は、その不足した燃料および弾薬をはじめとする資源の備蓄であった。これを実現するために、当然のことながら攻撃をしただけで終わった旧深海棲艦側の拠点の多くが半ば放置同然となり、一部戦略的要衝に対してのみ部隊が置かれ、基地化が行われていた。彼女達の任務は、そんな一部の基地化が進みつつある人類側拠点の襲撃、またはその海上交通路の破壊にあった。

 

 拠点の襲撃が叶えば、その周辺海域を警戒せざるを得なくなり、それだけ深海棲艦側に対する圧力も弱わまるという訳で、こちらが戦力再編の時間を稼ぐことも出来ようというもの………そうした目論みを持って、生き残った主力艦を抽出した複数の遊撃艦隊が編成される。水上打撃部隊、機動部隊、潜水艦隊………彼女達もまた、そうして編成された艦隊の一つであった。そして、その陣容は単なる遊撃部隊として見るには些か(いか)めしい。

 

 空母ヲ級改Ⅱ flagshipを旗艦とし、随伴艦に空母ヲ級改 flagshipが2隻、それらを直掩する様に重巡ネ級改、軽巡ツ級 eliteの前者が2隻、後者が1隻。これら6隻が艦隊の中核を構成し、その外周を守る様にして、やはり軽巡ツ級 eliteが1隻、駆逐ナ級Ⅱ量産型が5隻を配備している。

 

 空母3、重巡2、軽巡2、駆逐艦5、総艦載機数300機以上…………と、それだけで十分驚異となる戦力だ。加えてそのいずれもが何らかの改装形態を得ており、無形態の深海棲艦とは比べるべくも無い性能を獲得していて、この1個機動部隊のみで艦娘主力艦隊との戦闘も十分交えられるほどの威容を誇っていた。

 

 しかし深海棲艦は、この大戦力を艦娘側との決戦に仕向けず、あえて遊撃戦の様な作戦に投入している。しかし、これには明確にしてやむを得なざる理由が存在する──────それこそが、深海棲艦主戦力の低下であった。前述の様に、如何に弾薬燃料に不安が残る艦娘艦隊といえど、その保有戦力は未だ文字通りの健在なままであり、翻って深海棲艦は度重なる損害の結果として主戦力を摩耗し、彼我の戦力均衡は崩れつつある。ここで更に勝ちの目が少ない洋上決戦にこだわる程──────人類にとっては不幸なことだが──────深海棲艦は無能では無かった。

 

 主戦力の戦闘による損耗を避け、且つ艦隊戦力再編のためのいわば時間稼ぎの必要から、その主戦力を抽出してでも彼女達を遊撃戦に走らせたのだ。

 

「………。」

 

 荒天の中、旗艦のヲ級改Ⅱ flagshipが蒼いオーラを放つ眼を凝らす。これまでの所、ほぼ(・・)作戦に支障はない。唯一、西進する途上、潜水艦のものと思われる不審な電波を捉えたものの、ただの一度きりであった。その後の荒れた天候のおかげで敵の哨戒機も躱し、間も無く作戦海域に到達しようとしている──────ヲ級3隻の蠢動する帽子状の構造物の中では、既に攻撃隊がその時(・・・)を待ち侘びていた。このヲ級改ニ Ⅱ flagshipの艦載機はもとより、隷下のヲ級 flagshipの艦載機も性能、練度共に高い者たちばかりを集めている。それらが腹に抱えた物騒な荷物を敵手に打ち込みたくてウズウズしているのだ。

 

「………。」

 

 ヲ級は、笑った。

 

 否、正確に笑ったのかどうかは定かではないが、第三者がそれを見たなら「笑った」と表現するだろう。はにかむ様に頬の肉を少し上擦らせ、口角を上げている。そこに意気込む何かでもあったのか──────グッと握りしめた拳を前面に突き出し、払いのける様にして振り翳した。

 

 ──────それが、「攻撃隊発進」の合図。

 

 3隻の空母から矢継ぎ早に吐き出される爆撃機、攻撃機、戦闘機──────俗に「黒」と呼称される高性能な作戦機の群れは、蚊柱の如くに集合体を形成し、それらが秩序を持った大編隊に移行するまでに時間はかからなかった。雲霞の如くに艦隊の上空を遷移した機体の数は総数にして120機に及ぶ。ヲ級3隻の搭載機数から考えれば、その全力出撃には遠く及ばない機数だったが、攻撃の目的が「攻撃する事」それそのものにあるこの時に於いては、その限りではなかった。加えて、全力出撃に掛かる時間、帰投した艦載機の収容に掛かる時間を考えれば、全ての段階に迅速さが求められる機動空襲においては寧ろ足枷となる事は明らかだ。

 

 荒天を突いての出撃も思い切った事だった。古今東西あらゆる航空機にとっての天敵たる悪天候にもかかわらず艦載機を発艦させ、それを滞りなく終わらせるあたり、艦載機の練度はもとより、荒れた海で機体を飛び立たせられるだけの安定した航行を可能たらしめる艦隊の練度も伺えようというものだ。

 

 攻撃目標は、グアム島とサイパン島にて設営が始められている飛行場。幾度の偵察により判明したその現状は他とは異なり、特に早い段階で基地の拡張整備が行われていて、加えてその規模の大きさ、そして未だこの場所が深海棲艦の手中にあった時に飛来した、米軍の新鋭超重爆撃機の動向から考えて、この基地が新たにその発進基地となる可能性が浮上した故であった。

 

 攻撃隊は高度を上げず密雲の中に突入する。1500m以下の高度を保ち敵レーダー網を掻い潜り、敵地上空に達するまでその高度は下がることはあっても上がることはあってはならない──────そして最早、それをなし得る全ては既に上空にある。彼女達に許されることは、無事に攻撃隊を収容する為にこの乱層雲と風雨立ち込める海に身を潜めることだけだった。

 

 この時点で、彼女達にとっては勝負は決まったも同然だった──────だが、彼女達は知らなかった。自分達が、ある2つの不幸に見舞われている事に。

 

 1つは、先の不審な電波。それはやはり潜水艦の発した電波で、この近海を慣熟訓練を兼ねた哨戒任務に就いていた伊201──────フレイ──────の目に引っ掛かっていたのである。結果、実態としてこの機動部隊はその存在を明確に察知される事になった──────実は、此処までは深海棲艦側も折り込み済みで、現にフレイは引き離された挙句、スコールに逃げ込んだ深海棲艦機動部隊を哨戒機は発見出来ずに失探している。

 

 では、もうひとつの不幸とは……?

 

 それは──────哨戒機とは別に、フレイの急報を受けこの有力な深海棲艦機動部隊を攻撃範囲に収めるべく猛烈に急迫しつつあった、ある艦影であった──────。

 

 

 そして、不幸は唐突に………そして誰も予想だにしない形で彼女達の眼前で顕現する。不幸──────暗雲を貫いた純白の輝きを認めた時、ヲ級改Ⅱ flagshipの蒼い眼に映ったのは驚愕ではなく疑問だった………何だ、あれは?

 

 今しがた攻撃隊の背が消えたその向こうでそれらは突如として光球となり、その下にある全てを呑み込んだ。その直後──────

 

『〜〜‼︎』『……ッ!……ッ!』『───⁉︎』

 

 無線封鎖してあるにも関わらず飛び込んできた、攻撃隊の絶叫にも似た通信。その間にも光球は連鎖的に、数珠繋ぎに現れ、その度に断末魔の如きそれを無線機が吐いた後には、決まって永遠の沈黙が待っているのだった。そして僅か数分の後、彼らの存在を示す一切合切が消え去り、あれほど喚き立てていた無線も何一つ語らなくなった。その代わりの様に聞いた遠雷の如き轟が、唯一の手掛かりでしかなかった。

 

「………!?」

 

 旗艦のヲ級改Ⅱ flagshipは、一瞬にして困惑と驚愕、そして混乱の極致に追いやられる。味方の編隊が消えた……?……攻撃!?──────その可能性に思い立った瞬間、困惑への解答は彼女らの眼前に広がる閃光という形で叩き付けられた。

 

 ──────ドドドドドッッ………!!!!

 

 空を裂く爆発音!そして雲が直接落ちてきたかの様に、旗艦の眼前で広がっていた布陣が消え去った…………主力の一翼たる空母ヲ級 flagshipは帽子状の構造物に大穴を穿かれ、傾斜してゆく。そのヲ級 flagshipを直掩していたネ級改も、殆ど同様だった──────戦艦にも匹敵する装甲がある彼女が、いとも容易く!

 

「………!」

 

 艦隊は攻撃隊120機の他、上空掩護の為に約30機の戦闘機を上空に留まらせていたが、それすらも凡そ半数に渡って纏めて落ちていった。旗艦は生き残った僚艦共々直掩機を倍増させ、艦隊進路を反転させた──────それに異を唱えようと顔を強張らせる隷下の艦もいたが、ヲ級改Ⅱ flagshipはあくまで黙殺した。攻撃は、既に失敗している……!

 

『───!』

 

 上空の機から、退避しろという旨の通信が飛ぶ。がなり立てる中に恐慌にも似た反応を聞いたヲ級改Ⅱ flagshipが舵を転じたその時──────一閃……!

 

 ドンッ───ドドドドッッッ!!!!!

 

 万雷の如き衝撃と轟音が旗艦の彼女を襲った時、彼女は自分が攻撃されたと思った。だが違った──────彼女の意識が僅かでも冷静さを取り戻した段階で、彼女はそれ以上の衝撃を目にする事となるのだった。攻撃を受けたのは彼女の右舷側に展開していたヲ級 flagship達で、僚艦も周囲を固めていた駆逐艦も纏めて文字通りの「面」において制圧、撃沈されていた。

 

 一瞬……ただただ一瞬!艦隊は会敵の認識すら持たないまま艦隊の7割を喪失した。そして不幸な事には、その認識を持ったところで不可視の敵が果たして如何なる方法を以て自らを全滅の淵に追いやったのか。それどころかどうやって今に至るまでこの攻撃を続けられるのか、文字通りの一切合切が彼女たちの理解の外にあるのだった。

 

 そして恐るべき事に、彼女たちがこの攻撃から逃れられたという保証は、何処にもないのだ。それを理解しているからこそ、一線級の主力艦12隻からなっていた堂々たる艦隊の進軍は、今や敗残兵の無様な潰走へと成り果てていた。隊列は秩序をとうに亡くし、陣形らしき隊伍を成しているように見えるのは、単に彼女達の遁走する速度がほぼ遜色無く、彼女達の退く先が同じ場所に在るからに過ぎない。

 

 そして──────保証はやはり無かった。

 

 刹那の時間──────"それ"を認識した時、彼女たちは己の終末を理解した。直上で陽光の如くに白めいたそれは、直後には彼女らを獲物に見立てた大蜘蛛が触肢を広げる様に放射状へ拡大し覆い被さった。その瞬間、彼女たちに成し得る全ては終わる──────

 

 ───ドドドオッ!!!!!!!!

 

「───!!」

 

 吹き付ける風雨が全て鋼鉄のつぶてになったかの様に、ヲ級改Ⅱ flagship───否、艦隊を構成していた殆ど全て───の全身が打ち砕かれた。穴が穿かれ、肉が削られ、骨が散り、ヲ級をヲ級たらしめる帽子状の構造物が木っ端微塵に破壊される。

 

 上空では味方機が木の葉みたいに吹き飛んで、そこにあった「黒」艦載機の誇るべき威容など一緒に掻き消えてしまった…………文字通りの"全滅"を喫した彼女たちの中で唯一生き残ったのは、最も大柄で耐久性が高いヲ級改Ⅱ flagshipだった。だが、その生存も長くは続かない──────青黒い血みどろの住人と化した彼女の、傾斜してゆく自らと意識の中で最期に見たのは、僅かに生き残った味方戦闘機が突如として火球と化した瞬間だった。

 

 聞き慣れぬ、金属音を交えた爆音と共に──────

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 

 同海域 

 上空  2000m

 

 

 

「………!!」

 

 突如飛来した「光」は、低空にいた味方機をも巻き込み環状に破壊をばら撒いて艦隊を総なめにし、その光と爆煙が晴れた後に生きているものは一つとして存在しなかった。

 

 夜猫深海艦戦Ⅱの青白い眼下には、今まさに死に絶え波間に全身を没しようとしている艦隊の成れの果てと、彼の列機の残骸が落ちて行く様が見て取れる。唯一生き残った空母と、その僚艦を守るために艦隊の直上に控えていた彼と彼の列機は、その目的とそれを成すために必要な全てを喪ったのだ。

 

 この海域にある深海棲艦勢力は、彼を含めた僅か20機程の航空機のみとなる──────それも寄る辺のない、艦載機戦闘機……!航続距離の関係からも味方勢力圏への退避も絶望するべき状態では撤退も出来ない。かと言って爆装も無い戦闘機が敵基地に殴り込みに行ったところで効果などたかが知れている──────けれども、彼らはまるで申し合わせたように一斉に翼を翻した。進むも地獄、退くも地獄ならば、進めるまて進み切って最後に死に花を咲かせるより他に無い!

 

 ………それが徒花にしかならぬと分かっていても、此処で退く事の方が彼ら──────否、深海棲艦という種族そのもの──────にとっては笑止であった。進退窮まる時、敵を一兵でも斃す事ができるなら、彼等は迷わず前進を選択する………それが理性として戦闘本能が備わる深海棲艦の"合理的"な行動だった。

 

 ──────だがその行動選択の如何に関わらず、彼等の運命はこの時点で決していた。さながら、心血注いだ企画を詰まらぬ根回しによって潰された、若手社員の絶望にも似て──────。

 

 無数に重なるスクリーンの様に雨粒が遮る海原の向こう、水平線すらもその輪郭を隠そうとしている悪い視界の中で、彼らは見た。

 

 それは──────光点。

 

 それは──────幾つもの吊り下げた様な光。

 

 そして──────その光が、突如として針にも似て鋭角を帯び味方戦闘機と交錯した刹那──────!

 

 ドン!ドンッ!……生じた火球は連鎖的に広がり、それらは波を打たせた水面の如くに拡大し味方を呑み込んでゆく。彼らの母艦が最期に見た光景が、これであった。そしてそれは、彼らも同じ──────味方が炎と爆煙の中で破片となり四散していく情景を、ただ見ている事しか彼らには許されていない。

 

「………!」

 

 だがそれを容易に受け入れるほど、彼らは己を弱く見積ってはいなかった。存在するのかすら怪しい激情に押しやられるようにして蒼い光芒となった戦意と敵意が「黒」戦闘機の目玉からあふれ、さながら駆け巡る蛍火にも似て暗天を駆け巡った。己を追い詰め、孤立に攻めやったまだ見ぬ敵に、一矢報いんとして彼らは突き進んだ!………その間にも、荒天の見えない向こうから飛来した謎の攻撃──────針か、さもなくば矢──────が、既に10機程までに撃ち減らされた味方を更に一機、また一機と啄んでゆく。

 

 先頭の機が翼をもがれ錐揉みに陥って海面に消えて行った。その後を追う様にして、最右翼の機が正面から突っ込んで来た光弾を喰らい爆散する──────左翼の味方が翼を滑らせ海面に降下し、攻撃を躱そうと機体を振るが、直後に振り下ろされた斧の如くに突入した光がそれを木っ端微塵に破壊した。

 

「───!!」

 

 破壊と混乱の嵐の後に、気付けば空に浮いているのは彼ただ一機となっていた。否──────彼だけではない。振り荒ぶ雨粒の向こう、中空に付けられた黒点が存在した。黒点は見る間に輪郭を帯び始め、次第に鋭角を携えた機影となって彼の眼前に迫ってきた。

 

 その姿を見た瞬間、彼は無い口角を上げたように思えた。彼ら「黒」こと夜猫深海艦戦Ⅱの機動力ならば、格闘戦に持ち込ませれば勝機は存在するはずだった。夜猫深海艦戦Ⅱは、単体性能で言えば艦娘空母の使う烈風に近しいものがあり十分に強力。加えてこれまでの戦闘経験も少なくない以上、ここまで不用意に近付いた的敵に一泡も二泡も吹かせてやるべきであった。

 

 重い雲を背景にした両機の猛烈な接近──────1000mを切り──────互いの機首が明滅する……ヘッドオン!

 

 バンッ!バンパァンッ!と過ぎ去った弾丸が鳴る。空気が弾けるようなそれは、音速を超える物体が手を伸ばせる程の至近を通過した時に出る音で、そしてそれ以下でもそれ以上でもない。至近弾は無いのと同じで、直撃以外に意味は無い!

 

 狂った様に弾丸を吐き続ける彼の眼前に急速に拡大する敵機!鏡写しにも似て互いに機体を滑らせ軸線から逸らし──────その直後、申し合わせたように機体をバンクさせる両機。紙一重で衝突を免れた両機のシルエットは宙空で交わる──────一瞬の交差──────だが互いの機体が直にまで見える距離──────彼は青光の眼を見張る。それはこれまでに遭遇したどの艦娘艦載機とも異なる「異形」。最も近しいシルエットは"あの"震電改に近い様に思われたが、それとで近似の域を出ない。寧ろ、遠いか近いかで言えば「遠い」に分類される。

 

 ドォ………ン!と聞いたことのない爆音が轟いて、両機の交わった後には再び広い空間が生まれた。その空間の輪郭を舐めるようにしてほぼ同時に旋回へ入った両機には、もはや互いの姿と、その決着しか目に入っていないように思われた。

 

 ……少なくとも、彼はそうだったが──────

 

 

 ドカンッ!という音と振動を混じえた衝撃が彼を襲った直後、彼は飛行に必要な全てを失っていた。自らがスピンしていることを認識するのと、敗北を知ったのはほぼ同時………敵機は一機ではなかった?冷静になれば当然のことであった。何故あれほど優勢な敵が、態々生き残った此方との一騎打ちに固執する必要があるのか?それを思った時、彼は出来もしない苦笑いをして、苦し紛れに真白いベロを出した。

 

 彼の成し得る、それが最後の抵抗だった──────彼の背後から射掛けられた光はその主翼に直撃し、遂にこの海域から深海棲艦勢力は一つとして存在しなくなった。

 

 そして舞う者の居なくなった空で、金属音を吐きながら過ぎ去ってゆく勝ち残った物達──────規則的で正しい直線的な編隊を保ったそれらは、狩るべき獲物を失った群狼のように、或いは興味を失った大鷹の様に翼を翻し、戦場を後にする。

 

スプラッシュワン、バンデイッツ。(敵機一機撃墜)

BDAカクニン、(BDA確認)テキカンタイオヨビ(敵艦隊及び)テキコウクウセンリョクヲセンメツ(敵航空戦力を殲滅)。』

 

『了解した。各機燃料をチェックし、艦隊(・・)へ帰投せよ。』




やっぱ戦闘シーンは描いてて生き生きしますね!(技量不足)色々なシーンをイメージしながら上手く描けると達成感で筆を置いてしまいます(本末転倒)

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