戦場を駆ける有翼ノ一角獣《アリコーン》   作:お猿プロダクション

9 / 52
艦これのイベント等で投稿が遅れてしまい申し訳ないです…orz

Enchanter Ⅱ
を聴きながらお読み下さい。


天号作戦Ⅱ(前)

 20XX年

 

 9月20日 15時29分

 

 中部太平洋沖合

 

 

『全艦注意!2隻の船舶らしき物体が接近中!』

「目視確認!本艦後方、真っ直ぐ向かってくる…。」

 アリコーンが振り向いた先にいる敵の速度は40kt近い。

『ねぇ“シンイ”、もう()っていい?待ちきれないよ!』

『混乱に乗じて背中から撃て!』

『悪どいねェ!好きだよそういうの!!』

 

「っ!」

 一瞬の閃光…発砲!身を捩り回避する。

 ドォンッ…!

 アリコーンの背後から飛んできた光弾はすんでのところで彼女の艤装を掠め着弾、水柱を上げる。水柱の大きさから見て、砲弾の口径は然程に大きくない様に思えた。

 振り返り砲弾の提供者を睨む…艦というより、船艇と言った方が良いサイズだ。高速で波間を斬り裂き迫って来る様は迫力があったが、そんな光景を見眺めている猶予などなかった。

 パッと、迫って来る船艇の艇首が明滅し、白い煙を吐き出す。害意を持った明らかな攻撃!

 バンッ!砲弾は弾ける様に海面へ命中し炸裂する。撒き散らされた破片が金属質な音で艤装を小気味悪く叩いた。雨の様に降る水飛沫に目を顰める。

 その時、後方からの奇襲を狙ったものか、 3隻のイ級が姿を現した。だがそのイ級達は更に背後から飛んで来た砲弾に黒い胴体をかち割られ、絶命する。体液を汚らしく撒き散らし、水面の底に沈んでゆく。

 撃ったのは“あの”不明船艇だ。

『ヒャッホォウ!』

『馬鹿、深海棲艦を相手にするな!』

『馬鹿って言うな!兄貴じゃ無かったら殺してるから!』

 2隻の船艇は互い違いに蛇行を繰り返しながら、まるでひとつの生き物のような動きを繰り返しながら急速に接近、白波を掻き立て、凄まじいスピードで揚陸艦隊の後方を横切る。

『不明艇が深海棲艦を撃沈!』

「どういう事だ⁉︎」

 驚き混じりの提督の声に天龍の疑問と一驚を孕んだ叫びが重なった。それはこの場にいる全員が共有している心境であり、また、深海棲艦を撃沈せしめたあの不明艇を攻撃して良いものか、二の足を踏んでいた。

 しかし決断を求められる指揮官として、提督は確信を持ち命令する。

『これ以上友軍の増援は無い。所属不明艇は作戦を妨害する“(バンディッツ)”として攻撃を許可する!迷うな!』

 命令が下るや、2隻の戦艦やフレッチャーの主砲、更にはあきつ丸の高射砲───海軍では対空砲を高角砲と呼ぶが陸軍では高射砲と呼んだ───までもが水平射撃を浴びせ、海面が沸騰したかのような猛烈な砲撃を始めた。

 しかし深海棲艦よりも大きな図体を持つ割には凄まじい俊足を誇る敵船艇は、沸き上がる海上を疾駆し、更にはそんな状態からも砲撃を此方に浴びせ、その多くはアリコーンの周囲で水柱を上げる。

「何者ですか、彼らは⁉︎」

艦娘(こちら)でも深海棲艦(あちら)でもない、日和見野郎であります!」

「ふむ。理由は存じませんが…どうやら私が狙いのようですね。」

 噴き上がるように現れる水飛沫を躱しながらアリコーンは悠々艦隊の前に躍り出る。艦隊から突出した彼女は、やはり格好の標的となった。

『誘い出た!やるぞ!』

『フッフフフ!私がメッチャクチャにしてあげる!』

 並行して航走していた2隻の敵船艇は鋭いターンを見せ、横列から刀の様な縦列にその装いを変える。…否、ただの縦陣では無い。双方が微妙な蛇行を繰り返し、艇首の主砲の射線を常に確保しているのだ。

 並の操舵ではない。素人離れした挙動───それは、この襲撃が訓練された者による意図的なものである事を意味していた。

 ドンドンドンドンッ…!敵弾は軽く威力も小さいが、その量がすさまじかった。水柱が密林の如くに乱立し、アリコーンから一時的に視界を奪った。

「…っ。」

 降り頻る(しきる)海水と急激に狭まった視界に眉を潜める…と、次の瞬間!

 敵弾ッ!すんでのところで直撃を避けたが、ガァンッ‼︎と激しい金属音をたてアリコーンの艤装を擦った。分厚く頑丈なアリコーンの船殻はたとえ戦艦の主砲の直撃を受けても貫通されることは無いが、この軽微な損傷は潜水艦にとって極めて重大な問題であった。外装の傷は騒音の元になるからだ。

 だが当のアリコーンはと言うとさして焦る様子もなく損傷箇所をスッとひと撫でするに終わった。

『命中!』

『まだ死んで無いよ“シンイ”!』

「煩わしい…。」

 アリコーンが眉を潜めた。感情の一片も知らぬかのような瞳で自らの敵手を観ると、バッ!と掌を掲げた。

 アリコーンの持つ重厚長大な艤装から薄緑色の砲煩兵器が展開される───30ミリ8連装ガトリング機関砲。本来は対空用途の兵装であるが赤外線監視装置(FLIR)を用いた光学射撃照準装置によって対水上攻撃も可能な様にチューニングされている。

()ッ。」

 ドヴヴヴヴッ‼︎

 数基の機関砲の一斉射撃!豪雨の如くに撃ち出された秒間10,000発の30ミリ機関砲弾の嵐はしかし、反撃を読んでいた敵船艇に躱されてしまう───が、アリコーンとて初手で仕留められるとは思っていなかった。3基のCIWSは両翼に広がった内の1隻に狙いを定めた。

 射撃!数十ノットは出ている敵船艇を鞭のように機関砲弾が迫ってゆき、派手な水柱を何重にも重ねて作り出す。

『アハハッ…!私を追って来た!』

『そのまま耐えろ“ナゲキ”!』

 しかし如何にスピードが出ているとは言え、CIWSの方が圧倒的に小回りが効くのは明白である。数秒のうちに射線に捕らえられ粉微塵に粉砕される───とは、ならなかった。

 パン!パパンッ!と複数の破裂音。その瞬間、急速に風船のように膨らんだ物体が大量にぶち撒けられる。それらの物体はひとつの例外なく敵船艇と瓜二つであり、しかも敵船艇を囲うように、追いすがるように周囲を併走する。

「わっ、敵が増えましたよ!」

 大和が驚いて言う。知識では知っていても、この種の欺瞞行動を採ってくる敵と相対した事がないのも一因かもしれない。

『恐らく、敵の飽和デコイの一種だ!』

「目で見て見分けるしかないですよ!」

「その必要は…ありませんね。」

 アリコーンのCIWSに用いられているFRIL…つまり赤外線監視装置は、相手の見た目に惑わされる代物ではない。絶対零度以上の物体が必ず発する赤外線を捉える。余程の代物でもない限り、デコイと本体が全く同じ赤外線を発する事は有り得ない。

 そして、アリコーンのFRILにはそれを見分けられるだけの性能を有していた。

「視えてますよ…!」

 30ミリ機関砲の銃身が一瞬の間を置いて火を吹き出す。ガトリング式機関砲は立ち上がりに僅かな隙が生じる───その僅かな間隙を見破り敵船艇は紙一重で機関砲弾の雨霰を躱す。しかし、アリコーンの方が一枚上手だった。

 集中的な命中を狙わず、薙いだのである。扇状に広がる弾幕の束を避け切る事はとても出来るものではなく、敵船艇にそれを可能とする機動力は持ち合わせていなかった。

 被弾は必然───ダン!ダン!ダン!と炸裂音を響かせながら火花や外板を撒き散らす。実物より強度のないデコイ群は、僅か数発の被弾で吹き飛びバラバラに砕け散ってゆく。

「アリコーンさんの攻撃が当たっています!」

『いいぞ!デコイ(目くらまし)を見破っている!』

 敵船艇の側面から煙が吐き出される…火災の煙だ。焼夷曳航弾でも直撃したか。

『ちっっくしょうやりやがったな‼︎この野郎やりやがった!!』

『くそ、撤退だ“ナゲキ”!傷ついた船では、怪物を叩けない!』

『ッゥウ!くっそぉ!』

「…む。」

 敵船艇の固定砲らしき物が煙を出す。砲撃煙…?いや違う。

 パン…パンッ!と破裂音を立てて白煙が敵船艇の周囲を包み込む。銀紙のようにチラチラと輝く金属片や、明るく輝く火球───おそらく、チャフとフレアだ───も散見された。発煙弾発射機(スモーク・ディスチャージャー)とチャフ・フレアディスペンサーを併用して此方の攻撃を遮るつもりだろうか。

 …いや違う。敵は逃走を企てている。

 あの煙はただの煙ではない。赤外線の透過を極めて阻害する阻害する赤リンと酸化剤、高エネルギーバインダからなる煙幕弾だ。アリコーンのCIWSに搭載されているFLIRであっても、捕捉は困難だった。

「ちッ…。」

 取り逃した───その確信がアリコーンを巡ると同時に、ある音声が彼女らの無線に混線した。

『怪物め!次は殺す!殺してやる‼︎』

 驚愕!と同時に起こる困惑───聞き慣れない女の音声だった。国連の軍事用回線で他には秘匿された通信の筈が、明らかにこの作戦に関して部外者である者の声が混じっている。

「なんだ⁉︎」

「私の耳がおかしくなりましたか…?」

「いや私にも聞こえてる。」

 混乱に乗じた敵船艇は既に遥か彼方にある。もはやアリコーンのCIWSでは届かない。かといって、追撃する余力も彼女たちには無かった。

「日和見野郎が逃げるでありますよ!」

『追う必要はない。制海権を獲得しろ。友軍を守れ。』

 余力もなく、作戦指揮官にもそう言われては彼女たちには最早どうしようもなかった。水平線の先に霞んで見えなくなってゆく敵船艇を尻目に、渋々といった感じで其々の戦闘に集中を切り替える。

「…了解。」

『それでいい。』 

 

『更なる敵艦を確認、敵基地の周囲に砲台小鬼も確認した。排除せよ!』

 砲台小鬼───うわ、と艦娘たちの顔が曇る。攻防いずれも高い水準にありながら陸上兵器であるため雷撃は不可能、装甲に覆われた胴体は、三式弾の焼夷効果では十分な打撃とはなり得ない。かと言って航空機で爆撃しようとすれば高い防空火力を発揮し、タダでは済まない損耗を受ける…非常に相手にしたくない敵である。

「私とアイオワさんの艦砲射撃で叩きます…水雷戦隊にあっては、我の前進路を形成せよ!」

 戦艦クラスの砲撃で地形ごと敵を吹き飛ばしてしまおうというのである。

『了解!』

『許可できん。却下だ。』

「⁉︎」

その案に待ったを掛けたのは、この作戦の指揮官である横瀬であった。だがそれを遮る声もまた存在した。

『いい、行け。』

提督が本来上官に当たるはずの横瀬の指示を撤回させる。

『貴様…!』

『艦娘への直接の指示は私に一任されている筈ですが。』

『チッ……。』

艦娘への直接指示という意味では、提督の方が一回の指揮官よりも大きな権限を有しているのである。

『命じる。敵砲台小鬼に対し艦砲射撃を以って撃破せよ…!』

「了解です!」

「梅雨払いは任せろっ!」

 戦艦部隊の血路を開くのは水雷戦隊の本願といえる。大和とアイオワが増速し、前面に押し出ていた水雷戦隊は嬉々としてその進路上にある敵艦を食い潰してゆく。

 

 両翼に広がり大和とアイオワに雷撃をせんとしてきた雷巡、駆逐艦を主体とした深海棲艦が両艦の主砲の洗礼を受け粉微塵に吹き飛ぶ。陣形を崩され、それを整えようとした瞬間、別方向から飛んできた砲弾の群れにそこかしこを穴だらけにされた挙句爆発炎上した。味方艦隊の砲撃である。

駆逐艦、巡洋艦からなる艦娘数隻が大和とアイオワを取り囲み、輪形陣を形成する。

 上空から敵機が急降下を仕掛けるが、浜風の対空砲火がそれを叩き落とし、生き残った敵機も大和とアイオワの防空火力の前に正確な照準を許されず、巨大な水柱を上げるに終わった。

「皆さん!援護お願いしますよ…!」

「Escort!」

 臨時ではあったが、前衛の水雷戦隊が寄ってたかって来る深海棲艦を捌き、大和とアイオワ以下数隻の駆逐艦からなる本隊がその活路を進む、ほぼ理想的な戦闘機動を取れつつあった。

「敵地上兵器を視認!各艦散開…!」

 砲台小鬼は攻撃力も高い。下手に沿岸部に近づいては駆逐艦や巡洋艦の方が危ない。

「艦砲射撃用意!目標右舷敵砲台っ!」

 ゴロゴロゴロ…と音を立て5000馬力水圧駆動の主砲がゆっくりと右旋回する。アイオワもそれに倣い、砲台小鬼を狙う───そして、この時点で彼我の勝敗は決した。沿岸砲の射程に対し、戦艦の主砲は圧倒的に優位な射程を有しているのである。

「撃ッ‼︎」

「Fire!」

 一方的な砲撃!…砲台小鬼は完全に出落ちとなってしまった。戦艦の艦砲射撃に耐え得るはずもなく、圧倒的な投射量と破壊力を前に、粉微塵に文字通り地形ごと吹き飛ばされてしまう。

 ついでとばかりに敵の姫クラスの深海棲艦にも砲弾をお見舞いする。滑走路らしき構造物のうち一つに損害を与えた。

『敵の地上目標破壊を確認!これで地対艦攻撃の脅威が減る。よくやった、大和、アイオワ!』

「この程度、お茶の子さいさい、という奴です。」

 ふふん、ど自慢げに大和は胸に手を当て言った。その時…。

「ふっふーん頂き!」

 ドォン!と別方向で巨大な水柱が上がる。真っ黒い残骸や青黒い液体が混じっていて非常に汚い。

『艦隊に接近中の敵駆逐艦を水雷戦隊が撃破!助かったであります!』

 その光景を見ながら、大和は周囲を見渡す。

「随分敵の数が減りましたね…。」

『ああ希望が見えてきた。』

 その提督の言葉を聞いて、大和はフッと笑う。

「希望なんて…私たちがここ()に立っている時点で、最初からあるものです。」

『そうだな…よし、引き続き作戦を続行するんだ。』

「了解…!」

「yea!」

 反転、そして増速───燃える島影を背に、大和たちは再び敵艦隊との戦闘に舞い戻る。

 とは言っても、航空隊と水雷戦隊の無類の活躍、さらには高速給糧艦の助けもあって、随分な数であった深海棲艦にも数のばらつきが見られた。

「撤退しませんね…余程砲弾が大事と見えます。」

『魅力的な“おもちゃ”は、誰でも持って振り回したくなるものだ。』

「おもちゃ…?」

 通信を介してそう言ったのは、例の潜水艦(アリコーン)の直属の上官らしい男、マティアス・トーレスであった。

『少佐。作戦中の雑談は───』

『失礼失言だったな、作戦を遂行してくれ。』

 いい加減、横瀬の叱責に飽きたのか、言葉を遮り彼は会話を強制的に終了させた。

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 

 9月20日 15時39分

 

 中部太平洋沖合

 

揚陸開始(ゼロアワー)まであと1分!』「艦尾開放!泛水(へんすい)作業開始であります!」『ウェルドック注水完了、LCAC発進用意…!』『これより鹵獲作戦に移行…!』

 深海棲艦が拠点としている島までは最早目と鼻の先だ。

 周囲の敵艦はあらかた一掃され、残された陸上戦力や姫クラス陸上深海棲艦も苛烈な砲爆撃を受け揚陸艦を攻撃できないようだった。

『随分と手こずったな。私は退席する…後の指揮は任せる。』

 作戦指揮官が途中退席とはどういう了見だ、と怒鳴りたくもなった艦娘一同ではあったが、横瀬に対する信頼など皆無に等しいので、それ以上は特になんとも思わなかった。

 なんであれば、居なくなってくれた方が良い。

『一隻の損失艦も出さずに、みんなよくやってくれた…ありがとうな。》

「いや〜そんな事ありませんよ。」「オレがいれば当たり前だな!」「私の実力、見てくれた⁉︎」「一航戦の誇りですから!」「ぽい!ぽ〜い!」

 やいのやいの。

 趨勢は決した───そんな中でただ1人、件の潜水艦アリコーンだけが、火の粉と炎の入り混じった黒煙を濛々(もうもう)と上げる敵を凝視していた。

『どうした?アリコーン。』

「艦長…彼奴、まだ生きています。」

『何…?』

 その時、敵の一角が動く。

 ニョキッと何かが迫り出してくる…?それを認めた瞬間、ザワッ!と全身の毛が逆立ち、冷や汗が噴き出す。アリコーンは目をかっ開いた。

 サイズに比して短い砲身、寸胴で角ばった砲塔、二股に分かれた形状…そのどれもが、アリコーンの知っているもので、彼女が持っている物(・・・・・・・)だった。

 アレは…‼︎

『確かか?』『揚陸艦[Boston(ボストン)]より全艦艇へ!深海棲艦が移動開始!』『0時方向、微速中!』『滑走路上の航空機に離陸の動きあ』

「みんな逃げてッ───」

 

 ドッッガァァァアンッッ‼︎‼︎

 

 寸前で全てを察したアリコーンの絶叫はついに届かなかった。

 

 真っ赤な閃光とともに放たれた極超音速の砲弾が、[Boston(ボストン)]、[San Francisco(サン・フランシスコ)]、そして───あきつ丸の艦体を貫き通したのである。




今月中に次話を投稿できるといいなーと思うです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。