手間のかからない男   作:筆先文十郎

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死んだら幸せになれる。そう思っていたのに……


苦痛の生、地獄の死

 俺は上から白い服に包まれた、紙のように白い()を見ていた。

 昨日、俺は自分で自分の命を絶った。上司から課せられる過度なノルマに耐え切れなくなり、そのストレスがもとで自ら命を絶つ行動に移したのだ。

 

 もうこれで苦しまなくなる。

 

 そう思って。だが現実は違っていた。俺の想像したものではなかった。むしろもっと……想像していたものよりもひどく苦しいものだった。

 俺の遺体にすがりつくように泣き叫ぶ母親。そんな母親に 何という言葉をかけていいのかわからず、ただじっと見つめ涙をこらえる父親。そんな両親を見ながら「何で死んだんだ……」、「くそっ!」と歯を食い縛り悔しそうに呟く友人達。

「……ッ!」

 そんな光景に耐えきれず俺は外に出た。

 庭に移動すると駐車場となっている近くの空き地に1台の車が停車した。数人の男達が降りていく。その中に顔も声も見たくも聞きたくもない、俺を自殺に追い込んだ上司が降りてきた。

 家に向かって歩く中、上司は離れたところでぼそっと吐き捨てるようにつぶやいた。

 

「この忙しい時に勝手に死にやがって。本当にふざけたやつだ」

 

 俺は怒りで頭が真っ白になって叫んだ。「誰のせいで俺は死んだんだと。お前のせいで俺は死んだんじゃないか!!」と。しかしそんな俺の叫びも誰の耳にも届かない。

 上司はその後も周りに聞こえないようぶつくさと俺に文句を言うだけだった。

 泣いてほしくない人間が泣き苦しみ、苦しんでほしい人間からは罵倒される。そんな想像していなかった状況に、俺は頭を抱えながら叫ぶしかなかった。

 

 

 葬式が終わった後、おしどり夫婦と評判だった両親は離婚した。

「あいつが自殺したのはお前のせいだ!!」、「あなたがちゃんと相談にのってあげさえすれば!!」と俺の自殺の原因が相手にあると口論になったのが原因だった。

 友人達の中には「俺があいつをもっと気にかけていれば……」と精神的に参りノイローゼになる者もいた。

 俺は後悔した。俺の家に寄り悲しませたくない人は悲しみ、苦しんでほしい奴は後悔や苦悩もせず、自分の犯した罪に苛まれるどころか何も思っていないということを気づいて。

 

 生き返りたい。自殺する前に時間を戻したい。

 

 そう心の底から望んでも、状況は何も変わりはしない。

 苦しみから逃れるために死を選んだのに現実はさらなる苦しみを俺に与えた。

 死んだ俺には何も変えることはできない。ただこの逃れない地獄のような苦しみをただ受け続けるだけ。

 死ぬ前よりも苦しい絶望的な苦しみをただ受け続けるだけ。

 

 

 

 生きている頃よりも更に酷い苦しみを味わうと知っていたら……死ぬなんて思わなかったのに。

 

 




筆先文十郎も高校時代のいじめと仕事のミスによる居場所の無さで自殺しようと考えたことがありました。
しかし家族や親友の存在、元広島東洋カープの新井貴浩氏のおかげで今もこうして小説を投稿しています(新井氏については『奥さん、貸した金が払えないなら身体で払ってもらおうか!』の『親父が隠していたAVを、俺は見る!!』の後書きを見ていただけると幸いです)。

もし自殺しようと考えたら。「何で自殺しようとしているのか?」、「解決方法は自殺するしかないのか?」。そして「この話の主人公のように死んでから生きていた頃より苦しい思いをしないか?」を考えてみて下さい。

この話の主人公のような人がいないことを筆先文十郎は祈っております。
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