【完結】春野ムサシは勇者(ウルトラマン)である   作:渚 龍騎

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第三話 慈愛の勇者

 暗黒の巨人が讃州市を襲ってから二日。

 未だに大赦からの報告は無く、五人はまだ困惑していた。

 バーテックスとは違った力を持つ暗黒の巨人。そして、身を挺して勇者を守った青色の巨人。

 謎に包まれるばかりだった──。

 

 犬吠埼 風は部室に一人で携帯の画面を眺め、『大赦』からの連絡を待っていた。

 昨日は図書館で──あまり好きではないが──過去の資料を漁った。

 だが、当然誰もが見る場所にバーテックスの資料を置いてあるわけでもなく、目立った収穫は一つもなかった。

 大赦にもメールは送った。しかし連絡が返ってくることは一切無い。

 全てがおかしいのだ。

 外敵が進行を開始する際に、『神樹』は『樹海』と呼ばれる防御結界を展開する。しかし、今回のバーテックスが出現時に時が止まるのみで樹海が展開されることはなかった。

 

「……はぁ……」

 

 ため息をつく。

 勇者の手に負えないバーテックス。

 『満開』していないとはいえ、全くと言っていいほどに歯が立たなかった。

 あの青色の巨人がいなければ、今頃自分たちは──。

 

 青色の巨人は明らかに自分や他の勇者を守った──どれだけ傷ついてもその場から動かず、優しく語りかけるように頷いた。

 あの瞬間は忘れられず、今でも鮮明に記憶に焼き付いている。

 それにあの巨人──。

 破壊ではなく、まるで『浄化』させたように見えた。

 

 机に突っ伏し、肺に溜まった空気を吐き出したのと同時に、部室の扉が勢い良く開かれた。

 

「結城友奈!参上しました!」

 

 友奈が元気よく手を上げ、横にいた少女は静かに上げた。

 

「東郷美森、只今参りました」

「お、二人とも来たわね」

 

 二人は部室に入り、すぐさま風の近くに寄った。

 友奈が疑問をぶつける。

 

「風先輩何かわかりましたか?」

「いいや、何も。大赦から連絡も無いし」

「やはり大赦も予測できなかったようですね」

 

 「そうかもしれない」と東郷の言葉を肯定し、風はもう一度ため息をつく。

 勇者、バーテックス、巨人。全てが疑問だらけで何もわからない。

 バーテックスと思わしき暗黒の巨人に『勇者』は歯が立たなかった。だからといって、全てを青色の巨人に任せる、それは間違いだ。

 一人一人の『勇者』が無力ならば『勇者部』で戦う。

 

「みんなが集まったら説明するんだけど──」

 

 風の言葉を遮って、部室の扉が開かれる。

 顔を出したのは夏凜と樹の二人。『勇者部』が一人を除いて全員集まった。

 

「みんな揃ったわね。二人ともこっちに来てちょうだい」

 

 風は手招きし、全員を小さな黒板の前に集めた。

 バン、と勢い良く黒板を叩き、風は叫ぶ。

 

「これから作戦会議を始めるッ!」

 

 おー、と反応したのは友奈ただ一人。

 東郷は国防のためにと目を輝かせ、樹と夏凜はぽかんと口を開けている。

 

「アタシたちは今回のバーテックスに歯が立たなかったわ」

 

 チョークを手に取り、風は人型の何かを描いた。恐らく、暗黒の巨人(バーテックス)を描いたのだろうが、全員は理解するのに数十秒かかった。

 それは巨人ではなく、まるで──

 

「ヒトデ?」

「違ーう!見てわからないの樹!巨人よ巨人!あの黒い巨人!」

「ヒトデね」

「夏凜!?」

「ヒトデですね」

「東郷まで!?」

 

 唯一何も言わず笑っている友奈に視線を向けた。

 随分と涙目になった瞳を向けられ、友奈は困惑し様々な方向に視線を泳がせた。やがて風との視線を逸らした。

 

「ヒトデ……ですかね」

「友奈ぁぁ!」

 

 誰にも救われず、誰にも見放された風は泣き崩れる。

 それは置いといて、涙を拭きさり風はヤケクソに声を張り上げ立ち上がった。

 

「ええぇい!取り敢えずこれはあのバーテックス!!わかったわね!!」

 

 無理矢理言い放った。

 風に絵の才能が無いことはわかっていた。しかし、まともに『人』の形すらも書けないとなると、苦笑の他に何もない。

 何を言っても無駄とわかった風を除いて四人は乾いた笑いで場を抜ける。

 

「今回、バーテックスが来るのを大赦も把握してなかったと思う」

 

 風は無理矢理にも思考を変え、作戦会議を始めた。

 切り替えの速さは学校一かもしれない。

 

「私と風先輩の全力でやっと押し返せる程度でしたね」

「悔しいけど、私の刃は通らなかったわ」

 

 攻撃に特化し、威力だけなら友奈と風の二人が勇者部で最も高く、夏凜の刀はまともに喰らえば損傷は確実。だが、バーテックスには全くと言っていいほどに効いていなかった。

 

「風先輩の全力でやっと一撃……かなり厳しいですね」

 

 美森が言っていることは正しい。

 風の渾身を与えても、バーテックスは怯むだけで致命傷にはならなかった。

 相手にダメージを与えられるのが風、もしくは友奈の二人では勝つ以前に相打ちですらも無理な話だ。

 

「それにあのバーテックス、ただ暴れてるだけじゃない」

「姿勢や防御に構え、訓練でもされてるような戦い方だった」

 

 本能のままに動いているようには見えなかった。

 いや、建物を破壊する時のみだけは蹂躙の限りを尽くし、勇者との戦闘の際には巨躯とは思えない速さとその巨躯と見合った以上の力を満遍なく使った。

 格闘術に等しい体の使い方は、訓練された風と夏凜を遥かに上回る。

 体が巨大なだけならいくらでも対策を練られる。だが、あまりにも今回のバーテックスは強過ぎた。

 

「やっぱり鍵はあの青い巨人ね」

 

 風の言葉に、全員は思い出した。

 暗黒の巨人とは根本的に違った光。優し気な雰囲気を纏った青色の巨人。

 破壊ではなく、浄化させるように暗黒の巨人を倒した。

 

「あの青い巨人……味方なのでしょうか?」

「少なくとも敵ではないでしょうね」

 

 美森の感じた疑問に、夏凜は外を眺めながら答える。

 敵であるのなら身を挺して守ったことが嘘になる。それに、風や樹に視線を向けて頷きもした。

 恐らく味方。

 

「けれど、あの青い巨人がいつも現れるとは考えにくい。だからアタシたちで倒せなくても追い出せればいい。連携さえ取れれば致命傷を与えることができるかもしれない」

「そうですね、私の銃弾も気を逸らす程度でしかない。友奈ちゃんか風先輩を万全の状態で相手にぶつける……」

「認めたくないけど、私の刀じゃ傷すら付けられなかったしね。それでいいわ。私はサポートに回る」

「わ、私は相手の動きを止めることしかできませんが……頑張ります!」

 

 妹のたくましい姿と、部員の纏まった姿に風は笑みを浮かべる。

 ありがとう、みんな──。

 

「何ニヤニヤしてんのよ」

「いや〜樹がたくましくなったなって」

「イッつんは可愛いよね〜」

 

 いつも通りに、風は樹の頭を抱きながら撫でた。

 この五人の誰でもない声に全員が声の方向を向く。そこには軽く手を振って笑みを浮かべる先代の勇者──乃木(のぎ) 園子(そのこ)と青いジャケットを着た背の高い青年が立っていた。

 

「園ちゃん!?」

「そのっち!?」

「久しぶり〜友奈(ゆーゆ)東郷(わっしー)

 

 聞き慣れた特徴的な間延びした口調。整った綺麗な容姿。

 見間違えることはない、間違いなく園子だった。

 勇者部は二度見、ワンテンポ遅れて園子の存在に驚愕した。

 勇者部がお役目を終え最後のバーテックスを倒した後、園子は讃州中学に転入し、勇者部に入部したが、乃木家の都合上故に学校を少しの間休んでいた。

 連絡が途絶えていたために今まで園子がどこで何をしていたのか、勇者部はさっぱり知らなかった。

 

 ────故に、驚愕している。

 

 知らない青年と共にいることにも困惑している。

 

「えっと……園子さんその人は誰ですか?」

 

 樹は青いジャケットを着る青年に視線を送りながら言う。

 大赦の人間のように変な服装に見を纏っているわけでもなく、どこにでもいるような爽やかな青年だった。

 園子は天真爛漫な笑顔で答える。

 

「助っ人の春野(はるの) ムサシさんで〜す!」

「ど、どうも……」

「助っ人!?まさか──」

 

 青色の巨人──と言い終わる前に風よりも早く友奈が叫んだ。

 

「──新しい勇者!?」

「え!?」

 

 合わせて風も友奈の言葉に驚く。

 

「違うよゆーゆ、みんなも見たと思うよ〜。あの青い巨人がムサシさんなんだよ〜」

『『えぇぇぇ!?』』

 

 友奈だけでなく、全員の声が校舎内に響きわたった。

 天真爛漫に笑う園子を横目に、ムサシの乾いた笑いが空気に消えていく。

 

 風、樹、夏凜、美森、友奈の五人の驚きが消え、ムサシは黒板の前に立ち、改めて自己紹介を始めた。

 

「僕は春野ムサシ。そして青い巨人の彼はウルトラマンコスモス。よろしく」

「アタシは勇者部部長の犬吠埼 風です」

「妹の樹です!」

「結城友奈です!!」

「三好、夏凜です……」

「東郷美森です」

「乃木さんちの園子で〜す」

 

 園子も混じって全員の自己紹介が終わると、園子が仕切って前に出る。

 

「ムサシさんは別の宇宙から来た人なんですよ〜」

「別の宇宙!?」

「パラレルワールドのみたいなってことなのそのっち?」

「そういう考えでいいと思うよ〜」

 

 「ワクワクするよね」と気分を上げる園子を横目に、ムサシが説明を始めた。

 遊星ジュランに現れた暗黒の巨人。ムサシとコスモスはその巨人に敗北し、たまたまこの世界にやってきたウルトラマン。

 光のウィルス(カオスヘッダー)が何故か暴走し、ニセのウルトラマンを作り出したこと。

 恐らく全ては暗黒の巨人が元凶だと、推測をムサシは語った。

 

「僕とコスモスだけじゃこれから現れる強敵には勝てないかもしれない。だから、手を貸してほしいんだ」

 

 ムサシは頭を下げる。

 全員は困惑した顔でムサシを見つめ、やがて風が答えた。

 

「手を貸して頂きたいのはこちらです。あの時、あなた方がいなければアタシたちはここにいません。ありがとうございます」

 

 風は手を差し出した。

 下げていた頭を上げ、ムサシは差し出された手を握った。

 まだ中学生の女の子が戦わなければならない非現実的な現状に、ムサシは不安と恐怖を覚える。

 コスモスと初めて共に戦ったのは19歳。

 自分よりも遥かにはやく『死』と向き合いながら戦う少女たちを、僕は守らなければいけない。

 柔らかく細い手を握りながら、ムサシは心に誓った。

 絶対にこの世界を『破壊』から守ると──。

 

「ところで、ムサシさんはこれからどこで過ごすのですか?」

 

 樹がふと思った疑問をムサシに投げる。

 

「それは大丈夫。僕が元の世界に戻るまで大赦が、お金を支給してくれるらしいんだ」

 

 なるほど、と口に出さず友奈が無言で頷いた。

 ここでの生活は問題ない。しかし、どうやって元の世界に戻るのか。

 今やコスモスの傷は完全に治癒しておらず、どこにあるかもわからない宇宙に旅立つのは自殺行為。

 こんな時に瞬間移動でもできれば、とムサシは叶わぬ夢を思う。

 今考えなければならないのはこれから降り注ぐ災いに対しての『対策』。

 『勇者』と戦力が増えたのはありがたい。だが、少女たちに無理はさせられない。

 

「みんな──」

「────ッ!!」

 

 ムサシの声を遮って、部室に着信音が鳴り響く。

 『怪獣出現』と映し出された携帯の画面。

 

 ────世界の全ては神樹を中心に止まる。

 

 飛び散る葉は空中で静止。部活に励む生徒や、普通の生活を送る人々の姿は花のように消えた。

 全ては絶望を生む世界。大地が、揺れる。

 災厄が降り注ぐ──。

 

「みんな行くわよッ!」

 

 風の掛け声と共に勇者部は頷き、外に飛び出る。

 携帯を片手に握り締め、園子を除いて全員の姿が一変して変わった。

 一般的な制服から花のように華やかで美しい姿に見を包みこみ、無垢なる少女に与えられた人類最後の希望──『勇者』へと変身した。

 

 だがムサシはまだ変身するための道具──コスモプラックを握らない。

 傷ついたコスモスはまだ全力で戦うことが不可能に近い。

 三分と短い時間が更に短いと考えるべきだ。二分、いや一分のみしか戦えないかもしれない。

 ギリギリまで待つ。

 

「園子はどこかに隠れてるんだ」

「本当は私も戦いたいけど……」

 

 園子は戦えない。

 勇者として活躍したが、あまりにも『神』に近寄り過ぎた。それ故に体の機能が普通の人よりも鈍く、まだ完全に治りきっていない。

 悔しくも園子は現実を噛み締めた。

 

「みんな応援してるからね」

 

 それだけを残して、園子は去った。

 

「園ちゃんの分も頑張らないと!」

「そうね!先代の勇者に完全体勇者の力を見せてやるわ!」

「来ます!」

 

 視線をそびえ立つ山に向ける。

 そして、見えたのは()()だった。

 長く鋭い尾は大地から急に現れ、いくつもの木々を串刺しにする。

 

「ニセ者のウルトラマンじゃない?」

「あれは……」

 

 山の頂上に登り立ったのは紛れもない古代怪獣──ゴモラだった。

 しかし、ゴモラに姿は似ているものの遥かに凶悪さが滲み出ている。

 鎧のようで岩のような巨躯。凶暴だとひと目でもわかるほどにゴモラは異形の姿へと変化していた。

 

「□□□□──ッ!!」

 

 数キロも離れているゴモラの咆哮が脳に響く。

 咆哮が大気を揺らし、過ぎ去った音が建物の窓を粉砕。

 

「みんな気をつけるんだ!ゴモラは長い尾と突進の攻撃が強力だ。当たればただじゃ済まない!」

 

 ムサシの注意を聞き入れ、勇者部は頷く。

 

「僕が注意を引く!」

 

 ムサシはそう言いながら勇者部の前に立ち、コスモプラックを勢い良く掲げて叫ぶ──!

 

「コスモース!!」

 

 神秘的な輝き。夕陽に混じって光の中から青色の巨人が顕現し、勇者の前に光が屹立した。

 

 

 

 

『『かっこいい!!』』

 

 コスモスを見上げながら、友奈と風は目を輝かせて歓喜の声を上げた。

 

「近くで見ると更に迫力があるわね」

「ねーねー!夏凜ちゃん見た?見たよね!?」

「見た見た!見たわよ!見てたから離しなさい!」

 

 キラキラと目を輝かせながら、友奈は夏凜の肩を掴み大きく揺らしていた。夏凜は声を荒げ、友奈から離れようとするが友奈は夏凜を離さなかった。

 

「友奈ちゃん行くよ?」

「了解しました!東郷さん!」

 

 友奈はビシッと敬礼。いつも通りの明るいやり取りをしていると、コスモスは両手を上げた。

 

「──シュワッ!」

 

 コスモスは叫ぶと同時に飛翔する。

 

 勇者の誰よりもはやく駆けつけ、彼はゴモラの前に立ちはだかった。

 見た目からでもわかる凶悪な怪獣を目の前にしても、コスモスは拳を構えずに平手で戦闘態勢に入る。

 一定の距離を保ちながら、コスモスはゆっくりとゴモラの右に回る。

 

 

 ──その瞬間、ゴモラの背後から何かが飛び出た。

 

 

 間一髪、コスモスは顔を掠める程度で回避する。

 

「なんですか今の!?」

「みんな気をつけて!あの怪獣(バーテックス)尻尾が伸びる!」

 

 風の言う通り、今ゴモラの背後から飛び出たのは尻尾だった。

 本来の古代怪獣ゴモラは尻尾など伸びない。あそこまで凶悪な見た目もしていない。

 改造されたゴモラ── EXゴモラと、かつてゴモラと共に旅をした人間はそう呼んだ。

 通常のゴモラよりも遥かに凶暴。鋭い尾は何もかもを穿く。強力な突進ですらも更に強化された最強のゴモラ。

 

 力を失ったコスモスには勝てるはずもない相手だ。

 振り回される尻尾は薙刀のように、突き出される槍の如く。

 尻尾だけではなく、鋭く湾曲した鉤爪も脅威である。まともに受ければただでは済まない。

 限りなく破壊を尽くし、邪魔する者を全て破壊する。

 

「──シュアッ!」

 

 コスモスは声を上げ、全力で間合いを詰める。

 

「みんなコスモスを援護するわよ!!」

 

 風の指示に従い、勇者は散開──ゴモラを囲んだ。

 突き出された尾を回避し、ゴモラの胸部に両手の掌打を叩き込む。振り下ろされた鉤爪をコスモスは躱し流した。

 まるで太極拳のような動きはゴモラを翻弄するが、ゴモラの振り回した尾にコスモスは吹き飛ばされる。そして、容赦なく人類の作り上げた建物に鉤爪を振り下ろす。

 しかし巨人の影に隠れて、黄金はそれを許さない。

 

「だぁぁぁぁぁッ!!」

 

 鉤爪と黄金の一撃がぶつかり、空間が揺れ動く。

 その一撃は凄まじい衝撃波を生み出し、ゴモラの体ですらも大地に転がった。

 転がったゴモラの隙を美森は見逃さない。

 引き金を振り絞り、紺碧の光がゴモラに降り注ぐ。

 

 だがゴモラは、その岩のような巨躯から考えられない速度で銃弾を躱した。

 

 ゴモラは転がる巨躯を更に勢い良く転がす。

 尻尾が元の二倍を超えた時、太く長い尾を風に叩きつける。

 

「──マズイ!」

 

 風が尻尾に弾かれて、まるでゴムボールのように飛んでいく。

 

「お姉ちゃん!」

「──ッ!友奈行くわよッ!」

 

 「(わかった)」と紅蓮に続いて桜は駆け抜ける。

 

「樹!アンタはバーテックスの動きを止めて!」

 

 恐怖していた樹に気がついて夏凜は呼びかけた。

 

「……!わ、わかりました!」

 

 夏凜の知っている犬吠埼 風は簡単には倒れない。世界が滅ぼうと、勇者部がいる限り、彼女は不滅だ。

 信じている。だからこそ、今は前を見て戦う──。

 

 振り下ろされる鉤爪が刹那の間に(ワイヤー)で動きが止まる。

 すかさず紅蓮と桜が一点に攻撃をする。

 Xに切った刀と、音速で突き出された拳は鉤爪を粉砕し、ゴモラは衝撃に驚き咆哮する。

 

 痛みではなく驚きで咆哮した。

 普段よりも遥かに凶暴性を増した(ゴモラ)には痛みなど関係ない。ただ破壊を尽くし、目の前の敵を殺せと本能の限り壊し続ける。

 

 咆哮するゴモラに紺碧の輝きは隙を与えず、視界を封じた。

 そこでコスモスがゴモラの尾をがっしりと掴んだ。

 

「友奈!夏凜!」

「はい!」

「わかった!」

 

 風は大剣を凪ぎる。

 夏凜は刀を振りかぶる。

 友奈は拳を突き出した。

 三人の勇者による攻撃がゴモラを打ち上げ、勢いのままコスモスはゴモラを地面に叩きつけた。

 

「よし!」

 

 周囲の建物を巻き込み、叩きつけられた道路は大きく陥没。破裂した水道管から水が溢れ、凍りついたように時が停止する。

 ゴモラは陥没した道路から這い出ると咆哮した。

 一瞬、ゴモラの角が煌めく。

 

(マズイ……!)

 

 向いている方向は四人の勇者。

 ゴモラの体内に眠る力が体中を巡り、大気を震わせる。

 空間が揺れ、ゴモラの全身から振動波が放たれた。

 

 岩盤をも簡単に破壊するゴモラの必殺技、超振動波の強化版──EX超振動波は山を吹き飛ばし、周囲の街並みを一瞬で焦土にするほどの威力を持つ。

 

 膨大なエネルギーの塊は勇者に放たれる。

 ビルが一瞬で消し飛び、周囲の建物をも空間の揺れに崩れた。

 当たれば大怪我、否──待つのは『死』。

 四人の勇者は『死』に恐怖し、体は動かない。

 

 だが、誰かが死ぬなど、コスモスが許さなかった──。

 果敢に『死』の前に立ちはだかり、コスモスは手先からエネルギーを集中させ勇者をバリアで守る。

 両手を突き出し、ムーンライトバリアで背後を守っている。しかし、山をも吹き飛ばす威力を傷ついたコスモスが守り切れるはずもない。

 それでもコスモスは──

 

 下がらない。逃げない。

 

 バリアは徐々にひび割れ、隙間から振動波が溢れコスモスを傷つき、光の粒子が血のように吹き出す。

 だが、コスモスは下がるどころか更に前へ踏み出した。

 勇者の被害が最小限になるように────

 

 

否。

 

 

 自分を犠牲にしてでも勇者を守り通す。

 コスモスのカラータイマーが赤く点滅を始める。

 徐々にコスモスが押され、踏みしめる道路がめくれて陥没する。

 バリアが破壊され──それを許さない勇者がいた。

 

 紺碧の輝きが振動波を放つゴモラの足下を撃ち抜く。道路が陥没し、ゴモラのバランスは崩れた。

 すかさずコスモスは両手を上げ、眩い光の輝き(エネルギー)を集める。

 月の優しき光の如き、慈しみの青い巨人のコスモス ルナモードが放つ技は『フルムーンレクト』

 殺傷能力は無いものの相手の感情を鎮める優しき光線。

 光を右手で押し出し、ゴモラの全てが包み込まれる。

 暖かく淡い月のような輝きは相手を鎮め、元のあるべき姿へと戻す。

 

 光が空気に消えると、凶悪な見た目をしていたEXゴモラの姿が変化していた──。

 岩のようにゴツゴツとしていた巨躯も、自由自在の鋭い尾も、全てが元の姿に戻っていた。

 凶暴で殺気立った気配も消え去り、ゴモラはキョロキョロと辺りを見渡す。

 

 美森は大人しくなったゴモラの瞳に標準を合わせ、引き金を振り絞ろうとした刹那――コスモスが標準を遮った。

 

「なっ!?」

 

 コスモスは優しく、ゴモラの頭を撫でる。

 気持ち良さそうに喉を鳴らすゴモラは、ゆっくりと自分の居場所に帰っていく。

 柔らかな視線で見守ったコスモスは頷いた。

 

 コスモスの体が光に包まれて消えると、その場所には帰っていくゴモラを見守るムサシが立っていた。

 

「……なぜ逃したのですか?」

 

 振り返ると、そこには美森が立っていた。

 狙撃銃を両手に握り、美森はムサシに問いかける。

 

「あの怪獣は興奮していただけだ。自分の姿に驚いて、暴れてしまっただけだよ」

「もしもまた襲ってきたらどうするのですか?」

「その時はまた、落ち着かせるだけだよ」

「……そんな曖昧な」

「全ての怪獣が悪者なわけじゃないさ」

 

 ムサシの言葉に美森は出かけた言葉を引っ込めた。

 邪魔をする障害は排除しなければ、この世界を守ることはできない。優しさだけで守れるほどこの世界に希望など満ちていない。

 美森は拳を握り締めた。

 殺されかけたというのに、笑顔でいるムサシに腹が立っていた。

 誰にでも優しく、自分を犠牲にしてでも立ち向かい、苦痛を浮かべずに笑顔の彼は、友奈に似ていた。

 だからこそ──美森はそんな彼に怒っている。

 

「東郷さん!」

 

 振り返ると、友奈たちが元に戻った制服姿で戻ってきた。

 

「友奈ちゃん大丈夫?怪我は?」

「大丈夫だよ!ムサシさんが守ってくれたから!」

 

 ありがとうございます、と元気よく頭を下げた友奈に対して、ムサシは笑顔で返す。

 

「流石ウルトラマンね。倒すんじゃなく、元の姿に変えて自然に帰す。恐れ入ったわね」

「ホント、私たちじゃ考えられないわ」

 

 風は腰に手を当て呟くと、夏凜も風に賛同した。

 

 

 

 

 

 消えた世界に、優しさが立ち上がる──。

 

 世界を守る勇者と、全ての生命を慈しむ勇者。

 降り注ぐ絶望と恐怖を糧にする混沌に立ち向かうためには、優しさだけでは勝つことは不可能。

 絶望に満ちた世界。

 希望を失い、夢を失くした世界に勇者はどうするのか。

 

 そして、結末は────。




▽犬吠埼 風
▽15歳
▽黄色の勇者。勇者部部長。明朗快活でサバサバした姉御肌。行き当たりばったりで、個性的な部員をよくまとめており、妹の樹が大好きで仕方がない。普段は中二病的な台詞を言ったり、オヤジ臭い悪ノリをして皆を和ませている。ムードメーカーだが、悩む時は一人で悩んでしまうタイプ。家事全般が得意であり、口癖は『女子力』
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