【完結】春野ムサシは勇者(ウルトラマン)である   作:渚 龍騎

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「ムサシ、君はもう……一人で、飛べる」

良い言葉ですよね。あのシーンは泣きそうになりました笑


第七話 Beyond

 時刻は昼頃。病院を退院して、五人は海の見える帰り道を歩いていた。

 

「コスモスは本当に凄いわね」

 

 風は友奈たちの体を見つめて歓喜の声を漏らした。

 激闘の末に、勇者たちはかなりの傷を負った。だが、コスモスが傷ついた勇者たちに、自らのエネルギーを与えたことによって傷も癒え、一日病院で入院しただけで退院した。

 

「風先輩たちは……」

 

 言葉の続きはわかっている。

 風と樹は『満開』を使った。満開は神樹に自分の体の一部を捧げる最悪な切り札。

 過去に風は『左眼』を、樹は『声』を失った。

 だが、今回は違っていた。

 

「アタシたちは満開の後遺症が無かったんだ」

 

 後遺症は全く無かった。

 病院で精密な検査をしたが、身体にどんな異常も見つからなかったのだ。

 風は体を大きく回して何もないとアピールする。

 「あと」と風は会話を切り出してから、勇者部の前に立った。

 

「みんなごめん!」

 

 声を上げて頭を下げた。

 四人はキョトンと顔を見合わせ、始めに夏凜がため息をついた。

 

「樹、言ってやりなさい」

「私がですか?」

 

 「もちろんよ」夏凜に背中を押され、樹は姉の前に出る。

 

「私たちはお姉ちゃんのことを見捨てたりも恨んだりもしてないよ」

「そうですよ!風先輩!」

「はい私も同じです」

 

 友奈、美森と続いて夏凜は違う方を見て少し頬を赤らめながら呟いた。

 

「……もよ

「声が小さいよ夏凜ちゃん」

 

 友奈に指摘されて、夏凜は「わかったわよ!」と大きく声を出した。

 

「私も同じよ!」

「みんな……」

 

 風は溢れそうになる涙を押し留め、できる限りの笑顔で言った。

 

「ありがとう……!」

 

 頬を赤らめて斜め上を見ている夏凜に、風はニヤリと笑う。

 不敵に笑う風に気がつくとちょっと引いてから夏凜は「なによ」と言った。

 

「いやー夏凜も優しいところあるなって思っただけ」

「なっ!?」

 

 夏凜はさらに顔を赤らめた。そして、コホンとわざとらしく咳をしてから胸を張った。だがその顔はまだ少し赤くなっている。

 

「風がいなくなったら勇者部は静かになっちゃうし」

「うわーん!かりーん!」

「うわ!近づかないでよ!」

 

 逃げる夏凜を風は涙目になって追いかける。

 樹はそんな二人のやり取りを眺めていると、友奈に肩を叩かれた。

 

「元気になってよかったね風先輩」

「はい、本当によかったです」

「樹ちゃんも体は大丈夫なの?満開の後遺症とかは……」

 

 美森の心配に対して、樹は元気よく答えた。

 

「はい!大丈夫です!」

「よかった……」

 

 友奈は「夏凜ちゃん!風先輩!もう行きますよ!」と離れた二人を呼びかける。すると二人も気がついて走って戻って来た。それでも、風は夏凜を追いかけていた。

 

「ちょっと誰かこのおバカをなんとかしてよ!」

「かりーん!」

 

 夏凜の救いを求める声は誰にも届かない。

 他の勇者は温かい目で見守っていた。

 いつもと変わらぬように───。

 ふと、海に視線を移した友奈は青いジャケットに見を包んだ青年と讃州中学の制服を纏った少女が立っていることに気がついた。

 

「ムサシさんとそのっちかしら……」

 

 友奈の視線に気がついた美森が青年と少女の名を呟いた。

 ムサシはただ海を眺めて佇んでいる。その瞳や表情には憤怒や歓喜といった感情は感じられず、悲しみに濡れていた。太陽の光が海に反射して、青年の茶色の髪が光に濡れる──その全てに魅力があった。

 ムサシの横で、園子はいつものように呆けていた。

 

「ムサシさあん!そのちゃーん!」

 

 友奈の呼ぶ声にムサシは視線を声のする方へと向けた。

 勇者部の姿を確認し、悲しみに濡れていた表情を変え、ムサシはニコリと笑みを浮かべた。

 

「みんな大丈夫だった?」

「はい!お二人のおかげで元気です!」

「風も元気のようだね。よかった」

「おかげさまで……ありがとう御座いました!」

 

 ムサシは「いいんだよ」と言って爽やかに笑う。

 

「乃木?」

「…………」

 

 風は園子を呼ぶが、反応はなくたまに頭がこくっと力無く上下に揺れる──園子は寝ていた。

 

「園子、風が呼んでるよ」

「あ!フーミン先輩〜みんなも〜どうしたの〜?」

「聞きたいことがあるんだけど……」

「どうぞ〜」

 

 いつにも増して真剣な表情の風に、何かを察した園子も眠りを止めて見つめた。

 

「アタシと樹が満開したのにも関わらず散華してないの。それはいいことなんだけど前は捧げたのになんでなのかを聞きたいの」

「新しいシステムだと思うよ〜多分『散華』自体が無くなったんじゃないかな?」

「そっか、なら良かった……」

 

 風はホッと安堵の息を漏らす。

 園子の言う通り、今回の勇者部に与えられた『勇者システム』は『散華』が無くなっていた。だからといって満開を繰り返すことは自殺行為になる。

 『散華』が無くなった事自体は勇者部にとって良い報告となる。

 

「そうだ!ここのみんなで()()()に行きませんか?」

 

 少し暗くなった雰囲気を変えるために友奈は突然提案した。

 目を輝かせて友奈の出した提案に乗る者がいる中で、ムサシは「かめや?」と困惑していた。

 

「かめやは讃州市で一番美味しいうどん屋ですよ!」

「うどん……え?僕も?」

「もちろんっ!」

 

 言われるがままにムサシは勇者部と共に『かめや』へと入った。

 勇者部はかめやの常連である。それ故に店員はほぼ勇者部の顔を覚えている。

 かめやに入ると、すぐに勇者部だとわかった店員が近くに寄る。

 

「あら、また人数が増えましたね」

「はい!ここのうどんのおかげで部員が増えて絶好調です!」

「大げさすぎですよ犬吠埼さん。そこのかっこいい人は見たことが無いけれど、ここに来るのは初めてですか?」

 

 店員はムサシに視線を向けた。

 

「はいそうですね。無理矢理……

 

 最後の一言は誰にも聞こえない。

 

「先生か何かを?」

「あ!」

 

 友奈が何かを言おうとして口を開くが、咄嗟に察した美森が彼女の口を塞いだ。

 

「他の学校から来てくださって、今は勇者部を見てもらってるんです」

「ああそうなの、良かったわねこんなにかっこいい人が来てくれるなんて」

「ははは……」

 

 ムサシの乾いた笑いと別に、風が小さく東郷に囁く。

 

ナイス東郷

 

 その言葉に美森は敬礼した。

 仕切り直して、勇者部は適当に座り、ムサシも促されて何故か真ん中の席に座らせられた。

 友奈にオススメを教えてもらい、全員は『肉ぶっかけうどん』を頼む。

 七つのうどんが運ばれ、「いただきます」と全員が手を合わせて食べ始めた。

 ムサシも後に続いて食べると、思った以上の美味しさにすぐに食べ終わった。

 

「ムサシさんとコスモスさんてどうやって知り合ったんですか?」

 

 風の食べっぷりに驚いていると、友奈に問いかけられる。

 ムサシは地球で生まれた人間だが、ウルトラマンコスモスは地球で生まれた存在ではなく、誰もが信じない架空のおとぎ話だと認識している存在。

 そのはずのコスモスがどうやってムサシと知り合ったのか、友奈も含めて全員は少し気になっていた。

 

「小学生の頃に知り合ったんだ。僕がよく遊んでいた所の誰にも見つからない場所でコスモスが光を失って倒れてたんだ。あの時は信じられなかったよ、本当にウルトラマンがいたんだって」

「すごい……それで、どうしたんですか?」

「コスモスに光を与えたんだ。太陽の光を鏡とかで反射させてね。そしたらコスモスは蘇って、僕を手に乗せて空を飛んでくれたんだ」

「空を!?」

「そうさ。僕が初めてコスモスと出会い、一緒に飛んだ時だったよ」

「羨ましいなー私も空を飛んでみたい!」

「友奈ちゃんならきっとできるわ」

「東郷はホント友奈には甘いわね……」

夏凜(にぼっしー)、それは言わない約束だよ〜」

 

 勇者の力、満開すれば飛べる、なんてことは言わない。

 友奈はこの街中を飛んでみたいと思っていた。

 

「僕が他の怪獣たちと過ごせているのはコスモスのおかげなんだ。コスモスが夢を諦めないということを教えてくれたから僕は戦えたんだ」

「それだけコスモスさんはすごい方なんですね」

 

 樹の言葉を肯定しながら、ムサシはジャケットの内ポケットにあるコスモプラックに目を向けた。

 コスモスから頂いた『輝石』の本来の力を使うためのアイテム。

 ムサシの希望であり、コスモスの光。

 七人で会話をしていると話も弾み、あっという間に時間が過ぎて行った。

 風が四杯目のうどんを食べ終え、七人は店員に感謝を述べてからかめやを出た。

 

「うどんどうでしたか?」

 

 友奈が覗き込むようにしてムサシを上目遣いで見た。

 一瞬戸惑っていたが、素直に感想を答える。

 

「美味しかったよ。今までで一番」

 

 その言葉を聞いて始めに答えたのは風だった。

 

「じゃあ今度は長岡IN香の香とかにも行きましょ」

「そこもうどん屋?」

「もちろんそうですよ!」

「ああ……じゃあ機会があれば、お願いしようかな」

 

 控えめに言ったムサシに、友奈と風の二人はハイタッチする。

 友奈と美森、夏凜と別れ際に手を振り、残った四人は同じ方向に向かって歩き出した。

 犬吠埼姉妹に園子とムサシは同じマンションに住んでおり、友奈たちとは反対の方向に歩いていた。

 

「そういえば〜ムサシさんは結婚なさってるんですよね?」

「え?そうだよ」

 

 突然の園子の質問に、ムサシは一瞬戸惑った。

 

「羨ましいね〜イッツん」

「え!私ですか!?」

「樹に相応しい男はアタシが見定めるわよ」

「ええ……」

 

 そんなことを話してる内に、マンションの前まで来ると、四人はエレベーターに足を運んだ。

 

「奥さんはどんな方なんですか?」

「えーと」

「どうぞ正直に!」

 

 園子はまるでマイクでも持っているかのように、右手をムサシに突き出した。

 

「……わかった」

 

 やがて観念して、ムサシは口を開く。

 

「初めて会った時、チームに入ったのが十ヶ月先ってだけで僕を後輩扱いしてたかな。わがままですぐに怒るけど、今思えばそんな彼女に救われてた。怪獣保護でも僕と一緒にやってくれて、彼女から勇気も貰った」

「羨ましいッ!ここにもムサシさんみたいな人がいればな〜」

「フーミン先輩ならすぐに良い人が見つかりますよ〜」

「そうよね!アタシももっと女子力を磨かないと!」

「ムサシさんにとって奥さんもかけがえのない存在なんですね」

「そうだね」

 

 樹の言葉を肯定して、ムサシは笑った。

 エレベーターが一度停止。園子は笑顔で両手を振って別れの挨拶をする。それに合わせて三人も手を振って返した。

 エレベーターの動く静かな機械音に耳を澄ませ、三人は黙っていた。

 なにも話すことなくエレベーターの扉が開き、ムサシは扉を止めて犬吠埼姉妹を先に降ろす。

 靴底が長い廊下を叩いて、高い音が響き渡る。その中で風はカバンから鍵を取り出し、ドアノブに差し込んだ。

 

「それじゃあムサシさん、ありがとうございました」

 

 姉の仕草を真似て、樹も慌てて頭を下げる。

 そんな二人に対してムサシは軽く手を振った。

 

「体に気をつけて」

 

 はい、と答え二人は部屋の中へと入った。

 一度息を吐き捨て、ムサシも扉を開けて中へと入る。

 ジャケットを脱ぎ捨てて、ソファに寝転がった。

 

 これからのことを考えている内にムサシは眠気に誘われ、瞳を閉じる。簡単に、意識を手放した。

 

 

 

 

 全ての絶望とは、光と対立する災厄。

 

 

 

 

 

 

 次の日の放課後。

 当然、勇者部はムサシと園子も含めて部室に集まっていた。

 小さな黒板の前に風が立ち、その前に他の六人は椅子に座っている。

 風は黒板を叩く。

 

「これから来るであろう敵に備えて、作戦会議をするッ!」

「いぇ〜い!」

「やったー!」

 

 友奈と園子は拍手をしたりと場を盛り上げる。

 

「ヒーローが悪者と戦う時、多少の建物が壊れるのは演出的に素晴らしいことだけど、ここではそうはいかないのよ」

「神樹様が壊れた建物を直してくれてるけど、それも完璧じゃないんだよね〜」

「乃木の言う通り、だからこれからはなるべく壊さないように戦わないといけないの」

 

 神樹様が直してくれている。だが、力を失っているからなのか神樹は建物を完全に修復することができていない。そして、大赦は外敵の存在を隠すために壊れた建物は『劣化による崩落』として処理。それも最近ではかなり対処するのは厳しくなっている。

 そのために考えた風の作戦。

 

 それは────。

 

「海辺で戦うこと」

「わ〜!それはいい考えだね部長〜」

「でしょー!」

 

 確かに海であれば、被害は最小限で抑えることはできる。

 だが問題は────。

 

「みんなはどうする?勇者の力で海を渡れるの?」

「そこは大丈夫ですよ〜ムサシさん。勇者システムで海は自由に歩けますよ〜」

 

 相変わらず『勇者システム』には驚くことばかりだ。

 ムサシは軽く頷きながら感心していた。

 

「これで被害は最小限に抑えられますけど、やはり心配ですね」

「そうね東郷の言う通り。本題はここからなの」

 

 風は一泊の間を空けてから口を開いた。

 

「なんとかして街から離さないといけない」

「ちょっといいかな?」

 

 そっと手を上げて、ムサシが会話を切り出す。

 

「始めにあの黒い巨人が来たときはどこから来たの?」

「え……と、確か」

「山の向こうから?」

「なら、ほとんどの相手が来る時は、いつも山の向こうから来てることになる」

「ああ!!」

 

 風が声を荒げた。

 カオスロイドUを除いて、カオスロイドSとゴモラは山の向こうから現れた。山で戦闘を開始することができれば、危険を晒してまで海に誘い込む必要がなくなる。

 だが、それも曖昧なもの。敵が必ずしも山の向こうから来ているわけではなかった。

 足場は悪いにしろ、街に被害が出ないのであればそれ以上を求める必要もない。

 

「もし最近のように突然違う場所に現れたのであれば」

「──海か山のどちらかに誘導する」

「そういうこと」

「じゃああと気になるのは……」

 

 三森の後に続いて園子が喋る。

 

「あのウルトラマンや怪獣だよね〜」

「それについて一つ」

 

 ムサシは手を上げて、以前話した光のウィルス(カオスヘッダー)を記憶に蘇らせる。

 

「あのウルトラマンたちは、恐らくカオスヘッダーが関係してると思う」

「カオスヘッダーってムサシさんたちと暮らしている星の守護神的な存在ですよね?」

「そう、今のカオスヘッダーは争いを好まず、平和を望む存在だ。だけど、あのウルトラマンたちを作り上げているのは恐らくカオスヘッダーなんだ」

「利用されている?もしくは──」

「また敵になってしまったか」

 

 嘗てムサシが戦ったカオスヘッダーとは光のウィルス。争いの続く星に秩序を齎す存在。目的は『全生命体の意識を一体化』させること。しかし、それが間違った方向に進んでしまった。

 人の心を分析することで『怒り』と『憎しみ』を覚えたが、『愛』と『優しさ』だけは理解できずにコスモスや人類と対立をすることになった。

 カオスヘッダーは苦しんでいた。『愛』と『優しさ』がわからずに、苦しんでいたのだ。

 だが、コスモスの優しさや怪獣たちの呼びかけによってカオスヘッダーの怒りと憎しみは浄化され、『優しさ』や『慈しみ』を学んだ金色の巨人へと姿を変えた。

 

 今のカオスヘッダーが人間を攻撃するとは思えない。

 カオスロイドS(セブン)U(ウルトラマン)から感じられたのは、かつてと同じ『怒り』や『憎しみ』といった負の感情。

 コスモスを殺すといった明確な意志が読み取れた。

 

「みんな気をつけて、カオスヘッダーは人に感染するとその人間のデータを読み取って新たな敵を作り出す。勇者である君たちに感染すれば、恐らく君たちに似た敵が今後襲いかかる可能性がある」

「気をつけないとですね」

「倒した後に来られたら最悪ネ」

「なんとかして、かおすへっだーを対処しないとですね」

 

 少しぎこちなくカオスヘッダーの名前を呟き、美森は窓の外に目を向けた。

 

「会話って無駄なんでしょうか……」

「この前からして厳しいかも……」

 

 会話自体はできていたが、明らかに敵意剥き出し、コスモスや勇者たちを倒そうとまでしていた。

 

「そういえば……」

 

 絶望的な状況に頭を抱える一向に風は何かを思い出して、話を切り出した。

 

「アタシが満開する前、夢を見たの」

「夢……?」

 

 誰もが笑い、誰もが人の幸せを望む世界。

 風はその中で、金色に輝く()()()を見た。

 コスモスとは違った光だが、コスモスやムサシから感じる『優しさ』をその光からは感じられた。

 

「その光はアタシを包み込むように手で覆ったの。それで樹の声が聞こえて、気がついたら満開してた……」

「もしかしたらそれは……!」

 

 友奈や他の皆も気がついたように目を合わせて頷いた。

 コスモスは風を侵食する影を打ち払っただけであり、立ち直るには風の覚悟が必要だった。

 風を絶望的な悲しみから救ったのは、恐らく──。

 

「カオスヘッダーはまだ完全に『憎しみ』に取り込まれてない!」

 

 ムサシは固くなった表情を和らげ、無意識に笑みを浮かべた。

 

 

 この世界のカオスヘッダーは既に()()()()()

 天と地の神による争いを食い止めるために戦って、死んだのだ。

 死ぬことを悟ったカオスヘッダーは地の神たちに最後の力を渡し、共に人類を守る結界を作り出した。

 

 今、この世界にいるカオスヘッダーはコスモスたちの知っているカオスヘッダーだ。そして、今は闇に呑み込まれつつある。

 カオスヘッダーはコスモスたちの言っている『優しさ』や『慈しみ』のような善の感情を信じている。だからこそ、まだ完全には闇に呑まれていなかった。

 

 

 

「カオスヘッダーをなんとかして助けないと」

 

 この世界で見捨てるわけにはいかない。

 一度、カオスヘッダーは闇から光になった。ならば、また光を取り戻せる可能性は充分にある。

 あとはその方法。

 

「僕とコスモスがなんとかしてみる」

 

 完全に取り込まれていないなら、カオスヘッダーを蝕む闇を打ち払う。

 決して誰も死なせたりはしない。

 カオスヘッダーも必ず救ってみせる。たとえ、どんな道のりが待ち受けようと、挫けたりはしない。

 

「よし、じゃあ次にカオスヘッダーが来たときはムサシさんたちを援護するわよ」

 

 風の掛け声と共に、勇者部は拳を掲げて声を出した──それと同時に、頭に響くほど大きな警報が鳴り響く。

 

 その警報を境に、世界の時が停止する。

 風に舞い散る葉は空中で静止、小鳥も同じだった。

 人々の姿は花のように消え去り、神樹を中心に世界は止まる。

 

 誰もが一瞬驚きながら、敵が来たと認識した。

 全員は慌てて靴に履き替える暇もなく、校庭に出る。

 

「みんないくわよ!」

 

 全員で一斉にスマホのアプリをタッチ──花びらが舞い踊り、少女たちの姿を『勇者』へと変化させていく。

 そして、ムサシはコスモプラックを握り締め、大きく掲げて叫ぶ。

 

「コスモース!!」

 

 眩い光が屹立。光の前には五人の勇者たちが並んだ。

 

「そのっちはどこかで隠れてて」

「うん、みんな気をつけてね」

「それじゃあ行ってくるよそのちゃん!」

 

 友奈の言葉に園子は笑顔で頷き、全員は飛び立った。

 瞬間。夕陽に染まりつつある空が暗黒の雲に包まれた。時々光る雷は轟音と共に鳴り響く。

 

「なんか不吉ネ」

 

 山の頂を越えて、勇者たちは平坦な場所に足を付けた。

 空を見上げると、黒雲が山の頂を呑み込んだ。そして雷鳴が轟き、その瞬間に雷が木々を穿ち、眩い光に視線を逸して、もう一度視線を戻す。そこに巨大な影が、立っていることに気がついた。

 雷が落ちる度にその姿が照らされ、()()は腕を組んでいることがわかる。

 

 ウルトラセブンに似たスラッガーを二本──頭部に装着している。

 ブロンズとシルバー、ブラックの体。そして赤色の単眼が、コスモスたちを見下ろした。

 

『あれは……カオスヘッダーじゃない……!』

「じゃああの巨人は一体…!?」

『なぜ、あの姿はッ!』

 

 組んでいた腕を解き、その巨人が右腕を振り払う。すると、頭上で雷鳴を轟かせる黒雲が消え去った。

 夕陽に照らされ、さらにその姿が顕になる。

 肩から胸にかけてプロテクターあり、二本のスラッガーが誰かを物語っていた。

 

『ウルトラマンゼロッ!』

 

 だが、それはゼロであってゼロではない。

 ゼロを模して作られたロボット兵器。

 ゼロを殺すために作られた最強のロボット。

 

 その名は、ダークロプスゼロ。

 

「気を付けるんだ!あの巨人は本人と同等に強いッ!」

 

 突然、ダークロプスのスラッガーが一瞬煌めく。

 危険を察知したコスモスが勇者たちの前に立った。

 音速を超える速度で、二本のスラッガーがブーメランの如く回転してコスモスに襲いかかる。

 立ちすくんでいた勇者たちを庇い、コスモスの体をゼロスラッガーが抉る。

 

「コスモスッ!」

 

 いち早く風が大剣をゼロスラッガーに振り下ろしたが、素振りが大きくゼロスラッガーを捉えることはできなかった。

 二本のゼロスラッガーは回転しながら弧を描き、本人の頭部に戻る。

 

『みんな気を付けるんだ!彼は並のウルトラマンより遥かに強い!』

 

 ウルトラマンゼロはウルトラマンレオとアストラのレオ兄弟に拳法を教わった若き最強の戦士。その彼を模倣したのであれば、同等に強い可能性がある。

 勇者たちの近接攻撃は単なる自殺行為。

 コスモスは痛む体を起こして、右手を掲げた。

 太陽の赤き光が、コスモスの背後で輝く。

 ルナモードからコロナモードへと変化(モードチェンジ)。そしてコスモスは両腕を掲げた。日食の勇気ある軌跡を身に纏い、金色の光がコスモスを包み込む。

 コロナモードに色に青いラインが走り、コスモスはコロナモードからエクリプスモードへと進化を遂げた。

 

「──ハァァッ!」

 

 ダークロプスは山の頂から降り立ち、コスモスの前に立った。

 二人の巨人は大地を蹴り出して、素早く駆ける。

 コスモスは高速移動を駆使し、ダークロプスに寄ったが、まるで動きが見破られているかのように放たれた蹴りをコスモスは腹部に喰らう。

 痛みに膝を付いた瞬間を見逃さず、ダークロプスは素早く足を組み換え、回し蹴りをする。

 

「やらせないッ!」

 

 コスモスに直撃する寸前で、友奈が拳を叩き込み、蹴りは弾き飛ばされる。動きの止まった一瞬で緑色の(ワイヤー)がダークロプスの動きを封じ、美森の狙撃が視界を封じた。そして、黄金と紅蓮の一閃が一撃を振り上げる。

 

 だが、ダークロプスはそれをまともに喰らうほど弱くはない。

 

 彼は体中を縛り付ける蔦を握り締めて、迫り来る風と夏凜に振り払い、二人は山の中間部に叩きつけられる。

 勇者たちに気を取られていたダークロプスに掴みかかり、勢いのまま投げ飛ばすが、ダークロプスは宙で身を翻し、綺麗に着地した。

 

(強い……!)

 

 コスモスは大地を踏みしめ、ジリジリと地面を削る。

 そして、ダークロプスが二本のゼロスラッガーを握り締めたと同時に、コスモスは駆け出した。

 僅かな間から差し込むように美森の狙撃が、ダークロプスに降り注ぐ。だが、ダークロプスはスラッガーを器用に扱い、美森の光弾を斬った。

 振り下ろされるゼロスラッガーを受け止め、腹部に目掛けて蹴りを放つ。

 

「勇者ッ!パァァァァァンチッ!」

 

 一瞬怯んだダークロプスの胸部に、コスモスと友奈は拳を叩きつけた。

 

「──ハァァァァッ!」

 

 コスモスは両手に金色のエネルギーを収束させ、三日月を描く。

 三日月を描いたブレードを押し出し、回転しながらダークロプスに襲いかかるが、ダークロプスはブレードを簡単に片腕で弾き飛ばした。

 

 ダークロプスゼロの持っているゼロスラッガーは万物を切り裂く至高の刃。それに対してコスモスは武器などを持ち合わせておらず、スラッガーをまともに受ければ死ぬ可能性すらもある。

 そして、ダークロプスゼロはゼロスラッガーを扱う達人であり、確実に仕留めるため急所を的確に狙う。

 武器を扱う達人に、拳で挑むのは自殺行為。

 

 だが、コスモスは怯むことなく拳を構えた。

 

「コスモスさん!大丈夫ですか!?」

『友奈!君は下がるんだ!今の相手は僕達よりも遥かに強いッ!』

「だけど!」

『君は他のみんなを頼む!僕の援護は東郷がやってくれるから大丈夫!』

 

 友奈はコスモスと遠くで狙撃する美森に視線を移した。そして、唇を噛み締めてから「わかりました」と納得のいかないように呟き、一度下がった。

 

(この場を凌ぐ方法を見つけない限り僕達に勝ち目はない……!)

 

 深く考え、目の前の敵に対する警戒が一瞬だけ緩んだのを、ダークロプスは見逃さなかった。

 両手に握っていたスラッガーを投擲──ブーメランの如く回転しながら、コスモスに飛んでくる。

 高速の回転とダークロプスゼロの怪力によってスラッガーは神速で回転し、一秒と経たずコスモスのもとに辿り着く。

 

「──ダァッ!」

 

 声を上げ、コスモスは始めに飛んできたスラッガーを蹴り飛ばす──同時にスラッガーがコスモスのふくらはぎを浅く抉った。

 痛みに怯むことなく、追撃(ゼロスラッガー)をバリアで防いだが、バリアをギリギリと噛み、コスモスはバリアごとスラッガーを明後日の方向に弾き飛ばした。

 戦闘開始から一分。

 ウルトラマンの活動時間は約三分。その根拠がロボット兵器にまで通用するとは思えない。故に、倒すか戦闘不能なほどに破壊する他ない。

 

 コスモスは拳を突き出し、ダークロプスの眼前まで高速移動。

 美森の放った光弾がダークロプスの視界を遮り、コスモスは一瞬の隙を見逃さず胸部にストレートを叩き込んだ。

 強烈な一撃によろけた瞬間──コスモスは両腕を胸の前で交差させた。

 爆大な金色のエネルギーが両手の動きに沿って輝き、そのエネルギーを右腕に移した。

 遅れてダークロプスは右腕を腰に置き、左腕を広げた。

 

「──テェヤッ!」

 

 コスモスがコズミューム光線を放ち、一瞬遅れてダークロプスはダークロプスゼロショットを撃ち放った。

 普通を逸脱した二つの強力な光線は当たる寸前で、強力過ぎるエネルギーが反発し合って空間の歪みを作り出し、光線は螺旋を描き、ダークロプスの肩を掠り、コスモスは体に大きなダメージを与えられる。

 二人は吹き飛ばされ、大地に叩きつけられる。

 

「コスモスさんッ!」

「まずいわね……」

 

 起き上がろうとする風を支えて、友奈は立たせる。

 今まで戦って来たどんな敵よりも遥かに強く、進化したコスモスをも圧倒する(パワー)は勇者たちに絶望を与える。

 

 コスモスの胸の発光機関──カラータイマーが赤く点滅を始めた。

 

「危険信号みたいね」

 

 腕を抑えながら、夏凜は肩を上下させながら友奈の横に並んだ。

 

「なんとかしないと!」

「あのコスモスの光線を受けてめ立ち上がるなんて……」

 

 肩を上下させているが、コスモスの光線は決定的な一撃にならず、ダークロプスはゆっくりと立ち上がり、頭部のゼロスラッガーを手に握る。

 

「コスモスさんがまずいッ!!」

 

 気がついた友奈は慌てて跳躍する。

 コスモスは肩を上下させ、痛む体を無理にでも起こそうとしているが、予想以上のダメージに起き上がることができていない。

 そんなコスモスに止めを刺すためダークロプスは首の骨を鳴らしながらゆっくりと、そのスラッガーを煌めかせながら歩いていく。

 

 無慈悲にもゼロスラッガーが振り下ろされ──それを許さない勇者がいた。

 

「──勇者パァァァァンチッ!!」

 

 振り下ろされるゼロスラッガーを桜色の閃光が弾き飛ばし、ダークロプスを押し返した。

 押し返されたダークロプスの脇はがら空きとなり、風と夏凜の一撃によって宙に打ち上げられた。だが、ダークロプスは空中で態勢を立て直し、山の頂に降り立った。

 

「ムサシさん!コスモスさんッ!」

 

 コスモスの近くで友奈は叫んだ。

 コスモスは肩を荒く上下させながら、ゆっくりと片膝を立てて立ち上がる。だが、足取りはフラフラとしており、ダメージが大きいものだと誰もが理解できた。それでもコスモスは立ち上がり、拳を構えた。

 

「コスモス……」

 

 傷つきながらも、コスモスは立ち上がる。

 そのコスモスを見下しながら、ダークロプスは低い声で笑った。

 そして、ダークロプスは右手を自分の単眼に重ねた。赤い光が単眼に集まる。

 一瞬。コスモスは離れた位置にいる風たちに視線を移した。

 

「なんかヤバイッ!」

 

 風が気づいた時には遅く。

 ダークロプスの単眼から光線が勇者に放たれた。

 

『やめろッ!!』

 

 ムサシが叫ぶ。

 赤き輝きが風や夏凜の視界を覆い尽くす刹那。

 飛び込んだコスモスは体全体で光線を遮り、そのまま大地に落ちた。

 

「コスモスッ!!」

 

 悲鳴とも取れる叫びを上げながら大地に倒れ、コスモスはゆっくりと立ち上がる。一瞬だけ安堵した。だが、コスモスの胸のカラータイマーは間隔があまりにも短く点滅していた。

 

 フラフラとよろけながら、コスモスはどこかに手を伸ばす。

 それはあまりにも力無く、まるで助けを求めるように、死に抗うかのように、儚く伸ばしていた。

 刹那。投擲されたゼロスラッガーがコスモスの体を穿いた。

 

 

 

 その瞬間、カラータイマーが消える────。

 

 

 

 差し出された手が下がる。コスモスの体は光を失ったように、ゆっくりとその体は銅のような色に包み込まれる。

 

「……え?」

 

 声を失った。

 それはあまりにも突然で、あり得ない出来事だった。

 コスモスの体はバランスを崩して倒れていく。

 大地と衝突する直前──コスモスの体は、光になって弾け飛んだ。

 

「うそ……」

 

 どこを見渡しても巨大な体のコスモスは見えない。

 光は消えた。

 

「そんな……うそ……」

 

 目を見張った。

 そこにはウルトラマンコスモスも、春野ムサシと呼ばれる人間もいない。

 

 ウルトラマンにとってカラータイマーとは心臓と繋がったエネルギーを司る重要な中枢器官だ。カラータイマーが破壊されるということはイコール『死』を表す。

 コスモスは自身のエネルギーを全て使い、その姿が光となって消え去った。

 

 勇者たちはその場で崩れ落ちる。

 私たちを守ったから、コスモスは死んだのだ。皆、そう認識した。

 誰かの笑いが響き渡る。

 それは嘲笑とも取れ、ふつふつと友奈たちは怒りが込み上がって来ていた。

 

「笑うなッ!!」

「行くよ友奈ッ!!」

 

 山の頂で見下ろすダークロプスに向かって二人の勇者は突進する。

 投擲されたゼロスラッガーを躱し、弾き飛ばしてダークロプスの眼前まで近寄った。

 振り払われる手刀が蔦によって防がれ、視界を紅蓮と紺碧の輝きが遮った。

 

『ハァァァァァッ!!』

 

 二人の憤怒がダークロプスに叩き落とされる。

 慢心しきっていたダークロプスの肩に大剣が堕とされ、足りない威力を友奈の一撃が補う──振り下ろされた大剣に友奈は拳を叩き込み、押し込んだ。

 肩部が大きく抉られるが、全員は薙ぎ払われた。

 

 ダークロプスの赤眼が友奈を見た。そして、声が聞こえた。

 

 ────図に乗るな、人間。

 

 そう聞こえた。

 単眼に赤い光が集まり、コスモスを葬り去った光線が放たれると認識するまで、時間は掛からなかった。

 

 コスモスは身を挺して勇者を守った。命を掛けて守ってくれたのに、私はなにもできずに終わるの?

 

 友奈は『死』を直視できるほど強い人間ではなかった。だが今は、怒りと悲しみが混ざり、漠然とした何かが友奈の感情に渦巻いていた。それが死の恐怖を消し去ってダークロプスを睨んでいた。

 

「絶対に!お前を許さないッ!!」

 

 その声は全員の耳に届き──そしてもう一人の勇者のもとに届いた。

 空の彼方から一筋の、矢尻の形をした光がダークロプスを吹き飛ばし、放たれた光線が紫電の盾によってあらぬ方向に弾き飛ばされた。

 

 大地を転がり、木の根元に背中から叩きつけられる──息が詰まる。

 

「かはッ……!」

 

 肺が圧迫され、息が吐き出る。

 呼吸を整えて何度か瞬きすると、ぼんやりしていた視界が安定し、目の前に誰かが立っているのに気がついた。

 

 金糸のように綺麗な長い髪。紫と白を基調とした勇者服に身を包んだ少女が、背を向けて立っていた。

 少女は友奈に気がついて、手を差し伸べた。

 

「遅れてごめんねゆーゆ」

「……その…ちゃん?」

 

 その声と姿は『乃木園子』だった。

 彼女は長い髪を翻し、紫電の槍を持ちながら友奈に手を差し伸べた。

 

「なんで……ここに?」

 

 友奈は手を受け取り、園子に引っ張ってもらいながら起き上がる。そして、友奈の問い掛けに、園子は視線を移した。

 

「助っ人を連れて来たんだよ〜」

 

 助っ人と言われ、園子の視線を辿った。

 そこには大地に倒れるダークロプスゼロ。そして、ダークロプスの視線の先にいくつもの光の輪が出現していた。

 

「助っ人……?」

 

 光は形を顕にして、その姿を明らかにする。

 そこに新たな光が屹立した。

 赤色の体。肩から胸にかけて黒色のプロテクターを纏った光の戦士。

 その姿は()()()()()()だった。

 

 

 

「彼の名前は、ウルトラマンジャスティス。私たちの助っ人だよ」

 

 

 

 

 園子は笑顔で、彼の名を言い放った。

 

 正義を司る赤色の勇者。

 ウルトラマンジャスティスが、ダークロプスゼロを見下ろして、その場に屹立していた。




▽ダークロプスゼロ
▽ウルトラマンベリアルがウルトラマンゼロを模倣して作った最強のロボット。その戦闘能力は凄まじく、プロトタイプは力を抑えた状態で若き最強の戦士ウルトラマンゼロを圧倒するほど。

この作品ではゼロスラッガーと言っていますが、本当はダークロプスゼロスラッガーです。長いのでゼロスラッガーにしております

▽乃木園子
▽14歳
▽天然気質のボーっとしているのが趣味。日頃の多めのドジや失敗をいつも須美にフォローしてもらっているが、ここ一番の柔軟な思考からの閃きと行動力は、三人の中でも抜きんでており、一目置かれている。名家の生まれで、今まで大事に育てられてきたせいもあって友達が少なく、須美と銀を大切にしている。 ある人物いわく苦手なものはない。
小学生の頃による勇者の満開を20回繰り返し、その体の大半の機能を失った。だが今では普通の暮らしをするまでに回復している。
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