手間のかからない男   作:筆先文十郎

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人から羨ましがられる人生は当人にとって幸せなのか?


他者から見た自分、自身から見た自分

 年収数千万に10歳年下の若い美人妻と成績優秀で非行とは無縁の二人の子ども。住む家は家賃数十万の高層マンション。車は国産の高級車。身に着けている物は見る者が見れば一目で良い物と判断できる物ばかり。

 こんな生活を送っている男を多くの人間はこう思うだろう「何て幸せなんだろう、(うらや)ましい」と。

 そんな生活を送っている俺は……不幸だった。

 傍から見れば望む物すべてを手に入れていたような成功者に俺は見えるだろう。しかし俺自身幸せだと感じられなかった。

 まずこの成功は俺にとって鎖だった。会社の偉い人の目に留まった上に類稀なる強運を持ち合わせていた俺は、エレベーターで昇るかのように出世して一つの会社を任せられるようになった。そして今なお収益を上げ続けている。だがそれは俺にとって終わりの見えない綱渡りをしているようなものだった。

 若くして出世した俺に対する嫉妬と失敗を望む期待。自分の判断で数十人という従業員の生活を左右させてしまうプレッシャー。

 俺を憎む者、慕う者に弱いところを見せられないという精神的圧迫が俺を心の底から苦しめていた。

 妻や子どももそんな俺を尊敬している。俺には自身の感情を吐露する場所はどこにもなかった。

 そのような重要な立場だから自分の意思で心情を明かせる旧友に会うことも出来ず、会うのは仕事でならともかくプライベートまで会いたくない重要な取引先ばかり。

 もし俺がただの平社員だったら……そう思うことがある。

 そもそも俺は一人でいるのが好きだった。皆で一緒に行動したりするのが苦手で一人で黙々と作業するのが好きだった。しかしそんな生活を送りたいと思っても何をすればいいのか分からず周りに身を委ねてしまった結果、遂には出世という名前の檻に閉じ込められ逃げることの出来ない状態に追い詰められていた。

 元々プレッシャーに弱くしかも他人の人生を背負うことの出来ないほど一人が好きな俺に、今の地位はあまりにも重すぎた。

 俺は知っていた。自分がどのようなタイプの人間なのかということを。にもかかわらず俺は決断せず周りに流されるまま自分には合わないライフスタイルを受け入れてしまった。

 その結果。自分を偽り、どこにも安息の地がないプレッシャーに晒される立場に置かされ、自分の時間を大切な人だけに使うことが出来ず、「もしあの時こうしていれば……」という仮定の自分と比べて自己嫌悪する日々を送ることになった。

 時折この苦しみから逃れるために自ら命を絶とうと考えることもある。しかしここで自分が死ねば妻や子どもの将来は狂い、従業員たちが路頭に迷う。喜ぶのは俺の失敗を望む者だけ。そんな今の地獄よりもさらに生き地獄を味わう。そんなのは誰しもごめんだろう。

 

 こうして俺は自らを偽り続ける。

 

 心が身体を(むしば)み、命を絶つその日まで。

 

 




自己啓発の本などを読み、「人が幸せになる方法とは」を考えてみました。

①自分の時間を大切な人に使えるようにする。
②他人、「もしもあの時こうしていたら……」という仮定の自分と比べるのをやめる。
③自分を知りその自分に合った生き方をする。
④自分を好きになる。

いろいろあると思いますが、とりあえずこれらが私の思う人が幸せになる方法だと思います。

人生は一度きり。この小説を読んでくれた方はもちろん、読んでいない方も満足する人生を送ってほしいと筆先文十郎は祈ってます。
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