不格好でも飛びたい   作:かささー

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第4話 1年生

 

 

 記念すべき高校生活2日目。今日は授業は行わずにガイダンス的な行事だけだから昼過ぎには放課になるらしい。つまり部活の時間がすぐに来るということ。

 バレーの興奮が冷めやらぬうちにもっとボールに触りたいものだ。

 

「オラ足止めんな!」

「ぐぬぬ…………」

 

 校門をくぐり少し歩いたところにある空きスペースから声が聞こえてきた。部活の朝練にしては場所的に少しおかしい。狭いし。

 声の主に目を向けるとそこには制服を着た二人組がいた。バレーボールを持って。

 

 目が合う。

 

「あ」

「…………あぁ?」

「ああーーー!!」

 

 見たことがある。手前の彼は目立つオレンジ頭だ。昨日突撃されて、その後体育館から締め出されていた気がする。ということは奥にいる黒髪の彼もその時一緒に締め出されていたやつだろう。ある意味特徴的な二人組だ、見間違いではないだろう。

 

「お前昨日体育館にいたな! バレーやんのか!?」

「うわ、ちょっと落ち着いて!」

 

 互いが互いを認識した次の瞬間、オレンジくんが詰め寄ってきた。それはもうぶつかりそうになるくらいまで寄ってくるもんだからびっくりするってものだ。

 

「昨日バレー部に仮入部したんだ。名前は星野綾人、よろしく」

「そうだったのか! あ、俺日向翔陽!」

 

 質問に答えてからまだ自己紹介をしていなかった事を思い出した。その流れでオレンジくん——日向くんと自己紹介を交わす。ちなみに奥にいる黒髪くんはやはり昨日体育館の外にいた影山くんらしい。日向くんがアレ影山な、なんて言った時は少々揉めていたが、取り敢えずこれで2人と自己紹介をすることができた。

 

「そう言えば日向くんたちは「日向でいいよ」……日向たちはどうしてここでバレーやってんの?」

 

 正式に自己紹介が済んだのでずっと気になってた事を聞いた。土曜に試合することは昨日聞いていたけど、朝練には出ないのだろうか。

 

「————になったから…………」

「え?」

「だから……っ、体育館出禁になったから」

 

 悔しそうな顔をしながら、日向はそう呟いた。

 それを聞いてハッとする。確かに昨日日向たちは一歩も体育館に入っていない。少なくとも俺があそこに行ってから一度も。決闘宣言の時も澤村先輩は扉の前でずっと構えていた。単に外にいた日向たちと話をするための位置取りだと思っていたけど、もしかしたらそういう意味もあったのかもしれない。現に扉を閉めるまで、先輩は一歩もそこを動かなかった。

 

 出禁になった理由は…………聞かない方がいいかな?

 

「こいつのクソレシーブのせいで教頭のズラ吹っ飛ばしたせいでな」

「ぶふっ!」

「な…………! あれはお前が——」

「何が前とは違うだ。期待して損したクソが」

「昨日も聞いたそれ! 一々一言多いんだよ! お前こそチームメイトの自覚できたのか?」

「だから一緒に戦えばチームっぽく見えるつっただろうが。そのためにお前のクソレシーブをなんとかしようとしてんだ」

「またクソレシーブって言いやがったなぁ!」

 

 日向と影山くんが言い合いを始めてしまったけど、今の俺には止める余裕なんて無かった。聞くつもりのなかった理由が思ってた以上にヤバかったから。

 

 教 頭 の ズ ラ 吹 っ 飛 ば し た せ い で

 

 パワーワードが過ぎる。あのバレバレな秘密のベールが解放される状況。大変失礼な自覚はあるが、他人事だからこそ吹いてしまった。想像するだけでヤバすぎる。

 

「ぐぬぬ…………、っとそう言えば星野はバレーボール経験者か?」

 

 ひとしきり言い合ってから、唐突に日向は俺に話題を振ってきた。気がついていないのかスルーしているのかは知らないが、あ、逃げたなコイツって顔をする影山に日向は一切触れなかった。

 

「いや、俺は初心者だよ。だから昨日は仮入部だけだったんだ」

「そうなのか。影山ほどじゃないけど背ぇ高かったからてっきりバレーやってたのかと思った」

「ふーん。ちなみに影山くん身長は?」

「180。あと呼び捨てでいい」

「あっそう?」

「うぐ……、じゃあ星野は?」

「俺? 俺は178.3cm」

「なんだと!? ぐぬぬ…………」

 

 180cmの大台は男のロマンだ。それにすでに乗っているとはなんて羨ましい。成長期のせいか去年だけで一気に背が伸びたから、多分届くと思うんだけど、そろそろ成長期終わってしまいそうでちょっと怖い。

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 

「「「ん?」」」

 

 そんな時突然ベルのような音が鳴り響いた。いや、これが何かなんてわかりきっている。学校のチャイムだ。では今の時間は? 今のチャイムは何の合図だ。

 

 時間を確認する。時計の針は朝のホームルームの5分前を示していた。つまり、今のチャイムは…………!

 

「やべっ遅刻する!」

 

 今のチャイムは予鈴! つまりあと5分で遅刻となってしまう。けどここから教室まで普通に歩いたら5分はかかるかもしれない。一年の教室は校舎の奥の方にあるから。

 

「走るぞ日向、影山!」

「うわっやべぇ! 待ってくれよ星野〜!」

「な!?フライングだぁテメェら!」

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

「朝からそんな事があったのかー」

「えぇもう大変でした」

 

 今日も今日とて仮入部の俺は部活に行く途中の菅原先輩とばったり会ったのでそのまま一緒に体育館を目指していた。道中日向たちと一緒に遅刻しそうになったことを話しながら。

 

「にしても凄いなーあいつら」

「? どうしてですか?」

「いやな? あいつら体育館っていうか部活動に出禁だから朝練前に秘密特訓してたんだよ。俺と田中も付き合った。んで、それやって更に特訓って頑張ってるなーって思ってさ」

「た、確かにそれは凄いですね」

「ホントにバレーが好きなんだろうなー、最早バレー馬鹿って感じだ」

 

 バレー馬鹿。確かにしっくりくる表現だろう。あそこまでバレーに打ち込めるのは馬鹿にしか出来ない。でも見方を変えれば、それほどバレーに打ち込める熱意があるということ。果たして俺に、それだけの熱意があるだろうか。

 

「大丈夫だべ」

 

 そんな時、菅原先輩が呟いた。

 

「あいつら程の熱意が無くても。やる気があるなら、バレーが好きならやっていけるべ」

 

 上っ面の慰めなんかじゃない。今までそうして続けてきた先輩の言葉には実体験による意味が、重みがあった。

 

「なるほど、ありがとうございます」

 

 好きだからこそ続けられる。じゃあ…………あの頃の俺には好きなんて感情は残っていなかったのだろうか。

 

 

 

「うぃーっす」

「う、うぃっす」

 

 菅原先輩に習って挨拶する。いきなりこんな挨拶で大丈夫かとも思ったが、同じように返事を返してくれたのを見るに多分問題なかったのだろう。失礼が無かったようで少しホッとした。

 

「おお来たな。スガ、今日この後新入生が2人来るから頭入れといてくれ」

「ああ、昨日に入部届もらったっていう?」

「そういう事だ。取り敢えずネットとか準備しながら待つぞ」

「ラジャー」

 

 そう言って菅原先輩は準備のために体育倉庫へと向かった。隅の方で待ってていいと言われたけど、シロウトと言えども何もせずにいるのは申し訳ないので何かできることはないかと手伝いを申し出る。幸い快く申し出を受けてくれた菅原先輩は嫌な顔をせずに説明しながら準備を手伝わせてくれた。

 

 そして作業がひと段落ついた時、合流した田中先輩と一緒に先輩は大きな欠伸を漏らした。

 

「眠そうだなお前ら」

 

 澤村先輩のただの疑問。しかし先輩2人はそうは受け取れなかったようで、ギクリと肩を揺らした。

 

「そ、そうかな? 勉強のしすぎかも?」

「お、俺も勉強をチョット」

 

「お前に限ってそれは無いっ」

「ええっ!?」

 

 

 

「失礼します」

 

 

 

 菅原先輩たちが必死で言い訳? をしていたその時、綺麗な制服に身を包んだ二人組が入ってきた。メガネをかけた長身のやつとそばかすが特徴的な男子だ。俺と同じ1年生だろうか。ていうかメガネかけた方背高いな。

 

「おお来たか」

 

 澤村先輩が入ってきた二人組を出迎える。先輩と2人の話を聞くに、どうやら彼らはさっき先輩たちが話していた入部予定の1年生らしい。昨日の日向くんらとは別口。ということは彼らの試合相手はこの2人になるらしい。そして案の定というか、2人もバレーボールの経験者のようで。…………この調子だとバレー部で未経験者は俺1人になりそうだ。その事実に少しだけ不安になる。

 

「キミも入部予定の1年生?」

 

 未経験な状態でこれからやっていけるか、なんて考えていたら件の2人が近くまで来ていた。無視するのもよろしく無いので、返事をしよう。取り敢えず自己紹介だ。

 

「いいや、まだ仮入部だよ。俺は1年5組の星野綾人」

「ふーん。僕は月島蛍、1年4組」

「俺は山口忠。ツッキーと同じクラスなんだ」

「で? なんで仮入部?」

 

 自己紹介に応じてくれたお陰で顔と名前を一致させることができた。長身でメガネをかけているのが月島くんでそばかすの彼が山口くん。どっちも俺より背が高い。俺だって平均身長よりそれなりに高い方なんだけどな……。

 

 しかし仮入部ということに月島くんが気になるのも当然だろう。経験者の彼からすればわざわざ仮入部を挟む理由に検討がつかなくても仕方がない。口にはしなかったが後ろにいる山口くんも気にはなっている様子だ。

 しかし俺にはどうしてか、疑問の言葉を投げかけた当の本人に、言葉とは裏腹にそれに興味があるようには見えなかった。

 

「俺バレー未経験だからさ。先輩らの好意で取り敢えず仮入部から、ってなったんだよ」

「へぇー」

 

 答えたけど、月島くんからの返事は思った通り興味がなさそうな感じだった。

 いや、もしかしたらこんな感じが月島くんのデフォなのかもしれない。言われたところでへぇー、な程度の疑問だろうし。彼はクールとかクレバーとかそんな感じが似合うだろうか。

 

「にしてもよくバレーボールなんて選んだよね。初心者のキミには難しいデショ」

 

 笑いながら問いかけてきた月島くんだが、その笑みは笑顔ではなく揶揄いだった。前言撤回。君性格悪いな?

 

「まぁね、すごく苦労してるよ。けどすごく楽しいよ」

 

 下手なのはどうしようもない事実だけど、バレーが楽しいっていうのも嘘偽りない本音だ。俺も先輩たちのようになれたらって思う。

 

「…………ふーん、いいんじゃない? 楽しくやれるなら。たかが部活なんだしね」

 

 そう言い残して、月島くんと山口くんは去っていった。

 たかが部活、そういう考え方も間違っては居ないと思う。3年だけのものだし、一生を掛けるわけでも無いのだから。けどあの時の月島くんにはそれだけじゃない何かあったような気がした。会ってまだ間もないし流石に気の所為だと思うけども。

 

「集合!」

 

 澤村先輩の号令がかかった。よく分かっていない憶測を頭から追い出し、整列する。前の列に先輩方、その後ろに俺と月島くんたち。今日は出来る範囲で部活の練習に混ぜてもらえるから、今からとても楽しみだ。

 

 一生懸命にやろう。今朝あった日向たちみたいな熱情は無いかもしれないけれど、今あるやる気と楽しさは負けるつもりはない。

 

「——以上だ。それじゃあ練習始めるぞ!」

 

「「「はい!!」」」

 

 

 

 

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