【完結】春野ムサシは勇者(ウルトラマン)である   作:渚 龍騎

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第六話 前に進む勇気

 凄まじい轟音に、友奈は目を覚した。

 

「はやく……いかないと……」

 

 バーテックスよりも遥かに強力な一撃を受け、友奈の体は少しでも動かすと全身に痛みが走る。

 

「あれは……樹ちゃんと、コスモス?」

 

 闇と対峙する(ナルコユリ)の勇者と光の巨人(コスモス)を見上げた。

 

「満開してる……あのままじゃ、樹ちゃんが……!」

 

 満開の危険性は誰よりも友奈が知っていた。

 

 だからこそ、体を起こそうとするが、体中に鮮烈な激痛が走る。

 

「樹ちゃん……!」

 

 

 

 

 ウルトラマンコスモスとは『優しさ』と『強さ』を併せ持った光の戦士。

 全ての命を慈しむ広い心と、全ての悪を許さぬ強い心を持っていた。

 そこに春野ムサシと呼ばれる人間の『勇気』が加わり、コスモスの光は新たなる力を得る。

 エクリプスとは日食の意。神秘なる巨人。

 

 放たれた三日月型のブレードを、暗黒の巨人(カオスロイドU)は片腕で弾く。

 カオスロイドUが音速で踏み込むと共に、コスモスは神速の如く、目にも止まらぬ速さで敵との間合いを詰めた。

 

 突き出される音速は、神速を以て凌駕する。

 

 突き出す拳に金色のエネルギーを纏わせ、カオスロイドごと吹き飛ばす。

 あたりの空気が弾け飛び、悉くを凌駕してコスモスはカオスロイドUを圧倒する。

 両腕を交差させて、立ち上がったカオスロイドUの肩をがっしりと掴む。勢いのまま体を引き寄せ、カオスロイドUの体は宙で一回転して地面に落ちた。

 

 コスモスがカオスロイドUと対峙する中で、樹は次々と現れる影の悉くを薙ぎ払った。

 背中のアーチから大量の(ワイヤー)が発射され、影の四肢を引き裂く。

 倒れ伏せる勇者たちを庇って、被害が及ばぬために残らず倒す。

 

 二人の戦いは苛烈を増していくばかりだった。

 

「──テェヤ!」

 

 振り払われた腕を僅かに屈んで回避。がら空きになった腹部へコスモスは腕を叩き込む。さらに、体の回転の勢いを活かして、カオスロイドUの防御(ガード)した腕ごと蹴り飛ばす。

 

「──ハァァッ!」

 

 ウルトラマンの力を持ってしても数歩を必要とする距離まで離れると、コスモスは胸の前で両腕を交差させた。

 両腕を引き離して大きく円を描き始めると同時に、溢れんばかりの黄金の輝きが跡に沿って円を描く。

 コスモスの視線はカオスロイドUを向いているが、意識はどこか遠くへ向いていた。

 

 「これで決まる」と確信した友奈は、思わず「いけぇ!」と声を上げた。

 

 だが、コスモスが溜め込んだ膨大な黄金のエネルギーが右腕なら放たれ、それはカオスロイドUではなく、()()() ()へと放たれた。

 

「なんで!?」

 

 声を荒らげると胸が痛む。

 眉を寄せながら風に視線を向けると、風の体からモヤのような黒い影が吹き出した。

 コスモスは一度、風に視線を向けて頷くと、正面を向き直してカオスロイドUとの戦闘を再開した。

 あれだけ膨大なエネルギーを無防備に受けているにも関わらず、風の体は全くの無傷だった。傷一つなく、何事もなかったように光線など受けた痕跡が何一つ無かった。

 

 ウルトラマンコスモスのエクリプスモードが放った光線はただの光線ではない。

 エクリプス最大の特徴はこの放った光線にある。

 

 ────その名は、コズミューム光線。

 

 邪悪なものだけを屠るエクリプス最強の技。

 『優しさ』と『強さ』を併せ持った万能光線。

 コスモスは風の体内で侵食していた影のみをコズミューム光線で撃ち抜いた。故に、風本人に害はなく、傷一つとしてついていない。

 

「──ハァァァッ!!」

 

 拳を突き出したと同時に、コスモスは高速移動──離れていた距離を一瞬で詰め寄り、カオスロイドUの顎を蹴り抜く。そして更にもう一度頭部を蹴り抜いた。

 よろけた瞬間を見逃さず、コスモスは右足で踏み込むと跳躍、左足を振り上げる。更に右足を振り上げて相手の顎を蹴り抜いた。

 そして三撃目──渾身の一撃(ストレート)を胸に叩き込んだ。

 カオスロイドUの巨体はその強烈な一撃で吹き飛び、大地に落とされる。

 

 距離が離れると、カオスロイドUはスラッシュ光線を放ち続けた。

 コスモスはスラッシュ光線を片腕で叩き落とす。そして、更に勢いを増してスラッシュ光線が放たれた。

 だがコスモスは、残像が残るほど素早く空中で高速回転し、スラッシュ光線の悉くを弾き飛ばしながら距離を詰めた。

 

 

 エクリプスの戦闘スタイルは超高速の移動による攻撃。人間の目では追うことすらできず、その高速移動は攻撃だけでなく、防御に活かすこともできる。一瞬で相手に詰め寄り、強烈な一撃を喰らわせる。何事にも恐れずに戦うコスモスの『強さ』と『勇気』を体現させた攻撃。

 

 

 振り払われた蹴りを防御(ガード)。地面に叩き落として、コスモスは体を捻った──体の捻りを活かして踵を相手の腰に叩き込んだ。

 カオスロイドUは態勢を崩し、その場で転がっていく。

 いくら攻撃を受けようとも、カオスロイドUは諦めずに憎しみを持って立ち上がった。

 右腕をムチのように振り払い、コスモスは腹部に受ける。

 両者は攻撃を続けた。互いの攻撃を防御、回避し、反撃(カウンター)に繋げる。だが、互いの攻撃が止むことはなかった。

 カオスロイドUは、コスモスの攻撃を受ける毎に強さを増していた。それでもコスモスは負けずに戦う。

 互いの息が掛かるほどに距離が近寄り、二人は互いに掴んだまま攻撃を続けた。

 

 コスモスは足を上手く使い、カオスロイドの姿勢を崩して投げ飛ばす。

 だが、カオスロイドは起き上がりざまにコスモスを蹴り飛ばした。

 

 二体の戦士(ウルトラマン)は睨み合う。

 悲しみの絶望に対抗するは、銀河の輝き。月の優しき光と、太陽の強さ、金環日食の如き神秘の巨人。

 

 闇と光は紙一重。

 二人は互角の戦いを繰り広げていた。

 始めは圧倒していたコスモスも、カオスロイドUの攻撃に徐々に圧倒され始めていた。

 

 

 

 

 二人の戦士(ウルトラマン)が衝突し合う轟音の中で、夢を見た者がいた。

 

 誰もが笑って、誰もが人の幸せを願う世界。

 神樹も、バーテックスも、勇者も、そんなものはなく、ただ幸福が訪れる希望の世界。

 そして、誰かが呼ぶ声が聞こえる。

 

「……え……ち……ん」

 

 とても大切だった人の声。

 

「お……えちゃ……」

 

 誰だったか……思い出せない。

 けど、かけがえのないもの。この世に一つの───。

 光に輝く誰かが手を伸ばす。その手はあまりにも巨大で、風を包み込むようにして握る。

 優しげな月のような光。巨大な人の形をした光は巨大な翼を広げる。潰されるなどと微塵も思わなかった。

 暖かな光に包まれて、『優しさ』を感じた。

 

 

「お姉ちゃんッ!」

 

 その大きく呼ぶ声によって、風は目を覚した。

 瞬間的に記憶が蘇る。

 自分が今まで何をしでかしたのか。今まで逃げて、避けてきたことを。全てを思い出した。

 

「逃げちゃだめ……」

 

 体は軽い。大剣の重さなんて感じられない。

 何よりも、誰よりも、君たちだけを守る。

 箍が外れたように心が軽く、溢れるような力に安らぎを感じる。

 今まで現実から逃げ続け、他人に頼り過ぎた。

 

 この時まで、自分は樹を守ろうと努力した。

 

 だから、現実を避けた。

 皆を巻き込んだのは自分。絶望させたのは自分。

 

 ────目の前のことから目を逸らすな!

 

 立ち上がる。痛みなど感じない。今さら気にしてられない。

 ウルトラマンは傷つきながら証明する。

 誰だって関係なく手を取り合えることを、身を持って教えてくれている。

 

 逃げるな。立ち上がれ。

 

 自分の他はいない。

 自分は勇者であり、部長だ──!

 

「もう、逃げない。過去のことから目を逸らすな!!」

 

 花が咲く。煌めき、輝く黄色の光。

 溜め込んだ力を解放させ、犬吠埼風は絶望(過去)を克服する。

 コスモスの脇をくぐり抜け、オキザリスの花はカオスロイドを吹き飛ばした。

 

「……お姉ちゃん…!」

 

 輝く花の中心で、(オキザリス)の勇者は部長たる風格でカオスロイドを見つめる。

 闇を見下ろすのは勇者部の部長──犬吠埼 風。

 彼女は弱かった自分を切り捨て、過去と向き合う決心をした。

 

 『満開』して、彼女は妹の横に並んだ。

 

「ごめんね、樹。アタシはもう逃げないよ」

「お姉ちゃん……」

 

 溢れそうになる涙を堪えて、樹は元気よく「うん」と頷いた。

 そして、コスモスに視線を移した。

 

「ありがとう。アナタのおかげで戻ってこれた」

 

 コスモスは優しげに見つめて、頷いた。

 

「もうアタシは希望を捨てない!」

 

 身の丈よりもある大剣を握り締めて、迫り来る影の軍勢を薙ぎ払う。

 

「お前のせいで夢を失った…!!」

 

 影の誰かが、風に向けて言い放つ。

 大剣を振り払い、肩に持ち上げて風は言い放った。

 

「アタシは確かにみんなを巻き込んだ!けど、みんなはアタシを信じてくれた!見捨てず、アタシを救ってくれた!もうアンタらの言葉なんかじゃ進むべき道を迷わないッ!みんなを巻き込んでおいてアタシだけ逃げるなんてことも決してしないッ!!」

 

 大きく大剣を振り回しながら、風は口角を僅かに上げた。

 

「さあかかってきなさい!この部長(アタシ)と、()が相手よ!」

 

 倒れ伏せる勇者たちに降りかかる影を一瞬で切り裂く。

 倒し損ねた影を仕留めるのは妹。無数の(ワイヤー)が絡め引き裂いていく。

 相変わらず樹の攻撃方法は残酷だと、風は少し苦笑した。

 そして、誰かが割って入る隙もないほど激闘する二人の巨人に目を見やる。

 

 光と闇の根本的に全てが違った力がぶつかり合い、作り上げられた闇の世界(ダークフィールド)が揺れる。

 空気が弾け飛び、(かぜ)が吹き荒れる。

 

 激しさを増しながら、巨人同士の膨大なパワーが激突して、二人は吹き飛ばされる。

 二人のカラータイマーが点滅を始め、残り時間は少ない。

 二人は別々の構えを取りながらゆっくりと距離を測る。

 

 先に仕掛けたのはカオスロイドU。

 紫紺の輝きを右腕に纏わせて、八つ裂き光輪を繰り出す。

 

 それを、(オキザリス)の勇者が大剣で弾き飛ばした。

 

 帰ってきた八つ裂き光輪を右腕に切り替え、両腕に莫大なエネルギーを集中させると同時に、コスモスは胸で両腕を交差させた。

 

 放たれるはカオススペシウム光線。

 

 対抗するはコズミューム光線。

 

 カオスロイドUがコンマ数秒早く、腕を十字に組む刹那──。

 

「────ッ!?」

 

 闇は驚愕する。

 緑色の閃光がカオスロイドUの腕を引き離した。

 

 完全に、油断していた。この世界で闇に対抗できるのは光の巨人(コスモス)だけだと勘違いしていた。

 自分の力を信じていないのではなく、単に相手を侮っていた。

 光の巨人(コスモス)だけに視点を当てて、他の勇者たちを忘れていた。

 何もできないと信じ込んでいたのだ。

 

 自分の体を縛る(ワイヤー)を引き剥がす。だが、既にカオスロイドの力よりも、縛り付ける勇者の方が上回っていた。

 コスモスは両手で円を描き、金色の輝きに包まれる。

 

 勇者やウルトラマンに関する限り、有り得ぬ現象などない。魔法の域に達した勇者は、あるいは神話に歌われる英雄(ウルトラマン)は、あらゆる不可能を可能にする力を秘めている。

 わかりきっていたことだった。

 コスモスが、勇者が遥かに絶望を超える力を持っていることは。

 絶望がコスモスに届くことは決してない。

 コスモス自身が絶望や恐怖を心から感じさせない限り、彼を倒すことなど不可能。

 ならば、答えは唯一つ。

 

 コスモスの両腕が天に届き、金色のフレアー(エネルギー)は渦を巻いて右腕に移される。

 

 刹那の思考で、カオスロイドUの答えを導き出す。

 さらなる闇を、さらなる絶望を以て、コスモスを殺す──!

 

 金色のフレアーが莫大なエネルギーを秘め、右腕から放たれる。

 信頼と勇気の輝き、コズミューム光線はカオスヘッダーのような邪悪なものをも屠る神秘の輝き。

 カオスヘッダーで造られたカオスロイドには効果抜群の光線。

 

『□□□□──ッ!!』

 

 カオスロイドは吠える。

 樹の(ワイヤー)を振りほどいた時にはもう遅い。

 どの光線や技を持ってしても、既に放たれたコズミューム光線を相殺できる時間がない。だからこそ、カオスロイドUは走った。

 

 だが、黄金の一閃──風の叩きつけた大剣がカオスロイドを宙に上げた。

 

 コズミューム光線が空中に上がった体を穿つ。

 体を形成するカオスヘッダーの闇が浄化され、光を取り戻そうと、カオスロイドを拒否する。

 憎しみを糧として戦うカオスロイドの感情が消える。

 暗黒の闇を────。

 

 コズミューム光線が撃ち終わる頃、カオスロイドUは影も形も残らず、全てが空気に消えていた。

 

 この世界を作り出した最悪の元凶が消え、樹は思わず笑みを浮かべた。

 

「やった…!勝てた!」

 

 心から飛び上がろうとする樹を風は抱き締める。

 樹がしてくれたように、風も同じように妹を優しく包み込んだ。

 極度の緊張が抜けて、樹は留めていた何かが溢れだす。

 小さく、風は呟く。

 

「ごめんね樹。ありがとう……」

「よかった……よかった…!お姉ちゃんが生きててくれて……!」

 

 留めていた何かが吹っ切れて、樹は姉の胸に包まれながら涙を流す。

 涙を拭い、樹はコスモスに視線を向けた。そんな樹にコスモスは親指を立て、二人に拳を向ける。

 

「ありがとうございます…!」

「ありがとう、コスモス……ムサシさん」

 

 

 

 突き出された巨大な拳に、風と樹は笑顔で、自分たちの小さな拳を突き付けた。

 

 

 

 泡のように光が溶けて、闇の世界(ダークフィールド)は消えていく中で、消え去った混沌(カオス)と、勇者たちを見守る勇者(ウルトラマン)を見つめて、一人の戦士が佇んでいた。

 

「コスモス、ムサシもここに呼ばれたのか……」

 

 誰にも聞こえぬ声で、女性らしき人は呟いた。

 漆黒のドレスに身を包み、まるで水に濡れたような黒髪が夕陽に照らされて一層際立って美しく見える。

 そんな人間を見つけた影は本能のままに襲い掛かった。

 

「カオスロイドよりも遥かに強大な闇が、この世界には眠っている」

 

 女性のような人は体を捻り、背後から襲い掛かった影を一撃(回し蹴り)で蹴り飛ばした。

 その表情にはまるで感情を感じさせず、これを冷酷と捉えるか優しさと捉えるかはその人次第だ。

 彼女は空を見上げた。消えていく闇の世界(ダークフィールド)の仮初の空を見上げて呟く。

 

「この世界には『サンドロス』が来る。そして、暗黒の首魁はどこかで力を溜めている」

 

 彼女はため息をつきながら、目を細めた。

 

「生きていたのであれば、サンドロスは確実の倒さなければならない」

 

 過去の過ちを正すがために、彼女は必ず『正義』を執行する。

 そして、胸に付けられた()()()()()()()()を握り締めた。

 

 

 

 彼女の横には、紫電の槍を持った勇者が立っていた──。




▽三好夏凜
▽14歳
▽赤の勇者。風と同じく訓練された勇者であり、大赦から派遣された人間。今までの人生を修行に費やし、現在でも鍛錬を怠らないため、身体能力は誰よりも高い。勇者として育てられたがために、使命感に溢れ何事にもストイックな性格。始めは『勇者部』に呆れていたが、今では心を開き打ち解けていった。最終的に勇者部での日常を温もりをくれたと告白し、義務ではなく仲間を守るために戦うと決意した。
ツンデレキャラ、そしてツッコミ役。煽りに弱く、すぐムキになる。
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