彼は僕のヒーロー   作:社畜だったきなこ餅

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11.それ行け個性把握試験

 

 入学初日、随分と己の外見に頓着しない担任の相澤から体操服に着替えてグラウンドに出る事を指示された1-Aの生徒達。

 見た事もないほどに広いグラウンドの敷地に驚きながらも、生徒達が整列したのを確認してから担任教師から告げられた言葉に異口同音に少年少女らは叫ぶ。

 

 

「個性把握……テストォ!?」

 

 

 戸惑う生徒達に構う事はなく相澤は軽く子供達を睥睨しながら、言葉を続ける。

 子供達が中学の頃からやってきた、個性禁止の体力テスト……ソレを真っ向から否定するようなことを呟きながら、相澤は勝己を指名して円の中へ立たせて個性を使ったソフトボール投げを指示した。

 

 担任の言葉に勝己は口角を吊り上げ不敵に笑みを浮かべると軽く柔軟を行った後に勢いよくボールを振りかぶる、そして。

 

 

「んじゃまぁ……死ねぇぇぇ!!」

 

 

 勝己はクラスメイトとして鉢合わせる形となった、狐白との口喧嘩が不完全燃焼に終わり溜まっていたフラストレーションをぶちまけるかのような咆哮と共に爆炎を伴わせてボールを全力投擲。

 投げられたボールは大気を切り裂くが如き勢いで空高く舞い上がり、個性を使わない場合は不可能なほどの飛距離を稼いだ後に地面へと焦げている事を示す煙を吐き出しながら墜落した。

 

 なお、物騒すぎる咆哮に出久を含めたクラスメイト達は思わずきょとんとした表情を浮かべたのは言うまでもない。

 

 

「まず、自分の最大限を知る……それがヒーローの基礎を形成する合理的手段だ」

 

 

 734.5m、と表示された計測器を生徒達へ見せながら相澤は生徒達へと告げる。

 告げられた内容、ソレは学生時代にはおおっぴらに使えなかった個性を全力で振るえるという刺激と歓喜を生徒達に与えるには十分すぎる内容であった。

 

 しかし、その刺激に浮かれ歓声を上げる生徒達の姿に担任の相澤は軽く空を見上げて何かを呟くと、冷たい眼光を瞳に宿して生徒達を昏い目付きで見詰めて口を開く。

 

 

「ヒーローになる為の三年間をそんな浮かれた腹積もりで過ごす気でいるのかい?」

 

 

 冷や水をかけてくるかのような声音にどよめき、言葉を喪う生徒達。

 だがそんな少年少女らに相澤は構う事無く、残酷ともとれる宣告をした。

 

 

「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し除籍処分としよう。今年は21人なんていう半端な人数だしな、一人減らしても構わないよな?」

 

 

 容赦のない眼光、そして言葉に少年少女達は十人十色の表情を浮かべる。

 望むところだとばかりに不敵に笑みを浮かべる者、何故担任がいら立っているのか理解していない者、危機感を煽られて顔に緊張感を滲ませる者……。

 その中で、出久は一際強く顔を蒼褪めさせて強い危機感を抱いていた。

 

 彼がオールマイトから譲渡された個性、『ワンフォーオール』。

 その力は入学試験の際に巨大ロボへ飛び出し、一撃で破壊へと追い込むという実績を残している事からもその強大すぎるその力は好成績を収めるには十分すぎる力だ。

 しかし、譲渡されたばかりで未だ制御が十分に利かない出久の体にはその個性の反動は余りにも強く、あの時飛び出すのに使った両足の骨には罅が入った上に筋肉にも損傷を与えていた上……。

 巨大ロボを殴り飛ばした右腕に至っては、複雑骨折をした上に筋肉までずたずたに引き裂かれる有様となっていたのだから。

 

 

「待って下さい先生!最下位除籍って……!入学初日ですよ!いや初日じゃなくても……理不尽すぎる!」

 

 

 蒼褪め俯く出久へ心配そうに寄り添う狐白を他所に、お茶子が一方的な宣告をしてきた担任である相澤へ抗議をする。

 しかし、そんな少女の訴えを相澤は青臭いとばかりに一蹴した。

 

 今の世の中には様々な要因の理不尽が幾らでも溢れかえっている事、そしてソレを覆していくのがヒーローだと。

 更に相澤は言葉を続ける、放課後に談笑をしたかったのならば諦めろと、そして。

 

 

「これから三年間、雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。『Plus Ultra』さ、全力で乗り越えて来い」

 

 

 胡乱な瞳に挑発的な眼光を宿し、ヒーローの卵である少年少女らへと刺激的すぎる発破を担任はかける。

 かけられた生徒達は戸惑い、たじろぎ、それでも真正面からその眼光を受け止めて相澤を睨み返した。

 蒼褪めていた出久と、彼に寄り添っていた狐白もまたクラスメイト達と同様に。

 

 出久は強く決意をし、狐白に握られた掌から勇気を受け取りながら与えられた試練へと全力で臨むことを決意した。

 

 

 

 

 だがしかし、決意だけでは乗り越えられない壁がそこには存在した。

 50m走から始まった個性把握テスト、それらに対して必死にワンフォーオールを制御して挑もうと出久は臨むもそのやる気はただ空回りするだけで、同時に入学試験の時の負傷の記憶が彼の個性発動を押し留めてしまう。

 その間にも様々なテストで、特色を生かした好成績を出していくクラスメイト達に出久は更に精神的に追い込まれて行ってしまう。

 

 そんな親友の様子を見て居られず、何とか元気づけようとする狐白であったが……。

 

 

「ダメだ玉藻、お前はお前のテストに集中しろ」

 

「先生、だけど!」

 

「これは担任命令だ、さもなくばお前を除籍処分とする」

 

 

 仲睦まじいのは結構だが、今はソレは不要だと切り捨てる相澤へ狐白は必死に抗議する、が。

 少女の訴えを担任は情け容赦なく切り捨てた、それでもなお言い募ろうとする狐白の肩に手を震わせた出久の手が置かれる。

 

 

「大丈夫だよ、こーちゃん……心配しないで」

 

「いずちゃん……」

 

 

 強い決意の光を目に宿し、個性が齎す痛みを受け入れた上で全力を尽くそうと出久は心に決める。

 しかし、そんな少年の決意など相澤にはお見通しであった。

 

 冷めきった視線を、最後のソフトボール投げの為に円の中へと入っていく出久へ向ける相澤と、ハラハラと心配そうに見守る狐白。

 

 

「だ、大丈夫だよ!凄い個性だったんだから落ちたりしないって!」

 

「う、うん……」

 

 

 忙しなく尻尾を振って出久を見守る狐白に、お茶子が声をかけて共に出久のテストを見守る姿勢を取る。

 別の場所では飯田と爆豪が何やら言い合っているが、その内容すらも狐白の耳には届いていなかった。

 

 そして、出久は覚悟を決めて『ワンフォーオール』を右腕で全力で発動しながらボールを振りかぶって投擲。

 その結果は。

 

 

「59m」

 

 

 担任の相澤から無情にも告げられた、あのオールマイトの個性を使ったにしては低すぎる数字であった。 

 一般的な男子高校生一年生にしては、今の時代においても十分と言える数字であるが……あくまで一般的な人体の範疇で出せる数字でしかなかったのだ。

 

 

「な……今、確かに使おうって……」

 

「個性を消した」

 

 

 個性を制御できていないのに無理に個性を使用し、結果を出そうとした出久に対して苛立ちを隠そうとする事無く相澤は告げると。

 ゆっくりと威圧感を与えるように出久へと歩み寄っていく。

 

 

「見たとこ個性を制御できないんだろう? また行動不能になって、誰かに救けてもらうつもりだったか?」

 

「え……またって、どういうこと?」

 

「彼は、試験で巨大ロボットを一撃で粉砕せしめたのだが……それで右腕に重傷を負ったんだ、リカバリーガールが居ないと後遺症が残るほどの重傷を……」

 

 

 確かに試験の後に出久の全身がボロボロになっていたのは狐白も、彼の体をマッサージした時に理解はしていたが飯田から告げられた内容に目を見開き尻尾を膨らませて驚愕する。

 出久自身が言わなかったのもあれど、そこまで酷い大怪我を負っていたとは彼女も知らなかったのだ。

 

 やがて見物に回っている生徒達、狐白達の目の前で相澤からの出久への指導が終わり、円の中でボールを手に持った出久が俯く。

 

 

「いずちゃん……」

 

 

 こんな形で夢を折られ打ちひしがれたとしか思えない幼馴染の様子に、狐白は胸を締め付けられる錯覚を感じながら見守る。

 だが同時に、大怪我と引き換えにヒーローを目指すようなら、いっそ諦めて欲しいという気持ちもまた彼女の中にこの時芽生えた。

 そして、色々な人々……陰から見守っているオールマイトこと八木の視線が集まる中、出久はボールを振りかぶる。

 

 その時の出久の様子から、相澤は見込みゼロとこれ以上見る価値もないとばかりに失望の色を目に宿す、が。

 出久はこの土壇場で、腕を一本犠牲にする形ではなく……一本の指に力を集中し、個性を発動させる事でボールを遥か高い空へと打ち上げた。

 

 酷く骨折した右手の人差し指、しかし試験の時にぐしゃぐしゃにしてしまった右腕程の痛みではない事に、そして個性の精密発動を成した達成感から分泌された脳内麻薬で出久は痛みをこらえると。

 右手を握りしめ、その目に今も走る激痛が齎した涙を目に浮かべながらも歯を食いしばって、相澤へと告げる。

 

 

「先生……! まだ、動けます!」

 

 

 ゼロだった見込みを無理やり1へと動かした少年の行動に、相澤は感嘆を込めた笑みを浮かべながら口を開こうとし。

 それよりも早く、狐白が見物の群れの中から尻尾を翻しながら出久へと駆け寄った。

 

 

「おい玉藻、まだ緑谷は試験中だ」

 

「除籍するならそれで構いません!」

 

 

 狐目を見開きその瞳に悲しみと心配の感情を滲ませた狐白は、相澤の言葉に後先など知らないとばかりに怒鳴り返すと出久の右手を両手に取り。

 親友の右手を開かせると、その腫れ上がった人差し指をその口に咥えた。

 

 

「んなっ?!」

 

「まぁっ」

 

「ケロ、大胆ね……」

 

「緑谷ぁ……」

 

 

 堅物真面目が服を着て歩いてると言える飯田が眼鏡をずり落ちさせながら驚愕し、個性把握テストで高水準な結果を出した八百万が上品に両手で口を覆いながら目を見開き。

 入学試験の時のお礼言いそびれてたわと内心で思いつつも人目を気にせず動いた狐白の様子に、蛙のような少女こと蛙吹梅雨が頬を赤らめながら呟く。

 そして、高速反復横跳びを披露しテスト中も時折狐白の体にスケベな視線をさり気なく送っていた小柄エロ小僧こと、峰田は歯を食い縛り血の涙を流しかねない形相を浮かべていた。

 

 

「ちょ、こ、こーちゃん!?」

 

「ん、むっ……ちゅっ……」

 

 

 困惑したのは出久である、こんな衆目の元で突然幼馴染の親友が大胆過ぎる行為をしてきたのだから。

 しかしその困惑はすぐに驚愕へと変わる、温かくそして心地よい狐白の口内で複雑骨折した指が彼女の舌で舐られる度に、苦痛が引いていくののだ。

 そして、その苦痛は狐白が……唇と出久の指の間に銀糸を伝わらせながら解放した頃には僅かに残る残滓のような痺れと言う形でしか、残ってはいなかった。

 

 

「ぷぁっ……いずちゃん、後で話あるからね」

 

「う、うん……」

 

 

 いつもの狐のような糸目に表情を戻した幼馴染が、自身の手の甲で口元を拭いながら有無を言わせない口調で告げてきた内容すらも。

 言葉に出来ないドキドキが心に満たされてしまっている出久には、右の耳から左の耳状態なのであった。  

 

 だがそんな幼馴染の様子に狐白は頷くと、個性使ったからお腹空いたよなどと呑気に呟きながら担任の下へと足を運び。

 勝手に動いたことを深く頭を下げて、謝罪した。

 

 

「ん、まぁ治療できるのなら合理的な判断と言えるから今回は不問に処す」

 

 

 狐白だけでなく、出久へも聞こえるように少し大きめの声で相澤は裁定を下し、その内容に出久は幼馴染が処分を受けずに済んだことをホッとしながら。

 自身が無個性である事を知っている、勝己が非常に物騒な目付きでこちらを見てきている事に戦慄するのであった。

 

 




なおこの後は切れたかっちゃんが出久を恫喝しながら聞き出そうとし、相澤先生に〆られるという原作通りの流れになるのでした。
狐白からの出久への問い詰めについては次回やる予定なのです。
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