不格好でも飛びたい   作:かささー

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第1話 きっかけ

 

 人生何が起こるかわからない。

 

 こうしてバレーボールに触れているとついそんな言葉が頭に浮かぶ時がある。でも仕方ない。高校でバレー部に入るまでバレーはおろか、球技にすらまともに関わってこなかったのだから。そんな俺が今となっては暇さえあればバレーボールに触っている程にまでバレーに染まってしまってしまうなんて、俺を含めて誰も考えもしなかったのだから。

 因みに別の高校に行った中学の友人にバレーにハマった旨を伝えたところ、まず驚かれ、そして盛大に笑われた。イラっとしたので取り敢えずぶん投げておいた。

 

「はいこれ弁当」

「ありがとう」

 

 手渡された弁当を受け取り、見送りに来てくれた母に告げる。朝早いが故に音量は控えたが気合とやる気は十二分! そんな俺の様子を感じ取ったのだろう。母は呆れた様に苦笑していた。見透かされた事に恥ずかしさはあるが、それだけでは今の俺は止められない。

 

 玄関の扉を開けるとそこはまだ夜だった。いや、夜というのは語弊がある。夜の様に暗いのは西の空だけで、東の空はかなり明るくなってきている。それがどうした。

 冷えた空気が刺さるように体温を下げようとしてくる。だがそれがどうした。

 そんな程度じゃ俺は止められない。早くバレーがしたくて仕方がない。

 

「じゃあ行ってきます!」

 

 扉を閉めて駆け出す。目指すのは烏野高校。俺がバレーボールと出会った場所だ。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 新学期や新生活のスタート。そんな春は出会いの季節だと人は言う。新しい友人だとか新しい趣味だとか、何に出会うかは人それぞれだろう。だけど俺はそんなこと考えたこともなかった。いや別に否定とかそう言うわけではなく、単にそこまで大げさなものじゃないだろうって言いたいだけだ。

 

『暖かい風が春の陽気を乗せて——』

 

 なんてらしくない事を考えてみたが、どうやら潰せた時間はほんのわずかだったらしい。壇上で長々と語るお偉いさんは今もその勢いを維持したままだ。終わる気配が微塵も見えない。

 

 というか真面目に聞いている奴が俺含めほぼいないっていうのはどうなのだろうか。寝ている奴が大半だ。まあこんな祝典の場で公に叱るなんてできないだろうから仕方ないのかもしれないが。

 で、残りの人達は必死に笑いをこらえている。理由は明白だろう。今壇上で校長先生の代理として祝辞を述べている教頭先生を見上げた。キッチリと整えられたスーツ、緊張など感じさせないハキハキとした言葉使い、そして妙にフサフサとして不釣り合いの髪。もうお分かりだろう。十中八九ヅラを着けている。そして壊滅的に似合っていない。そのダサさにどうしても耐えられない。ああやばい、意識しだしたら……ブフッ。

 

 なんて吹き出しそうになるのを必死で耐えているうちに、ありがたいお言葉は締めに入った様だ。

 

『以上を持って祝辞とします。ようこそ烏野高校へ』

 

 そうして俺は——星野綾人は烏野高校に入学した。

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「こんにちはー、サッカー部はいかがっすかー」

「野球部歓迎します!」

「絵に興味ありませんかー?」

 

 高校初の帰りのホームルームも終わり、片付けを済ませて廊下に出た俺は気づけば上級生に囲まれていた。セリフから部活の勧誘というのはすぐに分かったが、側から見れば完全にリンチじゃないだろうか。場所が悪ければ通報ものだと思う。

 

「あ、あー俺まだ部活見て回りたいんで……」

 

 当たり障りのない返しで取り敢えず先輩包囲網から脱出する。抜け出して気が付いたが、どうやら俺が廊下に出てきた新入生第一号だったらしい。きっとうちのクラスが一番早くにホームルームが終わって、その中で一番に廊下に出たから目立ったのだろう。そりゃ囲まれる訳だ。ロックオンするべき標的が1つしかないんだもの。

 

「さて、どこを見に行こうか」

 

 手に持っていた冊子に目を落とす。これはさっきのホームルームで配られたばかりもので、学校のマップから部活など色々書かれている。下の隅っこに生徒会と書かれた印が押されているのをみるに生徒会が作ってくれたものだろう。正直とても助かる。

 部活紹介のページを開いた。何かしら部活には入りたいと思ってはいるが、別にこだわりはない。それなりに興味持てて人間関係ズブズブじゃなければ極端な話どこだっていいからな。取り敢えず、片っ端から見に行こ

 

「ああぁぁ! どいてどいて〜〜!!」

「ぐぇ!?」

 

 うとして後ろから強い衝撃、そして吹っ飛ばされた。ダメだよ後ろからタックルは。問題になったところあったでしょ。まあ今回は運良く怪我もしてないし気にしないけど。

 

「ごごごごめんなさい!!!」

 

 身体を起こすと目の前にオレンジが。いや違うオレンジ色の髪か。見事なまでの土下座で目の前がオレンジになっていたらしい。

 

「大丈夫だよ。特に怪我もないし」

「いやでも体育館に早く行きたくて思いっきり突っ込んじゃったし……」

 

 余程早く体育館に行きたかったのだろう。反動で物凄い後悔と反省の念が伝わってきた。ていうかこれ以上は変に注目されかねない。

 

「ホラこの通り俺は大丈夫だって。それより体育館はいいのか?」

「ああそうだ体育館! ありがとう今度お詫びさせてくれ!」

 

 じゃあなっ!!

 そう言ってオレンジくんは去っていった。お詫びなんかいいんだが、まぁ貰えるものは貰っておこう。それにしても体育館に一体何があるのか。何がオレンジくんをそうさせるのだろうか。

 

「バレー部、かぁ」

 

 冊子の体育館のページにはバレー部と書かれていた。

 

 

 

 

 

 さて、取り敢えず体育館までやってきた。特に見て回りたい場所もないわけで、さっきのこともあったからどうせなら体育館から見てみようという訳だ。扉に手をかけて、いざ。

 

「おじゃましま……?」

 

 何? なんか空気が重い……。

 

 

 

 

 

 黒いジャージに身を包んだ男の人がピシャリと反対側の扉を閉めた。背筋が凍りそうなほど重い言葉とともに。

 他人事でも気まずい所に遭遇してしまった。流石にこの中に飛び込む勇気はない。また後で来よう。なんて考えていたら扉が動き出した。ホラーでもなんでもない。ただ横開きで半開きの扉に体重をかけて動かしてしまっただけ。あ、と思っても既に遅かった。大きな音を立てるとともに、先輩らの注意を集めた。

 

「あ、どうも……。こんにちは…………」

 

 掠れた声しか出なかった。

 

 

 

「やー来てたなら声かけてくれよびっくりしたじゃないか」

「す、すみません」

 

 結局雰囲気的にあの状況からおさらばする訳にもいかず、体育館に残った。

 

「あー見苦しい所見せちゃったな。俺は澤村大地、キャプテンだ」

「俺は菅原孝支。んで、こいつが田中龍之介。おいその顔ヤメロ威嚇ヤメロ」

「最初が肝心なんすよスガさん。先輩としての威厳をっ!?」

 

 落ち着いた雰囲気の主将の澤村先輩。一見優しそうだが、さっきの背筋も凍る圧力を出していたのもこの人だろう。怒らせたらヤバイタイプの人だな。

 んで隣の人が菅原先輩。この人もとても優しそう。澤村先輩の例があるからなんとも言えないけど。

 そして菅原先輩に首根っこ掴まれたのが坊主の田中先輩。強烈な見た目だけど自分で先輩の威厳とか言ってるあたりただ空回ってるだけじゃないだろうか。

 でも、いい雰囲気だと思う。この3人だけが部活の全員ではないだろうが、この部活なら楽しくやれるんじゃないだろうか。

 

 自己紹介してくれた先輩にならって俺も自己紹介した。

 

「えと、星野綾人です。よろしくお願いします」

 

 取り敢えず最低限。名前だけ答えた。新学期一発目の自己紹介でもないし、何を言えばいいのかが分からないから。聞かれたら答えるスタイルで乗り切ることに決めた。

 

「星野、だな。ここに来たってことはバレー部に用があるって事で良いのか?」

「もしかして入部希望か!?」

 

 来るとは思っていたが、こんなにも早く来るとは。まぁ変に気を使われて引き延ばされるよりはマシなんだけども。ただそれのはっきりした答えを持っていない。ちょつと困ったな……。

 

「あーえっと、なんて言えば良いのか……」

 

 菅原先輩の笑顔が辛い。

 いや、ここは変に取り繕わずに正直に話すべきだろう。

 

「あの俺」

「うんうん」

「バレーボール初心者なんですけど、入部できますか?」

 

 

 

 

 

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