戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

8 / 52
相変わらず想像の倍以上長くなりました
Enchanter I
を聴きながらお読み下さい。


天号作戦 Ⅰ(後)

 20XX年

 9月20日 15時14分

 中部太平洋沖合

 上空5,000m

 

 数百もの群体が意思を持った生物の様に複雑に動きながら空を舞っていた。深海棲艦の戦爆雷連合200機以上もの航空機群は接近中の艦娘艦隊に向かって殺到する。その攻撃隊を見下ろす濃緑色の影──────。

 烈風11型40機あまりの編隊は銃弾のみ満タンに補充し、燃料は半分程度しか搭載しなかったために機体が軽く、いち早く優位な高度を位置取ることができていた。

 フワッと木の葉の様に軽やかに機体を翻すや、急降下を仕掛けて襲撃する。

 深海悽艦戦闘機は烈風11型の一撃離脱攻撃に気付き、散開しこれを回避しようとしたが、それを実行するには編隊は密集し過ぎ、そして烈風11型の速度は速すぎた。

 

 グォーーンッ!40機あまりの襲撃は敵攻撃機隊を掻き乱し、一度は護衛戦闘機隊と攻撃機隊を引き剥がすことに成功した。最初の一撃離脱を躱し損ねた10機程度が、煙を吐いて、はたまた炎に包まれ爆散するが、そんな物はお構い無いとばかりに、攻撃機編隊は進撃を続ける。その数はあまりに多い。120機余りの攻撃機の進攻を阻止するには40機に満た無い烈風11型はあまりに数が少なく、また敵の戦闘機も数が多すぎた。

 体制を立て直した約80機の敵戦闘機隊が烈風11型の編隊に襲いかかる。2対1の状況で烈風11型の編隊は敵攻撃機の対処が不可能になってしまう。巧みなコンビネーションと優れた技量で数の暴力に対抗するが、足りない。敵戦闘機隊との空戦を強制され、100機を超える敵攻撃機編隊は妨害を受けないまま攻撃目標たる強襲揚陸艦隊へ進攻してゆく。

 しかしその攻撃隊の前には、最後の壁が立ち塞がっていた。

『タノムゾ!』

 

『マカセロ─』

 パッと太陽の中で何かが光る。陽光を背に迫る影───紅い機体!

 交差っ!紅色に塗られた機体はペイパーを引きながら真下へ離脱してゆく。あまりの高速と見事な奇襲に、攻撃機編隊は暫くそのまま飛行を続けていたが───

 その瞬間、パッと空中に閃光の花が咲いた。

 ただ一瞬の交差で6機の攻撃機が火を吹き、または爆散する。紅い2機の烈風11型は大気を裂きながら機首を上げ、突き上げる形で再び攻撃姿勢を取る。

 2機はまるで一つの生き物の様に機動しながら密集した編隊へ突っ込んでゆく。機首下からの攻撃には無防備な攻撃機編隊は散開し被害を最小限に留めようとするが、それは却って2機を間隙へ招き入れる形となってしまった。

 曳光弾を交えた防御機銃が四方八方から撃ち出され、青色の空を無数の白い斑点が彩る。しかしその弾幕の雨中を2機の烈風11型は縫うように上昇してゆき、その間にも機銃口から火が絶えることはなかった。20mm機銃とはいっても、その実態は機関砲である。徹甲榴弾が外板を食い破って内部で破裂し、機体の内部をズタズタに破壊し尽くした。焼夷榴弾が外板を吹き飛ばし、漏れた燃料に引火し機体を紅蓮の炎に包み込む。

「…!」

 コクピットからの光景は凄い。

 キャノピー前面に広がる無数の黒い影、その内のひとつが前触れもなく急速に拡大して来たと思うや、真後ろに向けてブッ飛んでいくのである。2機の烈風11型はそんな敵機をすれ違いざまに血祭りに上げてゆく。

 途端に弾幕が薄くなる───敵編隊の端まで来たのだ。下手に旋回をすると被弾面積が増える為ある程度に距離をとってから上昇前回する。

 今度は敵編隊の零時方向上方から攻撃を仕掛ける。ギリギリまで近づき───敵機は散開し始めるが爆弾魚雷を抱えた攻撃機の足は遅い───射撃!

 発射レバーを握り、主翼から一丁あたり毎分700発以上の濃密な銃撃が繰り出される。目の前に迫った有機的なシルエットを持つ機影に火花が迸り、真黒い破片を撒き散らしながら墜落した。

 後ろの僚機の火線が敵機を捉える。眼前にまで迫ったそれを正に紙一重のところで交わした。交差する瞬間敵機は吹き飛び、ドンっ!という爆発音と共に衝撃波が機体を揺らす。

 赤城の誇る戦闘機隊の中でも特に練度の高い紅色の2機を前に、敵攻撃機編隊は手も足も出なかった。

 

 だが───

「ン…!?」

 20mm機銃の銃撃が止まった。カチカチ…!レバーを何度押しても弾が出ない。

 弾切れか…!

『コチラニバンキ、ザンダンナシ。』

 無線で入った僚機からの報告もそれを裏付けるものだった。

 ガクン!と操縦桿を倒し、機体を急速にロールさせ、天地が反転する。その瞬間に一気に操縦桿を引いた。烈風11型は急降下し、敵編隊の最中から離脱してゆく。

 急速に遠くなってゆく敵編隊を睨め付けながら妖精さんは無線機に向かって叫んだ。

「テッキタスウナオケンザイ! カンタイヘムカウ…!」

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 同 15時15分

 

 

『全艦、敵の攻撃隊が揚陸艦へ向かっている。対処しろ。』

 作戦指揮官である横瀬の命令が伝達されるが、皆一様に顔を曇らせた。そんな事は分かっている。だが本来こんな危機を招いたのは彼の責なのである。第三、第四艦隊と合流した水雷戦隊と戦艦隊は前面に押し出し敵の攻撃を吸収、それを赤城、隼鷹、翔鶴、瑞鶴の空母部隊による航空攻撃で援護しながら揚陸艦隊を進める筈であった。

 それが、作戦開始時刻を勝手に早まされた挙句、第三、第四艦隊との合流以前に「制海権確保」と戦端を開くように横瀬が指示したのだ。

 あまりに勝手な物言いに艦娘達も辟易とするものだ。

 提督は各艦を鼓舞するよう、立ち回ってはいるのだが…。

 とにかく、敵航空部隊の大半が無事のまま揚陸艦隊へ向かっているのは事実で、それはあまりにも由々しき物だった。天龍以下の水雷戦隊は対空火力の一助となるべく、可及的速やかに揚陸艦隊へ合流しなければならない───しかし。

「結構沈めたはずだが、減った気がしねぇ!」

 迫ってきた軽巡洋艦2隻を屠り、更に重巡洋艦1隻を隷下の駆逐艦と協同し血祭りに上げ、他にも多数の駆逐艦を叩き沈めているが、なお敵の追撃は収まるところを知らない。

「数で押されるって、案外キツいっぽい!」

「喋る暇があったら撃て!」

 ドウ!天龍が海中から現れた敵の駆逐艦を主砲で吹き飛ばし、返す刀で横から近づいてきた巡洋艦を一刀の下に斬り伏せた。

「派手にやってやるッぽい!」

 赤い眼を鋭く煌めかせ、主砲を撃ち出す。

第一艦隊(金剛さん達)が居ないと海戦は厳しいわね…!」

 文句を垂れながらも夕雲は束ねられた緑の髪をたなびかせながら砲火を繰り出し、その先にいた2隻の敵駆逐艦が炎に包まれる。

「そんな事はねぇ。見ろ、また駆逐艦を沈めたじゃねぇか!」

 敵の追撃艦隊に砲撃を加えながら、天龍は他の駆逐艦娘達を鼓舞する。

 全艦とも魚雷は既に撃ち尽くし、頼れるのは己の砲煩兵器のみ。赤熱化した砲弾が敵の軽巡洋艦の砲塔を穿ち、追撃の手を奪う。止めのばかりに天龍が至近距離から撃ち出した砲弾が軽巡洋艦を沈めた。

「後方の敵の追撃隊はあらかた片付けたっぽい!」

 夕立の報告…振り向くと、巡洋艦を主力とした敵の追撃隊の姿は無く、未だ猛追を続ける敵部隊はあったが、それも遠い。

「よし、敵を引き離し艦隊の援護に戻る───」

「ライセキィーッ!リョウゲンヨリチカヅク!!」

「…!!」

 ばっ!と反射的に周囲を見ると、天龍達の水雷戦隊はその両側を敵艦隊に挟まれてしまっていた。そこから放たれたらしき放射状に迫る幾筋もの白線───深海悽艦の魚雷は艦娘達の使う酸素魚雷と異なり、排ガスが炭酸ガス等の海水によく溶けるものばかりでないためにその雷跡がよく見えた。

 数が…多い!

 両舷を挟み込む敵艦隊の数は高速の巡洋艦を主体とし、実に20隻に迫る。

 そこから放たれた魚雷は…数十本!

 隊ごとの回避では間に合わない。

「各艦回避行動!隊列は気にするな、絶対に当たるんじゃねェーぞ!!」

 最早雷跡は海面を白く埋め尽くさんばかりにまで広がりを見せ、それは至近まで迫っていた。海面3割、雷跡7割…その回避手段は余りにも限られている。

 魚雷を躱すにはその手段を行うしかなかった。

 

「ほっ…!」

 

 跳躍(・・)っ───!

 ヒト型ならではの3次元的機動!2、3本の魚雷が虚しくも天龍の足元を通りすきる。その後も軽快な機動と艦艇には出来ない芸当により魚雷を躱してゆく。

 だがそれこそが敵の狙いであった。3度目の雷撃を躱して、次に近づいてくる雷跡を見る…その瞬間───飛来音!

「あ゛⁉︎」

 ドオドオッ‼︎と水柱が乱立する。砲撃…!

 しまった!天龍は敵の狙いに今更ながらという様な表情を浮かべる。深海悽艦は、雷撃によって此方の行動を制限し、その間に砲撃を浴びせてきたのだ!

「この…おっ!?」

 反撃に転じようと主砲を構えるが、視界の端から迫る雷跡。回避しなければ直撃する!

「クソッ!」

 白波を掻き立て魚雷を紙一重のところで躱すが、やはり大量の砲弾がその瞬間に撃ち込まれる。

「こいつは体力勝負だな…!」

 躱す時には敵の砲撃はまばらなので魚雷には当たらないが、それの回避に専念し過ぎると次の瞬間に飛んでくる砲撃に被てしまうし、ならばと敵と砲戦に転ずれば魚雷の直撃を受けてしまう。そうなれば中、大破待ったなしだ。

 魚雷を全て躱すしか手だてはなかった。

 さらには、それを成したとして、20隻以上からなる敵の追撃から逃れられる確証は、一つとして無いのである。

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 

 同 15時17分

 

 

「むぅ…!」

 ドウ!ドウ!と追い縋る様に撒き上がる水柱を煩わし気に睨む。

 大和とアイオワは単艦でもかなりの対空火力を発揮するため───特にアイオワは両用砲からVT信管を装備したMk.35 5インチ対空砲弾を放てるため極めて防空能力が高い───いち早く強襲揚陸艦隊の側に戻らねばならなかったが、そうはさせまいと深海悽艦は10隻以上の戦艦と重巡洋艦からなる追撃隊を繰り出していた。

Insistent!(しつこい!)

 振り向き様にアイオワが放った16インチ砲が重巡洋艦を仕留める。

 だがその仕返しと言わんばかりに敵戦艦の放った砲弾がアイオワを掠め、派手な水柱を乱立させた。

 滝のような真っ白い飛沫が撒き上がり、彼女の視界を遮る。

「…!」

 アイオワの視界は遮られるが、逆に敵からも此方は見えていない筈である。

 そう考えたアイオワは全速力の33ノットを発揮する。どんどんと水柱は遠ざかっていき───次の瞬間!

 

 ドドォォォォォオオオッッ!!!!

 

 先程までアイオワのいた場所に鬱然たる水柱が聳り立つ。空に向かう滝が顕現したかと思うほどに激しい砲弾の弾着である。

 米戦艦の中でも最高級の防護力を誇るアイオワの装甲であっても、あの中に居れば間違いなく無事では済むまい。

 フッ、と息を整え、主砲を構える。レーダー照準によって得られた緒元を妖精さんが入力し、それに基づいて主砲塔を指向した。

「Fire!」

 ドウッ‼︎9発のΑP Mk.8砲弾が斉射によって撃ち出され、放物線を描きすっ飛んでゆく。

 着弾…閃光!砲弾が命中したのだ。しかし致命打ではない。砲撃を食らった敵戦艦は尚も悠々と砲撃を繰り出してくる。

 だがその戦艦は別方向から飛来した光弾にバイタルパートの装甲をブチ抜かれ、真っ二つになり吹き飛ばされる。

「!」

 速度に劣る大和は、先に離脱を図るアイオワよりも狙われていなかった為に、正確な照準が可能であった。46サンチ砲の一式徹甲弾は期待通りの威力を発揮している。

「テキカンハッポウ!」

「取り舵いっぱい!」

 巨体に似合わぬ機動力で敵弾を回避した大和。瀑布のように巻き上がっただが、それはそれで彼女が選択したかったものではなかった。彼女の回避した方向には快速を誇る敵の重巡洋艦隊が大和の周囲を取り囲んでいたのである。

「副砲右舷撃ち方はじめッ!」

 2基6門の15.5cm砲が敵巡洋艦1隻を指向し、斉射する。

 重巡クラスには致命打とは容易にはならないが、それでも敵の戦闘力を奪ってゆくには充分な威力がそれにはあった。

「やられませんよ…!私達ほど場数を踏んでる艦娘()は中々いませんからね!」

 ドン!副砲の徹甲弾が敵の主砲塔に直撃し、変形させた。だがお返しに撃った敵重巡洋艦の砲弾が、ゴン!ゴン!と大和の装甲を強かに打つ。だがそれらの砲弾は数は多くとも大和の装甲を完徹するには余りにも力不足であり、跳弾として水柱を上げるか、装甲を僅かに凹ませる程度でしかなかった。

 飛び散る水飛沫が栗色の髪を艶やかに濡らし、分厚い装甲を貫通する事叶わなかった砲弾が光血走る火花を散らし煤を付ける。

 そうこうしている内に…ドンッ!と火の手が上がった。

「⁉︎」

「ミギゲンコウカクホウタイハ!」

 装甲の殆ど無い89式12.7cm高角砲が敵弾の直撃を受け吹き飛んだのだ。いかな重装甲を誇る大和とて、艦のあらゆる場所に分厚い装甲帯を有しているわけではない。ボディーブローの如くに艦全体の戦闘力を奪ってゆくのである。

 更には、彼女の主敵は巡洋艦でなく今なお追撃を行なっている戦艦であることも忘れてはならなかった。近距離への接近を許せば、大和のバイタルパートすら打ち抜かれかねない。

 なんとしてもアイオワと連携して敵戦艦の接近を避けつつ、敵巡洋艦を捌きながら、揚陸艦隊の援護をしなければならなかった。

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 同 15時19分

 

「戦況は、芳しくはありませんわね。」

 紫電の髪をたなびかせながら、その主であるアリコーンは平然と言い放った。

 赤城を発った戦闘機隊がその行手を阻もうとした攻撃隊は、攻撃機全体の1割程度の損害を出しつつ、その過半数が既に攻撃位置を占位しようとしている。

 敵戦艦隊や水雷戦隊はまだ大和や天龍達の奮闘で足止めできているが、それはそれで強襲揚陸艦隊の直掩護衛艦が少ないことを意味しており、更にはいつ何時その足止めが崩壊するのか知れないのである。

 それなのに…それなのにだ。

 当のアリコーンはと言うと、先ほどからずっと腕を組み空を澄んだ顔で睨んだまま、身動ぎひとつしない。

「進路はそのまま!多少の火の粉は被る気で行くであります!」

 あきつ丸を先頭とし、その後ろに米軍の揚陸艦や直掩艦が続く。

 だがアリコーンはというと、フレッチャーや赤城のように対空戦闘準備を整えるわけでも、あきつ丸や他揚陸艦の様に陣形を組み直すわけでもなく、ただ悠然と海を進んでいるだけだった。

「…?」

 その彼女を、フレッチャーは訝しげに見る。敵機は目の前にまで来ているのにも関わらず、一体何故になんの動作も起こさないのか?そもそも潜水艦娘という彼女に対空戦闘が期待できるのか?それともまさか…弾除けの捨て駒(ポーン)だとでもいうのだろうか?

 潜水艦娘には不釣り合いなまでに、アリコーンの艤装は巨大だ。一見すると戦艦クラスの偽装に見えるほどである。あれほど巨大では敵にとってみればそれは良い的になるであろう。

「No good,」

 そんなモノはあまりにもナンセンス!誰人1人として欠けさてはならない。

「ミス・アリk」

「あぁ、そうアカギさん。」

 意を決してアリコーンに声をかけようとした瞬間、アリコーンが赤城に話しかけた。タイミングが悪すぎた。

「なんでしょう?」

「直掩の艦載機、もう上げませんか?」

 ツイ、と上空を指差す。赤城が放った直掩戦闘機はまだ遠方で敵戦闘機と空戦中であり、敵爆撃機が上空へ、雷撃機が低空へ舞い降り既に攻撃機会を窺っている有様だ。この上艦載機発艦の動きを見せれば、それは隙となり敵の攻撃を受けることとなる。

「もう上げませんが…?」

「分かりました。ありがとうございます。」

 そうだけ言ってアリコーンは前方へ向き直った。

「?」

 質問の意図を掴みかねていた赤城は少しだけ眉を顰めたが、次の瞬間に彼女らの形相は凄絶なものに変わる。

「11ジ、1ジホウコウテキライゲキキセッキンーッ‼︎」

「「!」」

 水平線のすぐ上、黒い胡麻の実の様な異物を見る。同時にフレッチャーの有するMk.12レーダーが測距を開始し、38口径5インチ両用砲が指向する。砲弾は───Mk.35(近接信管砲弾)

 彼我の距離7000ヤード。雷撃機相手に近接信管は海面の乱反射に近接信管に使う電波が反応する恐れがあり、部が悪くはあったが、時限信管よりはマシである。

「Fire!」

 ゴンッ!Mk.12 5インチ砲の“両用砲”とは言葉の綾で、実質的には対空砲である。初速は決して早くはなかったが、レーダー測距にモノを言わせた極めて高精度な砲撃が可能であった。

 緩い放物線を描きながら砲弾は飛んでゆき───高度15m。

 炸裂!

 電波が海面で乱反射し、近接信管が作動したのである。

 だが!

 そこには敵雷撃機の集団があった。破片が高速で飛び散る…被弾ッ!穴だらけになった雷撃機は頭から海中に突っ込み、バラバラに砕け散った。

 近接信管といえども、初弾から撃墜を狙うのは至難の技である。それはフレッチャーの練度に因るモノだった。残りの敵機は、被弾したのか魚雷を投棄して離脱する機と、それでも尚突っ込んでくる機体があった。フレッチャーはそうした未だ攻撃を掛けようとする敵機に向かって近接信管を叩き込んだ。

 

「テッキチョクジョウ!」

 見張員妖精さんが叫んだ。首が捻れんばかりの勢いで見上げた先には、敵の急降下爆撃機があり、そのやや後方には第二撃を加えんと待ち構える第二波と思しき機影…前衛と後衛、合わせて50機以上!

 数が───多過ぎる‼︎

 対処しきれない!赤城が上空の急降下爆撃機へ高角砲を打ち上げる。が、フレッチャー程の射撃精度も近接信管もない旧式な赤城の高角砲では対処に限度があった。砲弾の炸裂で上空のそこかしこに黒煙が花を咲かせるが、敵機の侵入を拒むまでには至らない。

 さらに厄介だったのは、敵機の狙いは防空火力を維持するフレッチャーでも、戦略的価値が高い空母赤城でも、やたら目立つアリコーンでもなく、あきつ丸ら揚陸艦達であったのだ。普通、艦艇は自分に向かってくる敵以外へは対処がし難い。

 

 フレッチャーや赤城らが焦りを募らせる一方で、この期に及んでまだアリコーンは腕を組んだまま上空の敵機を眺めている。

 

 レーダーによる測距に拠れば、敵機の高度はおおよそ3000から4000m。急降下爆撃を仕掛けてくるには十分た高度のはずだ。いつ攻撃を掛けてくるか分かったものでは無い。そう考えた時───

 あっ!

 声を上げる間もなかった。ギラッ、と敵機が鈍く陽光を反射したと思ったら、前衛らしき敵編隊が一斉に急降下を開始したのだ!

 

 オオォォオォォオォンンンン……!

 

 空気を切り裂く鈍い音が木霊する。数機ごとの編隊に分かれ一斉に急降下してくる。ゴマの実の様に小さい点はゆっくり大きくなり、その度に焦りが冷汗となって全身から吹き出る。

「ファィァァあッ!」

 トン!ドン!ドン!ドドドド…!

 パパパパパッ!ドドッ!

 5インチ両用砲、ボフォース40mm機関砲、エリコン20mm機関砲!フレッチャーの有する全ての砲煩兵器が砲身も溶けんばかりの勢いで銃砲弾をがむしゃらに投げつける。赤城も旧式とはいえ数だけはフレッチャーのそれを上回る数の対空兵装を有している。12cm高角砲、25mm機銃が火を噴き、弾幕を形成する。

 敵機の狙いは分かっており、その進路上に銃砲弾を叩き込めばよい…が、言うは易く行うは難し。敵機の速度や砲弾の落下角度などの適切な計算をしなければ砲弾は有効弾になり得ない。いくつもの砲弾銃弾が虚しくも敵編隊の周囲を過ぎ行き、黒い花を咲かせる。

 敵機の先頭で砲弾がいくつか炸裂した。破片を浴び、2機の敵機がきりもみ状態に陥り空中分解する。40mm機関砲弾の直撃を受けた敵機が空中で爆散し、その破片を回避した別の爆撃機が25mm機銃の弾幕に引っかかり、目玉の様な発光部分を吹き飛ばされバラバラに四散した。

 だがそれでも足りない。

 

 揚陸艦[San Francisco(サン・フランシスコ)]と[Boston(ボストン)]からもMk 46 Mod 1 ウェポン・ステーションに収められたブッシュマスターⅡ 30mm機関砲や12.7mm重機関銃、さらに改装によって増備されたファランクスまでもが対空弾幕を繰り出している。30mm機関砲は十分な威力を発揮し、直撃した敵機を撃墜し、ファランクスの雨霰と浴びせかけた20mm砲弾は射線上に入った敵機を穴だらけにしてしまった。

 しかし、標的が小さすぎてレーダー照準されない(できない)敵機相手には手動操作されたこれらの対空弾幕は有効な対抗手段たり得ない。

 

 敵機は尚も20機以上…!さらにその後衛に同等の数が控えている‼︎

 高度1800…いや1600m!いけない…間に合わないっ‼︎

 

 そう思った瞬間───

(光…⁉︎)

 空に伸びた一閃が空を薙いだ。そしてその一閃が敵編隊を捉えた時、それは起こった。

「え⁉︎」

 敵編隊の爆撃機が一瞬にしてバラバラに砕け散ったのである。

 更に光の線は増える。2つ3つ…4つ!

 30秒もしないうちに、20機以上あった敵機はその全てが無惨な残骸となって堕ち果ててしまった。

 ヴオオオオオッ‼︎と何か猛獣の唸り声にも似た何かが轟いた。音の方を振り向くと…

「ミス・アリコーン⁉︎」

 相も変わらず、何食わぬ顔で腕を組んだまま洋上を行くアリコーンの姿があった。彼女があれを…?しかし疑問はすぐに確信に変わった。

「テッキタスウキュウソクニチカヅク!」

 敵の雷撃機と急降下爆撃機、併せて40機近い数が猛然と向かってきたのだ。それも複数の方向からの波状攻撃である。

「Damn it!」

 雷撃機も爆撃機も艦艇にとってはどちらも脅威度が高い。どちらか一方を…などとやってるうちに爆弾の雨か魚雷の海を喰らうことになる。

「…。」

 それを無感情に見ていたアリコーンの長大な艤装から、一閃が走った。先ほどの焼き写しの様に敵爆撃機が圧砕機(クラッシャー)にかけられた様にブッ飛び、ズタズタに粉砕される。

「…!」

 フレッチャーは再びアリコーンを凝視した。潮風になびく紫電の髪を押さえながら、やはり何食わぬ顔で海中に没してゆく敵機の残骸を見遣る。彼女は自分のしでかしていることが何なのか理解しているのか?フレッチャーは疑問に思った。

 更に水平線に向かって光は放たれた。光…いやフレッチャーが目を凝らしてゆく見ると、それは光線の様であって、実際には無数の光弾…つまり銃砲弾の類であった。恐ろしいまでの発射速度を誇る対空機関砲をアリコーンは装備しているのである。

 

 雷撃機が雨の様な弾幕に突っ込んだ時、瞬間的に機体には火花が走り、更に大穴を穿かれる。被弾の度合いこそ違いはあったが、結末は等しく訪れる。一様に海中に突っ込み、虚しく水柱を上げるだけだったのだ。

「敵機撃墜確認……残りの機は上空に留まったままですね。」

 涼しい顔で、平然と言い放った。

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 15時20分

 日本国 戦略機動打撃艦隊 

 某島鎮守府 

 艦娘寮兼司令部施設 地下1階

 統括作戦指揮室

 

『艦長ー。』

「どうした?アリコーン。」

退屈(・・)ですわ。』

 敵の第一撃をほぼ単艦で防ぎ切っておいて出た言葉がこれでは、指揮室に詰める面々は「嘘だろう」と言いたくなり、そして顔は驚嘆に包まれていた。

 アリコーンが尋常では無いということを知っている提督ですら驚きを隠せない。彼の横にいる金剛などは開いた口が塞がらないと言ったところだ。小さく「ジーザス…」と繰り返している。

 ただ1人を除いて。

「そう言うなアリコーン。お前の艤装はお前だ。お前の戦果だ。」

 マティアス・トーレス少佐。机に両肘を立てて寄りかかり、両手の甲に顎を乗せた状態のまま、広大なモニターを眺めている。

CIWS(シーヴス)は、私の意思ではありませんわ。』

「お前の戦果であることに変わりは無い。」

 CIWSとは個艦防空用の近接火器防御システムの事である。アリコーンは毎分6000発もの発射速度を誇る30mm8砲身のガトリング機関砲をCIWSとして有している。しかし防空レーダはおろか火器管制レーダーすら搭載しない(できない)アリコーンには、自己完結した防空システムしか搭載できていない。つまり艦側の意思に関係なくCIWSが敵機を見つけ、その射程に入った瞬間射撃を開始し標的を破壊するのである。

 アリコーンの言う「私の意思では無い」とは、CIWSが勝手に敵機を撃墜したのに過ぎず、そこにアリコーンの意思は介在していない───つまり本当にCIWSが撃墜しただけであって、アリコーン自身(・・)は何もしていない。

 

 …因みにアリコーンが赤城に航空機の発艦をしないか確認を取ったのは、赤城の艦載機すらも敵機と判定してCIWSが撃ち落とす恐れがあった為だ。

 

『他の兵装を使ってはいけませんか、艦長ー。』

「ダメだ。」

『むむむぅ。』

 今回の作戦では、潜水艦アリコーンの兵装はかなり制限を設けられていた。装備、燃料共に特殊で、一度消費すれば調達が容易ではなかったからである。…この進言をしたのは横瀬・ホワードだった。

「マティアス少佐。アリコーンとのお喋りは結構だが、作戦に集中させて貰えるか。」

「お言葉だが、准将?作戦中であっても前線とのコミュニケーションは必須と考えるが。」

 ジロ、と横瀬はマティアスを睨んだ。それを意に介さず彼は続けた。

「潜水艦アリコーンの力がその程度では無い…というのは直ぐに皆が知る事になる。今では無いがな。今はそれで辛抱してくれ。わかったな、アリコーン?」

『はいー。』

 その声を聞き、フッ、とマティアスは笑った。声だけで分かる。彼女が頬を膨らませ少しだけ不貞腐れているのが。まだ顔を合わせて数日ではあったが、マティアスの目に映る彼女の顔は常に凛としていて、“強い艦”を振る舞っていたが、そうでは無い彼女の姿を想像すると、少し面白可笑しかったのである。

「マッ」「作戦域に侵入する複数の飛行群を確認!これは…!」

 横瀬の叱咤を聞きたくなかったオペレーターがやはりわざと大きな声で状況報告をする。

「チッ。」

「…。」

 モニターに示された情報を見て、横瀬が小さな舌打ちをしたのを、マティアスは聞き逃さなかった。

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 

 15時20分

 中部太平洋沖合

 

 ゴオォォォ…!

 雲海の彼方から姿を現した規則的な隊列を組んだ無数の黒点…その数は100近い。それは時間の経過と共にはっきりとした輪郭となって彼女たちの目に迫って来ていた。

『コチラダイニジコウゲキタイ,サクセンクウイキニトウタツ!』

『いいぞ第三艦隊と第四艦隊だ!高速給糧艦もいる!』

 第二次攻撃隊は凡そ90機から成っていた。

 護衛戦闘機隊である50機のうち、過半数の約30機が編隊から離脱し敵攻撃機隊に接近する。数では3倍以上の差があったが、片や鈍重な雷爆撃機、片や軽快な運動性を誇る戦闘機隊である。しかも敵の護衛戦闘機は赤城の戦闘機隊の奮闘によって未だに足止めを食らっている。敵の攻撃機は丸裸同然だった。

 猛然と戦闘機隊が敵攻撃機に襲い掛かる。殆どの機体はまだ爆弾魚雷を抱えたままであり、戦闘機隊の良い的とと成り果てた。

「思ったより早かったですね…!」

『ヘヘッ、飛ばしてきたのさ。』

 赤城の言葉に隼鷹が答えた。作戦開始の時刻が早まっていた事を知った彼女達は全速で南下を開始し、発艦可能な艦載機を可能な限り早く出来る限り多く発進させていたのである。

「隼鷹殿の攻撃隊であります!」

 先の攻撃隊は瑞鶴、そして翔鶴から飛び立っていたものだった。それらにやや遅れる形で、隼鷹を発った戦爆連合約30機が全戦域に到達し、護衛戦闘機隊が敵攻撃機狩りに加勢する。

 揚陸艦隊の上空を舞っていた敵の攻撃機はたちまち数を減らし、中には兵装を投棄して撤退の動きを見せる敵もあった。戦闘機隊はそれら作戦遂行不能に(ミッションキル)した敵機は深追いせず、未だ果敢に攻撃を仕掛けようとする雷爆撃機に標的を絞り攻撃する。

 

「第三艦隊状況開始!」

「第四艦隊状況開始!」

『全艦、高速給糧艦を活用しろ。“キラ付け”すれば艤装の機動力などの格闘戦能力が大幅に上がる!』

 

 後方から30ノット以上の快速で無骨な艦が疾走してくる。艦の母体となったのは、快速を誇っていた“はやぶさ”型ミサイル艇で、兵装などを撤去し給糧艦である間宮さん特製の甘味をふんだんに積載している。

「そらっ受け取れ!」

 爆雷投射器程の雑さではないが、ポーンとドラム缶が空中に放られる。クッションが膨らみ海面にバウンドしたそれこそ、甘味を沢山入っている喜びのネタであった。

「頂き!」

 第四艦隊の天津風が丁度それを掠め取った。第四艦隊の駆逐艦4隻は間宮さんの甘味にありつき、「美味しい〜」などと言った。妖精さんもそれを拝借する。すると妖精さんが蛍のような光を持ち始め、物凄い勢いで艤装に取り付く。妖精さんがこうなると艤装は100%以上の力を発揮し、主に機動力や射撃精度が顕著に上昇するのである。

 

 妖精さんが取り付いた艤装も妖精さんのそれと似たような輝きを持ち始めるため、この現象は一般に“キラ付け”と言われている(艦娘の精神状態による場合もあった)。

 

「あっずりぃ!」「私たちにも下さい〜!」

 ぶっちゃけ最も甘味を欲している第二艦隊の各面々がそんな事を言う。しかし戦艦や水雷戦隊に囲まれている彼女達に甘味を届けるのは、いかに快速を誇る高速給糧艦でも困難であった。だから……

「攻撃隊は敵の水雷戦隊叩いちゃってぇ!」

「では私達は敵戦艦を引き受けます!」「いこう翔鶴姉ぇ!」

 第二次攻撃隊の、雷爆連合約50機の標的は第二艦隊の各艦を包囲している敵艦隊になった。

 まだ航空援護のない敵艦隊の上空を攻撃隊が乱舞した。

 爆撃機としても雷撃機としても有用な万能機である流星改の他にも、彗星や天山と言った歴戦の攻撃機、爆撃機が翼を翻し寄ってたかって攻撃する。

 彗星の叩き込んだ500kgがチ級の頭蓋をかち割り没入し、炸裂。中破し航行不能になり、そこへ止めとばかりに後続機が2発の500kg爆弾を叩き込み爆沈させる。

 250kg爆弾を3発も懸吊した彗星33型改の4機編隊が逃走を図る駆逐イ級3隻へ向かってダイブし、一斉に投弾。1隻に最低1発は命中、2隻が完全に撃沈された。

 流星と共に低空へ舞い降りた天山が複数の敵巡洋艦隊へ向かって一斉に魚雷を投下。高速で、広範囲に疾走する魚雷を避けきれなかった軽巡、重巡が次々に被雷し大傾斜を引き起こした。追い討ちの第二撃が加わり、巡洋艦は粗方海底へと没する事を余儀なくされる。

 数こそ少ない隼鷹の攻撃隊だったが天龍達の水雷戦隊を追撃の手から引き剥がすには十分な戦果を上げのだった。

 

 愚かにも大和とアイオワの追撃に夢中になり翔鶴、瑞鶴の攻撃隊への対処が遅れた深海棲艦戦艦の命運はもはや決定された。

 低空に舞い降りた雷撃隊と上空から攻撃をかける急降下爆撃機…これらの攻撃隊のコンビネーションは抜群であった。艦爆隊の引き付けた防空砲火の隙を付き、天山や流星改からなる雷撃隊が魚雷を投下。その離脱を援護するべく急降下爆撃機も500kg又は必殺の800kg爆弾を投下し、敵の防空火力を削る。その防空火網の穴を攻撃隊が離脱し、別の攻撃機がそこに割って入る。

 瞬く間に戦艦群に魚雷と爆弾が殺到した。魚雷4本、爆弾4発の直撃を受けた戦艦ル級は悲惨な状態に成り果てた。ズタズタに引き裂かれた右舷からゆっくり沈降し始めた瞬間、黒髪を引き裂き爆弾が立て続けに命中し、大爆発を起こし爆沈したのである。

 特に大和、アイオワと砲撃戦を演じ被弾した艦が標的にされていた。爆弾の命中で砲塔が吹き飛び戦闘不能になるタ級、魚雷が直撃し推進器でもやられたのか洋上で止まってしまい浮き砲台となったタ級……。

 大和を包囲していた重巡艦隊も攻撃にさらされる。魚雷による誤射を防ぐ為、主に爆撃機が攻撃したが、それでも十二分に役目を果たした。重巡ネ級の縦陣に対して流星改8機が逆落としに急降下、800kg爆弾を投弾する狙いは先頭の1番艦と2番艦。

 それぞれ2発の直撃を受け、尋常ではない損害を受ける。800kg爆弾とは戦艦に匹敵する威力を持つ。重巡とはいえこれを2発も食らって無事であるわけがなかった。たちまち速度を落とす2隻…急速に落伍する2隻を後続の重巡が回避した瞬間、その回避行動を読んでいた彗星が500kg爆弾を叩きつける。

 巡洋艦はたちまち炎上し、戦力を失ってゆく。

 大和とアイオワが追撃を振り切り、攻撃隊が去った後には、無事な艦は数える程しか無く。多くが傷付き、死に絶えていた。

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 

 同 15時28分

 

 先ほどから激戦を繰り抜けた第二艦隊の面々は高速給糧艦の甘味を貰ってキラ付けを行い、再び戦意は高揚しつつある。

 刀を振り上げて天龍が大声で言う。

「よしお前ら!この天龍様に付いてこい!戦い方を教えてやる!」

「あら、見せてもらおうじゃない。」

「ふふーん。なら行くぞ!」

 再び水雷戦隊が加速し艦隊の前面に出る。

 

 今度の水雷戦隊には、第二艦隊の天龍、夕立、夕雲、雷の4隻に加え以下の戦力が加わっている。

 

 第三艦隊 阿賀野 磯風 浜風 村雨 秋月

 第四艦隊 天津風 時津風 雪風 照月 

 

 これだけの戦力があれば、もうひと暴れもふた暴れもやってやる自信があった。

 しかし敵の全貌を見たとき、天龍はヘンな声を上げた。

「うぇっ!」

 先ほどよりも遥かに多い数の深海棲艦。を背景に黒い点々が幾つも蠢いている。あれらが全て敵!

「くそっ、敵を数えるのはやめだな!」

 複縦陣の隊形を取りながら主砲を構える。まだ敵主力は有効射程ではないが…敵の水雷戦隊や生き残りは突出している。じきに有効射程に入る。

「真正面から打ち抜いてやるわ!」

 天津風が気高に叫んだ。

『テキカンシャテイナイ!』

「撃てッ!」

 ドドドドン‼︎

 10隻以上からなる砲撃を最初に受けたのは、満身創痍の追撃隊の生き残りだった。瞬く間に砲火に囲まれ、更に命中精度も向上しているために駆逐艦などは一瞬で葬られてしまう。巡洋艦も最早浮いているだけで精一杯のようだ。

 その巡洋艦も断続的に打ち込まれる砲弾によって遂に力尽きる。

『良いぞ!高速給糧艦のおかげで命中率が上がっている。そのまま押し込むんだ!』

 提督の鼓舞に応えるように、各艦の砲撃が一層苛烈となる。深海棲艦からすれば溜まったものではない。

「おお!阿賀野が敵重巡を仕留めたぞ。」「お手柄ね!」

「ふふん!」

 阿賀野の主砲は同じ軽巡である天龍と比べて威力が高い。実態は旧式戦艦の副砲を流用した“御下がり”だが、巡洋艦にはそれなりに必要十分な火力と言える。

 

『揚陸艦へ接近する航空機を探知、敵の第二次攻撃隊だ!赤城は戦闘機隊の収容を行なっているから発艦出来ない。他の空母は迎撃機発進させてくれ。』

「了解しました。戦闘機隊発進!」

 翔鶴が弓を構え、戦闘機を発艦させる。紫電改二を主力とする戦闘機隊である。純粋な戦闘機としてみれば烈風11型には劣るが、軽快さという意味では引けを取らない優秀な機体である。

『揚陸艦への攻撃を企図する動きは必ず阻止してくれ。頼むぞ!』

「分かってるわよ!任せなさい!」

 続いて瑞鶴も戦闘機を発艦…隼鷹も艦隊の直掩機として戦闘機を上げる。

 

「イクゾー!」

『『『オオーーーー‼︎』』』

 迎撃隊約60機が緊急発艦し敵編隊に殺到する。敵の第二次攻撃隊はおよそ120機。敵護衛戦闘機隊も此方とほぼ同数の60機である。

 攻撃隊の前面に出た護衛戦闘機隊と迎撃機隊の空戦が始まった。

 紫電改二の格闘戦能力は抜群で、搭乗員の練度も高かった。同数で負ける道理など存在せず、徐々に敵の戦闘機は数を減らし、その被害は攻撃機にまで及ぶ。

 乱戦の素様を呈する敵の第二次攻撃隊…だがそれは相手の仕掛けた罠だった。

『第三次攻撃隊確認!戦闘攻撃機か…さっきより足が早いぞ!』

『アリコーン、注意しろ。』

「分かってますわ。」

 相変わらずアリコーンの艤装からはCIWSが空を睨んでいる。有効射程は3kmと少し。十分な攻撃範囲である。しかしアリコーンにとってはこんな“勝手に敵機を叩き落とす”兵装よりも自身の力を(マティアス・トーレスの為に)もっと目一杯使ってやりたい気分であった。

 あんな距離なら戦闘機を使わずとも…。

「よーしっ、全戦闘機!迎撃しちゃって!」

 隼鷹の戦闘機が敵戦爆へ攻撃を開始する。しかし絶対数が足りない。多少搭載量があるとはいえ、所詮は軽空母…いかんせん部が悪かった。5分5分の戦闘を繰り広げるが戦闘爆撃機は他の爆撃機、攻撃機よりは足が速い。迎撃網を潜り抜け艦隊の上空へ辿り着く戦爆がぽつぽつ現れ始めた。

 

 そんな彼らの周囲に巨大な花火が花開く。

「撃てェッ‼︎」

 ドオッ‼︎ドオッ‼︎ドオッ‼︎

 三式弾である。周囲数百mの範囲に大量の焼夷子弾を撒き散らすタチの悪い対空砲弾だった。焼夷弾の直撃を受けた敵機は全体を紅蓮の焔に包まれ、火達磨になりながら墜ちてゆく。

 更に近づいてくる敵機はVT信管を用いた5インチ砲…それも今度はアイオワも含めた濃密な弾幕である。それだけでは無い。時限信管とはいえ大和と赤城、合わせて30門を超える高角砲の迎撃に晒される。機体を穴だらけにされ、または砲弾の直撃を受け食い破られたように機体を抉られ撃墜される機体………。

 しかし、所詮対空砲火である。普通、航空攻撃に対して艦船は貧弱である。少なく無い数が防空火網を抜けて、50度から60度程の緩降下爆撃をする。しかし、アリコーンのCIWSがそれを捉えた。

 ドドバンッ!

 突然、弾け飛ぶような破壊を受けた敵機が悲惨な最期を遂げる。

 シャワーの如くに浴びせかけられる30mm機関砲弾の雨霰を交わす術は存在しなかった。瞬く間に数機単位で機体がバラバラに砕け散ってゆく。

 CIWSが射撃を止める。

 空に敵はいなくなった。

「ふん…。」

 アリコーンはつまらなさそうにパッと髪を払う。

『いいぞアリコーン、よくやった。』

「…はい。」

 褒められたので少し上機嫌になった。

「すごい…。」

「Amazing…,」

 非常に高い対空火力を誇るアイオワですらアリコーンの弾幕の濃さに驚く。

「普通の潜水艦では無いとは思ってましたが、まさかそれ程までとは…凄いですねアリコーンさん。」

 大和が驚愕も抜けぬ声色で言った。潜水艦は無縁と思われるこの作戦に、艦種上は潜水艦であるアリコーンを投入するあたりただの潜水艦では無いだろうというのは共通認識だったが、まさか防空艦顔負けの対空戦力とは。

 それに対してアリコーンは少しだけ破顔して、「いえそんな…全然です。」と言う。

 大和達には謙遜に聞こえたかもしれないが実際「全然」である。こんな物は原子力潜水航空巡洋艦アリコーンの力全体の1割にも満たない。

 しかし経過はどうあれ、ある程度作戦は順調に進みつつある。肝心の揚陸艦への攻撃もなんとか捌き切れている。

『この調子なら、例の核弾頭も鹵獲できそうだな!』

『ああ深海棲艦(ヤツら)も喜ぶだろう。あんなブツ、持ってて良いことはないからな。』

 天龍の言葉に提督が応えた。

 当然それらの会話は軍用通信を介してアリコーンにも聞こえていたが、アリコーンにはさらに高性能な電波傍受装置がある。その装置が、一瞬混線した声を聞き逃さなかった。

 

『艦娘供を見つけた。』

『ーーッフッフッフッフッフっ!殺してやる‼︎』

 

「…⁉︎」

 バッ!と身を切る。水平線の先に、先程までは見えていなかった小さい点が2つあった。




艦これには実装されてませんが、何と無く彗星三三型と深海棲艦の戦闘爆撃機を登場させました(笑)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。