一部原作から流れを変えつつ、それでも原作の流れを汲む感じで本作は進めていく所存です。
10.そして始まる夢の?高校生活
桜が咲き乱れる春の早朝、家を出るにはかなり早い時間に狐白はいつも通り目覚めて布団から半身を起き上がらせると。
大きく伸びをして豊満な乳房を揺らせながら欠伸をし、床に敷かれた布団を軽く畳んでから家の脱衣所へと向かう。
中学生時代は弁当を用意する為にまずは台所へ直行していた少女であるが、高校へ通う今日からは学食を楽しみにしている幼馴染の出久と共に食事をする為に作る必要もないのだ
まだ若干寝ぼけた頭で少女は脱衣所の戸を開き後ろ手で閉めると、もぞもぞと手を動かして寝巻のボタンを外し……桜色の突起が頂点にある、同年代の女子らに比べて豊満な乳房を露わにし。
続けてズボン、そして下着と続いて脱いでそれらを脱衣所に備え付けられた籠へと放り込むと、風呂場の扉を開いて中へと入っていく。
中へ入った少女は若干冷える空気に体を震わせながら、シャワーの蛇口をひねってお湯が出てくるまで暫し待った後に噴き出る温水を自らの体へかけ始めた。
振りかけられた心地よい温度の温水は少女の体を温めて、寝ぼけた意識を急速に覚醒させながら少女の肌の上を珠になって滑り落ち排水溝へと流れ落ちていく。
「んん、やっぱり気持ちいいなぁ」
一年前性転換する前から朝にシャワーを浴びる習慣は少女……狐白にとってなじみ深いものであったのだが、女性の体に変貌してからは身を清めるという事に確かな喜びを感じるようになっていた。
そしてそのまま全身へ温水をかけ終えた少女は風呂場の椅子へ腰掛けて、湿気によって若干しんなりとした白銀色の毛並みを持つ自らの尻尾へも丹念にお湯をかけては風呂場に置いてあったブラシで自らの尻尾の手入れを始める。
時々恥ずかしがる幼馴染の少年へ膝枕をして耳かきをするようになってきているのだが、その時に少年が心地よさそうに己の尻尾へ触れているのを見てからは丹念に手入れするようにしているのだ。
なお実際には親友であると己に言い聞かせ、狐白の太ももの心地よさに堕落しそうな少年が必死に抗う為に尻尾を撫で回す事によって耐えていたというのが真相である。
だがしかし、かつては男だったとはいえ現在は美少女である幼馴染の尻尾を撫で回している時点で手遅れと言えるかもしれない。
ちなみに余談であるが、毎朝のブラッシングでブラシに絡み抜けた毛は風呂場へ備え付けた小さな網籠へ入れるようにされている、コレは己の抜け毛を縫い込んだ包帯を作る為の素材にもなっているのだ。
「ほふぅっ……」
敏感な尻尾の付け根に至るまで丁寧にブラッシングを終え、同じように狐耳と尻尾が生えている母も愛用しているシャンプーを丹念に塗り込んで尻尾を少女は洗い終えると。
続けざまに一年前から伸ばし続け、背中まで届き始めた髪の毛と頭から生えている狐耳も洗い始める。
しかし少女は未だ耳に温水をかける事に慣れていないのか、ペタンと耳を倒して中へ温水が入り込まないよう留意しながら勢いを弱めたシャワーで頭を洗い始め。
慎重に狐耳を清め終えた後は、母から厳重に注意を受けた女性の命と言われている髪の毛へ手の中で泡立てたシャンプーを塗り込み、髪の毛を梳くようにしながら磨くように洗いその後に丁寧にトリートメントをしていく。
余談であるが、性転換する前の男性時代はここまで丁寧にはやっていなかったらしい。
そうやって時間をかけて髪の毛まで洗い終えたところで、漸く体を少女は清め始める。
改めて温水を全身へかけて少女は体を温め直すと、しっかり泡立てたスポンジ状の垢擦りで張りのある胸やその下部分から胴体、すらりとした脚や腕を鼻歌交じりに洗う。
女性になった当初は面倒にも感じた作業であるが、さすがに女体化して一年も経てば慣れるもので少女は特に恥ずかしがることなく敏感な乳房の頂点にある、桜色の突起から股間のデリケートな場所までしっかりと洗っていく。
さすがに、時折体に走る甘い刺激にまでは慣れていないが、まぁその内慣れると少女は自身に言い聞かせているとも言う。
そんな具合に男性時代に比べて格段に時間のかかっている朝シャンを終えて狐白は風呂場から出ると、大き目のバスタオルで体に付着した水滴を拭い尻尾や髪の毛を痛めないよう留意しながら水気を拭き取ると。
脱衣所にある洗面台の引き出しからドライヤーを取り出してコンセントへつなぐと、濡れた髪の毛に尻尾を乾かし……それが終わって漸く少女の朝の身嗜みは完了する。
そして、母が自身の体型に合うよう調整しデザインしてくれたショーツとブラジャーを着けてから適当な部屋着を身に纏うと、狐白は朝食の準備を手早く整えて母と共に朝食を摂るのだ。
ちなみに今日の朝ご飯は、ブリの照り焼きを主役に卵焼きとお漬物、そこにレギュラーの白米と味噌汁という内容であった。
「狐白、今日から高校で忙しいから朝ごはん用意しなくても良いのよ?」
「そんな事言って母さんに任せると、僕の分だけ用意して自分は適当に済ませちゃうじゃん。面倒だしこれで十分とか言ってさ」
ずっと続いている朝食当番を、娘になった我が子に押し付けてる負い目から母は白銀色の尻尾をゆらゆら揺らして娘へと言葉をかけるも。
軽く笑いながら返された言葉に短く呻き、誤魔化す様に味噌汁を上品に啜る。
ちなみに一度狐白の母は、娘にはちゃんとした朝食を用意しつつも自分はオールマイト印のコーンフレークだけで済ますという事を一週間続けた前科があったりする。
そして朝食を終え、いつも通り食器を流し台へ浸けた狐白は後始末を母へ頼むと自室へと戻り、部屋着を脱いで今日から通う事になっている国立雄英高等学校の制服に袖を通す。
自身のプロフィール等に合わせて作られた、尻尾を通す穴の開いている制服に狐白は満足げに笑みを浮かべて姿見の前に立つ。
その時に少女の頭に浮かんだのは、幼馴染の少年は何て言ってくれるだろうかという想いであった。
「ち、違う違う、いずちゃんは親友なんだから……」
ふと自身が考えていた内容の恥ずかしさに少女は気付くと、誰も聞いてなどいないというのに独り言で言い訳を繰り返してから大きく深呼吸し、思考を切り替えていく。
そして、鞄を手に持って自室から出ると母に見送られて家の扉を開き、新たな学校へ通う為に親友との待ち合わせ場所へと急ぐ。
「いずちゃん、お待たせ!」
「気にしないでこーちゃん、僕もさっき着いたとこだし…………」
少女の視線の先で待っていたのは、駅の入口から少しそれた所で待っていたもさもさ頭が特徴的な少年、狐白の大事な幼馴染である出久だ。
なお……まるで仲の良い男女同士の友達か、恋人のようなやり取りだが彼らには一切そんな意図は存在していない。
だが、見慣れた幼馴染の姿とは言え見慣れない雄英の女子制服に身を包んだその姿は、出久に新たな刺激を与えてしまい言葉に出来ないむずむずした感覚に出久は気まずそうに目を逸らす。
狐白はそんな幼馴染の様子に不思議そうに狐耳をピコピコ動かして首を傾げながら、周囲から自身らへ注がれる視線に辟易した様子で呟く。
「だけど、やっぱり人目引いちゃうねこの制服。さすが天下の雄英ってところかな?」
「ウン、ソウダネ」
困ったものだよねー、などと狐目のまま呑気に笑う幼馴染の様子に半ば棒読みで返事を返す出久。
多分そうじゃなくて君に見とれてるんじゃないかなぁ、なんて思う少年であったがソレを言ったらこの幼馴染は臍を曲げる事がわかっているため言わない賢明さが出久にはあった。
明らかに見た目は男子からかけ離れた美少女となってしまった自分を受け入れ始めている狐白であるが、だからと言ってお姫様扱いされたいわけではないのである。
そんなこんなで、二人は仲良く電車に揺られて駅から並んで歩いた末に雄英高校へと到着。
勝ち取った夢の入口へと辿り着いた喜びに歓喜に打ち震える出久の様子に、狐白は柔らかく微笑むとその手を引いて校舎へと入っていく。
「こ、こーちゃんもう大丈夫だから離してよ!」
「あ、そう?」
途中、生徒らにジロジロみられて顔を真っ赤にした出久に頼まれて、若干名残惜しく思いながら狐白はその握った掌を放し、バリアフリーというには大きすぎる教室の扉に驚きながらその扉を開けば。
教室の中では真面目そうな眼鏡を着けた少年と、二人の幼馴染である勝己が剣呑な空気を醸し出していた。
「うわぁ」
勝己に対して染み付いた出久、そして同じ教室かぁと言わんばかりに思わず声を出してしまう狐白。
その声を聞き取った勝己は、ぎょろりと凶悪な目付きで教室へと入って来た二人を睨みつけると口角を吊り上げた。
「デクに陰険狐目ぇ!仲良くご登校かぁ?!」
「開幕から己の品性を下げ倒すなんてさすがだねクソ煮込み爆発頭、その勤勉さに僕は敬意を表するよ」
出久を庇うように一歩前に進み出、さらにずんずんと酷薄な笑みを浮かべた狐白は勝己が両足を乗せた机の前に仁王立ちすると。
宣戦布告としか取りようのない発言と共に、勝己を見下ろした。
見下ろされた勝己は当然たまったものではなく、その額にどでかい青筋を浮かべて凶悪な目付きを更に尖らせていく。
そして、入学試験の時に治療や救助を受けた新たなクラスメイトは狐白へお礼を言おうとして、突発的に始まった剣呑な空気に全力で二の足を踏んだ。
「……あの狐っ娘、お淑やかに見えて滅茶苦茶口悪いな」
「……だな」
チャラい印象を周囲に与える少年が近場にいた小柄な葡萄頭の少年へと小声で囁き、囁かれた少年もまた同意とばかりに頷く。
一方出久はハラハラしつつもいつもの二人だなぁ、と達観した目付きで狐白と勝己のやり取りを見守っていたところで試験会場でも一緒だった眼鏡の少年……飯田天哉と。
巨大ロボを殴り倒したのは良いけど高所から為す術もなく転落すると言ったところで個性によって自身を救ってくれた、丸顔の少女の麗日お茶子と親交を深めていた。
何のかんの言ってこの少年も、何気に図太く成長していると言えるかもしれない。
しかし、一部分で一触即発になりつつも和やかな空気を形成していた教室に有無を言わせない声音が響いたことで空気が一変する。
「お友達ごっこがしたいなら、他所へ行け」
突然の声にクラス中の視線が声のした方向へ集中する、先ほどまで罵り合っていた勝己と狐白すらも。
そして向けられた視線の先……教室の入口には、蓑虫状に寝袋に包まった野暮ったい印象の男が寝転がっていた。
「ここは……ヒーロー科だぞ」
絶句する生徒達の視線が集中しているにも拘らずその男はゼリー飲料を一息で吸い込むと、寝袋に包まったまま起き上がって教室へと入ってくる。
思わず、生徒達が胸中で何か変なのがいる!?と驚愕の叫びをあげても、やむを得ない不審者ぶりであった。
「ハイ、静かになるまで30秒かかりました。時間は有限……君たちは合理性に欠くね」
寝袋を脱ぎ去りながら生徒達へ告げる男の様子に、少年少女達は得も言われぬ迫力を感じ押し黙る。
なお黙るまでにかかった時間の大半は、勝己と狐白の口喧嘩が原因なのは内緒である。
「担任の相澤消太だ、よろしくね」
コレが担任?!と一部の生徒……主に出久辺りが更に内心で衝撃を受けているが、それらに構う事無く彼は生徒達へ告げる。
「早速だが、体操服に着替えてグラウンドに出ろ」
「あ、あの先生!質問宜しいですか!?」
「時間は有限だと言っているんだがな……許可する、言ってみろ」
胡乱げな目付きの担任の様子に戸惑いながらも、一方的に告げられた内容に飯田が勢いよく挙手をして質問の許可を求めれば担任は軽く釘を刺しながらも許可を出す。
「我々は新入生です!教育機関であるこの雄英に入った以上入学式に出席する義務があるのではないでしょうか!」
「なるほど一理ある、だが雄英は自由な校風が売り文句でな……ましてやヒーローになるなら、そんな悠長な行事に出る時間などないよ」
入学試験の時にプレゼント・マイクへ臆する事なく質問をした時のような勢いで、担任の相澤へ問いかける飯田であるも。
有無を言わせぬ口調の相澤の言葉に、確かにその言葉にも一理あると理解するとキビキビした動きで礼をするとともに着席した。
思っていた初日から大きくかけ離れていた事に困惑する出久と狐白であったが……出久はこれが雄英と内心で感動に打ち震え。
狐白の方は、何をやるにしても出久が無理しないといいんだけどなぁ、とどこか場違いな事を考えていた。
入学初日の話なのに、冒頭から気合の入ったシャワーシーンを入れる暴挙。
なおこのシーンだけで、テキストベースで約6kb使ってました。
個人的にあの相澤先生からの入学式すっぽかしについて、その気配を察知したら飯田くんツッコミ入れそうだよなぁという思いがあったのだ。
だから、グラウンドに出た時のお茶子ちゃんのツッコミ役を飯田くんに変更させてもらいました。