彼は僕のヒーロー   作:社畜のきなこ餅

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メインで書いてるTSモノがスランプ入ってるので、別口TSを書いてリハビリをしてます。

2020/2/24 サブタイトルのネタが尽きたので、改めてきちっと設定しました。


二人の中学生時代
1.とある子供のオリジン


 世には幾つもの伝承や神話がある。

 暗がりには妖が潜み、長く愛用した道具には魂が宿るというのはあり触れた伝承で御伽噺であり……。

 そしてそれらの御伽噺はやがて、暗がりを照らす科学の光や科学的手法が当たり前となる事で駆逐されていった、しかし。

 

 中国の軽慶市にて“発光する赤子”が産まれた事を皮切りに、世界の各所で超常の力を有する人間が出現し始めた。

 それらの超常は日常に混乱を齎し、時に悲しみや憎しみを産みながらも日常へと溶け込んでいき、やがては日常へと変化する。

 

 そしてコレは……それらの『超常』が当たり前となった社会の中で生きる、超常が日常と化した世界の中で持たざるモノでありながら英雄を目指す少年の物語、ではなく。

 彼に救われた、一人の少年の物語である。

 

 

 

 

 とある街の中の『玉藻』と書かれた表札が掲げられた一軒家、その中の台所で学生服の上からエプロンを付けた狐を連想させる糸目の少年が、リズミカルな音を刻みながら葱を刻む。

 やがて程よいサイズへと刻まれた葱を、まな板の上で少年は包丁でまとめるとコンロで火にかけられていた鍋の蓋を開き、香ばしい味噌の匂いを台所へ充満させながら刻んだ葱を中へ投入する。

 そして、その中身を軽くお玉でかき混ぜた少年は小皿に少し味噌汁を入れ、一口味見をすると満足げに頷いた。

 

 

「うぁー……おはよ、こたろー……」

 

「おはよう母さん、遅くまで仕事してたんだしまだ寝てて良かったのに」

 

 

 白銀色の艶やかな髪を、寝起きなせいかぼさぼさにしている美しい女性の方へ少年は顔だけ向けると、コンロにかけていた鍋の火を止めて漆器へ鍋の中身……味噌汁を注ぎ食卓へ並べていく。

 既に食卓には鮭の切り身が乗った皿や、漬物が盛られた小鉢に焦げ目の着いていない卵焼きが乗った皿までもが用意されている。

 

 

「こたろーが作ってくれた朝ごはんだもん、ちゃんと食べなきゃ……ふぁぁぁぁ」

 

「気にしないで良いのになぁ、白米はいつも通り少な目でいい?」

 

 

 それでお願いー、と寝ぼけ眼で応じながら『頭から生やした狐耳』とパジャマの上着の裾から生えている『狐の尻尾』を、母さんと呼ばれた女性が揺らしながら食卓に着く。

 超常が日常となった現代社会において、大半の人々が持っている超常を『個性』と称する社会の中。

 少年の母親も、そして彼女の一族も含めて『稲荷』と呼ばれる個性を有していた。

 

 かつては妖怪と呼ばれ恐れられていたソレらもまた……現代においては日常の中に受け入れられていたのである。

 しかし、超常が日常となり受け入れられた弊害か、歪な価値観の反転もまた起きていた。

 

 

「……ねぇ、狐太郎」

 

「ごめんねなんて言わないでいいよ母さん、それに僕はまだお婆様のとこに行く気もない」

 

 

 味噌汁が入った器を手に取り、行儀よく一口すすって一息吐いた彼の母親が何かを言いかけ、その内容を察した少年は気にする事もなく自身が焼いた卵焼きを口の中へ放り込む。

 少年、狐太郎は……母である女性の個性はその見た目から言うまでもなく、そして今は亡き彼の父親の個性もまた受け継いでいない、『無個性』と呼ばれる人種であった。

 

 

「それに中学二年生になったばかりなんだしさ、もしかするとあと二年で個性が出るかもしれないじゃん」

 

「でも、環境を変えるなら中学卒業と同時に何て言わずに早い方が良いと思うの。 それに……狐太郎、学校でいじめられてるって聞いたわ?」

 

「苛められてないよ、それにあのヘドロ煮込み爆発頭には負けてない」

 

 

 少年は母親譲りの色をした、自らの首筋にかかるぐらいまで伸ばしている白銀色の髪を指先でくるくる弄りながら返答し、母からの言葉に不機嫌そうに眉を顰める。

 頭を過るのは、少年にとって大事な……そう、大事な親友とも言える少年を苛めるとある同級生の不遜極まりない邪悪な笑顔。

 その恵まれた体躯に侮れない頭脳、そしてそれらに下地にした上で使われる『爆破』の個性は厄介極まりなく、少年もまた親友と共に何度か爆破を食らった事がある。

 

 

「お母さんも、狐太郎はスジが良いとは褒めてたけど、でもやっぱり……」

 

「気にしないで良いってば、それに母さんもデザインの仕事の関係で引っ越すと不便でしょ?」

 

「狐太郎、今の時代デザインの仕事なんて未開の地にでも行かない限り、どこでもできるモノよ……」

 

 

 母子の会話をしてる間に自分の分を平らげた少年が、流し場へ食器を浸けていくのを見ながら母親は言葉を続けるが、顔だけ振り向いた息子の言葉に思わず頭を抱える。

 そう言えばこの子、スマホどころかパソコンすらまともに使えない機械音痴だった、と母は再認識しながら息子の勘違いを訂正した。

 

 

「え?そうなの? まぁいいや、そろそろ出るね」

 

「ああもうこの子ったら……行ってらっしゃい、気を付けてね」

 

 

 台所に置いてあった自身が作った弁当箱をカバンへ入れながら、学校へ出かけていった息子の後ろ姿にままならない想いを抱きながら、母は見送りの言葉を送り。

 息子の方もまた、のんびりとした様子で行ってきますと母へ声をかけて玄関の扉を潜っていった。

 

 

 

 

 

「おはよう、こーちゃん!」

 

「ああおはよう、いずちゃん」

 

 

 学校へ向かう途中の通学路で、ボサボサ頭の少年に背後から声をかけられた少年が笑みを浮かべながら振り返る。

 少年の視線の先に居たのは、少年より少し上背の高い幼馴染の少年……緑谷出久であった。

 

 

「こーちゃんのお母さんがデザインしたヒーロースーツ、新進気鋭のヒーローが着て昨晩のネットニュースに出てたよね!」

 

「え?そうなの?」

 

「こーちゃん、相変わらずネットとかに疎いよね……」

 

 

 興奮気味に目を輝かせて捲し立てる幼馴染の言葉に、狐太郎はきょとんとした表情をする。

 そんな少年の顔を見た出久は……彼の母親と共に、少年の機械音痴やネット音痴の是正に苦戦した時のことを思い出し、苦笑いを浮かべた。

 

 

「いやだってさぁ、変にボタン触って壊れたり爆発したら嫌じゃないか。そもそもスマホだってよくわかってないんだよ? 僕」

 

「心から本気で言ってるからこーちゃんある意味凄いよね、色々とヒーローの活躍まとめたサイトの情報とか語り合いたいのになぁ」

 

「また今度、いずちゃんと一緒に見るよ。そっちの方が楽しいしね」

 

 

 和気藹々と談笑しながら、二人の少年が通学路を進んでいく。

 矢継ぎ早に色々なヒーローの話題を出してくる幼馴染の言葉に相槌を打ち、楽しみながら……狐太郎は親友と出会った日の事。

 幼少期……それも幼稚園児だった頃へ想いを馳せた。

 

 

 

 彼とその母親は……父が事故で命を落としたことをきっかけに、共にこの街へ引っ越してきた。

 好奇心旺盛だった彼は、母親が引っ越し業者相手に忙しそうにしている際に構ってもらえない事から、独りで車の中から外を見ている時に見つけた公園へ遊びに行っていた。

 

 そして、砂場で遊んでいた時にとある腕白少年の三人組に絡まれ砂場を明け渡すよう要求を受け、幼かった狐太郎は知らないとばかりにその要求を拒否して。

 見かけないヤツの癖に生意気だと、三人がかりで叩かれて泣きべそをかいていたのだが……。

 

 

『泣いてるだろ……?!これ以上は、ボクが許さゃなへぞ!』

 

 

 膝どころか全身を震わせ、涙混じりの声をあげながら一人の少年が……身体を庇うように蹲り、泣いていた狐太郎と3人組の間に立ち塞がったのだ。

 その時公園には、彼ら以外にもたくさんの子供が居たし彼らの引率であろう親もいたのだが、その中でただ一人だけ狐太郎を助けようと動いてくれた少年。

 幼き頃の緑谷出久、彼が孤立無援の状態だった狐太郎のヒーローとなってくれたのだ。

 

 

 

 

「……でね!それでね!シンリンカムイってヒーローが……こーちゃん、聞いてる?」

 

「ごめんいずちゃん、ちょっとボーっとしてたや。でも本当にいずちゃんはヒーローが好きだねぇ」

 

 

 過去の想起に夢中になっており、歩きながら幼馴染の言葉を聞き流してしまっていた狐太郎は出久の言葉にジェスチャー込みでごめん、と苦笑いしながら応じ。

 しかし聞き流されていた出久は気にする事なく、新進気鋭のヒーローについて彼自身の考察混じりの若干どころではないディープなトークを続ける。

 

 狐太郎は、学校へ向かう通学路で幼馴染から聞くヒーローの話が好きで、そしてそれほど興味もまた持っていなかった。

 彼は、大好きなヒーローの事を目を輝かせながら語る幼馴染の幸せそうな様子を見るのが好きだったのだ。

 何故なら彼にとって、ヒーローと呼べる存在は……あの時助けに来てくれた緑谷出久ただ一人なのだから。

 

 

 

 

 

 そして、その日も退屈で不快極まりない学校を終え、放課後腐れ縁じみてきた三人組の筆頭である爆豪と小競り合いをしつつ狐太郎は幼馴染と共に帰路に就き。

 幼馴染に付き合ってもらいながら、商店街で夕飯の材料を買いそろえた後はいつもの分かれ道で分かれ、まっすぐ帰宅後は夕飯の下ごしらえを軽く済ませ……。

 

 

「ふっ……はっ」

 

 

 母子二人で暮らす家にしては聊か広い庭で、長巻の模造刀を手に彼の祖母から手ほどきを受けた長巻術の自己鍛錬に励む。

 達人である彼の祖母にも褒められたその腕は、今も彼が続けている型の美しさとして表現されていて、さながら演舞にも似た必殺の太刀筋を幾度も繰り返していく。

 『無個性』とされる彼が、このような技術を伸ばす事は個性がモノを言う今の時代には無駄な努力とされている。

 だがそれでも、彼は諦めたくなかった。大事な親友がヒーローを目指している中、それに置いて行かれたくはないという彼の意地と執念が、その型には籠っていたのだ。

 

 なお、彼の日々の鍛錬は幼馴染である緑谷出久もまた知っており、その事に刺激された彼もまた知識だけではなく体を鍛えるようにしていたりする。

 

 

「いずちゃんに置いてかれるのは、ごめんなんだよね」

 

 

 一足飛びで間合いを取るように後方へ飛びながら、目の前に仮想敵を思い浮かべて少年は油断なく長巻を上段に構えると。

 彼だけに見えている幻の仮想敵、少しばかりつんつん頭で吊り上がった目付きの少年を狐太郎は睨みながら、上段から変則的に刃先を振るって足元を刈り取るかのように長巻を振るった。

 

 そうやって、若干の気晴らしも兼ねた鍛錬を終えると少年は風呂場で同級生男子らに比べても華奢できめ細かな肌に付着した汗を流して身を清め、夕飯を用意し始める。

 その後は母親と共に夕食を摂り、本格的に湯に浸かって疲れを洗い流して歯を磨いて就寝、それが少年のいつもの一日であった。

 

 そして、翌日もまた目覚ましのベルによって起こされていつもと変わりのない日が始まる、それが玉藻狐太郎の日常であった。

 しかしその日の朝は、目覚ましのベルが鳴るよりも早くに激しい飢餓感と共に目覚めた。

 

 

「むゃ……」

 

 

 もぞもぞと布団の中で動き、枕元に置いている目覚まし時計の時間を寝ぼけ眼で狐太郎は確認するが。

 気のせいか、その時狐太郎は耳の感覚がいつもと違うように感じて、無意識のうちにその手を顔の横へと触れてみれば。

 そこには髪の感覚しかなく、瞬間的に狐太郎の意識が寝ぼけた状態から覚醒、慌てて飛び起きると。

 

 胸が寝巻に擦れた感覚を如実に感じ、無意識に短く声を漏らすと共に感覚的な違和感、そして見下ろした時には視覚的違和感がそこには顕現していた。

 

 

「……む、ね?」

 

 

 狐太郎は紛うこと無き少年であり、生まれてから13年間間違いなく男子として過ごしていた。

 しかし今彼の視界の先には、寝間着を内側から押し上げるモノが鎮座しており胸元から谷間がその存在感を強く主張すると共に、確かな大きさを誇るソレは寝巻の裾をまくり上げて狐太郎の臍を外気に晒す状態となっている。

 

 

「やわら、かい」

 

 

 茫然と呟きながら、恐る恐る触れてみた己の乳房の重さと温かさと柔らかさ、そして確かに感じる疼きにも似た甘い感覚。

 そのまま、片手を恐る恐る自らの股間へと伸ばす、だがそこにある筈の男性を象徴する器官は何もなかった。

 その事実に気付いた時、少年だった狐太郎は悲鳴じみた絶叫を……可愛らしい『乙女』じみた声音で上げた。

 

 

 

 この物語は、ヒーローを目指す少年によって救われた少年だった子供の物語であり。

 変貌してしまった元少年が、彼女だけのヒーローを支えるべく奮闘する物語である。

 




無個性として打ちのめされてたデク君だけども、それでも自分が助けられた人が自分を応援してくれてたら。
デク君は割と早い段階から、肉体強化や訓練に励んでると思うんだ。

なおこの話が続くかどうかは未定です

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