第八浮遊大陸基地奪還作戦・改   作:龍@西条ちゃん推し

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第2話 双方の知略

第2話 双方の知略

 

 

 山南は艦長室に佇んでいた。25畳ほどの部屋にデスク、ベッド、本棚が並んでいる。壁には16万8000光年の旅へと赴いた宇宙戦艦ヤマトが撮った宇宙の絶景写真、そして初代宇宙戦艦ヤマト艦長"沖田 十三"のレリーフが飾られている。

 山南は淹れたてのダージリンティーを1口啜ると、ゆっくりと艦長席に座った。

 

「奴さんは随分と忍耐強いようだ」

 

 現在の状況は山南が呟いたこの一言に尽きた。

 アンドロメダ到着後、地球ガミラス連合艦隊は鶴翼陣を形成しガトランティス艦隊の侵攻を待ち構えていた。しかし、いつまで待っても侵攻してくる気配すらなく時は経ち、開戦から既に12時間が経とうとしていた。山南がこうして優雅に紅茶を啜れているのもこれが原因だ。

 

(敵は完全に我々を待っている。この均衡状態は敵が最も望んだ展開なのかもしれないなぁ。この戦い、苦しくなりそうだ)

 

 西暦2182年に日本国航宙自衛隊に入隊し、2190年代から数々の死線を経験した彼の判断に違いはなかった。ガトランティス遠征軍が切り札として用意していた大戦艦は、アンドロメダの拡散波動砲により大破し、大部分の艦隊も喪失した。

 そんなガトランティス遠征軍は前方に破壊された旧宇宙艦艇のデブリ群、浮遊大陸基地を後背に持つことで持久戦に持ち込もうとしたのだ。最終的な目標は地球ガミラス連合艦隊の無血撤退。

 それこそが苦肉の策を強いられるガトランティス遠征軍を指揮する大都督が判断した作戦だった。

 

「苦しむこともまた才能の1つ──誰の言葉だったかな」

 

 妙案が浮かんだのか、笑みを浮かべた山南はダージリンティーを飲み干して艦長帽を手に艦長室を後にした。静寂が包んだ艦長室の机には、十九世紀の名作。ドストエフスキー執筆の"罪と罰"が置かれていた。

 

 ──連合艦隊総旗艦アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「艦長、敵は背水の陣を組んで我々の侵攻を拒んでいます」

 

 アンドロメダ副長──生田目 義樹三等宙佐が言葉を並べる。

 

「天の時は地の利にしかず──さてどう戦うか」

 

 山南は2つの選択肢で迷っていた。1つは強引にデブリ群を突破し、数と質に勝る正面戦闘で一気に押し切る戦法。もう1つは航空隊で敵艦隊を撹乱している隙にデブリ群を迂回して左右から敵艦隊を挟撃する戦法だ。

 どちらの戦法をとっても戦力喪失は目に見えていた。特に地球連邦宇宙海軍はこの戦場に、保有する7割型の戦力を投入していた。これが損害を受ければ、後々の防衛活動に支障をきたす可能性もある。山南は拡散波動砲による殲滅も考えたが、広範囲に拡散する余剰次元に浮遊大陸基地の外装が耐えられるとも分からない。

 山南は宇宙艦隊と浮遊大陸に大きな損害を与えることなく、敵艦隊を殲滅する作戦を考えざるを得なかったのだ。そして1つの結論を導き出す。

 

「戦術長。重力子スプレッドをデブリ群へ投射できるか?」

 

「──重力子スプレッドはまだ最終チェックが…」

 

「撃てるのか?」

 

「──いえ、発射は可能だと思います」

 

 アンドロメダ戦術長──羽生 慶悟一等宙尉は揺れ動く気持ちを押し込めながら言った。彼の額には汗が流れる。

 

「いずれにせよ発射せねばなるまい。必ず成功させるんだ」

 

「了解しました。重力子スプレッド発射準備、目標前方デブリ群」

 

 艦首波動砲口の直上。4基8門装備された"試製20糎放膜拡散型収束重力子投射機"、通称"重力子スプレッド"は、補助機関炉心内で精製された重力子を高密度に収束。一気に投射することで目標物を含む前方障害物を収縮爆発させる兵器である。

 運用方法は様々なパターンを想定しており、弾幕を一極集中させ全面に展開させる「一極集中攻撃運用」、弾幕を収束させず散弾させることで広範囲に展開させる「障害物破壊運用」、そして弾幕の回転数を上げ、収束した瞬間に重力子の渦を精製。それを簡易的な物理防護壁として使用する「防壁運用」の3つを主な運用方法として挙げている。

 因みに、兵器自体は既に完成していたが、アンドロメダ竣工直後に今回の遠征へ極秘投入されることが決定された為、前述の通り一部機器の稼働実験は愚か、エネルギー伝導テストは行えず終いであった。

 

「重力子スプレッド、砲塔を展開。最終発射準備へ移行する」

 

 波動砲各種関連機器が沈降し重力子スプレッドの禍々しい砲塔が姿を現した。既に砲口内にはエネルギーが貯められている。

 

 ─ガトランティス宇宙軍天の川銀河遠征軍

   第八浮遊大陸基地駐留第299艦隊旗艦"メルーサ"─

 

 

 薄暗い艦橋。所々にスポットライトの光が差し込むその壁にはガトランティス公用語で"偉大なる大帝陛下"と書かれている。

 艦橋中央部には玉座とも形容しがたい大きな艦長席が威風堂々と鎮座しているが、その席に座っている男はそれを超える雰囲気を醸し出していた。

 

「大都督、敵旗艦と思われる艦艇に高エネルギー反応を感知しました。如何なさりますか?」

 

「フン。敵は依然、自らに有利があると勘違いしている節がある。その心情、根から剥ぎ取るだけだ」

 

 そう言ったこの人物は、遠征軍を指揮する第299艦隊旗艦艦長兼遠征軍大都督"グライズ・ダガーム"。そう、シャンブロウ沖海戦で戦死した旧グダバ遠征軍大都督"ゴラン・ダガーム"の"後継者"である。

 

 ──連合艦隊総旗艦アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「重力子スプレッド、サブよりエネルギー伝導を終える。照準よし」

 

「撃ちー方はじめっ、ってぇ!」

 

 山南の号令とともに轟音を立てながら重力子スプレッドが放たれた。8つの閃光はデブリ群の中心で破裂、収縮爆発をしながら周辺のデブリを破壊し尽くした。辺りには橙色の爆炎が広がった。

 

「デブリ群の喪失を確認」

 

「よし、第二、第四艦隊に通達。全艦横隊を築き艦隊前面に展開。爆煙突破後に艦砲射撃にて敵艦隊を攻撃せよ」

 

 ──第二艦隊旗艦"デトロイト"第一艦橋──

 

 

 第二、第四両艦隊は迅速に艦隊正面に展開し、砲撃を開始した。しかし、その瞬間第二艦隊旗艦──デトロイトの99式電探に複数の光点が映った。グリッドの下には"VAMPIRE"(アメリカ宇宙海軍、海軍が使用する隠語。敵性弾頭接近の報を意味)の文字が点滅している。

 

「ヴァンパイア!ヴァンパイア!ヴァンパイア!前方より多数のミサイル接近!距離3万2500ヤード!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ぜ、前方だと!?敵艦隊の射程圏内ではないはずだ……」

 

「あ、あれはっ──敵新型艦!」

 

 爆煙から姿を現した艦は、地球ガミラス両勢力が視認したことがない艦艇──即ち新型艦であった。

 見渡す限りに砲塔は無く、代わりに多量の艦対艦ミサイルが装備されていた。艦首には2本の大型ミサイルが堂々とそびえ立っており、その姿に連合軍は怯む。

 後に前期ゴストーク級雷撃型ミサイル宇宙戦艦と称されるこの艦は、地球連邦宇宙海軍の驚異となる艦のひとつだった。

 

「敵ミサイル接近!」

 

「Fire!(撃てっ!)」

 

 艦首上下のフィン状首翼の根元にある計16のハッチが開き、対空迎撃ミサイルが放たれた。しかし、全てのミサイルの掃討は叶わず、対空迎撃ミサイルをすり抜けた数本の艦対艦ミサイルが艦体を襲った。

 

「右舷第3デッキに被弾!外殻装甲に亀裂発生!」

 

「気密隔壁を閉鎖。次弾装填、迎撃の手を緩めるな!」

 

 ──連合艦隊総旗艦アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「まさか更なる新型艦がこの宙域に配備されていたとは…」

 

「してやられたな」

 

「敵艦艇の情報解析完了。主モニターに回します」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「戦艦クラスが3隻…長さはほぼヤマトと同じか」

 

「現在の艦隊に対空戦闘が可能な艦艇は数える程度に過ぎません。一時撤退し、再起を図るべきでは?」

 

「いや、今撤退すれば戦線を押し戻されこちらからの侵攻は出来なくなるだろう。その前にミサイル戦艦を叩く。──後続の空母に命令。対艦爆装に換装し出撃、敵艦を攻撃する」

 

 ──第一艦隊第一航空艦隊 赤城型宇宙空母"赤城"──

 

 

「初めての出撃か。ガミラスから譲与された空母からファルコンが飛び立つとは、4年前なら異様な光景だな」

 

「確かにそうだな。しかし今は2202年だ、過去はもう振り返らず、だ」

 

「分かってるさ」

 

 第一航空艦隊配属第一航空隊隊長──加藤 雄大と副隊長──国木田 涼誠がそんな会話を零しながら、第三飛行甲板に繋留されているコスモファルコンに乗った。国木田が言ったように、彼らを乗せている空母はガイペロン級多層式航宙母艦と呼ばれるガミラスで古くから運用されている空母だった。地臥安保締結後、正規空母を有さない地球連邦に計8隻のガイペロン級が譲与され、そのうちの1隻がこの赤城だった。

 

『CF-115出撃を許可する、発艦許可』

 

「ラジャ、出撃する」

 

 CF-115を筆頭に第一、第三甲板より次々と99式空間戦闘攻撃機──コスモファルコンが飛び立った。パイロンには空対艦ミサイルが爆装されている。

 

 ──連合艦隊総旗艦アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「全航空隊出撃」

 

「敵艦隊艦列を変更。ミサイル戦艦周辺に直掩艦艇数十隻を確認」

 

「第一から第五航空隊、仮称第一次攻撃航空隊は直掩艦艇を攻撃。第二、第三、第五艦隊を全面に展開させミサイル戦艦を叩く」

 

 濃密な星間ガスが漂う空間を優雅に飛び、星雲を切り裂く尾翼。尾翼には第一航空隊の隊称がペイントされている。

 

「敵艦隊を視認。全機各個に攻撃を開始」

 

 直掩艦艇の直上から攻撃を仕掛けた航空隊は一気に空対艦ミサイルを放った。敵の意表を突いた攻撃で、直掩艦艇は迎撃する間もなく撃沈した。

 

  ──前期ゴストーク級特務艦隊旗艦

       "チチェン・イッツァ" 艦橋──

 

 

「直掩艦多数撃沈!敵航空隊の雷撃による損耗が激しく、このままでは戦線を維持できません」

 

「全対空ミサイルを放て!一機足りとも逃すでない」

 

 チチェン・イッツァ指揮官"ペルカ・マイング"の号令とともに艦対空ミサイルが大量に放たれる。神速の如き速さでコスモファルコンに命中、次々と撃墜する。しかし、同じくらい直掩艦が被弾を受け爆沈する。

 

 ──連合艦隊総旗艦アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「第一次攻撃航空隊、攻撃を開始。直掩艦艇の撃沈を確認」

 

「了解。全艦、陣形を偃月陣形に再編。先頭に本艦とゼルグート、最後尾に空母打撃群を配置。射撃戦を展開しつつ航空隊による飽和雷撃で敵新型ミサイル戦艦を叩く」

 

「了解。全艦に達する、偃月陣形に艦隊を再編」

 

 バラついていた艦艇が指示通り、Λ型に陣形が再編される。後続に控えた空母打撃群から航空隊第2陣としてコスモファルコンが飛び立ち、前衛中衛に控えた戦闘艦艇が主砲の仰角を合わせる。

 

「第一次航空隊撤収を確認。第二次攻撃航空隊、攻撃を開始」

 

「報告。新型艦の後方、敵空母より艦載機発艦を確認」

 

「出撃した第二次攻撃航空隊に通達。攻撃目標に敵艦載機を追加。敵艦載機撃破を中心としつつ、隙を見て直掩艦を攻撃せよ」

 

 ──前期ゴストーク級特務艦隊旗艦

       "チチェン・イッツァ" 艦橋──

 

 

「敵艦隊、陣形を車突形に変形。攻撃準備に入りました」

 

「今こそ我がゴストークの真価を見せる時。連続して艦対艦ミサイルを放て!」

 

 随所に設置されたミサイル発射管から艦対艦ミサイルが放たれる。目標は先頭に立つアンドロメダ──ではなく、中衛の戦闘艦隊だ。

 

  ──連合艦隊総旗艦アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「敵新型艦より連続してミサイル発射を感知。弾道解析の結果、両翼の第三、第五艦隊に向かっている模様」

 

「全駆逐隊で対空防御。対空迎撃ミサイルを出し惜しみなく使え」

 

 磯風改型の艦尾半バルジ部に設置されている8基のVLSより艦対空ミサイルが放たれる。吸い込まれるように前期ゴストーク級より放たれたミサイルに命中するが──

 

「一部敵ミサイル、迎撃不可能域に侵入」

 

 磯風改型が放つ艦対空ミサイルの網の目をすり抜けた数本の艦対艦ミサイルが次々と波動防壁を食い破る。

 

「このままでは各艦の波動防壁耐圧臨界点を超えてしまいます……」

 

「──戦術長、EMP魚雷を装填。敵の新型艦を麻痺させるんだ」

 

「了解。魚雷発射管開口、EMP魚雷装填」

 

 魚雷発射管に核が搭載された重魚雷が装填される。この魚雷が爆発することで周囲に超高密度の人工電磁パルスを発生させ、敵を一時的に麻痺させる。

 

「後続の戦艦に連絡。電子攻撃後、即座にアウトレンジ戦を展開。艦首陽電子砲の発射準備を急ぐように伝えろ」

 

「了解」

 

「目標敵新型艦、距離0.03光秒。発射用意──発射」

 

 白銀の体を持つEMP魚雷が発射された。砲火の隙間を縫いながら前期ゴストーク級に接近、ゴストークの至近距離で爆発した。放たれた電磁パルスはゴストークの装甲を貫通し各電子装備を麻痺させる。

 

 ──前期ゴストーク級特務艦隊旗艦

       "チチェン・イッツァ" 艦橋──

 

 

「敵の電子攻撃です!全レーダー使用不能!」

 

「主機及び補機に強力な電磁帯が侵食、エンジン緊急停止!」

 

 宇宙艦艇の生命線である主機が強力な電磁パルスを浴びたため、冷却機器やエネルギー調整弁などの補助機器の機能が停止。主機はメルトダウン防止のために運動が停止し、全艦に供給される電力、水設備、空調もダウンした。非常に淀んだ空気が辺りを包む。

 

「電力消失。ミサイル攻撃不能!」

 

「なんと──復旧作業急げ!」

 

  ──連合艦隊総旗艦アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「敵艦への電子攻撃成功。電磁パルスの発生を確認」

 

「よし、このまま押すぞ。全戦艦に通達、艦首陽電子砲発射!」

 

 金剛改型宇宙戦艦の艦首に搭載されている46糎陽電子衝撃砲が火を噴く。

 整然と放たれた陽電子砲はチチェン・イッツァの両翼に展開していた"ヴィンディクダー"、"グラインドザーバー"に直撃。ヴィンディクダーが撃沈、グラインドザーバーが補機喪失の上、中破する。

 

「敵艦の撃破を確認。アウトレンジ攻撃成功」

 

「次弾装填、目標左翼の敵新型艦」

 

 ──前期ゴストーク級特務艦隊旗艦

       "チチェン・イッツァ" 艦橋──

 

 

「ヴィンディクダー撃沈!グラインドザーバー被弾につき損害不明」

 

「むぅ…直掩艦はどうなっている!?」

 

「八割型が喪失、航空隊の飽和攻撃に対空戦闘が追いついていないようです!」

 

「くそっ…」

 

「主機のヒューズ取り換えを完了、エンジン復旧します」

 

 主機のフライホイールが息を吹き返し、回転を始める。それに伴い、電力も復旧。照明が再び点灯する。空調が再び始動したため、淀んだ空気は一掃される。

 

「レーダーの損害が予想以上です!復旧不能!」

 

「くっ…遠赤外線探知を開始。敵の攻撃に備えろ」

 

 モニターが遠赤外線探知モードに変わる。探知距離は通常のレーダーの1/3程だが、無いよりはマシということだろう。

 

「通信回路復旧」

 

「グラインドザーバーに通信、破滅ミサイルを敵旗艦に放てっ!本艦も発射する」

 

 艦首に聳える大型ミサイルがエンジンの燃焼音と共に発射される。目標はこの戦闘の元凶たるアンドロメダだ。

 

   ──連合艦隊総旗艦アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「敵艦より大型ミサイルが放たれました。数4、距離0.8光秒。弾道解析の結果、目標は本艦と確認」

 

「対空戦闘用意。主砲1番、2番、VT信管装備型三式弾装填」

 

「三式弾装填を確認。1番砲塔右15°、仰角10°」

 

 アンドロメダ級の主力武装、41糎砲塔が稼働し砲口を接近する破滅ミサイルに向ける。砲身に三式弾が装填され、装薬が同時に押し込まれる。

 

「主砲仰角よし、うちーかたー始めっ!」

 

 爆音と爆煙、そして目に刺さるオレンジの閃光とともにVT信管を装備した三式弾が発射された。この三式弾に搭載されているVT信管は対象物が何であれ、三式弾から距離100m以内に干渉物がある場合、自動爆発する仕組みである。

 第二次大戦中、アメリカ軍が同種の仕組みを持つ信管──VT信管より名前が引用されている。

 

「弾着10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、弾着、今っ」

 

 三式弾が接近する破滅ミサイルの至近距離で爆発するのが見えた。迎撃には成功したかに思えた。しかし──

 

「イレギュラー発生。敵弾頭1本迎撃失敗。接近します!」

 

「迎撃不可能域に侵入、距離0.3光秒!命中まで30秒!」

 

「波動防壁は!?」

 

「稼働限界時間に到達。波動防壁展開不能!」

 

「ゼルグートに入電。物理防壁をアンドロメダの直前に展開!」

 

「防壁の移動が間に合いません!防御不能!」

 

「命中まで10秒!」

 

「くっ…総員直撃に備えろ!」

 

 山南の号令も束の間、アンドロメダの右舷バルジ部艦対艦ミサイル発射管に直撃した。衝撃と振動が艦体を襲い、辺りを爆煙が包んだ。

 

「ぐっっ!!!」

 

「うわぁっ!!」

 

 アンドロメダの右舷バルジ部は跡形もなく吹き飛んでしまった。内部の発射管はその姿を無くし、艦内機構が丸裸になってしまった。比較的装甲が厚い艦底や艦橋への被害はなかったが右舷対空砲塔の砲身が融解する程の高熱が発せられたことがわかる。

 が、この損害は致し方なかったのだ。ミサイルを回避するにもアンドロメダの後方には各艦隊が控えている。戦闘艦隊を極力温存し、ゴストーク級の後ろで戦闘を優雅に眺めるメダルーサとの決戦を行う戦力をほんの一部でも欠けさせたくは無かったのだろう。

 

「畜生。初戦から丸焦げになったか。縁起が悪いな」

 

「右舷バルジ部大破。及び同対空砲塔使用不能」

 

「外殻装甲の一部に亀裂発生。されど、戦闘は続行可能」

 

「右舷の全隔壁を稼働。消火班は直ちに命中箇所の火災を鎮静しろ」

 

 ──前期ゴストーク級特務艦隊旗艦

       "チチェン・イッツァ" 艦橋──

 

「敵旗艦に破滅ミサイル命中」

 

「このまま一気に押し込む。全艦対艦ミサイル発射!」

 

 出し惜しみなくゴストーク級より艦対艦ミサイルが放たれる。嘘偽りなく、数百は放たれている。もはや異様な光景だ。

 

 ──連合艦隊総旗艦アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「敵弾頭多数接近!」

 

「全ゼルグート級で防戦。物理防壁の死角は直接射撃で迎撃」

 

 接近するミサイルはその殆どがゼルグート級が擁する臣民の壁で防御され、盾と盾の隙間を縫って侵入したミサイルは磯風改型が迎撃を行う。外連味の無い迎撃の仕方だ。

 しかし、防戦一方では最終的には喰い破られ敗走する。

 

(こちらからも仕掛けねばならない…)

 

 山南はそう考えていた。その論に間違いはなく、結局戦闘において数こそが力なのである。物量によって押し込まれ最終的には敗走する。これはもはや全宇宙で行われている歴史の必定なのだ。

 

(主艦隊と合流する前にあの新型艦を一刻も早く撃沈せねば、防戦一方で撤退か──危険だが、この作戦に賭けるしかない)

 

「全艦に通達。3隻のゼルグート級を先頭に配置し単縦陣を形成、最大戦速で新型艦に突撃。物理防壁で衝突撃破を狙う」

 

「それはあまりに危険すぎませんか?」

 

 先崎が話を遮って意見を言う。無理もない、それが常識だ。

 

「大丈夫だ。死角から艦対艦ミサイルを連続発射し牽制しつつ接近する。そう伝えてくれ」

 

「──了解しました。全艦に命令、単縦陣に陣形を再編成」

 

 射撃戦及び水雷戦を展開していた艦艇が攻撃をやめ、ゼルグートの影に入る。直後、ゼルグートの影から連続して艦対艦ミサイルを発射する。

 

「全艦最大戦速、目標前方の敵艦」

 

 ──前期ゴストーク級特務艦隊旗艦

       "チチェン・イッツァ" 艦橋──

 

「艦隊正面より敵艦隊、最大戦速で接近!」

 

「なにっ!?」

 

 艦橋外、こちらに接近する2つの壁が見える。巨大な壁の中心には大きくガミラス共和国国紋が刻印されている。

 やがてそれらは速度を上げ、さらにこちらに接近した。間違いない、あれは敵の防御壁だ。

 

 ──連合艦隊総旗艦アンドロメダ/第一艦橋──

 

 

「他のことは考えなくていい。各艦隊、ミサイルを撃ち続けろ!」

 

 ゼルグートの影から放たれる多数の艦対艦ミサイルはゴストーク2隻を苦しませた。接近する艦対艦ミサイルを迎撃しながら、こちらも接近する臣民の壁を攻撃。前期ゴストーク級の性能的に、明らかなキャパオーバーだった。

 

「敵艦隊まであと2000」

 

「物理防壁の波動防壁展開率を最大に。このまま押し込む!」

 

 臣民の壁の表面がエネルギーの膜で逆立つ。

 同時にエンジンの出力が最大となり、高速でゴストーク2隻に追突した。波動防壁による物理反射反応とエンジンの推進力による衝撃によりゴストーク級の艦体は随所でへし折れ、大爆発を起こした。

 

「──敵新型艦の撃沈を確認」

 

「みんな、よくやってくれた。全艦第三戦線まで撤退。態勢を建て直し、再攻勢に転ずる」

 

─ガトランティス宇宙軍天の川銀河系遠征軍

   第八浮遊大陸基地駐留第299艦隊旗艦"メルーサ"─

 

 

 艦橋から地球ガミラス連合艦隊のエンジンスラスターが見える。数はおよそ400ほどだろうか。

 

「ゴストーク級3隻撃沈を確認」

 

「くっ…マイングの無能者め…全艦密集陣形。敵連合艦隊との最終決戦に臨む!」

 

 前期ゴストーク級撃沈の4時間後、残された70ばかりのガトランティス遠征軍は、最後の攻勢に打って出た。

 

 

        第2話:双方の知略


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