「重要だと思わねぇか? 好きなことをするって……」
乗客のほとんどいない電車。ガタンガタンと揺られるのを椅子の上から感じつつ、窓から見えるサッカーに興じる子どもたちを見て、男はひとり呟いた。
(ガキの頃は夢中でやっていた。鬼ごっこやかくれんぼ。ゲームとか……しかし歳を重ねるにつれて熱中できるもの、好きなものがどんどん減っていく。そして気づけば仕事とその合間の息抜きだけの人生……いったい何のために生まれてきたんだろうな)
男は自分の人生を振り返る。ごく普通の家庭に生まれ、ごく普通の学校に行き、ごく普通の会社に就職して今に至る。
テンプレートみたいな人生だな。
そんなことを男は思う。
何か他のものを犠牲にしてまで熱中できるほどに好きなものを見つける。男にはそれを見つけることは出来なかった。だからどれだけ時間と労力を注ぎ込んでも気にならず、それどころかその活動自体が楽しくて仕方がないと思える人を、男は
ふと頭の中に一流スターと呼ばれる人たちの顔が浮かび上がる。歌手、野球選手、サッカープレーヤー、プロ棋士……。
(彼らは少年少女の頃から発声練習、素振りや守備、棋譜を読むなど決して派手とは言えない。むしろ地味とも言えることを嫌々していただろうか?)
男は自身のつぶやきに対して首を横に振る。
もし嫌いだったらそんなことはすぐにやめていただろう。彼らは歌や野球やサッカーや将棋が大好きだったから、寝食を忘れて熱中しながら練習していたのだろう。
これが実を結ばなければ今までしたことが全て無駄になる。そんなことも考えなかっただろう。その行動自体が楽しかったはずだ。そんな後ろめたい思考が少しもよぎらないほどに。
そして、成功を掴む。
得ようとする強い意志を持ち、得るために積み上げ、そして最終的にその夢を掴む。
男は諦めた顔で小さく笑い、再び何の感情もない無表情に戻る。
(結局俺は見つけることができなかった。やりたいこと、好きなことってやつを)
(何なんだろうな、俺って……)
(俺は何のために生まれてきたのだろう……)
(幸せって……何なんだろうな)
窓に映る自分の顔を、男はじっと見る。喜怒哀楽……どれにも当てはまらない、静かな顔がそこにはあった。
「重要だと思わねぇか? 好きなことをするって……」
男は再び小さな声で呟いた。その言葉は同じ車両に乗る乗客に言ったのか、それとも自分自身に言ったのか。それは誰にもわからない。
小説を書く場所を提供してくださるハーメルンの関係者様、ハーメルンで投稿&読まれる強敵(とも)に、小説を書くのが好きな私がこの場を借りて一言申し上げます。
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