【完結】春野ムサシは勇者(ウルトラマン)である 作:渚 龍騎
幾度となく考えては振り払った思考が、また脳裏を過る。
コイツを逃したせいで数多の命が失われた。
それは自分の過ちだった。故に、予見されたのであればそれを必ず執行する。
宇宙の脅威になりうる存在は正義の名の元に執行しなければならない。
責任感で押しつぶされそうになりながらも、この身ある限り戦うと覚悟した。
しかしそれは、
奇跡など、夢などと曖昧なものばかりを信じる人間が嫌いだった。
それなのに、決して諦めず『
コスモスやムサシの訴えた『優しさ』
守るために戦う『勇気』
諦めなければ必ず叶う『夢』
全てを知り、人類を信じることを誓った。
今も、倒したはずのサンドロスが目の前にいる。
私自身が手を下さなければならない。そんな自己中心的な考えは振り払う。今はコスモスの信じる『勇気』たちと共闘する。
倒れたコスモスの代わりに、この世界を守らねばならない。
コスモスの信じる『希望』と『夢』を胸に抱いて、戦うと決めた。
人間は愛するに足る存在だと、自分は知っている──故に、戦う。
予め心を定めたが故か、その芯は鋼だった。如何なる苦難も、如何なる誘惑も
『──ダァッ!』
ジャスティスは吼える。
破滅の象徴。そして同時に、憎悪と欲望の塊。
闇を纏えば最悪の魔獣。嘲笑うかのような声が響く。
サンドロスを殺すためにジャスティスは駆け出した。
禍々しい笑み──それはジャスティスの背筋に微かな寒気すら抱かせた。
『──ハァァッ!』
四つ裂けた口から紅蓮の火炎弾が放たれる。
紙一重でジャスティスが避ける。あらゆる攻撃に悪意があり、憎悪があり、執念があった。
ジャスティスが拳を叩き込む。だが当たらない。それは徐々に押し返され、ジャスティスは宙に弾き飛ばされる。
大地をバウンドし、周囲の土を巻き上げる。
闇の魔術師。ヤツはただの魔獣ではなく、闇を操る魔術師なのだ。
ウルトラマンの体を簡単に吹き飛ばせる念力は強力。触れずしてジャスティスを吹き飛ばした。
「ジャスティスを援護ッ!」
風の叫びと共に散開。
「ゆーゆ!にぼっしー!行くよ!」
先代勇者の園子はかつてリーダーをも務めた。
一人一人の癖を理解した上で、彼女は風の次のリーダーにもなれるほど素早く状況を判断して二人を呼んだ。
放たれた火炎弾を園子が防御。紅蓮と桜が一気に詰め寄って、サンドロスの前に躍り出た。
花のように開かれた腕が振るわれる──そんなことはさせない。
翡翠の
何かが体を締め付ける。
突き出そうとした拳。振り払おうとした刀。呻くことだけが精一杯で、手のひらを開くことすらもできない。
「させない──ッ!」
紺碧の光弾。それは寸分の狂い無く放たれ、サンドロスの顔に衝撃を与える。
「□□□□ ──ッ!」
友奈と夏凜を拘束するサンドロスの念力が解除され、二人は大地を転がった。
「友奈、夏凜!無事!?」
二人のもとに風と樹、園子が駆け寄る。
不意に、全員の背後に悪寒を抱いた。絶望的な悪魔のような生物、嘔吐を催すほどのこちらに対する
呪いのような声がする。その笑いに勇者たちは慄然とする。邪悪な存在であるサンドロスから思考は感じられない。更なる闇を得て、勇者たちを破壊することだけが本能のままに闇を扱う。
「なんて力……!」
念力。それは念じれば物体を動かし、あらゆるものを壊す力。
サンドロスの口が裂ける。その異形の姿と圧倒的な憎悪の眼差しから、一秒経つごとに悪寒は膨れ上がり、とてつもない恐怖が体を支配する。
最早、サンドロスにとって言葉は音の羅列に過ぎず、意味を解釈することすらできない。それも当然だ。ヤツはチカラを得ることを選んだ。
ただ”殺せればいい”
何もかもが曖昧で、何もかもが闇の彼方へと立ち去ってしまった。残ったのは殺意と、朧げになった──「憎悪」だけだ。
狂乱の唸り声と共に、目の前の敵を破滅させる。
魔獣が、猛る。
「っ!」
足が震える。剣を持つ手が小刻みに震えている。
そこで初めて自分が喉を鳴らしながら短く何度も呼吸していることに気がついた。
目の前にあるのは圧倒的な
今まであったはずの希望と勇気が、恐怖に包まれる。
『──デヤァッ!』
圧倒的な恐怖が、
恐怖だけで、彼を止めることなどできない。
彼を動かすのはその正義に対する信念。その心を折らない限り、彼が走りを止めることはない。
そのジャスティスの姿が、勇者たちを動かした。
「負けられるかぁ!」
支配する恐怖を振り払って、風が吼える。
「□□□□──ッ!!」
その瞬間、空間が揺れる。大気中が震え、一つの咆哮が響いた。
勇者たちを越え、ジャスティスの横を通り過ぎて
「……!あの怪獣は!!」
振り返り、目を見張った。
三日月型の角。岩のような巨躯。
そこにいたのは、コスモスが救った古代怪獣──ゴモラだった。
「行けッ!ゴモラッ!」
どこかで声が響く。光輝き、ゴモラは咆哮する。
サンドロスの放つ火炎弾をものともせず、ゴモラは突進。続いて勇者たちとジャスティスも駆け出した。
春野ムサシとは、本物の優しさを持った青年だった。
最後まで夢を諦めず、信じることを疑わなかった。
誰もが
どれだけ罵られ、どれだけ馬鹿にされて、それでもムサシは諦めなかった。
───全てを信じていた。
故に彼は、諦めを知らない。
守るために、防ぐために、彼は命を惜しまない。
ウルトラマンコスモスは、彼に夢と希望を与えた最高の友人だった。
信じ続け、諦めなかったムサシに対するコスモスとの出会いは、神からの贈り物のようなもの。
鋼の精神。心に剣。輝く勇気。
その全てが、ムサシに力を与える。
時に、ムサシは思う。
争いそのものが無くなれば、誰も傷つかない。
だが、強い力はさらに強い力を引き寄せる。
決して、叶うことのない泡沫の夢。だから、一人でも、一体でも多く人や怪獣を救いたい。
様々な命が支え合って生きていく世界を、見つめていたい。
誰かに呼ばれたのかもしれない。
その優しさを信じて、誰かが呼んだ。
この世界は既に終わっている。それでも、未来を信じる
誰であっても救おうとする姿に心を奪われて、
どんな因果か理か、ゴモラを操る青年は最後まで信じて『バトルナイザー』を握り締める。
彼は、人々から
しかし、彼の姿は誰にも見えない。気が付かない。まさかゴモラを操る人がいるなどと思わないから──。
それで良いのだ。コスモスが救った希望のために戦えれば、それでいい。
この星の未来を守るために、俺は戦う──。
「ウルトラマンコスモス!」
青年の体は光に包まれ、人の姿から一変。ゴモラがチカラを取り戻して、覚醒する。
青年はゴモラに命じ、天に向かって吼え猛る。
「俺のチカラを!彼女たちが信じる
滲み出るような光がどこかに向かって伸びていく。
そして、彼女たちも───
皆、希望を信じる。
三人は特に知っていた。コスモスやムサシの希望と夢。どれも諦めない心を持って戦うことを知っている。
手を取り合い、共闘して、未来を掴む。希望という言葉の素晴らしさ。
結城友奈、犬吠埼風、犬吠埼樹、東郷美森、三好夏凜、乃木園子。
六人の勇者は吼え猛る。
「勇者部五箇条ぉ!」
風が吼える。
それは勇者たちを支える希望の言葉。
一つ。
「挨拶はきちんと!」
友奈が吼える。
二つ。
「なるべく諦めない!」
美森が吼えた。
三つ。
「よく寝て、よく食べる!」
樹が叫ぶ。
四つ。
「悩んだら相談ッ!」
夏凜の叫び。
そして、最後。
「成せば大抵〜!」
園子が叫んだ。
それは未来を掴む言葉。
コスモスの信じた星の命。
コスモスに与えられた夢と希望を──。
最後の一言。咆哮は獣の如く。
『『なんとかなる!!』』
瞬間。皆の『
勝て、と己の内側で誰かが叫ぶ。
勝つ、と己自身が吼え立てる。
自分たちのチカラだけでは成し得なかった。
静止した彼らの時間が動き出す。
夢を懐きし、少女たちの希望。
未来を掴む、青年と怪獣の心。
その全てが、彼らにチカラを与えた──。
───ムサシ、力は満ちた。
溢れるような想い。温かな希望。光り輝く夢。
みんなの声が、僕に──。
闇に抗い、絶望を否定する。
『優しさ』『強さ』『勇気』。さらに、みんなの持つ『希望』
その全てが、ムサシの体を包み込んだ。
闇を照らす光。
煌々とする輝きはムサシの握る輝石に──。
ムサシの脳裏に皆の姿が映る。
友奈、風、樹、美森、夏凜、園子、ジュリ。そして、コスモス。
誰か一人でも欠けていれば、この希望は紡がれなかった。
細い糸を手繰り寄せ、それは奇跡に等しい、出会うことのなかった物語たち。一つ一つが星のように輝いている。
────聞こえる。
希望を呼ぶ声が──。
────聞こえる。
未来を諦めない声が──。
全てが聞こえる。
ばくん、と心臓が跳ね、カッと目を見開く。
右手が閃き、ムサシは輝石を握り締める。
「コスモス!僕はみんなと一緒に!未来を掴む──!」
そして煌めく、眩い光。
最後まで希望を捨てずに立ち上がる。
最後の──瞬間まで。
体が軽くなったような浮遊感と例えようもない心地よさ。時間の感覚が失われる。
輝石を天に掲げ、ムサシは叫ぶ。
「──コスモォス!」
極限至高の輝き。
やがて、祝福するかのように光がすべてを包み込んだ。
『おぉぉぉぉぉぉぉッ!!』
吼え猛る勇者。
嘲笑いながら、サンドロスの口が裂ける。体内から溢れるような獄炎を溜め込み、一気に撃ち放つ。
それをジャスティスが弾き飛ばすと、勇者たちは一斉に攻撃を畳み掛けた。
望みを捨てるな……!
己の内側で誰かが叫ぶ。
そんなことわかっている。
ジャスティスの
『──デェヤ!』
爆速で放たれた蹴りがサンドロスの胸に直撃。だが花の形をした腕がジャスティスを薙ぎ払う。あまりの強烈な一撃にジャスティスの体は火花を散らしながら、宙で一回転。大地に叩き落とされた。
素早くゴモラが突進するが、押し戻され、火炎弾をもろに受けてしまう。
「……くっ!立てッ!ゴモラ!」
青年は片腕を抑え、痛みに呻く。
そしてサンドロスの背後から紅蓮が駆け抜けて、炎刀を振るった。
振り返りざまに、黄金と桜が舞い踊り、猛烈な一撃を異形な形の顔面を叩く。
その瞬間、両腕から歪むような光弾が放たれ、三人を吹き飛ばし宙で静止させた。
みしみしと骨が軋むように締め付けられ、どんなに抗ってもそれから抜け出すことができない。
サンドロスの体が翡翠の蔦によって封じられるが、たった一瞬のみ。
美森がいくつもの光弾を撃ち放つ。だが、サンドロスの気すらも引くことができない。園子の一撃も、まるで効いていなかった。
空中で固定されるように封じられる三人に向けて、サンドロスは火炎弾を放った。
それは、ウルトラマンをも簡単に吹き飛ばす威力。たとえ勇者の力があろうとも、『死』の可能性すらある。
死ぬ、と不意に悟った。
短く濃密な人生を振り返る余裕はないが、不意に湧き上がった想いがあった。それを無視するわけにはいかず、死の覚悟より、生への執着が上回る。吼えた。生き残りたいと、太く短く吼え立てた。
獄炎の火炎弾が眼前に迫る。こうなってしまえば、もう手の打ちようはない奇跡などなく、偶然などなく、神であっても手を差し出さない。
────もし、彼女たちに助けがあるとすれば。
それは最後まで希望を信じて奔走し続けてきた者が、先の叫びを聞いて場所を確信し、突っ走るしかない。それでも間に合ったかどうかはわからない。
しかし、それは違う。
偶然でもなく、必然でもない奇跡。
人類と地球を守るために存在するべき力の意志だ。
全ての宇宙において、それはこう呼ばれる者である。
即ち────
その一瞬で、誰もが驚愕する。一秒後の待ち受ける死の世界に、光の乱入者。
放たれた獄炎が消される。理性すら失ったサンドロスでさえも──刹那で異常を察知した。
───あの光は、なんだ?
三人の視界は光に包まれ、獄炎から守ってくれたその光を見つめる。
光は人の形に変化。その光に、一瞬眼を見開き、すぐに声を上げた。
「──ウルトラマンコスモス!!」
数多の声と、数多の想いで真の勇者が蘇り顕現した。
▽破滅魔超獣 サンドロス
▽多くの惑星を滅ぼしてきた巨悪。「強いものが弱いものを全て滅ぼし、支配するのはこの宇宙のルールである」と唱えている。
かつて宇宙正義によって将来危険な存在となる、と予見されていたがウルトラマンジャスティスによって猶予が与えられていた。だがその結果サンドロスが宇宙の秩序を乱す結果になった。
▽今作のサンドロスは闇の力によって遥かに強化されており、勇者やジャスティスを軽く凌駕するほど強い力を持っている。代わりに理性を失った。
▽謎の青年 レイ
▽ゴモラを操る謎の青年。闇の力によって暴走したゴモラを、元の姿に戻してくれたコスモスのために戦うことを決意している。