ファンファンファン
「くそくそくそ……!」
バックミラーに映る赤い光。後ろから聞こえてくる警報を聞きながら男は顔を覆っていた覆面を無雑作に助手席に投げつけた。汗で髪がベッタリ張り付いた素顔には苦々しい表情が刻まれていた。
ハンドルを握る手は汗でぐっしょりと濡れていた。男は気持ち悪さを感じていたが汗を拭う余裕はなく、そのままハンドルを握りしめていた。
事の発端は1時間前。男は大金持ちで有名な老夫婦の家に忍び込んだ。
防犯システムを無効化し、老夫婦が眠る寝室に忍び込んだ男は包丁で脅して老夫婦に金庫の開け方を聞き出した。その後金庫から金目の物を奪うと、騒がれないように老夫婦の両手足、口を布で縛り逃走した。
時間にしてわずか数分。男の計画通りだった。
唯一にして最大の誤算は男が老夫婦の家に侵入するところを近所の通行人に目撃されたこと。
通行人はすぐさま警察に連絡。男は家から出てくるところを警察に見つかってしまったのだ。
男はすぐに用意していた車で逃走。男の車を追ってパトカーも走り出した。
男はパトカーの追跡を逃れようと人気のない暗い道に車を走らせる。その後パトカーが続く。
「しつこい奴だ!」
ガタガタと揺れる山道を運転しながら苦虫を潰した顔でバックミラーに映るパトカーを見た後
「え?」
何かが破裂した音が男の耳に届いた。その後、車がガタガタと揺れる。タイヤがバーストを起こしたのだ。
「あぁ!? あああぁぁぁっっっ!!??」
男は必死になってハンドルを操作するが車は言う通り動かない。最悪なことにパニック状態になった男はブレーキペダルではなくアクセルペダルに足を置いていた。
男はペダルを思いきり踏み込む。
ブオォォォォォンンンッッッ!!
車を止めようとした意思に反して車は一気に加速していく。そして
ガシャァァァァァァンッッッ!!
ガードレールを突き破り、男は乗っていた車と共に崖下へと転がり落ちていった。
翌日。
『立入禁止 Keep Out』と書かれた黄色の規制線が張られた中に、複数の警察官たちが実証見聞を行っていた。その様子を大勢の野次馬がガヤガヤと見ていた。
「ひでえな」
通行人 A が呟く。
「そうだな」
隣で聞いていた通行人 B が答える。
「しかしあれだな」
通行人 A は視線の先にある潰れた車とその場所を見ながら呟いた。
「墓地に突っ込んで死ぬなんて……。本当に手間のかからない男だなぁ!」
「そうだよな!」
通行人 B は A の言葉に笑いながら答えた。
親に見せたら「いやいや。警察や墓の持ち主などに手間かけさせてるじゃん」と突っ込まれました(^-^;