戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

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思った以上に長くなってしまったので前後編に分けます

Enchanter I
を聴きながらお読み下さい。


天号作戦 Ⅰ (前)

 20XX年

 9月20日 14時54分

 中部太平洋沖合

 

「艦隊、まもなく戦闘作戦海域に突入。対潜、対水上警戒を厳となせ。」「座標を確認…正常。作戦海域に突入を確認。」旗艦より信号、電波管制解除。」『艦隊各艦単縦陣より展開。』「全艦輪形陣へ展開。」「あきつ丸さん、輪形陣の中に入って下さい。」「了解であります!」「各艦へ命令、第1種戦闘配置。」

 

 雲がやや立ち込める中、日米艦隊は無事合流を果たし陣形を整えつつあった。予定通りならば、第三、第四艦隊と合同して作戦海域に突入出来るはずである。

「ボストンより信号!“来援ヲ謝ス、我共ニ作戦ヲ完遂セントス。貴艦ラニ神ノ祝福アラン事ヲネガウ”と。」

「へ!護られる側のくせにデカい口叩くなぁ。」

 揚陸艦ボストンからの信号は米軍なりの誠意ではあったが、それを知っていても今回の作戦の背景故に、あまり好意的に受け入れられない天龍。その彼女を、赤城が諫める。

「まぁ、天龍さん。そう言わないで…間も無く作戦海域ですよ。…大和さん、第一次攻撃隊の発艦準備は完了しています。あとは命令を。」

「では、お願いします。」

 艦隊旗艦 大和は右手を挙げ、サッと降ろした。第一次攻撃隊発艦許可の合図である。

「第一次攻撃隊、発艦始め!」

 キリキリキリ…弓矢を弾き───放つ!

 高速で放たれた矢はバヒュルルル…!と大気を裂く音を奏でながら雲の立罩める空へ飛んで行きやがて見えなくなるが───その瞬間、パッと輝いた。

 

 輝きは炎となり、炎は数多の火の粉を散らした。火の粉は次第に逆ガル翼を伴った特徴的な機体の輪郭を纏い、次には濃緑色の機影となって顕現する。艦上攻撃機 B7A3 流星改…!それこそがこの濃緑色の機体を示す機種と名前である。洗練された機体形状と強力な2,000馬力級エンジンは、流星改に余裕ある頑丈な機体を齎し、更には卓越した機動力と攻撃機としては優れた速度性能を有している。

 

 その流星改隊の後方を突き抜けて行く数本の矢───赤城が流星改を発艦させた時よりも大きな角度を持って放たれたそれらの矢も、1本の例外なく炎となりそこから撒き散らす火の粉は機体を形作る。それは激しい風という意をその名に冠する戦闘機、A7M2 烈風11型───2,000馬力級の大出力エンジンで、攻撃機たる流星改に迫る大柄な機体と、高揚力を生み出す広大な主翼を振り回すそれは正に怪鳥。そして主翼に計4丁備えた20ミリ機銃は抜群の破壊力を誇り、一撃離脱戦闘機としても巴戦を行う格闘戦闘機としても高い完成度を誇る高性能大型戦闘機であった。

 また対艦攻撃支援のために、翼下に1番噴進弾を数発懸吊している。これは初速が速いために限定的に対空戦闘にも使用可能で、時限信管弾頭を備えている故長距離から敵機編隊を撹乱したり奇襲効果を発揮するにはもってこいの装備であった。

 

 それら高性能機によって編成される攻撃隊の陣容は以下の通りである。

 

 第一次攻撃隊

 直掩・護衛戦闘機隊 烈風11型 22機(5個小隊+半個小隊)

 攻撃機隊 流星改(流星23型) 20機(5個小隊)

 戦爆連合計42機

 

 これは、総艦載機数約90機程度である正規空母 赤城の出し得る最大限の出撃数であった。第一次攻撃隊は直ぐに迂回上昇すると、高度1000メートルもない低い雲間に隠れていき、やがて見えなくなった。

 更にはこれら第一次攻撃隊に呼応する形で第二艦隊の突入とは別方向より、第三艦隊は軽空母 隼鷹と第四艦隊の正規空母翔鶴、瑞鶴より総計100機以上の第二次攻撃隊が波状攻撃を仕掛ける事となっている。

 

 作戦開始時刻14時55分。一斉通信により全艦の通信回路を同一の命令が走った。

『前進だ。準備が出来次第、攻撃せよ!』

 

 

 

 OSARU production PRESENTS

 

 

 USN遠征群 JMSDF戦略遠征戦闘群第二艦隊

 

 [San Francisco(サン・フランシスコ)] [Boston(ボストン)] Iowa(アイオワ) Fletcher(フレッチャー) アリコーン 大和 赤城 天龍 夕立 雷 夕雲

 

 

 

「よっしゃ行くぜ!」

「派手にやってあげるっぽい!」

 第二艦隊の水雷戦隊旗艦を務める天龍は瞬く間に最大戦速である35ノットに増速し、大和ら主力艦群や強襲揚陸艦隊を追い越し、艦隊の最前部に躍り出る。隷下に従える夕立、雷、夕雲も天龍に同行し、雷撃戦の構えだ。

『了解した。…くそっ!』

 国連の軍事用回線で他には秘匿された通信で入ってきた提督の声は、明らかに焦っていた。何が起きたのだろうか?

「どうした?」

 反射的に先頭を行く天龍が聞いた。

『高速給料艦を含む、味方艦隊の到着が30分遅れている!』

「なんだと⁉︎」「どう言うこと…?」

 

『撤退し友軍の到着を待て!』

『撤退は許さん。海上優勢を獲得しろ。』

「「「⁉︎」」」

 提督の言葉を遮って入った横瀬准将の言葉に一同は驚愕する。今作戦の要は第二、第三、第四艦隊の同じた方向からの突入にある。

 

 別個に、それも時間を空けた突入では一つ一つの戦力が足りず、最悪押し潰されて全滅という可能性すらありうる。

 この横瀬とかいう男は、それを承知で、本気で我々に戦闘を開始せよと言っているのか…⁉︎

「どうしますか大和さん…?」

「…。」

 赤城が艦隊旗艦である大和に言う。苦い顔をした大和は、やはり悩んでいる様だった。

 くそ!艦娘をなめるな!…と血気の多い天龍は叫んでやりたくなる衝動に駆られたが、その糞准将の側には提督がいる。おそらく、待機となった第一艦隊の面々も作戦の様相を見守っているのに違いない…醜態は晒せなかった。

 他の艦娘達も、だいたい似た様な面持ちだった。

 作戦中にも関わらず良い雰囲気ではない。しかしそれを打ち破る一報は、間も無く入って来た。

 

 トトトトトトトト……!

 

 ト連送は航空隊の放つ『全軍突撃』の合図であった。

 目を凝らせば、雲間から飛び出たゴマの粒にも満たない小さな点が敵艦隊の真上で乱舞している…第一次攻撃隊だ!

 その下では、既に黒いキノコ雲が上がっている。

「ハハッ!攻撃隊がおっぱじめやがった!」

「よし、やりますよ。全艦続け!」

 一次攻撃隊に触発される様に艦娘達の顔に活気が戻る。やってやる!と言わんばかりである。

『よし、全艦状況開始!交戦せよ!』

 全員が一挙に船足を強め、揚陸艦隊の前面に出る。先鋒に水雷戦隊、それを強力な砲煩兵器で支援する戦艦隊、そして最後の守りである揚陸艦隊直掩、という構えだ。

 艦隊に近づく深海棲艦群は戦艦4、巡洋艦2以下10隻程度の艦隊群であった。この程度の数の敵であれば、直ぐにでも蹴散らせる…!

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 同

 深海棲艦群 空母機動部隊 上空

 

 

 それ(・・)は、深海棲艦にとって晴天の霹靂であった。

 見晴らしのよい一面の海上、と油断していたのかもしれない。艦娘達の被発見を避けるためにレーダーを稼働せずにいたのが完全に裏目のなったのだ。

 空に立ち込める雲の、その切れ間から逆落としに急降下してきた濃緑色の機体の腹の中には、800kg徹甲爆弾が搭載されている。どんな敵艦でも一撃で打ち抜けるほどの貫徹力を誇る対艦徹甲爆弾である。

 深海棲艦が急降下爆撃を仕掛けて来る流星改隊の存在に気付いたその時は既に遅すぎ、流星改隊が爆撃を敢行するには十分すぎる時間だった。

 ドン!ドン!ドン!上空に打ち上げられ始めた対空砲弾が炸裂するが、いずれもまだ疎らで有効な弾幕とはなり得ない。だがその間にも流星改隊は一挙に間合いを詰める…既に最高速度の時速567kmはとうに超え、加えて重力加速によってさらに加速し、じつに時速700km以上のハイスピードで深海棲艦群に向かって急降下していた。狙いは、その中の空母4隻!陣容は軽空母ヌ級、正規空母ヲ級各2隻。最も近傍にいて、かつ戦闘準備を整えているらしい空母群である。空母ヲ級の帽子を思わせる気色悪い頭部の構造体から戦闘機が発艦するのを攻撃隊は見た…だがこちらの制空戦闘機隊でいる烈風22機に比べればモノの数では無い。脅威とはなり得ないだろう。

 攻撃を決断する。20機の流星改隊は4手に分かれ、空母1隻につき1個小隊4機が攻撃を仕掛けていた。残りの4機は攻撃予備機である。

 

 第一次攻撃隊は目標とする敵空母群を発見するや否やそのほぼ直上から、高度5000mより逆落としに急降下!ダイブブレーキを使いゆっくりと加速し機体を安定させるがそれでも時速は今や800km近くに迫り、操縦桿はガクガクと震える。爆撃照準器の中で今更ながらに始動した深海棲艦の空母がのっそりと回避行動を取ろうしている───だがもはや遅い。既に高度は3000mを切っている。高度2700…2500…2200…2000を切った!対空砲火は苛烈さを増し、ついには機関銃と思しき曳光弾までもが雨霰と打ち上げられて来る。脅威というほどの精度では無いが、1秒を数える毎に密度は増し、搭乗員にストレスを与えた。外版が機関銃弾を弾き、バンッバンッ!と鈍い金属音を立て始める。その度に冷や汗が噴き出し、奥歯がガタガタと震える。

 高度1500…1200…まだだ!

 高度1000mを切る───投下には絶好の位置!

「テー!」

 投弾!十分な加速を与えられた800kg徹甲爆弾はほとんど直線に深海棲艦空母へと落下していく。流星改隊は投弾が終わると同時に機首を翻し、対空砲火を嫌ってすぐさま上昇して離脱する。

 高高度から慣行する水平爆撃と比して貫徹力という意味では急降下爆撃は不利であったが、それでも突入速度は時速800kmを超え、さらには重量800kgの徹甲爆弾である。空母相手にも十分な破壊効果を発揮してくれるはずだった。

 そしてその瞬間は来る───閃光!

 次の瞬間に起きた大規模な爆発は、眼下にある敵空母が完全にその機能を損失した事をありありと示していた。うち2隻は黒煙を撒き散らすどころか誘爆を始めているらしかった。時折、黒煙を切り裂く紅蓮の炎が立ち上がりその度に爆発を繰り返す。既に傾斜が始まっているのか、まともに航行出来ていない。残りの2隻も無事では無く、発艦システムは完全に破壊され、大破、良くても中破相当の損害を受けているのは明らかだった。

『軽空母ヌ級、正規空母ヲ級各2隻撃破確実!』

 大戦果を無線機で全部隊に知らせる。これで暫く、深海棲艦は他の空母の艦載機が上がるまでエアカバーは完全にゼロとなるだろう。停泊している空母からの発艦は不可能だ。向こう十数分は敵は航空機を上げられまい。

 

 だが安心はまだ早かった。黒煙を上げる敵空母群の周囲から、ゴマの実の様な点々が急速に上昇してくるのが見える…敵戦闘機!母艦の仇と言わんばかりに、爆撃直前に発艦を終えた20機余りの深海棲艦戦闘機が攻撃を終えた流星改隊に襲い掛かろうとしているのである!

 しかしその敵討ちは遂に叶うことはなかった。太陽を背に突然現れた20機の烈風11型が完全に優位な高度から奇襲を仕掛けたのだ!深海棲艦戦闘機の射線に入らない、それよりも上の角度から射撃を行った。一方的攻撃───1機あたり4丁、20機計80丁にもなる弾幕のシャワーが深海棲艦戦闘機の機体を穿つ。射撃の時間そのものはほんの一瞬───だがその一瞬が1秒を争う戦闘機戦では命取りとなる。穿かれた穴は急速に増大した空気抵抗によって拡大し、次々に外板が吹き飛ばされてゆく。やがて機体は限界を迎え…空中分解した。

 またある機体は燃料にでも引火したのか、空中でオレンジ色の花を咲かせ爆砕する。更にそこかしこで黒煙を上げバラバラになりながら堕ちる深海棲艦戦闘機…僅か数秒に満たない交錯の中で深海棲艦戦闘機が被った損害は甚大であり、且つ最早この段階に来て巻き返す事は不可能であった。

 一撃離脱を終えた烈風11型はその広大な主翼と自動空戦フラップを持ち合わせた高機動にモノを言わせ急速に機首を上げ、大馬力エンジンによって強引に速度を上げる。初撃によって深海棲艦戦闘機の数は半部近くにまで撃ち減らされていた。そこに主翼下に懸吊されている噴進弾が文字通り一斉に火を吹く。噴煙もそのままに深海棲艦戦闘機隊に突進した噴進弾は時限信管によって炸裂。まだ無事だった編隊をバラバラに引き裂いてフォーメーションを崩し、更に2、3機が被弾し撃墜される。

 奇襲を受けバラバラになり連携をとる事すらままならない敵戦闘機に対して、機体性能、数、そして操縦技量の全てにおいて優位に立つ烈風11型の編隊は寄ってたかって瞬く間に残存する深海棲艦戦闘機隊を全滅させてしまった。

 空に彼らの脅威となるものは最早いない。結局、流星改4個小隊の働き振りが余りにも良すぎたが為に爆弾を腹に抱えたままの流星改1個小隊は所定の通り第二目標を攻撃する為に6機の烈風11型に護衛されながら別方向へ飛んで行った。残りの第一次攻撃隊36機は母艦の赤城に向け帰投して行く。

 

 第一次攻撃隊による一番槍の戦果は、予想を遥かに上回る華々しいものとなった。

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 同 15時00分

 

 日本国 戦略機動打撃艦隊 

 某島鎮守府 

 艦娘寮兼司令部施設 地下1階

 統括作戦指揮室

 

 地下の作戦室には数面のモニターがあり、艦娘達の戦闘行動は衛星や他中継施設を介して逐一伝達されている。

 その中から入った報告に、指揮室はワッと熱を帯びた。

『敵空母4隻撃破確実!内2隻ハ撃沈確実ト認ム!』

 予想を遥かに上回る大戦果だ。

 第一次攻撃隊の戦果は望外と言ってよく、たった一杯の正規空母で4隻の敵空母群を丸々1個撃破せしめたのだ。これを大戦果をと言わずして何とするのか?

「……。」

 しかし、この指揮室に居座る責任ある者にはその大戦果を喜ぶ様な素振りも、またそんな空気も無かった。むしろ、鉛のように重たい空気を漂わせている───それは艦娘達の行動に対して責任を持つ人間である提督と、艦娘である金剛であった。

 因みに金剛は第一艦隊旗艦として、誤解を恐れず言うのであれば言わば艦娘達の代表の様な形で此処にいた。

「准将、作戦時間の変更を我々に知らせませんでしたね…。」

「ふん。30分程度耐えられずに、何が精鋭艦隊か。」

「…ッ!」

 咄嗟に提督が金剛の肩を抱く。そうでもしない事には、隣に居る女性(・・)は今にも准将に食って掛かりそうであったからだ。金剛の目は、さながら燃焼炉の如き烈火の怒気に支配されていた。一方で、それを抑える提督の目も決して穏やかという訳では無かった。むしろ荒れ狂う波の様に心中から湧き出る衝動を押さえ付けている様でもあった。

「艦隊責任者は自分です。それを通告しないとは───」

「作戦責任者はわたしだ。不手際は確かにあったが、無論作戦中はわたしの指示に従ってもらう。」

「…。」

 提督は准将を横目で睨め付ける。

「テートク…私やっぱりあの人嫌いデス…。」

 ぼそっ、と耳元で金剛が呟く。

「言うな、分かってる。」

 榛名の件もあって、金剛が横瀬准将に好印象を持てっいるわけが無いというのは提督とて聞かずとも解ってはいたが、こうして口にする程とは…。金剛の頭を撫で、宥める。

 その光景を見た横瀬准将は、まるで汚物でも見るかの様な厭わしい目でそれを睨み、これ見よがしに「チッ」と舌打ちした。

 提督と准将、2人の間に剣呑な雰囲気が立ち込める。この密室に詰めている他のオペレーターにとってみれば迷惑この上無い話である。

「…あっ、戦艦アイオワ、大和、敵前衛戦艦群と会敵します!」

 あまりの空気の悪さを打ち破るようにオペレーターがわざと大きな声で報告する。モニター上の友軍を示す2つの青の輝点は、敵を示す4つの赤の輝点と対峙していた。

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 同 15時03分

 中部太平洋沖合

 

 高速戦艦 Iowa(アイオワ)は艦隊のかなり前方を航行していた。

 その彼女に、大和が声を掛けた。

「アイオワさん!」

「…?oh!ヤマト!」

 懐かしい戦友にアイオワはもとより星のある目をより輝かせた。かつて別の戦線で共に敵へ砲門を向けた仲である。

「どうです久し振りに…一緒に撃ちませんか?」

「イイね、ソレ!NICE idea!」

 すぐさまアイオワと大和は縦陣をとる。とはいえ、たった2隻で且つ後方から大和がアイオワを追従している状態であったので、特に時間はかかる事はなかった。

 

 ちなみに、アイオワが33ノット発揮可能な高速戦艦であるのに対して大和は最大27ノット程度しか発揮できないのに追従出来ているのは、単純にアイオワの巡航速度が大和と大差が無いからである。アイオワ級の細長い船体───艦娘アイオワは随分とグラマラスであるが───は高速を発揮するにはもってこいではあったが、さしものアイオワ級とて33ノットを常に発揮して戦闘を行うわけではない。よって、いくら高速戦艦たるアイオワであっても、交戦時の航行速度は20ノット強である。

 

「スイヘイセンジョウニマスト!1、2、3、4、イズレモセンカン──ッ‼︎」「テキカンハ、コウソクセンカン“タ”キュウ!」

「!」

 大和は見張り員妖精さんの指示した方向に目を凝らす。水平線上に浮かぶいくつかの点…それらは明らかに異形であり、その事実は目標が深海棲艦である事を示していた。

「とぉりかぁじ、一杯!主砲、右砲戦用意ーっ‼︎」「Hard to port!(取舵いっぱい!)

 高速戦艦タ級4隻相手するには、戦艦2隻というのはやや心許ないように思えるが、当の彼女達といえば「相手にとって不足なし」とは思っていても心許無いなどと言う事は微塵も思っていなかった。

「む。」

 大和とアイオワが回頭し終わった時、大和は勝利を確信していた。敵は単縦陣であり、それに対してこちらは理想的な丁字戦を展開出来るはずだと思ったからだ…さながら、かつての日本海海戦の如くに。

 しかしその思惑は脆くも崩れ去る。敵戦艦隊は単縦陣を解き、素早く単横陣で応じてきたのだ。こうなると大和とアイオワはやや不利である。単横陣の敵は前方の主砲しか使えない代わりに投影面積が低く、艦の側面を向けているよりも被弾確率が減るのである───というのは実際の軍艦(・・・・・)の話で、艦娘である彼女らには然程関係無かった。何故なら前だろうが横だろうが基本が人型である彼女達の投影面積は余り変わりがないからである。

 一方でやはり人型である艦娘や人型を模した深海棲艦は主砲の射界が広く取れることもあって、側面も前方も火力投射能力に差がない。結局、大和とアイオワが不利なのは変わらなかった。

 単横陣の戦艦隊を先頭に、単縦陣で敵の水雷戦隊が後続する形だ。敵の水雷戦隊は、期を見てこちらに雷撃戦を挑んでくるのに違いない。

「弾種徹甲、目標敵1番艦!」「OK〜!」

 大和の主砲塔に一式徹甲弾が、アイオワの主砲には超重量徹甲弾(Super Heavy Shell)(スーパー・ヘビー・シェル)であるAP Mk.8が装填される。それぞれ、艦艇用徹甲弾としてはある意味頂点に達した砲弾である。

 敵1番艦は向かって最左翼にいる敵戦艦だ。 

 大和とアイオワは統制射撃を試みた。当然データリンクなど存在しないし、指揮系統や射撃手順も異なる大和とアイオワだが、ここは艦娘。共に息を合わせてやるだけで統制射撃は成る。それが艦娘の強みでもある。

「テキカンタイ、キョリ20,000ヲキッタ!」「デンタンカンソクニヨレバキョリハ19,500。」

「Enemyは21,000ydのレンジね〜。」

 アイオワも大体同じ程度の距離を算出していた。

「ヤマトサン、カンソクキ、アゲル?」

 大和の後部甲板で零式水上観測機の整備をしている妖精さんが聞く。砲戦時に弾着観測用の観測機を上げるのは海戦の常套手段であるが───今回は首を横に振った。

「いえ、大丈夫ですよ。」

 観測機が無くとも命中弾を出す自信がある───と言うわけではなかった。深海棲艦の空母4隻は機能不全に陥ったものの未だに健在な母艦は複数存在し、時間が経てば立つほど敵空母艦載機の脅威が大きくなる。更には深海棲艦側の陸上基地の航空部隊が健在で、いかに機動力のある零式水上観測機であってもあまりにも危険であるからだ。

「ワカリマシタ!」

 ぴしっ、と短い手足で可愛らしく敬礼をした妖精さんはせっせと格納庫に零観をしまってゆく。

「ギョウカクアワセー!」「ゼンヨウセイタキヒカンリョウ!」「シャゲキジュンビヨーイヨシ!」

 コクリ、と頷きアイオワを見やる。ニヤッとアイオワは微笑み、それに大和も口角を上げて応えた。

「撃ちー方はじめッ‼︎」「Fire‼︎」

 

 ドドォォンッッ‼︎‼︎ドォンッ‼︎

 ゴゴゴォォッッ‼︎‼︎‼︎

 

 戦海を揺るがす轟音!3連装主砲塔を備える大和は交互撃ち方により左右砲と中央砲の射撃タイミングをずらす砲撃をし、一方で水上射撃では斉射が基本のアメリカ戦艦であるアイオワはやはり初弾から斉射を行った。

 計18発の大質量砲弾は大きな放物線を描き、単横陣の最左翼を航行する戦艦タ級に降り注いだ。

「───⁉︎」

 深海棲艦戦艦隊は2隻の砲撃に驚いていた。或は、有効な射撃精度の得られる距離ではない上に、数の利は我が方に有りという油断があったのやもしれない。

 そして───「ダンチャーク、イマ!」

 着弾!敵タ級の周囲に巨大な水柱が乱立し、さながら大瀑布が空に昇ってゆくかの様にすら見えた。敵戦艦が我が方の砲弾により水柱に包まれるのは眺めていて実に気分が良いが、これは眺めるのが仕事では無い。砲弾をぶち当て、敵を破壊しなければならないのだ。

 肝心の命中弾は───

「メイチュウダンミトメラレズ!」

 敵艦のやや手前に赤い水柱が立っている。大和の使用する染色弾で、弾着を補正するのに役立つが、つまるところ大和の砲弾は命中していない。アイオワも頬を膨らませてつまらなさそうな顔をしている。

 しかし、アイオワは自らの妖精さんの報告を受け、ぱっと顔色を変える。大和に振り向いて笑顔を見せた。

 そして大和も、間も無くその理由を知る事となる。

「キョウサ!キョウサ!」

「!」

 夾叉とは、砲撃が命中していなくとも砲弾が目標の前後を取り囲むように弾着する事であり、これは照準が正しい事を意味する。当たらなかっなのは、単純に運の問題である。

「第二射用意!次発からは斉射!」

 ゴロゴロ、と弾薬庫から1トンを優に超える砲弾が揚弾筒により砲室に運ばれ、それとは別に発射薬である“薬嚢”がドラム缶の如き様相を持つ火薬缶から取り出され、揚薬筒によってやはり砲室に運ばれる。搬入された砲弾と薬嚢はすぐさま人力(妖精さん力?)により装填され、尾栓を締められる。

 この一連の作業は大和においては凡そ40秒、アイオワは30秒で完了するとされる。しかしそれはあくまでもカタログ値であって、常にそのスピードが維持される訳はなく、こと戦闘時にあっては殆どアテとならない。大和もアイオワも、凡そ1分で発射から装填のサイクルを繰り返す。

「斉射!撃ェーッ!!」「Salvo‼︎」

 

 ドドドォォオォォ…‼︎衝撃波は扇状に広がり海面を白と青のコントラストで彩った。世界最強級の艦砲18門による砲煙が晴れた時──────不意に聞こえた滑空音…それも複数!

「「!」」

 空を劈く高音の到来は、彼女たちに本能的なまでの迅速さで防御姿勢を取らせる───次の瞬間!

 

 ドドドドッズバァァァァンッッ‼︎‼︎

 

「おおっ…⁉︎」「Wow⁉︎」

 4隻32門の同時着弾!数十mを優に超える無数の水柱の出現は海を荒らし、大和とアイオワの姿勢を崩した。

 降り注ぐ水飛沫が髪を塗らし、雨のように降り注ぐ海水によって熱せられた砲身はジュワジュワと蒸気を上げる。煩わしさに大和は眉間に皺を寄せる。

 そして水煙が晴れ、水平線が表になった瞬間───パッ!と水平線の一角が瞬いた。…それは紛れもなく敵戦艦の断末魔の閃光であった。タ級の装甲は高角度から飛来した1トンを優に超える大重量砲弾の落着に耐える事は叶わなかったのである。

 主砲塔の天蓋装甲を貫通した徹甲弾はそのまま砲塔内で炸裂、頃合いよく砲塔内に揚弾されていた2発の16inch砲弾に誘爆!ビックリ箱宜しく砲塔が吹き飛びんだ。さらに運の悪い事に砲弾と薬嚢を砲塔に運び上げるための扉は開け放たれたままであった。砲塔から流れ込んだ爆風は弾薬庫にまで達し、全てを終わらせる最後の爆轟が起きたのである。

「敵戦艦1隻撃沈!」「yay‼︎」

 送れて、ドーーン…!という腹に響く爆発音が響いた。黒煙が横陣を敷く敵艦隊を含めて海域全体を覆い隠す。敵戦艦の撃沈は喜ばしいが、これでは敵を狙う事など不可能である。風向きが変わったか───大和は最左翼の敵艦を狙っておけば良かったと今更ながらに思った。

 しかし───

「あ!」

 その黒煙に向かって突っ込んでゆく影を彼女は見た。それは、天龍の率いる水雷戦隊───!

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 同  15時09分

 

 

 天龍が先陣を切る水雷戦隊は、4隻“いた”敵戦艦隊の側面に陣取っていたが、敵が単横陣に陣形を変更した為に攻撃機会を窺っていた。しかし敵戦艦爆沈によって生じた黒煙が煙幕の役割を果たし、戦艦同士の砲撃戦は一旦休幕となった。

 深海棲艦戦艦群は残りの3隻で単縦陣を組み直し、早急に大和、アイオワ両戦艦との距離を詰めて数の優位がある内に短時間で決着を付ける腹づもりであるようだった。

 それに対して天龍以下の水雷戦隊はその目論見を阻害すべく雷撃戦を敢行しようとしていた。

「おらァ行くぜ行くぜ!!!!」

 刀を振り上げ、陸軍の銃剣突撃さながらに海上を疾駆する天龍らの前に、巨大な水柱が行手を阻む。

「おお⁉︎」

 敵戦艦隊の後方───単縦陣を崩さない敵の水雷戦隊の砲撃だった。巡洋艦2隻、駆逐艦4隻の戦隊…一方で此方は巡洋艦は天龍のみ、駆逐艦も3隻と数において不利感は否めなかったが───天龍の口角が上がった。

「しゃらくせぇ…!蹴散らしてやれ!主砲撃ち方はじめ‼︎」

 天龍が従える夕立、雷、夕雲の3隻は水上砲戦に優れた威力を発揮する50口径12.7cm砲を装備しており、彼女達の練度と合わされば多少の数の不利などどうと言う事はなかった。

 ドンッ!…駆逐艦同士の砲撃戦が開始された。豆鉄砲同士ではあるが、艦娘側駆逐艦の方が精度が高い。3隻で1隻を集中砲火を浴びせ、早くも1隻を血祭りにあげている。

 一方で天龍は主砲を乱射しながら単身敵艦隊に突っ込んでゆく。それを「差し違え覚悟の特攻」と見た深海棲艦巡洋艦は2隻がかりで天龍に砲撃を集中させた。当然ながら天龍はそんなつもりはなく、むしろ2隻を一方的に叩きのめすつもりでいた。

 敵巡洋艦はホ級とヘ級が各1隻。脅威ではあるが、恐れる相手ではない。

 主砲4門の狙いは正面の軽巡ホ級。ドンッドン!と正面に砲撃を叩きつける。巡洋艦として消して威力が優れているとは言えない14cm砲だが相手も所詮は軽巡洋艦。天龍の的確な砲撃によってロクな反撃もままならず、砲塔を吹き飛ばされその戦力の過半を損失してしまう。軽巡ヘ級も僚艦がボコボコにされるのを黙って眺めていた訳ではない。右腕の艤装から砲撃を乱発し、複数の砲塔が砲弾を大量に送り出す。

「ンなナマクラ当たるか!」

 軽やかに身を翻し砲撃を避け、或いは自分に向かってくる砲弾を刀を斜に構えて避弾経始の要領であらぬ方向に吹き飛ばす。

 その間にも天龍の主砲は砲撃を繰り返し、遂に限界を迎えたホ級は大傾斜を初める…瞬間!

 

 ズドォォオォーーンッ‼︎‼︎

 

 巨大な火柱を上げてホ級は爆沈する。

 その光景を見て天龍はほくそ笑んだ。ホ級から流れ出た黒煙が煙幕の様に天龍とヘ級の姿を覆い隠す。黒煙に視界を遮られたヘ級は天龍が居るであろう方向に向かって砲撃を繰り返すが…手応えは無い。命中しているのか、そうで無いのか。それすら判断つきかねた。

「……!」

 殺気───⁉︎

 反射的に右手の艤装を構えた!黒煙が裂け、光沢が一線を描いて迫る───‼︎

 ガッチィィッ‼︎金属音がこだまし、その正体が露わとなる…巨大な刃渡りの刀。それがヘ級の艤装を破断せんとばかりに半分以上斬り込んでいたのである。

 刀の主である天龍は不敵な笑みを浮かべながら、刺すような目付きでヘ級を見下ろしていた。

「!」

 目前に構えられた砲身───!

 ゼロ距離での射撃!所詮軽巡でしか無いヘ級にとってその威力は過剰なものだった。半身は完全に吹き飛ばされ、艤装と右腕だけが残った。

「ぽ〜い!天龍さ〜ん。」

「ん!片付いたか。」

 煤で化粧をした駆逐艦3隻がススーッと寄ってきた。全員、損害は無いようだ。

「よーしいくぜ!魚雷戦、用意!」

 再び増速し、天龍達は魚雷発射管を構える。敵水雷戦隊との戦闘の影響で敵戦艦群の真横から投射する事は叶わないが、10ノット以上も優速な天龍達は可能な限り優位な位置から雷撃する事は出来た。

「撃てっ!」

 回頭しざまの雷撃!4隻から放たれた魚雷の総数は30本近くにもなる。扇状に投射されたそれは、単縦陣を敷いている敵に対しては効果は絶大である。戦域に未だ燻っている黒煙が目隠しの役割を果たし、今更ながらに砲撃を始めた敵戦艦の副砲、主砲の集団率も悪い。

 天龍以下の水雷戦隊は深海棲艦水雷戦隊の撃破と敵戦艦群への魚雷の投射という役割を完遂し、日米合同艦隊に合流する進路をとった。

 

 

 

 〜〜〜〜〜

 

 同  15時13分

 

「…………暇、ですわね。」

「そうですね。」

 戦闘開始から25分、戦闘は我が方優勢に進みつつあった。特に最初の第一次攻撃隊による敵空母撃滅はかなり効いている。

 接近していた敵戦艦隊は大和とアイオワが塞き止めており、その後方から迫りつつあった敵水雷戦隊は天龍率いる水雷戦隊によって殲滅された。

 潜水艦である故に雷撃戦にも砲撃戦にも加わらせてもらえなかったアリコーンと、艦隊の直援艦として最後の守を任された駆逐艦フレッチャーは暇をもて余している。

 潜水艦も近くに潜んではいないし、もしかしたら第三、第四艦隊の合流を待たなくとも揚陸艦隊を護りきれるのではないか?

 否。流石にそれはあるまい。現在我が方優勢に事を進められているのは、ひとえに奇襲効果があってこそだ。時間が経てばたつほど敵は態勢を立て直し、反撃に打って出てくるのに違いなかった。

 しかしそんな考えも現下の優勢を見てしまっては霧散しそうになる。

「敵戦艦1隻撃沈確認!」

 前方を見ると、敵戦艦タ級の1隻が黒煙と爆炎を上げ大傾斜していた。天龍達の放った魚雷が敵戦艦隊を串刺しにしたのだ。

 3本の魚雷を喰らったタ級はすでに沈降しており、残りの2隻も無傷で済んではいなかった。黒煙を撒き散らし速度を落としている…そしてその2隻のタ級の命運も間も無く尽きようとしている。

 何故ならその近傍にはほぼ無傷の最強戦艦大和とアイオワが立ち塞がっているからだ。

「……。」

 アリコーンは時刻を確認する。最初の提督の発言から察するに、第三、第四艦隊が合流してくるのはあと10分切った。このまま第1艦隊のみで切り抜けられるとは露ほどにも思っていないが、少なくともあと10分程度なら耐えられる筈であろう。

 ………“アレ”を凌げば───。

 

『敵基地及び空母群より攻撃機来襲!敵は戦爆連合200機!』『敵艦隊主力が行動開始。数が多い!交戦するなら用心しろ!』

 遂に態勢を立て直した敵艦隊の一部が此方を踏み潰しにかかってきたのである。水上戦力だけで50隻近い。敵の攻撃機の数が少ないのは、恐らく第一次攻撃隊の攻撃予備機が空母か基地を攻撃してくれたおかげだろう。それでも此方の倍以上であるが…。

「対空戦闘用意、Mk35装填!」

 Mk35砲弾とはVT信管と呼ばれる電波式近接信管を装備した対空砲弾で、照準さえ間違ってなければ殆ど必ず敵機を破壊できる、非常に有効な対空砲弾である。フレッチャー級はこの対空砲弾のほか複数の対数機銃、対空機関砲によって有力な防空火網を展開することができた。

 一方でアリコーンはというと、憮然とした表情のまま仁王立ちして航行している。

「ミス・アリコーン?敵機が来ますよ。」

「えぇ。分かっています、大丈夫ですよ。 」

 “分かっています”という割には何にもしてない様にフレッチャーには映ったが、本人が“大丈夫”と言うならそれ以上何か言う事はなかった。

 その時、バヒュルルル……!と大気を切り裂く飛翔音がアリコーン達の上空を通過した。音を発した数本の矢は炎となり、次には散った火の粉が戦闘機となって現れる。赤城が第一次攻撃隊の直掩機も併せて緊急発進させた迎撃機隊であった。

 とはいえその総数は40機程度でしかなく、200機以上を数える敵攻撃隊を前にしては焼石に水であろう事は、誰にでも予想がついた。

 

 いよいよ、雲行きが怪しくなってきたのである。




精神状態が良く無いです。
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