戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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DLC LRSSG Briefing Ⅰ
を聞きながらお読み下さい


第Ⅰ章 解き放たれし力 Unleashed force
ブリーフィング


 

 

 

 20XX年

 9月20日 10時00分

 日本国 某所 タワーマンション高層階

 

 

 部屋のパソコンがアラームを鳴らす。時刻は“AM 10:00”。

「やあアリクサ。提出資料の大体は描き終わったよ。」

 パチパチとキーボードを打ち、画面の中のカーソルで“データ.001”と題されたファイルをスライドする。そうするとグラフが表示され、10%、25%、40%・・・と増えてゆく。

『>パーフェクト,』

 ピコン♪という電子音とともにパソコンは“言った”。声の主は彼のパソコン───に搭載されるAI、ALXA(アリクサ)。彼のチャット相手であり、パートナーである。

「だが結論がまだなんだ。」

 カツ、カツ、と爪で机を小突く。結論が出ず悩んでいる時の彼の癖だった・・・そしてこういう時、彼は決まってこう質問する。

「はぁ・・・さて問題だアリクサ。」

 自分の悩みどころを、解決しない部分を、優秀で頼りになる“パートナー”に聞くのである。

「どうすれば彼女(アリコーン)を消さずに済む?」

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 第Ⅰ章 解き放たれし力

 Unleashed force

 

 

 20XX年

 9月20日 11時10分

 日本国 戦略機動打撃艦隊 

 某島鎮守府 

 艦娘寮兼司令部施設 1階

 作戦会議室

 

 10分前に鎮守府内の全艦娘に会議室へ集合するよう通達があった。書類やらなんやらの整理を終え、提督が会議室に来た頃には殆ど全員艦娘が既に詰め掛けていた。

 皆より遅れて会議室に参上した提督を秘書艦の金剛が出迎えた。そして、まだここに来ていない彼女自身の妹の事も聞いた。

「榛名の調子はまだ良くないのデスか?」

「本人はピンピンしてるがまだ入渠中だ。修復材はポンポン使えんしな。」

「ま、そんな所とは思ってマシタ。」

 前回の作戦で被弾した高速戦艦 榛名は入渠ドックにブチ込まれてからまだ暫くで、高速修復材を使わない事には今日に実施されるだろう作戦には間に合わないだろう事は明らかだった。

 ただし、現在は榛名の欠員分を補える艦娘に1人だけ心当たりがあったので、さほどの問題ではない。・・・榛名は拗ねるだろうが。

「君!・・・いつまで待たせるつもりだ。」

 その彼らの前に広がる壇上。そこに置かれたプロジェクターの一角に、見慣れない男が眉を釣り上げて立っていた。

「誰だ?あの偉そうな男は。」

「聞こえるぞ・・・実際偉いんだ。」

 詰まらなさそうに椅子に掛けながら漏らすのは軽巡洋艦 天龍。それを提督が諫めた。

『───接続出来ました。いつでもどうぞ。』

 備え付けのスピーカーから聞こえる男の声。本人はどうやら此処には居ないらしかった。

「はぁ・・・横瀬・ホワードだ。本作戦はわたしが指揮を執る。」

 少し訛りのある日本語で前に立つ男は言った。

「指揮は提督がとられるのではでは無いんですか?」と側にいた戦艦 大和が聞く。

「後で話すさ。」

 カチ、と僅かな音が響く。プロジェクターのスイッチが押され、スクリーンに白一様の画面が映される。

「作戦の目的は敵深海棲艦に鹵獲された核弾頭を奪還する事だ。」

 ホワードが作戦概要を説明し始める。この時になって、提督達は後ろから“ガチャ”とドアが開かれる音を聞いた。アリコーンとマティアス少佐であった。

「遅参、失礼する。」

「今始まったばかりです。ギリギリセーフですよ。」

 言いながら、提督は隣に座るように促した。

「近頃南太平洋沖に出現した2つの火山島の内の1つに、敵深海棲艦群が大規模な陸上施設を築いているのが別の偵察作戦、及び衛星偵察によって確認された。」

 

「あの島・・・デスカ。」

「知っているのか?」

 何やら物憂げに言う金剛にマティアスが尋ねた。

「“別の偵察作戦”ってのをやったのが、今此処にいない榛名が支援のために参加した作戦だったんですよ。彼女の妹です。」

 横から提督がそう言って金剛の頭を撫でた。

「ふむ・・・。」

「・・・。」

 

 プロジェクターが真白から切り替わり、複数の衛星写真と洋上から(恐らく潜水艦によって)撮られたと思しき画像が映し出される。

 巣火鉢状のシルエットを持つ火山島の無骨な岩肌を埋める様に、深海棲艦特有の有機的で気味の悪い構造物が幾つも乱立していた。

「姫または鬼級の深海棲艦も確認された。規模から推定するに、大規模な侵攻前進基地と思われる。」

『問題です。この前進基地が造られてから、何日間?・・・正解は15日。正確には14日と9時間。』

 ホワードの話の切れ間を縫って、スピーカーから男の声が聞こえた。問題です、などと言っておきながらシンキングタイムはやけに少なかった。

「なるほどな。で、あんたはどこのクイズ司会者だ?」

 天龍が相変わらずの口調でそう言った。

北 聖人(きた まさと)。防衛装備庁艦娘戦力評価分析部の分析官です。』

「なぜ此処にいない。」

 天龍がそう言うと、他の面々も「確かに」とでも言いたげな表情を浮かべる。

「その必要がないからだ。」

 男───北 聖人に代わってそう言ったのは、提督だった。彼は続ける。

「彼は彼の仕事場、つまり自宅から出る事なく、君たち艦娘や深海棲艦の分析をする。」

「在宅勤務って事ですか。」

「ま、そう言う事だ。続けてくれ。」

『10日前、この島の近海を哨戒していたアメリカ海軍の原子力潜水艦、バージニア級[ロードアイランド]が行方不明になりました。その後、偶然海底で発見され乗員134名中108名が生還しました。そこで問題です。[ロードアイランド]が沈没した後、大変なことが分かりました。それは何?』

 彼が次に言葉を発するのに2、3秒と無かった。

『正解はロードアイランドに積載されていた核魚雷がなくなっていた事。亡くなった26名の大半は艦首魚雷発射管室を管轄している人達でした。』

「ワーオ。」

「穏やかじゃありませんね。」

 最初にホワードが言っていた「核弾頭の奪還」とはこの事であろう、と誰もが勘付いた。

「その潜水艦から取っ払ったって事か?」

『15度傾いて着底した潜水艦内からね。』

 プロジェクターの写す映像に一枚の画像が追加される。救難にあたったDSRVのカメラが捉えたものだろうか?艦首部分が激しく破壊された葉巻型の潜水艦の画像だ。おそらくこれが、撃沈された原潜ロードアイランドなのだろう。

「連中、核弾頭を奪って何をするつもりだ?核戦争ごっこか?」

『最近の前線後退と、我々側の優勢に関係あるのかもしれません。』

「なるほど。つまり深海棲艦に奪われた核弾頭を破壊してしまえと言う訳ですね。」

 大和が戦艦らしい脳筋なことを言う。46サンチ砲の脳筋は伊達ではない。

「“奪還”だ。これ以上言わせるなよ。」

 ホワードが語尾を強める。どうやら彼にとって───否この作戦は───核弾頭の奪還こそが肝であるようだった。破壊も奪還も、指して変わらないように彼女らは感じたが・・・。

「この核弾頭は対深海棲艦用としても開発された代物だ。少しでもサンプルが多い方が良い、との米海軍の話だ。」

『米軍?』

「諸君らがこれらの奪取に成功すれば、日本としてもアメリカに恩を売るチャンスにもなる。これはその為のサービスだとでも受け取ればよかろう。」

 ふん、と一息吐き、ホワードは腕を組む。アメリカ系日本人である横瀬・ホワードは日本よりもかなり外国に肩入れするタイプの人間で、事この場においてもその性格は如実に現れていた。

 ホワードの言葉の切れをみた提督が前に出る。

「作戦概要は俺が説明する。核弾頭奪還のため、米海軍から揚陸艦2隻と護衛の艦娘2隻が派遣された。」

 プロジェクターの画像がまたもや切り替わり、特徴的なステルスマストを持つドッグ型揚陸艦、サン・アントニオ級輸送揚陸艦が映し出される。艦名は[San Francisco(サン・フランシスコ)]と[Boston(ボストン)]と書いてある。さらにそれらと並んで表示された画像に、彼女たちは見覚えがあった。

「あ、アイオワ。」「フレッチャーか。」「あの子達とは久方振りネ。」「また会えるんだ〜。」

 その画像に各々の反応を見せる。

「君たちの任務は海上優勢の獲得、並びにこの強襲揚陸艦隊の護衛だ。また、この部隊には我が鎮守府からも揚陸艦あきつ丸を派遣する。頼むぞ。」

「おおっ、腕がなるであります!」 

 ブンブンと腕を振り回す、陸軍特殊船丙型 あきつ丸。久々の出撃、それも敵の本丸を叩くとあっては本人(本艦?)のやる気は絶好のようだった。

「時間を掛ければ奴らは逃奔するだろう。艦隊の突入は海上優勢獲得と並行して開始する。」

 そのホワードの言葉に場は騒つく。その中で大和が言った。

「失礼ですが。海上優勢獲得が確証されない海域に、脚の遅い揚陸艦を近づけるのは危険ではありませんか。」

 大和の言う通りで、鈍足、巨大、さらには低武装の強襲揚陸艦というお荷物を抱えながら海上優勢を獲得するというのは大変に困難で、2つの異なる任務を同時にこなさなければならない。下手を打てば、“二兎追うものは一兎をも得ず”となりかねない。

「それを考えるのはお前達の規範外の事だ。」

 にべも無く、ホワードはその意見を一蹴する。大和はといえば、冷ややかな目つきでホワードを睨んだ。そして同じくらい冷たい口調で大和は言い放った。

「なるほど。つまり政治のためなら友軍がどうなっても一向に構いませんと、そういう訳ですか。」

「そこの提督から口の利き方を学ばなかったのか?」

 大和の言い草にホワードも少し頭にきたのか、アゴで提督を指しながら挑発するような物言いをした。艦娘達の表情が剣呑なものへ変わっていくのを感じる。

「・・・本作戦には高速給料艦を投入する。有り体に言えば、“常時キラ付け状態”が可能という訳だ。うまく立ち回ることができれば、相当優位に戦闘を行うことができるだろう。コイツは間宮さんお手製の甘味もあるぞ。」

 艦娘達の興味を逸らそうとした提督の試みははたして成功した。艦娘達・・・特に駆逐艦は“間宮さんお手製の甘味”に興味津々だ。

「ホントに⁉︎」「私出撃したい!」「間宮さん所の甘味、そう言えば最近食べてないわね。」

 提督はプロジェクターを操作し、高速給料艦の概要と甘味を受け取る方法を説明した。海上からドラム缶一杯に詰め込まれた甘味などを放り投げられる、と説明を受けたときは、その扱いの雑さやダイナミックさに驚いたり落胆するものも居れば、珍しいし面白い方法だと面白がる者も居た。

「高速給料艦の到達予定は作戦開始と同時刻となる。」

「出撃は第二艦隊中心の編成だ。」

 割り込む様に言ったホワードに提督は一瞬眉間に皺を寄せる。その一方で、艦娘達の方は様々な反応を見せた。

「Wow!私は留守番デスカー⁉︎」「第一艦隊は出撃しないのか?」

「今回、第一艦隊は鎮守府待機だ。俺は指揮所で准将の指揮を補佐する。」

「作戦の難易度は低い。・・・ふん、主力艦抜きでも問題なかろう。」

 鼻で笑ったホワードを見る目は、大方冷たいものばかりとなっていた。

 

「───それともう一つ、今回の作戦で伝えなければならないことがある。アリコーン、トーレス提督・・・!ここに。」

「え?私?」

「行くぞ。」

 突然呼ばれた事に少し動揺を隠せないでいるアリコーンの手を取り、マティアスは壇上へ踏み入った。壇上に上がるアリコーンを、ホワードは冷めた目付きで眺める。

「彼女は潜水空母アリコーンだ。今作戦では第二艦隊へ特別に編入する事となった。皆、よろしく頼む。」

「おー。」「新しい娘?」「髪の毛綺麗〜。」「横の人誰?」「潜水艦なんだー。201ちゃんより強そう!」

 実はアリコーンはこの鎮守府で建造されてからほとんど人目につかないようにされてきた(また本人も意図せずそうしていた)ので、彼女を初めて見る艦娘の方が多かった。

「……えー、紹介預かったアリコーンですわ。皆さまどうぞよろしくお願い申し上げます。」

 美しい所作で、実にエレガントに、敬礼(お辞儀の方である)をする。

「隣の方は特殊な艦であるアリコーン専属の提督として就いて貰っているマティアス・トーレス少佐だ。アリコーンは基本的に彼の指揮下にある事を留意するように。」

 旗艦となる艦娘が自由意志で命令して動かせる艦娘ではない事を注意せよ、という事である。

「マティアス・トーレスだ。諸君らの厳しい任務は提督から聞いている。アリコーンは諸君らにとって大きな後ろ押しとなるだろう。彼女共々よろしく頼む。」

 会釈程度の角度で頭を下げる。それに続いてアリコーンもぺこりと頭を下げた。

 

「ブリーフィングは終了だ。出撃する艦娘全員、直ちに準備につけ!」

「「「了解!」」」

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 つい先刻まで艦娘達が詰めていた作戦会議室は一斉に艦娘達が出て行ってしまったので急に閑散とし雰囲気になっていた。ホワードと提督も退室し、ここに残っているのはマティアスとアリコーン、あとは2、3人が機材を片付けているだけだった。

「アリコーン。」

「なんでしょうか、艦長?」

 ニタッ、とマティアスは弧を描いた口を傍らの女性に向ける。

「鎮魂だ。準備が出来次第出撃せよ!」

「!」

 アリコーンは、この言葉に目を見開いた。聞き馴染みの深い言葉。それはマティアスのこれ以上無い激励の言葉だった。

「貴様の初陣だ。しっかりやれ。エレガントに、美しくな。」

「はい!」




意外と早く投稿でけた!o(`ω´ )o

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